『An unexpected excuse』

    〜リリカルなのは編〜






「俺が、好きなのは…………」

恭也の言葉に皆が皆、静かに語られる名前を聞き漏らすまいと神経を研ぎ澄まる。
変な緊張感が漂う中、いよいよ恭也の口からその名が飛び出す。

「所で、平行世界っていうのを知っているか」

『はいぃっ?』

思わずその場の全員がシンクロして似たような素っ頓狂な声を上げたとしても、
それはまあ仕方ないだろう、この場合。
ともあれ、恭也の突然の言葉に完全な肩透かしを食らいつつも、美由希はその読書量の多さから真っ先に頷く。

「まあ、簡単な事なら。私たちの住む世界とは似ているけれども違う世界の事でしょう」

「ああ」

「そんな事は今はどうでも良いでしょう! 恭也、そういう誤魔化しは通じないからね」

ビシッと人差し指を恭也に突きつける忍に、他の者も同意するように首を何度も縦へと振る。
思わず笑ってしまいそうな光景に、しかし恭也は笑みを堪えると、仕方ないとばかりにその名を口にする。

「俺の好きな人は、……なのはだ」

僅かな間の後、あっさりとその名を告げられ、FCたちはやや気落ちした様子ながらも恭也に祝福の言葉を投げる。
一方、美由希たちは盛大な溜め息を吐きつつも、FCたちの様子を見て突っ込むのを堪える。
やがて、その場に近しい者だけとなった瞬間、忍が恭也へとまたしても指を突きつける。

「恭也っ! そういう誤魔化し方も駄目よ!
 なのはちゃんは妹でしょう」

今になってから言う忍のしたたかさにも気付かず恭也は一人首を傾げる。

「いや、俺は事実を言っただけなんだが」

「そうじゃなくてですね、お師匠。うちらが聞きたいんは……」

「師匠の想い人であって、家族としての好きとは違うんですよ」

「だから、それがなのはだと言っているんだ」

レンや晶の説明で納得したかと思えば、それでも同じ事を言う恭也に、今度は那美が声を上げる。

「なのはちゃんって、お二人は兄妹なんじゃ……」

「あー、何と説明したら良いかな」

少し困ったような顔をしながら、恭也がどう説明しようかと悩んでいると、
その後ろに飛びついてくる一人の少女がいた。
恭也の首に腕を回してじゃれ付くのは、年の頃は美由希と同じぐらいか、
髪を一つに束ねた可愛らしい顔立ちの少女だった。
その少女の登場にさして驚いた風でもなく恭也はそっとその頭を撫でてあげる。

「なのはか。どうしたんだ、今日は」

「へへへ。今日は管理局の方がお休みだったから、来てみたの。
 本当は放課後に来る予定だったんだけれど、ちらりと様子を見たら何かしてたからちょっとだけ不安になって」

「不安? 何かあったのか?」

「んー、あったと言えばあったんだけど……。まあ、気付いてないのならそれで良いかな。
 それよりも、嬉しい事があったし」

ニコニコと機嫌良さげに笑うなのはを見て、恭也も深くは追求せずに笑みを見せる。
そんな二人の様子を見ていた美由希が、呆然と呟く。

「なのはって、なのはの事じゃなかったんだ……」

「まさか、同じ名前の子だったなんてね」

「でも忍さん。あの子、少しどころか、かなりなのちゃんに似てるように見えるんですけど……」

「レンちゃんの言う通りね。うーん、恭也のシスコンもここまで、って事なのかしら」

「いや、師匠の事ですから外見だけという事はないと思うんだけど……」

忍たちはこっそりと話しているつもりなのだろうが、恭也の耳にもしっかりと聞こえてくるその内容に、
好き勝手な事をと顔を顰めつつもなのはを紹介する。

「とりあえず、この子がさっき言ったなのはだ」

「初めまして、高町なのはと言います」

「同姓同名だ……」

「あははは。こっちでもお姉ちゃんはあまり変わってなさそう」

「うん? 何か言いましたか?」

「いいえ、何でもないですよ。多分、私と同じ年かなーって」

「あ、そうなんだ。宜しくお願いしますね。私は恭ちゃんの妹で高町美由希っていいます」

「こちらこそ、宜しくお願いします。おね……美由希さん」

言って握手する二人。
その後、順次忍たちは自己紹介を始める。
なのはにとって、初めましてとは言い難いような人は美由希以外にももう一人居たが、
当然、それを悟られる事なく挨拶を済ませる。
それにしても、と美由希たちは改めて自分たちのよく知るなのはと同姓同名の少女を見て、
その容姿すら似通っている事に感心めいた吐息を洩らす。
ごろごろと喉を鳴らしながら擦り寄ってくる猫のように、恭也に纏わり付くなのは。
それを邪険にせずに、受け入れる恭也を見て忍たちはただ肩を竦める。
これを見せられれば、言葉よりもよく分かるとばかりに。



二人きりとなった中庭で、恭也となのはは何をするでもなく並んで腰を降ろす。
残る少ない昼休みの時間を満喫しようと。

「また放課後来ても良い?」

「ああ、いつでも良いぞ」

「うん。じゃあ、時間になったら校門で待っているからできるだけ早く来てね」

「ああ」

頭を恭也の肩へと置きながらなのはは楽しそうに言う。
それに応える恭也も楽しそうだった。

「しかし、あれからそんなに時間は経ってないんだよな」

「そうだね。それにしても、初めて見たときは本当にびっくりしたよ」

言って何を思い出したのか、クスクスと笑うなのは。
恭也は小さく笑い返しながら、同じく初めて出会った時の事を思い返す。
その後、巻き込まれた事件と供に。

「いや、本当に大変だったなあれは」

「そうだね。でも、そのお陰でこの世界に来れたんだよね」

「そうだな」

二人は静かに揃って顔を空へと向ける。
穏やかな空気が流れる中、なのはは静かに言葉を紡いでいく。

「私はこの世界に来れて嬉しかったよ。
 だって、お兄ちゃんと、ううん、恭也とこうして名前で呼び合えるんだもの。
 今までもユーノ君と出会って、レイジングハートのマスターになって良かったって思った事は何度もあるけれど、
 その中でも、これが一番だよ!」

満面の笑みを浮かべてそう言い切るなのはに、恭也もまた笑みを見せると、そっとその肩を抱く。
少し驚いた顔をするも、すぐに笑顔に取って変わられる。
恭也に肩を抱かれながら、なのははそっと恭也の胸に手を当ててその包み込まれる心地良さに目を細める。
なのはの首から下げられた赤い宝玉、レイジングハートはそんな二人の邪魔をしないように沈黙を守り、
ただその身に陽光を反射させて一度だけ光る。
静かな空間を作り出しながら、二人はただ静かに残った時間を過ごすのだった。





<おわり>




<あとがき>

眞紗斗さんからの370万ヒットリクエスト〜。
美姫 「今回はなのは編ね」
おうとも! ただし、リリカル版のな。
美姫 「それで、成長してるの」
いや、そこは何となく。
美姫 「このおバカ!」
ぶべらぁぁっ!
美姫 「何してるのよ!」
いや、だって。
美姫 「だっても何もないわよ。全く」
うにゅぅ〜。
美姫 「ともあれ、こんな感じになりました〜」
なりました。
美姫 「それじゃあ、また次でね〜」
次は誰にしようかな。







ご意見、ご感想は掲示板かメールでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ


▲Home          ▲戻る