『とらいあんぐるがみてる』



第27話 「デート当日」






イベントを終え、自然と薔薇の館に集まる山百合会のメンバーたち。
無事に終えた事を労い合うつぼみの三人とはうって変わり、その妹たちはどんよりとした空気を纏って突っ伏している。

「もう、由乃いい加減に機嫌を直してよ」

剥れた表情であんなの分かるはずがないとぶつぶつ文句を言う由乃を宥める令。
その隣では祐巳も同じように落ち込んでいる。
令を無視して由乃が話し掛ける。

「祐巳さんは良いじゃない。祥子さまのお相手は美影さまなんでしょう」

「そうだけれど……」

それを言うのなら、由乃はその気になればいつでもデートできるではないかという言葉を飲み込む。
言えば言ったで何か必ず文句を言われ、その上でなら誘えば良いじゃないと帰ってくるのが分かっているからである。
ゲームの結果だから仕方ないと何とか割り切るも、やはり僅かに落ち込みを見せる祐巳を見かねたのか美影が話し掛ける。

「良ければ祐巳ちゃんもご一緒する?」

「えっ!? 良いんですか!?」

その言葉に顔を輝かせながらも本当に良いのかという感じで尋ねてくる。
そんな祐巳の反応に知らず苦笑し、美影はええと二つ返事をする。
祥子の方も特に何も口を挟んでこないという事は反対ではないという事だろうか。
そんな紅薔薇姉妹と美影の会話をしっかりと聞いていた由乃はじー、と令を見詰める。
その視線の意味する所を正しく理解しつつも令は駄目だよと返す。
何か文句を言おうとする由乃を遮り、令は先に言葉を続ける。

「祥子たちの所は身内同士みたいなものだから問題ないかもしれないけれど、私の方は違うでしょう。
 妹を連れて行ったら相手の方に失礼でしょう」

「うぅ、祐巳さんだけずるい。……そう言えば、それってありなのかな。
 一応、形の上だけでもレポートの提出があったでしょう。
 第三者が一緒に行ったとなったら、読んだ人たちから苦情とかこないかな」

祐巳が羨ましいから邪魔しようとしてではなく、純粋に山百合会も協力したイベントという事で真剣な顔で言う。
レポートも詳細までは書かなくても良いとしたから、書かなければ良いだけの事だがそういう事はあまりしたくない。
祥子の顔にはそうはっきりと現れており、それも含めて全員の様子を眺めていた蓉子が喋り出す。

「確かに由乃ちゃんの言う通りね。祐巳ちゃんには申し訳ないけれど」

「そうですね。分かりました」

由乃や蓉子の言う通りだと納得する祐巳に美影は違う提案をする。

「だったら違う日に一緒にお出掛けしましょう。
 それなら問題ないでしょう。どうかしら?」

祥子と祐巳の二人に向かって投げられた言葉に祥子は小さく頷き、
祐巳は嬉しそうに何度もぶんぶんと音がしそうなぐらいに激しく首を振る。
それを横目で眺めながら由乃はすぐさま令の方を向き、何か口にするよりも先に令が分かったと答える。
いとも簡単に自分の行動を予測されて拗ねたような事を口にしつつも、
それだけ理解されている事に嬉しさを隠せずに笑みを零す。
紅黄の二薔薇姉妹が今回の賞品となっていたデートの件で話している中、白薔薇姉妹は少し離れた所でのんびりとしていた。
聖の手の中にはチョコレートの入った箱があり、先程から黙々とそれを食していた。
その隣で志摩子は紅茶に口を付け、ただ静かにどこか嬉しそうな眼差しで聖を見ている。
こうして少々騒々しい一日は終わっていく。





  ◇ ◇ ◇





翌日の日曜日、美影と祥子は揃って出掛ける。
既に出掛ける場所は前に話をしていた温水プールにすると昨日のうちに決めており、その為に駅へと向かう。

「くすくす」

「もう、また笑って。昨日からじゃないの。
 いい加減にしてよね、美影」

「ごめんなさい。でも、祥子があまりにも可愛い事を言うから。
 あ、駄目。思い出したらまた」

そう言って控え目に笑う美影を拗ねたように見上げ、その腕を軽く抓る。

「もう知らないわ」

「ごめん、ごめん。もう笑わないから」

「その台詞を昨日も聞いたような気がするのだけれど?」

「そうだったかしら」

睨んでくる祥子の視線を軽く受け流してとぼけて見せ、美影は昨日のやり取りを思い出してしみじみと呟く。

「それにしても……。祐巳ちゃんと来た時に戸惑わないように先に下見しておくなんてね」

「もう良いじゃない。いい加減しつこいわよ」

「はいはい。初めて行く所だから、祐巳ちゃんに情けない姿を見せたくないという祥子の気持ちは分かったわ。
 でも、それなら私は良いのかしら」

「祐巳は妹だもの。姉として出来る限り情けない所は見せたくないのよ。
 美影は友達でしょう。だから良いのよ」

「うーん、祐巳ちゃんの事だから祥子のそういう所を見ても幻滅したりはしないと思うわよ」

「そんなの当たり前じゃない」

少し誇らしげにそう言い切ると、祥子は続ける。

「でも、それとこれとは別なのよ。
 折角の機会だもの、これを利用しない手はないでしょう」

「つまり私は利用されたという訳ね。酷いわ祥子。
 私は祥子とのデートを楽しみにしてたのに、祥子は祐巳ちゃんの事ばかりなのね」

少し悲しげに顔を伏せれば、祥子は慌てたように取り繕う。

「そんな事ないわよ。私だって美影とデ、デートするのは楽しみだったもの。
 今日行く場所だって下見というだけじゃなくて、美影と二人で行きたかったのよ」

言いながら自分の言葉に照れて紅くなる祥子を見てからかい過ぎたかと反省し、そっと手を取る。

「冗談よ、祥子。ちゃんと分かってるから。
 それよりも折角のデートなんだから楽しみましょう」

「……ええ、そうね」

美影の言葉に文句を言うかどうか僅かに逡巡した後、素直に従う事にして笑みで返す。
同じように美影もまた笑みを浮かべ、二人は駅へと向かって歩く。
楽しくお喋りをしながらも美影は周囲の様子を窺い、幾つもの視線を肌で感じる。
だが、それらは祥子を狙っているという視線ではなく、祥子に見惚れているという類のものなので放置する。
特に怪しい気配が後を付いて来ている様子もなく、無事に電車に乗り込むと目的地まで無事に到着する。
駅から歩くこと数分で本日の目的地へと到着する。
ウォーターランドという文字が躍るゲートを潜り、二人は更衣室へと向かう。
冬だというのにそれなりに人が居る中、二人は適当に場所を決めてロッカーに荷物を入れる。
と、そこで美影はロッカーの中に半場まで顔を突っ込む。

(いやいやいや、何をしているのよ私。ここは女性用の更衣室じゃないの。
 勿論、男の方に行く訳にはいかないんだけれど、何でプールと言われた時点で気付かなかったのよ!
 それ以前に、どうして何の疑問も覚えずに自然に入って来ているのよ)

一人葛藤する美影を不思議そに見遣り、祥子が声を掛ける。

「美影、どうかしたの」

「う、ううん、何でもないわよ」

上着を脱ぎ、上半身を隠すものは下着だけという格好の祥子から少しだけ視線を逸らして答えると、
自分の不審な態度を誤魔化すようにロッカーの方を向いて着替え始める。
着替え始めた美影を見て、祥子は本当に何もないと思ったのか自分の着替えを再開させる。
こうして水着に着替え終えた二人は更衣室を出て行くのだが、何故か美影は既に少しだけ疲れたような感じであった。

「とりあえずどうしようかしら?」

そう尋ねてくる祥子の声を聞き、美影はさっきまでの悩みを何とか振り払う。
自分でも驚くほどにあっさりと立ち直り、というよりも大した問題ではないような気がしてきて、
これも薬の所為なのかと浮かんだ考えも隅に追い遣ると、

「そうね、何があるのか分からないしあそこに案内板があるからそれを見て決めましょう」

更衣室を出てすぐの所にある案内板へと移動する。

「一番近いのはこの流れるプールというやつね」

美影がその場所を指を差しながら言うと、そこにしましょうと祥子があっさりと決める。
美影の方も特に異論はないので素直に従い、流れるプールに行く。
途中、何度か声を掛けてくる男を素っ気無く追い払い、いい加減にうんざりした頃にようやく辿り着く。

「本当に何をしに来ているのかしら」

それがさっきナンパをしてきた男たちを指していると理解し、美影は苦笑する。

「声を掛けずにはいられないぐらい祥子が素敵だって事でしょう」

「私目的じゃなくて美影目的の人も居たと思うけれど」

「それはないわよ。私が男の人だったら、祥子に声を掛けるもの」

「あまり嬉しくはないけれど褒めてくれているみたいだし、一応お礼は言っておくわ。
 それよりも早く行きましょう。流石にあんなくだらない事だけで疲れるのは嫌だわ」

向けられてくる視線に顔を顰め、祥子は美影の手を取ると声を掛けられる前にと少し早足でプールへと引っ張っていく。
祥子に引かれた手を握り返し、すぐさま横に並ぶのだった。





つづく




<あとがき>

900万ヒットでヤイチさんからリクエスト〜。
美姫 「ありがとうございます」
キリ番おめでとうございました。
美姫 「ました〜」
それでは、今回はこの辺で。
美姫 「また次回でね〜」







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