『incomprehensible ex libris』

   第六章







9月20日(水)
 ──風芽丘学園、3年G組──

教室の扉が開き、一人の男子生徒──恭也──が教室の中へと入ってくる。
恭也は教室を一瞥した後、

「ふむ。どうやらまだ集会をやっているらしいな」

誰もいない教室を見て、そう結論付けるとしばらく考え、踵を返し廊下へと出る。
しかし、その向かう先は体育館の方ではなく、屋上へと続く階段である。
屋上へと出た恭也は持っていた鞄を地面に放り投げ、それを枕代わりに昼寝(朝寝?)を決め込む。
趣味、特技が寝る事と言うだけあって、寝転がって数分ですでに眠りの世界へと旅立つ。

・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・


それから数分が経過した頃、突然目を開き、身体を起こすと辺りを見回す。

(今、一瞬だが空気が震えたような気がする。・・・・・・・・・・・・気のせいか?)

神経を研ぎ澄まし、注意深く確認をしてみるが、先程感じたと思ったような事も感じず、気のせいだと結論付ける。

(そろそろ、集会も終わるだろうから、教室に戻るとするか)

恭也は時間を確認して、立ち上がると教室へと向って歩いていく。



  ◇◇◇



時間を少し遡って、体育館では・・・・・・。

「まーだ見つからないのー。いい加減、疲れた〜」

エイルがラルフに文句を言う。もっとも、ラルフの方はエイルを全く相手にせず、黙々と作業をしていく。

「うわー、無視ですか。ったく、少しは返事ぐらいしなさいよ」

「・・・今までとは数が違うんだ。喋ってる暇があったら、作業をしたらどうだ」

「やっと喋ったと思ったら、今度は説教ですか。まあ、いいわ。確かにこのままだと時間が掛かりそうだし。
 作戦を第二段階に進めときますか。ヤン!例の物を展開させて」

「ウヒヒヒヒ、りょ〜かいっ。んじゃ、俺はちょっくら出かけてくるぜ〜」

ヤンはアタッシュケース二つを手に体育館を出て行く。
それを横目で確認しながら、エイルは中断していた作業を再開させる。



  ◇◇◇



9月20日(水)
 ──風芽丘学園、3年G組──

「まだ、集会をやっているのか」

まだ、誰一人として戻って来ていない教室を見渡して、恭也はそう一人ごちる。

「・・・集会が終わるまで、大人しく席で寝ているとするか」

恭也は窓際にある自分の席へと向う。鞄を置き、席に着こうとした所で窓から一瞬だけ見えた光景に疑問を感じる。

(何だ?あの白い箱状の物は)

目についた物体をもっとよく見ようと窓に近づく。
その時、教室のドアが開き、一人の男が入ってくる。

「まだ、こんな所に人がいたとはな。おい、お前、何故ここにいるんだ?」

「・・・すみませんが、日本語で話してもらえませんか?」

「OK、OK。これで、いいか?」

恭也の問いかけに男──ヤン──は片言の日本語で話し出す。

「ありがとうございます。で、あなたは誰ですか?新しい先生か何かですか?」

「ワタシですか?ワタシは、コウイウモノです!」

言いながら、隠し待っていたナイフを左手に握り、恭也に切りかかる。
それを横に身体を動かして躱すと、そのまま相手の左手首を掴み投げ飛ばす。

「お前、何者だ?」

恭也の問いかけにヤンは無言のまま、唇を吊り上げ立ち上がる。

「こんなトコロで、オマエみたいなオモシロイヤツにアエルとは、おもわなかったデス」

「俺は面白くないがな」

「とりあえず、シンデクダサイ」

ヤンは左手のナイフを振り回しながら、恭也に突っ込んでいく。恭也はそれらを全て避けながら、反撃の機会を窺う。

「エエイ、ちょこまかと、うっとーしいデス」

なかなか当てることができず、苛立ちも顕わに左手を振りかぶる。その隙を恭也は見逃さずに、ヤンの腹を蹴りつける。
恭也の蹴りを喰らったヤンはそのまま、教室の前まで吹っ飛び、壁に叩きつけられる。

「ぐっ、グググゥ。マダマダデス」

腹を押さえ、壁に寄り掛かりながらもゆっくりと立ち上がる。

「オマエ、ただのガクセイじゃ、ナイデスネ。あまくみてマシタ。でも、コレデおしまいデス」

そう言いながら、懐に入れた左手を出す。その手には拳銃が握られていた。

「これでリョウテリョウアシをウチヌイタあと、じっくりといたぶってヤリマス」

ヤンの指が拳銃の引き金を引こうと指に力を入れた瞬間、恭也は身体を前方に沈めながら、右手を振る。
パァンと乾いた音を上げ、発砲音が教室に響き、そのすぐ後にヤンの口から苦痛の声が上がる。

「ぐがっ」

恭也の右手から放たれた飛針が、ヤンの左手に刺さり見当違いの方向に発砲、そして拳銃はそのままヤンの手から離れ床に落ちる。
その間に距離をつめた恭也は、ヤンの顎を小刀の柄で殴り昏倒させる。

「ふぅー、一体何だったんだ?」

念のためにヤンの両手両足を鋼糸で縛り、逃げられないようにする。

「よく分からんが、何かが起こっているのは間違いないみたいだな・・・・・・」

鞄を開け、そこから武器となる物を取り出し、装備していく。
小刀、飛針、鋼糸と一通り身に付けていく中で、腰にわずかばかりの寂しさを感じる。

「一応、いかなる場合でもすぐに闘えるだけの準備はしてあるが、小太刀だけはな・・・・・・。こればかりは仕方がないな」

流石に小太刀を学校に持ってきているはずもなく、恭也は少し苦笑しながら、そう零す。

(待てよ。確か今朝、美由希が今日の学校帰りに井関さんの所に研ぎに出すと言ってたな。
 美由希のクラスは、確か一年A組だったな)

考えを纏めると、恭也は美由希の教室へと向った。



  ◇◇◇



──体育館──

少しざわめく体育館に微かに乾いた音が聞こえてくる。
途端、黙々と本人たち以外には意味の分からない作業を繰り返し行っていたエイルたちが、一斉に音がしたと思われる方を見る。

「ラルフ。今の音なんだと思う?」

「お前の思った通りの音だろうな」

「っっったく、あの馬鹿は!何を考えてんのよ!ラルフ、何であんな奴がいるのよ」

「仕方がないだろう。あいつは性格はともかく、爆破に関してはトップクラスだ。この計画を進める上で必要なんだからな」

「その計画が失敗したら元も子もないでしょうがっ!」

「それは問題ない。万が一の対応はしてあるだろうが。それよりも・・・・・・」

「それよりも何よ!」

エイルはいきなり黙ってしまったライルに続きを促す。

「ああ・・・。幾らあいつでも無意味に撃つはずがないと思ってな」

「つまり、校舎に誰か人がいるって事?」

「多分な。それも、そこそこ腕の立つ奴だろうな」

「理由は?」

「単純な事だ。あいつはナイフで相手を甚振る事を何よりも楽しむ。
 だから、銃を使用するのは止めを刺す時や脅す時、もしくは・・・かなり追い詰められた時だ」

「だったら、止めを刺したか脅してるかじゃないの?
 一介の教師か生徒に追い詰められるなんて事、いくらあいつでもありえないでしょ」

「ミハイル、ドイル。一応、念の為に見てきてくれ」

「「了解」」

「ちょ、ちょっとラルフ。なに勝手に指示してんのよ!」

「起こり得るあらゆる事態を想定する必要がある」

「だからってね・・・」

「こっちの作業は俺とお前でもできるだろう。さっさとやらないと時間がなくなるぞ」

ラルフはそれっきり黙りこみ、再び作業を始める。その背中に向ってアッカンベーをやりながら、中指を立てるとエイルも作業に戻る。
そんなやり取りが眼前で行われていても、その場にいる者でエイルたちの言葉を理解している者はいなかった。





<to be continued.>



<あとがき>

第六章完成!
美姫 「なんかこの作品久々って気がするわね」
そうだな・・・・・・大体1ヶ月ぶりかな?
美姫 「うわー、そんなになるんだ」
うむ。間に色々とあったからな。
美姫 「って言うか、長編多すぎ」
いや、それはそうなんだけど・・・・・・。でもでも・・・・・・。
美姫 「また長編ネタ考えてるんでしょ?」
はははは・・・・・・。そ、それは戯言/雑記の所で書くから・・・。
美姫 「そうね。ここではいいわ。ところで、第七章はすぐに出来るの?」
うーん。どうだろう。と、言うのも次の第七章あたりで一旦、舞台をイギリスに移そうかな〜とか考えてたりして。
美姫 「ああ、読子たちを出すのね。そうよねー、クロスのはずなのに、出てくるのはとらハキャラばっかりだもんね」
そ、それは展開上、仕方がないかと・・・。でも、こっちの件が片付くまでは海鳴を舞台にしたままにするか、とか。
美姫 「それで悩んでるの?」
おう!まあ、メインはとらハのつもりだから、これはこれでいいかなとか思ったりもしてるんだけどね。
ただ、あまりにもR.O.Dの方が出てきてないんでどうしようかな〜、と思ったわけで。
美姫 「まあそれは無い脳みそを懸命に絞って考えて。出来る限り早くね」
何か馬鹿にされてる気がするが・・・。
美姫 「気のせい、気のせい。じゃあ、今回はこのへんで」
また次回!






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