Re: 黒衣(仮投稿) ( No.458 )
日時: 2010/02/14 17:00
名前: テン






クレアに任務を受けた次の日、すでに救世主候補たちはそれぞれ役目のために別れ、行動を起こしている。
そして、その中の一組である恭也とリコは地下墓地の中を歩いていた。

「この学園はなんでもありだな」

恭也はぼやきながらも、墓地を見渡した。

「私もそう思います」

隣を歩くリコも、魔法で出した光の球体を操作しながら頷いた。
二人が目指す救世主の鎧が安置されている洞窟は、学園の地下にあると説明を受けた。
さらには話によると、今回の戦争の要であるレベリオン。それが安置されている場所にも、学園のどこからか繋がっているらしい。
禁書庫といい、救世主や破滅との戦争に関わりそうなものは、全て学園のどこかに繋がっているということになる。
大きさも尋常ではないが、こうも色々とあるとは。もう恭也はこの学園が空を飛んだとしても驚かないだろう。

「ちなみにリコは知っていたか?」
「いえ。私が知っていたのは禁書庫に導きの書がある、ということぐらいです。この学園はミュリエルが建設したものですから、彼女が繋げたのかもしれません」

あまり今は関係のないことか。
そう思いながらも、恭也は辺りを見渡す。

「どうしました?」

そんな恭也が珍しかったのか、リコは小首を傾げ、彼を見上げた。

「いや、考えてみれば、俺はここには初めて来たと思ってな」

地下墓地など来る理由もなかったため、恭也がここに来たのは初めてだ。ナナシはここで寝泊まりしているらしいし、すでにいくつか鍵やリコの魔法で扉の封印を解くなどして奥にいるため、ここまで奥にはナナシは来たことはないだろう。そもそも鍵などで封鎖されていたことからも、おそらくはほとんど人も来ないはずだ。
それなりの数の墓所。ここに埋葬されているのは、学園の関係者あたりなのだろう。それにしては、結構な数の墓がある。

「ん?」

そんなとき恭也は唐突に足を止め、目を細めた。
リコもつられて足を止める。

「マスター?」
「少し待ってくれ。何か光った。確かめてくる」

リコの魔法の光が反射して、何かが光った。それは本当に微かな反射であったが、ボディガードとして

違和感に対する感度を高めた恭也は気づけた。
まだ救世主の鎧があるという洞窟に入ったわけではないので、罠ということはないし、後から調べてもいいのだが、何となく気になり、恭也はその光を反射したものがある場所に向かう。
それは墓所の一つ。

「これは……」

その墓石の上にロザリオが置かれていた。
墓に眠る人物へのお供えかとも思ったが、少しばかりおかしい。
ここはもう地下墓地の奥地だ。鍵を所持していて、さらに魔法の封印を解けなければ来ることはできない。おそらくここにある墓は、かなり昔の人物……それこそすでに縁者が絶えた者たちが眠っているのだろう。
墓参りに来る者などそうはいないだろうし、いたとしてもここに来るには許可が必要だから、最低でも数ヶ月単位で人は来ないだろう。完全に閉鎖されていたとすれば、それこそ数十年、数百年単位で誰も訪れていないはずだ。
それにしては、そのロザリオは輝きを失っていない。数ヶ月放っておかれただけで、普通ならそれなりの埃ぐらい被っていてもおかしくない。

「…………」

恭也は慎重にそのロザリオを手に取ってみる。
やはり汚れなどはない。
首を傾げ、それから墓石を見つめた。
そこにはおそらくこの墓所に眠るであろう人物の名前が彫られている。

「ルビ……ス……フ……アス?」

恭也もこの世界の文字をある程度読めるようになってきたが、この墓石はかなり古いもののようで、かなり劣化が進んでいた。そのため名前の途中途中が欠けてしまっていて、完全には読めない。
この人物関係のある物なのだろうか。
そんなことを思ったが、考え直してみれば、関係のないことだ。
恭也はロザリオを墓石の上に戻そうとしたが、

「……ルビナス……のお墓?」
「リコ?」

リコが恭也の背後に近付いて、唐突に言う。

「知っているのか?」
「……はい。ルビナス・フローリアス。千年前の救世主候補……そして私の主、赤の主でした」
「つまり俺の先代か」

そして、ミュリエルの仲間。
ならば、ロザリオを供えたのはミュリエルだろうか。
それにしてもこんなところに千年前の救世主候補の墓があるとは。

「恐らくアルストロメリアが墓を造ったのでしょう」
「クレアの先祖か」

女王であったというアルストロメリアなら、学園に仲間の墓を造ることもできただろう。なぜ学園に、とも思うが。

「ただ、ここにルビナスは眠ってはいないでしょう」
「そうか」

身体はどこか別に埋葬されたのか、それとも千年前の戦いで、それこそ身体すら残らなかったのか。
いや、死亡していたなら、千年前に対となる白の主が救世主になっていただろうから、それも違うのかもしれない。
しかし詳しく聞く気にもなれなかった。

「マスター、それは?」

リコが恭也の手の中にあるロザリオを見て聞く。

「ああ。この墓に供えられていた。これがリコの魔法を反射して光ったんだろう」

それにしては少し強い光だったような気もするが。

「見せてもらってもいいですか?」
「ん? ああ」

恭也は頷いてリコにロザリオを手渡した。
するとリコは、すぐに目を鋭くさせる。

「これは……ルビナス……あなたはまだ……」
「どうした?」
「いえ。それよりもマスター、これは私が預かってもよろしいですか?」
「供えられていたものなんだが」
「はい。ですがこれは、おそらくルビナスの遺言、もしくは遺品と言ってもいいものです。彼女に渡さないと」
「彼女?」
「……ルビナスはきっと、まだこの世界のために戦うつもりなんです。赤の精として、彼女の強い心を……無視できません」

リコの言う意味は恭也にはわからない。だが、リコはロザリオを握り詰め、かつての主を思いだしているのか、どこか悲しげとも、嬉しげとも、誇らしげとも言える複雑な表情を浮かべていた。
それを見て、駄目だとは言えそうもない。
だから恭也は短く頷いた。




第五十七章




恭也たちは、すでに地下墓地を抜け、その奥に封鎖されていた洞窟、地下道とも言える場所に辿りつていた。
救世主の鎧が安置されているという場所に続くこの洞窟の中は、アンデットなどがそれなりに現れた。

それだけではなく、幽霊のようなものだ。
恐らく霊力を扱えなかったら、恭也ではどうにもできなかっただろう。話によると召喚器はそう言った存在にも対抗できるらしいが。
リコの魔法も本当に役に立ってくれていた。

「ふむ」

何度目かの戦闘を終えると、先を歩き出しながらも、恭也は唐突に懐に手を入れる。そしてその中から小さな小瓶を取りだした。
それはこの場所に赴く前にミュリエルから渡されたもの。
もし身が危なくなり、それでもリコを守りたいならば、彼女と自分に降りかけろと言われて渡された。

「さて、どう思う?」
「中身は石化の秘薬ですからね」

この小瓶のことはリコには言うなと言われていたが、恭也はすぐさま暴露した。
どうにも怪しいと思ったのだ。
別に信頼していないわけではない。だが、ミュリエルの目的を考えるに、何か裏があるのではと恭也は考えた。
だからこそ恭也はすぐさまリコに暴露し、試しに飛針へと降りかけてみたのだが、それは見事に石へと変化。
本当になんでもありだと、恭也はミュリエルへの批判ではなく呆れた。

「おそらくミュリエルは私と大河さんが救世主であると疑っているのでしょう。あとなのはさんと未亜さんも」

最終的に、禁書庫の最下層に辿り着いた救世主候補はその四人。
ミュリエルは、召喚器を持っていないと思っている恭也を除外しているため、その四人の中の一人が救世主候補だと考えているのだろう。

「それで当初は大河を一人で行かそうとしていたのか」

その中で救世主候補として頭角を現しているのは大河だろう。
ただこれは間が悪かったとも言える。大河が頭角を現したのは、禁書庫での戦いのあとに、恭也と戦闘訓練を行うようになってからだった。つまりミュリエルからすれば、禁書庫での戦いの後から強くなったと思われているのだろう。だから、彼が真の意味で救世主候補であるかもしれないと考えている。

「しかし、なのはは?」

なのはもそのぐらいから頭角を現し始めた。
しかし、今回ミュリエルはなのはにこれとした任務を与えなかった。

「マスターがいますから。マスターの話からすれば、ミュリエルはマスターのことを信頼し始めているでしょう。それもありますし、同時にやはり一番厄介なのはマスターだと思われているのだと思います」
「俺がいるからなのはには迂闊に手を出せない、ということか」

今回、恭也石化したならば、その後をなのはをという可能性もあったわけだ。

「ええ。ですが知佳さんと耕介さんもいますから、そう簡単な手出しはできないでしょうし、なのはさんを狙うならもっと慎重にやると思います。まずは大河さんから、というのなら一番怪しいんでいるのは大河さん、ということでしょう」
「……そうだな」

未亜も大河がいては手が出しづらいだろうし、彼女が大きく成長を始めたのはもう少し後になってからだ。おそらく未亜は一番確立が低いと思っているだろう。
任務の成功率などを考えて、今回はリコを行動できないようにすることにした、というところだと思われる。
しかし、直接殺しにくるわけではないところを見ると、切羽詰まっていないと見るべきか。
それとも殺すのは躊躇われるのか。
まあ、本当に一番救世主になる可能性のある男は除外されているわけだから、皮肉な話と言えば皮肉な話だ。

「考えてみると、俺の立場も複雑だな」
「赤の主でありながら、その正体は数人しか知らず、仮面救世主ですからね」

リコは、恭也以外にはあまり見せない笑顔を浮かべた。
彼女には本来救世主を決める者として、偽りの救世主になったことを伝えてあった。
というよりも、リコには大抵のことは教えたかもしれない。

「そういえばマスターはクレア王女とよく顔を合わせているのですか?」
「他の救世主候補たちよりは合わせているだろうな」

リリィたちなどは、初めての任務のときと、この前以外は会ったことはないだろうし、大河もあの禁書庫のとき以来だろう。
恭也は知佳と情報の交換をする際にはよく顔を合わせていたし、あのとき以外にも何度かクレアの護衛として禁書庫に入ったことがあった。

「それがどうかしたか?」

なぜそんな話を持ってきたのかと、恭也は横を歩くリコを横目で見下ろす。
するとリコは、少しばかり眉を寄せた。

「いえ、何となくマスターはクレア王女を気に入っているように感じたので」

そんな言葉を聞いて、恭也は目を丸くする。
リコはそんな恭也を見上げながらも続けた。

「赤の精であり、あなたを主にした私が言うのも変ですが、仮面とはいえ、マスターが救世主になることを了承したのが不思議だったんです。何となくクレア王女からの頼みだから了承したのかと」

リコが言い終えると、恭也は苦笑を浮かべる。

「そうだな、俺はクレアを気に入っている。他の人……例えば議員に同じことを言われても引き受けなかった。この世界で生活するのに不利になったとしても」
「なぜ、と聞いてもいいですか?」

構わないと頷き、恭也は語る。

「単純に俺は、自分の信じた道を往く人が好きなんだよ。俺の剣は大切な人だけでなく、そんな人たちの道を遮る者を斬るためでもある。そういう人たちを守るのが好きというのも、またある」

恭也がボディガードの仕事をしているのはそういう理由だ。その人が往く道を守りたいと思うからこそ。

「クレアは言ってしまえば俺とは対極だ」
「対極……ですか?」
「あいつは外に向いていて、俺は内に向いている」
「……すみません。ちょっと理解が」

リコは心底すまなそうな表情を浮かべながらも、恭也に意味を問う。

「わかりやすく言えば、あいつは王家……もしくは王国という組織のトップだ。まあ、トップとは言い難い環境ではあるし、女王になったとしても、全ての決定が通るわけでもないが、対外的にはあいつが一番の決定権をもつ。
あいつの想いはともかく、考え方と行動も王族としてのものだ。つまり個よりも全体を優先する者」

クレアは多くの民を守るためならば、個を切り捨てることを躊躇わない。全体を守るためならば、個を切り捨てる。心の中でどれだけ切り捨てたくないと悲鳴を上げようが、それでも声には出さずに容赦なく行動するだろう。
それこそ必要ならば、自分にとって大切な者でさえ切り捨てるかもしれない。
それは王に必要なものであり、王国という組織のトップにも必要なものだ。
情に流されてはいけない。とはいえ冷酷すぎてもいけない。
切り捨てたモノ以上の者を守る者。
切り捨てられた者たちからすればたまったものではないだろうが、それは決して組織の長として、王族として間違ったものではない。
それがクレアという少女ではなく、クレシーダ・バーンフリートという王女だ。

「対して俺はどこまでも個を優先する」

恭也は、例え守りたい人間を殺さなければ世界が滅ぶ、と言われようと、その人を守る方に回る。
大切な者を守るために世界を滅ぼさなければならないと言われたなら、……実現可能かどうか別として……実行するだろう。
葛藤はあるかもしれないが、最終的には個を優先する。
これは恭也個人としての性格だけでなく、その仕事……ボディガードとしても同じ。
ボディガードというのは、個……つまり護衛対象者を守ることが全てだ。極端な話だが、他の全てが全滅していようと、護衛対象者だけが最後に守りきれていればそれでいい。
無論、護衛対象者の風評や精神などを考えれば、それだけでは済まされないし、護衛対象者を危険に晒した時点で、本来はボディガードとしては失格だ。
しかし、最終的には……もしくは最悪……護衛対象者を守るのにそれしかないのなら、他は容赦なく見捨てる。
他の全体という人間全てが死のうと、ボディガードとしては護衛対象者という個を優先するのは当然のこと。全てというのには護衛をする自分自身さえ入るのだから。
全体を見捨てても個を優先する。そこに容赦はなく、個を守るために全体を見捨てなければならないなら躊躇はしない。
つまりクレアは究極的に全体を守る者であり、恭也は究極的に個を守る者。
むしろ事の次第によっては、お互い敵になりえる二人でもある。
個を切り捨てようとして、それが恭也の大切な者だったならクレアを長とする王国という全体と敵対する可能性はあったし、これからもある。また逆にクレアが王国全体を守るために、恭也という個、もしくは彼が守る者が邪魔になれば、容赦なく敵対してくるだろう。
そこまで二人の生き方は、どこまでも対極なのだ。

「対極であるからこそ、あいつのことは気に入っているんだ」

まるでお互いのないものを埋めるように。
本来なら対極であり、事によっては絶対的に敵対するというのに、相手の考えが理解できてしまう。
それはぴったりと填る凹凸。
生き方は違うとも、目的のためならば容赦なく、躊躇わないのは同じだ。
しかし、対極ではあっても、どちらも人間として間違った行動でも、想いでもない。これも結局は同じ。ただその行動と思いが外に向いているか、内に向いているか……もしくは全体に向いているか、個に向いているかの違いでしない。
どちらも向く方向は違っても、その根源は同じだ。だからこそ二人はお互いが理解できた。

「とはいえ、たまにあるのだがな」

今までその仕事の性質上、財政界などのトップ……つまり組織の長というべき人たちの護衛を恭也はしてきた。
しかし、それらを理解することはできなかったことが多い。
どうしても生き方が異なる。
本能的に水と油だと考え、心のどかで気に入らないと思ってしまっていた。無論、そんな私情を仕事に挟むことはなかったが、大抵そういう者たちの依頼は、それ以降受けることはない。
そう言った立場でありながら、クレア同様に気に入ることもある。例を上げれば、アルバート・クリステラなどだ。
それらの差は何か。
何のことはない、覚悟の差だ。

「それらの人たちは皆、どんな犠牲を出そうと、それを仕方がないと割り切るのではなく、それが自分の選んだ道だと受け入れている。憎しみだろうと、罵りだろうと受け入れる覚悟がある。だからそんな人たちの道を……想いを守りたいと思うんだ」

クレアもそういう人物だった。
だからきっと恭也は彼女を気に入っている。
彼女を、彼女の道を守るためならば、恭也は剣を振ることに躊躇いはないし、彼女の願いならば、今回のように自分の生き方を曲げない程度なら受け入れられた。
彼女の道を邪魔する議員の暗殺ぐらいは受けてもいい。クレアがそれを頼むとは思わないが。

「要約してしまえば、先ほど言ったとおり、俺はクレアのような生き方をする人間が好きなんだよ。例え敵対してしまう可能性があってもな。もちろん、その可能性は限りなく低いだろうが」

王国という組織……その根底にある理念や思想、在り方そのものは、恭也の生き方とどこまで相反するために、理解はできても、どうやっても納得はできないだろう。
組織の長……というよりも、組織そのものを恭也は忌避する。
それこそ水と油。反りが合わない。
香港警防隊に入隊しなかったのも、法を護るためなら法を犯す、法の守護者という在り方が自身を変質させてしまうかもしれないし、個を守ることができなくなる可能性も高く、根本で反りが合わないと考えたためであることは否定できなかった。
クレアのそれは使命であるが、恭也の場合はむしろアイデンティティ、もしくはレゾンデートル(存在理由)に近い。そうであるが故に、もしかしたらそれら全体の長たちよりも生き方を曲げられない。
それでも、その組織の一部を気に入ることはある。それは人そのもの。
組織の長……それもその組織を体現するような存在も本来好かないが、恭也はそこに本当の覚悟を持つ者は好む性質があった。
今回はそれがクレアだったというだけだ。

「好き、ですか」
「その生き方がな。俺にはできそうもない」
「マスターが救世主を求めないのもそういうことなんですね」
「全体を助ける気がさらさらない上に、そんな力もないしな。あったとしても、それさえ内に、個に向いてしまう」

恭也の場合、救世主というのが手段であるならば、それは個に向けてしまうし、救世主というのが目的ならば、それを目指すことはない。
世界という全体に興味はなく、世界という全体に恭也が守る個が入ってしまえば、世界を守ることも選択するが、それ以外ではありえない。
救世主の力を手段として見るなら、場合によっては手に入れることも吝かではないが、目的(立場)として見るなら興味はない。
ここまで割り切れてしまう人間も珍しいだろう。

「…………」
「マスター?」

そんな会話をしていたなか、恭也が目を鋭くさらせた。
それにリコが目を瞬かせた。敵が現れたのかとも考えたが、それらしいものはない。

「……声は聞こえていないだろうが」
「どうしました?」
「いや」

リコに首を振ってみせるか、恭也は思考し続けていた。

(どうしたものか。泳がすべきか、それとも……どちらにしても状況的にはまずくなりそうだ)

こんなことなら、多少無茶をしてでも、事前に脅威を排除しておくべきだったと内心で続け、リコには気付かれないように小さく溜息を吐いた。



◇◇◇



そこはまるで祭壇のようだった。
横に長い階段が百段以上に続き、その頂上に金色に輝くそれがあった。
いや、おそらくこれは本当に祭壇なのだろう。救世主が纏うとされるそれを祀っているのだ。

「あれが救世主の鎧、か」
「ですね」

高い場所に祀られたそれを、恭也とリコは見上げる。
長くこの場所に祀られていたにしては、輝きを失っていなかった。とはいえ、ここからでは細部まではわからない。
ここに来るまで、リコに救世主の鎧について聞いてみたが、それほど輸液な情報はない。少なくともミュリエルたちが言っていたことが真実であったということと、召喚器同様にリコが導きの書から誕生する前には、あれはすでに存在したらしい。
つまり破壊するしかないわけだ。
その前に恭也は辺りを見渡した。

「……あまりいい場所ではないな」

それは自分が戦うには適していないという意味だった。
洞窟であったから、これまでの天井は低かった。しかしここは、祭壇があるために天井が高い。
ここまで何度かモンスターにも出会ったが、恭也が天井など使い、御神の剣士としての本領を発揮でき、さらにリコの援護があったため、モンスターの数の多さに苦戦する場面こそ何度かあったが、危機と呼べるほどの自体に陥らなかった。
しかし、ここでは平面で戦わなくてはならない。

「リコ」
「はい?」
「鎧を破壊したら戦闘になるかもしれない。準備を怠らないでくれ」

破滅の将が送られる可能性があると言われていたが、周辺に敵の姿はない。隠れていたとしても、恭也に気付かせないような穏行を持つような存在は稀だ。
そもそも破滅が救世主の鎧を求めているとしたら、この場面で隠れて待つわけがない。
だからこそリコは怪訝な顔を浮かべた。

「破壊したら、ですか?」
「何を考えているのかはわからんが、誰が出てきても驚かないようにしておけばいい」

恭也は適当に濁し、自分とリコの二人がかりなら、大抵の敵は無力化できるだろうが、この人物はどうだろうと、戦術を考えるが、今はそれよりも鎧の破壊を優先するべきだ。
今度はどう鎧を破壊すべきか考える。
霊力技で破壊できるならよし。できないならリコの魔法。それでもできないなら二人がかり。そこまでやってできないなら、二人でとことん攻撃をぶつけるしかないだろう。

「とりあえず上まで行くか」
「はい」

二人がまず鎧に近付こうと階段に向かおうとした。
そのとき、

「ん……?」

恭也が声を上げた。
すぐさま足を止め、隣にいたリコを手で制し、同じく歩みを止めさせる。

「マスター?」
「……動いた」
「動いた?」
「鎧が動いた」
「え?」

リコは恭也の言葉につられ、鎧を見上げる。
鎧は祭壇の上に、まるで中身があるかのように立っているが、それは元からだ。リコには変化は見えなかった。
しかし、リコからすれば主が言うことは絶対だし、そうでなくとも恭也の感覚は鋭敏だ。信じるに値する。

「どうして」
「わからん。すでに着込んだ人間でもいたのか」

間違いないと恭也は言う。
目に見えたわけではないが、僅かに動いた気配を感じられた。それは身じろぎしたかのように感じる。
するとリコは目も同じく目を鋭くさせた。

「……怨念」
「なに?」
「恐らくあれに中身……着込んだ人間はいません。集まった怨念が鎧を動かしているのかもしれません。魔力が異常なんです。その量ではなく、質と言えばいいのでしょうか。まるで何人……いえ、何万を越える人間の狂った魔力を無理矢理融合させたかのように」

霊障のようなものかと恭也は呟き、同時に舌打ちした。
こんなことなら耕介に来てもらった方が良かったかもしれない。恭也も霊力を使えるようになったとはいえ、霊障に関することは知識的にもかけるし、それに対して効果的な戦闘法というのがわからない。

「……本格的に動くようだな」
「みたいですね」

恭也たちが離しているうちに、鎧は本格的に動き出した。
一歩。二歩。
ゆっくりと歩く巨体。

「リコ!」
「はい!」

恭也がリコの名を呼び、それに彼女が応えると、二人は大きく後ろへと跳ぶ。
同時に救世主の鎧が、大きく飛び上がった。
そして、百段以上ある階段を一気に飛び降り、先ほどまで二人がいた場所に落下。
落下の衝撃と、かなりの重さがあるのか、着地した救世主の鎧が地面を抉り、粉塵が舞い、石の飛礫が恭也たちを襲う。
二人は自分に向かってくる石を両手で捌き、さらに後ろへと下がった。
粉塵が晴れた先には、金色に輝く巨大な鎧があった。
近くで見ると本当に大きいことがわかる。少なくとも人一人が纏うレベルの鎧ではない。
兜にはまるで闘牛のような角が着いている上に、全体的に尖った部分が多く、攻撃的に見える上、金色ながらどこか禍々しさ感じさせる鎧。
だが、今はそんな外見よりも、

「浮いていますね」
「そうだな」

鎧のため当然関節部などを区切りに独立しているのだが、それらが全て浮いていて、無理矢理人の形を取らせている。
さらに人の目に当たる部分は、僅かに赤く光っている。
その目とも言える部分を見て、恭也は嘆息した。

「……どうやら敵対する意思があるようだな」
「はい……」

人の目とは違う赤い光。しかし、それが敵意を放っている。何よりその目が一番禍々しい。
恭也が抜刀すると、リコも赤の書をどこからか取り出す。

「壊そうとしているのを理解しているのか、それとも近付く者全てを排除しようとしているのか、どちらだと思う?」
「後者かと」
「そうか」

もし前者なら、ここは逃げ、後から魔法と霊力で狙撃を狙いたかったが、どうやら正面から戦うしかなさそうだ。

「行くぞ、リコ」
「はい、マスター」

リコが頷くのを見て、恭也は救世主の鎧へと飛びかかっていく。
次いでリコは、前衛で戦う主を補佐するため呪文の詠唱へと入った。