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Strikers −不破− 短編集
日時: 2008/02/14 00:45
名前: シンフォン

ひさしぶりの更新です。
、と言っても私の書いたものではないんですが(笑)

ペルソナさんが、外伝書いてくれたよ〜><b
“リリカルなのはAS―不破―”の二年前。
「血の剣」事件の真相が、今明らかに!

掲載準備中につき、もうしばらくおまちくださいw

NEW:血の剣 その1 >>


>>1「ちょっと未来の,あるかもしれない小話」
>>2「機動六課のある日の昼食」
>>3「白雪姫 著:八神はやて,高町なのは,フェイト・T・ハラオウン」
>>4「白雪姫? マジキス編」
>>5「ある日の4人と2頭」
>>6「ダイジェスト版」
>>7-8「リリカルクエストV 旅の書の一:勇者旅立つ?」
>>9「リリカルクエストV 旅の書の2:アリアハン近辺」
>>10「ある朝の兄と義妹」
>>11「フェイトの子守り奮戦記」
>>12「キョヤぱぱの午後」
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>>19 「あるバレンタインの翌日に」
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>>23-24「Sts6.9話 極刑前夜.前編」
>>25-26「Sts6.9話 極刑前夜.中編(女の子,三人寄ればかしましい)」
>>27-29「Sts6.9話 極刑前夜.後編」
>>30-32「キャロと雪だるまな日」
>>33-34「こんにちは,赤ちゃん?(没設定より)」
>>35「Strikers Zero -不破- 嘘(かもしれない)予告」
>>36-37「もしかしたら,あるかもしれない晩秋の夕暮れ」

三次:某P氏・著
>>38「贖罪であり,贖罪でない想い」→No.10の直後
>>39「捨てられない過去、それでも前を見て」→No.11の直後
>>40「折れない心,支えの心」
>>41「真心を込めて」
>>42-43「剣達の休息」
>>44-45「遠回しな想い」
>>46「小さな誓い」
>>47-48「蒼天の安息」
>>49-50「NGから始まる」→「蒼天の安息」のNGより
>>51-52「小さくなろう(前編)」→「NGから」内のとある事件
>>53-55「小さくなろう(後編)」
>>56-60「過ぎ去りし日々」
>>61-77「聖夜の悲しみ」
>>78-79「一歩前へ」
>>80-83「祝杯」
>>84-88「バレンタイン前夜」
>>「血の剣」その1
メンテ

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Re: Strikers −不破− 短編集 ( No.69 )
日時: 2007/12/24 00:05
名前: シンフォン

8.ザフィーラ


「ザフィーラか」

 他の者と比べて少しばかり重い足音が聞こえてそれがザフィーラだと気付く。
 いや、それ以上にこの独特の気配がザフィーラだと感じさせる。

「何を見ていたんだ?」
「雪だ……雪を見ていた」

 目の前には未だに降りしきる雪。
 白く、白くザフィーラの魔力光よりも白い光を出す雪。

 その白さは宵闇と交じり合って極薄の紫の色をしていた。
 そう、まるでリィンフォースの魔力光のように……

「リィンフォースか……」

 多くは語る必要は無い。
 戦友と読んで差し支えない二人は共通してわかる事がある。

「それだけでもないだろう?」
「あぁ、そうだな。……他にも色々とな」
 
 色々と思い出してしまう。
 本当に何もかも。

「今ならば取り戻せるとでも思うか?」
「理解している」

 そう、理解しすぎている。
 ザフィーラが何を言いたいのか、何を伝えたいのか。

今ならばなどという言葉に意味が無い事を。
 そんな言葉は何も慰めにならないということを。

「それでも……」
「どうしても願ってしまうか」

 その気持ちはザフィーラも分からないでもない。
 ザフィーラとて今でもリィンフォースの事は悔いている。

 だが……

「……主はやてが心配している。戻るといい」
「もう少しだけこうさせてくれ」

 ザフィーラの心遣いは恭也にとってもありがたい申し出だった。
 こうして一人で居るとさらに沈み込んでしまう。

 だから、暖かい空気の場所に戻れといってくれている事ぐらい分かる。

 だが、それでもまだ過去に浸っていたい。



ガスッ!

 鈍い音と共に恭也に頬に痛みが走った。
 その目線の先には拳を握り締めたザフィーラの姿。

「何をする?」
「それはこちらの台詞だ。何をしている?」

 殴ったはずのザフィーラからの言葉にほんの少しの困惑。
 そう、ほんの少ししか困惑しなかった。理由など分かりきっている。

「お前は何だ? 『閃く風の守護者』だろうが! 
 ここにいる俺たちの日常を作ってくれる者を共に護ると誓った『閃く風の守護者』だろうが!」
「今は、『錆びた刃』で居させてくれ」

 『錆びた刃』、それは恭也がランクを落としてからつけられた忌み名。
 それを口に出すほど恭也は過去を懸想していた。


 そんな恭也の言葉にザフィーラはさらに拳を叩きつける。

「それでも俺の戦友か!? それでよく『護る』など口に出せる!
 悲しいのはお前だけじゃない。辛い思い出があるのはお前だけじゃない!」

 それは分かっていた。
 そうだ。誰にだって傷がある。あの時のリィンフォースの事で傷付かなかった当事者は居ない。
 今まで生きてきて傷を背負わなかった者など誰も居ない。

 だが、この雪が起因となっているのは恭也だけ。

「分かっているさ」
「分かっているのなら戻れ」
「だが……」
「くだらん事で悩むな!」

 再度、拳が恭也に飛ぶ。
 その拳を避けることも出来ずに恭也は吹き飛ばされる。

 地に付き、頬を押さえている恭也の前に仁王立ちのままザフィーラが近づく。

「過去を懸想して何になる? 俺とて後悔はある。未練はある。
 だが、俺たちには前しかない。もう過去は取り戻せない。
 なら前を見ろ。今、お前を必要としている人の傍にいろ」
「しかしな……」

 再度、拳が振るわれる。

「下らん事を悩むな。悩むのなら俺が殴って吹き飛ばしてやる。
 だから、前を見ろ。俺たちには前しかないのだから」
「……厳しいな」
「認めた漢が不甲斐無い姿を晒していたら厳しくもなりたくなる」

 厳しい言葉に、優しい言葉に恭也は苦笑を漏らす。

 こんなにもいい友を持っているのに、迷惑をかけてしまったことに、


 自ら頬を何度か叩き、前を見据える。
 もう雪は降っていない。

「…………もう大丈夫だ。戻ろう」
「そうか……頬が赤いから雪で冷やしておけ。主はやてが心配する」
「お前が殴ったんだろうが」
「そうだ。だが、主はやてや他の者に心配をかけさせるわけにはいかん」
「全く、厳しいな」

 愚痴をこぼしながらも降り積もった雪を手に持って頬を冷やす。

 もう大丈夫だ。
 こんなにも思ってくれる友が居る。
 これから、また辛さに、悲しみに、後悔に、おそわれても友が居る。
 
 過去だけを見ないために友が殴り飛ばしてくれる。
 
 雪はもう降っていない。
メンテ
Re: Strikers −不破− 短編集 ( No.70 )
日時: 2007/12/24 00:05
名前: シンフォン

9.リンディ

「恭也くん」
「リンディさん――――わぷっ」

 足音に気付いて振り返った途端に抱きしめられていた。

「前に言ったでしょ? 泣いていいって」
「泣きませんよ。今度は俺の自己嫌悪からですから」

 そう泣かない。
 こんな理由では泣いてはいけない。
 
 自己嫌悪でその人達のことを悲しんで泣いてしまってはそれはその人達に対する侮辱だ。

 自らが出来なかった悔やんでいることで泣いてしまっては侮辱にしかならない。

 リィンフォースは最後まで笑っていた。
 ゼストもメガーヌも、クイントも最後まで『管理局員』としてあった。
 あの少女も苦しみから解放されて微笑んでいた。

 そう、そんな人達に対して泣くことは侮辱でしか他ならない。

「恭也くんは不器用ね」
「俺はあの人達を侮辱できません」

 泣けば楽になるかもしれない。
 けれど泣く事だけは出来ない。
 
 今でも心の中に残っている人を侮辱する事だけは出来ない。

「本当に不器用な男の子に育っちゃって」
「男の子だからこそ泣けないんですよ」

 そう、沢山の想いを背負って、沢山の想いを知っている男の子だから泣けない。泣かない。
 
 母のような温もりを与えてくれる女性の前であっても泣けない。
 
「強がっちゃって」
「意地も張れないような男に育って欲しかったですか?」
「全っ然♪」

 リンディとてそれが恭也だと理解している。
 ずっと見てきたから、そうである恭也が恭也であると理解している。

 でも、だからこそ、頼って欲しい。
 恭也に母親がいないと知っているから余計に、クロノというほぼ同い年の息子を持つ為に。

 クロノも恭也も頑張りすぎている。
 その年にしては重過ぎるといっていいほどの荷物を背負っている。

 助けてあげたい。少しでも背負ってあげたい。
 けれどクロノと恭也は拒む。

 それは己が背負うべき重荷だと理解して軽減すら出来ない。

 そんな息子達を誇りに思う。そんな息子達に寂しさを覚える。

「でも、お母さんとしては頼って欲しいわよ」
「それでも男の子ですから」

 男の子だから母親には格好つけたい。
 ソレは誰しもあるのではないのだろうか?
 
 本当の母親が傍に居ない恭也は殊更に格好をつけたい。
 いないからこそ、その代わりを担ってくれている人に醜態を晒したくない。

 それに泣けはしない。
 侮辱は出来ない。

「男の子だね」
「えぇ、男の子ですから」
「でも……温もりを得るぐらいはいいよね?」

 ぎゅっとさらに抱きしめられてしまった。
 
 その温もりはとても暖かかった。
 でもその温もりに浸れるはずも無い。

「リンディさん。俺は優しさに浸れません」
「本当に男の子ね」

 抱きしめられる力が強くなった。
 それがとても暖かくて、でも暖かいからとても浸れなくて。

「そうですね」

 顔を上げたときに見えた表情はとても清々しいとはいえなくて、
 とても無理をしている表情にしか見えなかった。


 その表情でリンディはやっと気付く。
 恭也がここまで頑ななのは甘え方を知らないからだ。
 
 生まれて間も無く不破の屋敷の前においておかれた恭也は母親というモノを知らない。
 その後も、士郎によって厳しく鍛えられ育てられてきた。
 
 確かに、美影、琴絵、美沙斗が恭也の母親代わりとして育ててくれた。
 
 だが、それでも彼女達は代わりであって……何処かに遠慮が残ってしまう。
 そう、恭也は結局、甘え方を知らずに、一人で何とかするしか知らずに育ってきたのだ。


 その事でリンディは士郎を呪った。お門違いであると知りながら呪った。
 こんなにもいい子なのに、甘え方を知らなくて、いつかはぽっきり折れてしまいそうな生き方をしていて。


 無論、『闇の書』事件以前に比べれば随分と柔らかくなっている。
 だが、その本質は変わっていない。甘える事を知らずに、一人で背負ってしまうという本質だけは。

「恭也くん、甘えろなんて言わない。誰かに頼れなんていわない。
 けれど、ちょっとだけでいいから誰かに相談してみて。
 貴方は男の子だから、誰かに頼るのを恥だと思うと思うけど、相談するぐらいは恥じゃない。
 それに一人で寂しくなったら私が甘えさせてあげるから」

 それしか出来ない。
 恭也は誰にも頼れないから、こっちから甘えさせるしかない。
 甘えさせるに近い行動しか出来ない。
 
(フェイト、なのはちゃん、はやてちゃん。しっかり恭也くんを見てあげてね。
 これからはそれは私の役目じゃなくて、貴女達の役目になるから)

 これから必要なのは傍に居て気付いて上げられる存在だ。
 リンディのようにたまに気付いてそうして上げられる存在ではない。

 これからも死地を歩く恭也にはそういった存在が必要不可欠になる。

 
 それが分かって、自分がもう必要が無い事に気付いて少しばかり寂しかった。
 ずっと母親として恭也と接していた為に、

 だから、恭也をさらにぎゅっと抱きしめた。
メンテ
Re: Strikers −不破− 短編集 ( No.71 )
日時: 2007/12/24 00:05
名前: シンフォン

9.スバル

「キョウ兄ちゃん」

 聞こえた声は何時もの張りがなかった。
 いつでも元気で全力全開なスバルの声とは比べ物にならないほどに……

「スバ……ル?」

 振り返った先で恭也は一瞬、目の前に居る人物が誰だか分からなかった。
 その青い髪も発育のいい体も……あるのに、そこにいる少女をスバルだと認識できなかった。

 いつも前を見ている瞳は地に伏せられ、明るい表情を出す顔はその髪によって隠されていて……

「どうした?」
「思い出しちゃった。お母さんのお葬式の時……」

 その言葉に全てが納得できた。
 その普段よりも幼い雰囲気、幼い感じのする話し方。そして喪失感の漂う表情を見て。

 
「雪か?」
「うん、雪もだけど……キョウ兄ちゃんが……その時とおんなじ顔してたから」

 その言葉に恭也は己の迂闊さを呪った。
 そして同時にあの泣きはらしていたはずのスバルが己を見ることが出来た事に驚いた。

 クイントと全く同じ遺伝子を持っているだけあってその視野は子供のときから広かったようだ。


 だが、それが今は災いしている。

「スバル、おいで」
「うん」

 常とは違う声のスバルは恭也の言葉に素直に頷いて……その胸の中に納める。
 そう、いつも元気にしていても恭也の腕の中に納まるぐらいに小さい女の子。

 亡くした事で、その時の悲しさを思い出して沈んでしまうぐらいの女の子。
 こんなにも手折れてしまいそうなほどに、心に脆さを持つ女の子。





 トクトクと恭也のぬくもりと心音が伝わってくる。
 あの時と似たこの寒空の下、心の辛さは体にまで影響を及ぼしていた。

「寒かったか?」
「うん、寒かった」
 
 寒かった。心が……それに追随して体。
 だから、逆に体からの温もりで心が少しずつ温まっていく。


「そうか……」
「うん、暖かいや。ギン姉に抱きしめられてるみたい」
「比較対象が違うぞ?」
「そうかも……」

 温もりが少しずつスバルの心を暖めていく。
 スバルの表情が少しずつ暖かくなっていくたびに恭也の心は軽くなっていった。

 己以上に沈んだ顔をしている、己以上に過去を懸想して悲しんでいる少女を放置して悲しむような人間は恭也ではない。
 そんな事が出来てしまう恭也は恭也足りえない。

 例え、己を置いてでも大切な誰かを護るのが恭也だ。

「本当はね、やっぱり今でも痛いのいやなんだ」
「だろうな。お前は優しいから」

 優しいから痛いのを他人に味あわせたくない。
 だが、それ以上に痛い目にあっている人を救うために力を求めた。

 それでも……スバルの根底は優しい女の子だ。
 誰かを傷つけるのに心を痛めないはずが無い。

「それでも……それでもやっぱり泣いてるだけなのも、何も出来ないのも嫌だ、強くなりたい」
「強くなりたいか?」
「うん、なのはさんみたいになりたい」
「いや……なのはみたいになるのはちょっとばかり困るぞ」
「なんで?」
「あぁ〜、いや。気にするな」

 言えない。
 あの全力全壊の魔砲少女にだけはなってほしく無いなんていえない!



「しかし……」
「うん、なぁに?」
「スバルも女の子なんだな」
「うわっ、酷いや、キョウ兄ちゃん! 私だって女の子だよ?」
「あぁ、こんなに……腕の中に納まるぐらいにはな……」
「うん……ごめんね」
「何がだ?」
「悲しいのは辛いのは寂しいのはキョウ兄ちゃんもなのに……」

 その視野の広さはある意味で悲しい。
 こんなときにそれを気にせずに居られたら、その温もりに浸ることだけ考えられれば楽なのに。

 だが、それはスバルだから出来ない。
 本当に優しい女の子のスバルだから出来ない。

 そう、きっとその視野の広さは戦闘に使うためのものではない。
 なのはと同じ、泣いている人を、苦しいといっている人を助けるための物。

「妹が気にするな」
「気にするよ! 泣いてる人は見過ごせないよ」
「俺は泣いて無いぞ?」
「心の中で痛い、痛いってキョウ兄ちゃんいってるよ?」

 その言葉は確信に満ちていて……本当に痛かった。
 気付いてくれなければいいのに……

「そんな訳……」
「あるよ。いってる。キョウ兄ちゃんの心が」
「……そうかもな」
「うん、ごめんね、私じゃキョウ兄ちゃんの心の中のいろんなの慰められない」
「気にするな」
「気にしちゃうよ。やっぱり……」
「そういうところは本当になのはに似ていな……」

 意固地で人の為に動こうとするとてこでも動かない。
 その部分はとてもよく似ている。

「いつか……私が乗り越えられたら……今度は私がキョウ兄ちゃんを助けるね」
「いらん」
「無理にでも助けるよ。今日はこんなにやさしくしてもらったから」
「……好きにしろ」
 
 スバルの言葉はまだ弱々しいのに……恭也を助ける、その部分だけは力に満ちていて、意思に満ちていて。
 それだけは恭也であろうとも変えられそうもない。

 赤茶色をした妹と変な部分が似てしまって嘆息するが……それでも嬉しく思い、好きにさせた。
 少なくともこんな事は滅多に起こらない。だから、認めることぐらいはいい。

「うん、好きにする。キョウ兄ちゃんをぎゅっと抱きしめてあげる」
「いや、色々と困るから止めてくれ」
「大丈夫だよ。その時は私もキョウ兄ちゃんもあったまるから」

 別の事を言いたいのだが……スバルはすでに聞いていなかった。
 人の話を聞かない部分までいいのに嘆きながら……スバルが前を向いている事が嬉しかった。


 この日、恭也の心は癒えなかった。
 この日、スバルの心は少しばかり恭也のお陰で癒えていた。


 遠く無い日に……スバルが恭也の心を癒せるだろう。
 経験を積んで……想いを募らせて……人として大きくなったスバルが恭也を癒すだろう。

 その日まで恭也の傷は明確に癒えないが……それでも何時か必ず癒える。
 スバルが居るから……
メンテ
Re: Strikers −不破− 短編集 ( No.72 )
日時: 2007/12/24 00:06
名前: シンフォン

10.ギンガ

「ギンガ、こうしているとあの時の再現みたいに思わないか?」

 後ろに居るであろう、ギンガに声をかける。

 後ろに居たギンガも恭也ならば気付いているだろうと当たりをつけていたのでさして驚かなかった。

「そう……ですね。あの時の母の葬式のときのようです」
「……こういうときぐらいはお母さんと言えないのか?」
「そうですね。お母さんと永遠の別れを告げた時のようです」

 言い返したギンガの言葉は容姿よりもさらに幼く、敬語を除けば年相応の言葉遣いだった。

「辛かったか?」
「恭也さんこそ、辛かったんじゃなかったんですか?」
「「……」」

 答えは口にするまでも無い。
 恭也は心にしこりが残り、ギンガはその後の忙しさに幼さを奪われた。
 
 辛くないはずが無い。
 大切な者を失ってしまったのだから。
 掛け替えの無い者を失ってしまったのだから。


「それでもシューティング・アーツを覚えたよな?」
「お母さんの形見ですから」
「そうだな。料理とかの家事以外だとそれが一番根付いているか」
「料理を抜いてです。恭也さんに教えてもらったお母さんの技ですから」
「そうか」

 沈黙が二人を包み込む。
 ある意味で似た二人はこの雪がどれほどの過去を懸想させるか理解している。

 だが、そこには妹分と兄貴分の違いが出来た。

「あの……」
「どうした?」
「何で頭を撫でられているんですか?」
「気に入らないか?」
「そういうわけじゃ……ないです」

 ずっと昔にはされたことのある行為。
 料理が美味く出来たとき、料理の後片付けをしたとき、掃除をしたとき。
 クイントに褒められた時、本当に色々としてもらった。

 だが、今される事に理由を見出せない。

「がんばったな」

 その言葉には全てが要約されていた。
 母親がいないのに代わりをして、それでも一人の女の子として生きて、魔導士として生きて。
 
 本来なら抱えきれないほどの物を抱えて、背負って生きてきたことに対するご褒美。

 それが分かって唯、撫でられ続けた。
 今までの苦労が報われたようで、今までの辛さを理解してもらえたようで。
 
 何よりも……それこそゲンヤに頭を撫でられるよりも嬉しかった。






 だが、間違えてはいけない。
 この場で、雪に懸想しているのは一人だけでは無い事を。

「おい、ギンガ?」
「私も撫でてあげます」

 少しばかりつま先立ちして優しく頭が撫でられていた。
 格闘技をしていても失われていない柔らかい女の子と特有の手で頭を撫でられる。

「ありがとう」

 その言葉は果たして何を意味していたのだろうか?
 教えてくれたことに対する感謝? 傍に居てくれた感謝? それとも……

 だが、恭也にはその言葉が別の意味に感じられた。
 
 クイントととてもよく似た容姿をしているギンガから発せられた『ありがとう』は救い言葉にも思えた。

『今まで娘を気にかけてくれてありがとう』
『私達の意志と理想を受け継いでくれてありがとう』

 そう、その掌とクイントに似た表情が言っているようで。


 無論、そんなモノは錯覚だ。
 だが……錯覚でも、幻覚でもそれが救いであるのなら、それでいいのではないのだろうか?
 たとえ、偽者でもそれで救われるのなら偽者でもいいのではないのだろうか?

 今、この時は恭也はクイントの温もりを感じていた。それだけでいい。

 言葉を発した者と言葉を受け取った者に差異はあるが……それはこの場では些細なことだ。


 
 二人、たどたどしく頭を撫で続ける。

「ギンガ、もういいぞ?」
「じゃあ、恭也さんが先に止めてください」
「妹をねぎらうのは兄の特権だぞ?」
「お兄ちゃんに『ありがとう』といえるのは妹の特権ですよ?」

 お互いに譲らない。
 それはこの温もりを少しでも与えたいという思いと、少しでも長くこの温もりを感じたいという思いが重なっていたから。

 偽者でいい。虚像でもいい。幻想でもいい。

 これが傷の舐めあいでしか無い事など当人たちが誰よりも理解している。

 だが、それでもこの温もりは……偽者でも、虚像でも、幻想でもない。

 お互いをねぎらい、お互いに感謝しあうこの温もりは決して嘘ではない。


 過去への懸想は止まない。
 だが、この小さな温もりがお互いにとって小さくとも心の救いになったことは確かだ。
メンテ
Re: Strikers −不破− 短編集 ( No.73 )
日時: 2007/12/24 00:06
名前: シンフォン

11.カリム
 
「カリム? 一人で抜け出して、またシャッハに怒られるぞ?」
「今日ぐらいは大丈夫です。それにここに騎士『閃く風の守護者』が居るのですから」
「その名はすでに返上されたさ。なのはに翼を譲ったあの日に」

 S−ランクを拝命したときに周りからつけられた名前。
 その『輝かしい風の刃で護る者』を意味を持ってつけられた名前。

 だが、それは一瞬で消えた。
 風はなのはを飛ばせる為に使っている。

「それでも貴方が『閃く風の守護者』であることに変わりはありません」
「そうか……」
「えぇ」

 例え、変わってしまってもそれだけは変わらないとカリムの笑顔は如実に語っていた。

「あの娘を、騎士ゼストを、リィンフォースを思い出しているんですか?」
「あぁ、雪を見ているとどうしてもな」

 カリムは知っている。
 『聖王教会』という立場上、その全ての情報を集まっていた。

 ロストロギア『ダインスレイフ』の回収を管理局に頼んだのは聖王教会だ。
 本来ロストロギアを管理する聖王教会がその時ばかりは他の事で手が回らずに管理局に頼んでしまった事。
 
 ゼストも『騎士』なだけあって、聖王教会に関わっている。
 そして、『闇の書』もロストロギアなだけあって、聖王教会に情報は集まっていた。


「恭也くんばかり辛い目にあわせて、ごめんなさい」
「カリムは関係ないだろ?」

 そう、そのどれもに聖王教会が関わっていてもカリムが関わっていたわけではない。

「――――そうであれば……恭也くんを救えたのに」

 小さく呟かれた言葉は恭也に聞こえてはいなかった。
 

 もし、全てがカリムのせいになっていれば恭也はカリムを憎んでいられる。
 そうすれば心は晴れはしないがそれでも軽くなる。

 憎しみは人を陥れるが、それでも憎しみで救われることもある。


 昔、あの重圧に耐え切れずに笑うことも出来なかった日々から救い上げてくれた恭也に返したいのに、
 そうであれば、憎まれてでも救えるのに……


「どうかしたのか? カリム」

 ふけっていた思考を元に戻す。
 そう幾らそう思っても恭也は救われない。そんな事で恭也は救われない。
 事実ですらないのだから。

「恭也くんは私を恨まないのですか? 私は本当は『ダインスレイフ』事件で貴方が悲しむことを知っていたのに」

 それは半分は本当だ。
 管理局に通達して、終盤直前になって恭也が出張ると聞いたときに占っていたのだ。
 無論、『預言者の著書』を使ったわけではない。それでもそれなりに当たるのだ。

 そこで残酷な結末が待っていると分かっていた。

「恭也くんは恨まないのですか?」

 カリムの言葉に恭也は横に首を振った。
 優しく微笑みながら……辛そうにしながらも微笑んで。

「恨まない。きっとそうしたのはカリムが俺を心配してくれたからだろ?」

 全て分かっていると優しく微笑みながら恭也は言う。
 そんな言葉にさらにカリムは自己嫌悪に陥る。
 憎まれれば救えるのに……

「後悔はしている。未練もある。だが……それでどれだけ思ってもあの娘は帰ってこない」
「……そうですね」

 分かっている。
 恭也が己を憎んでも、後悔も悔しさも辛さも何も取り除かれない事ぐらい。

 それでも、どうしても弟のような少年が笑って欲しい。

「恭也くん、泣き言は言わないないんですか?」
「泣き言を言って全てが取り戻せるのなら何度でも」

 帰ってこないのならいう事も出来ない。
 泣いても帰ってこない。

「私は役立たずですね」
「そうでもない。カリムがいるから俺たちは安心していられる」

 聖王教会というバックがあるから六課はこうして存在していられる。
 恭也が護りたい者達がこうして上層部を気にせずに居られる。

「それに、書類仕事を手伝ってもらっている」
「くすっ、そうですね」

 恭也がたまに赴くときには必ずといっていいほどに書類を抱えてくる。
 いつも手伝っているのだ。


「それだけでカリムがいるのは十分だ」
「ちょっとは酷いと思わないません?」
「そうか?」
「そうです」

 恭也の言葉にカリムの心は救われた。
 だが、まだ恭也の心が救われていない。

「えいっ!」
「どうした、カリム?」
「なんでもないです」

 掛け声をかけたわりにカリムは恭也の手を握っているだけだった。
 その両の掌で恭也の両手を包み込む。大きすぎて包み込めない掌を精一杯に包み込む。

 包み込めないほどに大きな掌なのに……あの頃から比べたら大きくなったのに、
 それでもこんなにも悲しみが掌に残っている。

「暖かいな」
「そうですか?」
「あぁ、暖かい」

 小さな温もりだ。この寒空の下で凍えていた手を温めることしか出来ない。
 こんな温もりでは恭也の心を暖めることは出来ない。

「本当に暖かい」

 そう微笑む恭也は少し温まったと表情がいっていた。
 本当にそうであってほしいと思う。
 
 こんな小さな温もりでも恭也を少しだけでも救えれば……

「もう少し、暖めておきますね」
「ありがとう」

 この温もりが恭也の心に届くことを願って……
メンテ
Re: Strikers −不破− 短編集 ( No.74 )
日時: 2007/12/24 00:07
名前: シンフォン

13.ティア

「なぁ、ティア」
「何ですか? 兄さん」
「……降っている雪は思い出のようだと思えないか?」

 近づいた恭也が寂しそうにしている事はティアも気付いていたが……
 それでも何時になく恭也がロマンチックで変だった。

「触れようとしても……消えてしまうところとか特に」
「そう……ですね」

 ティアも手を伸ばす。
 舞い降りてくる雪が掌に触れるとふっと消えてしまった。

 それはまるで触れようとしても記憶の中でしか触れられない人のようだ。

「ティアは昔を思い出さないか?」

 その恭也の表情を見るとどんな昔かを分かってしまった。
 取り戻せない過去、もはやここにはいない人との思い出だと。

「……ここに来る前は頻繁に思い出してました」
「そうか」
「でも、今はたまにです」
「そうか」
「はい」
「……俺もそうでもないほうだ」

 そう、恭也も普段はこんな事を思いはしない。
 ここまで過去を、亡くした人を懸想したりはしない。

 だが、クリスマスの雪は相性が悪すぎた。

「こうして鮮明に思い出せることはいい事なんだろうがな」
「そうですね。忘れてしまうのは悲しいですから」

 忘れてしまうのは悲しい。
 そこにあった想いも思い出も、そこにいた人達も記憶の中にしかもうない。
 だから、忘れてしまうのは悲しい気がする。

 その逆に忘れてしまう事の方がいいことも良くあるが……

 この二人はそうではない。
 過去を糧に生きているのだから。
 忘れてはいけない。

「忘れられるはず……ないよな」
「はい」

 二人で過去を思い出す。
 辛くないはずがない。悲しいはずが無い。失ったときに後悔しなかったはずが無い。

「でも……私達にはやっぱり前しかないんですよね?」
「そうだな……俺たちには前しかない」

 どんなに過去を懸想しても生きている人間には前しかない。
 前に進む事しか出来ない。

無論、後ろ向きに生きることは出来る。
プレシア・テスタロッサのように……

だが、二人はそうはなれない。
何故なら、亡くした人達の想いを二人は受け継いでいるから。
 その人達の信念を受け継いで、今を生きているから。
 後ろ向きになんて生きられない。


「兄さんは卑怯ですね」
「何がだ」
「だって、私にあんなこと言ったのに自分は誰にも頼って無いんですから」
「……」
「『何時か、お前達はここから飛び立つだろう。
 それまでは俺達に納得がいかなかったら聞け。分からなかったら頼れ。無茶をするなら止めてやる。
 頼れ、甘えろ、我が侭を言え。ここはお前が飛び立つまでの家だ。ここで思う存分に力を付けろ』
 そういったのは兄さんですよ?」
「そうだな」
「だったら、兄さんがそうするべきです。兄さんも救われるべきです」
「……俺は六課の最年長だ。誰かに頼られても頼るわけにはいかん」

 一番年上の者が動揺している姿を見れば周りは普段通りには振舞えない。
 また恭也は隊長格だ。そんな人物が腑抜けた姿を晒せば部下に影響する。

 それ以前に、恭也は誰かに甘える術を知らない。

「でも……ここが今は私達の家なんですよね? だったら家族に頼るのはおかしくないです」
「お前の兄は頼ったか?」
「頼りましたよ?」

 ティアの記憶の中には少なかったがそれでもあった。
 家族だから支えあうのは当たり前だ。
 そうでない家族もあるが……ティアとティーダの二人だけの家族だった二人は支えあうのが当たり前だった。

「そうか…………だが、俺は頼らない」
「意地っ張りですね」
「男には意地がある」
「でも、今は必要ないと思います」
「……そういう訳にもいかん」

 あくまでも意地を張り続ける恭也にティアは業を煮やして、
 言葉ではなく行動に移す事にした。

「おいっ!」
「そっ、そのスバルほどはないですけど……それでも決して無いわけじゃないですから」
「あぁ、確かにあるな――じゃなくて! 年頃の女がこんなことするな!」
「今は年頃の女の子じゃなくて、恭也さんの妹です」

 滅茶苦茶顔が赤かった。
 だが、それでも兄と慕う恭也が複雑な表情をしているから……なんとかしたかった。
 無論、ティアとてついさっきまで過去を懸想していた。
 辛くはある。悲しくはある。後悔がある。

 それでも……それ以上に複雑な表情をしているもう一人の兄を放ってはおけなかった。

「やめろ!」
「嫌です!」

 恭也の頭をがっしりと掴んで離さなかった。
 恭也もこれから抜け出すのに四苦八苦するが……胸を触りそうなのであまり動けなかったのだ。
 これ以上、やばい方向にはいきたくない。
 
 すでに手遅れ感が満載だが。

「恭也さんにこうされたとき、私は暖かかったです」
「そうか」
「だから、今度は私から兄さんにです」
「出来れば勘弁してくれ」
「もう少ししたら離します」
「今すぐ頼む」
「もう少しです」

 ほんの少し見えた恭也の弱さ。
 それは新しく出来た兄妹の絆によってでも解かれる事はないが……それでも癒える。

 同じ想いを知っている為に……、
妹の精一杯の背伸びの行為が温もりに溢れていたから……
メンテ
Re: Strikers −不破− 短編集 ( No.75 )
日時: 2007/12/24 00:07
名前: シンフォン

14.ALL その1


 ガタンと大きな音が鳴り響いた。
 そこには顔を青ざめたなのは。
 いや、その表情は青ざめているというよりもどこか辛そうで悲しそうな表情だった。

「なのは、大丈夫?」
「うん、平気。フェイトちゃん」

 その言葉が容易に嘘だと気付けるぐらいになのはの表情は痛そうだった。
 隠しようも無いぐらいに……複雑な表情。

「ごめん、ちょっと外に言ってくる」
「ちょい待ちぃ」

 ガシっと、なのはの襟首がはやてによって抑えられた。
 ぐぇっと女の子らしくない声がなのはから漏れる。

「はやてちゃん!?」
「なのはちゃん。答えて」

 なのはの怒り剣幕よりもはやての真剣な剣幕の方が強かった。
 その表情に、そこに隠された想いの強さになのはは黙るしかなかった。

「恭兄になんかあったんか?」

 その言葉にびくりとなのはは震えた。
 決して抜け駆けしようと思っていたわけではない。
 
 はやてが何故分かったのかが全く分からなかったからだ。

「なのはちゃんがそんなにまで辛そうな表情をしとったら分かる。なのはちゃんは何があっても自分の辛い事は表に出さへん。
 けど他の人なら別やろ? 特に恭兄のことなら表に出る」
「……」

 はやての図星を付く言葉に沈黙でしか答えられなかった。
 本当にその通りだから、何も言い返せなかった。

「なのは、はやての言ってる事が本当なら答えて?」

 フェイトの懇願の視線も、そしてのそれに付随して集まるこの場に居る全ての人の視線が集まる。
 当たり前だ。
 この場に居る人物達にとって恭也とは特別な人物だ。
 そこにどんな感情があってもその全ての人にとって共通に『大切な人』であることに変わり無い。

「……お兄ちゃんが苦しんでるの。それだけじゃなくて辛くて、悲しくて、自分が嫌いに成りそうで……
 それで心が一杯になってるの。ひとりじゃ抱えきれないぐらいの……」

 周りに居る恭也を想う人々の視線もあってなのはは素直に答える。
 そう、恭也を想っているのはなのは一人ではない。

 そのなのはの拙い言葉に反応したのは二人だった。
 そしてその人物は同時に外を見て……答えを出す。

「「雪……なのね(なんですね)」」

 それはリンディとカリム。
 恭也の過去を殆んど知る二人だからこそ、その答えに辿り着けた。

 雪に纏わる恭也の悲しく辛い、後悔しかない過去。
 クリスマスに降る雪だからこそそこからさらに連想されるという事を思い至った。

「どういうことですか?」

 その中で何も知らないキャロが理由を知りたいと説明を求める。
 それと同じ視線を送るのはエリオ、ティアナなど比較的恭也と付き合いが浅い者達。

「クリスマスの後の雪が降っとる日にリィンフォースは逝ってもうたからな」

 答えるのははやて。
 この中で最も『闇の書』事件の中心にいて、その辛い別れを経験したはやて。

「それだけじゃない。なのはが堕ちたのもこんな綺麗な雪空の日だった」

 恭也と同じく、なのはと失いそうになって狂乱したフェイトが答える。
 そう、あの日大切な人を失いそうになった日は忘れられない。

「それだけじゃないんです。こんな雪の日にお母さんの葬式がありましたから……」

 ギンガも答える。
 母のお陰で親しくなった恭也。
 だが、そのお陰と成った母の葬式がこんなにも雪が降りしきる日だった。

「そう……だ。こんな日だった」

 スバルもそれを思い出したのか、体を震わせていた。
 こんな日に母親が死んだ事。そして恭也の先輩が死んだ日のことを。
 
 
 そんな三つも重なる悲しい過去。
 そんな雪が関係している悲しみと辛さを味わっている恭也を誰もが懸想する。

 だが、それだけではない。

「まだ……あるんです」

 そう言葉を続けたのはカリム。
 まだあるという言葉に誰もが驚愕を浮かべた。それは無論、なのは、フェイト、はやてなど付き合いの古い者達も。

「こんな雪の日に……こんなにも綺麗な雪の日に恭也くんは……」

 そこまで言ってカリムは言葉をとめてしまう。
 この先を言っていいのか? これは明らかに恭也の傷に触れる行為だ。
 勝手に人の心の奥底に人を踏み込ませいいのか、カリムは悩んだ。

「ある少女が死ぬのを目の前で見たのよ。ダインスレイフというロストロギアに操られて人を殺した少女が。
 最後に解き放たれて死んだその瞬間を……その時も雪が降っていた」

 だが、カリムの葛藤を置き去りにしてもう一人の当時を知るリンディが語っていた。
 全てを語っているわけではないが……

 リンディは純粋に恭也の事を想っていた。
 それは恭也を踏みにじる行為かもしれないが……それでも将来、この行為が恭也の為になると思って。

「恭也さんはそんなに……大きな過去を…………」

 比較しているわけではないが……それでもエリオからその言葉は漏れていた。

 過去に死んだ人を背負って、今生きている人を背負っている。
 それはどれ程に辛い事か。それがどれ程に心に負担がかかるか。
 エリオには想像できなかった。

「兄さん、抱えすぎです」
 
 過去、己も過去を背負っていたが為にその辛さがわかる。その重みが分かる。
 一人で背負うには重過ぎる重荷を恭也が背負っている事に、そしてその事で誰にも頼っていない事でティアは涙を流しそうに成っていた。


「なんとかできないんでしょうか?」

 恭也がそんな思いをしているのが嫌なのか、いや、恭也にそんな思いで一人で居て欲しくないのかキャロは呟く。
 辛い、悲しい、後悔をしているような思いを胸に秘めながらここにいる誰かに尋ねる。
 キャロも似たような経験がある為にその辛さが分かった。

「みんなで迎えにいこう?」

 スバルの提案に大半の人間が頷いていた。
 こんな寒空の下で一人で居る事がきっと辛さを増している。
 だから、誰かが傍に居れば、沢山の人が傍に居ればその心は温まると……

「止めた方がいい」

 だが、それをとめる存在がいた。
 それはこれまで言葉を発さなかったシグナム。
 いや、それに追随してリィンフォースUを除く、ヴォルケンリッターが頷いていた。

「恭也のやつはきっと皆が着たらそれを隠しちまう」
「恭也くんは優しいから、きっと隠してしまいます。皆に心配をさせないために」

 比較的、恭也に近く、同じように失って後悔をしたヴォルケンリッターだからこそ答えられた。
 
「そうね……きっと恭也くんは拒むわ。ゼストさんが亡くなったあの日のように」

 シグナム達の言葉を肯定するようにリンディが言葉を紡ぐ。
 あの日、恭也は甘えるのを、誰かに救われるのを拒んだ。
 それをリンディは覚えていた。

「ですね。きっと恭也くんは拒みます。誰よりも私達の為に」

 恭也の子供時代から付き合いのあるカリムだからこそ分かる。
 恭也は自分の事よりも大切な誰かを優先する。
 例え、悲しくても、辛くても、後悔が募っていても……それでも大切な人が傍にいるのなら無理をしてでも笑ってしまう人間だと。

「じゃあ、どうしたらお兄ちゃんを助けられるの!」

 その思いが未だに伝わってくるなのはにとっては騎士達が出した答えは絶望的だ。
 こんなにも胸が痛くなる思いが伝わってくるのに……何も出来ない。
 
 それが何よりも辛い。
メンテ
Re: Strikers −不破− 短編集 ( No.76 )
日時: 2007/12/24 00:07
名前: シンフォン

14.ALL その2


「遠くから……傍に居ると伝えらればいいのだ」

 ぼそりとザフィーラが答えた。
 この中唯一、男性である為に、恭也と同じ『護る』事を信念としている為に、
 他の誰よりも恭也を戦友と思っている為に……誰よりも――それこそなのはよりも恭也の心を知っている為に答えた。
 
「主はやての魔法の中にそういったモノがあったはずだ」

 さらにその解決方法を出す。
 誰よりも戦友を大切に思っている為に出し惜しみすらしない。

「……アァーーーー!! そういやあった」
「でもでも、あの魔法は戦闘で使えないのに……沢山の魔力を使う魔法ですよ〜?」

 そんな魔法を今思い出したとばかりはやてが叫ぶが……リィンがその注意を促す。
 その魔法は戦闘魔法ですらないのに大量の魔力を要するという馬鹿げた魔法。

 だが、今使わずしてどうする?

「リィンは恭兄が苦しんどってそのまま放っておくんか?」
「違います! どうやって集めるかの話ですぅ!」

 はやての言葉にむっときてリィンは言い返した。
 当たり前だ。リィンにとっても恭也は大切な人。掛け替えの無い大切な人。

 だから、心配したのは別の事。
 それを成したいがその為の力が無いという事。

 そんなリィンの言葉に大半のモノが笑った。
 そう、そんな事は些細な事。

 ここに居る全ての者が力を募らせれば不可能ではないのだ。

「なのはママ、フェイトママ、何するばいいの?」

 この中で唯一何も理解していないヴィヴィオの様子に誰もが微笑んでいた。
 分かっていないが、それでも恭也に何かしたいと思っている健気な恭也の娘に。

「パパに普段どう思ってるか言えばいいんだよ」
「それでいいの?」
「そうだよ。ヴィヴィオ。恭也さんにはそれが一番届くと思うから」

 そう、その思いこそがきっと恭也を救う。



「そんじゃ、みんな。恥ずかしがらんと恭兄へ伝えてな?」

 はやてはリィンとユニゾンして準備を始める。
 
 たった一人の為に送る盛大な、想いが篭った魔法の準備が……






「お兄ちゃん。貴方は私に翼をくれた。私に再び飛び立つ勇気と力と心を」
「恭也さん、貴方は私に過去は切り捨てられないと、過去は今の私に繋がりがあると教えてくれた」
「恭兄、貴方はうちの支えになってくれた。うちが倒れそうなときにその背中を貸してくれた」
「キョヤパパ、大好き! キョヤパパはあったかいから大好き! だから元気になって」
「恭也。お前は我らを救ってくれた。私達の明日を切り開くために己の全てを使ってまで」
「恭也。おめぇはあたし達に笑ってくれた。この先、不安があったあたし達に微笑んでくれた」
「恭也くん。貴方は私達の為に未来を切り開いてくれた。貴方の『閃』が私達の未来を切り開いてくれた優しい人」
「恭也。お前は俺の戦友だ。共に『護る』事を誓い、共に歩んでくれた友だ」
「恭也さん。貴方は私に温もりをくれました。わがままをいってもそれでも笑って許してくれました」
「恭也くん。貴方は私にとっての誇り。クロノと同じく私にとって立派に成長してくれた息子」
「キョウ兄ちゃん。貴方は私にやさしさをくれた。いろんな想い出をくれた。嬉しい想い出を」
「恭也さん。貴方は私に母との繋がりを強めてくれた。もう二度と会えないはずの母と『シューティングアーツ』という形で会わせてくれました」
「恭也くん。貴方は私に笑顔を与えてくれました。笑顔が出ない日常を過ごしていた私に笑顔になれる時間を」
「兄さん。貴方は私に教えてくれました。一人じゃないって、私は一人じゃないって」
「恭也さん。貴方は私は覚えてます。あの外に出た日に渡してくれた帽子の温もりを」
「恭也さん、僕は貴方を尊敬しています。力を使うべきときをしっている貴方を」


「「「「「「「「「「「「「「「そんな貴方に届けたい! 貴方が一人で無い事を!」」」」」」」」」」」」」」」」


「「想いは集った。届けたい想いは、伝えたい想いは、
 集まり想い達よ。届け、私達の大切な人に! ビヴロスト(想い繋げる風の橋)」」













「なんだ?」

 その光景に恭也は驚いていた。
 雪の白と空の闇のモノトーンで構成されていた世界に突如現れた色とりどりの光と風。
 その光と風は暖かく、温もりに溢れていて恭也を包み込んでいた。

 それは正しく魔力光。
 パーティ会場に居る恭也を大切に想っている者達独特の魔力光。

 その光に込められた思いが恭也を包み込む。

『一人じゃない』
『一人で背負い込まないで』
『私達が貴方の傍に居る』
『辛いかもしれないけど……私達が暖めてあげる』

 そんな幾多にも及ぶ、優しい心の光、優しい風。
 
 その込められた想いが恭也に届く。
 一人、雪に懸想し、一人、辛い想いをしていた恭也を包み込む。

 その思いの一つ一つが恭也の心に届いて、その一つ一つが恭也の心を暖めていって。


 恭也の頬には苦笑が漏れていた。
 こんなにも思われていたのにそんな人達に心配かけてしまった己に、




「眩しくて、目に痛いくらいだ」

 だからこそ、恭也は皮肉気に言う。
 嬉しいから、その想いが本当に暖かいから、心配かけまいと皮肉気に言う。

≪Kyoya!!≫

 そんな恭也の言葉にエターナルが怒る。
 そう、『悠久の風』と呼ばれ、風の名を背負うエターナルはこの光と風に乗せられた想いが痛いほどに伝わってくるのだ。
 だから、恭也のその言葉は例え、自分に対する皮肉を例えて言っていたとしても怒った。

「分かっている、エターナル。本当に分かっている」

 分かっている。
 ここにいたる場所に込められた想いが。この光と風に込められた想いが。



 温もりと優しさが込められた光と風の中で恭也は思った。
 こんな人達がいるから自分は『護りたい』のだと。
 こんな人達を『護る』為に管理局員をしているのだと。

 そう、ゼストやクイント、メガーヌがそうであったように。


 だから、その人達と向き合わなければならない。
 
 こんな雪の日に亡くなった先輩はきっとそう思うはず。
 こんな雪の日に逝ったリィンフォースもきっとそう思うはずだ。

 あの少女の事は分からないが……それでも今が大切だった。

 こんなにも大切に思ってくれている人達と共にいたいから。

 光が、風が恭也を包み込む。
 それが正しいといっているかのように、過去の辛さを癒してくれるように


「……行こうか」
≪Yes. Go tomorrow.≫


 先に進もう。
 過去は取り戻せない。だが、今思ってくれている人達に返すことは出来る。
 それが正しいとは言えないが……それでもそれを望む人が居る。
 それで何よりも見たいその人達の笑顔が見れる。
 
 過去を振り返るのを止める事は出来ない。
 だが、それでも今傍に居る人達が伝えてくれる。傍に居ると、一人にならないでと。
 
 また雪は降るだろう。だがその時もきっとこんな光景が見れる。
 温もりと暖かさに満ちたこの光景が……
メンテ
Re: Strikers −不破− 短編集 ( No.77 )
日時: 2007/12/24 00:08
名前: シンフォン

15.静音

「静音、よくこれたな?」
「ラウギスさんに無理を言ってしまいました」
「そうか」

 本来、静音はこの世界に来れない。
 魔力資質を持たない静音はこの世界にくる権利を有していない。

 だが、今日は聖夜。
 それぐらいの些細な事は許されてもいいだろう。

 本当はリンディがクリスマスに雪が降ると知って許可を下していたのだが……それも些細な事だ。

「これ、クリスマスプレゼントです」
「ん、今回は手袋か」
「はい、前はセーターでしたから」

 恭也の事を考えて作られた手袋は無論の事黒い。
 黒以外の一切の無駄な装飾がなされていないが……それがよく恭也に似合っている。

「ありがとうな」
「あったまってもらえたら嬉しいです」

 その言葉の後ろにはきっと『心』がとついていた。
 物理的では有るがそこに込められた想いが恭也を少しでも暖めてくれる事を願っていた。

 静音はずっと日常で恭也を見てきた。
 恭也がどんな経験をしたのか、恭也が何を思ってきたのかは知らない。

 けれど……何時も帰ってきた時のほっとした表情を見るとどうしても辛い事を胸に残していると分かった。

 だが……残念な事に静音は何も出来ない。
 生来、運動を苦手とする静音では御神流としても、生来、魔力を兼ね備えてない静音は魔導士としても恭也を支えられない。

 そして、何よりも静音は恭也に甘えて育った。
 そうであるが為に、恭也にとっての節目で何も出来なかった。

 といっても例え、その時静音に何か出来ても恭也はこうなっていただろうが……




 そんな胸にしこりのある静音は恭也をそっと静かに支えるだけが精一杯。

 傍に居て、傍にいることで一人ではないと伝えるだけで精一杯だ。


「今度は何時帰ってくる予定ですか?」
「さぁなぁ〜、ちょっとばかり分からん」
「何時もそうですね」
「仕方ないだろ? 管理局なんて人手がいつも足りないんだから」

 といっても恭也は普段は釣りをしたら、だべったりして働いている事の方が少ないのだが……

「じゃあ、今度帰ってきたときは何が食べたいですか?」
「う〜〜ん、静音に任せる」
「そういうのが一番困るんですよ?」
「そうか?」
「はい、何か指定してくれた方がこっちも何を作ればいいか決められますから」

 静音は平和で戦う事のない日常を象徴する。
 剣を振るう事が出来ず、魔法を使えない為に、静音はそんな恭也が帰ってきた時の日常であろうとする。

「ん〜、じゃあ、あれだ。ブリ大根」
「分かりました」

 静音はゆっくりと日常で恭也が安らげるようにする。

 恭也の悲しみを、辛さを何も知らないからそれを直接癒す事は出来ないが……
 
 それでも帰ってきた時は何もかも忘れて安らげるようにする。


 それだけが静音に出来る事。それが静音に出来る事。


「今度、帰る時が楽しみだな〜。こっちでは和食はあんまり食べられないし」
「だったら、頻繁に帰ってきたら食べられますよ?」
「無理だって」

 少しでも恭也が悲しみを感じないように忘れられるように、


 根本的な解決ではない。
 それは恭也に根付く負の感情を取り去る事はできない。



 だが……それでもそれはかすかな救い。
 温もりではなく、気遣いを。救いではなく忘却を。

 それも確かな心の安静を保つのに……役立つ。

「皆さんを連れてきてっていうのも楽しそうです」
「うるさそうだな〜」
「でもきっと楽しいですよ?」
「そうかもしれないな」

 悲しみは癒えない。
 だが、わずかな忘却を…………それを忘れるぐらいの平和な日常で……
メンテ
Re: Strikers −不破− 短編集 ( No.78 )
日時: 2008/01/25 21:45
名前: シンフォン

『一歩前へ』その1


「なっ、なぁ。恭也、なんか視線が集まってんだけど?」
「あぁ、ヴィータ気にするな」
「いや、気にするだろ?」

――さて、正直に話していいものか?

「なぁ、分かってんなら教えてくれよ」
「きっと見慣れぬ美人がいるからじゃないのか?」
「どこにいんだ? そんなヤツ」

 まったく気付いていない様子のヴィータ。普段の彼女は贔屓で見ても美人といわれるような体形をしていない。
 恭也の発言は可笑しいと思われるだろうがあっているのだ。

「分からないのならそれでいいさ」
「いや、分けわかんねぇぞ」












 事の起こりは数日前。

「なぁ、恭也頼みごとしてもいいか?」
「はっ?」

 普段とは違い、上目遣いでしおらしいヴィータが唐突に、

「だから、頼みごとしてもいいかって聞いてるんだ」
「中身も確認しないで頷けんわ」
「あっ、そうだったな。わりぃ。少し焦ってた」
「それで一体なんだ?」
「あぁ、実はな。今度の休暇で海鳴で世話になったじっちゃんとかばっちゃんに会いに行こうと思ってるんだ」
「ふむ」
「それで、最近ずっと変身魔法を使ってないだろ? 不具合があったら困るから付き添って欲しいんだよ」
「まぁ、そういうことなら構わないぞ。俺も色々とあの人たちには世話になったからな」

 特に陶芸や盆栽についてかなり語り合った。

――あれは有意義だったなぁ

 恭也もそれには異存はないらしい。

「しかし、どうして俺なんだ?」
「恭也しかその日開いてないんだよ」

 そういってヴィータに日付を確認したところ普通に勤務日だった。

「いや、その日は俺も休暇じゃないんだが」
「溜まってる有給の消費も出来ていいだろ?」
「まぁな」

 何かと忙しい六課の人間は有給が溜まるのだ。
 その為、事務からはさっさと休めと口さがなく言われる。まぁ、それでも忙しくて中々に取れないのだが。

 というか恭也は基本仕事をせずに釣りや読書ばかりしているので有給をとっても差し支えない。







 そして当日。恭也は待ち合わせをしていた。隊舎が同じだから一緒に出ればいいはずなのだ。
 そこら辺は女心という物だ。

「遅いな、ヴィータの奴」

 待ち人が何時来るのかと時計を何度も確かめる。時間通りなのだが、一向にヴィータの姿は見えない。

「……遅いな」

 そんな中、恭也の隣から不機嫌光線を辺り一帯に出しているロングスカートを履いたソバージュの紅い髪の女性がいた。
 恭也が隣にいる女性に胸がときめいちゃった事は誰にも内緒だ。

「…………遅いな」

 恭也がその言葉を出すたびにその女性の機嫌が悪くなっていく事が分かる。
 しかし、恭也はきっと他の人と待ち合わせで同じように感じているのだと思っていた。

「……仕方ない、連絡を取ってみるか」

 恭也はヴィータを呼び出そうとしたその時、女性が恭也のほうに向いた。

「なぁ、酷いんじゃないか?」
「???」

 その女性が声をかける意味が全く恭也は分からなかった。

「なぁ、やっぱりお淑やかなあたしは気付かないぐらいに変なのか?」

 その少し泣きそうな声は聞き覚えがあった。数度しか聞いたことはないが、というかそれよりも少し高い声なら毎日ように。

「…………もしかして、ヴィータなのか?」
「そうだよ」

 やっと気付いたとばかりにさらに不機嫌になる。
 そっぽを向き、拗ねている表情は実に可愛い。その大人な容姿とのアンバランスがまさに素晴らしい。

「すまん。気付かなかった」
「……………」

 無言でじと眼で恭也を見上げてくる。普段なら睨んでくるところなのだが。
 服装の効果とかさまざまなものがきっとあるのだろう。

「…………」
「あー、本当に悪い。てっきり何時もと同じようにラフな格好で来ると思ってたから」
「…………………………」

 さらにじと眼で見上げてくる。心のなしか瞳が潤んでいる気が……するのだが恭也は気付かなかった。

「……………………………………似合ってないか?」

 その寂しそうに聞く声にさすがの恭也も心動かされた。ほんのちょびっとだけ、欠片だけ。

「いや、似合ってるぞ」

 世辞が上手く言えない事を恭也は口惜しく感じたが、ありのまま答えた。

「嘘じゃねぇよな?」
「俺は嘘はたまにしかつかん」
「はやてが『恭兄によく嘘つかれる!!』っていってたぜ?」
「それは冗談を言ったときの事だ」

 だまされた人からすればそれは嘘を言っている事になるのだが……

「それに似合っている服をしている女性に嘘をつくような育てられカタヲシテイナイ」

 最後の方が虚ろだった。きっと琴絵さんや美影さんに口が酸っぱくなるほど言われたのかもしれない。
 むしろ、恭也の口から酸っぱいモノが出るくらいかもしれない。

「きょっ、恭也!? なんか眼が虚ろだぞ!? 大丈夫か!?」

 さっきまでの拗ねていた表情を一変してヴィータが恭也の肩を揺らす。
 それぐらいの恭也の表情はやばかった。
 具体的に言うとマジで死んじゃう五秒前?

「あぁ、大丈夫だ。記憶はきちんと封じ込めたからな」

 封じ込めなければならないほど過酷だったのだろう。
 きっと彼の記憶の中にはブラックボックスが一杯だ。主に士郎、その次に琴絵さん&美影さんの事だろう。
 これからも封印すべき記憶が増え続けるだろう恭也に敬礼。

「そうか、よかった」

 ほっと一息。

「あぁ、すまん。それじゃ早速いこう。さっきの非礼に今日は俺がおごってやる」
「いいのか!?」
「あぁ」

 ヴィータの満面の笑みに嬉しさを感じてそれをテレと感じているのか頬をかく。
 微笑ましい光景だ。
メンテ
Re: Strikers −不破− 短編集 ( No.79 )
日時: 2008/01/25 21:47
名前: シンフォン

『一歩前へ』その2


「いきなり甘味屋はどうかと思うが」
「いいじゃねぇか、おっちゃん、餡蜜お願いー!」
「はあ、俺は宇治茶アイス金時で」

 あいよーと奥の方からしわがれた声が聞こえる。中々に年季が入っているようだ。

 数分もしない内に品が出される。一口。さっぱりしていて中々に出会えないほどの美味さだ。

「ふむ、しかしこんな店よく見つけたな」

 もし、ヴィータが随分と前から知っていたなら確実にはやてに教えているはずだ。
 そして、確実に恭也はここに連行されていた。
 だが、そうなっていないという事はヴィータがつい最近知ったという事だろう。

「まぁな」

 褒められた事に満面の笑みを浮かべながら餡蜜を頬張るヴィータ。可愛すぎるぞ!





「じっちゃん! ばっちゃん!!」
「おぉ、ヴィータ」
「お帰り、ヴィータちゃん」
「うん!!」

 その光景を恭也は外から眺めていた。今日ばかりは少し席をはずしていてもいいだろう。

「大きくなったな」
「そうか?」
「えぇ、大人になったわよ」
「そっか、ばっちゃん、ありがと」

 久々の会合を楽しむ仲睦ましい光景。
 邪魔をするのは無粋だろう。








「恭也、今日はありがとうな」
「気にするな」
「それでもあんがと」

 静かに歩き出す二人。
 そんな中、そっと恭也の手が握られる。
 静かに感謝を込めるように、そしてそれ以上の想いが伝わる事を願って。その手は握られた。








 手に残る温もりを大事に反芻して一人、静かに思い出す。

「はぁ、恭也のヤツ全く気付いてないな」

 呪いウサギを抱きしめながらヴィータは呟く。
 今回は確かに老人達に会うために出かけた。しかし、恭也を誘った本当の理由は気付いてくれなかった。

「鈍感なヤツ」

 ため息を一つ。

「それでも好きなんだよな〜」

 口から零れるのは純粋な好意。
 だが、その表情は暗い。

「でも……私にそんな資格あるのかな? なのはを護れなかった私に。
 間接的にとはいえ恭也から沢山のもん奪っちまった私に…………」

 彼女の想いに答えられる者はまだいない。
















 詩(うた)を紡ごう。たった一人だけに捧げる彼女の想いを乗せた詩(うた)を
 歌い手は鉄槌の騎士ヴィータ、その胸にある想いの名に気付き、心の命じるままに先に進もうとする者。


 初めてあいつと打ち合った時、あたしはあいつの攻撃を何とか避けられた。
 悔しかった。騎士であるあたしがあいつにはめられたなんて。
 それでも覚えているのは蒼の煌めき。透き通るほどに、悲しいほどの蒼の煌めき。
 
 あたしは剣を持たない。けど、それでもあたしには分かる。
 あいつの剣は迷って苦しんで心を殺してやっと手に入れた悲しい剣だと。

 あいつは変わった。あいつの剣に悲しさはなくなった。
 けれどすぐにあいつは空を飛べなくなった。あいつはいろんなもんを斬り捨てた。
 あたしのせいだ。あの時、なのはを守れなかったあたしのせいだ!!
 なのにあいつは笑う。そんなもんは気にしてないって。あいつは笑って平気だっていう!
 何時もあいつはあたし達に頼れって言う。泣き言ぐらい自分に言えって言う。
 じゃあ、お前は一体だれに泣き言を言えばいいんだ? お前は一体誰に頼ればいいんだ?
 
 だからあたしはあたしに誓う。鉄槌の騎士のあたしがあたしに誓う。
 もう二度と失敗しないと、もう二度とあいつが失わないですむように、もう二度とあいつが切り捨てずにすむように!
 あたしがあいつの支えになれるように、あいつが安心して戦いに出られるように。












NG
「ヴィータ。後ろに居るのは彼氏か?」
「おう!!」
「まだ付き合ってませんから!!」
・ヴィータが素直すぎて尚且つアグレッシブすぎるのでボツ
メンテ
Re: Strikers −不破− 短編集 ( No.80 )
日時: 2008/02/06 15:33
名前: シンフォン

『祝杯』その1


「という訳で、今からバーベキューをしますっ!」
「はやて、何がという訳なのか分からないよ?」

 唐突に叫びだしたはやてを当たり前のように止めるフェイト。
 はやての奇行には慣れているがせめて理由ぐらいは知りたい。

「いやな、某Pが主要キャラを書いたお祝いにっ!」
「某P?」
「神のお告げや。気にせんほうがええ」

 フェイトは?を浮かべているが他のものは何も突っ込まない。
 理由などどうでもいいのだ。皆でドンちゃん騒ぎさえ出来れば。

「はやて部隊長、私まだ書いてもらってないんですけど?」
「何いってんの? ティアの分はきちんと書かれとるで? 唯、公開できひんだけや」
「はやてさん、私も書いてもらってないですよ!」
「過去編があるやん」
「あれはメインヒロインじゃないですか!」
「あぁ〜、まぁ頼んどくわ。某P、スバルのも書いたって。でも妹の域から抜け出したからあかんで?(怒)」

 抱き合わせでも書いてもらえることに喜びを表すスバル。
 単純すぎる。

「そもそも、私は話しにさえ上がってないですよ?」
「シャーリーはサブキャラやからな〜。まぁ、その内、出番があるかもしれんから気長にまち」

 そんな言葉で誰もが納得してしまい、
 電波発言満載の会話は終了し、バーベキューの準備が始まった。






「「「「「「「「「「「「「「「「「かんぱーーーい!!」」」」」」」」」」」」」」」」」

 総勢、26人が集まっての乾杯。許容量オーバーですたい。
 

ガキンッ!!

 開始早々に箸と箸がぶつかる音が広がる。

「スバル、それはアタシが狙ってたんだぞ?」
「ヴィータ副隊長、私もそれを狙ってましたよ?」
「副隊長命令だ。他のやつを狙え」
「ヴィータ副隊長も上司の懐の広さを見せてもらえないでしょうか?」

 苛烈な言葉を交わしながらもただ一つの串を取ろうとお互いに牽制しあう。
 無手を主体としているスバルが有利かと思われるが、
 長き年月を戦いに明け暮れてきたヴィータの経験もそれに相当するものだった。

 にらみ合い、手を出し、はじく。
 中々に手を出せない。ふっ、二人の目が嗤う。

 私/アタシの肉に手を出そうとはいい度胸だ!

「いい度胸じゃねぇかよ。スバル」
「ヴィータ副隊長も大人気ないですね」
「ははっ、いくぜっ、アイゼンっ!」
「マッハキャリバーっ! 私の肉を死守するよっ!」

 開始早々に『話し合い』が始まりかけたその時っ!

「アホーーー!!」

 バシンバシンと二人の頭にハリセンが炸裂する!

「始まったばっかりやのに何してるんやな。全く、そういうのは最後に残った一切れを取り合うときにやるもんや」

 そこっ!?

「という訳でこれはうちが没収」
「「あ〜〜〜!!」」
「他のも焼けてるから仲良くせんとな? 最後の一切れは別として」

 にっこりと笑うはやてにしぶしぶと二人は従った。




「もう、スバルは仕方ないわね」
「あっ、ギン姉! 取っててくれたの?」
「スバルがあわてんぼさんだって分かってたから」

 にっこりと笑うギンガはスバルの母親のようだったと誰もが語りたかった。


「ギン姉。私に用意してくれたお皿よりもギン姉のお皿に盛られてるお肉の方が多いんだけど?」

 ギンガの差し出していない方の手に乗っている大量の串が無ければっ!

「わっ、私だって食べたいから……」
「ギン姉。まだ大きくなるつもり?」
「スバルだって、結構大きいでしょ?」
「わっ、私はまだ成長期だから!」
「私だって、まだ大きくなってるわよ」

 二人してある一部の自慢のしあいに少しばかり顔を赤くする男性陣がいることに二人は気付かない。
 そして、それをうらやむ視線を向けている女性もいることにも……

「ティアちゃん。大丈夫よ。胸は感度だから」
「シャマル先生。ありがとうございます」

 六課の中では比較的小さな部類に入ってしまう二人は傷を舐めあっていた。

 お子様体型はこもう、気にしないようだ。心の中でスバルの訓練メニューをきつくする事をその小さな胸に誓っていたが。

「小さいっていうなよっ!」

 聞こえない、聞こえない。





「そういえば、なのはから聞いたんだが……ユーノ。お前、子供の頃にフェレットの姿でなのはと一緒に風呂に入ったらしいな?」
「ぶっ!」
「へぇ、ユーノ先生流石ですね」
「ユーノ、君は最低だ」

 侮蔑、ある意味尊敬などの様々な視線がユーノに集まる。
 昔は淫獣と呼ばれ、そのレッテルは未だに取れない。 

「ちょっと待って! 今更そんな昔の事掘り返さないでよ! というかそんな事知らない人のほうが多いんだから!」
「だからだろうが。もう繰り返さないとは思うが、それでもキャロにヴィヴィオがいるからな」
「そうだな。情操教育に悪いから他のみんなに注意を呼びかける必要があるな」
「僕も義姉さんに伝えておくかな?」

 口々にユーノをからかう。
 そんな事はしないと分かっているが、それでもからかうのが大人の心情だ。
 決して普段のストレスをユーノにぶつけているわけじゃない。

「酷くない? というか今は司書の仕事が忙しすぎてそんな事出来ないよ!」
「ほぉ、という事はするつもりがあったのか?」
「ないないないない! というか僕の扱いが酷くない!?」
「何を言っているんだ? 僕と同じで君の戦闘シーンなんて潰れてるじゃないか。今更だ」
「うわぁ、確かに僕の戦闘シーンが一個もないや」
「僕なんて恭也に取られてるからな」
「僻むな。俺だって辛いんだぞ?」

 かなりのメタ発言。

「僕もFLANKERさんのところみたいに活躍が欲しいよ!」
「無茶を言うな。FLANKERさんのところみたいに収拾がつかなくなったらどうする?」
「うぅ、出番が欲しいよ〜」

 出番が本編でさえ少ないユーノは泣いていた。
メンテ
Re: Strikers −不破− 短編集 ( No.81 )
日時: 2008/02/06 15:39
名前: シンフォン

その2:

「そっ、そのシャーリー。これ結構美味しかったんだ。食べて……」

 グリフィスが勇気を出して、シャーリーに話題を出そうとして近づくと言葉が止まってしまった。

「ふえ?」

 そこにはすでに沢山の食料を頬張っていたシャーリーが、無論、グリフィスが進めようとした食べものもその中に入っていた。

 さめざめと泣くグリフィスにぽんと置かれる手。

「泣くなよ。これからがんばればいいさ」
「そうですよねっ!」
「あぁ、そうだ。恭也隊長みたいにハーレム状態じゃなくてもっ! 一人の女性に振り向いてもらえればっ!」
「はいっ、そうですっ!」

 この日、グリフィスとヴァイスの間に硬い友情が結ばれる……

「そうだよ。ラグナとさえもとの関係に戻れればっ!」
「ヴァイス陸曹。それは人としてどうかと?」
「何言ってやがる! ラグナとな……眼会わせられないんだよ。あの時以来、ギクシャクしててよ……」
「ですが……妹に振り向いてもらえればいいなどと。血が繋がってるんですよ?」
「血の繋がりなんて関係ないだろ!?」

 ヴァイスのびっくり発言にグリフィスはため息をついた。
 息が合うかと思ったら相手は変態だったのだ。
 少しでも共感を持ってしまった自分が情けない。

「そういうお前だってあのシャーリーに相手にされてないじゃねぇか!」
「それは言わないで下さい! こっちだって気にしてるのに……うぅ、何でデバイスの方にばっかり眼が行ってるんだろ?
 結構アプローチかけてるんだけどな〜」

 心の汗がグリフィスの目からあふれ出ていた。

「俺もラグナと……」

 無論、ヴァイスの目から心の汗が流れていた。
 この日、二人は分かり合えないまでも意中の相手を振り向かせる為に色々と相談を持ち掛け合うような関係になる。

 尚、六課の腐女子に噂されるのは当たり前なので割愛。









「カレル、リエル。久しぶりだな」
「「パパ〜」」
「ははっ、よしよし」

 アットホームな光景が広がる。

「「恭也パパは〜?」」

 二人の発言によってギシリと空気が止まった。

「エイミィ?」
「あはははっ、恭也くんが休みを利用して遊んでくれるから二人とも恭也くんをパパって呼んじゃってw」
「恭也ーーーーー!!! お前仕事があるだろうが! デュランダルで氷付けにしてやる!」
「「パパ、ダメ! 恭也パパをいじめたら!」
「カレル、リエル!? 何故あんなヤツをかばう!」
「「恭也パパは遊んでくれるもん!」」
「くっそーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 この日からクロノは必死になって休暇を取れるように日々に仕事に従事したw。







「うぅ、皆酷いや」

 先ほどまでいじくられていたユーノは泣いていた。
 StSでは三度しか出番がなかったから尚更泣いている。

「あぁ〜、もうそんなに落ち込まないでくれよ。ユーノ」
「うぅ、アルフ、ありがとう」
「まぁ、みんな久しぶりに集まってはっちゃけてるだけだから……ザフィーラ!」
「むっアルフ。こっちにこないか? キャロが用意してくれた(ヴォルテール)の肉が意外と美味いぞ?」

 アルフとの言葉の交わしあいで心が癒されていたのに邪魔な存在が。

 まぁ、アルフとザフィーラからすればユーノの方が邪魔な存在なのだが……
 尚、ザフィーラはユーノを敵視している。
 普段からアルフの近くに居るし、その上、同じ使い魔だし。

「そうなのかい? よっしいっちょ食べ溜めをしよう」
「そういうと思って用意しておいたぞ」
「ありがとう!」

 アルフの心を良く知り尽くしたザフィーラが誘導してユーノからアルフが引き離される。
 ユーノは全く見ていなかったがザフィーラはアルフの肩を抱いたときにユーノに向かって嗤っていた。

「……僕もそろそろいい人見つけないとダメだな〜」

 そんな光景を羨ましく見ながら、将来に出会うであろう誰かに夢を馳せる。
 だが、それは長くは浸れない。 

「「ユーノ先生」」
「えぇ〜とヴァイス君とグリフィス君だっけ?」
「大丈夫です! 俺たちはきっといい人を!」
「あははっ、がんばってね?」

 何となく眼が危険だったので仲間に加われませんでした。





「はいっ、お兄ちゃん」
「ぐふっ、まっまて」
「はい、恭也さん」
「フェイトも……待ってくれ」
「あかん、うちも負けられへん。という訳で、恭兄〜。あ〜んや♪」

 イスに縛られて三人娘に出来上がった串を次から次へと食べさせられている恭也。
 開始早々に彼のお腹は一杯になっていた。
 今はフォアグラを作る為に飼われているガチョウのような状態になっていた。

「たっ、頼む……誰か、た……す…………け………………」

 助けを求める先は男同士熱く語り合う、ヴァイスとグリフィス。
 だが、二人に助けの視線を向けたら睨み返された。

 それはもうキサマは敵だっ! といわんばかりの鬼のような形相で。



「何故だ……」








「あっ、主があんなに楽しそうにしている……だが、恭也は苦しそうにしている。
 助けた方がいいのか? それとも主を優先した方がいいのか?」

 恭也の現状を横から見ていたシグナムは悩んでいた。
 はやての笑っている表情は出来るならばずっと見ていたい。
 だが、その為に、恭也を犠牲にしていいのだろうか? 
 というかこのまま行けばガチョウのように丸々と肥えてしまう。
 それは何とかして阻止したい。
 だが、はやての笑っている顔は見ていたい。

 どっちを取るべきかを真剣に悩んでいるシグナムに声がかかる。

「シグナム」
「あぁ、シャマル。私はどうすれば……」
「簡単な事よ」
「そうなのか?」
「えぇ、私達も参加すればいいだけだから♪」
「はっ!?」

 シャマルの見当はずれな言葉に愕然とするシグナム。
 察していたんじゃないのか?

「羨ましくないの? 私は羨ましいのだけど」
「…………」

 羨ましくないといえば嘘になる。
 恭也が困っているのはちょっとばかり嫌だが、本当はちょっとばかりはやて達に嫉妬していた。
 『あ〜ん』を遠慮なく出来る三人に。

「じゃあ、行きましょうか!」
「おいっ、シャマル!?」
「早くしないと、恭也くん。食べきれなくなっちゃうわよ?」
「あっ、いや。その……」

 シャマルに強引に連れて行かれてしぶしぶと付き合う振りをするシグナム。
 本当は少しばかり嬉しかった。



 シグナムとシャマルが参戦した為にこの日、恭也が体重計に乗ったときに増えていた分は――――
メンテ
Re: Strikers −不破− 短編集 ( No.82 )
日時: 2008/02/06 15:41
名前: シンフォン

その3:

「うぅ、私なんて、私なんて」

 一人、もはや成人した翠髪の女性が酒をあおっていた。 

「名前ぐらいきちんといいなさい!」

 ……リンディが酒に酔っていた。
 足元には茶色い一升瓶。あれ? 

「うぅ、私は出番が少ないし……本編でも出番がほとんどないし、FLANKERさんと違ってフェイトを傷つけてしまって。
 尚且つ、原作ではどうですか! 殆んど画面越し!? 出番を望んでた人も沢山いたというのに!」
「おっ、お義母さん、落ち着いてください」
「エイミィも出番がなかったのに、落ちついてるわね」
「あぁ〜、私は出番がなくてもクロノ君と一緒なら」
「うぅ、旦那さんがいる人はいいわね〜。私はクライドさんに操を立ててるし……」
「それはそれでいいことですよ」
「でもやっぱり寂しいし、誰か傍に居て欲しいわ」
「前言撤回!?」

 あっさりと返された意見に驚きすぎてツッコミが上手くできないエイミィ。
 どうやら子供達はクロノの傍に居るようだ。
 
 やっきになって普段そばにいられないことを取り返している為にほっぽり出されてしまった。
 エイミィもクロノとの愛情がそれぐらいで薄れないと分かっている。

 はいはい、新婚さん、新婚さん。


「恭也くんとかいいかも?」
「ぶふっーーーーー!!! リンディさん!?」
「ノン、お義母さんよ」
「そうじゃなくて!」
「だって、ずっと小さいころから見てて。それになのはさんのお兄さんの恭也さんってクライドさんに雰囲気似てるでしょ?
 でも忍さんとくっついてたし。いいなぁ〜って思ってたのに。諦めたんだけど、そしたらこっちの恭也くんが格好良く成長してきて?
 なのはさんのお兄さんの恭也さんよりも男の顔見せてきてるし?
 ……そうね、きっと子供の時に恭也くんを預かったのは今、恭也くんを手に入れるためという神の思し召し!
 という訳で、あっちで凄い事になってるところに参加してくるわね、エイミィ!」

 すごい勢いで恭也のところにいくリンディを見送るしかないエイミィだった。
 というかもう反論する暇すらなくマシンガントークには疲れていた。
 酔っ払い言葉を真剣に聞いてはいけない。

「子供達の方を見よ」

 もうリンディの行動は見なかったこと、聞かなかった事にする方向で決めたらしい。
 懸命だ。









「ほら、ヴェロッサ。好き嫌いはダメよ」

 ある程度選んで食べる物を取っていたヴェロッサにまったがかかる。

「義姉さん、そんな子ども扱いしないでよ」
「あら、私からしたらヴェロッサは何時までたっても弟よ」
「はぁ、シャッハ。何とか言ってくれない?」

 何処までも姉なカリムの言葉にシャッハに助けを求めるが……

「無理ですね。私も幼少の頃恭也さんと一緒になってはっちゃけていた姿を克明に思い出せますので」

 昔の事を掘り返された。
 ぶっちゃけ今思い返すとやんちゃをしすぎて恥ずかしい。
 だが、その中で一つだけ思い至る

「恭也くんはもう大人扱いされてるじゃない!?」
「それは……(ぽっ」
「何で顔を赤らめるんだい!? シャッハ!? というか義姉さんも!?」

 異性と弟の扱いは何処まで行っても違うのです。







「エリオ君、はいっ、これ」
「ありがとう、キャロ。うん、凄く美味しいよっ!」

 恭也の場所とはうって変わって平穏そのものなエリオとキャロの空間。
 その横でフリードもおいしそうに肉を食べていた。

「良かった。香草を使ってみたんだけど、エリオ君の口にあって」
「わざわざ、ありがとう」
「うぅん、こっちこそ美味しいって言ってくれてありがとうね」

 キャロが自然保護局にいたとき、ミラに教えてもらったのだ。
 教えてもらって自分でも改良を加えた配合香草。嬉しくないはずがない。

 甘酸っぱい空気を撒き散らしているエリオとキャロだった。

 尚、幼馴染に想いを気付いてもらえない男と、妹を未だに直視できないシスコン陸曹はそれを大層羨ましがっていた。






「とっ、言うわけで恭也くん、ん〜」

 口にフライドポテトをくわえたリンディがなのはやフェイト、はやてを押しのけて恭也に迫っていた。
 その事に唖然として手が出せないなのは、フェイト、はやて。
 普段では見る事の出来ないリンディの姿と、今まで恭也にラブラブび〜むを送っていなかったリンディの参戦に頭がこんがらがっていた。

「リンディさん!?」
「はいっ、恭也くんへの愛に目覚めたリンディです♪」

 何故か♪をつけても許されるリンディ。
 そう、彼女は永遠の二十代! クロノは何時生んだなどと聞いてはいけない。というかクロノってクライドの連れ子じゃなかったけ?

「お母さん!」
「何? フェイト」
「何でお母さんが恭也さんにそんな事してるの!? 応援してくれるんじゃなかったの?」
「恭也くんの魅力に気付いただけよ!」

 頬を真っ赤に染めたリンディが答える。
 間違ってはいけないが、それは恭也への口移しで頬を染めているのではなくアルコールによるもの。

「くっ、まさか母さんが敵に回るなんて」
「当たり前よ。知ってる? 応援と応戦じゃ、Sを入れるだけで変わる事だって」
「それはキーボードで打った時の話やーーーー!!」

 もうリンディのめちゃくちゃ発言にはやてもツッコミをいれるしかない。
 突如参戦したリンディの周りは騒然。
 っだが、三人娘は譲る心算はない!

「という訳でお兄ちゃん、食べてね〜」
「恭也さん、そっ、その。私も…………凄く恥ずかしいですけど」
「くっ、負けてられへん! という訳で恭兄、負けへんで!」
「私も遅まきながらの参戦で負ける気はないわ!」
「きょっ、恭也。そっ、その。んっ」

 影に隠れていたシグナムも頬を真っ赤に染めて口移しに参戦!?
 尚、シャマルは影ながら……恭也介護の準備でポイントUPを狙っていた。
 さすが、腹黒参謀。


 くそっ、もうキャパオーバオーだぜ。
 後は各自の脳内に任せます。









「ギンガさん、よく食べますね」

 ティアが見ている先にはギンガが消費したと思われる串の山。
 スバルには劣るだろうが……それでも凄い。

「そうでもないの。食べないと体が持たないし」
「あっ、そういう意味じゃないんですけど……」

 ギンガが抱える問題を思い出し、慌てて訂正する。
 それに女性が沢山食べるといわれて気持ちいいはずが無い事に気付く。

 だが、それでもティアは見てしまう。
 その肉によって大きくなったと思われる胸を!

「ギンガさん、大きいですね。スバルも」
「食べて、運動して、寝てるから」

 ティアはじっと自分の胸を見下ろす。
 スバルなみとは言わずともそれなりに食べて、運動して、寝ているのに……
 
 一向に大きくならない。
 スバルはまだ成長途中だというのにっ!

「もう少し、沢山食べたら大きくなるかな?」
「さっ、さぁ?」

 ティアの思いっきり本気の問いにギンガは答えられなかった。


 後日、何時も以上に食べている姿を見て、色々と噂が広まった事は割愛。
メンテ
Re: Strikers −不破− 短編集 ( No.83 )
日時: 2008/02/06 15:42
名前: シンフォン

その4:

「ヴィヴィオちゃん。ピーマン、食べないとダメですよ?」
「う〜、ピーマン嫌い」

 以前とは異なり、仲のいいヴィヴィオとリィン。
 恭也の事で共通に話し合うことがあり、尚且つ年齢も近いこともあって二人はいつの間にか仲良くなっていた。

 唯、恭也の膝を取り合うのは今でも変わらない。

「リィンはたべられるの?」
「リィンはもう好き嫌いがありませんっ!」

 胸を張って威張るリィン。
 小さい胸を張っている姿はどこか可愛らしい。

「あら? リィンちゃん。リィンちゃんだって前までピーマン食べられなかったわよね?」
「シャッ、シャーリーっ!」
「リィンの嘘つき」
「えぇ〜とリィンは嘘つきなんかじゃありません! もうピーマンは食べられますぅ!」
「じゃあ、食べてみて」

 そういってヴィヴィオから差し出されるピーマン。

「こんなの簡単ですぅ」

 ヴィヴィオからピーマンを受け取ってぱくりと口に含む。
 苦味が口の中に広がるがそれでも嫌な顔を出さずに食べきった。

「凄い」
「リィンに好き嫌いはありません!」
「じゃあ、もう一個」
「はいです」

 次々と差し出されるピーマン。
 まだあまり好きではないがヴィヴィオにお姉ちゃんっぽく見せる為に頑張って食べていた。

「リィン。気付いてないみたいだけど……それはヴィヴィオちゃんのお皿にあったピーマンよ?」
「しっ、しまったですぅ!」









「うっぷ、終わったな」

 宴は終わった。
 途中で大きな騒ぎになったりもしたがそれでも宴は終わる。

「お疲れだな。恭也」

 ちゃっかりと今まで隠れていたザフィーラ。
 アルフと一緒にいちゃつく降りをして難を逃れていたのだ。

「そう思うなら助けてくれ」
「主が笑っているのを止めろと?」
「お前には無理だな」

 ザフィーラのあり方を下手をすればはやてよりも知っている恭也が認める。

「悪くないと思わないか? こうして何でもない風に食事を楽しめると言うのは」
「俺たちが出会う前なら考えもしなかった光景だな」
「あぁ、主と出会う前の俺たちなら考えもしなかった光景だ」

 二人しても思うはこの今の日常。
 些細な事でこうしてパーティを開け、些細な事で笑い合え、些細な騒動でさえ楽しめる日常。
 
「変えがたいな」
「あぁ、何にも変えられないな」

 二人が思うのはこの空気を、この空気を構成する全ての人を。

「「護りたいな」」

 護りたい。
 傲慢だと二人は知っている。
 そんな事が容易くない事などとうの昔に知っている。

 だが、それでも護りたい。このかけがいのない日常を。

「恭也、誓わないか? 以前も一度誓ったがもう一度」
「あぁ、そうだな。もう一度、自分に向かって」

「盾の守護獣、ザフィーラ。俺はこの光景を護る事を誓おう。
 つい先ほどまでこの幸せな世界を作り出してくれた全ての人を護る盾をなる事を、
 主の盾であるが為に、主が笑っていられる世界を、己自身が護りたいが為に、
 この世界を作り出してくれる全ての人を、全ての災厄を跳ね除ける盾となる事を誓おう」
「『閃く風の守護者』、不破恭也。俺はこの光景を護る事を誓おう。
 つい先ほどまでこの幸せな世界を作り出してくれた全ての人を護る剣となる事を、
 護りたいが為に、誰よりも俺自身がこの光景を護りたいが為に、
 この世界を作り出してくれる全ての人を、全ての災厄を斬り裂く剣となる事を誓おう」

 お互いに護る事を信念とした漢の前で誓う己への誓い。
 お互いに認めあう存在だからこそ、お互いに同じ信念を抱く為に、お互いの前で己に誓う。

 背中を合わせて戦う事はない。
 お互いに決めているパートナーがいる。
 
 だから背中を合わせて共に戦う事はない。

 だが、それでもお互いに信頼している。
 同じ信念を抱くが為に、『剣』と『盾』であるが為に、

 下手をすれば誰よりも……

「ザフィーラ。お前はアルフを護りたいんじゃないのか?」
「馬鹿を言うな。アルフは共に戦場で背中を任せられる人だ。それに護りたいなど言えば
 『アタシはあんたに護られたいなんて思ってない!』といって殴られる」
「尻に敷かれているな」
「それでも存外に悪くないぞ? 何時かお前にも分かる」
「そう遠くない未来にか?」
「そう遠くない未来にだ」

 まだ見えぬ未来。
 そんな何時来るか分からない未来を楽しく思う。

「「護ろう」」

 何時か終わりがくるこの世界。この空気。
 大切な人が居るから、笑って欲しい人が居るから、
 









NG
「キャロ、これ美味しいね。でもなんとなく変わってる味がする」
「そうかな?」
「うん、豚とも牛とも鶏とも違う気がするんだけど」
「あぁ、もしかして、エリオ君は食べた事ない? ドラゴンの肉」
「ぶふっーーーー!!」
「ヴォルテールに協力してもらったの」

 後日、ヴォルテールが召喚された時、その尾の短さにエリオは泣いた。

 さすがにないだろ?と思うのでボツ



「あっ、あの。兄さん。お肉焼けたんですけど…どうぞ」
「ん、ありがとう。ティア。うん、美味いぞ」
「あっ、あはは。そんな唯焼いただけだから他と変わりませんよ」
「そうか?」

 ティア編がまだ公開されていないのと、この後、ティアにトリプルブレイカーとか色々降り注ぐのでボツ
メンテ
Re: Strikers −不破− 短編集 ( No.84 )
日時: 2008/02/14 00:34
名前: シンフォン

『バレンタイン前夜』

その1:


 バレンタイン。
 男はその日チョコレートをもらえるかどうかで一日をそわそわする日。
 女はその日に本命のチョコをどうやって渡そうか悩む日。

 と言われているがリアルではそんな事は滅多にない。
 チョコレート会社の陰謀によってある日。
 
 恋人がいない人間は普通に過ごす日である。


 …………そして恋する乙女達が熾烈極まる戦いを繰り広げる胸がときめいちゃったりするよりも血みどろな日である!

 尚、血みどろなのはハーレムを形成しつつあるStrikerS ―不破―においてのみである。

 良い子は素直に義理チョコを貰って安堵するのが一番。















「さて、始めようか」
「負けないよ、なのは、はやて」
「ふふっ、うちが意外と有利やっていう事を教えてあげるで!」

 意気揚々と叫ぶ姿は正しく戦乙女。
 手に握っているは己たちが戦うために使う魔杖――――ではなくボールや泡だて器、ヘラなど料理に使う道具。
 
 だがその手握っている者が何であろうとも三人の闘志は今から戦場に赴くのと同じ――否それ以上!

 くしくも今はバレンタイン前日。
 想い寄せる人の為にチョコレートを作る日。
 
 前日に作るよりももっと前に作れよとか思うなかれ。
 前日に作った鮮度の高いチョコレートを渡したいと言う乙女心を理解して欲しい。
 
 どんなに愛情が篭っていても賞味期限は存在して、長期に渡っておいて置くと味は落ちるのだから。



 
 ライバルを出し抜くためのイベントにも関わらず三人娘が集まっているのは理由は単純だ。
 お互いを監視するため。

 チョコレートの中に危険な混入物を入れないために見張っている。
 
 
 それ以外にも恭也以外のこととなるとやっぱり仲のいい三人で作りたいと言う思いがある。


「うわっ、生クリームが沸騰してる!?」
「なのはっ! ちゃんと火は見てないと!」
「ちょっ、フェイトちゃん。何ぼけとんの!? チョコレート直火で溶かしたら焦げるに決まってるやん!」
「えっ!? 嘘、だってこの方が早いし」
「フェイトちゃん。リンディさんにチョコは湯煎で溶かさないとダメって教わらなかったの?」
「お義母さんに教わると………………際限なく甘くなるから……」
「「………………ごめんなさい」」

 緑茶に砂糖を入れるという暴挙を成しえるリンディ茶を思い出したのか青い顔をした二人。
 どう考えてもあれを普通に飲めてしまうリンディにお菓子作りを教わってしまったら糖尿病になってしまう。

「今までどないしてたん?」
「何度も繰り返して一番いいのを選んでたよ」
「エイミィさんは?」
「エイミィは……クロノのことで手一杯だったよ。クロノあれでも本局ではモテてたから」
「背伸びてからはアプローチ凄かったしなぁ〜」

 若くして提督就任、その上で美形。今までネックだった身長の低さもなくなった。
 その為、エイミィと結婚するまではエイミィは敵を排除するのに忙しかったのだ。
 尚、エイミィの為に三人娘はもとよりリンディ、レティ、恭也が暗躍したのは言うまでもない。

「今でも一夜だけでも過ごしたい人が多いから困ってるんだ」
「不倫かいな」
「エイミィさん、結婚してからも大変だね」

 今もクロノの為に頑張ってチョコを作っているエイミィの姿が三人の脳裏に浮かんだ。
 子供が出来たから安心など出来ない。寧ろ敵としては子供が出て気からこそが狙い目。
 子供が出来ると夜の生活が一気に冷えるからね。

(そう思うなら手伝って〜〜)

 脳裏でチョコ作りに勤しんでいるエイミィからそんな言葉が聞こえたがきっと幻聴。
 三人揃って聞こえたが無視。

 何故ならエイミィが戦っているように三人も戦っているのだから!








 湯煎したチョコに暖めなおした生クリームを混ぜ泡立てる。
 滑らかになるまで繰り返すのだが……

「全力全開!」

 お菓子屋の娘にあるまじき暴挙をなのはがする。
 言葉どおり、全力全開で回される手によって勢いよくチョコレートが混ぜられていく。

「「…………なのは(ちゃん)?」」

 突然の暴挙を唖然と見る二人に……なのはがフッと笑った。
 今している意図が分からないのか? 嘲っているような笑顔。否、正しくその通りの笑顔だった。

 そして思い至る。
 少しでも時間を短縮する意味を。

「まさか…………」
「ちょっ、なのはちゃん!? 最初にみんなで一緒に渡そうって決めたやん!」
「何のことかな?」

 そうなのはは日付が変わると同時にいの一番にチョコを渡すつもりなのだ。

 初めに三人で決めた同時に同じチョコを渡すと言う約束が破られる。
 昔から人はよくいう戦には夜討ち、朝駆けは基本だと。

 そう、バレンタインでチョコを渡すのはイベントなどではない。何度も繰り返すが乙女の戦なのだ!

 約束を破ってもいいかという質問があるかもしれないが、なのはに言わせればきっと。

――約束? 私はそんなの知らないの♪
 
 と言ってくれるに違いない。




 
 勢いよく混ぜられているのに一部の無駄もない。
 零れ落ちる事無く、チョコが空気を含み絶妙にとろみを増していく。

 さすが翠屋の娘。

 その姿に戦慄する二人は焦る。
 こんなにも全力全開なのに……うまく言っている事に、

「くっ、負けてられない! ……疾風迅雷!」

 なのはに負けじとスピードアップ。
 その言葉通り、腕の速さは疾風の如く、ボールの上で踊るチョコは迅雷の如き速さで滑らかになっていく!

「ちょっ、うちだけで決め台詞ないのに、二人とも卑怯やで!!!」

 一人、決め台詞もなく、尚且つ信条とするモノがない為に焦るはやて。
 決め台詞がなければ動けない事はないのだがそこはのりのいいはやて。

 というかお約束?

「…………メタネタ! 白煌招来!」
「まっ、まさかそれは!?」
「はやて、FLANKERさんの所を使っちゃ駄目だよ! あそこはリィンTが残ってるんだから!」
「なりふり構っとれんのよ。そう……意地があんねん、女の子にはーーーーーーーっ!!!」
「今度はホークスさん!?」
「元ネタはsCRYedだけどね。というかシンフォンも某Pも二人に懇意だけど勝手に使ったら!」
「きちんと許可はもらっとるから!」
「「いっ、いつの間に!?」」

 尚、本当に許可はもらってるのであしからず。

「ぬおぉおおおおおおおおお!!」
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃーーーー!!」
「私だけその系統の台詞がない!?」

 フェイトが叫ぶシーンは何故か浮かばないのでここでは不利。
 
「くっ、ごめんね。アルフ。ちょっとだけ魔力供給落させてね!」

 一気に跳ね上がるフェイトの魔力量。

「ブリッツアクション!」

 金色の魔方陣が光り輝くとともに高速に動く腕。
 否――もやはその腕の動きは視認できないほどの神速。
 
 目で捉えようとしても残像しか捕らえられない。
 なんという高速!?

 乙女の底力により何故かチョコは一滴たりともボールから零れていない!


「ちょっ、フェイトちゃん。それは卑怯だと思うのーーーー!!」
「うちなんて広域型やからそんなもんないんやでーーーー!!」

 これが近接も出来る魔導士と砲撃&広域型魔導士との違いだ。

「フフッ」

 フェイトも嗤う。
 真っ先にぬけがけをした時のなのはのように嗤う!

「もう、なりふり構ってられんね。デアボリックエミッション!」
「くっ、まさかはやてちゃんまで……アクセルシューター!!」
「こんな所で攻撃魔法!? 負けてられない! プラズマランサー!!」

 調理場なのに何故か魔法が飛び交っていた。
 しかも魔法で他の二人が持っているチョコが入ったボールだけを狙う悪質さ。
 
 バレンタイン。それは乙女にとっては本当に戦場だった。
メンテ
Re: Strikers −不破− 短編集 ( No.85 )
日時: 2008/02/14 00:35
名前: シンフォン

その2:


 所変わって今度はヴォルケンリッター(−1)の製作風景。
 己たちの主が隊舎内で魔法をぶっぱなしているとは露とも知らずにチョコレートつくりに勤しんでいた。

「はいっ、という訳で、ヴィータちゃんは石畳チョコ(生チョコ)、シグナムはガナッシュチョコ、私とリィンUがロシュに決定です」
「まっ、妥当か」
「中級者向けか……大丈夫だろう」
「リィンも頑張りますよ〜。……でもどうしてシャマルも私とおんなじ初めて作る人にオススメなんですか〜?」

 リィンはまだ知らなかった。シャマルの料理の腕が微妙である事を。
 六課就任後、料理はもっぱら食堂。八神家で集まるときでもはやて一人で作っている。

 その為、リィンはシャマルの料理の腕の微妙さ具合を知らなかった。

「リィン、言ってやんな」
「そうだぞ、リィン。世の中には聞いてあげないほうがいい事もある」
「??」

 まだまだ経験が重なっていない為に知らないことには興味津々。
 それ故に聞かないほうという意味が分からずに首をかしげていた。

「ちょっと! 二人とも!」
「……シャマル。忘れたとは言わせないぞ、 A’sコミックス レポートXの事を!」
「……あれはマジ微妙だった」

 穿り返されるのは過去。
 もはや、十年近く前のこと。というかシグナムがメタ発言!?


「……ここ最近は料理もしていない。あの時よりも料理の腕は上がったと言えるのか?」
「………………ごめんなさい。寧ろ下がりました」

 土下座せんばかりの勢いで謝っていた。
 あれ以下に下がっているとはさすがシャマルというべきだろうか?
 
「だから、初心者と言うよりも初めての人向けのに変えたんじゃない!」
 
 元々シャマルはチョコレートボンボンを作る気だった。
 だが、シグナムとヴィータに待ったをかけられ、ネットで検索した初めて向けのチョコを作ることにした。

 尚、チョコレートボンボンに使用する予定だったリキュールは、ミッドチルダの中で度数が最も高いリキュールだったと追記しておく。
 そんな度数の高い酒でナニをしようとしていたかは聞いてはいけない。
 











「さてと湯煎、湯煎」

 作る者が違う為に湯煎以降は別の肯定になるがみな仲良く作りはじめる。
 三人娘とは大違いだ。

「なぁ〜、シグナム〜?」
「なんだ、ヴィータ」

 湯煎の為にお湯の温度を温度計を引っ張り出してまで図っているシグナムが話しかけるなと言外に伝えるのを無視してヴィータが話しかける。

「やっぱり恭也に渡すのか?」
「ぶふっ! なっ何を言い出す!」

 真っ赤になって否定になっていない否定を繰り返す。
 口の中で「日頃世話になっているから」、「やつもチョコをもらえなかったら寂しいだろう?」など言い訳がましいことが呟かれている。
 
 しかし、その真っ赤に染まった頬は否定しようがない。
 
 どう考えても恭也に送るのは本命だ。

 

 そんなシグナムの様子を面白くない目で見ているヴィータ。
 何故面白くない目で見ているからは読んでいる方々の想像にお任せする。

「なー、シグナム。テンパってる所悪いんだけど、義理で恭也に渡すかって聞いたんだぞ?」
「……なっ、なんだ。そうか。まぁ、私もアイツには義理で贈るつもりだ」

 どう考えても手の中にあるモノがすでに本命である事が分かる慌てようだったのに……
 まさか、シグナムがツンデレ属性に目覚めているとはっ!

 どっちかっていうと複雑な乙女心により誰かに知られたくない想いに一票を投じたい。


「シグナム、分かり安すぎよ……ヴィータちゃんは恭也くんに義理を?」
「本命に決まってんだろ?」

 のんびりとした回答にシグナムとシャマルが止まる。
 シグナム以上にツンデレと言われているヴィータがテレもせずに答えたと言う衝撃が二人に襲う。
 
「「…………………本命?」」
「おう!」

 にっこりと嬉しそうに笑うヴィータは何となく男勝りな少女。
 それでも乙女と言う枠からは決して外れていない。寧ろ乙女という枠組みのど真ん中。
 

「すまん、シャマル。私の頬をつねってくれ」
「ついでに私のもつねり返してくれる?」
「了解した」

 目の前にいるヴィータを現実とは認められずに、今が夢でないかを確かめる。
 よっぽど素直すぎるヴィータを信じられなかったのだろう。
 
 
「「ひたたたたたたたたっ!!!」」
 
 二人して涙目になりながらも痛みを訴え、ヴィータの発言が夢で無い事を確認する。

 
「「痛い、夢じゃない………………けど、ありえない!」」
 
 痛みによって現実であると確認するが目の前の現実を直視できない。
 二人が思うのは唯一つ。

――あの、ツンデレ・オブ・ツンデレのティアとタメを張るヴィータが本心を認めた!?

 幼女にしてツンデレを地でいくヴィータが己の想いを簡単に認めるなど早々簡単にはありえない。
 だが、認めるしかないのだ。この現実を!

「シャマル〜、本命って何ですか?」

 今まで放置プレイをされていたリィンは耳年増なシャマルに説明を求める。
 リィンが知っているバレンタインとはあくまでも好きな人にチョコレートを渡すという程度。
 断じて、恋をしている相手に想いを告白するというモノではない。

「……相手のことを思うと夜鳴きしてしまう相手に渡すチョコのことを指すのよ?」
「夜鳴きなんてしてねーーーー!!!」
「夜泣きって、赤ちゃんですか〜?」
 
 純真無垢なリィンに夜鳴きというエロ用語が分からずに首を捻る。
 だが、リィンの知識にある夜泣きではヴィータがあんなにも真っ赤になりながら怒るはずもない。

 シャマルは必死に逃げ、ヴィータはグラーフアイゼンを掲げながら追いかけているので聞けない。
 残ってしまったシグナムに視線を向ける。

「シグナム。夜泣きってリィンが思っているのと違うですか?」
「わっ、私に聞くな!」

 意味は分かるがリィンに聞かせたくないのか真っ赤になって否定する。
 俯いて真っ赤になりながらぶつぶつと呟いていた。

「シグナムも夜泣きするですか?」
「なっ、違う! 違うぞ! 私は一人夜、自分で慰めているなんて事はないぞ!」
「慰める?」

 またもや理解できない単語が出てきて首を捻るリィン。
 真っ赤になって「わっ、私は恭也を相手になんて想像していない」とかぶつぶつと呟いているシグナム。
 ヴィータから逃走しつつもまだからかうシャマル。
 からかわれて首筋を己の髪の色のように真っ赤にしながらアイゼンを振りかぶるヴィータ。


 チョコレートつくりは放置されて、場が混沌を極めていた。
メンテ
Re: Strikers −不破− 短編集 ( No.86 )
日時: 2008/02/14 00:37
名前: シンフォン

その3:


「あぅ…………どうしよう」

 泣きが入っているヴィヴィオの姿。
 目の前には散乱したキッチン。飛び散っている茶色い物質。

 その横には黙したまま佇んでいる忠犬ザフィーラ。



 

 事の起こりはヴィヴィオがバレンタイン前日である今日、なのはとフェイトが一緒に眠れない事を教えられてからだった。
 普段ヴィヴィオはなのは&フェイトと一緒に寝ている。
 フェイトとなのはが揃って夜いない時だけ、恭也とヴィヴィオは一緒に寝ている。
 
 尚、ヴィヴィオ、なのは、フェイトは恭也を含めて一緒に寝ようと主張したが通らなかった。
 恭也は無論のこと、決して少なくはない人達に反対されたからだ。

恭也以外で誰が反対したかは六課の禁則事項。




 なのはとフェイトが何時もと違う行動に出たことに不満はあったが、恭也と一緒に寝られるという事で解消された。
 
 ……だが、ヴィヴィオも女の子。そう、ヴィヴィオも女の子なのだ。
 何故か、明日は女の子にとって大事な日だと女の子の直感で気付いてしまった。
 残念ながら未だヴィヴィオには乙女の直感は備わっていない。


 気付いてしまったヴィヴィオは何時もお世話になっているアイナに早速明日が何の日か聞いた。
 
 ヴィヴィオが順調に女の子として育っている事に嬉しく微笑みながらもアイナはきちんと答えてくれた。

 無論、六課にとってのヴァレンタインではなく、一般的な。
 六課のヴァレンタインは幼女に教えるには血なまぐさ過ぎる。




 アイナに聞いたバレンタインの事情を眼をキラキラとさせながら聞いていたヴィヴィオは無論参加したいと言った。
 だが、アイナも寮母。ヴィヴィオに構っている事だけが仕事ではない。


 そこで出てきたのが我らが忠犬ザフィーラ。
 無言で現れてアイナに向かって『任せろ』と言わんばかりに重く頷いた。
 
 アイナもザフィーラが唯の犬で無い事を知っているのでザフィーラにレシピと画用紙を渡してさっさと仕事に戻った。
 それでいいのか寮母さん! さすが六課の隊舎を任されるだけある!







「ココアの元と、牛乳、おさとう、お水、ホイップ。わんさん、これでいい?」
『コク』

 ココアの材料を用意してザフィーラに確認。
 ザフィーラも手元(?)にあるメモ帳を覗き込み、材料に間違いが無い事を頷いて返す。
 
 アイナも無謀ではないので、ヴィヴィオに教えたのはココアだった。
 ヴィヴィオが火を使うことに若干の不安を覚えたがザフィーラがいれば安心。 安心なのか? 犬に任せていいのか?


「ココアを入れて、お水を入れて……牛乳?」
『砂糖を少しずつ入れて、火』
「ありがとう、わんさん♪」

 肉球で見事にマジックを挟みながら書かれた字で返事をする。
 犬が字を書けることに疑問を抱いて欲しい。

「ゆっくり〜〜、ゆっくり〜、牛乳入れて〜♪」
『慌てずゆっくり』

 歌いながらココアを製作している横でマジックで注意を促す。
 どこまでもシュールだった。

「ホイップ? わんさん、どうするの〜?」
『任せろ』

 肉球で泡立て器を持って、生クリームを泡立てている忠犬。
 ここまでできるのなら声を出すぐらい大丈夫だと思うが……それでも犬がしゃべらないという夢を壊さない為に頑張るザフィーラ。

 数分後、見事に角が立ったホイップをヴィヴィオに差し出す。
 心なしか犬面なのに満足そうに見えた。

「ホイップ乗せて〜♪ 完成!」
『お見事』
「キョヤパパに頭ナデナデしてもらうの〜♪」

 ココアが出来て気分は満悦。
 これ以上がないほどににっこりとヴィヴィオは喜んでいた。
 その事にザフィーラも小さいながらも喜びを表していた。




 出来立てのココア。
 芳醇な香りが立ち、とてつもなくおいしそうだった。

『ゴク』

 ヴィヴィオの咽が鳴る。
 甘いものに目がないヴィヴィオからすれば目の前ココアはとてつもなくおいしそうだった。
 初めて火を作った料理。

 気付かれもあって甘いものをヴィヴィオの体は欲していた。

「ダメ、キョヤパパにプレゼントするんだもん」

 プルプルと首を振って頭の中に浮かんだ考えを否定する。
 だが、その視線はついさっき作ったココアに注がれている。

 じ〜〜〜っとココアを見つめては首を何度も振る。

「…………お味をたしかめないと」

 甘い香りの誘惑に耐え切れずに作ったココアに手が伸びる。
 そんなヴィヴィオを温かい目で見ているザフィーラ。とめろよ。

 コップに移ったココアから立ち上る香りを吸い込む。
 甘さがふんだんに使われた香りが心を埋め尽くす。

「いただきます」

 両手をきっちりと合わせてココアにお辞儀。
 なのはとフェイトの教育の賜物だった。つまみ食いもダメだと教えましょう。

「(コクコク)…………おいし♪」

 一口飲んで満足。
 初めて作ったにしては予想以上においしかった事にヴィヴィオは満足した。

 

 だが、またじーーーっとココアを眺める。 
 予想以上の美味しさにまた飲んでみたいという子供らしい欲求が生まれていた。

「もう一口」

 舐めるぐらいの少しだけ。
 それでもその一口は至福。甘さがヴィヴィオを包み込みニコニコと嬉しくて笑みが零れていた。










 そして冒頭に戻る。
 味見のしすぎたヴィヴィオは結局作ったココアを全て飲み干してしまった。

「わんさん………………どうしよ?」

 空になったコップと鍋。
 それを身ながら涙を瞳に溜めながらザフィーラに助けを求める。
 
 味見のしすぎたヴィヴィオが悪いといえば悪いのだが、それでも責めるのは人として良心が痛む。

『…………渡す直前にもう一度作ればいい』
「ほえ?」
『ココアは温かくなければ美味しくない。今は練習と思って明日恭也に渡す寸前に作ればいい』
「……わんさん。ありがとう」

 ザフィーラのフォローによってヴィヴィオはなんとか持ち直した。
 明日、もう一度作って今度はなくならないように決意するヴィヴィオだった。


「キョヤパパのなでなで〜〜(テレテレ)」

 渡した時に恭也に頭を撫でられる光景を夢見てヴィヴィオは明日に備えて眠るのだった。
メンテ
Re: Strikers −不破− 短編集 ( No.87 )
日時: 2008/02/14 00:38
名前: シンフォン

その4:


「さて、集まってチョコを作ることになったんだけど、エリオ。アンタなんでいるの?」
「いたらダメですか?」

 フォワード陣で集まってチョコを作る事になっていた。
 そこにいるのは無論、最近デレ期に入りかけてきたティア、恭也との関係を妹だけでは何となく不満に思ってきたスバル。
 エリオ一直線、他は欠片も目に入っていませんキャロ。そして純情にして純朴を地で行くエリオ。

 エリオがいるのはそこはかとなく間違っている。

「アンタ、明日が何の日か知ってる?」
「はい、バレンタインですよね。それぐらい知ってますよ」

 当たり前じゃないですか。と言外に告げているエリオに女性陣は呆れた。
 分かっているのなら何故、今日だけは乙女の聖域となるキッチンにいるのか! と。

「分かってるんなら出てきなさいよ」

 ティアの言葉にコクコクと自らは伝えられないキャロも頷く。
 好きな人相手にどっかいってとは口が裂けても言えない。

「僕も日頃の感謝を込めて贈り物をしたいんですけど……」

 頼りなさげに答えるエリオに閉口する。
 善意で何かを行おうとしているのはわかる。しかもバレンタインについて間違った解釈をしているっぽい。

「あんた、ヴァレンタインがどんな日って思ってるの?」
「えっ、日頃の感謝を込めて贈り物をする日ですよね。第97管理外世界「地球」のネットで調べたんですけど」

 微妙に間違っていた。
 男女ともに送るのは日本以外では当たり前だが、あくまでも「恋人」に送るのである。
 決して、日頃お世話になっている人にわざわざ義理チョコをあげる日ではない。


「…………微妙に間違ってるわよ。それ」
「そうなんですか?」

 ティアではなく、スバルとキャロに向かって聞いてみると二人してコクコクとティアの言葉を支持していた。

「じゃあ、本当のバレンタインってどんなのですか?」

 知的好奇心が刺激されたのかキラキラと眼を輝かせながらティアやスバル、キャロを見つめる。
 何故か本当のバレンタインの知識を持っていないエリオの眼は純粋すぎてティア達には痛かった。


「……えぇ〜〜〜っとね。スバル、パスっ!!」
「うぇえっ!? わっ私?」
「スバルさん、是非教えてください!」

 キラキラと知的好奇心に満ち溢れた少年の眼。とても純粋すぎて何故か直視できない。
 こんな眼をしている少年に出て行けと言い難い。

「……エリオ。バレンタインっていうのはミッドでは女の子のイベントなんだ。
 男の子も参加するけど…………作るのには参加しないモノ」
『!!?!』

 あまりにショックを受けてピッシャーーーっと落雷がエリオの後ろに発現していた。比喩抜きで。

「そっ、そんな。折角皆さんにお返しできると思ったのに……」

 地面に手を付いてとてつもなくショックですと体全体を使って表していた。

 そこまでバレンタインに別の意気込みを持っていたとは。
 さすがに三人もエリオに同情したくなった。ついでにエリオにそんな偽情報を掴ませたネットに鉄槌を下したいとも。


「エリオ。ほら、男の子にはホワイトデーっていう日があるからその日しなさい」
「……ホワイトデー?」
「バレンタインの逆ヴァージョンの日。その日に頑張れ。後一月あるから……ねっ! 元気だしなよ。エリオ」
「………………そうですね。そんな日がきちんとあるのならその日に」

 ティアとスバルに元気付けられてとぼとぼとキッチンから出て行った。
 よっぽど今日返せないのが悔しかったようだ。





 扉が閉まるまでエリオを見送る三人は沈痛な表情を浮かべていた。


 だが、扉が閉まってからは――――そんな表情は消える。

 彼女達も、想いは小さいが立派な乙女。
 戦場に出るのに余計な感情は不要!


「さて、やるわよ。スバル、キャロ」
「おう!」
「はいっ!」










 ちまちまとチョコを削って湯煎。
 さすがに乙女が拳でチョコをクラッシュしたり、銃でバラバラにしたり、お湯を沸かすのにドラゴンの炎は使わない。

 使ってませんよ?


「きゃーーっ! フリード! コンロに対抗して炎出しちゃダメッ!」
「スバル、アンタ振動拳出すな!」

 使ってないったら使ってない。







「で、キャロはもちろん、エリオだよね?」
「は……はい」

 消え入りそうな声で唯肯定する。
 少し俯きもじもじとしている姿が保護欲を誘う。

 あくまでも男の場合は。


「ティア。負けないよ?」
「スバル……アンタなんでそんなに張り切ってるの?」

 熱血が発動したスバルに冷たい眼で見るティア。
 それはもう六十度ぐらいの温度と四度ぐらいの差があった。

「ティア、ノリが悪いよ〜」
「ノリが悪いとか言われてもね。何を勝負するのかわからないし」
「……決まってるよ。どっちがキョウ兄ちゃんの妹として相応しいか!」
「競って楽しい?」
「……どうだろ?」

 ノリで熱血が発動していたらしい。

「でもでも、ほら。やっぱり女の子のイベントなんだからどっちが女の子らしいか勝負するのは楽しくない?
 私達、渡す相手はキョウ兄ちゃんだし」
「女の子らしい?」
「アンタが?」

 スバルの発言に懐疑的な視線を送るキャロとティア。キャロの視線はティアよりも強かった。

 常に傍に居るティアよりも戦闘訓練のイメージが強いキャロにはスバルが女の子らしいとは思えなかった。

「二人して酷い!?」
「だって」
「ねぇ?」

 二人眼を合わせて、頷きあう。
 日頃を考えるとどう考えてもスバルは女の子らしい部分など皆無と言っても可笑しくはない。
 
 寧ろ、漢らしい?

「私だって女の子らしいってキョウ兄ちゃんに言われた事あるよ! クリスマスに!」
「何年前の話よ」
「ついこないだだよ? キョウ兄ちゃんが雪見て、泣きそうになってた時」
「……は?」
「えっ?」

 ついこないだのクリスマスで、かつ恭也が泣きそうになっていたときは一つしかない。
 だが二人の脳裏にはその時、スバルが恭也の傍に居た記憶がない。

「いや、ちょっと待ちなさい。私がその時、兄さんを慰めたのよ?」
「ティアさんも何言ってるんですか? はやてさんの魔法で皆で慰めたんですよ?」

 意見が食い違う。
 というかメタ過ぎるからやめて? あれマルチエンドだし。




「まぁ、早く作りますか」
「ですね。エリオ君に渡す用のチョコ創らないと」
「キャロ、創っちゃダメだよ。作らないと」
「??」

 フォワード陣は他と違って滞りなくチョコを製作。
 来年にはスバルとティアが敵対している可能性も在り。今後に期待。
メンテ
Re: Strikers −不破− 短編集 ( No.88 )
日時: 2008/02/14 00:49
名前: シンフォン

その5:


「さて、エイミィ。今年もがんばるよ!」
「当ったり前!」
「リエラもがんばる!」

 意気揚々とハラオウン家の戦場(キッチン)に赴くのはすっかりロリになってしまったアルフ、長年の苦労の末、結婚に漕ぎ着けたはいいが結婚後も苦労をしているエイミィ。そしてエイミィとクロノのかすがいであるリエラ。

 尚、ハラオウン家の重鎮リンディは動かない。

 というか前回の祝杯でリンディが暴走したのは出番の少なさと酒が原因。
 
 というかシンフォンさんが許してくれないんです(涙

「がんばってね〜」

 リビングの影から三人を見守るのは無論、リンディ。
 その手には当たり前のようにリンディ茶。完全に観戦モードだ。

「ガトーショコラで今年はがんばるぞっ!」
「じゃっ、私はショコラブラウニーにしようか」
「リエラはチョコー!」

 思い思いに自らが作るチョコを考え、工程を調べる。
 一人、年相応の答えを出すリエラに全員が微笑ましくしていた。



「でっ、クロノだけかい?」
「やっぱりね〜。他の人に回せるような愛は残ってないから」
「うわっ、熱ね〜」
「アルフ〜。熱いの〜?」

 湯煎しているボールを握るアルフに痛そうな表情で見るリエラ。
 
「あぁ、熱いって意味はそういう意味じゃなくさ」
「??」

 分からずに首を捻るリエラ。 
 比喩表現がまだ分からないというのはある意味で羨ましい。



「アルフは誰に……って決まってるよね」

 聞くまでもないとエイミィは微笑む。

「いやっ、あの、私はザフィーラに渡すなんて一言も!!」
「アルフ、隠すだけ無駄ね」
「あぅ〜〜」

 真っ赤になって尻尾を丸めて全面降伏。
 周りに居る誰もがアルフとザフィーラが付き合っているのを知っているが、口に出されるのは恥ずかしさを誘う。

 

「リエラは誰に渡すんだい?」
「パパと恭也パパとカレルーーっ!」

 元気のいい返事だった。
 唯、何かを渡すという行為を楽しんでいる。
 そこに恋愛感情があるわけでもなく、純粋な好意によって作られている。


「そっか、ん? でもなんか大きさが型の大きさが違うよね」
「一番おっきいのがカレル! それで恭也パパ、パパなの!」

 リエラが作るのはオーソドックスなハート型のチョコ。
 だが、その為の型が均一ではない。

「ありゃりゃ、パパ悲しむぞ〜」

 指で指された型の大きさではクロノの分が最も小さかった。
 恭也よりも型が小さいとクロノが知れば、ディランダルどころか、クラウディアを発進させかねない。

「だって、パパ。恭也パパよりもリエラと遊んでくれないもん!」
「あははっ、もうクロノ君は〜」
「クロノも忙しいからね〜」

 三人とも微妙にクロノの勤務の忙しさに不満があるのかグチが出る。
 忙しさのあまり家によりつかないのは色々な意味で不満が生まれる。

「だから、パパにはちっさいの!」
「そっか〜、なら仕方ないな〜。で、カレルのが何で一番大きいのかな〜?」
「カレルとはいつも一緒に遊ぶもん」
「そっか」

 些細な事で大きさを決めてしまえる純真さに笑う。
 そんな可愛い理由で選べてしまえるリエラが嬉しくて微笑んでいた。






 そんな暖かい光景を見ながらリンディはお茶を啜っていた。

「ふふっ、可愛らしくていいわね」

 憧憬を込めた視線を三人に向ける。
 純粋な恋愛感情だけでチョコを作れるほどリンディの人生経験は浅くない。

 間違っても年齢の事を指していないので注意。



 お茶受けにと用意されているのはチョコ。

「今年もやっぱり今日はこれがお茶請けになっちゃうのよね〜」

 苦笑をしながらお茶請けとして用意したチョコを口に含む。
 広がるのは無限なまでの甘さ――――――ではなく、少し心に沁みるビター味。

「にがっ。やっぱり私はクライドさんと味覚が違うか」

 視線を虚空に彷徨わせる。
 
 この苦いチョコを送る人はいない。
 この苦いチョコを食べる予定だった人はやっぱりいない。


 夫婦であってもクライドとリンディの嗜好は微妙に違った。特に甘さに関しては。

 彼は大人風味の苦味のあるモノが好きだったのを思い出して。

「なのはさんに聞いてからなのに……どうして毎年作るのかしら?」

 それはきっと知らなかった時の分だけ届けたいと言う願い。
 未だこの心に貴方が残っているという証。




「苦味よりも甘い方が…………好きね」

 人生はお菓子のように甘くはない。
 甘さだけでは成り立たず、酸く、苦く、塩辛い。
 
 だからこそ、甘みを求めるのかもしれない。この甘みの少ない世界が少しでも甘くなるように。

 この甘さが抜け落ちた世界に少しでも甘さが戻ってくるように。


 甘くてとろけるほどに幸せな……甘さを求めて。






「やっぱり、何度食べても苦いわね……」

 もう一口、亡き人の為に作ったチョコを頬張る。

 やっぱり口に広がるのは苦味。
 だが、その奥に隠された甘みがある。それは糖分ではなく、幸せな記憶。

 今という苦味の奥底に隠れてしまった甘み。





 華やかなにこれから渡す事を考えて談笑しているキッチンとは対照的に、
 今年もリビングで渡せなかった――亡くしてからさらに募った想いが込められたチョコは作り手によって姿を消す。
 苦味の底に隠されている甘みを求めて。
メンテ

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