『An unexpected excuse』

    〜佳奈多 with 葉留佳編〜






「俺が、好きなのは…………」

恭也がその名を告げるよりも早く、遠くの方からパンパンと乾いた音が数回鳴る。
何事かと皆の視線があちこちをさ迷い、それはすぐに一箇所へと向かう。
何故なら、最初に鳴った音に続き笛の音が高らかに響き、再び先程と同じ音がしたからだ。
止まれという声と、それをからかう声。
明らかに先程の騒ぎの元凶だろうと思われる者がこちらへと掛けてくる。
頭の片側に上下で結ばれた少し変わったツインテールを揺らしながら疾走してくる少女と、
その後ろを追いかけてくる似た面影を持つ少女。

「三枝葉留佳! どうして貴女はそう騒ぎばかり」

「へっへーん、今回ははるちんは悪くないのですよ」

背後から追ってくる風紀委員の腕章を付けた佳奈多へと舌まで出して葉留佳は恭也のすぐ傍を駆けて行く。
その傍ら、中庭に多数いる生徒たちを見て唇を深い笑みの形へと歪め、ポケットへと手を伸ばす。

「ふっふふ。はるちんがそう簡単に捕まえられると思うな!」

言って取り出したのはねずみ花火。
それに火を着けて放り投げる。
生徒たちと恭也の間に落ちたソレは火を噴きながらあちこちを走り回り、
それに驚いた女生徒たちがその場から逃げようとして、中庭はちょっとした混乱に陥る。
その様子を満足そうに見遣ると、葉留佳は追ってくる佳奈多に舌を出して更に挑発すると背を向ける。

「あはははー、さらばだ風紀委員。また会おう!」

言って生徒の壁を前に踏鞴を踏んで悔しそうな目で睨みつけてくる佳奈多から遠ざかる。
いや、遠ざかろうとして生徒の波に飲み込まれる。

「わっ、ちょっ、待って、待って欲しいのですよ。
 わーん、これじゃあ私も逃げられない! って、ああ、駄目ビー玉が」

念の為と準備していたのか、ポケットの中で握っていたビー玉が生徒にもみくちゃにされる内に掌から零れ落ちる。
更なる混乱が生じる中、葉留佳は困ったような笑みを浮かべる。

「にはは、どうしようかこれ」

何とか人波から抜け出て人事のように事態を見ていた葉留佳だったが、すぐに知らない振りを決め込み逃走に入る。
そこへ佳奈多の声が響く。高町先輩、葉留佳を捕まえてください」

「にははは、そんな命令きくはずがないじゃない……って、あれあれ?
 恭也さん、この手は何でしょう」

「はぁ、三枝やり過ぎだ」

「に、にはははは。ちょっと暴れだしたい年頃なのですよ。
 でもほら、夜中に忍び込んで校舎の窓ガラスを割る事に比べたら……」

「そんなものと比べられてもな。と言うか、どちらもするな」

「にはは」

恭也に腕を掴まれて観念したのか、葉留佳は目の前の混乱を収める佳奈多をぼうと眺める。
やがて、佳奈多によって事態は収束を見せ、更には鶴の一声で解散を命じられる。
その場に残ったのは、この場で解散を告げた佳奈多と、混乱の元凶である葉留佳。
そして、その葉留佳を捕まえたままの恭也の三人だけとなる。

「とりあえず、葉留佳への文句は後にするとして、中庭で何を騒いでいたの」

「別に騒いではいなかったと思うんだが」

「そ、それはそうかもしれないけれど、あれだけ人が集まっていたら他の人の迷惑でしょう」

「確かにそうだな。その点については謝ろう。すまなかった」

素直に頭を下げる恭也に佳奈多は少し慌てたように、分かれば良いのよと告げる。
そんな中、葉留佳は楽しそうな顔を見せ、

「他の人も何も、周りには誰も他の人なんて居なかったですけれどね。
 第一、普通に昼休みに中庭で集まって話をしていただけで他の人の迷惑も何もないんじゃないかな、お姉ちゃん。
 本当に不器用なんだから。あのですね、恭也さん。お姉ちゃんは――」

何か言おうとした葉留佳の口を両手で塞ぎ、佳奈多は睨むように恭也を見詰める。
その顔を見て何も理解していないと悟ると、葉留佳へと余計な事を言わないように釘を刺し、頷いたのを見て手を離す。
が、手を離した瞬間、葉留佳は早口言葉を言うかのように早口で、

「偶々近くを通り掛かった所、恭也さんがたくさんの女の子に囲まれているじゃないですか。
 かといって無意味に話の邪魔をするのも悪いと考え、
 その様子を遠くから眺めてもやもやしていることしかできないお姉ちゃんを見かね、
 この私が人肌を脱いだと言う訳ですよ」

と一気に言い放つ。
対する佳奈多は葉留佳へと文句を言おうとするのだが、顔を赤くして恭也を見ては逸らしと数回繰り返し、
とうとう沈黙して俯いてしまう。

「そんなことより! 恭也さん、あれは何だったんですか。
 恭也さんにはお姉ちゃんという人がありながら。はっ! ま、まさかお姉ちゃんとは遊びだったとか?
 むきー! それはあんまりですよ!」

冗談半分、そんな事はあり得ないと分かっていてからかうように言ってくる葉留佳に疲れたような表情を見せるが、
佳奈多の方は本気に受け取ったのか、顔を若干青くさせて恭也を見る。
これには言った方の葉留佳がしまったという顔を見せ、恭也へとフォローを頼むように視線を向ける。

「二木さ――佳奈多、三枝が言ったのは冗談だから気にするな。
 さっきのは単に、赤星のファンでついでのような感じで俺の好きな人が誰なのか聞いてきただけだから」

「あはは、流石についでではないと思うのですが、まあその辺りは言うだけ無駄みたいだから黙ってますよ」

口に出してると突っ込みそうになるも、今は佳奈多の方が先決だと判断して恭也はそのまま続ける。

「それに関しても、ちゃんと佳奈多だと伝えるつもりだったんだ。
 だから安心して。それと少しは信用してくれ」

「も、勿論、信用しているわよ。ちょっと葉留佳の言葉に驚いただけで。って、そうよ、葉留佳は変な事を言うから」

「えー、はるちんの所為なんですか。はるちんショック。
 お姉ちゃんのためにあんなにも頑張ったというのに……。
 お礼じゃなくお叱りの小言を貰った挙句、二人のお惚気まで見せられる羽目になるなんて……トホホ」

葉留佳の言葉に顔を赤くする二人を楽しそうに眺めると、葉留佳は満足したように頷く。

「いやいや、それにしてもこうも陽気だと眠たくなりますな」

「こら、葉留佳。言いながらそんな所に寝転がらないの」

「まあまあ、良いじゃない。お姉ちゃんもどう」

良いながら佳奈多の手を引いて強引に寝転がせる。

「あー、本当にいい天気なのですよ」

「……はぁ。気にするだけバカみたいだわ」

葉留佳の笑顔に感化されたのか、佳奈多は諦めたように寝転がり空を仰ぐ。

「確かに気持ち良いわね」

「でしょう。とは言え、やっぱり二人は仲良しさんですね〜」

さりげなくいつの間にか佳奈多の頭を膝の上に乗せていた恭也と、それを当然のように受け入れていた佳奈多。
そんな二人を頬杖を付ながら見上げ、葉留佳はニヤニヤと笑う。
これまた顔を赤く染め上げるも、恭也は葉留佳の視線から逃れるように空を見上げるだけで膝枕を止めようとはせず、
その手は優しく佳奈多の髪を梳くように頭を撫でている。
佳奈多の方は開き直ったように恭也の掌を受け入れながら、葉留佳へと動揺していないと見せるためか笑みを浮かべ、

「勿論、仲は良いわよ。だって、こ、こ、恋人同士なんだから」

恋人の所で詰まっている上に耳まで真っ赤にしていては、動揺しているとばればれなのだが、
葉留佳は珍しく突っ込まず、ただ嬉しそうな笑みを浮かべて二人を見詰める。
その眼差しはどこか優しく、佳奈多はくすぐったそうに身体を揺する。

「三枝は本当に佳奈多が好きなんだな」

「勿論好きだよ。だって、たった一人のお姉ちゃんだもんね」

「葉留佳……。そ、その私も――」

佳奈多の言葉を期待するような葉留佳の眼差しを前にして、佳奈多はそこで口を閉ざしてしまう。
何を言おうとしたのか分かってはいるが、葉留佳はその続きを尋ねる。

「私もなんですか?」

「うっ、あ、あなたのその顔。分かっていて言っているでしょう」

「いやいや、分からないですよ〜」

満面の笑みで嘘だと分かる事を口にしたかと思えば、不意に真面目な顔を見せる。

「ほら、私たち色々あったじゃない。だから、時々不安になるんだよね。
 もしかしたら、これもお芝居で本当はって。だから、ちゃんとお姉ちゃんの口から聞きたいな」

葉留佳の言葉に照れていた佳奈多も真面目な表情になると、葉留佳の頭を優しく撫でてやる。

「本当に馬鹿ね」

「そりゃぁ、お姉ちゃんとは違いますよ」

「そういう意味じゃないわよ。まあ、私もそういう意味では馬鹿だったんだけれどね。
 間違った方法でたくさん葉留佳を傷付けて……。でもね、葉留佳。
 私は昔から変わらず今もあなたの事を好きよ。たった一人の妹だもの。嫌いな訳ないでしょう」

佳奈多の言葉に葉留佳は笑みを浮かべ、それも悪戯が成功したみたいな笑みを見せる。
その笑みの意味に気付いた佳奈多は睨むように葉留佳を見詰める。

「あなた、担いだわね」

「にははは、人聞きの悪い事を言わないで欲しいなお姉ちゃん。
 言った事は本当だし、お姉ちゃんに言ってもらえて嬉しかったのも本当なんだから」

悪びれもせずに言う葉留佳に佳奈多は呆れたような溜め息を吐き出す。
そんな姉妹のやり取りを見ていた恭也は、少しだけ意地の悪い笑みを見せると、

「そう気にする事もないと思うぞ佳奈多。三枝は単に恥ずかしかっただけだろう。
 佳奈多からあんな事を言われると思ってなくて、咄嗟にあんな態度しか取れなかったんだろう。
 早い話が照れ隠しだな」

「い、いやだな、恭也さん。何を言い出すんですか」

図星だったのか顔を赤くして反論するも少し歯切れ悪く、逆に恭也の言葉を肯定してしまっている。
それを見て佳奈多も少しは余裕が生まれたのか、口元に笑みを浮かべる。

「うぅぅ、二人がかりなんて卑怯ですよ。恭也さんも恭也さんですよ。
 可愛い義妹を助けようと思わないんですか」

「い、義妹って葉留佳!?」

「まあ、将来的には義妹かもしれないがまだだろう。
 それに俺は佳奈多の恋人だからな。基本的には佳奈多の味方だ」

「きょ、恭也まで何を言――」

「むきー! 友情よりも愛情なんですね。
 悔しいけれど、これが二人の愛なのか!?」

「まあ、その辺りは諦めてくれ」

二人のやり取りに既に顔所か全身までも赤くさせているような佳奈多であったが、ふと思い付く。

「もしかして、二人で私をからかって楽しんでない?」

「にはは、ばれちゃいましたよ恭也さん」

あっさり白状する葉留佳を睨み、続いて恭也を睨む佳奈多であったが、恭也の方は至って真剣な顔を見せている。

「まあ、途中からからかったのは否定しないが、言った言葉に嘘はないぞ」

「うっ、ず、ずるい……」

それ以上は何も言えず、佳奈多はそっぽを向くのだが、向いた先には葉留佳が居てニヤニヤと笑っている。
慌てて逆を向くのも癪に障るので、佳奈多は照れた顔のまま怒ったような表情を作って葉留佳を睨む。
全くもって怖くも何ともないそんな表情を見返しながら、葉留佳は自然な笑みを見せる。

「うん、やっぱりこうして三人で一緒に居るだけで楽しいね」

そんな葉留佳の言葉に恭也と佳奈多の二人も肯定するように頷き合う。
三人の気持ちを現すかのように穏やかな日差しが三人を包み込んでいた。





<おわり>




<あとがき>

1200万Hitおめでとうございます。
美姫 「アクセラレイターさんからのリクエストね」
おう。二木佳奈多と三枝葉留佳の姉妹とのほのあま、という事で。
二人同時じゃなくて、佳奈多メインという形になりましたが。
美姫 「こういう感じですが、どうでしょうか」
うーん、やっぱりもう少し甘くした方が良かったかな。
美姫 「ともあれ、キリ番おめでとうございます」
ございました〜。ではでは。







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