『マリアさまはとらいあんぐる 〜2nd〜』



第67話 「明かされる過去とその真意」






何の障害物も一切ないフロアで、恭也はこちらへと駆けて来る海透を待ち構える。
海透が振るってきた斬撃を恭也は軽く受け流し、そのまま海透へと斬り付ける。
恭也の斬撃を読んでいたのか、海透は難なくそれを軽く躱すと再び恭也へと斬り掛かる。
その攻撃を身を横へと捻って躱すと、恭也はそのまま海透の胴へと横凪に小太刀を振るう。
しかし、その攻撃も事前に読まれていたのか、いつの間にか引き戻された刀で弾かれる。
そこへ海透の蹴りが飛び、恭也はその足を掴んで刃を突き立てる、掛引きと呼ばれる御神の基本技を出そうとするが、
恭也の手が伸びると同時に海透は足を引っ込め、代わりに伸びた恭也の腕へと刃が迫る。
腕を引っ込めながら、恭也は手首に仕込んであった飛針を投げる。
海透の顔目掛けて飛んでいくはずだった飛針は、しかし何もない空間を飛んで行く。
飛針が投げられるとほぼ同時、海透はしゃがみ込み、恭也へと斬撃を放っている。
それを小太刀で弾き、距離を取るように後ろへと跳ぶ。
同時に飛針を牽制として投げるが、既にそこには海透の姿は無く、またしても飛針が空を切る。
恭也の着地に合わせるように、海透の姿がすぐ横にあり、そのまま刀を突き出してくる。
どうやら海透は、恭也が床を蹴ると同時に、その着地地点まで同じように跳んだらしい。
突き出される切先を躱すと恭也は蹴りを放つ。
その蹴りを同じく蹴りで弾くと、恭也と海透は全く同時に刃を振るう。
左右対称に殆ど同じ動きで両者の刃がぶつかり合う。
恭也の攻撃を海透は刀で弾き、時には躱して、その隙を付いて攻撃を繰り出す。
それを同じように弾き、躱ししながら、恭也は何故か違和感のようなものを感じていた。



悠花はまたしても軽やかに地面を蹴ると美由希へと迫る。
目で追える動きのはずなのに、美由希は容易く接近を許してしまう。
悠花が左手に握った刀が連続して振るわれる。
美由希はそれを弾きながら、悠花の右手にも注意を払う。
と、不意にその右手が動き、美由希の左肩へと突きを繰り出す。
右側へは悠花の左の刀が、左側へは同様に悠花の右の刀が進路を塞いでいるため、美由希は後ろへと跳ぶ。
恐らくこちらへと追随してくるであろう悠花を迎え撃つため、着地と同時に再び前へと跳ぶために必要最低限だけ下がる。
しかし、完全に見切ったと思っていた悠花の間合いが伸び、美由希へと迫る。
何とか体を半身にして掠らせる程度で押さえると、美由希は無理な態勢ながらも前へと出る。
美由希の小太刀と悠花の刀がぶつかる。
美由希は左右の小太刀を使い、悠花へと攻撃を加える。
対する悠花も右の刀を引き戻し、両の刀で応戦する。
互いに刃を交えながら、美由希は悠花の刀の長さが左右で違う事に気付く。
右に握る刀の方が左の刀よりも長く、左の刀ばかりを見ていたため、さっきの攻撃の間合いを見誤った事に今更ながらも気付く。
思わず脳裏に浮ぶ苦い顔をして注意してくる恭也の残像を振り払い、反省するのは後と心の中で呟くと美由希は更に速度を上げる。
先程よりも更に速く鋭い斬撃を放ってくる美由希に、悠花は僅かに表情を変化させるが、それでも何とかそれらの攻撃も防いでみせる。
一方、攻勢に転じて押し始めた美由希だったが、冷静にその結果を見ていた。
致命傷は愚か、掠る事さえしないのである。
その名の如く、まるで一枚の羽を相手にしているように、自分の攻撃が全て軽く流されて行く感覚に美由希は戸惑う。
既に何十にも及ぶ斬撃を放ち、これもまた軽くいなされると、美由希は上半身を横へと倒し、小太刀の切先を地面へと突き立てる。
そのまま腕を前へと振るい、小太刀を下から上へと斬り上げる。
それにより、小太刀によって抉られた土塊が悠花の視界を防ぐ。
同時に逆側の手から飛針を投げ、神速へと踏み込む。
色のない神速の世界で美由希は悠花へと小太刀を振るう。
土塊によって視界を奪い、飛針に反応して何らかの動きを見せた所へ神速からの斬撃。
止まったようにゆっくりと動く悠花へと小太刀を向ける。
しかし、悠花はその美由希の動きが見えているのか、小太刀に反応するように動く。
それだけではなく、その動きが神速にいる美由希と全く同じ速さで。
悠花は美由希の攻撃を躱すと、地面を蹴って距離を取る。
同時に神速の領域から二人共抜け出す。
美由希は驚愕を隠しもせずに悠花を見遣る。

「神速と同じ技!?」

驚く美由希に対し、悠花は冷静に返す。

「神速って言うんですか」

「……御神流ではそう言います。
 天羽双剣流では何て名前なのかは知りませんけれど」

内心の動揺を押さえ込むと、努めて平静に応える。
それに対し、悠花は僅かに首を傾げた後に横へと振る。

「天羽双剣流には、こんな技はありません」

「え、でも…」

「これは、いつの間にか出来るようになっていたんです。
 何度も実戦を繰り返しているうちに…。
 初めは、極度に集中した時におかしな感覚を感じる程度だったんですけれど…。
 ある日、不意を付かれて銃口を向けられた時に、急に周りの感覚がぼやけて、気が付いたら出来ていました。
 その後も何度か同じような感覚が襲ってきて、いつの間にか自由に使えるようになってました」

その言葉に改めて驚愕しつつも、美由希はすぐに思考を切り替える。
つまりは、悠花も神速の領域で動けるという事だと。
そこへ、悠花が地を蹴り、攻めて来る。
美由希はそれを迎え撃たず、自らも地を蹴り前へと進み出る。
互いに高速で移動をしながら、刃を振るい、相手のソレを弾き、また離れるといった事を繰り返す。
決して狭くはない更地を、風のように所狭しと駆け回り、交差して刃をぶつけ合う。
二つの風が、僅かな月明りの下、激しく交わる。



お互いに動きを止めて対峙した美沙斗とリノアは、今も相手の出方を窺うように動かずにただ互いをその瞳に映し出す。
遠くに美由希と悠花のであろう剣戟の音を聞きながら。
決して長くはない時間だが、二人の頬に汗が伝い、ゆっくりと落ちる。
瞬間、それまで一向に動く気配を見せなかった二人が全く同時に動き出す。
先に攻撃を仕掛けたのは美沙斗で、小太刀を横へと凪ぐ。
それを美沙斗の頭上よりも高くジャンプして躱すと、リノアはその長刀を頭上へと掲げ持ち、美沙斗目掛けて振り下ろす。
リノアの長刀が美沙斗を捉えるよりも速く、美沙斗の姿がその場から掻き消え、地面に長刀が振り下ろされる。
大きな音と土煙が舞う中、リノアの背後に周った美沙斗の小太刀がリノアへと迫る。
リノアは前方へと跳躍するように身を投げ出してそれを躱すと、空中で上下逆さになった状態で長刀を横へと振るう。
それを屈んで躱すと、美沙斗はリノアの身体が空中にあるうちに小太刀を突き出す。
空中で思うように動けないリノアだったが、それを鞘で弾くと空を切った長刀を引き戻して美沙斗へと突き出す。
リノアの突きを跳び退って躱す美沙斗を一瞥すると、リノアはそのまま長刀を地面へと突き刺し、そのまま柄の上へと着地する。
リノアが初めに着地しようとしていた地点に、反瞬送れて飛針が突き刺さる。
それを見て口の端を軽く持ち上げると、リノアは地面へと降り立ち、すぐさま美沙斗との距離を詰める。
お互いの距離を詰めると今度はリノアから攻撃を仕掛ける。
リノアの長刀が空を切り裂いて美沙斗へと迫る。
美沙斗はそれを受け流し、リノアへと小太刀を振るう。
それを鞘で弾いたリノアは長刀を両手で持ち、上半身を左へと捻るようにして切先を下に構える。
美沙斗が間合いへと踏み込んだ瞬間、足と腰を回転させ、上半身を戻すようにして長刀を振るう。
今まで以上の速さで迫る斬撃だったが、美沙斗は間合いに入った瞬間に不吉な感じを受け、その勘を信じて後ろへと下がっていた。
美沙斗の眼前を刃が通り過ぎると、美沙斗はすぐにリノアへと向う。
互いに刃をぶつけ合う事数合、またしてもお互いに跳び退く。

「…さすがに戦い慣れしているな」

感心したように呟くリノアに対し、美沙斗も静かな声で返す。

「そっちもね。
 このまま続けたら、どっちが勝つのかは分からないと思うけれど、この辺で終わりにするって言うのは無いのかな?」

「…それはない」

「貴女ほどの人が、何故、あんな男の下に居るんだい?」

「…初めはある理由からだった。龍から身を隠せる組織が他に無かったから」

「龍から?」

美沙斗の問い掛けにリノアは一つ頷く。

「ああ。知っているだろうが、私は龍の連中には目を付けられていたからね。
 幾つものアジトを潰されて、あいつらも流石に目障りになったんだろう。その追跡がしつこくなってね。
 暫らくは身を潜め様と思った訳さ」

リノアの言葉に美沙斗は頷くと、更に問い掛ける。

「なら尚更、最早壊滅寸前と言っても良い邃にもう居る理由はないんじゃないのかい?」

「初めは、って言っただろう。今、この組織に居るのは別の理由が出来たからさ」

リノアをじっと見詰め、その先をただ待つ。
しかし、リノアはそれには答えるつもりがないのか、ただ黙ったままだった。
それは口にするのを否定しているというよりも、どう言うか迷っているに見え、美沙斗はただ黙って待つ。
やがて、ゆっくりとリノアが口を開く。

「私の家もある剣術を伝えていたんだ。だが、その使い手は今は居ない。
 龍によって滅ぼされたからね。両親も、兄も妹もね。そして、もし妹が生きていたら、あの子と同じぐらいの年なんだ」

そのあの子が悠花を指しているという事は、美沙斗にもすぐに理解できた。
だから、ただ黙って先を聞く。

「妹もとても優しい子でね。剣術なんて全然、出来なくて…。そもそも、誰かと争うって事自体、苦手な子だったから。
 本当にあの子と一緒なんだよ。でも、あの子はあの宗司の奴の所為で…。
 アンタなら、ツインエッジって名を聞いた事ぐらいあるだろう」

リノアの言葉に美沙斗は僅かに眉を顰める。
その名には聞き覚えがあったからだ。
そんな美沙斗の反応を見て、リノアは微かに嘲笑を浮かべる。

「アンタも見ただろう。あの子が戦う前にやっていた事を。ああしないと闘えないぐらい、あの子は本当は優しい子なんだよ。
 なのに、ああなった状態の事をあの子は覚えているんだ。
 だから、せめてあの子の近くに居て支えてあげたいってね。柄にもない事を思ってしまって訳」

「だったら、あの子と一緒に逃げるという手はなかったのな」

「無理さ。あの子は自分を拾ってくれたあの宗司に恩返ししようって思ってるんだから。
 私に言わせれば、ただの気紛れか、何かの企みがあってだとは思うんだけれど、あの子にとっては大恩みたいだからね。
 人を疑わないというか…。
 だから、私がこの戦いを止める時は、アンタに負けた時か、あの子が負けた時、そのどちらかだけさ」

「…そう。決意は堅そうだね。なら、私も遠慮はしない」

「それはこっちもだ」

リノアと美沙斗は再び獲物を構え、相手を鋭い眼差しで見詰める。
既に言葉による決着は無くなり、ただ相手を倒すという一点に集中していくのだった。



恭也は海透から距離を開けると射抜の構えを取る。
それを見た海透は、動きを止めてただ静かにそれを見詰める。
そんな海透を不審に思いながらも恭也は射抜を放つ。
自分に迫ってくる刃を前にしても、海透はまだ動かず、ただじっと構える。
そして、恭也が自身の間合いへと踏み込んだ瞬間、ようやく動きを見せる。
海透は刀を掲げると、同じく突きを繰り出す。
海透の放った一撃は、その切先を恭也の小太刀の切先へと寸分狂わずにぶつかり、
突きを繰り出した状態で力が均衡して、お互いの動きが止まる。
恭也も射抜からの派生へと転じる事が出来ず、少しでも力の向きがずれたらすれ違うという状態で均衡する。
このまま射抜で海透の太刀を貫く事を諦めた恭也は後ろへと跳ぶ。
同時に海透も同じ事を考えたのか、後ろへと跳躍を見せていた。
両者共、着地と同時に地を蹴り間合いを詰めに掛かる。
海透の刃を掻い潜り、恭也の小太刀が海透へと襲い掛かるが、それは引き戻された刀によって弾かれる。
弾かれた力をそのままに、逆側からの斬撃へと繋げるが、これもまた同じように海透の刀が待ち構えており、弾かれる。
右手で小太刀を振るいながら、左手で鋼糸を伸ばせば、鋼糸を断ち切りながら、小太刀の前へと刀を突き出して斬撃を弾く。
弾かれた小太刀を引き戻しつつ、飛針を放ち、斬撃を放つ。
しかし、既に飛針の射軸上には海透の姿はなく、斬撃はまたしても弾かれる。
何十回にも及ぶ斬り結びを繰り返し、両者は何度目にかなる距離を開けての対峙をする。
海透を前に見据えたまま、恭也は心の内でやはりという思いを沸き起こらせる。
よくは分からないが、闘い始めてからずっと、恭也は違和感を感じていた。
その正体が何なのかは分からないが、それを掴むためにどうするのかを考え始める。
そんな恭也の考えを知ってか知らずか、海透は変わらず、ただ無表情に恭也と対峙していた。





つづく




<あとがき>

さて、海透の戦いがやっと登場〜。
美姫 「恭也の感じる違和感って?」
それは、次回以降〜。
今回は、リノアが邃にいる理由。
美姫 「へ〜、そんな理由が」
うんうん。そういう訳なんだよ。
美姫 「で、次回も戦闘ね」
おう。って、戦闘シーンは苦手だから、もう書き難い、書き難い。
美姫 「ぼやく暇に、さっさと書きなさい!」
了解っす!
美姫 「それじゃあ、次回までごきげんよう」





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