『マリアさまはとらいあんぐる 〜2nd〜』



「かれない想い」






深夜の八束神社。
境内ではなく、生い茂る草木を掻き分けて進んだ奥。
人のまず来ない林の中で動く二つの影。
時折、ぶつかっては甲高い金属音を奏でる。
どのぐらいの時間続いただろうか、やがて二つの影は最初に対峙した時と同じ距離を持って動きを止める。

「…よし。今日の鍛錬はここまで」

「はい、ありがとうございました」

恭也の言葉に美由希はそう口にして一礼すると、その場に座り込む。

「つ、疲れた〜」

「大分、神速の連続使用にも慣れてきたな」

「うん。でも、やっぱりこれは体への負担がきついね」

「ああ。明日はフィリス先生の所へと行かないとな」

そう言いながら、あのマッサージを思い出して顔を顰める恭也。
美由希も同じように顔を顰める。

「で、閃の方はどうだ?」

「うーん、まだ良く分からないかな。
 もう少しで、何か掴めそうなんだけれど」

「そうか。まあ、そんなに焦らずにな」

「うん、分かってるよ。でも、この分だと、まだまだ恭ちゃんの横には並べないし」

「…そんな事はないさ。今でも充分、俺の横に並んでいるよ、おまえは」

珍しい恭也の言葉に美由希は呆然と恭也を見上げる。
それに苦笑を洩らしつつ手を差し出すと、掴んできた美由希の手を引っ張って立たせる。

「そんなに驚くことか?」

「だって、恭ちゃんがそんな事を言ってくれるなんて思ってなかったから」

「俺はただ、正直な事を言っただけだぞ」

「ありがとう」

「別に礼を言われることじゃない」

素っ気無く返す恭也に美由希は笑みを見せるが、少し俯き、自分の爪先をじっと見詰める。

「でも、並ぶだけじゃ駄目なんだよ。並んでも、守ってもらうだけじゃ。
 私も恭ちゃんを守れるぐらいに…」

「何か言ったか?」

「ううん、何も」

呟いた言葉は果たして届いていなかったのか、聞き返す恭也に首を振る。
そんな美由希をじっと見詰めた後、恭也は徐にその頭に手を置いて撫でる。
久しぶりに感じる恭也の手の感触に目を褒める美由希へ、恭也はただ静かに告げる。

「その力に溺れなければ、まだまだ伸びるし、今のままでも、お前は充分に強いさ。
 ちゃんと、俺を守れるぐらいに」

「き、聞こえてたの!?」

「生憎とな」

聞かれていたという事実に顔を赤らめるも、すぐに真剣な眼差しで恭也を見詰めると、
何処か不安そうな声で恐々と尋ねてくる。

「私、恭ちゃんの背中を守れるかな」

「ああ。俺の背中を任せられるのは、お前だけだ。
 そして、お前の背中を守り、支えるのもまた、俺だけだ。こればっかりは他の奴には譲れないな」

恭也はそう言うと、美由希の頬を愛しそうに撫でる。
頬から伝わる恭也の掌の感触や温もりに、美由希はそっと目を閉じると、少しだけ上を向く。
そんな美由希の唇に、恭也はそっと口付ける。
風さえも止み、全ての物音が消え失せた闇の中、他の闇よりも一際濃い二つの影がそっと一つに重なる。
お互いに支えあうように寄り添う二人を、夜の闇がそっと静かに包み込んでいた。



その数年後、双翼と二人一組で呼ばれることになる女剣士の、誰にも語られることのない始まりの瞬間であった。





おわり







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