Re: 黒衣(仮投稿) ( No.434 )
日時: 2009/12/06 18:52
名前: テン





救世主候補たちは、ほとんどの者たちが呆然と目の前の喧騒を眺めていた。
その中で恭也は、ただ一人疲れたようにため息を吐く。

「そもそも初動の対応に遅れたのは、破滅が現れるなど信じていなかった貴殿たちが!」
「何を言うか! もっと軍備に金を回していれば!」
「そうだ! 救世主を養成する学園などというものより、その分を軍備に回すべきだったのだ!」
「しかし、実際に学園の生徒たちも、まだ未熟とはいえよくやってくれている! 彼らがいなければもっと大惨事になっていたぞ!」
「だが、彼らの主な行動は後方支援ではないか!」

等々、目の前で円卓の前に座る歳高の大人たちは、醜い言い争いの真っ最中だった。
クレアに召集され、入城した救世主候補たちではあったが、通された大きな会議室のような部屋では、すでにこのような論争……というよりも、責任転嫁とも言える醜い争いが行われていた。

「何よこれ、こいつら戦争してるって意識あるの?」
「ないんじゃねぇの? あったらこんなことしてる暇なんかないってわかるだろ」

リリィは怒り心頭での言葉に、大河は呆れと怒りが半々という苦虫を潰したかのような表情で答える。
だが、大半の者たちは似たような表情を浮かべていた。
恭也としては、現実などこんなものであるというのは理解しているが、そんな大人の醜い様をまだ十代で占める少年少女たちである救世主候補たちには見せたくなかった。
こんなものを目の前で見せられては、大人というそのものを信じ切れなくなりかねない。
結局自分たちは何のために呼ばれたのだと、救世主候補たちはやはり怒りを浮かべる。
恭也はそれらを感じながら、視線をクレアへと向けた。それに気付いたのか、微かにクレアが頷いたように見える。
そして、クレアは目の前の円卓を両手で強く叩いた。

「静まらぬか!」



第五十六章




幼い声でありながらも、その言葉には威厳に満ちたもの。
さらに視線を向ければ、そこに立つ幼い少女は、言葉以上に身体と雰囲気に威厳を纏わせ、目の前の大人たちを睨み付けている。

「他の世界の者たちを前に、これ以上自国の……この世界の醜態を晒すつもりか、お前たちは」

その言葉を聞いて、大人たちは恭也たちを見て、それからバツの悪そうな表情を浮かべた。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.435 )
日時: 2009/12/06 18:53
名前: テン


恭也はそれを無視し、内心でうまいものだ、と僅かに息を吐く。
クレアはわざとあれらを救世主候補たちに見せた。まあ、意図は恭也もなんとなくわかる。そのあとに、救世主候補たちを使って、大人たちの諍いを止める。
つまり、この場はクレアに支配されているわけである。それに気付いている者は少ないだろうが。

「それで私たちに一体何を?」

こういう場では、やはり大人が頼りになるのか、知佳が代表して聞いた。

「うむ。今回、そなたたちにここに来て貰ったのは少しばかり、お前たちにこなして欲しい任務があってのことだ」

クレアの周りにいる大人……賢人議会議員の者たちは何も言ってこない。
なのでクレアが淡々と説明を続けた。

「この前の破滅の侵攻、お前たちには疑問はないか?」
「は? 疑問って言われてもよ」

大河は、クレアの質問に訳かのわからないという表情を浮かべ、腕を組む。
他の者たちも質問の意味を考えながらも、同時におかしいところなどあったかを考えるが、何も浮かばない。
だが、その中で恭也が目を瞑り答えた。

「モンスターの数が異常ですね」
「いや、あんたちゃんと考えなさいよ」

思わずリリィが突っ込む。
相手は破滅で、それも戦争していたのだ。数など問題ではないだろう。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.436 )
日時: 2009/12/06 18:54
名前: テン


いや、確かに恭也の言うとおり、そのモンスターの数は脅威ではあるが、他の者たちは破滅ならば当たり前という認識である。
しかし、

「うむ。恭也の言うとおりだ」
「はあ?」

クレアは恭也の答えが正解だとばかりに頷き、しかし、それは当然のことではないかと考えている他の救世主候補たちは呆気にとられた。

「モンスターの数……このアーグに攻め込んできたのが、おそらく主力なのだろうが、その数は四万ほどだった。さらに他の州や都市などに攻め込んできたものを数えると、総数は八万を越える」
「そんなに……ですか」

ベリオが目を見開くが、クレアはさらに続ける。

「そして、斥候によると主力だけですでに十万の規模にまで膨れ上がったらしい。それ以外を含めると十数万人になるということだ」
「そんな!?」

主力が一気に倍以上になった。
王都自体やそこに住む者たちにそれほどの被害はないが、この前の侵攻で、すでに防衛役である王国軍が大打撃をくらっているというのに、これ以上になれば敗北は必至だ。

「ありえませんね」
「うむ。その通りだ」

恭也とクレアだけが、何か話が通じ合っている。
他の者たちは二人が何を言いたいのかわからない。いや、脅威が膨れ上がったというのはわかるが、二人の言葉にはそれ以外のものがあった。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.437 )
日時: 2009/12/06 18:54
名前: テン


恭也は救世主候補たちに視線を向ける。

「そもそも前の侵攻で、四万。そして、全てを含めると八万。これ自体が不可解だ。一体どこに隠れていた?」
「あ……」
「それだけの規模になれば、どうやっても情報が来るだろう」

人間を十万人集めればどうやっても目立つ。それと同じだ。モンスターの場合はそれよりも目立つ集団となるだろう。
それなのに、そんな情報は一切出てこなかった。この王都に襲撃してくるまで、どこに潜んでいたのか。どこから呼び集めたのか。とくにこのごろ色々な事件が起こり、王国軍があらゆるところに目を光らせていたはずなのだ。
まあ、これに関して恭也の中では一つの考えがまとまっているが、それをこの場で口に出すことはしない。色々な意味で危険すぎる。
そのために無難に伝えることにした。

「これ自体は 魔法がある世界だから何とかなるのかもしれんが、わずか二日ほどで主力が倍以上になるなど、本来ならありえない」

この数では予備選力を投入したというわけではないだろう。だが、これだけの数が元からいたならば、最初の侵攻でも使ってくるはずだ。破滅からすれば、攻撃拠点はそれこそ腐るほどあるのだから。
それをしていなかった以上、

「わずか二日でモンスターを掻き集めたということだ」

そういう答えにになってしまう。

「当然もう一つ疑問が出てくる。ううん、さっきも出てきた疑問がもう一度、か」

何とか理解してきた知佳が、顎に手をやりながら恭也の言葉を繋いだ。
それに恭也も頷く。
そして、

「「どこから」」

二人は同時に呟いた。

「二人の話を聞いてると、まるで突然湧いて出てきたみたいだな」

耕介も眉を寄せながら呟く。
しかし、それに返答があった。

「その通りだ」
「え?」

頷いて耕介の言葉を肯定したのはクレアだった。

「まさしく湧いて出てきたのだよ。そのモンスターたちの大半はな」
「無限召喚陣……」

リコは思いついたように言うが、その言葉は固い。それに手が強く握られている。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.438 )
日時: 2009/12/06 18:55
名前: テン


そのリコの反応を見ただけで、あまり良くない代物だというのがわかった。

「その通りだ」

無限召喚陣。
その名通り、召喚陣だ。
ただし、学園の塔にあった召喚陣とはまったくもって効果が違う。
その効果は、大地のマナを吸い取り、その力であらゆる世界から魔物を呼び寄せる代物。それも無差別に、手当たり次第に呼びを寄せる。召喚の塔にあった赤の書を利用された召喚陣のように、救世主候補だけなどの選択などしない。
つまりそれで破滅は、軍勢を一気に拡大させたのだ。

「これまでもいくつか見つかってはいたのだがな」
「複数あったのか?」
「うむ。まあ、大半が発動されていない上に小規模であったり、ダミーだったが」
「ということは、他にかなり巨大なのと、本命が残っているわけですね」

それはつまり、

「まだ……破滅は増えるということではござらんか!?」

今の時点でも、すでに手一杯の状況。だというにの、たった二日で主力が倍になった。つまり今、この瞬間も確実に増え続けているということだ。
それをどうにかしなくては……人類は負ける。
それがわかっている状況で、こんなところで論争している議員共にはもの申したいところだが、それでは同じ穴の狢になってしまうので、救世主候補たちは睨むだけで止めておいた。

「すでに本命は見つけた。だが、誰を派遣し、それを破壊させるか、ということだ」
「つまり、俺たちに破壊して来いってことかよ」

この場に集められた以上、自分たちに与えられる任務はわかりきったことだ。大河は顔を顰めて呟く。

「しかも少人数でな」

恭也の答えに、全員が彼を見る。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.439 )
日時: 2009/12/06 18:56
名前: テン


「少人数……ってどういうことよ」
「リリィ、わかりきったことだろう。ただ破壊するだけなら俺たちの所に来るものか。兵を一個大隊でも派遣すればいい。召喚陣を探さなければならないのだから、むしろ、その方が確実だ。しかし、それをしない。
クレア王女、破滅がまた動き出した、もしくは動き出す兆候があるのでは?」
「……そうだ」

クレアの肯定に恭也はため息を吐くしかない。

「わかった時点で兵を差し向けて当然。しかし、それをしていない。つまり出来ない。破滅がまた侵攻してくるからだ。ただでさえ、この前の侵攻で王国軍はかなりの被害を受けたからな」
「付け加えるなら、おそらく無限召喚陣は破滅の要だろう。そこに駒を置いていないわけがない」
「でしょうね」

だからこそ一騎当千と言って差し支えない救世主候補を数人差し向ける。

「しかし、救世主候補を全員向かわせるわけにもいかない」
「……侵攻してくる破滅を止めるためにも私たちの力は必要ですからね」

あらゆる意味で、どれだけ自分たちが危機的状況にいるのかわかり、ベリオは指を噛み、恭也の言いたいことを理解した。
全力を込めれば、一撃で数十の魔物を吹き飛ばせる力。それを戦場から全て失うわけにはいかない。
さらに救世主候補は最強の駒。戦場にそれがいるのといないのとでは、士気に大いに関わる。
つまり、自分たちは二手に分かれ、別行動を動かなければならない。

「二手ではなく、三手に別れてもらいます」

すでにクレアからだいたいの事情を聞いているのだろう。ミュリエルは目を鋭くさせ、救世主候補たちに言い付けた。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.440 )
日時: 2009/12/06 18:57
名前: テン


「三手?」
「もう一組には救世主の鎧を破壊してもらいます」
「救世主の鎧……って、なんですか?」

また知らない名前が出てきた。
救世主と名がつくということは自分たちとも関係があるのだろうか、大河たちが首を傾げる。

「救世主の鎧とは、太古の昔に創られたアーティファクトです」

デザイア事件のときに言っていた古代兵器のようなものか、とそれぞれ似たようなことを考える。

「救世主にに関わる事柄の中でも、とくに機密性の高い案件でな。あくまで伝承によるとだが、救世主の為の究極の防御装備であるらしい」
「それを取ってこいってことか?」

話をまとめるとそんなところ。
それを破滅に対する武器にする、と考えるのが普通だが、クレアは首を振った。

「違う。ミュリエルが破壊してほしいと言ったであろう?」
「破壊?」
「その鎧には、負の思念……怨念が染みついていて、装着したものをあやつる力があります」
「……お前たちの報告にあった召喚器デザイアに近い」

デザイアの名前を聞いて、一斉に顔を顰める。
あれは本当に苦労した。操られた恭也もだが、それを止めた救世主候補たちにとっても苦い事件だった。
話によると、その鎧を纏った者は、何かに取り憑かれたかのようら暴れ、人を殺し、最後には破滅を呼び寄せるまでいったという記録があるらしい。

「危険なものだというのはわかりましたが、それは今破壊しなくてはならないものなのですか?」

ベリオが眉を寄せて聞く。
彼女の質問はもっともだ。その記録を信じるならば、確かに危険ではあるかもしれない。だが、すでに破滅は動き出し、それもこちらが押されている状況だ。優先順位で言えば、低くせざるを得ないはずだ。
少なくとも今の状況では、無限召喚陣の破壊と破滅の侵攻を押さえることの方が重要に見える。そこに救世主候補を送れば、さらに他に回す人員が少なくなってしまう。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.441 )
日時: 2009/12/06 18:57
名前: テン


その意図も当然わかってるであろうクレアは、大きく息を吐いた。

「破滅がそれを狙っているらしいのだ」
「その鎧を?」
「うむ。今の状況で、そんな鎧が破滅に渡れば……」
「今以上に状況が悪くなる」

なのはがやはり眉を寄せて言うと、クレアも同じような表情で頷いた。

「こちらもものがものだけに破滅の将が送り込まれる可能性がある」
「……やっぱ俺たちが行くしかないってことか」

破滅の将の強さは救世主候補たちが一番わかる。
決して救世主候補たちのように、人を越えた身体能力や特殊能力を持つわけではない。だが、恭也と同じように人の壁を越えた戦闘者たち。王国軍では太刀打ちできないだろう。その彼らが出て来る可能性がある以上、救世主候補の誰かが行かなくてはならない。
救世主の鎧が危険だということ。
それを奪取するために破滅の将が動くということ。
それらの情報の真偽はわからない。だが、真実であった場合がまずすぎるということだ。そうである以上、最悪を想定して動くしかないだろう。

「我々は三手に別れる、それはわかりました」

先ほどからクレアに向けてだけは、恭也は敬語を使っていた。話の内容が壮絶すぎて、それに気付いている者はあまりいないが。

「しかし、今の状況では破滅を倒す、というのはほぼ不可能に見えますが」

状況はすでに最悪の一歩……いや、半歩手前だ。無限召喚陣を破壊したところで、すでに現れたモンスターは十万を越える。これをどうやって破るか。
種類にもよるが、モンスターの大半は人間複数人がかりでなければどうにもならないものが多い。それこそ生身の人間の場合、恭也や耕介レベルでもなければ、同時に複数など相手にできない。
だが、こちらは絶対的に人員が足りない上に、恭也と耕介レベルなどそういるわけがない。恐らく全州から王国軍を呼び集めれば、数という面では上回れるだろうが、そんなことをすれば、他の州が陥落する。簡単にできる行動ではない。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.442 )
日時: 2009/12/06 18:58
名前: テン


そもそも前回の時点で、あらゆる州からそれなりの人員を引っ張ってきたあとのはずだ。

「こちらの人員はどの程度に?」
「前回の防衛戦で五分の三以上は戦闘不能だ。負傷兵を魔法で回復させ……さらに、義勇兵を掻き集めて三万が精々だろう」

三万対十万。
こちらが防衛側とはいえ、この数の差はまずい。
先ほども述べたが、モンスター相手に一対一で戦うのはまずいというのに、むしろ向こうの方が一人を相手に三体以上で相手にできてしまう。
もし今回の侵攻を防いだとしても、相手に壊滅的な打撃を与えなければ、いつかは負ける。
策を用いてこれを覆せるのか。
いや、そもそも人が持ち、考え得る策というのは、大抵において人相手のものだ。化け物相手に通じるものか。
数の差は三倍以上だが、能力の差は十倍以上と見た方がいい。
それも人の思考がほとんど追いつかない化け物たち。策など効くか疑問だ。
少なくとも恭也にはそんな策は思いつかない。元々、戦略家でもないただの剣士だ。むしろ前戦で戦う一兵士でしかないのだから、こんなところにいること自体が、恭也からすれば本来はおかしい。
恭也はただクレアの目を見る。
その目はただどうするんだと聞いていた。
それにクレアは軽く頷き、その目に強い意思を込めて口を開く。

「しかし、こちらも切り札を使う」
「切り札?」

そんなものあるのか、とばかりに大河が目を見開いた。
同時になぜ今までそんなものを使わなかったんだ、とばかりの非難の色がそれぞれの表情に浮かぶ。

「そう怖い顔をするな。できれば使わずに終わらせたかったのだ」

クレア救世主候補たちの表情を見て苦笑する。だが、その笑みはどこか痛ましく見えるものだった。
同時に、頭上に映像が映った。
おそらく幻影石だろう。
空中に浮かぶそれに映っているには、まるで砲身のようにも見える。
いや、実際にこれは砲身なのだ。

「前に古代魔法兵器のことを話したことがあったな。これがそれに当たる」


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.443 )
日時: 2009/12/06 18:58
名前: テン


古代魔導兵器レベリオン。
それはアヴァターの王家であるバーンフリートに伝わる秘奥であり、最終兵器。
バーンフリート王家の血を継ぐ者にしか起動させることはできず、これの起動ができる者こそが、王の資質とも言える。
地脈から集める魔力と周囲のマナを集積し、それを破壊の力とする超兵器。
その一撃は天をも切り裂き、地を砕く。
まさに最終兵器であり、切り札なのだ。

「でも、確かそれは……」
「代償として、しばらくこの王都は都市としては使い物にならなくかるかもしれん」

だからこそできれば使いたくない代物だったのだ。

「だが、もうそんなことは言っていられなくなった」

このままでは王国の敗北は必至。追い込まれているのだ。ならば後先など考えていられる状況ではない。
恭也は頷き、話を進めることにした。

「俺たちがすべきことは四つというわけですね」
「四つ?」

一つ増えているよ、となのはは恭也の裾を引っ張ったが、恭也は合っていると告げる。

「召喚陣の破壊、救世主の鎧の破壊、破滅の侵攻の足止め、これら三つ合わせての時間稼ぎ」
「時間稼ぎ?」
「まだ……王都には住民がいる」

兵が義勇兵を含めて三万というのは、これを待避させなければならないことも理由だろう。

「あ……」

マナの摂取に巻き込まれれば、人間でさえマナを吸い尽くされ、塵に還る。ならばその前に王都の人間を逃がさなくてはならない。
無論、救世主候補たちだけでできることなどたかが知れているが、三つの任務を合わせれば、ある程度の時間稼ぎができるだろう。
クレアはその通りだと頷く。

「つまり、これからのことは私たちにかかってるってこと?」
「そうなるな」

リリィの問いに恭也は軽く頷く。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.444 )
日時: 2009/12/06 18:59
名前: テン


だが他の者たちはその責任の重さに震えた。
とくに召喚陣の破壊はこれからに関わる。失敗は許されない。救世主の鎧の破壊も、その効果が伝承通りであれば同じ。破滅の侵攻の足止めとて命に関わる。
どれ一つとっても失敗が許されない。
とはいえ全体的な時間稼ぎの要は、防衛での話。三万の王国軍と義勇兵たちにかかっているから、リリィたちだけの話でもない。結局砲台とはいえ数人。それだけで戦局が覆るわけがないし、時間稼ぎもできない。
だが、奮い立たせせるためか、恭也もクレアもそのことについては告げなかった。

「人選はどうするつもりなんだ?」

恭也と同じく、緊張の色もなく大河は聞く。

「ふむ、そのあたりはミュリエルに任せたのだが」

クレアが視線を向けるとミュリエルが再び口を開く。

「召喚陣の破壊に高町恭也、ベリオ・トロープ、ヒイラギ・カエデ」
「魔法使いはベリオしかいませんが、それで召喚陣を破壊できるんですか?」
「可能です。召喚の塔の魔法陣も、陣を破壊されただけで使用不能になったでしょう?」

なるほどと魔法使い組以外が頷く。
それを見てミュリエルは続けた。

「救世主の鎧の破壊には当真大河」
「…………」
「…………」
「…………」
「って、ちょっと待った! 俺だけ!?」

いくら待っても、他の者の名前が呼ばれないために、大河は思わず叫んだ。

「これ以上の人員は割けません」
「そんな! そこには破滅の将がいるかもしれないのに!」

未亜が抗議の声を上げると、他の者たちも続いたが、ミュリエルは揺るぎもしない。

「学園長、本当にその鎧が重要なものだと思っていますか?」

そのために恭也が改めて聞く。その視線には誤魔化しは許さないとばかりの力があった。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.445 )
日時: 2009/12/06 19:00
名前: テン


しかしそれでもミュリエルは揺らがない。

「当然です。もし伝承が真実であれば、私たちに勝ち目はなくなります。無論それが救世主以外に纏えればですが。しかし、破滅がそれ欲しているならば、それ相応の理由もあるはずです」
「では人選の再考をお願いします」
「できません。あなたも……いえ、あなた達の中ではあなたが一番これ以上人員を他に割けないのはわかっているでしょう? 当真大河の召喚器は様々な武器に変化する応用性の高い武器。ならば一人ででもできることは広がります」
「……鎧の破壊が重要であるとあなた自身が言ったはずです。大河一人では破滅の将が複数現れた場合、無理があります」
「……ではあなたならば、どのような人選に?」

折れたわけではないだろう、ミュリエルは方向を変えるためかそう聞いた。
ミュリエルが言うように、恭也自身もこれ以上人員は割けないというのはわかっている。しかし、それで鎧が奪われてもまずいのだ。

Re: 黒衣(仮投稿) ( No.446 )
日時: 2009/12/06 19:00
名前: テン


「俺の代わりに大河が召喚陣の破壊に。そして、俺とリコが救世主の鎧の破壊がいいかと」
「リコ・リス一人を連れて、ですか?」
「殲滅戦ならば久遠がリコの代わりができます。鎧の破壊にリコを連れていくのは、俺の刀、もしくは霊力では破壊できない場合を考慮してです。リコと力を合わせてというのも可能ですし、もしくはリコの逆召喚で、しばらく別の場所に移してもいいでしょう。
破滅の将が複数現れても俺とリコで何とかします。最悪、鎧だけ破壊して、やはり逆召喚で逃げるという選択もできるでしょう」

カエデとベリオの連携ならば、大河とのほうが上手くいく。そして、鎧の方の探索で破滅の将が複数人現れても、恭也とリコの二人ならば逃げ切ることも不可能ではない。
しかし、十万という大群になってしまった以上、前衛よりも破壊力の砲台が欲しいからこそ、前衛を全て破壊に向かわせたのもわかる。その中でリコがいなくなるのも痛手だろう。

「リコちゃんの代わりが俺たち、と思ってもらえませんか?」

耕介が後押しするように言う。
そもそも、耕介たちはいないはずの人間だった。
今の状態でも、耕介たちの戦力を考慮してミュリエルは分けただろう。そうでなくては四人も別の任務に向かわせられるわけがない。
それでも、ここで耕介は自分たちの名を出した。
ミュリエルが自分たちの戦力をすでに数えていたとしても、それ以上の結果を出すと言っているのだ。
さらに本人である大河が嫌々そうながら口を開く。

「破滅の将がどのくらいいるのかはわからない。けどこの前俺が戦ったやつと同レベルなら、正直二人出てこられた時点で俺に勝ち目はないし、逃げるのは無理だと思う。そうなったら最低限の鎧破壊も自信がない」

自信家であるはずの大河がはっきりと言った。
恭也の鍛えられてから、彼我戦力の計算も徹底的にやらされてきた。戦闘においては、できないことははっきりとできないと言わなければ、自分の命が危うくなる上に、さらに仲間の命まで危うくする。
だからこそ、今の大河は戦闘において自分を過大評価はしない。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.447 )
日時: 2009/12/06 19:01
名前: テン


ミュリエルはそれらの話を聞いても表情を変えない。
だが、

「わかりました」

簡単に納得してみせた。

「…………」

今までの反対が嘘のようで、恭也は眉を寄せたが、そんなことに突っ込んでいる状況ではない。
その後、ダウニーが鎧の破壊は反対だという声を上げたが、結局ミュリエルとクレアは今回の任務を変えることはなかった。
そして、最低限の話を詰めたあと、そこで解散になる。
救世主候補たちは、これからのことを考えてか、浮かない表情をしていた。それらに言葉をかけようとした恭也だが、何やら視線を感じ、その方向へと向いた。
そこには男がいた。
どちらかというと女性上位の風潮があるこの世界ではあるが、それでも議会員の半数以上は男。その中でも太っている……というよりも肥えている言った方がよさそうで、指に幾つもの指輪をつけている。
どう見ても成金の中年にしか見えない。
その男がどこか卑下た笑みを浮かべ、恭也に近付こうとしていた。

「なにか……」

御用ですか、と恭也が問おうとしたとき、

「恭也、すまないがお前は少し残ってくれ」

クレアが被せるように恭也へと声をかけた。
今度はクレアの方に向き直る。

「クレ……シーダ王女殿下、何用でしょうか?」

ここでクレアを愛称……しかも呼び捨てにしては少々まずいかもしれない。そう考えて、先ほどまでとて拙い敬語を使っていたのだ。ここまできてボロを出したくはない。まあ、元より大河などは気にせず話していたから無用であるかもしれないが。

「少し話がある」

そう言ってクレアは手招きをした。

「わかりました」

頷きながらも、恭也は僅かに振り返り、先ほどの男を見ると、なぜか忌々しそうに顔を歪めていた。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.448 )
日時: 2009/12/06 19:01
名前: テン


何が何やらわからない、と恭也は内心で肩を竦めるが、クレアにもう一度呼ばれると、仲間たちへと先に帰るように伝え、クレアへとついていった。



◇◇◇



恭也が連れて行かれたのは、会議室の隣。部屋自体の大きさは会議室の三分の一以下だが、大きめのテーブルが置かれているところを見ると小会議室と言ったところか。
他の者には聞かれたくない話、といったところと恭也は考えたが、決めつけるのも早計かと口を開く。

「それでどのようなお話が?」
「どうせこの部屋には私しかいない。もうそんな堅苦しい言葉遣いはいらん。だいたい大河など気にしていなかっただろう?」
「ふう、その分議会の人間に睨まれていたようだが?」

一応年長者として恭也は敬語を使っていただけだ。もっともそれならば大河に敬語を使わせることも年長者としてのするべきことだったかもしれないが。
大河がクレアに対等な言葉遣いをしていたために、結構議員から睨まれていたのは事実だ。

「そんなことを気にするような人間か、お前は?」
「それなりに気にはする」

恭也の場合はどちらかというと、自分よりもクレアや仲間たちの立場を考えてというところではある。

「それで先ほど俺に話しかけようとしていた議員に関係する話か?」
「気付いておったのか」
「あれだけ粘りけのある視線を向けられればな。内容は相当に気にいらないものになっただろうが」
「悪いが、私からする話もその気に入らない類だろう。他の者にとっては喜びそうなものだが、お前の場合は気に入らないものかしもしれん」
「そうか……」

あの男の視線とクレアに呼ばれたことで、何となくは予想していたことだ。
内容も何となく予想はつくが、恭也はクレアに先を促す。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.449 )
日時: 2009/12/06 19:02
名前: テン


クレアは少しばかり疲れたように息を吐くと再び口を開く。

「恭也、お前が今回私が……王家が選んだ救世主となった」
「はあ……そうか」
「驚かないのだな」
「予想はしていた」

ミュリエルの話のときは半信半疑ではあったが、こうしてクレアに一人だけ呼ばれたことを考えるとその関係かもしれないと思っていたのだ。救世主の鎧のことでの話とも思っていたが、どうやらこちらだった、というだけしかない。
そう考えると、先ほどの男はミュリエルが言っていたクレアの政敵あたりだろう。

「あの男も俺を救世主にしようとしていたわけか」
「そうだ。大方、今回の戦争が終わったあとに、救世主であるお前を御輿にするつもりだったのだろう。ついでに戦争での御輿にも、な」
「……阿呆か」

もはや怒りを通り越して呆れるしかない。

「ああ。私もそう思う。負けている状態で戦後の利権を考えるなどな。一週間後には国すらなくなる可能性すらあるというのに。とはいえ、私も人のことは言えんが」
「女王としては当然の行動だろう。まあ、まだ女王ではないわけだが」

今の状態で戦後のことなど考えている者たちに救世主という御輿を担がせれば、それこそ破滅だ。
クレアとしては、戦後のこともあるだろうが、今の状態で武器を彼らに渡したくないのだろう。

「とはいえ、俺を巻き込むな」

クレアの考えはわかる。だが、それと恭也の心情は別だ。
政治の道具にされるなどまっぴらごめんだし、戦争の御輿になるのもごめんだ。戦争の武器になるのならばまだいいが、御輿ということはただの士気を上げるためでしかあるまい。

「すまない、とは思っている」

言ってクレアはやはり疲れたように息を吐く。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.450 )
日時: 2009/12/06 19:02
名前: テン


クレアとてある程度は恭也の人となりを知っている。こういう扱いを嫌いそうなのは十分に予想がついていたのだろう。
クレア個人としては恭也にそのような枷を填めたくはない。だが、クレア王女としてはその枷を填めなくてはならない。

「他の世界から来てくれたお前に、このような馬鹿な役をやらせたくはない。とくにお前は別に救世主になりたいと思っているわけではないだろうからな」
「ああ。他に方法がないならともかく、何の理由もなく救世主なんてものになりたいとは思わん」
「それでも私はお前にそれを押しつけねばならない」
「……はあ」

はね除けるのは不可能ではない。
とはいえそれでは立場が悪くなる。自分が、ではなく、周りがだ。

「二つ条件がある」
「何だ?」
「まず聞きたい。お前は知佳さんにどこまで聞いている?」

とりあえす知佳に口止めしたのは、自分が赤の主であるということと。召喚器『斬神』を持っていること。それ以外に制限はしていない。
クレアにどこまで情報がいっているのかがわからない。このへんは知佳に任せているので、あまり介入もしていないし、この所は忙しすぎて、そのことについて知佳と話をする暇もなかった。

「手短に言えば、お前たちがレティアという書の精霊と呼ばれる存在にこの世界に送られたこと。そのレティア以外に赤の書と白の書の精霊が存在し、それが本来は救世主を決めるということ。あとは救世主の断片だな」

ほぼ全部ということだ。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.451 )
日時: 2009/12/06 19:03
名前: テン


ならば余計なことを言う必要はない。とりあえず条件に提示に入る。

「まず一つ。決定的な場面にでもならない限り、俺から救世主などと名乗り出ることはしない。話を聞いたなら、お前もわかっているだろうが、救世主は人間を救うものでも、破滅を滅ぼすものでもないしな」
「わかっておるよ。そもそも王家の者が救世主を決める、というのもただ救世主というのを政治の道具にするためにすぎない。
王家が任命した救世主、というのなら五百年ほど前に現れていてな。その悪習がまだ続いているだけなのだ」
「五百年前?」
「うむ。当時大飢饉が起きたらしてくな。そのときに、な」

なるほどと頷く。それだけでだいたい理解できてしまう。
その王家の任命した人間が召喚器を持っていたのかは知らないが、そんなものは関係ない。人は自分の身が危うくなれば拠り所を欲する。無神論者であっても、神頼みをすることはよくあるだろう。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.452 )
日時: 2009/12/06 19:03
名前: テン

神頼み、というのも人が本当にどうしようもなくなったときにすること。
形のないものでも構わないが、もしそれが形を持っていたなら。
だから王家は作ったのだ、伝説にある救世主という拠り所を。
救世主がいるから何となくなる、大丈夫だと士気を上げ、さらにその救世主を誕生させたのは王家だと宣言することで、飢饉で下がった王家への信頼を回復させる。
王家によって作られた英雄。

「よくできているものだな」
「……すまぬ」
「別に謝ることではないだろうさ。王の行動としては別に間違ってはいない」

それを認める認めないは別にして、民を先導する王としては間違ったものだとは恭也も思っていない。
これから似たようなことを自分でされると思うといい気はしないが。

「話がそれたが、今回はただ恭也は私側に引き込んでいるという状況がほしいだけだ。民への威光ではなく、議員への牽制なのだよ」
「お前が言っていた作られた救世主と比べると、何ともスケールが落ちるな」
「まったくだ」

苦笑しあうが、あまりいい状況ではない。今は利権争いなどしている時間などないのだから。
それもこれも女王が存在しないからこそ。

「もう一つの条件はなんだ?」
「俺に何かあった場合や今回の任務のようにしばらくなのはたちの元に戻れないという状況になったなら、なのはに護衛をつけてくれ」
「なに? どういうことだ?」
「先ほどの男も……というよりも、あの男を中心としているのかわからないが、あの男の派閥が俺を救世主にして使おうとしていたのだろう?」
「ああ。恭也はこのごろ学園外でも有名になってきていた。いや、我々がわざとその手の噂を流していた部分もあるが」

やはりかと恭也は嘆息する。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.453 )
日時: 2009/12/06 19:04
名前: テン


この前の救出で目立ったとはいえ、どうして学園外にまで自分の噂が届いているのかとも恭也は思っていたが、元よりクレア、もしくはその政敵がわざと噂を流して、次の救世主は恭也ではないかと思わせていたのだろう。
なかなかの情報操作だ。どうせそれらの噂には恭也が召喚器を持っていないなどというものはなく、民衆は恭也が救世主に近いところにいる、とでも思っているというこだ。
恭也があまり学園の外に出ないからこそ、いつのまにか外堀だけが埋められつつある。

「クレアを抜きで、どうやってその派閥が俺を救世主に仕立て上げようとしたのかはわからないが、そこまで外堀を埋めておいて、クレア側に俺がついたところでそれらが諦めるか?」
「当然引き入れようとするだろうな」
「では、その際に交渉の材料に……それも突っぱね続けられ最終的に使いそうなものは?」
「……人質か」

そういうことだと恭也は頷く。

「まあ、さすがにこの戦争中に手を出してくるほど馬鹿ではない、と思いたいが、あの様子ではな」

自分たちが戦場の場に立っていないからこそ、議員たは今が戦争中だという危機意識か薄い。
それを見れば、動いてきても不思議ではない。

「重ね重ね面目ない」
「別に責めているわけではないさ。クレアはクレアで良くやっていると思う」

なのはと同じほどの年齢で、本当によくやっていると思う。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.454 )
日時: 2009/12/06 19:04
名前: テン


だが、年齢故にできないこともあるのだろう。いや、どれだけ能力があろうが、年齢故に舐められる。

「耕介さんや知佳さんは大丈夫だと思う。だがなのはは少々人を信頼しすぎるし、戦うことを決めたとはいえ、優しすぎるところもあるからな。二人よりも与しやすいと思われるだろう。召喚器を持っているが、戦闘以外での人相手は少しばかりまずい。戦闘でも人相手に強く出れるかはわからないしな」

ただの過保護で終わってくれるならばいいが、政治の話になるとどうしても武力だけではどうにもならないことも出てくる。護衛というのは、別に身を守らせるためだけではなく、なのはに近付いてくる者を監視しろということだ。

「恭也の危機感はもっともだ。護衛をつけておく」
「ああ。できればダリア先生辺りを付けてくれるとありがたいが。あの人はあれで抜け目ないしな」
「っ!?」

ダリアの名前を出すとクレアが珍しく驚いた表情を見せ、目を見開く。

「その反応だとどうやら間違いないようだな」
「……鎌をかけたのか」
「半分はな。予想はしていたが確証がなかっただけだ」

ダリアはクレア……王家が派遣した諜報員ということがわかったならそれでいい。

「ふう、わかった。ダリアからは私が連絡しておこう。あと何人かをつけるが、破滅との戦闘になったらどうなるかわからんぞ?」
「それは構わないさ。最も着いていてほしいのはそれ以外の場所だからな」
「では、その条件も了解した」

これで条件はクリアだ。
恭也は見せかけの救世主になることが決定した。だが、問題はまだ残されていた。

「で、どうやって俺を救世主とする? そもそも俺には召喚器がない。形だけの救世主とはいえ、召喚器がなければ話にならないだろう」

実際にはあるのだが、これは恭也の最大の秘密……その一つだ。そう易々とは開示できない。

「ああ、それはこちらで用意した」
「用意だと? 召喚器をか?」
「正確には召喚器の偽物だ」

そういえばミュリエルもそんなことを言っていた。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.455 )
日時: 2009/12/06 19:05
名前: テン


召喚器の偽物。確かにそんなものがあってもおかしくはない。救世主はどんな望みでも叶えられるという伝説がある。それを求めて偽物を作りだした者がいたのだろう。
それに道具として救世主を作るのならば、見せかけである偽物の召喚器を王家が所持していもやはりおかしくはない。
そんなことを考えていた恭也に、クレアは一つの指輪を渡した。

「指輪?」

飾り気もない銀の指輪。しかし指輪にしては少しばかり大きい。男の恭也の指でもブカブカだ。

「それを握りしめ、リング、と呼べ」

恭也は言われた通りに指輪を握りしめ。

「リング」

と、呟いた瞬間、恭也の手の中に大剣が出現した。
大河のトレイター……剣の形態……と比べれば、刃は厚みはそれほどでもないが、その長さは同じ程度で、やはり華美な装飾はなく、無骨な剣。

「これは……」
「それも古代の遺産だ。兵器と呼べるほどのものではないが、召喚器を真似て作られたであろう魔導武器とでも言えばいいか。名は言った通りリング」
「……指輪だからリング。人のことを言えたことではないが、ネーミングセンスが悪すぎるんじゃないのか?」
「作った本人に言わぬか。まあ何千年も前の人間だから意味もないがの」

そうだなと恭也は返し、指輪から剣になったそれを見つめた。

「しかしまあ何とも……」

何でもありな世界だな、と恭也は胸中で続けるが、考えてみれば自分の世界も似たようなものだった。

「これを召喚器の代わりにしろ、ということか」
「リリィのように常時顕現している召喚器もあるが、どこからともなく現れる、というほうがインパクトと説得力はあるだろう」
「まあ、な」
「本当なら本物の召喚器を渡せれば良かったのだが」
「それこそ無い物ねだりだろう。召喚器などそうそうあってたまるものか」
「それがそうでもない」

クレアの言葉に、恭也は眉を寄せる。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.456 )
日時: 2009/12/06 19:06
名前: テン


「あるのだよ、王宮にも召喚器は」
「…………」
「千年前のメサイアパーティーにして、王女であり、後の女王であったアルストロメリア・バーンフリートが使用していた召喚器がな」
「なるほど。ライテウスと同じか」
「うむ。まあ、あれは一応、王家の至宝だ。そう簡単に外に出すわけにもいかん……というか、誰も御者として認めないから、運ぶこともできん」

ライテウスもリリィを主に認めなければ、きっとその場から動かすことはできなかったのだろう。
デザイアはまた違うだろうが。
まあ、召喚器など恭也は必要としていない。そもそもこの剣を使うこともないだろう。召喚器のように身体能力を上げることもないようだし、見た目からわかる通りに重く、恭也の戦い方には合わない。せいぜん持ち運びに便利で、小太刀が使えなくなったときに使う予備の武器にしかなるまい。

「そもそも偽りとはいえ、俺が救世主だ、などと名乗りでたくはないからな。本物の召喚器など持ってない方がいいのかもしれない」

そうは言っても、斬神を持っているが。
しかし、これも今は呼ぶことはできないし、少なくとも今のところは呼ぶつもりも恭也はなかった。

「で、この剣、どうやって消せばいいんだ?」
「単純に戻れと言えばいい。あまり複雑な造りではないようなのでな」
「戻れ」

言葉にすると本当に剣は消え、手の中に指輪が残った。
これでとりあえず、形だけは救世主として体裁が整ったわけだ。あまり興味はないが。

「面倒なことにならなければいいのだかなあ」
「それはどういう面倒だ? 破滅か、それとも我ら王家や議員たちの関係かの?」
「どちらもだ。破滅はすでに面倒の領域を越えてこのままでは負けかねんし、それに対処しながら政治絡みなど、どう考えても俺の手には余る」

恭也は首を振り、深々と溜息を吐く。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.457 )
日時: 2009/12/06 19:06
名前: テン


どうしてもこうも面倒なことばかり集まってくるのか。ただでさえここ最近は、情報収集やら、話し合いやら、自分の鍛錬の上に他の科の訓練を見たりやら、大河の戦闘訓練やらで寝不足気味だったというのに。まあ、その分睡眠不足は意識を失うという形で解消されたが。
真面目に過労でどうにかなりそうだ。
仕事で不眠不休というのはあったが、ただっじっとしていることの方が多かった。しかし今はやることが多すぎる。
しかもそのほとんどが恭也がやらなくてはいけないという状況の上、特段恭也が得意としている事柄でもないときている。
一度元に世界に戻って、縁側に座り、ゆっくり茶でも飲みたいと本気で思う。

「とにかく、救世主の鎧の破壊、任せたぞ」
「命に代えて、とは言えないが、最低限破壊だけはする。だが、大河の言っていた通り、複数人破滅の将が現れた場合、勝てるかはわからない。とりあえず一人でも多く消せるようにはしてみる」
「消す……か」
「もっと直接的に言った方がいいか?」
「戦争中だ。私とてそれなりの覚悟はある。だから別にどちらでも構わぬよ。それよりお前はそれができるのか?」

その問いは、破滅の将を倒せるのか、ではなく、人を殺せるのか、というものだ。

「……元の世界ですでにな」
「……そうか」
「元よりこの手の役は。他の仲間にやらせるつもりはなかった。俺の仕事だ」

仲間の手を血で汚させるつみりはない。ただの綺麗事と言われようと、偽善と言われようとだ。
血で……死で汚れるのは自分だけでいい。

「それにあいつらはたぶんできない。大河たちはもちろん、耕介さんたちだってそこまで割り切れはしない。捕縛を優先するだろう。だから俺がやる」

策を弄せず、真正面から戦って捕縛というのは、格下が相手か、こちらの人数がかなり多くなければ不可能だ。
それでも行おうとすれば、どこかで無理が出る。そして逆に殺されるだろう。
ならば人が殺すことができる者がやるだけの話。

「すまん。本当にお前には迷惑をかける」
「構わない。半分以上は自分のためだ」

救世主などや政治関係は巻き込まれただけだが、他は違う。
話はこれで終わりだろうと、恭也はクレアに背を向けて歩き出した。
しかし、ドアノブに手をかけたところで止まり、振り返る。

「クレア、勝つぞ」
「当然だ。破滅に人の底力を見せつけてやるとも」

二人は強く頷き合った。
恭也にしては珍しく微かに口元を歪めて、不敵ともとれる笑みを浮かべ、クレアもそれに応えるように、やはり不敵に笑う。
それから恭也は今度こそクレアの前から去った。