『Moon Heart』








  17/もう一つの事件





「ん……」

マンションの一室。
窓から差し込む僅かな光によって、ベッドに横たわっていた男はゆっくりと目を開ける。
男──恭也は、徐々に覚醒していく意識の中、隣に心地良い温もりを感じ知らず抱きしめる。

(柔らかいな……って、一体何だ)

途端、急激に覚醒する意識に乗り、体を起こすと隣を見る。
そこには、アルクェイドが気持ち良さそうな寝息を立てていた。
布団から除く部分から察するに、何も身に付けておらず、恭也は思わずその白い肩に目が釘付けになる。
それを何とか理性で逸らし、自分の状態を確認する。
そして、自分もまた、裸であることを知ると、

「ま、まさか俺が無理矢理アルクを……。いや、落ち着け。アルクの力なら俺を引き剥がす事など容易いはずだ。
 ま、待て。今のアルクは力が弱まっていたな。だとすると…。いや、しかし、それでも俺よりは強いはずで……」

普段の恭也を知る者たちが見たら驚くほど、恭也は驚愕し、焦り、切羽詰り、追い詰められた顔をしていた。

「やはりアルクに聞くのが一番良いか。しかし、何て聞けば。勘違いだったなら問題ないが、そうじゃなかったら…」

一人悩む恭也を余所に、隣で未だに寝息を立てるアルクェイド。

「起こすか。いや、起こさないほうが良いのか。しかし、責任は……」

迷い悩んだ挙句、決意した恭也はアルクェイドを起こそうとする。
すると、それを見ていたかのようにアルクェイドはゆっくりと目を開け、恭也と目が合うと笑みを浮かべる。

「おはよう、恭也」

「ああ、おはよ……」

恭也は言葉の途中で息を飲む。
挨拶と同時に体を起こしたアルクェイドによって、恭也の視界には、白くたわわに実った果実が晒される事になる。
しかし、アルクェイドはそれに気付かず、昨夜の闘いで付いた傷の所為かと不安になる。

「恭也、大丈夫」

「あ、ああ」

アルクェイドの言葉に我に返った恭也は、慌てて視線を逸らす。

「ちょっと、本当に大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫だ」

「だったら、ちゃんとこっちを見なさいよね」

「いや、そういう訳にはいかなくて…」

「何、訳の分からない事を言ってるのよ。それに、顔まで赤くして」

「…………」

それでも尚、こちらを向こうとはしない恭也を不審に思い、アルクェイドは首を傾げる。
そして、様子が可笑しくなる前の恭也の視線を辿り、自分の胸が飛び込んでくる。
ソレと恭也の態度とを見て、事態を理解した途端、
アルクェイドは今まで感じた事のないような感情が湧き出てくる事に気付き、戸惑いながらも頬を染めると、
体が勝手に動き、布団を掴むと体に巻きつける。

「きょ、恭也、私が寝てる間に何をしたの?!わ、私初めてだったのに…」

「ま、待て!違うんだ。俺も正気じゃなかったというか…」

「そ、そんな理性をかなぐり捨てて本能の赴くままだったって事。つまり、誰でも良かったのね」

「そ、そうじゃないんだが……。って、ちょっと待て」

「な、何よ。男らしくないわよ、言い訳なんて」

「いや、そうじゃなくて。お前も覚えてないのか?」

「当たり前でしょ。私が寝てる間に……、って、お前もって」

二人とも、何かがおかしい事に気付いたのか、少し冷静になる。

「俺は、さっき起きたらお前が横にいたんだが、昨日、ネロと闘った後の記憶がないんだが…」

「………あ、ああー」

アルクェイドは何か思いついたのか、ポンと手を叩く。

「何か思い出したのか?」

「あ、うん。恭也の治療をして、ここに連れて来たんだった。
 で、汚れてた恭也の服を脱がして、そのままベッドに放り込んだんだったわ。
 その後、私も疲れたから、汚れた服脱いでそのままベッドで横になったんだった。
 ほら、下はちゃんと穿いてるでしょ」

そう言って、あははと笑うアルクェイドを見ていると、恭也も怒る気を無くし苦笑する。
確かにアルクェイドの言う通り、下だけは付けていた。

(その事に気付かないとは。かなり動揺していたという事か)

安堵の息を吐くと、恭也は服を着ようとして動きを止める。

「俺の服か、これは……」

恭也が摘み上げたものは、お世辞にも服とは言えず、ぼろきれのようであった。

「………代わりの服はあるか?」

「服?あるけど、全部スカートよ。それでも良い?」

「上は良いとしても、スカートはちょっとな。時間は、もうこんな時間か。なら、店も開く頃だな。
 アルク悪いんだが、適当に買ってきてくれないか」

「えー、やだー、面倒くさいー」

「しかし、このままだと外に出れないし、家にも帰れな………」

恭也はそこまで言って、また連絡をしていない事に気付く。

(ま、まあ、当分戻れないとは言ってあるから大丈夫だろう、多分)

「どうしたの恭也」

「いや、何でもない。と、アルク頼む、何か着るものを買ってきてくれ」

「はー、分かったわよ。その代わり、ご飯、作っといてね。食べたら、もう一度寝るから」

「また、寝るのか?」

「ええ。邪魔者は消えたし、これでやっと目的の奴を探せるんだから。ゆっくりと休まないとね」

「そうか。と、頼んだぞ」

「OK」

アルクはそう言うと、外へと出て行く。
それを見届けて、恭也は歩くの上着だけを借りると身に付け台所に立つ。

(何が悲しくて、下着で食事の用意をしないといけないんだ……)

自分の境遇を嘆きながらも、その手はしっかりと動いていた。



  ◆◇ ◆◇ ◆◇



あの後、無事に着替えと食事を済ませた恭也は、一旦家に戻ることにする。
家に帰る途中で、見知った顔に出会い声を掛ける。

「秋葉さん」

「あら、恭也さん。こんにちは」

「こんにちは」

「また会えましたね」

「ええ」

「あら?」

「どうかしましたか?」

「いえ……(一瞬だけど血の匂いがしたような気が……。多分、勘違いね)」

「そうですか。それなら、良いんですけど。それよりも、どうしたんですか、こんな所で?」

「それは恭也さんこそ。平日のこんな時間に。確か高校3年生とお聞きしたと思うんですけど、授業はどうなさったんですか?」

「いえ、色々ありまして。そう言う秋葉さんは?」

「私も少し」

「それよりも、時間があるようでしたら、一緒に食事でもいかがですか?」

先程アルクェイドと食べたのだが、それは軽くだった事もあり、確かに腹が減っていた。

「そうですね。では、ご一緒させて頂きます」

「そうですか。では、翠屋で宜しいですか」

「あそこですか」

「やっぱり、ご家族の方がいる所へは入り辛いですか?」

「いえ、そんな事はないんですが、今はタイミングが…

「では、行きましょうか」

「……はい」

翠屋に向かう途中で差し掛かった交差点で、信号待ちをしていた母子がいた。
その母親に連れられている男の子が、信号が変わるやすぐさま飛び出す。
そこへ横から車が飛び出して来た。
それに気付いた母親が、静止の声を上げるが、男の子は恐怖の為かその場に立ち止まってしまう。
それを見た瞬間、恭也は神速を使い、色を失った世界の中、男の子へと駆ける。
そして、腕を伸ばし男の子を抱きかかえると、地面を力一杯蹴り、その場を跳び退く。
そのすぐ後を車が通り過ぎていった所で、世界に色が戻り始める。
男の子は最初、何があったのか分からないといった様子だったが、すぐに事態がわかったのか、
それとも本能的なものによるのか、突然泣き出す。
そんな男の子の頭に手を置き、優しく撫でながら恭也は話し掛ける。

「もう大丈夫だ。男の子だったら、あれぐらいで泣いたら駄目だぞ」

恭也の言葉と、その優しい眼差しに、男の子は泣き止む。
それを見て、

「偉いな。それで良い」

そう言って、もう一度頭を撫でると立ち上がる。
そんな恭也の元に母親がやって来て、頭を下げ礼を述べる。

「ありがとうございます!何とお礼を言ったら良いのか」

「いえ、気にしないで下さい。それよりも、今度からは信号が青でもちゃんと左右を見ないといけないぞ」

そう言って男の子を見る。
その言葉に頷く男の子を見ると恭也は、一つ頷く。
後日、お礼に窺うと言う母親の言葉を丁寧に断わると、恭也はその場を立ち去った。
その背中に、母親は何度も頭を下げる。
それを感じながら、恭也は照れ臭そうに足早になる。
そして、一つ目の角を曲がると、そこで足を止め、後ろから来ている秋葉を待つ。

「お待たせしました」

「いえ。では、行きましょうか」

「ええ。しかし、恭也さん。名前ぐらい教えて差し上げても良かったんでは?」

「いえ。感謝の気持ちはもう貰いましたから。それに、そこまで感謝されるような事はしてませんし」

真顔でそう言う恭也を少し驚いたように見てから、そっと笑みを浮かべる。

「何か可笑しかったですか?」

「いいえ、そういう訳じゃないのよ。ただ、好感が持てると思っただけよ。
 命を救っておいて、大した事をしてないなんて本気で言うもんだから」

「そうですか?でも、本当に大した事はしてませんし」

「まあ、恭也さん本人がそう言うんだから、それで良いんじゃないかしら?
 それよりも、私は一つ聞きたい事があるんですけど」

「…何ですか?」

何となく次に来る質問が分かっているのか、恭也は少し身構えながら尋ねる。

「さっきまで一緒に歩いてましたよね」

「ええ」

「あそこから、あの子の距離を考えると、どうやっても間に合わないと思うんですけど」

「足には少し自信がありまして」

「世界記録を軽く凌駕するなんて凄い足ですね。別に言いたくないのなら、聞きませんけど」

「別に言いたくないとかじゃないんですけど。はー、まあ、あれはうちの流派に伝わる奥義でして」

「そうだったんですか。でも、何ていう流派なのかしら?お聞きしても?」

「……御神流と言うんですが、多分聞いたことはないかと」

一般の人なら聞いたことがないだろうと思い、恭也は名前だけを教える。
しかし、秋葉の反応は普通とは違った。

「御神流って、あの御神流ですか!」

「多分。それよりも、御神流を知っているんですか」

秋葉の言葉を聞き、恭也はすぐに行動できる態勢を作る。

「ええ、話に聞いたことがあります。別に敵対するつもりはないですから、そんなに身構えないで下さい」

「すいませんでした」

「いえ。でも、御神流は既に滅んだと聞きますが?」

「ええ、そうですね」

恭也は溜め息を吐くと、その時の話を掻い摘んで話す。
それを聞いた秋葉は、少し目を伏せ、

「すいません。何やら込み入った事情を聞いてしまって」

「いえ、もう気にしてませんから」

「そうですか。ありがとうございます」

そう言ったきり、秋葉は何かを考え始める。
それを察したのか、恭也は黙っている事にする。
やがて、秋葉は恭也を見ると、

「もし、宜しければ私の手伝いをして頂けませんか」

「手伝いとは?」

「最近、この街で起こっている猟奇連続殺人事件はご存知ですか?」

「ええ」

「その事件の犯人を捕まえるんです」

「そ、そんな危険な事を!」

「別に危険だなんて思いませんわ。私も少し人とは違う力があるんですよ。
 それに、今回の事件の犯人がこの街に来たのも、元はと言えば私たちの失敗とも言えるんですから」

「そ、それは」

「……ずるい言い方ですけど、これ以上は知らない方が身のためです。
 勿論、協力していただけるのなら、情報は惜しみませんけど」

「……それは日中ですか?」

「そうですね。夜中に行動してるから、夜中の方が良いんですけど、まずは拠点を探すのが先ですから。
 それと、犯人は普通の人とは少し違いますから、それを考えて返事してくださいね。
 別に断わっても構いませんから」

「………いや、引き受けます。ただし、毎日という訳にはいきませんけど。
 それと、見つけたとしても一人で乗り込まないと約束してください」

「……………分かりました。それと、引き受けて頂き、ありがとうございます」

「いえ。それよりも、一つだけ。何故、俺に手伝いを?」

「そうですね。多分、私一人でも片を付けれると思いますけど、その場に私以外の者が同伴する可能性もあるんです。
 ですから、どちらかと言うとそっちの護衛みたいなものを頼みたいんです。ですから、拠点探しは私一人でも構いません」

「いえ、可能な限りそっちも手伝います」

「そうですか。ありがとうございます。では、詳しい事は中で説明しますね」

秋葉は目の前に見えてきた翠屋を見ながら言う。

「分かりました。後、この事は母たちには内密に」

「分かりました。それと、恭也さん。
 私とあなたはこれで対等なパートーナーという事になるのですから、そんなに畏まった話し方は止めてくださいね」

「分かり…。分かった。じゃあ、秋葉さんも」

「ええ、そうさせて頂くわ」

そう言いながら、秋葉の口から紡がれる上品な物言いに、恭也は正真正銘のお嬢様だと思い、苦笑を浮かべる。
そんな恭也の様子には気付かず、秋葉は翠屋のドアに手を掛けると、ゆっくりと開いていった。





<to be continued.>




<あとがき>

ふ〜。新展開?
美姫 「いや、私に聞かないで」
まあ、そんな感じで。
美姫 「結構、久しぶりじゃない?」
かもな。
とりあえず、ちょっと違う展開になったかな?
美姫 「いや、だから聞かれても」
このまま、秋葉主体の話で当分は進むのかな?
美姫 「いや、だからね、私に振らないでよ」
すぐにアップできるのかな?
美姫 「あ、それは絶対にない!」
…………何故、そこだけ答える。
そして、断言する。
美姫 「だって、私と浩の長い付き合いじゃない。これぐらい分かるわよ」
うぅぅ〜、悲しんでいいやら、旅立っていいやら。
美姫 「いや、さっさと続きを書けば良いのよ」
うぅぅ〜、悲しんでいいやら、旅立っていいやら。
美姫 「何でよ!」
にはははは。冗談だって。さて、それでは次回!
美姫 「またね〜」








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