『海鳴極上生徒会』






第3話 「極上生徒会ご紹介」





新たに極上生徒会入りした生徒が、それも転入してきたばかりの子という話は、
次の日にはあっという間に全校生へと広がっていた。
そして、転入初日に極上入りしたのだから、その能力は凄いのだろうと噂が噂を呼び、
その日一日、蘭堂りのの周りには野次馬が集まっていた。
尤も、蘭堂りのを観察していた人々は、揃って一様に、どうして入れたのかと首を傾げる事となったのだが。
ともあれ、放課後のこの時間、極上生徒会のメンバーを改めて紹介すると言われていた蘭堂りのは、
極上生徒会室を目指してプッチャンと共に。

「ねえ、プッチャン。生徒会室って何処?」

「とりあえず、この林の中でない事だけは確かだろうな」

……見事に迷子になっていたりする。

「うぅ、どうしてこんな所にいるんだろう、わたし」

「そりゃあ、りのが自分の足で歩いてきたからだろう」

「それはそうなんだけれど……」

りのは行く先も分からぬまま、足だけを動かす。
途方に暮れるりのの後ろから、一人の少女が駆け足で近づいてくる。

「ら、蘭堂さーん」

呼ばれて振り向けば、眼鏡にみつあみの少女がりのの前で止まる。

「良かった、見付かって」

「えっと、あなたは確か……」

「高町美由希。蘭堂さんと同じ、極上生徒会のメンバーだよ。
 遅いから、探しに来たの。でも、まさかこんな所にいるとは思わなくて」

「ごめんなさい」

「すまないな。こいつには、俺からちゃんと言い聞かせておくから」

「あ、別に仕方ないよ。ここって広いからね。
 私も慣れるまでは時間掛かったしね。それよりも、会長が待ってるから行こう」

「はい!」

「良かったな、りの。いい人みたいだぞ。
 まあ、ちょっと通好みの格好をしているが、スタイルも中々……」

「……ちょっと気になってたんだけれど、それって腹話術?」

プッチャンの言葉にやや笑顔を引き攣らせて尋ねる美由希に、プッチャンは偉そうに胸を張る。

「俺の名前はプッチャン」

「腹話術じゃないですよ、プッチャンは私のお友達です」

ほぼ同時に喋る二人に美由希は納得する。
これに逆にプッチャンが怪訝な声を上げる。

「いやにあっさりとしてるな。今までの連中で、そうすんなりと信じた奴はいないんだがな」

「あははは。まあね。少なくとも、すんなりと今の言葉を信じる人を、私は二人知ってるかな。
 って、自分で言う事じゃないよね、それ」

「まあ、確かにな。だが、まだ二人もいるんだろう。
 ひょっとして、生徒会の中にか?」

「うん、そうだよ。多分、一人は優しい笑みを浮かべたままで、そうなの、で済ますだろうし。
 もう一人は、生真面目な顔を崩す事無く、ほう、そうなのか、で済ますかな」

「ひょっとして、生徒会ってのは、変わり者の集団か」

「あはは、普通の所だったらそうかもね」

「なるほどな。時に、さっき言っていた一人はあの時の兄ちゃんか」

「よく恭ちゃんって分かったね」

「恭ちゃん? 中々親しげじゃねーか。ほうほう、ひょっとして、姉ちゃんのいい人か〜」

「そ、そんなんじゃないよ〜。いやだな〜、プッチャンたら」

言ってプッチャンの背中をバシバシ叩く。

「いてて。わ、分かったから止めろって。にしても、かなり仏頂面な兄ちゃんだったよな」

「でしょう。もう少し愛想よくすれば良いのにね」

「確かにな。何か見るからに、真面目が服を着ているというか」

「そうそう。おまけに鈍感だし、すぐに意地悪するし」

「なるほど、なるほど。そりゃあ、苦労が絶えないな〜」

「分かってくれるの、プッチャン」

「ああ、勿論さ」

「プッチャン!」

「あははは〜。こんな所で抱きつくなよ。照れるじゃないか〜」

「プッチャンとは、何かいい友達になれそうだよ」

「奇遇だな。俺もそう思っていたぜ」

言って互いに握手を交し合う二人を、りのは感動しながら見詰める。
ここに、変な友情が芽生えたことを、誰も知らない。
プッチャンとりのと話をしながら、二人を生徒会へと連れて行く美由希が、今度はりのへと話し掛ける。

「蘭堂さんは、5期生だったよね」

「はい、そうです。えっと、高町さんは」

「美由希で良いよ。高町だと、生徒会に二人居るから。
 私は4期生だから、蘭堂さんのいっこ上だね」

「そうなんですか。美由希先輩ですね。
 あ、わたしの事もりので良いですよ」

「それじゃあ、りのちゃん、プッチャン、改めて宜しくね」

「はい」

「おう、宜しくな。ボインねーちゃん」

「……お願い、それは止めて」

「何でだ? これは、ボインねーちゃんを心の友と思ったからこそ、敬意を持って……」

「いや、本当にお願い」

「じゃあ、眼鏡ねーちゃん」

「それもお願い。心の友だとは私も思ったけれど、それは嫌」

「じゃあ、みつあみねーちゃん」

「さっきから、外見的な特徴を言っているだけじゃ……。
 お願いだから、普通に名前で」

「仕方ないな。それじゃあ、みゆみゆ」

「うぅぅ、もうそれで良いです」

遂に諦めたのか、肩を落としながらそう呟く美由希に、プッチャンが驚いたような声を上げる。

「本当に良いのかよ。冗談だったんだが……」

「う、うぅぅ。りのちゃん、プッチャンが、プッチャンが苛める〜」

「もう、プッチャン、駄目でしょう」

「あははは、悪い悪い」

そんな事を繰り返しながら、奇妙な三人組は生徒会室へと向かうのだった。



  § § §



生徒会室へとやって来たりのが席へと着くと、奏が全員を見渡す。

「それでは、改めて紹介しますね。こちらが新たに書記に就任された蘭堂りのさんです。
 皆さん、仲良くしてあげてください」

「蘭堂りのです。宜しくお願いします」

「俺の名前はプッチャンだ。まあ、それなりに宜しく頼むぜ」

「蘭堂、その人形は何だ?」

「オゥ、キュート」

「……シンディ、少し黙っててくれ」

問い掛けた奈々穂は、口を挟んできたシンディに注意をすると、もう一度りのへと視線を向ける。
奈々穂の視線を受けると、りのは笑顔でプッチャンを突き出す。

「お友達のプッチャンです」

「宜しくな、男女先輩」

「なっ、お……」

「あら、中々上手いことを仰りますね」

絶句する奈々穂に向かい、柔らかな笑みを見せる久遠。
奈々穂は一瞬だけ久遠を睨んだ後、りのを睨み付ける。

「蘭堂、どういうつもりだ」

「え、い、今のはわたしじゃなくて、プッチャンが」

「だから、お前だろうが」

「ち、違いますよ〜」

怒りの形相で睨む奈々穂に脅えるりのを、美由希が庇う。

「副会長落ち着いてください。今のは本当にりのちゃんじゃなくて、プッチャンなんです」

「いや、美由希。お前のほうこそ落ち着け」

「本当なのに〜。ねえ、プッチャン」

「おう。みゆみゆの言う通りだぜ」

『みゆみゆ?』

プッチャンから出た言葉に、思わず全員が美由希を見ながらその単語を繰り返す。

「う、うわぁぁ〜、それって冗談って言ったのに〜!」

「まあまあ、落ち着けみゆみゆ。俺も悪気があった訳じゃないんだ」

「また言った〜」

「まあまあ。とりあえず、そういう訳で、俺は俺だ。
 つまり、俺の言葉とりのは何の関係もない」

言い切るプッチャンに、さっきのみゆみゆ発言からどうにか立ち直った一同が、
訳の分からん事をいった顔を見せる中、奏はいつもの笑みを湛え、恭也はいつもと変わらぬ表情のまま、

「そうなの。それじゃあ、これから宜しくね、プッチャン」

「ほう、そうなのか。宜しくなプッチャン」

あっさりとプッチャンを受け入れる。

「ちょ、会長に会長補佐。何でそんなにすんなりと受け入れているんですか!
 もし、本当にりのの腹話術じゃないんだとしたら、それはそれで問題が」

「何かあるのか?」

「さあ?」

「ああー、もう! どうして、二人とも!」

もどかしげに頭をがしがしと掻く奈々穂に、久遠が少しだけ同情したような、疲れたような顔を見せる。

「仕方ありませんわ、奈々穂さん。ある意味、これがお二方らしいとも言えますし」

「それはそうなんだけれど。はぁー。
 もうこの件はこれで良い。それよりも、りのの紹介は済んだから、今度はこっちだな」

言って奈々穂は自分を指差す。

「私は副会長の金城奈々穂。第2期生だ。
 後、生徒会では遊撃部を統括している」

「私は銀河久遠です。第3期生で、奈々穂さんと同じく副会長をしております。
 隠密部の統括をしてますわ」

久遠がそう言って紹介した後、ショートカットのきっちりと髪を止めた少女が口を開く。

「私は市川まゆら。第2期生で、生徒会の会計を担当しています」

そう言って頭を下げるまゆらを眺めながら、プッチャンが右手を前に差し出す。

「ちょっと待ってくれ。そっちのお二人さんが副会長なのは分かったが、遊撃や隠密ってのは?」

「遊撃っていうのは、学園内での揉め事を解決したりとか、有事の際に動く部署って感じかな。
 あっしは遊撃所属の角元です、れいんです、角元れいんです。因みに、みゆみゆと同じ4期生」

「れいん、お願いだから、みゆみゆって呼ばないで」

「冗談で、ジョークで、軽いお茶目だからして、許して」

言って軽く笑い飛ばすれいんに、諦めたのか美由希は肩を落す。
それを見て、もう一笑いするれいんの横から、眼鏡を掛けて木刀を手にした少女が一歩前へと進み出る。

「同じく4期生で遊撃の飛田小百合だ」

二人の少女がりのに挨拶をすると、その後ろからクラスメイトの香が話し掛ける。

「わたしは同じクラスだから、今更だけれど、和泉香よ。れーちゃん先輩たちと同じく遊撃部」

何故か不機嫌そうな顔でそう告げると、すぐにそっぽを向く。
その三人を順に眺めた後、プッチャンが不意に口を開く。

「これから宜しくな。会計ねーちゃんにお子様先輩、侍姉ちゃん」

「いえ、確かに会計なんだけれど……」

「なっ、お、お子様……」

「侍…………」

三者三様の様子を見せる三人が怒り出す前に、美由希が苦笑しながら口を開く。

「えっと、私はもうさっきしたから良いよね。
 一応、遊撃部所属なんだけれど、隠密にも所属してるというのが私だから。
 そ、それじゃあ、次は桂さんお願いします」

美由希の言葉に応えるように、久遠の横にいて、ずっと笑顔を見せていた少女が、
りのとプッチャンに改めて笑顔で挨拶する。

「先ほど美由希ちゃんからバトンを渡された1期生の桂聖奈です。
 隠密に所属なんかしちゃってます。因みに隠密は、遊撃とは違って秘密裏に行動するのが原則なので、
 私以外のメンバーは秘密なのです」

「秘密って、おいおい。本当に変わってるな。
 でも、りのも生徒会のメンバーなんだから別に良いんじゃないのか?」

「そういう訳にもいかん。何しろ、私でさえも全隠密を知っている訳ではないからな」

プッチャンの言葉に答えたのは、奈々穂だった。
奈々穂は更に続ける。

「隠密のメンバー全員を知っているのは、隠密のトップである久遠と聖奈さんを除けば、
 会長と会長補佐だけだ」

「ほう、そうなのか。それじゃあ、残る二人は隠密じゃないって事か」

言ってプッチャンは残る二人へと視線を向ける。
奈々穂はその内の一人、明るい色の髪に青みがかった瞳の少女を紹介する。

「彼女はシンディ真鍋。1期生で、見てのとおりハーフだ」

「シンディ」

「彼女は車両部だ」

「車両部って、遊撃や隠密以外にもまだあるのかよ」

呟くプッチャンを熱い眼差しで見詰めるシンディの横から、長い髪の少女が笑い掛ける。

「まあまあ、そうぼやかない、ぼやかない。因みに、後、発明部ってのもあるからね。
 で、その発明部に所属しているのが2期生の私こと、月村忍ってわけ。
 宜しくね〜」

「あ、はい、宜しくです」

全員の紹介を終えたのを見て、今まで黙っていた恭也が口を開く。

「で、最後に俺が会長補佐の高町恭也。因みに、1期生だ。
 そして、こっちが……」

「会長の神宮司奏です。よろしく、りの」

「はい、宜しくお願いします」

「宜しく頼むぜ…………」

そう言って二人に挨拶しようとするプッチャンを、奏と恭也は楽しそうな瞳で見る。

「どんな呼び方をしてくれるのかしら。楽しみね、恭也」

「ああ」

妙に期待する二人に、既に変な呼び方をされている面々は面白くないとばかりに首を横へと振っているのだが、
二人は全く気付かずに、ただプッチャンを見詰める。
やがて、プッチャンがゆっくりと口を開ける。

「…………会長さんに、会長補佐さん」

「あら、とっても普通ね」

「ひょっとして、俺たちだけ嫌われているのか」

二人は本当にそう思っているのか、顔を見合わせて残念そうな顔を見せる。
そんなプッチャンに、美由希たちがに詰め寄る。

「何で、どうして、ホワイ?」

「どうして、恭ちゃんたちだけ普通なの!」

「私もその辺りの事情を聞きたいな。勿論、断れば…………斬る!」

そんな美由希たちをゆっくりと見渡すと、プッチャンは何処か遠くを見詰める。

「ふ、俺は今までに色んな死線を潜り抜けてきた男だぜ」

「プッチャン、かっこいい〜」

突然の訳の分からない言葉に対し、目が点になる美由希たちに構わず、プッチャンは続ける。

「だからこそ、分かる。あの二人にだけは絶対に逆らっちゃあいけねえ」

「なんだ、単に臆病風に吹かれたのね」

「それは違うぞ、凶暴娘」

「だ、誰が凶暴よ、誰が!」

プッチャンの言葉に手を伸ばして首を締める香を、れいんと小百合が何とか引き剥がして落ち着かせる。

「ゲホゲホ。し、死ぬかと思った。やっぱり、凶暴……」

「うがー!」

再び暴れ始める香を何とか押さえ付けるれいんと小百合に、りのは頭を下げて謝ると、プッチャンを嗜める。

「もう、駄目でしょうプッチャン」

「すまねえ、りの。ついな」

何とか収まり始めた一同を見渡し、恭也が解散を告げるとそれぞれに思い思いの場所へと向かう。
それを見届けながら、奏がりのへと話し掛ける。

「りの、貴女は書記だから、執行部の一員となります。
 仕事内容は、主に私の秘書のようなものかしらね」

「秘書、ですか」

「ええ、そうよ。でも、今日は幾つかの場所を覚えてもらおうかしら。
 それじゃあ、行きましょう」

言って歩き出す奏の横に並ぶ。

「その前に、ここが生徒会室だ」

と、そこへ恭也が呼び止めるように声を掛ける。
その声に足を止めた二人に、恭也が簡単に説明をする。

「一応、あそこの丸いテーブルで会議などをする。
 入り口から一番奥が会長である奏の席で、その右隣が俺の席。
 逆の左隣が蘭堂さんの……」

「恭也、駄目よ。そんな呼び方をしたら、また副会長の二人がうるさいわよ」

「そうだったな。りので良いかな?」

「あ、別に構いませんけれど。奏会長、何かあるんですか?」

「そうね、あるといえばあるんだけれど、ないと言えばないのよね」

「はぁ、意味が分からないです」

「だろう。俺もさっぱり分からんのだ。
 ただ、久遠が言うには、会長補佐が下を苗字にさん付けでは他人行儀だし、対外的にも良くないと言ってな。
 それで、名前を呼び捨てで呼ぶようにと言われたんだ。
 だが、よく考えてみれば、俺よりも偉い奏が既にさん付けなんだがな……」

「あら、それも久遠さんに言わせれば、恭也が悪いって事になるみたいよ。
 彼女の言い分は、恭也が会長である私を呼び捨てにしているのに、
 他の人たちにはさん付けで他人行儀だから、らしいわよ」

「つまり、奏を呼び捨てにしているのが問題だったという訳か。
 とは言え、これはな」

「ええ、幼少の頃からだものね。それに、今更さんなて付けて呼ばれても、ひょっとしたら返事しないかも。
 多分、奈々穂もそうでしょうね」

「と、まあ、そういう訳なんだが……」

「さっきも良いましたけれど、別にいいですよ」

恭也とりのが話していると、プッチャンが小声で奏と話をする。

「…………つまり、あのねーちゃんは自分だけがさん付けで呼ばれていたのが嫌だったと」

「そういう事なのよね。始めの頃は、私と恭也と奈々穂だけだったのよね。
 そこに聖奈と久遠さんが入ってきたんだけれど、久遠さんだけさん付けだったのよ」

「ほうほう。つまり、自分だけ疎外感を感じるものの、それを素直に言えずに適当な理由を付けたと」

「その通りよ」

「ただ、会長補佐さんはその言葉をそのまま額面通りに受け取って、今日に至ると。
 その為、他の連中も同じように呼んでいるんだな」

「ええ、そうなるわね。あ、この事は誰にも内緒よ」

「分かってるって」

「何々? 何の話?」

「何でもないよ、りの。それよりも、ここの説明は以上なのか、会長補佐さん」

「そうだな。まあ、ここは生徒会メンバーの集まる場所でもあるな。
 すぐそこにソファーがあるだろう。何もないときは、銘々あそこで寛いでいる。
 後、奏の後ろにある階段を上ると、奥にある部屋に行けるが、あそこは会長室になってて、
 俺と副会長、聖奈以外は立ち入り禁止だ。と言っても、別に何もないんだがな。
 用があれば、来ても構わん。ただし、ノックはちゃんとする事。
 それだけだな」

「それじゃあ、次に行きましょうか」

こうして四人は生徒会室を出る。
次に二人がやってきたのは、地下一階だった。
そこには、車だけでなくバスやバイクなどが置いてあった。

「ここが車両部の中枢だ。と言っても、単なる駐車場と変わらないがな」

「シンディさんは、これら全ての運転ができるのよ」

「ふえ〜、凄いですね」

「今、少しだけチラリと見えた中に、普通の駐車場にはないようなものが見えた気がするんだが。
 まさか、戦……」

「プッチャン。それは言わぬが花というものだ」

何故、生徒会にこんなものが必要なのかという疑問もなく、ただ素直に感心するりのをチラリと見遣りつつ、
プッチャンは恭也の言葉に大人しく頷く。
と丁度、シンディが一台の車を洗車しており、りのたちに気付くと手を上げる。
それに恭也たちが軽く手を上げて応えると、再び作業に戻る。

「まあ、普段はあまり来ない場所だな」

「そうね。それじゃあ、次に行きましょう」

行って二人は歩き出す。
その後をりのも付いて行く。

「で、次はどこに行くんだ、会長さんに会長補佐さん。って、言い難いな、おい」

「別に無理して言わなくても良いだろう。別に名前でも構わんぞ」

「そうか。それじゃあ…………うーーん」

「いや、名前で良いと言っているのに、何故悩む」

「よし、殿だ」

「……勘弁してくれ」

「あら、それ良いじゃない」

「本気か、奏」

思わず奏に聞き返す恭也だったが、その目は至って本気だった。
恭也ははぁと溜め息を洩らすと、好きにしてくれとエレベーターのボタンを押す。
それを見たプッチャンが、驚いた声を上げる。

「おいおい。まだ下があるのかよ」

そう、恭也が押したのは下へと行くためのボタンだった。
それにああ、と答えてからやって来たエレベーターに乗る。
その顔は妙に神妙で、りのとプッチャンをじっと見詰める。

「良いか、これから行く所は、普段からあまり生徒会のメンバーでも近づかない場所だ。
 できれば、お前たちも近づくな」

「お、おいおい、おどかしっこなしにしようぜ」

「いや、脅しでも何でもないんだ。
 それぐらい、危ない場所だからな」

「そ、そんな所があるんですか」

「大丈夫よ、りの」

脅えるりのの頭を優しく撫でながら、奏が安心させるように言う。
そうこう話している間にも、エレベータはまだ着かない。

「おいおい、一体、どこまで潜るってんだ?
 地下二階にしては、ちょっと長すぎないか」

「万が一の為に、地下二階はかなり下にあるからな。
 因みに、そこへと通じるエレベータはこれだけだ。
 と、もう着くぞ」

恭也の言葉が終わるかどうかと言うところで、ようやくエレベータが到着を告げる。
エレベータを降りたそこは、ごく普通の通路で、りのとプッチャンは思わずほっと息を零す。
左右に伸びる通路を見れば、右の奥には鉄で出来た頑丈な扉が見える。
左の奥には普通の扉が。
恭也たちは、左手へと向かって歩いて行く。
恭也は扉をノックする。

「は〜い、どうぞ〜」

中から声が聞こえ、恭也は扉を開けて中へと入る。
その後に奏とりのも続く。
恐々と中へと踏み入ったりのとプッチャンは、中の様子に身構えていたのをふっと緩める。
中は大きな机が幾つかあり、その上には良く分からないがばらされたのか、組み立て途中なのか、
何か機械らしきものが乗っていたり、無数のコードが延びて床を這っていたり、
右手側には大きなガラス壁で仕切られた部屋があり、
そこには化学室のように色んな薬品やビーカーなどが置いてあるテーブルが見える。
この部屋の主は部屋の入ってすぐの少し小さめの机に置いてあるパソコンを弄りながら、
こちらに背中を向けたままキーを叩いている。

「ちょっと待ってね。……………………よし、これで終わりっと。
 で、どうしたの、恭也」

言って振り返った少女は、先ほど上にいた月村忍だった。

「いや、りのたちに生徒会に関係する場所を案内している途中なんだ」

「そうなの。いらっしゃい、りのちゃん。
 ここは発明部の心臓とも呼ぶべきところよ」

「因みに、頻繁に爆発が起こる場所でもある」

「失礼ね。ここではまだ起こしてないわよ。
 爆発が起こるのは、試運転とかするための、試験場だけよ」

「爆発は起こるのかよ……」

プッチャンの呟きに、忍はぺろりと舌を出して笑って誤魔化す。

「まあ、実験には付き物だしね」

「そんなもんはいらん!
 という訳だから、ここに来るときはくれぐれも気を付けるように」

「は、はい」

「ちょっと、何脅してるのよ」

「当たり前だ。全く、この間の事件を忘れたのか」

「うっ。またそれを持ち出す……」

言葉に詰まる忍に、興味深げに辺りを見渡していたりのが、あるものに気付いて尋ねる。

「忍先輩、これは何ですか?」

「ああ、良くぞ聞いてくれました」

りのが手にした、細長い手のような足のようなものを見て、忍は嬉しそうに説明を始める。
そんな忍の様子を、また始まったと肩を竦める恭也と、楽しそうに眺める奏の前で、忍は続ける。

「それはね、ついこの間、プロトタイプが完成した人型ガーディアンよ!
 全長三メートルと少し。体重は測定していないけれど、右手には電気銃。
 左手にはマシンガンを装備し、一発だけれど対戦車用のランチャーも内臓。
 勿論、目に当たる部分にはカメラを内蔵し、常にガーディアンが見た映像をリアルタイムで見れるという。
 更に、12時間の充電で、平時モードだと8時間、戦闘モードで2時間の稼動を可能とした!
 人型ガーディアン!
 …………の残骸なのよ。酷いのよ、恭也ったら。
 折角、学園の警備の為に造ったのに、壊すんだもの」

「えー、そうなんですか。恭也先輩、それは酷いですよ」

りのにじと目で見られた恭也は、少し慌てて口を開く。

「忍、都合の悪いところを省くな!
 りの、それにはちゃんとした訳があるんだぞ」

「突然、制御不能になって暴れました」

突然、聞こえてきた第三者の声に驚き振り返ると、隣の部屋から出てきたのか、
メイド服に身を包んだ女性が立っていた。
その手にはお盆を持ち、そこから紅茶の香が漂ってくる。

「ノエル、居たのか」

「はい。恭也様たちのお姿が見えましたので、お茶の用意をしておりました。
 どうぞ」

言って差し出す盆からカップを受け取ると、奏とりの、プッチャンへと渡す。
それから、ノエルとりのとプッチャンに紹介する。

「彼女はノエルと言って、忍に仕えている。
 一応、発明部の所属であるが、ここの生徒ではない」

「ノエル・綺堂・エーアリヒカイトと申します。
 蘭堂りの様にプッチャン様ですね。宜しくお願いします」

「こ、こちらこそ、宜しくお願いします」

「宜しく頼むぜ、メイド姉ちゃん。
 で、生徒じゃないって事は、先生なのか?」

「ううん、私個人のメイドさんよ」

「ただ、関係ない者が学園内に居るのも問題だからな。
 それで、ノエルには発明部に所属してもらっている」

「昔から私の手伝いをしてもらってるから、慣れてるしね」

「表向き、非常勤講師って事になってる」

「後、極上寮で管理人さんのお手伝いをして頂いたりもしているのよ」

恭也の言葉を補足するように奏が付け加えると、恭也が感心するようにノエルを見る。

「本当によく働いてくれているよ。何処かの主人にも見習わせてやりたい」

「そんな、私はただお役に立てればと……」

恭也と、恭也の言葉に照れるノエルを睨みつつ、忍が拗ねたように唸る。
それを可笑しそうに眺める奏とりのの間で、プッチャンがさっきから気になっている事を尋ねる。

「メイド姉ちゃんの事は分かったから、それよりも、さっき言ってた制御不能ってのは?」

うずうずした様子で尋ねるプッチャンに、
忍は気まずそうに視線を逸らし、代わりに恭也が説明を始める。

「プロトタイプが出来たという事で、裏の林で試運転を行ったんだ。
 その時、いきなり機体が暴走してな。試運転だったから、ペイント弾しか装備してなくて助かったが。
 というか、学校の警備に何で、対戦車用の兵器が必要なんだか」

「そういった訳で、制御不能となり危険でしたので、それを恭也様がお止めになったのです」

「そういう事だったんですか」

「成る程な、それなら仕方がないか」

ようやく納得した二人にほっと胸を撫で下ろしつつ、恭也はじと目で忍を見る。

「ったく、都合の悪い所だけはしょりやがって。
 大体、あれを止めるのにどれだけ苦労したと思ってるんだ、お前は。
 機体の強度テストとか言って、周辺に爆薬まで仕込みやがって」

「だって、必要じゃない。どれぐらいの衝撃に耐えられるかってのは」

「だったら、最初の企画書でそう提出しろ。
 勝手に内緒で設置しやがって。ペイント弾に加え、爆薬にまで気を使わなければならなかったんだぞ」

「まあまあ。こうして何とかなったんだし」

「それはお嬢様がいう言葉ではないような気が……」

「あ、あははは〜。……反省してます」

流石にしゅんとなる忍に奏が笑いながら救いの手を差し伸べる。

「恭也もノエルさんもそのぐらいにしてあげましょう。
 月村さんも悪気があったんじゃないんですから」

「会長〜。そうなんです、悪気はなかったんです〜」

わざとらしく泣きつく真似をする忍に、恭也とノエルは肩を竦めると、それ以上の追及を止める。
一方、りのとプッチャンは、ガーディアンの手らしきものをしげしげと見詰める。

「凄いよね、プッチャン。これが動いていたんだよ」

「だよな。動いている所を見てみたかったぜ」

「本当だよね〜」

「しかし、こんなのを止めるって、さすがは殿だな」

言って振り返るプッチャンの言葉に、忍がきょとんとした顔を恭也に向け、次いで爆笑する。

「と、殿って。あ、あははは〜。恭也、似合ってるわよ〜」

「くっ。プッチャン、こいつには何かないのか」

「ん? そうだな〜。やはり、ここは定番だが、マッドサイエンティストだろう。
 しかし、これだと長いからな、よし、マッド先輩で行こう」

「ちょっ! 嫌よ、そんなの!」

プッチャンへと詰め寄ろうとする忍の肩にポンと恭也の手が置かれる。

「何よ、止めても無駄よ」

「中々的を射た名前じゃないか」

「っ〜〜!」

無言で振るわれた拳を軽く躱すと、恭也は空になったカップをテーブルの上に置く。

「さて、そろそろ次に行くか、奏」

「ええ、そうね。ノエルさん、お茶ご馳走様」

「いえ、お粗末さまです。それでは、蘭堂様、プッチャン様もまた宜しければお越しください」

「恭也のバカ〜。次は絶対にあっというような発明をしてやる〜!」

喚く忍の声を聞きながら、恭也はそっと扉を閉めるのだった。



  § § §



それから幾つかの場所を周り、また生徒会室へと戻って来た恭也たちは、ソファーに座る。

「どう、りの? 大体の場所は覚えたかしら」

「えっと、多分」

「まあ、そんなにすぐに全部覚える必要はないさ」

「恭也の言う通りよ。ゆっくりで良いからね。
 それよりも、毎日を楽しんでね」

「はい! 今日も楽しかったです」

「そう、それなら良かったわ」

言って微笑む奏に、りのも笑い返す。
そんな二人を、恭也とプッチャンは優しく見守るように静かに見ている。
お互いにそんな相手に気付いたのか、ふと視線が合わさり、ふっと微笑を洩らすのだった。





続く




<あとがき>

今回は極上メンバーの紹介を兼ねたお話。
美姫 「変なあだ名がついた人たちは可哀想に……」
あははは〜。さて、それでは次回予告。



「学園七不思議?」

「そう、この学園に伝わると言う七不思議よ、りの」

「それがどうかしたんですか、れーちゃん先輩?」

宮神学園に伝わると言う七不思議。

「今、ここに学園七不思議を明かすための組織を結成する。
 俺の事は、そうだな、ボスと呼べ、野郎共!」

「プッチャン! 女の子しか居ません!」

「……それは兎も角、行くぜ!」

その謎を解き明かすべく、極上生徒会のあいつらが立ち上がった。

「な、七不思議なんて、そんなの迷信だって。
 第一、宮神学園は出来てまだ新しいんだぞ」

「あら、奈々穂さん? もしかして、怖いのかしら」

「ば、バカな事を。わ、私がそんなのを怖がるはずないだろう。
 よし、分かった! そこまで言うのなら、遊撃でその全てを明かしてやろう!」

「あら、それは楽しみですこと」

一体、何が起こるのか!?
次回、海鳴極上生徒会 第4話 「宮神学園七不思議を追って」



美姫 「近日アップ!」
いえ、気長にお待ちくださ…………ぶべらぁっ!
美姫 「それじゃあ、次回でね♪」







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