『An unexpected excuse』

    〜ハーレム編〜






「俺が、好きなのは…………」

誰かが息を飲む音が知らず聞こえてきそうなほどに辺りが静まりかえる。
恭也が次の言葉を少し躊躇ったように沈黙する。
その沈黙を嫌うかのように、恭也の背後から二つの人影が姿を現す。

「あら、皆さんお揃いで。何やら楽しそうですね、高町くん」

「本当に。何をしているんですか? 先輩」

丁寧な口調に満面の笑みを浮かべた二人の女子生徒。
だが、一秒にも満たない僅かな瞬間、確かに空気が凍りつく。
普通の人ならば気付かないかもしれないソレに、しかし恭也は不運か気付いてしまう。
恭也だけでなく、恭也の関係者たちも気付いたらしく、
さっきまで恭也をからかう気満々だった面々は、急に大人しくなる。

「さ、桜にり……遠坂か。いや、別にこれといって何かしている訳ではないんだが」

ゆっくりと後ろを振り返る恭也に、二人は揃って綺麗な笑みを浮かべつつ、
恭也を挟み込むようにその両隣にそれぞれ座る。

「あら、そうなの。じゃあ、私たちがここに居ても邪魔にはならないわよね」

「そうですよね。遠坂先輩の言う通りです」

そう口にするも、その言葉は明らかに拒否するのなら、というニュアンスを多分に含んでおり、
その目は全く笑っていないのだった。
優等生として知られる遠坂凛と、大人しく礼儀正しい生徒として知られる間桐桜。
この二人に挟まれた恭也が若干緊張しているように見えるのは、
二人が共に美人の部類に入る女子生徒だからだとFCたちは考えるが、事実を知る者たちはただ苦笑するしかない。
だが、そんな余裕を見せていられる状態ではないらしく、凛は恭也から視線を忍へと移す。

「とりあえず、何をやっていたのか教えてもらえるかしら月村さん」

「あ、あはは。本当に大した事じゃないんだけれどね……」

そう言って忍はここで行われていた事を口にする。
笑顔のまま楽しげに聞いている二人であったが、その顔が僅かに引き攣っている事にすぐ近くにいる恭也は気付く。
二人に挟まれたまま無言でいる恭也へと、FCの一人が中断された答えを要求する。
元から答えに詰まっていた恭也は、再び沈黙でそれに応じるも、両側から突き刺さる視線にようやく口を開く。

「とりあえず、この場に居るとだけ言っておく」

その言葉にFCたちは互いに顔を見合わせるも、この中には居ないとすぐに悟り、視線を忍たちへと転じる。
一緒になって恭也へと詰め寄っていた以上は彼女たちも違うと思うが、絶対に違うとは言い切れない。
そして、新たに現れた二人もまたこの場に居る者たちに入るだろう。
悩むFCたちへと解散を告げる恭也に、誰なのかと更に詰め寄る者もいる。
だが、恭也はそれらをのらりくらりと躱し、結局は名前を上げるような事はしなかった。
それでも、好きな人が、既に付き合っているという事実まで出てようやくFCたちも諦める。
集団が去っていくのを少し疲れた顔で見遣った恭也の背中を横から伸びた手が抓る。

「……痛いんだが、遠坂」

「それは痛いでしょうね。だって、抓っているもの」

先程よりも砕けた口調で穏やかに話すも、その指に篭められた力は相当なものである。
流石に痛みに顔を顰め、それから逃れようとする恭也の右腕を桜が抱きかかえるよう掴む。
その豊かな胸の感触に頬を赤らめつつ、今度は桜へと顔を向けると、どこか拗ねたような顔で恭也を見上げてくる。

「先輩、どこに行くんですか。まだ昼休みはあるのに」

「いや、だから。っ! 凛、さっきよりも力が……痛いぞ」

「だらしなく鼻の下を伸ばしているからよ」

お仕置きを凛に任せ、自分は恭也に優しくする桜の作戦を分かっていながらも、
その押し付けられたモノに恭也が照れているという事実に抓る力を強める凛。
痛がる恭也を甲斐甲斐しく気に掛けながら、桜は恭也には見えない位置で凛へと小さな笑いを飛ばす。

「桜? 今、鼻で笑ったのはどういう意味かしら?」

「何のことですか、姉さん。言い掛かりはやめてください。
 幾ら、自分が私の真似を出来ないからって」

「そ、それぐらい出来るわよ。たかが腕を抱きかかえるぐらいっ!」

「抱きかかえる? まあ、それだけなら出来るでしょうけれど。
 ですが、私はそれだけじゃないんですよ」

不敵とも言えるような笑みで凛のとある部分へと視線を飛ばし、
悲しげに目を伏せながらそこから目を逸らす。

「すみません、姉さん。気にしないでください。ほら、人それぞれですし……」

何やら憐れんだ後、まるで慰めるように言ってくる桜に凛の何処かがキレた音がする。

「ちょっとでかいからって、何を勝ち誇っているのよ」

「ちょっと、ですか。……ええ、そうですね。
 ちょっとだけ姉さんよりも大きいだけですから。ほら、姉さんも諦めないでください。
 まだ成長しないと決まった訳じゃないんですし。ほんのちょっとの差ですよ」

恭也の腕を更に強く抱きしめ、その反動でくにゅんくにゅんと形を変えて動くソレを見せつけるようにしながら、
凛の言葉を認める桜。分かっていても凛は全身を震わせ、今にも桜に飛び掛らんとする。
が、流石にこんな所で人知を超えた姉妹喧嘩をさえるつもりは恭也にはなく、
座ったまま桜へと詰め寄ろうとする凛の腰を手で抑える。
別に狙った訳ではなく、手を着いて恭也の前に上半身を置くような形で乗り出したため、
すぐに止めれる場所がそこだけだったのだ。
だが、腰を抱かれた凛は素っ頓狂な声を上げ、その場に座り込むと顔を真っ赤にさせる。

「な、何よ、急に」

「あ、いや、悪い。り……遠坂を止めようとしただけなんだが」

「そ、そう。ちょっとびっくりしたじゃない」

顔を赤くして少し恭也から視線を逸らせる凛の様子に、恭也も何故か恥ずかしくなって顔を赤くして視線を逸らす。
逸らすも、チラチラと気にするように凛へと視線を何度も向ける。
そんな様子を桜が拗ねながら見つめていると、二人も桜の視線に気付いて誤魔化すように乾いた笑い声を上げる。

「良いですよ。どうせ私なんて……。先輩は姉さんと二人で楽しんでてください」

いきなりいじけ始める桜を二人は揃って宥め始める。
当人たちは至って真剣なんだろうが、その光景を見せられた部外者からすれば……。

「はぁ、相変わらずというか何と言うか」

「あてつけられているようにしか見えませんよね」

「まあまあ、那美さん。まだお二人はましですよ」

「そうですよ。美由希ちゃんの言う通りです。
 俺たちは家でもこれを見せられるんですから。しかも……」

「ここに後二人ほど加わるからな。いや、正確には三人なんかもな。
 まあ、ライダーさんは少し後ろに下がっている事が多いから」

そんな話が忍たちの所でなされている頃、機嫌を直すために桜を抱き締める恭也と、
それによって機嫌を悪くする凛。
勿論、すぐに恭也はもう一つの腕で凛も抱き締める。
途端に機嫌を直して楽しそうに姉妹で話をする腕の中にいる二人を眺めつつ、恭也は満更でもない笑みを零す。
が、それも束の間であった。
不意に頭上から気配を感じ、気付いた時にはその背中にドンと誰かが勢い良く飛び乗ってくる。
思わず前へと体重が移動するも、恭也はそれを堪えて首だけを後ろへと向ける。
見知った気配だが、居るはずがないと思いつつ。
だが、恭也の視界いっぱいに映り込んできたのは、どこか怒っている様子の一人の少女であった。

「イ、イリヤ。どうしてここに?」

「むー、凛と桜ばっかりお兄ちゃんを独占してずるい!
 わたしも、わたしも〜」

「ど、独占って失礼ね。今日は偶々よ」

「そうですよ。いつもじゃありません」

「それでも、私達よりもキョウヤと居る時間は長いでしょう。
 なのに、その様な羨ま……破廉恥な真似をするとは」

凛や桜の言葉に反応したのは、イリヤではなく、更にその後ろに仁王像のように立つ少女であった。

「セイバーまで来たのか」

「おや、私が来ては何かまずいのですか。
 と言うよりも、まずいようですねキョウヤ」

「いや、だからこれはだな」

弁解しようとする恭也であったが、未だに二人を抱き締めたままなのに気付いて慌てて離れる。
残念そうな顔をはっきりと見せる桜と、小さく舌打ちをする凛へとセイバーの注意が向き、
今度は二人へと文句を言い出す。
その間にイリヤはちゃっかりと恭也の膝の上に乗ると、甘えるように頬を摺り寄せる。

「お兄ちゃん〜〜。ゴロゴロ〜」

「イリヤスフィール! あなたまで何をしているのですか!」

「羨ましいのなら、セイバーもやれば良いじゃない」

「う、うら、わ、私は別に羨ましくなど……」

「あっそ。じゃあ、邪魔しないでよ」

言うや即座にまた甘えるイリヤをセイバーは引き離し、ここは外でしかも日中だと説教する。
だが、誰が見ても単に羨ましいが、恥ずかしくてそれを出来ないで居る事は明白であった。
そうなってくると、セイバー以外の三人は即座にアイコンタクトを交し合い、
セイバーをからかうために全力で動き出す。
いかに勇猛を持って知られるセイバーも、勝負が剣ではない上に、相手がこの三人である。
あっという間に追い詰められ、おたおたと慌てふためき、時折、顔を羞恥から紅く染める。
その仕草が可愛らしく、三人の嗜虐心に更なる火を点ける事になっているなどと気付かず。

「はぁ、三人とも本当によくやる」

「ええ、全くです」

「っ! ライダーか。驚かさないでくれ」

「それはすいません。ですが、気付かなかったのは少々剣士としてはまずいのでは」

「それはそうなんだがな。だが、忍たちが去ったのは気付いていたぞ」

「流石です、恭也」

言ってライダーは優しげな笑みを浮かべると、そっとしな垂れかかる。
特に言葉を交わす事もなく、先ほどまでとは違い静かな空気を纏い始める二人。
そのまま静かにからかわれるセイバーの見学と行く。が、そう簡単には問屋が卸さないようである。
こちらに気付いたセイバーの声に、残る三人もこちらへと振り返る。
全員が見事は笑みを見せて恭也へと近づいてくる。
だが、決して笑ってはいないと分かっている恭也は、弁解するべくライダーと一緒に……。

「あれ、どこに!?」

さっきまで隣にいたライダーは既に恭也から離れた場所に立ち、静かに本を広げていた。
あたかも関係ありませんという顔をして見せるライダーを恨めしそうに見遣りつつ、
恭也は早くチャイムが鳴る事を願うのだった。
五人とそういう関係になった以上、騒々しい日常は覚悟していたつもりであったが、
やはりその度に出る溜め息ばかりはどうしようもないのだった。





<おわり>




<あとがき>

ヤイチさんんの560万Hitリクエストで、ハーレム編です。
美姫 「衛宮家バージョンって所ね」
ああ。
そんな訳で、こんな感じになりました。
美姫 「それじゃあ、また〜」







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