『マリアさまはとらいあんぐる』



エピローグ 「お返しに愛を込めて」






「恭也くん、ちょっと待った」

突然呼び止められ、恭也は振り返る。
そこには、笑みを浮かべた聖が立っていた。
聖は恭也が立ち止まったのを見ると、ゆっくりとした足取りで恭也の元へと近づく。
それを見た美由希は、恭也へと向こうに行ってるねと言うと、二人から離れる。
そんな美由希の気遣いに、聖は軽く手を上げて感謝の意を示すと、恭也へと向き直る。

「どうしたんですか、聖さん」

「ん、ちょっと忘れてた事があったからね」

「忘れていた事、ですか」

「そういうこと」

何の事か分からず、首を傾げる恭也に聖が話し始める。

「まだあの時のチョコのお礼を貰ってないからね」

「……そうでしたね。その為にも、また戻ってこないといけませんね」

聖の言葉に恭也は笑みを零しつつ答える。

「とりあえず、今度会う時には、その口調を改めてもらおうかな」

「ええ。今度会う時には」

恭也の返答を聞き、聖は満足そうに頷く。
その時、ホームにアナウンスが流れ、列車が入ってくる。
美由希は先に中へと入り、それを見てから恭也も乗り込む。
扉の前で振り返り、何か言おうとするよりも先に、聖が話し掛ける。

「そうだね、チョコのお礼を少しだけ今、返してもらおうかな?」

「別に構いませんが、何もあげる物なんて…」

恭也の言葉を口に人差し指を当てて遮ると、聖は笑顔で言う。

「あるじゃない。とっておきのものが」

そう言うと聖は、まだ不思議そうな顔をしている恭也の唇を奪うのだった。
突然の出来事に目を白黒させている恭也から唇を離すと、聖は悪戯が成功した子供のように無邪気に笑う。

「ははは。そんなに驚いた恭也くんの顔は初めてだね。これはお返しでもあるけど、お呪いでもあるからね」

「お呪い……ですか」

恭也はそっと自らの唇に指先で触れ、先程の感触を思い出して赤面する。
それを楽しそうに眺めつつ、聖は頷く。

「そう。さっきの約束を忘れないため。そして、それまで他の子に目が向かないためのね。
 効果は絶大だと思うけどね」

暫らく聖を茫然と見ていた恭也だったが、笑みを浮かべると力強く頷く。

「そうですね。効果抜群ですよ」

「そう。それは良かった。じゃあ、元気でね」

「はい、聖さんも」

恭也がそう告げるとほぼ同時に、扉が閉まる。
お互いに扉越しに一度だけ手を合わせると、どちらともなく背を向ける。
恭也は座席へと、聖は駅の外へと向って。
次に会う日を心待ちにしながら、一時の別れを終えるのだった。





おわり




<あとがき>

聖さまエンドです。
美姫 「今回のキーワードは?」
はい、今回のワードは『話』です。
美姫 「ふんふん。と、じゃあまたね」





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