『An unexpected excuse』

    〜リリカルなのは 過去編3〜






なのはがこの世界へとやって来てから四日が、恭也との手合わせからは三日程が過ぎていた。
その間にも二人はあちこちを探索したが、一向にロストロギアを見付ける事はできなかった。

「中々見つからないな」

「うん。毎日、恭也さんに付き合ってもらっているのにごめんね」

「別になのはさんが謝る事ではないでしょう」

「そうなんだけれどね」

「それに、魔力というものが感知できない俺では大した手伝いは出来ないし」

恭也の言う通り、魔力の感知といった事が出来ない恭也は、ただ周辺の街を案内するぐらいしかできなかった。
それでも、なのはにとっては助かってはいるのだが。
恭也の気遣いに感謝しつつ、なのははレイジングハートへと尋ねる。

「フェイトちゃんたちからはまだ何も連絡ない?」

【まだありません。ですが、救難信号は出しているので、そろそろこちらの居場所を特定しているかと】

「そっか」

やはり他世界に一人というのは寂しいのか、なのはの顔に僅かばかりの翳が落ちる。
何と言って慰めれば良いのか分からずに困惑する恭也に気付いたのか、
なのははすぐに笑みを浮かべて誤魔化すように恭也の手を取ると、少し早足で恭也を引っ張る。

「次はあっちの方に行ってみよう」

恭也はそれに逆らう事無く、なのはに手を引かれるままに付いていくのだった。



臨海公園へとやって来た恭也となのはであったが、ここにもロストロギアの反応はなかった。

「とは言え、ここは初日に来てますからね」

「そうなんだけれどね。
 そのロストロギアが移動している可能性もあるし、その時は気付かなかっただけかもしれないでしょう」

なのはの言葉に納得する恭也を横目に見て、少しだけ誤魔化すように舌を出す。
実際になのはの言う通りなのだが、それが理由で来たのではなく、恭也の手を引いたまでは良かったが、
特に行き先があった訳でもなく、また照れ臭ささからか何も考えれず、
かと言って中々手を離す事も出来ずに歩いた結果、辿り着いたのがここだっただけである。
誤魔化すように咳払いをしつつ、なのははようやく恭也の手を離すと誤魔化しついでに話を変える。

「ちょっとお腹が空いたから、何か買ってくるよ。あそこに屋台もあるし」

「ああ、それなら俺もいきます」

屋台の前に着くと、なのははメニューの多さに珍しそうに順に見ていき、無難に餡子とカスタードを一つずつ、
恭也は迷いなく、カレーとチーズ味のたい焼きを二個ずつ購入する。
途中で飲み物を購入して近くのベンチに腰掛けて、少しの休憩を取る。
美味しそうに頬張る恭也を見て興味を抱いたのか、なのはは興味津々といった様子を見せる。

「それ美味しいの?」

「ええ、美味しいですよ。特に、二つをこうして同時に……」

言ってカレーとチーズを重ねて同時に齧り付く。
じっと見つめてくるなのはの視線を察し、恭也は袋にまだ入ったままのカレーとチーズを差し出す。

「良かったら試してみてください」

「えっと、でも……」

「いや、是非に。騙されたと思って」

少しでも仲間を増やしたいのか、恭也は少し強引になのはの手に二つのたい焼きを握らせる。
じっと見つめてくる恭也に対し、なのはは少し照れたように頬を染める。

「じっと見られてると、その……」

「ああ、すみません」

自分の不躾な態度に頭を下げる恭也に小さな笑みを返し、なのはは渡された二つのたい焼きを齧る。

「……」

「どうですか」

「だ……」

「だ?」

「騙された……」

顔を顰めるなのはを見て、恭也はがっくりと肩を落とす。
落ち込んだ恭也へとなのはは慌ててフォローを入れる。

「あ、でも美味しくないとかじゃないよ。私、辛いのがちょっと苦手だから。
 チーズの方は、うん、食べれるし……」

食べれるであって、美味しいではない辺りなのはの心境を現しているのだが、恭也はそんな小さな事には気付かず、
顔を上げると無表情ながらも少しだけ嬉しそうな素振りになる。
その微妙な変化を感じ取ったなのははほっと胸を撫で下ろしつつ、まだ手に残る二つのたい焼きに視線を落とす。
恭也はさっさと自分の分を食べ終えると、なのはの手にあった二つのたい焼きを手にする。

「これは俺が食べますから」

「でも、折角の好意を……」

「いえ、半分無理矢理でしたから気にしないでください。
 それに、なのはさんはご自分の分がまだ残っているじゃないですか。全部で四つも食べれますか?」

「ちょっと無理ですね」

「でしょう」

そう言ってなのはの手からカレーとチーズのたい焼きを恭也は取り上げ、
今度はなのはもそれを止めずに素直に恭也へと返す。
自分の分に口を付けつつ、何とはなしに恭也の方を見ていたなのはであったが、

「あっ……」

不意に小さく声を上げ、突然の事に思わずたい焼きに齧り付いたまま恭也はなのはを見る。
急いでたい焼きを噛み切り、ちゃんと飲み込んでから恭也はなのはに声を掛ける。

「もしかして、ロストロギアの反応があったんですか?」

「あ、あー、そうじゃないです。えっと、本当に何でもないですから」

恥ずかしそうに顔を赤くして手を振るなのはに、
恭也は曖昧な相槌を返しつつも何もないのならと再びたい焼きに取り掛かる。
顔を俯かせたまま横目でその様子を窺っていたなのはは気付かれないように胸を撫で下ろす。
僅かに火照っている頬に手を当て、その顔を隠すように俯いたままたい焼きを頬張る。
落ち着くまでの少しの時間、なのはは俯いたままたい焼きを黙々と食べ続けるのであった。



  ◇◇◇



そんな感じで更に数日が経過した日、今日もいつものように探索をしていた恭也となのはであったが、
不意になのはが足を止める。

「どうかしたのか」

「うん。今、あっちの方から……」

ようやくロストロギアの反応を捕らえる事が出来たなのはは、
すぐさまそちらへと向かう為にバリアジャケットを身に纏う。
付いて来ようとする恭也に待っているように言い含めるも、恭也は首を縦には振らない。
このままでは走ってでも付いて来そうだと判断したなのはは、
危険な時は逃げる事を約束させると恭也の手を掴んで一緒に空へと飛び上がる。

「行くよ、恭也さん」

「ああ。しかし、空から見るとこんな感じなんだな」

恭也は空から見下ろす街並みに感嘆な声を零す。
そんな反応に小さな笑みを零しつつ、なのはは反応のあった桜台よりも向こうにある丘を目指して飛ぶ。

「でも、前はあそこからは何の反応もなかったのに」

【マスター、気を付けて下さい】

レイジングハートも不意に反応を示した事に危惧を覚えたのか、そう警告を促す。
それに気を引き締めるように強く頷き返す。
そうこうするうちに反応のあった場所へと辿り着いたなのはは、見覚えのある闇の球体を見下ろす。

「前よりも大きくなっている」

まるで成長したと言わんばかりに大きく膨れ上がった闇の球体目掛け、なのはは最初から全力の魔法砲撃を叩き込む。
だが、やはり前回同様に球体の表面に触れた瞬間に飲み込まれるようになのはのディバインバスターが取り込まれる。
どうしようか考え込むなのはの脳裏に、懐かしい声が届く。

≪なのは! なのは!≫

≪フェイトちゃん!≫

≪良かった、やっと繋がった。今、そっちに行くから≫

フェイトからの念話は一旦切れると、次いでなのはの後方の空間に魔法陣が浮かび上がり、
そこにはやがて一つの影が浮かび上がる。

「なのは!」

「フェイトちゃん!」

「もう心配したんだよ」

「ごめんね」

久しぶりの再会を喜んで抱き合う二人へと、やたらと遠慮がちな声が割って入ってくる。

「あー、久しぶりの再会だというのは分かるんだが、出来れば少し離れてもらえると助かる」

声がした所を見れば、丁度二人の間に挟まれるような形で恭也がおり、その腕はなのはの腰に回されていた。
驚いて離れるフェイトと、恥ずかしそうに顔を赤くして恭也に怒るように声を掛けるなのは。

「恭也さん、どこを掴んでいるんですか」

怒るというよりは照れているといった感じのなのはの様子に、フェイトは何か問いたげな顔を覗かせるも、
なのはは気付かずに恭也に手を離すように言っていた。

「いや、離せというのは分かるんだが、その前に地面に下ろしてくれ」

恭也の言葉にようやく、なのはは自分がフェイトとの再会という場面で嬉しさのあまり恭也から手を離したと思い至る。
当然、空を飛べない恭也はそのままでは地面へと落ちていく事になる訳で、咄嗟になのはに掴まったのであった。

「ご、ごめんなさい」

「いや、大丈夫だから」

なのはに掴まっているのが恭也にそっくりだと気付いたフェイトであったが、
別の世界だと分かっているのであまり驚いた様子は見せていなかった。
とりあえずは、目の前のロストロギアが優先だと地面へと降りながらなのはに分かった事を説明する。

「あのロストロギアはディスアグラトンと言って、周囲の魔力を取り込むの。
 それで、あの闇の球体部分はディスアグラトンが覚醒するまで本体を護る障壁。
 触れれば魔力を全て吸われるという、魔導師にとっては天敵とも言えるもの」

「だから、私の魔法をまるで吸い込まれるように消えたんだね」

「そう。クロノたちは回収を諦めて破壊する事を正式に決定したけれど……」

「どっちにせよ、本体には近づけないか。
 因みに、覚醒したらあの闇の球体はなくなるのかな?」

「闇の球体はなくなるけれど、覚醒したら無差別に魔力だけでなく生命力まで吸い取るようになるから」

「やっぱり覚醒前に何としないといけないね」

ディスアグラトンを前になのはとフェイトは手を出しあぐねる。
とは言え、このまま覚醒するのを待っている訳にも行かないとなのははフェイトと顔を見合わせる。

「吸い取られるよりも多くの魔法を撃てば……」

「スターライトブレイカーさえも飲み込んだんだよ」

「あの中に入って直接本体を叩けば何とかなるんじゃないかな」

「でも、あの中に入るだけで私たちも魔力を吸い取られるんだよ」

「全部の魔力を吸い取られるのが先か、私たちが本体に辿り着くのが先かだね。
 あまり役に立たないかもしれないけれど、フィールドを展開していけば少しはましじゃないかな」

なのはの目を真っ直ぐに見詰め、諭しても無駄だと悟ったのか、フェイトは肩を竦める。
実際、なのはの言った方法以外に手も考えつかず、二人はそれを実行する事にする。

「だったら、最初は私がフィールドを張るから」

「分かった。じゃあ、行くよフェイトちゃん」

合図と同時に二人は闇の球体へと向かって駆け出す。
その背中を恭也は何も出来ない無力さを感じながら、ただ無事を祈って見送るのだった。





<おわり>




<あとがき>

紅蓮蒼穹さんからの620万ヒットリクエストです。
美姫 「って、途中で終わってるし」
やっぱり、リクエストものだからきっちりと終わらせたかったんだけどな。
美姫 「じゃあ、何で?」
いや、戦いが長くなりそうだし、その後の恭也となのはのやり取りも入れるともう一話に分けようかなと。
美姫 「って事は、ちゃんと続きを書くのね」
それはもう。ただし、すぐではない。
美姫 「はぁぁぁっ!」
ぶべらっ! う、うぅぅぅ。ど、努力します。
戦いのシーンを出来るだけ削る努力を。
美姫 「さっさと書く努力もしなさい!」
ぶべらっ! りょ、了解でありますマム。
美姫 「まったくもう」
と、とりあえず、リクエストはこんな感じです。
美姫 「何だかね〜。続きをお待ちくださいね」







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