『An unexpected excuse』
〜リリカルなのは 過去編2〜
木の下で眠る少女の寝顔を見るのも悪いと思い、視線を彼方の空へと移した恭也だったが、
直前まで見ていた顔にどこか見覚えのあるような気がして、悪いとは思いつつもちらりともう一度だけ視線を戻す。
あどけなく何の心配もないように眠る少女の顔に、恭也は思わず見惚れてしまう。
と、少女――なのはの口から小さく吐息が零れ、寝返りを打つ。
それに驚いて恭也は再び視線を逸らせたのだが、手になのはの手が重なり握り締めてくる。
恐らくは無意識なのだろうが、恭也はその暖かさにやや落ち着きなく周囲を見渡す。
その手を除けるかどうか悩むも、仕方なくそのままにしておく事にする。
ふと、再び視線をなのはへと向けた恭也は、その顔立ちに妹の顔を思い浮かべる。
「なのはも大きくなったら、こんな感じなのかもしれないな」
そう思ったら、目の前の少女が余計になのはらしく見え、恭也は思わず苦笑を洩らす。
「これじゃあ、なのはに甘いと言われても否定できんな」
流石にそれ以上、女性の寝顔を無断で見るというような事はせず、
恭也はなのはが目覚めるまで遠くの空を眺めるのだった。
小さな呻き声が零れ、なのははゆっくりと目を覚ます。
最初に映ったのは自分の手が誰かの手を握り締めている光景だった。
「はにゃにゃにゃっ!」
なのはは慌てて手を離して身体を起こすと、その手の主へと謝罪と一緒に頭を下げる。
が、顔を上げて驚いたような顔をした後、ほっと胸を撫で下ろす。
「何だ、お兄ちゃんだったんだ。良かった、他の人だったら……」
そこまで口にして、目の前の恭也が自分の知る恭也よりも若い事に気付く。
「え、えっと……」
困った顔を見せるなのはへ、恭也は改めて名乗る。
「自分は高町恭也と言います」
「あ、私は高町なのはと……にゃにゃっ」
恭也は微かに眉を顰めて、目の前のなのはを見る。
なのはは複雑な顔で恭也を見た後、誤魔化すように笑う。
その姿が妹のなのはとそっくりで、恭也はそっと息を吐き出すと、
「で、一体、何があったんだ、なのは。
久遠は一緒じゃないのか。何故、そんなに大きくなったんだ」
明らかに非日常に慣れつつある、いや、既に慣れてしまったなと内心でぼやきつつ、なのはへと問い掛ける恭也。
そんな恭也を見ながら、なのはは少し首を傾げる。
「えっと、久遠って?」
「ん? 友達の久遠だよ。いつも一緒に居るだろう」
「んー、私のお友達にそんな名前の人はいないかな?」
共に話が食い違っている事に気付き、特に恭也は目の前の人物が妹のなのはではないと分かり、慌てたように謝る。
そんな恭也の様子を可笑しく見ながら、なのははレイジングハートへと確認するように問い掛ける。
≪ここは、私の知っている海鳴じゃないんだね≫
【そのようです】
無言となったなのはを不思議そうに見ていた恭也は、何故、空から降ってきたのか尋ねる。
「あ、言い難いようなら構いませんから」
「それはですね……」
なのはは少し考えた後、ロストロギアを探す上でこっち側の協力者が居た方が良いと考え、恭也に事情を説明する。
無論、目の前の人物が自分の兄である恭也とよく似ている事も話をする気になった理由かもしれないが。
説明ついでに、自分の世界の事も話をすると、やはり恭也は驚いたような顔を見せる。
だが、そんなに大きな変化ではなかったが。
(うーん、こっちのお兄ちゃんは表情があまり変わらないみたいだね)
自分の知る恭也よりも感情の表現が薄い恭也を見て、なのははまたしても違う点を見つける。
一方の恭也は、目の前のなのはを見ながら、妙に納得するのだった。
(しかし、あっちでは父さんが生きているのか。
だとしたら、向こうの俺はどこまで剣士として登っているんだろうか)
剣士としての向こうの自分を気にしつつも、恭也は思考を現時点での問題へと切り替える。
「それで、これからどうするんですか」
「えっと。う、うーん、やっぱりお兄ちゃんと同じ顔の人から丁寧に話し掛けられると、ちょっとやりにくいかも」
苦笑するなのはに同じく苦笑で返しつつも、
なのはに似ていても年の近い女性へと言葉使いを改める事に戸惑う恭也。
「確かにお兄ちゃんの性格だと難しいかもしれないね。あ、ませんね」
「いや、高町さん……。なのはさん、と呼んでも良いですか?」
「あはははは。はい、良いですよ。その方がしっくりきますし」
「そうですか。なのはさんは無理に話し方を変えなくても良いですよ」
なのはの許可を得て言い直した恭也の言葉に、なのははほっと胸を撫で下ろすような仕草を見せる。
「あ、正直、助かります。
うーん、やっぱりお兄ちゃんとは違うって分かってても、そっくりだとやりにくかったんだ」
「まあ、その気持ちは分かりますね。
ただ、俺の場合はまだなのはは小さいですから」
「あははは。やっぱり、言葉使いは直らないか」
「ちょっと難しいですが、努力してみますよ」
「お願いしますね」
「ええ。その代わり、お兄ちゃんと言うのは。その色々と……」
「そ、それもそうだね。えっと、恭也さん?」
「ええ、それで」
「う、うーん、これはこれで新鮮なんだけど、何かむずむずするような」
「ま、まあ、それはその内に慣れていってもらうという事で」
「そうだね。お兄ちゃ……恭也さんの言葉使いと一緒だね」
「ええ、努力しま……する」
二人は真面目な顔で見詰め合った後、可笑しそうに笑い合う。
「それで、これからどうするつもりなんだ、なのはさん」
「うーん、惜しい。最後は呼び捨てじゃないと」
「そ、そうですか。えっと、それで?」
「また戻ってる。と、まあ良いや。
とりあえずは、この辺で拠点となる所を探します。
それから、一緒にこの世界に来たはずのロストロギアを探して回収かな。
まあ二、三日もすればクロノくんたち管理局の人が見つけてくれるだろうから」
「なら、その間は家に来ますか」
「うーん、嬉しいお誘いなんだけど、遠慮しておきますね。
関係のない人を巻き込みたくないですし、下手な事を言ってぼろを出すと困るかもしれないし」
「そうですか。でも、寝床とかはどうするんですか」
「一日や二日程度なら何とかなるよ。どうやら、通貨も同じみたいだし」
なのはの言葉に恭也は頷くが、念を押すように一つだけ口にする。
「分かりましたが、本当に困った時は言ってくださいよ。
もし、管理局の人がすぐになのはさんを見つけられなかった場合とか。
違う世界とはいえ、妹を見捨てるなんてできませんから」
「その時は遠慮なくお邪魔させてもらいます」
恭也の言葉に、なのはは笑いながらそう答えると、今度はこっちから念を押すように言う。
「それで、恭也さんには協力してもらうんですけど、無理はしないで下さいね」
「分かってます」
「んー、恭也さんはどうか知りませんけれど、
私の知っているお兄ちゃんは人のために結構、無茶をする人なんですよね」
なのはの何かを探るような視線に対し、恭也はただ無言で僅かに視線だけを逸らす。
それを見て何を感じ取ったのか、なのはは小さく溜め息を吐くと、もう一度強く念を押し、今後の計画を口にする。
「とりあえず、まだ時間があるようでしたら、この街を案内してください。
私の知っている海鳴と違うところとかを見ておきたいし、地理も知っておかないと。
その後、ちょっとだけ恭也さんと手合わせさせてもらっても良いですか」
「手合わせ、ですか」
「はい。恭也さんがどれぐらい強いのか見てみたいんです。
それを知っていれば……」
「俺を逃がすために取れる手段を考えておけると。
それと、魔法がどんなものか見せる訳か」
「はい。事前に知っているのといないのとでは、かなり違いますから」
なのはの経験からきているであろう言葉の重みに気付き、恭也はただ静かに頷くのだった。
こうして、二人は一時的な協力関係となり、この世界に来ているはずのロストロギア探索を行う事となるのであった。
<おわり>
<あとがき>
バルスさんからの450万ヒットリクエスト〜。
美姫 「過去編の続きね」
おう。
恭也がどうやって事件に関わる事になったのか、ってところだな。
美姫 「なのはに頼まれたのね」
まあな。巻き込まれたんじゃなくて、単にこの世界の事を知るための情報源として頼んだと。
美姫 「それからどうなるの」
さあ?
美姫 「さあ、ってアンタ」
いや、これはここまでだし。
ともあれ、これで恭也がなのはに協力して、って事だから。
美姫 「はぁぁ」
あははは。まあ、まあ。
美姫 「自分で言わないの!」
ぶべらっ!
美姫 「とりあえず、リクエストはこんな感じです」
ま、また次の誰かの番で……。
美姫 「それじゃ〜ね〜」
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