『リリカル恭也&なのは』
第26話 「なのはと管理局」
クロノはなのはへと近付き、エイミィへと通信を入れる。
その直後、クロノの足元に魔法陣が浮かび上がりクロノとなのはを囲む。
一瞬だけ魔法陣が光を放ち、それが消える頃にはそこには誰の姿もなかった。
思わず目を閉じていたなのは、クロノのもう良いよという声にゆっくりと目を開ける。
周囲を見渡せば、何処かの部屋らしくさっきまで居た場所ではない。
「ここは?」
「ここが僕らの艦、時空管理局巡航L級8番艦アースラの艦内さ」
「時空管理局? 艦?」
疑問を浮かべるなのはに、クロノは順を追って説明しようとして、その前にユーノへと視線を向ける。
「君も元の姿に戻っても良いんじゃないか。スクライア一族の……」
「ユーノ、ユーノ・スクライアだ。こっちの姿では久しぶりだね、なのは」
言うやいなや、ユーノの姿がフェレットからなのはと同じぐらいの年ぐらいの少年となる。
にこやかに笑うユーノに対し、なのははその久しぶりの姿にやはりまだ慣れる事ができないのか、
若干戸惑った顔をしつつも笑みを浮かべる。
「えっと、一応久しぶり、で良いなのかな? 違う恰好とは言え毎日会ってるし」
「それもそうだね」
苦笑を返すユーノとなのはのやり取りを黙って見ていたクロノは一段落ついたのを見計らい、
ようやくそこで声を掛ける。
「そろそろ良いかい? いい加減説明をさせて欲しいのだけれど」
二人が納得したのを見て、クロノは歩き出す。
「だったら、一緒に来てくれ。僕から話をしても良いんだけれど、艦長が話をしたいそうだから」
そう言われてクロノの後に着いて行くと、一つの部屋に連れて行かれる。
和装を施された部屋には既に一人の女性が待っており、おっとりとした笑みを浮かべて持っていた湯飲みを下ろす。
「初めまして、可愛らしい魔法使いさん。私がこの艦の艦長にして、
そこにいる執務官クロノの母親、リンディ・ハラオウンよ。よろしくね」
「あ、わ、わたしは高町なのはと言います。
よ、よろしくお願いします」
リンディの挨拶になのはも慌てて名乗って頭を下げると、その横でユーノも同じように挨拶をする。
二人に座るように勧め、座るなりリンディは話を始める。
なのはたちの住んでいる世界以外にも、様々な世界があること。
それら次元世界における司法機関として管理局が存在し、各世界の文化管理から災害救助のようなこと、
管理外の世界での魔法を使用した悪事を働く者の取り締まり、
そして、ロストロギアに関する案件などを手掛ける所だと。
今回、ちょっと前、魔法の存在しないなのはの世界にて次元震に似た反応を検知して調査をしたこと。
その結果、ジュエルシードの存在を知ったことまでを一気に説明する。
二人が今の説明を理解していると見ると、リンディは一息入れるためにお茶を含む。
それに倣うように、なのはとユーノも差し出されたお茶を口にする。
「ジュエルシードはロストロギアの中においても、その危険度はかなり高いものなの。
たった一つでも弱い次元震を起こす事ができるわ。もし、悪意を持った者が手にして発動させたら……」
リンディは二人をしっかりと見据えたまま、
重々しい口調でジュエルシード回収作業が時空管理局の全権を持って行われる事になったと告げる。
「そういう訳だから、君たちは元の世界に戻って元通りに暮らすと良い」
リンディの話が終わると、クロノがなのはたちへとそう言葉を投げる。
それに対して不服そうな顔をするユーノと、納得していないという顔を見せるなのは。
それを見て何か言おうとするクロノよりも早く、なのはがその口を開く。
「それはできません」
何か強い意志を持った瞳で真っ直ぐにクロノを、リンディを見つめてなのはははっきりとそう口にする。
「ジュエルシードがとっても危険な物だっていうのは分かりました。
管理局の人たちがそういったお仕事をしているという事も。
でも、わたしも今やめるわけにはいかないんです。
あの子と、フェイトちゃんとちゃんとお話をしたいから。
だから、今はまだジュエルシード集めをやめる訳にはいかない」
「はぁ、いいかい。今までは何とかなったかもしれない。
でも、これ以上この件に関わると、怪我だけでは済まなくなるかもしれないんだよ」
クロノの言葉は淡々としていて、それが却ってその言葉が事実だと認識させる。
僅かに怯みそうになるなのはであったが、その脳裏に恭也や美由希の姿が浮かぶ。
「それでも、わたしはまだフェイトちゃんとちゃんとお話をしていないから。
わたしの名前もまだ聞いてもらってないし、呼んでもらっていない。
クロノくんたちみたいに次元震を防ぐためっていうような立派な理由じゃないかもしれないけど……。
何であんな悲しそうな顔をしているのか、何か力になれる事はないのか。それを聞いてみたいの。
それに、その次元震が起こったら私たちの世界もどうなるか分からないんだよね。
だったら、余計に何も知らない顔なんてしてられないよ。
いつもとは逆に、今度はわたしがお兄ちゃんやおかーさん、お姉ちゃんたちを守ってあげたい」
なのはの言葉を聞き、その目を見て説得は無駄だと悟るクロノ。
そんなクロノとなのはの様子をリンディはどこか楽しそうに見つめている。
いつまでも沈黙が続くかと思われたその時、ユーノがなのはの魔法の才能について話し出す。
魔法を知ったばかりなのに、その成長の早さや強力な攻撃力は役に立つはずだと。
「クロノ執務官、彼女たちもしっかりと考えた上で答えを出したみたいだけど、どうするの?」
「それを決めるのは僕ではなくて艦長の仕事なのではないのですか」
「じゃあ、良いのね」
リンディの言葉にクロノは小さく頷く。
だが、なのははまだどうなったのか分からずに二人を困惑した顔で見つめる。
そんななのはへとリンディはにっこりと微笑みながら、
「なのはさんたちにはこれから管理局預かりという形で協力してもらいます。
ただし、こちらの指示はちゃんと守ってくださいね」
「あ、ありがとうございます!」
リンディの言葉になのはは嬉しそうにお礼を述べると頭を深々と下げる。
そんななのはの行動を微笑ましく見ていたリンディであったが、不意に真面目な顔になる。
「一つ聞きたいのだけれど、なのはさんが言っていたフェイトさんというのはもう一人の女の子のことよね」
「あ、はい」
「あの子は何でジュエルシードを集めているのかしら?」
「それはわたしにも分かりません。その事も含めて、ちゃんとお話をしてみたいんです。
聞かれたくない事かもしれないけど、それならそれで良いんです。ただ、一度お話をしてみたい。
わたしの我侭なんです」
「そう分かっていても話をしてみたいのよね」
「はい。お話を聞ければ、協力できるかもしれないし」
なのはの言葉にクロノは何か言い掛けたがそれを飲み込み、誤魔化すように違う事を口にする。
「まあ、その辺りは君の思うようにすれば良い。
だけど、僕たちの最終的な目的はジュエルシードの回収だと忘れないでくれよ。
その、フェイトという子がもしそれを諦めない場合は武力行使もあり得るから」
「分かってます。でも、その前にわたしに話をさせてください」
本当に分かっているのかという顔を見せるクロノと、無言でじっと見つめるなのは。
このままでは埒があかないと判断したリンディが間に割って入る。
「とりあえず、フェイトさんの事は当面はなのはさんに任せましょう」
「しかし、艦長」
反論しようとするクロノを黙らせ、リンディはなのはへと視線を戻す。
「そういう事だから、頑張ってね」
「はい!」
「はぁ、どうなっても知りませんからね」
呆れたように呟くも、クロノはすぐに気を取り直して尋ねる。
「なのは、あの子の名前はフェイトなんて言うんだ。一応、こっちでも調べてみるから」
調べるという言葉に少し抵抗を感じるも、なのはは正直に前に聞いたフェイトの名前を口にする。
「……フェイト・テスタロッサ」
「そうか。……そう睨まないでくれ。
目的が分かれば話もし易くなるかもしれないだろう。艦長が決めた事だから、あの子の事は君に一任するよ」
その言葉に嬉しそうに笑うなのはを見遣りつつ、
クロノは通信を繋いでフェイト・テスタロッサについて調べるようにエイミィに頼むのだった。
こうして、なのはは管理局の協力者として今まで通りにジュエルシード探索をする許可を得たのである。
∬ ∬ ∬
背中の痛みに耐えて何とか部屋まで辿り着いたフェイトは、一人怪我の手当てをする。
恭也たちに連絡して心配させたくないからと。
管理局が来た事をどう説明しようか悩むフェイトであったが、黙っていてもいずれは出会う可能性が高いと判断し、
恭也に話す事にする。その為に連絡をしようとして、フェイトはやはり手を止める。
試験が終わるまでは恭也はジュエルシード探しをしないから、それが終わってからで良いだろうと。
下手にここで説明をすると、恭也の事だから手伝うと言い出しかねないと考えたのだ。
どうせ試験が終わった日に会う約束をしているのだからと、フェイトはアルフへの念話を取り止める。
僅かに引き攣ったような背中の痛みに顔を顰めつつ、フェイトはベッドに横になる。
このぐらいの怪我は別段珍しい事でもないというのに、何故かいつも以上に痛みを感じ、何だか寒く感じる。
必要以上に部屋が広く感じられ、フェイトは布団の中に潜り込んで目を閉じる。
暗闇と静寂が支配する部屋の中、傷を癒すようにフェイトは己の身を抱き締めるように丸まり眠りにつくのだった。
つづく、なの
<あとがき>
という事で、当面のなのはの動きと管理局の方針が決定〜。
美姫 「恭也はこのままだと管理局と敵対するのかしら?」
さあ、どうだろう。ふっふっふ。
美姫 「で、次はどうなるのかしら?」
それは次回のお楽しみだ。
美姫 「まだ未定とかってオチじゃないの?」
失礼な。そんな事はない!
美姫 「あら、珍しいわね」
あはははは。褒めろ、褒めろ。もっと褒めて〜。
美姫 「それじゃあ、さっさと書いてね」
あれ? おいおい。
美姫 「いや、褒めるとすぐに調子に乗るし。それに、褒めるほどのことでもないし」
いや、それはそうなんだけどね…。
美姫 「もう書き終えたってのなら、少しは褒めてあげるけど、どう?」
いや、いまこの話を書き終えたばっかり…。
美姫 「じゃあ、諦めなさい」
へいへい。ともあれ、また次回で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」
<あとがき2>
はい、という訳で……ぶべらっ!
美姫 「このバカがとんでもないミスをしたので大幅の修正をしました」
う、うぅぅ。申し訳ないです。
という訳で、修正前は没として以下に…。
美姫 「はぁ、本当にバカよね」
うぅぅ、反論できません。(涙)
指摘してくださった方、ありがとうございます。
美姫 「こんなバカですが、これからも見捨てないで」
うぅぅ、お願いします。
クロノは順を追って説明しようとして、その前にユーノへと視線を向ける。
「君も元の姿に戻っても良いんじゃないか。スクライア一族の…」
「ユーノ、ユーノ・スクライアだ。こっちの姿では久しぶりだね、なのは」
言うやいなや、ユーノの姿がフェレットからなのはと同じぐらいの年ぐらいの少年となる。
にこやかに笑うユーノに対し、なのはは動きを止めてじっとユーノを見つめて口をパクパクさせる。
「連れの女の子は大層驚いているみたいだが、大丈夫なのか?」
「え? どうしたの、なのは? ん? あ、あれ。
もしかして、なのははこの姿では初めまして…、だった?
あ、あー、だから、今まで…」
不意に口を噤む人間の姿に戻ったユーノの姿に、未だ驚きながらコクコクと頷くなのは。
「あ、え、な、何で。え、お風……、一緒に寝……。
だ、騙され…、お、お兄ちゃーん、お姉ちゃーん」
混乱して叫び出すなのはに、ユーノは両腕を振り回しながら慌てて止める。
「うわわわ、なのは落ち着いて! お願いだから。きょ、恭也さんたちには言わないで!」
ここに居るはずがないと分かっていてもユーノは思わず周囲を見渡してしまう。
何だかんだと言いながら、高町家の人全てにとってなのはは大事な妹なのだ。
そのなのはが泣きそうな顔で男の子に騙されたなんて口にしようものなら、考えるだけで恐ろしい。
あの家に今居る人たち――なのはの家族とも呼ぶべき者たちは、
約一名を除いて恐ろしいぐらいに腕に覚えのある者たちなのだから。
必死に謝るユーノと、何とか落ち着きを取り戻したなのはを黙って見ていたクロノは一段落ついたのを見計らい、
ようやくそこで声を掛ける。
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