『An unexpected excuse』

    〜はやて編〜






「俺が、好きなのは…………」

恭也の紡ぎ出す言葉に、辺りは静まりかえる。
別に皆が静まり返ったのを待っていた訳ではないが、恭也は言うか言うまいか暫し逡巡する。

「とりあえず、いるとだけ言っておく」

「だから、誰よ!」

「どうせ、言った所でお前たちの知らない人だ」

「それでも聞きたいんです、恭也さん」

忍に続き、那美までも食いついてくるのに嘆息しつつ、仕方なく名前だけならと口を開こうとする。

「そやそや。早く名前を言わんと、うちも気になって仕方ないやんか」

「…………」

いつの間にか、恭也の目の前に今まで居なかったはずの女子生徒がいて、
美由希たちに混じって急かすように恭也をせっついていた。
その女子生徒、いや、制服を着ていないから部外者かもしれない少女の顔を見て、恭也は無言でじっと見詰める。

「ほらほら、早く。って、あかん、そない冷めた眼差しでみんといて」

「…………」

「あ、あかん。これはこれで変な癖になるかも……」

「いや、何をやっているんだ、はやて」

「ああ、言葉までどこか冷たいで、恭也さん。
 ……う、うぅぅ、愛が、恭也さんの愛が冷たい」

「いや、至って普通に、いや、まあ、少し呆れてはいるが、とりあえず冷たくはしてないつもりだが」

「まあ、それは分かってるよ。ちょっとした冗談や」

言ってニパッと笑うはやてを、恭也はどこか疲れた眼差しで見詰めるも、すぐに優しいものに変わる。

「久しぶりか、はやて」

「そやね。と言うても、先々週にもおうてるから、二週間ぶりぐらいやけど」

「そういえばそうだな。だが、まあ、元気そうで何よりだ」

小さく苦笑めいた笑みを浮かべつつそう告げる恭也に、はやても元気だと応える。
が、すぐに目元を押さえ、

「たったの二週間で浮気されてしまうなんて」

「人聞きの悪いことを……」

「う、じゃあ浮気やのうて本気や言うんやね。うぅぅ、うちは捨てられてしもうた。
 しかも、浮気相手はこないにいっぱいやなんて」

完全にからかわれていると頭の片隅で理解しつつも、恭也は懸命に弁護する。
と、その後ろから不意に低い声が届く。

「高町恭也。今、主が言われた言葉は本当か。
 貴様、主という人がいながら……。貴様だからこそ、我らも主を託したというのに。
 許せん、そこになおれ! 叩き斬ってくれる!」

「ご、誤解だぞ、シグナム!」

慌てて即座に否定する恭也に対し、美由希が恐る恐る声を掛ける。

「まさか、その人が恭ちゃんの好きな人なの?」

「「違う!」」

突拍子もない事を言う美由希へと、恭也とシグナムの二人は即座に顔を向けると強い口調で断言する。
シグナムはそんな恭也へと視線を戻し、小さく頷く。

「む、きっぱりと否定した事は褒めてやろう。
 だが、それはそれで腹立たしいのだが」

「どうしろと」

「ふっ。冗談だ。だが、主を悲しませた事に関しては、冗談ではすまされん。
 覚悟は良いな」

今にも剣を取り出して斬りかかりそうな雰囲気に、FCたちもただ事ではないと距離を開け出す。
そんな中、恭也ははやての方を見て、目で何とかするように言う。
さしものはやても苦笑しつつ、シグナムと恭也の間に割って入る。

「ほらほら、シグナムも落ちついて」

「そこを退いてください、主はやて」

「そうは言ってもな。あれは冗談やねんから、な、落ち着いて」

「冗談……ですか?」

「そや。シグナム、真面目さんなんは良いんやけど、もうちょっと柔らかくならんとあかんよ」

「は、はい。高町、すまなかったな」

はやての言葉にあっさりと己の非を恭也へと詫びるシグナムに、恭也は気にするなと告げ、
はやての頭を軽く撫でるように叩く。

「元々、はやての冗談が悪いんだから」

「む〜、せやけど、恭也さんがはっきりとせぇへんのも原因の一旦やで。
 もしかして、ほんまに浮気するつもりやったとか?」

「なに、それは本当か!?」

はやての言葉に反応して、即座に恭也を睨むシグナムと、すぐ目の前で笑いを堪えているはやてを見比べ、
恭也はばれないように、そっと小さく息を吐く。
が、未だに睨み付けてくるシグナムが、今にも襲い掛からんとしているのを見て、
恭也のみならず、はやても慌てる。

「あ、あか……」

「落ち着け、シグナム。俺が好きなのは、後にも先にもはやてだけだ。
 はやてを裏切るような事は絶対にしないから!」

叫んだ恭也の言葉に、はやては顔を赤くさせてゆっくりと恭也へと振り返る。
自分の言った言葉に自分で照れて赤くなる恭也へと近付くと、その頬をだらしなく緩める。

「嫌やわ、恭也さん。そんなにはっきりと言われると、めっちゃ嬉しいけど、
 さすがのはやてさんもめっちゃ恥ずかしいやん」

言いつつも嬉しそうに身を捩るはやてを見守るように優しい眼差しで見詰めると、
シグナムは自然体に戻り小さな笑みを浮かべる。

「冗談だ。主の望む言葉を高町に言わせようと思ったのだが、思った以上の成果があったみたいだな」

「うんうん。シグナムのお陰で、恭也さんの口から良い事を聞けたわ。
 最初は本気かと思って焦ったけれど、やっぱりシグナムは主思いの優しい騎士や」

「いえ。主の笑顔が見られるのでしたら、喜んで悪役にでもなりましょう」

二人の主従のやりとりを、恥ずかしさを誤魔化すように苦渋に満ちた顔を作って見る恭也。

「その為に、俺が恥ずかしい目にあっているんだがな」

「そんなものは些細な事だ、気にするな。それとも、主の顔を曇らせてまで、自らの保身を取るか」

そう言われて恭也が否定する事がないのは重々承知した上でのシグナムの言葉に、恭也は降参とばかりに肩を竦める。

「今回の件は、はっきりとしなかった俺自身の責任だしな」

分かれば良いと言うように小さく笑い飛ばすシグナムから視線を外し、恭也ははやての肩に手を置く。
真剣な眼差しで見詰めてくる恭也に、はやては照れて視線を外すも、
顔を近づけられて視界いっぱいに恭也の顔が映り込み、後は目を閉じるしか方法はない。
仕方なく、恭也へと視線を戻し、その黒く澄み切った瞳を正面から見詰める。

「はやて」

「な、なに」

何かを期待するように早まる鼓動と、至近距離で恭也と見詰め合っている事で高まる鼓動。
二つの効果により、とんでもない速さで脈打つ心臓の音を感じつつ、はやてはじっと恭也の言葉を待つ。

「俺が好きなのは、愛しているのは、今俺の目の前にいる女の子、八神はやてだけだから」

「う、うん。うちも、うちが愛しているんも恭也さんだけやで。
 あ、勿論、シグナムたちの事も好きやけど、これとそれは……」

「分かってるから」

「うん」

誤魔化すように付け足すはやてを制し、恭也はその額にそっと口付ける。
ゆっくりと離れて行く恭也をぽーとなった顔で見上げながら、はやては恭也の唇が触れた額をそっと両手で押さえる。
それから、その行為を理解したのか、更に顔を赤くしつつも嬉しそうな笑みを満面に浮かべる。

「恭也さん、もう一回、今度はこっちに良い?」

そう言って人差し指を自分の唇にそっと這わせて、上目遣いに潤んだ瞳で見上げる。
それに笑みで持って返すと、恭也はそっとはやての肩に手を置き、優しく引き寄せて顔を近づけていく。
そこへ、遠慮がちに、非常に申し訳なさそうな声が響く。

「あ、あー、主、そして高町恭也。その、邪魔をするのは非常に悪いとは思うのだが、ほら、何だ」

シグナムの言い難そうな声に我に返った二人は、慌てて距離を開けるように離れる。

「あ、あはははは〜」

「あ、あー、そ、そう言えば……」

笑って誤魔化すはやてへと、恭也も今の出来事がなかったかのように、
やや赤らんだ顔ではやてに話題を変えるべく話し掛ける。

「どうして、ここに二人が居るんだ?」

「ああ、それなんだが……。ちょっとした調査というか、仕事でな」

「そうなのか」

「ああ。まあ、その調査中に寄ったという感じだ」

「あーー!!」

シグナムが何やら申し訳なさそうに説明していると、はやては急に大声を上げる。
それを予測していたのか、シグナムは更に申し訳なさそうな顔を見せるも、恭也は訳が分からずに理由を尋ねる。

「あかんで、恭也さん! うちら、まだ仕事中やねん」

「ああ、それは今聞いた」

「せやから! 今回の仕事ではうちらの現状を艦の方が把握しとかなあかんねん。
 せやから……」

「まさか、今までの出来事が……」

はやての言いたいことを悟り、恭也は恐々、外れてくれと願いながら尋ねるも、
無情にも淡々と、それでいてどこかすまなさそうにしながらも、はっきりとシグナムが告げる。

「今までのやり取りは、全て、艦へと映像付きで流れた、いや、今も流れているだろうな」

それを聞き、恭也は完全に動きを止めてはやてを見下ろす。
はやても顔を赤くしながら困ったように恭也を見上げ、乾いた笑い声を上げる。

「あ、あはははははー。これはもう、笑うしかないな」

恭也は無言のまま肩を落とすと、次にレティ・ロウランに会ったときの事を考えて少し憂鬱になる。
そんな恭也を励ますためか、それとも単純にはやてへのフォローなのか、シグナムが今回の失敗での利点を口にする。

「だが、まあ主はかなり人気があるから、これで多少の牽制にはなったんじゃないか。
 恐らく、この件はすぐさま広まるだろうからな」

広まるという事にげんなりしつつも、はやてに近づく者への牽制になるならと何とか自身を励ます。
そんな恭也の苦悩を手に取るように理解して、はやては小さな笑みを見せると、恭也に抱き付く。

「大丈夫やて、恭也さん。うちにはそんなに人気なんかないから。
 どちらかと言うと、なのはちゃんやフェイトちゃんの方が人気はあるよ。
 それに、うちは他の誰が声を掛けてきても恭也さん一筋やで。
 もう全部、身も心も、それこそ魂までも恭也さんのもんやからな。だから、安心しぃ」

言って首筋に抱きつくなり、その頬に口付けると耳元に囁く。

「とは言え、さすがに皆が見ている前ではこれ以上は恥ずかしいからな。これで我慢するわ」

「なら、俺もこれで我慢しよう」

はやてだけに優しい微笑みを見せると、恭也もお返しとばかりにその頬へと口付ける。
その光景をシグナムはやや呆れたように眺めて肩を竦めるも、
はやての幸せそうな笑みを見て満足そうな顔を覗かせる。
そんなシグナムの様子などに気付く事なく、恭也とはやてはただ見詰め合って互いへと笑みを見せ合うのだった。





<おわり>




<あとがき>

460万ヒットリクエスト〜。真下烈さんから〜。
美姫 「ありがとうございました」
リクエストは、リリカルは別世界で、成長したはやてとのこと。
美姫 「つまり、リリカルなのは編のはやてヴァージョンね」
そういうこと。
美姫 「この二人が知り合ったのは」
うーん、リリカルなのはの過去で、はやてと出会ったという事にしておこう。
という訳で、はやての過去編は勘弁してください(笑)
美姫 「で、シグナムが今回は友情出演なのね」
あははは。まあな。
とりあえず、こんな感じになりました〜。
美姫 「それじゃあ、また次で」
ではでは。







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