『涼宮ハルヒの挑戦、高町恭也の消失』






第十話 不思議探索再び





はい、何だかんだで時間の流れを止めることができない以上、嫌だ嫌だと思った所でその時ってぇのはやって来る。
昨日の花見はまあまあ良かったが、今日の不思議探索はどうなんだろうね。
ぶつくさと文句を言いつつ、いつもの集合場所へと着てみれば、これまたいつものごとく俺が最後かよ。
例によって一団の先頭に立ち、腕を組んで偉そうに胸を張っているハルヒは俺の姿を見るなり何やら喚いている。
結構大きいな声なのに加え、今日は春休み最初の日曜日ということもあってか、周辺には結構な人がいる。
そんな中、大声で呼ばれる俺の身にもなってくれ。

「そんなの知らないわよ。大体、遅刻するアンタが悪いんでしょう」

へいへい、何を言っても無駄だろうから何も言わないけれど、遅刻はしてないんだよ。
既に諦めの境地でハルヒの言葉を聞いている振りをして、実際には右から左へと聞き流す。
にしても、昨日の今日でよくこれだけ元気なもんだな。
朝比奈さんの方は流石に少し疲れたような顔をしていらっしゃるが、こちらも大丈夫そうだな。
まったく昨日は途中から大変だったぜ。
何が大変だったかって、誰の所為って訳じゃないんだけどな。
まあ、強いて言うなら飲み物をもっと買い込まなかった俺たちになるのか。
大体、この時点で察しの良い人なら気づくとは思うが、その通りである。
飲み物がなくなり、朝比奈さんや高町さんが買い出しに行ってくれた。
そこまでは良かったんだが、朝比奈さんが間違って買ってきた幾つかの缶ジュースが問題だったんだよな。



「あら、これ美味しい」

「そうですか、良かったです。
 それ、他のよりもちょっと高かったんですよ。こういうのあまりよく知らないから、高い方が美味しいかなって」

言いつつ朝比奈さんもそのジュースを口にする。
おいおいハルヒよ。いくら美味いからと言って、そんなバカ飲みせんでも良いだろう。

「キョン、そこの肉そろそろ良いんじゃないか」

「あ、そうですね。これ以上は焼き過ぎだ。うん、どうした長門。
 もしかして欲しいのか?」

ぱっと鉄板の上を見る限り、今食べごろなのはこの肉だけみたいだし、これはあげよう。
小さく礼を言って受け皿をこちらに差し出す長門へと肉を渡してやる。
古泉の奴がせっせと肉や野菜を並べているのを横目に、俺はほどよく焼けた野菜を取り、少し妹の皿にも投下する。
頬を膨らませて講義する妹を宥めすかし、更に食欲を満たすべく古泉の奴を手伝ってやる。
そうこうして数度焼いては食べ、食べては焼きを繰り返していたのだが、
ふとハルヒの奴がやけに静かだなと思い至り、半分嫌々ながらもハルヒの姿を探す。
……目が合ってしまった。しかし、なぜか妙に目が据わってないか。思わず視線を逸らしたのが悪かったのか、
結構な距離があったにも関わらずそれを目聡く認識するなり鬼の形相で向かってきやがる。

「こ〜ら、キョン!」

って、行き成り胸倉を掴むな。

「って、お前酒臭いぞ!」

前に飲んで懲りたんじゃなかったのか!?
いやいや、それ以前にいつ飲んだ。

「ふえぇぇぇぇ。目が、目が回ってます〜。
 あははは、ぐるぐるですよ〜。恭也さんが一人、二人、三人、たくさんいますぅぅ」

ふらふらと頼りない足取りでこちらへと向かってくる朝比奈さんであったが、思った通り途中で見事に転ばれる。
それを受け止めた高町さんを見上げ、典型的な酔っている証拠を口にする。

「どうやら、みくるさんが買ってきたジュースがお酒だったみたいだな」

「そのようですね。しかも、お二方ともかなり飲まれているようですね」

二人が飲んでいた缶を見て古泉が困ったとばかりに肩を竦めれば、その後ろで鶴屋さんが可笑しそうに笑っている。

「にゃははは、てっきり分かってて飲んでいるんだと思ってさ。
 けれど、まさか気付かずに飲んできたとは。これは悪いことをしてしまったさね。
 やっぱり止めるべきだったかな?」

分かっていても止めなかった事を確信させるような笑顔で言われても、何と返答すれば良いのやら。
せめて酔うのなら、俺に芸をさせる前に酔って欲しかった。
そうすれば、俺もクリスマスに続きあんな目にあわなくても良かったというのに。
思わず愚痴が出そうになるも胸中で押さえ込み、やれやれとばかりに溜め息を吐く。
いや、実際には吐く前に襟首を更に強く掴まれ、逆に息を吸う羽目になっちまったが。
とりあえず、苦しいぞハルヒ。

「アンタね、一番偉い団長さまが話をしてあげているんだから、ちゃんと聞いてなさいよね。
 そんなんだからアンタはいつまで経っても……」

うわっ! こっちも典型的な絡み酒かよ!
酔ってまでろくな目に遭わされないんじゃ、本当に報われないぜ。
助けを求めるべく周囲を見渡せば、妹の奴は暢気に食事を続けているし、
古泉の奴は後は任せたとばかりに爽やかな笑み一つ残して給仕に戻りやがる。
朝比奈さんも寄っているし、長門はまだまだ食べ足りないらしく焼きあがるのをじっと待っている。
鶴屋さんへと目を向ければ……。

「にゃははは。それじゃあ、あたしもそろそろ食べようかね。
 妹ちゃん、隣失礼するにょろよ」

見事にスルーですか。
しかし、今までならここで諦めていた俺だが、今回は違うぞ。
とは言え、俺自身が何かする訳ではないんだがな。
そう、今の俺には高町さんという非常に頼りになる半分ぐらい普通じゃないけれども常識人が味方にいるのだ!
頼りにしてます、高町さん!
ハルヒに更に絡まれて苦しい中、期待を多分に含んだ視線を投げる。だが、残念かな。
俺と同じように地面に座り込んだ高町さんは、非常に申し訳なさそうにこちらを見るだけであった。
動きたくても動けない。俺とある意味まったく同じ状況に。
俺はハルヒに押さえつけられて、片や高町さんはいつの間にか眠ってしまわれた朝比奈さんがその膝に頭を乗せ、
あまつさえ、高町さんの手を抱き枕のごとく掴んで。
はっきり言おう、代わってください。悪魔に魂を売り渡してでも、代わって欲しいと思ってしまった。
こっちは胸倉を掴まれ、延々と聞きたくもないハルヒの文句を目の前で聞かされ続けるという地獄。
しかも、いつの間にか俺の腹の上にがっちりと腰を下ろし、まさにマウントポジションを取られてしまっている。
対して向こうは麗しき朝比奈さんに抱きつかれ、しかも寝顔付き。
もはや、誰に聞いたところで俺と同じ意見しか出てこないだろう。
あっちの方が良いと。

「何処見てるのよ! 全くアンタはすぐに女の子を見るのね。
 谷口のアホと同じじゃない。ああ、嘆かわしいわ! こんな変態が我が団にいるなんて!」

滅茶苦茶な言われようだな。勿論、谷口じゃなくて俺が、だ。
そして、またしても続くハルヒの文句責め。しかし、まあ、よくこれだけ次から次へと出てくるもんだ。
中にはあまり脈絡のないような話もあるような気がするけれどな。
まあ、酔っ払いの戯言なんてそんなもんかもしれないが。
結局の所、小一時間ばかり俺も高町さんも現状維持するしかなかったという訳だが。
小一時間後、そろそろお開きという段になって、ようやく俺は解放されるのかと喜びに浸ったのも束の間、
誰もこちらを気にかける様子を見せもしない。
まあ、朝比奈さんが気になるのは分かるけれど、こっちはこっちで何とかして欲しいんだが。
鶴屋さんが朝比奈さんを起こし、まだ寝ぼけているらしい所へ高町さんが送って行こうと申し出ている。
確かにまだ寝ぼけているみたいだし、その上酔っているからな。

「ふぇ〜おうちですか〜? それは未来の……これ以上は禁則事項ですぅぅ」

いやいや、朝比奈さん。誰も未来の家に送るなんて言ってませんし、物理的に無理ですから。
今、ここで住んでいる家という意味ですよ。とは流石に口にできず、
むしろ今の会話を聞いたハルヒがどんな反応を見せるのか恐々と視線を向ければ、
そこに般若の如く目を吊り上げたハルヒがいた。

「どうして私の家を教えなければいけないのよ!
 このバカキョン! 一体、何をするつもりよ!」

誰もそんな事は言ってない。
ああ、そう言えばこいつも酔ってたんだな。
朝比奈さんへの質問を自分のものとでも思ったのか、都合よく未来云々は聞こえていなかったのか、
こちらを睨み付けながらガクガクと体を揺すぶられる。
酔ってようがいまいが、ハルヒはハルヒという事か。
諦めにも似た嘆息を吐き、どうでも良いから誰かこの状況から助けてくれと天を仰ぐ俺であったとさ。
結局の所、酔った二人はそのまま鶴屋さんの家に泊まる事となり、酔った二人を高町さんと二人で部屋まで運び、
後はやっておくと言う鶴屋さんのお言葉に甘えて、簡単な片付けだけ済ませると鶴屋家をお暇したのであった。



てっきり前みたいに二日酔いにでもなっているかと思ったのだが、そんな様子も全くないな。
とりあえず、このままでは埒が明かないと判断した古泉の言葉により俺たちは移動を開始する。
と言っても向かうのはいつもの喫茶店で、俺の奢りというのが既に決まっているパターンである。
後はここでくじを引いて探索メンバーを決める事になるんだろう。



席に着くなり注文するとハルヒの奴は早速とばかりに籤を作り出す。

「今日こそは異世界人を見つけるのよ。その為に探索範囲も広げるわよ。
 いつもよりも人数が増えたから、今日は三つに分かれましょう」

活きようよと六つの籤を作り、そこに番号を書いていく。
ほら、注文した品を持ってきたお姉さんの邪魔になるからちょっとは顔を上げろ。
俺の言葉など無視するハルヒに代わり、お姉さんに小さく頭を下げてハルヒの分を受け取る。

「キョン、取るんじゃないわよ」

誰が取るか! 顔を伏せているくせに絶妙なタイミングで発した言葉に思わず、すぐさま返してしまう。
いかんな、完全に習慣染みている。みろ、お姉さんも小さく笑っているじゃないか。
遠ざかるお姉さんの背中を見遣りつつ、顔を上げたハルヒの前に注文したもんを置いてやる。
その後、適当な話などをして、全員が飲み終えてそろそろ出るかという流れになると、
これまたいつものようにハルヒが籤を握った手を俺たちの前に差し出してくる。
出来れば、朝比奈さんか長門と一緒の方が良いもんだ。
同じ回るのなら、やっぱり女の子の方が良いからな。
この場合、ハルヒの奴は除外する。昨日の疲れもあるから、せめて最初だけはのんびりとしたいんだ。
長門なら図書館にでも行って、時間まで寝れるしな。朝比奈さんとなら、ゆっくり出来るだろう。
だが、ハルヒだけは駄目だ。こいつと組んだら、初っ端から飛ばしまくりだからな。
だから、この際贅沢は言わん。長門や朝比奈さんが無理でも、せめて高町さんか古泉の奴と組ませてくれ。
そう真摯に祈りを捧げて籤を引けば、書かれた数字は1。
後は他のメンバー次第なんだが……。固唾を飲んで他の面々を見れば、高町さんが2で朝比奈さんが3か。
ならば、残る二人のうちどちらでも良いから1、1、1をー!
確立で言えば3分の2でそう悪い賭けではないはずだ。
なのに、何で誰も1を引いていないんだろうな。
長門が2で古泉が3。神よ、つくづくアンタは俺が嫌いらしいな。
なんているのかどうかも分からない存在に文句を言った所で結果が変わるはずもなく、俺の相手はハルヒに決定である。

「十二時にまたここに集合よ! それじゃあ、行くわよキョン!」

「って、いきなり腕を引っ張るな! って、こける、こける!」

「何、情けないことを言ってるのよ! ほら、キリキリと歩きなさい!」

「って、お前、それは走るペースだろうが!」

「文句が多いわよ! ぐずぐずしてたら不思議が逃げるかもしれないでしょう!」

ハルヒの奴に腕を引っ張られながらも、俺たちはこうして不思議探索を開始する。
はぁぁ、今日もまた疲れそうだな。





つづく




<あとがき>

日曜日の不思議探索ツアー開始!
美姫 「今日こそは不思議な出来事に出会えるのかしら」
さてさて、どうなるやら。
美姫 「いよいよ後二話ね」
いやー、予定通りでびっくりだ。
美姫 「いやいや、驚かないでよ」
あははは。さて、それではまた次回で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」




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