『マリアさまはとらいあんぐる 〜2nd〜』



「ありふれた日常?」






商店街を歩く恭也に、道行く人々の視線が飛ぶ。
それを感じているのか、恭也は居心地が悪そうに体を小さく揺する。
ふと、むず痒いものを感じて掻こうとするが、その腕は動かなかった。
何故なら…。

「美由希さん、離れてください」

「悠花さんこそ、恭ちゃんから離れてください」

それぞれ、右腕と左腕に悠花と美由希がくっついているからである。
こうして、恭也を間に挟んで言い合う二人の所為で、先程から通行人たちの視線が集まるのだった。

「大変だな、恭也」

「のんびり眺めていないで、助けてくれ」

「さて、どうしたもんかな。まあ、今度デートに誘ってくるというのなら、考えなくもないかな」

そう言うのは、恭也の後ろを付かず離れずの距離で歩くリノアだった。
そして、喧嘩の原因が恭也である以上、今のリノアの言葉に二人が反応するのも当然で…。

「リノアさん、何を言ってるんですか!」

「そうですよ、恭ちゃんとデートするのは私です!」

「違います! 私です」

「悠花さんは黙っていてください」

「いいえ、黙りません!」

またしても再発した二人の言い争いに、恭也は溜め息を吐き出す。
そんな様子を楽しそうに眺めながら、リノアは胸を背中へと押し付けるようにして、恭也の首に腕を回す。

「恭也、その二人は放っておいて、これから何処か行こうか」

「「リノアさん!」」

「ん? 何かな?」

「「恭ちゃん(恭也さん)から離れてください」」

同時に叫ぶ美由希と悠花に、しかしリノアは平然と応える。

「離れても良いけれど、その場合は当然、美由希や悠花も離れるんだよね。
 まさか、自分たちは離れないのに、私だけ離れろなんて言わないわよね」

リノアの言葉に反論できずにいる二人と背中のリノアを一瞥すると、恭也は誰にともなく呟く。

「張本人である俺の意見は無視か……」

ここの所、当たり前のようになってきたこの状況に既に悟りでも開いたかのような心境の恭也だった。
未だに言い合っている三人に溜め息混じりに肩を竦めながら、恭也はふと前方に見知った顔を見付ける。

「丁度いい。何とかしてもらうか。おーい、忍……」

前方から来る友人へと声を掛けようとした瞬間、恭也の口がリノアによって塞がれる。

「リノアさん、ナイスです」

「流石、リノアさん。お見事!」

「大した事じゃないよ。それよりも、悠花、美由希」

「はい」

「うん」

リノアの言葉に頷くと、さっきまで言い争っていたのが嘘のように、ぴったりの呼吸で、
美由希と悠花は恭也の腕をがっちりと掴み、リノアは肩を掴む。
そのまま、引き摺るようにして、近くの路地へと入り込む。
連れて行かれる恭也の視界の中、自分が呼ばれたような気がして辺りを見渡す忍が映っていた。

「恭也、私たちが居ながら他の女性に声を掛けるなんて感心しないな」

「そうですよ、恭也さん。何か不満でもあるんですか」

「あったら、ちゃんと言ってくれないと直しようがないよ恭ちゃん」

「いや、別に不満も何もないが…」

それを聞いて一様にほっと胸を撫で下ろす三人に、恭也は何とも言えない顔をする。

「それじゃあ、今日は皆で何処かに行くという事で」

悠花の言葉に二人も頷く。

「そうだね。そうしよう」

「恭ちゃんに忍さんたちを近づけないようにするのが最優先だもんね」

「という訳で、恭也さん、今日は私たちに付き合ってくださいね」

その言葉に頷きつつ、恭也は心の内だけで呟いていた。
『今日は、ではなくて、今日も、だろ』と。
勿論、HGSでもない三人はそんな事に気付かず、何処へ行くかと相談を始める。
そんな三人に囲まれて疲れながらも、恭也はこの日常がかけがえのないものになっている事を感じる。
騒々しくて決して慣れるようなものではないけれど、願わくば、この騒々しい日常が続きますようにと。
そっと空を見上げて祈る恭也に気付かず、
三人の女性たちはわいわいと楽しそうに、この後の予定に付いて話し合っていた。





おわり







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