『涼宮ハルヒの挑戦、高町恭也の消失』






第二話 高町さん、あなたもですか





さて、高町さんが俺たちの前に現れたのが昨日。
で、今は俺の部屋で眠っているはずなんだが……。
さて、どこに行ったのやら。
俺が朝目を覚ますと、そこには高町さんの姿は既になかった。
まあ俺自身、さっき妹の奴に叩き起こされた所だからな。
もうとっくに起きたといった所か。
とりあえず、着替えて下に降りるか。
降りていった俺を出迎えたのは、俺以上に兄妹らしく見える高町さんと妹のじゃれている姿であった。
いやはや、あっという間に懐いた妹はまあいつもの事だが、
やけに手馴れた様子で妹の世話をする高町さんは、本当に俺よりもそいつの兄のようだな。
羨ましくなんてないけれどな。
高町さんがその気なら、そんな奴はのし付けて上げますよ。
ってなもんだ。高町さんは俺の視線に気付いたのか、自分にも妹がいるからとそう口にする。
なるほど、それでですか。
とは言え、高町さんの妹さんだ。
俺の妹に比べればとても静かで可愛い子なんだろうな。
そんな言葉に高町さんは、俺とは違って明るい子です、と苦笑を見せながら言うが、その顔はどこか嬉しそうだった。
良いねー、妹を自慢できるなんて。

「はい、恭くん。キョンくんも」

俺はついでか。そう溢しつつ妹が目の前に置いてくれたコーヒーに手を伸ばす。
来た早々、高町さんが何も言わないのを良い事にすっかりとその呼び名がお気に召したらしい我が妹よ。
昨日も言ったと思うが、非常に紛らわしいので止めて欲しい。
せめて、これを機に俺をあだ名で呼ぶのを止めてくれ。
とまあ、そんな事を愚痴った所で今更変わるはずもなく、俺はかったるい身体に鞭を打ち、
登校すべく準備をするのだった。
馬鹿丁寧にうちの母親にお礼を述べる高町さんに、
好印象を抱きつつ俺にも見習うように言ってくる言葉を聞こえない振りをしてやり過ごし、
俺は高町さんを連れて長門のマンションへと向かう。
これから少しの間はすることもなく暇を持て余すかもしれませんが。

「いえ、お気になさらずに。適当にこの周辺を出歩いて時間を潰すことにするから。
 こちらこそご迷惑をお掛けすると思いますが」

何ともまあ、出来た人だろうか。本当に誰かさんに見習わせたいと思う事、これで何度目だまったく。
それにしても、元の世界から持ってきていたバック、小さい割には重そうだな。
一体何が入っているのか気にはなるが、何処かへ出かける所だったのかもな。
高町さんと世間話をしつつ、主にこっちの世界と向こうの世界の日常的な話だったが、
長門のマンションまで後少しという所で、古泉と朝比奈さんの姿が遠くに見えた。
どうして朝比奈さんとお前が一緒に来ているんだと恨めしげに睨みつつ、
どうせその近くで会ったという所なのは分かっているが、二人を待つ。
が運悪く、間違いなく古泉の日頃の行いだろう、うん。
兎も角、赤信号で立ち止まる二人。
その時、白いワゴンがやって来て、そのまま通過せずに朝比奈さんたちの前で急停止する。
あ、前にも何か似たような事があったなとデジャビュを感じるよりも早く、高町さんは急に走り出す。
それを見て、俺も前にあった事を思い出して走り出す。
って、はやっ! 高町さん、あなた一体100メートルを何秒で走ってますか。
インターハイでも充分に通用しそうな走りを見せる高町さんの背中が、当然の如くどんどん遠ざかる。
が、流石に高町さんのスピードを持ってしても距離が遠すぎた。
高町さんが辿り着く頃にはワゴンは発車していた。
古泉の奴は地面に倒れ込み、高町さんの手を取って立ち上がっている。
どうやら、攫われたのはまたしても朝比奈さんただお一人。
って、てめぇ、古泉。そこはお前が攫われておけよ。
とは流石に冗談でも言えないな。こんな奴でも何かあると困る。
勿論、俺じゃなくてハルヒの奴が煩いって事だぞ。いや、本当に。

「すいません、突然の事でしたので。
 一応、止めに入ったのですが、ご覧の通り、軽くあしらわれてしまいました」

軽く言うが、むざむざやられた事に多少の罪悪感を覗かせる。
そんな俺たちの真横に、これまた見慣れた一台のタクシーが止まる。
ああ、運転席と助手席にそれぞれ座っているのは新川さんに森さん。
この二人、古泉と同じ機関に所属する言うならば古泉のお仲間である。
高町さんに簡単に説明をし、俺たち三人は後部座席に乗り込む。
ドアが閉まるかどうかで車を発進させる新川さん。
森さんは珍しく厳しい眼差しを古泉へと向ける。

「あなたが付いていながら、むざむざ攫われるとは」

「いやはや、返す言葉もありません」

森さんに咎められ、古泉は肩を竦める。本当に反省しているのか、お前は。
今はそんな事を問い詰めている場合ではないな。何だって朝比奈さんがこうも狙われるんだ。

「いえ、今回の誘拐は朝比奈みくる本人というよりも、そちらの…」

言って高町さんを見る森さん。
どういう事だ? 高町さんに用があるのなら、何故朝比奈さんを攫う?
偶々近くに居たのが朝比奈さんだったからか?
そんな馬鹿な。それこそ可笑しいだろう。
目の前で朝比奈さんが攫われれば、逆に警戒しそうなもんだ。
だが、森さんの言葉に高町さんはすぐに答えを出したらしく、確信するような口調で尋ねる。

「つまり、一番非力な人を攫い、俺の身柄と交換しようとしたって事ですか」

「はい。勿論、その機会があったのなら、初めから高町さんを狙っていたでしょうね」

「それで、相手の正体や目的は?」

高町さんの問い掛けに、森さんは首を傾げる。

「どうして私にそれをお聞きになるんでしょうか?」

「そうですね。色々とありますが、一番は彼女が攫われてすぐに車で現場に来た事でしょうか。
 他にも攫った連中の目的が俺だと仰いましたよね」

「なるほど。古泉の話では我々の世界とそう違いはないという事でしたが、どうして」

……はぁ、なるほど。
いや、確かに高町さんの言う通りだ。
だが、俺はそこまで冷静に考える事はできなかったな。
知り合いに色々と変わった人が居るって話だったけれど、高町さんもひょっとして…。

「残念ながら、俺は普通の人間だ」

そう言って苦笑する高町さん。
まあ、それはそうだろうな。
今回はあくまでも異世界人であって、異世界の変わった人じゃないはずだ。
って、そんな場合じゃないと頭を振り、森さんに相手が誰なのか尋ねる。
また未来人なのか、それとも…。

「朝比奈みくるを攫ったのは、私たち機関と敵対するものです。
 彼らは涼宮ハルヒが起こした今回の事象と未来への影響を観測するために、
 本来通るはずの既定された道から、自分たちで新たな道を作ろうと画策したようです」

いや、意味が分からん。
それ以前に、もう高町さんの事を知っているのか。
大体、昨日の事だぞ。

「あちらにも独自の情報網があるのでしょう。その情報網から今回の件を知り、
 未来から指令を受けた朝比奈さんが高町さんを元の世界に帰そうとした事まで知り、
 その上で高町さんを元の世界に帰らせないために攫おうとした。
 まあ、そう言った所でしょうね」

おいおい。そんな事をして連中に何のメリットがあるってんだ?
まさか、あいつらもハルヒみたいに異世界人たちと遊びたいなんて言わないだろうな。

「さあ? そこまでは僕には分かりません。
 ですが、元々僕たち機関とは対立する立場の人たちですからね。
 涼宮さん=神ではないことを立証したいのか、それとも他の未来人から何らかの接触があったのか。
 それこそ数え上げたら色々と浮かびますよ」

確かにその通りだ。
と言うか、結局の原因はハルヒの奴に辿り着くわけか。
全く、何もしなくても騒ぎを起こすのは流石と言うべきなのか。
焦る心を誤魔化すようにそう呟く俺に、古泉の奴は肩を竦め、高町さんは静かに拳を握る。
自分の代わりに攫われたというのが許せないらしい。
とは言え、それは高町さんの所為でも何でもないですよ。
そもそも、人を攫う方が悪いわけで。
そう慰める俺の言葉を遮るように、新川さんが声を上げる。

「追いつきましたよ!」

後部座席から乗り出すようにして覗き込めば、前方には確かに白いワゴンが。
問題はどうやって捕まえるかだが、向こうもこちらには気付いているのだろう、やや速度を上げる。
それを追い越すようにこちらは更に速度を上げて、
朝っぱらのカーチェイスは交通量の少ない山へと向かって行く。
いい加減に諦めろと思う中、本当に周囲から人も居なくなった整備されていない道を走る二台。
不意に新川さんがアクセルを目一杯踏み込み、ワゴンを追い越す。
で、真中に座っていた俺はそのまま前へと身体を乗り出すことになったんだが。
速度を上げるなら上げるで、その前に一言ぐらいは欲しかった。
ともあれ、ワゴンを追い越した新川さんは今度はブレーキを力いっぱい踏む。
念のために言っておくと、今度は俺もちゃんと備えていたぞ。
背後からも急ブレーキが聞こえたことから察するに、ワゴンの方も止まったみたいだな。
俺が起き上がると同時に、高町さんは既に外。
って、行動が早い方だ。
俺もその後に続いて車外へと出てみれば、向こうも朝比奈さんを掴んだまま降りてくる。
運転手だけは車に残り、朝比奈さんを捕まえているのは前にも見たことのある女だった。
その他には厳つい顔の男が三人ほど。
どうやら、この中ではあの女がリーダーなのか、俺たち、いや正確には高町さんへと話し掛ける。

「初めまして」

女の言葉に高町さんは何も言わず、ただ無表情で女を見つめる。
礼儀正しい高町さんの事だから、挨拶を返すかと思ったが意外だな。
いや、相手は誘拐犯だ。それを考えればこれが普通か。
女の方も気にした素振りも見せず、高町さんへと話し掛けているし。

「できれば、そんな怖い顔をしないで欲しいのだけれど」

「元からこういう顔なんだ。気にしないでくれ」

「そう。それは勿体無いわね。そこそこいい顔立ちなのに。
 まあ、良いわ。用件は一つよ。あなたに元の世界に戻らずにこっちの世界で暮らして欲しいだけ。
 勿論、ただでとは言わないわ。必要な物は全てこちらで揃えるし、贅沢な暮らしと自由も保証するわよ」

連中の目的はやっぱり高町さんを元の世界へと戻さない事らしいな。
条件だけを聞けば良い提案ではある。あるが。

「断る。元の世界には家族や知り合いが居るんでな」

当たり前の事で、高町さんはきっぱりとその提案を跳ね除ける。
高町さんを帰さないことが、連中にとってどう得になるのかは知らないけれど、普通に考えれば断るよな。
だが、向こうもその答えは想定していたのか、今にも泣き出しそうな朝比奈さんを盾にもう一度問い掛ける。

「あなたが素直に条件を飲んでくれないと、このお嬢さんがどうなるか分からないわよ」

「ふぇぇっ!
 で、でも、高町さんは元の世界に戻さないといけないので、わ、わたしの事は気にしないでくださいぃ」

ああ何て健気なんですか、朝比奈さん。
とは言え、実際問題として朝比奈さんが向こうの手にあるのは痛いな。
連中の隙を付いて、何てのは正面に居る以上は無理っぽいし。
出来るのなら、新川さんや森さんがとっくに動いているだろうし。

「本来なら異世界人というのは存在していない世界ですからね。
 それが存在し、尚且つ子供でももうけようものなら朝比奈さんの知る未来とは食い違ってくる。
 それが狙いですか?」

不意に今まで黙っていた古泉がそう語り出すも、女はそれには答えずにただ高町さんを見続ける。
その口からどんな答えが出てくるのかを、人質を盾にしながら待っているという事か。

「古泉さんの話から察するに、俺に対し多少の危害は加える事は可能でも殺すことは出来ないという事ですね」

「ええ、そうね。でも、生きていれば良いという事にもなるわよ。
 私たちとしては穏便に済ましたいのだけれど。
 勿論、あなたが一緒に来てくれるのなら、こちらのお嬢さんは解放するわよ」

その言葉に目を細める高町さん。
自分の所為でとか思っているのかもしれないな。
とは言え、何か雰囲気が変わった気がするのは俺の気のせいか。
薄ら寒いものを感じるんだが。

「人質を取るような人の言葉を信じろと」

「信じてもらうしかないわね」

高町さんの言葉に女は余裕の表情で返すも、後ろの男はじれったそうに身をソワソワとさせている。
こりゃあ、次に断った瞬間にあの男たちを仕掛けてきそうだな。
嫌な汗を掻きつつ見つめる俺の耳に、高町さんの小さな声が聞こえる。

「少し下がって」

何をするのか分からないが、黙って数歩後ろに下がる。

「そこのあなた。動かないでもらいましょうか」

女の言葉に男たちの注意も俺に向かう。
ほんの一瞬。本当に刹那の一瞬に高町さんが動いた。
何をやったのか分からないが、腕が動いたと思った瞬間に女が悲鳴を上げる。
見れば女の手に、あれは針か?
何か大きな針が突き刺さっており、その痛みで朝比奈さんから手を離す。
今のうちに逃げてください。
俺が言葉にするよりも早く、いつの間にか高町さんの姿は朝比奈さんの傍にあり、朝比奈さんを背中に庇う。
呆然とする俺の足が何かを踏み付けた。
それは高町さんがこの世界に持ってきていたバックで、口が開き中には…。
あ、あー、まあ、この糸みたいなのはまだ分かる。
釣りの帰りか、これから釣りに行こうとしていたんだろう、多分。
ですが、このナイフよりも大きな刃物はなんなんでしょうか。
その中には女の手に刺さっていた大きな針のような物も入っており、
やっぱりあれを投げたのが高町さんだったと確信する。
って今はそれ所じゃない。
男三人が高町さんに向かっている。
朝比奈さんを庇ったままだし、このままでは危ないだろう。
腕に自信はないが、このまま見ている訳にもいくまい。
古泉と一緒に走り出した俺だったのだが。
まあ、結論から言うと意味がなかった。
俺たちが着く頃には既に三人の男は地面に倒れ伏しており、って何をやったんだ。
全く分からなかったぞ。
とりあえず、高町さんが強いという事は確かなようだな。
ともあれ、お二人とも無事のようで何よりである。
後ろで新川さんと森さんも驚いているようではあるが、念のために二人の無事を確認しないと。

「俺の方は何ともありませんよ。みくるさんの方は大丈夫ですか」

「……ふぁ、ふぁいっ! わ、わたしも大丈夫です。あの、ありがとうございます」

「いえ、元々は俺の所為みたいですし」

お互いに頭を下げる二人だったが、その隙に女が逃げ出そうとする。
しかし、それは高町さんが大きく腕を振ると足がもつれたように転ぶ。
見れば、細い糸が高町さんの手から女の足元へと伸びている。
まあ、あんなに武器が入っているバックの中に入っていたものだ。
釣り糸ではないと何となく分かっていましたよ、ええ。
にしても、あなたは何者なんですか。
俺と同じ一般人ではないですよね。いや、異世界人は異世界人ですが。
呆然とする俺に構う事なく、高町さんは女へと近付くもすぐに飛び退く。
運転席の男が流石にまずいと思ったのか、車を強引に動かしたからだ。
女はすぐに車に乗り込むと、男三人を残して立ち去っていく。
いや、見事な逃げっぷりだな。
って感心している場合でもないか。
腰を抜かしたように地面へとへたり込む朝比奈さんに手を貸している高町さんへと俺は今の出来事を尋ねる。

「俺の家は代々古流剣術を伝える家だったんですよ。
 それで小さい頃から剣術をやってまして。ああいった事には多少慣れているんですよ」

聞けば、何でも学業と平行して護衛の仕事を今までに何度かした事もあるそうで。
はあ、そうなんですか。
それを聞いて俺はそう言うしかなかったのだが、古泉の奴は楽しそうに顎に手を持っていき、

「いやはや、流石は涼宮さんといった所ですかね。
 異世界人を呼び込みながら、普通の人と変わらない異世界人では納得できなかったと」

そこは褒め称えるべき所じゃないだろうが。
そう思いつつも、未だに気を失っている三人の男を見下ろす。
さて、どうしたもんか。

「その方々はこちらで引き取りましょう」

そう言ってきたのは森さんで、高町さんもそれに頷いている。
まあ、俺たちにどうこうできるものじゃないしな。
ここはお任せします。

「はい、承りました」

「ですが、見捨てていかれるぐらいですから、元々関係のない者を雇ったのかもしれませんね」

高町さんの言葉に森さんたちは頷いている。
いや、もう一般人には関係のない話です。と言うか、係わり合いになりたくない類の話ですね。

「そうですね。知らないに越した事はない話ですよ」

言って未だに震えながら一人では立てないのか、高町さんにしがみ付いている朝比奈さん。
その気持ちはよーく分かります。
俺は離れていたからそうでもないが、近くにそれも人質にされていた身としては。
高町さんも朝比奈さんに手を貸しつつも、やはり少し照れている様子である。

「あ、あの、ごめんなさい」

それに気付いた朝比奈さんは謝るが、震える手は高町さんの腕を掴んだまま離れない。
と言うよりも、固まってしまっていて手が開かないのかもな。
それが分かっているからか、高町さんは安心させるように頭に手を置き数度撫でてから離す。
正直、ちょっぴり羨ましいが場合が場合だけに口には出さずにおく。

「いえ、気にしないでください。落ち着くまで、そうしていて構いませんから」

「本当にすいません」

また謝る朝比奈さんは兎も角、男三人も増えた今、どうやって俺たちは帰れば良いのでしょうか。
という素朴な疑問はあっさりと解決する。
森さんがここに男たちと残り、他の者が回収にくるそうだ。
念のためにと高町さんが男の手足を縛るのを眺めながら、俺は空を仰ぐ。
はぁー、何か起こるかもしれないとは思ったが、まさかこんなに早くと言うか初日にこんな大変な事が起こるとはな。
本当にあいつに関わると退屈だけはしないというか、少しは休ませてくれよ。
思わず現実逃避しそうになる俺に、古泉の奴が目を細めてまるで内緒話をするように小声で話し掛けてきやがる。

「そう嫌そうな顔をしないでください。結構、真剣なお話ですから。
 さっきの連中があれで諦めてくれれば良いのですが、そうでない場合はまた狙われる危険があります」

まあ、そうだろうな。高町さん自身はよっぽどの事がない限り大丈夫そうだが。
って、今度狙われるのは俺やお前の可能性もあるのか。

「ありますね。まあ、僕は組織がバックにいるのでそう簡単に襲っては来ないでしょうね」

だとすると、俺の可能性が高いのかよ。

「あなたを狙うと何が起こるのか予測できないと言うのがありますからね。
 それに、あなたに危害が及ぶとなると、長門さんサイドが動く可能性もありますし。
 いえ、彼女個人だけが動くかも知れませんが、それでも太刀打ちできないでしょうからね」

そりゃあそうだ。一番最強なのは長門だからな。
とすれば、ハルヒの奴を直接って事はないのか。

「それもあり得ないでしょうね。
 状況次第ではありますが、今のところ連中も涼宮さんには手を出さないでしょう」

って事は……。
言ってようやく落ち着き出した朝比奈さんを見つめる。
俺の視線を感じた朝比奈さんと目が合うが、ふぇと可愛らしく呟いた後、そっと手を振ってくる。
その可愛らしい仕草に手を振り返しつつ、俺は隣の古泉へと視線を戻す。

「でしょうね。我々の中で一番の非力だと思われているのは間違いなく彼女ですから」

「おいおい、流石にそれはまずいんじゃないか」

「勿論、僕たち機関のものがそれとなく張り付いて身の安全を図りますよ。
 それと、一番の狙いは高町さんですからね」

まあ、そうだろうな。
幾ら強いといっても、数で来られたり銃なんて持ち出されたらどうにもならん。
となれば、……どうしろと?
俺の疑問に古泉は何処か楽しげに人差し指を立てて左右に振る。
いい加減、そのもったいぶった物言いと仕草を直せ。

「すいませんね。僕にはそんなつもりはないのですが」

なくとも、こっちがそう感じるんだよ。

「おやおや、これまた勝手な言い分ですね。
 と、今はそれを論じている場合ではありませんね。
 これから先何が起こるか分かりませんから、出来る限り共に行動した方が良いと申したかったんですよ」

だったら、初めからそう言えっての。
だがまあ、その意見には賛成だな。
しかし、俺たちが学校に行っている間はどうするんだ。

「そこは僕たち機関が何とかしましょう。
 それよりも、あなたは涼宮さんに何と説明するのかを考えておいてください」

って、さり気なく一番面倒な所を押し付けるな。
ハルヒに説明するのは、それこそお前の分野だろうが。
いつぞやみたいに、お前の親戚にしてしまえ。

「それはあまり得策ではないですね。こうも僕の親戚ばかりというのも」

それはそうだが、そんなもの知るか。

「だから、その理由をあなたにお願いしたいのですよ。
 僕自身が何かする訳ではないですが、上へのお願いはそれだけで結構大変なんですよ」

ちっ。人が良すぎる朝比奈さんに嘘は難しいだろうし、仕方ない、そっちは引き受けてやる。
だが、そんなに期待するなよ。

「いえいえ、存分に期待してますよ」

古泉の奴と話したことを朝比奈さんには聞かれないように高町さんに伝えると、
高町さんもあっさりと同意してくれる。
しっかし、バックの中に武器を仕舞うために、
刀よりもやや短い小太刀という武器を鞄から取り出して詰めなおすのを眺めながら、俺は一人盛大な溜め息を溢す。
はぁぁっ。
高町さんだけは普通の人だと信じていたのに。
現実の厳しさを突きつけられ、って、突きつけられる内容は非現実的な事ばかりなんだが、
ともかく、俺だけが本当に一般人だという事をしみじみと痛感する。
だがまあ、性格面で言えば高町さんは間違いなく常識人であるから、そこまで苦労しなくて済みそうだが。

「あ、ああっ!」

朝比奈さんの突然の大声に、俺は思考を中断させて彼女を見る。
俺だけでなく、全員から注目されて赤くなりつつも、朝比奈さんは時計を俺たちに見せる。

「完全に遅刻です」

あ、そう言えば今日は普通に平日だったな。
と言うか、長門はどうしただろうか。まさか、まだマンションで俺たちが来るのを待っているとか。
いや、幾らなんでもそれは……。いや、長門ならあり得るんじゃないか。
朝比奈さんの言葉に俺たちは急いで新川さんの運転する車に駆け込み、長門のマンションへと急行する。
くそー、あいつらめ。何で平日の朝に襲ってくるんだ。
遅刻の言い訳を正直に口にできるはずもなく、どう理由付けするか。
また一つ悩み事を増やした俺は、一秒一秒をいつもより長く感じながら長門のマンションに着くまでの間、
ひたすら車に揺られ続けるしかなかったのだった。



やはりというか何と言うか、律儀に待っていた長門に大体の説明をしながら学校へと走る俺たち。
そこには高町さんの姿もあり、とりあえず今日はSOS団の部室で待っていてもらう事にしたんだが、
やはりこの人は普通じゃないと、息一つ切らさずに走り続けるのを見てしみじみと思うのだった。
しかし、SOS団の団長以外のメンバーが揃って遅刻とはな。
またハルヒに説明する良い言い訳を考えないといけないじゃないか……。
はぁ、やれやれ





つづく




<あとがき>

これで恭也がSOS団と行動を共にする事が。
美姫 「剣術を使うことも話したしね」
後はドタバタが続くはず。
美姫 「果たして、恭也は無事に帰還する事が出来るのかどうか」
それではまた次回で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」
ではでは。




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