Re: 黒衣(仮投稿) ( No.414 )
日時: 2009/09/03 22:15
名前: テン






目覚めるとこの頃は見慣れてしまった天井があった。即ち、学園での自分の部屋。
どうやら助かったらしいと、恭也は短く息を吐く。
そのまま顔を横に向かせると、ベッドの脇に腕と顎をついて眠るなのはがいた。看病の途中で寝入ってしまったようだ。
胸の傷の視線を向けるが、痛みは最早ない。ベリオか、それとも他の誰かか完全に癒してくれたようだ。まだ少し頭が重いが、これは寝入っていたことと血を流しすぎたことが原因だろう。

「どれだけ眠っていたんだろうな」

デザイア関連の事件のときも、それなりに意識を失ったが、今回はどの程度か。短ければいいのだが。なのはがこうしてここにいる以上は、破滅の再侵攻はなかったのか。それとも再侵攻があっても、そのときも寝入ってしまっていたのか。

「ん、んん……?」

恭也が少し動いたことと、独り言を呟いたことで、なのはの意識が覚醒してはじめてきている。
できれば寝かせておいてやりたいところだが、あのあとのことを知りたい。ここは起きてもらうしかない。

「なのは」
「んー?」
「なのは」
「にゃー」
「……なのは」
「んにー」
「…………」

少し面白いと思ってしまったことに反省。
なのはの寝起きの悪さがここで出てくるか。仕方がないと恭也はなのはの肩を揺らす。

「なのは、起きてくれ」
「んんー? おにーたん?」
「たんて……いや、お前の兄だ。少し聞きたいことがある。悪いが起きてくれないか?」
「……うーん。いま、おきます」
「……寝ぼけていないで覚醒してくれ」
「おにーちゃんはやっぱりかっこいいねー」
「本格的に寝ぼけてるな」
「なのはは……んん……おきてますよー」
「俺が格好いいなど言っているうちは、起きてなかろう」
「本当のこと……って、おにーちゃん!?」

どうやらやっと脳が動き出したらしい。
できればもっと早く覚醒してほしかった。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.415 )
日時: 2009/09/03 22:16
名前: テン


なのはは飛び起きると恭也の身体をペタペタと触る。

「お、おーちゃん! 痛いところはある!? どこか変な感じがしたりとか!」
「大丈夫だ。少し頭が重いぐらいだ」

なのははそれを聞いて、恭也の顔をじっと見つめる。どうやら嘘かどうか確かめようとしているらしい。
そんなに信用がないか、と聞けば、おそらくこういうことでは信用できない、と前と似たようなことを言われるだろうから好きにさせる。
少なくとも、この世界ではなのはほど恭也の表情の変化を理解できる人間はいまい。
どのくらい恭也の顔を見ていたのか、しばらくしてなのははほっとしたように胸を撫で下ろす。

「よかったよー」
「それより、あれからどのくらい経った? 破滅はどうなった?」
「えと、おにーちゃんが寝てたのは二日だよ。破滅はよくわからないけど退却しちゃった。大河さんたちも無事」
「そうか。そんなに眠っていたのか」
「うー、あのあと大変だったんだからね? リコさんがすぐに駆けつけてくれて回復魔法かけてくれたけど」

だが、それでも足りず、なのははすぐに大河たちを捜し、連れてきた。ベリオとリリィも加わって三人がかり回復魔法をかけるが、思いのほか恭也の怪我は酷く、それでも間に合わないと、途中で大河が恭也を抱え、回復魔法をかけ続けながら、後方で怪我人の治療をしていた僧侶科の生徒たちのところに向かい、総出になって魔法をかけたのだ。
ある意味そのおかげでたった一日で怪我が治り、こうして二日目で目覚めることもでき、後遺症もなかったのだろう。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.416 )
日時: 2009/09/03 22:17
名前: テン


リコがすぐに来てくれなかったら、本当に危なかったらしい。

「迷惑をかけたみたいだな」

言いながら、恭也はベッドから立ち上がる。

「おーちゃん、まだ動いちゃだめだよ」
「そんなことを言ってられる状況でもあるまいよ。破滅がまた動き出してくるかもわからない。他の破滅の将についても聞いておかないとならない」

本当はアリサのことで、色々となのはに話しておきたいことと聞きたいこともあるし、彼女について話さなければならないこともあるだろう。
だが、やはり今は破滅のことを優先しなくてはいけないときだ。

「情報が欲しい」

アリサは、油断……もしくはあのようなことでもなければ負けることはないだろう。まあ、それはそれで未熟というしかないが。
だが、それ以上に不破夏織はまずい。絶対に勝てないとは言わないが、紙一重で勝てるか、もしくは紙一重で負ける、そのぐらいだ。
それに加え、他の破滅の将はどの程度か。
無論、他の者たちが破滅の将と戦ったのかはわからない。だが、話はしておくべきだ。

「みんなはどこにいる?」
「食堂だけど」
「では、行こう」
「本当に大丈夫なの?」
「ああ」

リコたちのおかげだろう。先ほど言った通り、少し頭が重いだけで問題はない。あとは少し血が足りないのかもしれない。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.417 )
日時: 2009/09/03 22:17
名前: テン


なのははまたもじっと恭也の顔をしばらく眺めると、深々とため息を吐く。
今の恭也は絶対に安静になどしていられないというのがわかるのだろう。

「うん。じゃあ行こう」

なのはは恭也に寄り添うように立つ。何かあったら支えるつもりなのだ。
それに頷き、恭也はなのはを連れて自室を後にした。
食堂に向かう途中、横目でなのはの顔を盗み見る。
その顔には、意識を失う前に見たような憎悪の色はない。

(やはり、早いうちに話しておくべきか)

あのときのなのはの様子は、別におかしいことではないと恭也は思っている。
確かになのはにはあんな表情をしてほしくはないが、目の前で……自分で言うのも何だが……大切な人間が血塗れになり、殺されかけたのだ。普通ならば茫然自失となるか、怒りで我を忘れるかぐらいしか選択肢はない。
そして、なのはは正しくその通りとなった。最初に茫然自失となり、その後怒り狂い、元凶に憎しみを向けのだ。
決してそれは人間としておかしい感情の波ではない。
恭也とて、目の前で同じ光景を……例えばなのはや知佳たち、救世主候補の仲間たちがそんなことになった瞬間を見れば、同じように憎悪に囚われるだろう。
人間としてはおかしくはないこと。しかし、なのはがアリサを、アリサがなのはを、お互いが正しく敵と認識したそれはまずい。
今度は恭也がそんなことにならなくても、憎悪に囚われる可能性があった。
そうさせないためには、少し話をすることしかない。もしくは恭也がアリサを何とかするかだ。
とりあえず情報をまとめたら、なのはとじっくり話をしようと恭也は心に決めた。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.418 )
日時: 2009/09/03 22:18
名前: テン


だが、このときはまだ知らなかった。
このあとなのはと話をしている余裕など一切なくなってしまうということを。
それが後に響くことになるのか、それはまだわからない。



五十五章



食堂に入ると、そこにいた生徒たちから一斉に視線を向けられた。

「うぉ……」

さすがの恭也も、百以上の視線に晒され、思わず後ずさる。
しかし、そのすぐあとに、いきなりその生徒たちに囲まれた。

「恭也さん! お怪我の具合は!?」
「動いて大丈夫なんですか!?」
「ああ、良かった!」
「兄貴! 俺は信じてました!」
「というか、まだ安静にしておいた方が……」

等々、恭也を囲む生徒たちは、次々と恭也に言葉をかけ、安堵の表情を浮かべる。中には涙を浮かべている者までいた。
正直恭也は、なぜこんなことになっているのか微妙にわからない。
いや、心配させてしまったというのはわかるが、まさか一般科の者たちからそんな言葉をかけられるとは思っていなかったのだ。
なぜなら、一部の者以外は、恭也は名前すら知らない。

「あ、いや、大丈夫だ」

少し仰け反りながらも、恭也が無難に答えると生徒たちは一様に安堵したように大きく息を吐き出していた。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.419 )
日時: 2009/09/03 22:19
名前: テン


「すまないが、大河たちと話があってな、通してもらえるか?」

そう言うと、皆邪魔になっているのがわかったのか、それぞれ謝罪をしてから恭也たちに道を譲った。
何というか、海が割れるかのようだ。その先には、なぜか微妙に気にいらなそうな救世主クラスのメンバー。ついでに言うとなぜか隣にいるなのはまで似たような顔つきをしていた。救世主クラスと席を共にしている耕介たちは苦笑気味。
人と人の間を恭也は歩くが、そのたびになぜか他の生徒たちは感極まったような表情をするのはなぜか?
わけがわからんと恭也は顔を僅かに顰める。
そして、救世主クラスの生徒たちが座るテーブルに辿り着くと、恭也はそこに空いていた、今では恭也の指定席とも言える場所になっているリコの隣に腰掛けた。そのさらに隣になのはも座った。
すると周りの生徒たちも席に座り、それぞれの話題に戻っていく。
一体何なんだと恭也は首を傾げるしかない。

「恭也さん、怪我は大丈夫なのですか?」

他の仲間たちの質問を代弁するように、リコが聞いた。

「ああ」

それに恭也は静かに頷く。
するとやはり皆は安心したように胸を撫で下ろしていた。

「あ、話の前に、何か食べたいものとかあるかな? 恭也君の分、私がとってくるよ。ちょっと飲み物お代わりしたいから」

知佳の質問で、テーブルに視線を向けると、それぞれの食事が置かれていたのがわかった。話し合いをしていただけではなく、昼食も摂っていたようだ。
飲み物のお代わりというのは、おそらく建前で、知佳は恭也を心配して取ってきてくれると言っているのだろう。
心配させないためにも、恭也は知佳の心遣いに乗っておくことにした。

「すいません。できれば血になりそうなものをお願いします」
「血?」
「うう……」

未亜が不思議そうに聞き返し、血を想像してしまったのか、カエデの顔が少しばかり青くなる。

「血が足りない」

恭也が簡潔に答えると、それぞれ微妙な表情を浮かべた。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.420 )
日時: 2009/09/03 22:19
名前: テン


「確かに、とんでもないことになってたけどよ」
「ううううう……思いだしてしまったでござるよ」

大河は、恭也が倒れていた場を思いだしたのか、微妙に顔を引きつらせる。さらにカエデも思いだしてしまい、より顔を青ざめさせていく。
それに恭也はすまないと謝罪しておくが、血が足りないのは事実だった。

「うーん、お肉……レバー系とかがいいかな」
「ならあたし……とと、私が作りましょうか?」

なぜかベリオは作り笑みっぽい笑顔を浮かべる。それを見て大河はまた変わりやがったとか呟く。
そして、もうかなり昔のことにも思える食事戦争を思いだし、恭也と大河、耕介は顔を顰めたり、眉根を寄せたりなどの反応をみせる。ちなみその会話が聞こえていたのか、少し離れた席でセルもゴホゴホと飲み物を吹き出していたりした。

「勘弁してくれ。あれは逆に血が溜まりすぎる」
「そりゃつまらない……って、もう、勝手に!」
「は?」
「ああ、いえいえ、何でもありませんよ?」

なぜか意味不明なこと口走るベリオに、大河以外が呆気にとられたような表情を浮かべると、ベリオは顔を赤くして手を振ったが、その後もブツブツと何かを言いづけている。
とにかく肉料理……とくにレバー系、と知佳は呟きながら料理を取りに行った。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.421 )
日時: 2009/09/03 22:20
名前: テン


「いくらなのはを庇ったからとはいえ、まさかあんたが大怪我を負わされるなんてね」

リリィは、すでに食事を終えていたのか、紅茶を飲みながら恭也を見る。

「ん?」

なのはを庇ったとはどういう意味か。少なくともあれは恭也の未熟だ。敵の言葉で反応が遅れるなど、精神鍛錬が甘かったとしか言いようがない。
だが、それがなのはを庇ったことになっている。
すると横からクイクイと服を引っ張られた。そちらを向くとじっとなのはが見上げてくる。
その目を見て、恭也はなのはが何を言いたいのかを理解した。
つまりなのはがそういうことにしたのだ。
そして、それは事実だった。
なのははあまり気に入らないことで、恭也自身はまるで気付いていないことだが、今の学園の中では、恭也は絶対的な信頼を寄せられ、さらに兄のように慕われている。
今回のことでそれが崩れる可能性が多少あった。しかし、それをなのはを庇ったということにして、美談として、余計に信頼を集めさせたのだ。
もちろんなのは自身はそれが気に入らない。今までも恭也は色々な人間から慕われていたが、あくまで周囲だけだ。見も知らない人間から慕われるようなことはなかった。英雄の偶像のように兄が見られるのは嫌だ。それは兄の本質を見たものではないものだし、恭也は自分だけの兄だという単純な嫉妬もある。
しかし、それでもこれからはその恭也への信頼や慕う心も重要なものになるという可能性を考慮し、なのはは自分の感情を無視したのだ。
それらは恭也にはわからないが、なのはにはなのはの考えがあるのだろうと、リリィの言葉に肯定も否定もしなかった。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.422 )
日時: 2009/09/03 22:21
名前: テン


そして、仲間たちの顔を見て、流れを変えるように口を開く。

「そういえばナナシはどうした?」

今更ながらだが、この場にナナシがいないことに気付いた。
すると耕介が苦笑を浮かべつつも、窓から外を指さす。

「ナナシちゃんなら森にいるよ。なんか怪我人が出たときのために、今のうちに薬草関係を揃えておくんだって」

ナナシは何を考えているのかわからない所もあるが、あれで仲間思いだ。生前のことはよくわからないが、薬学と薬草学に通じていたようで、その手の薬を作ることができるらしい。おそらく血だけらの恭也を見ての行動だろう。
それに頷くと、恭也は頭を下げた。

「心配をかけて悪かった。それと助けてくれてありがとう」

そんな言葉に、皆が照れくさそうな表情を浮かべる。
それを見てから、恭也は隣に座るリコの頭を撫でた。

「リコがすぐに来てくれなかったら危なかったらしいな。本当に助かった」
「間に合って……よかったです」

リコはうっすらと笑みを浮かべ、恭也の掌を受け入れる。
二人の様子に、苦笑したり、嫉妬したりの一同。
そんなことをしている間に、知佳が料理を持ってきてくれた、それを受け取り、知佳にも礼を言ったあと、恭也は肉料理を食べ始める。
正直、食べる時間も惜しいので、行儀が悪いことはわかっているが、恭也は聞くべき事を聞くことにした。

「それでみんなは破滅の将と戦ったのか?」

その恭也の質問に、久遠とリリィ以外が頷いた。
二人とここにはいないナナシは、むしろ大量のモンスターたちと戦っていたとのこと。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.423 )
日時: 2009/09/03 22:21
名前: テン


それから皆がそれぞれ戦った人物のことを話し始める。
ロベリア。
ムドウ。
シェザル。
それが敵の名前。
だが、それを聞いたとき、ベリオとカエデが強く反応したことを恭也は見逃さなかった。
とはいえ、ここは彼女たち自身から何か言ってくれるの待つべきかと、次の話に移行する。
つまり、どのような戦闘法でくるのか、その強さは、だ。
当真兄妹は、妹の方は少しばかり不安げに、兄は悔しそうな表情を浮かべ、先の戦いを思いだしながら口を開く。

「あの人凄く強かったです」
「ああ。未亜と組んでなかったらやられてたかもしれない」

二人が戦ったロベリアは巧いにつきた。
技術は恭也の方が上だろうが、戦い方自体が歴戦の戦士を思わせる。その戦闘法は恭也に似ていた。そして、恭也に似ているからこそ、完全には手の内を見せていないと大河にははっきりとわかった。
きっと恭也同様に奥の手のようなものが存在する。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.424 )
日時: 2009/09/03 22:22
名前: テン


続いてベリオは祈るように手を組み、耕介は腕を組んで目を瞑る。

「私たちの相手は、奇手を多く持っているような感じでした」
「そんな感じだね。火を吐いたりしてしたし」

ムドウは奇手を多く多用する。
しかし、決してそれだけに頼っているのではなく、むしろ正面からの戦闘の方が得意としているように感じたと耕介とベリオは説明した。
巨漢の身体からわかるように、その力は異常の一言に尽きる。巨大な剣を片手で軽々と扱い、それで大地を割るのだ。
そして、やはりロベリアと同じように多大な経験を持つ。
それから知佳とカエデはお互いの顔を見合わせて何を言うか吟味してから、それぞれ説明する。

「拙者たちの相手は、暗殺者という感じでござった。気付かぬうちにに近くにいるという感じでござる」
「それに近代武器……銃なんかを使ってきたよ」

シェザルは遠近どちらも対応していると言える。
いつのまにか、そう恭也のようにいつのまにか近づいてきたかと思えば、いきなりナイフなどで切りつけられるのだ。
本来暗殺者というのは、相手に気付かれる前に相手を殺すものだが、それを戦闘に応用しているという感じである。
しかし、距離をとってもマシンガンやハンドガンの弾丸が待っている。
こちらもやはり多くの経験を持つ。
それら三組の説明は簡単ではあったが、一筋縄ではいかないとうのがまざまざ理解できる。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.425 )
日時: 2009/09/03 22:23
名前: テン


そして、全員がリコを見つめる。
彼女は破滅の将と戦ったが、説明していない。

「……名前はわかりません。ただ私と同じような戦い方だと思ってください」
「リコさんと?」

リコの言葉になのはは首を傾げる。

「はい。私の相手は、私と同レベルの召喚士でした」

その説明に恭也は目を鋭くさせ、他の者たちにはわからないように、だがリコにだけはわかるように彼女へと視線を向ける。
するとリコは微かにに頷いた。
彼女が戦ったのはイムニティだ。
白の精などの説明をするわけにはいかないために濁したのだろう。
しかし、イムニティが破滅側に属している。つまり破滅に白の主がいる可能性も高いということだ。
そんなことを恭也が考えていると、今度は恭也となのはに一同の視線が向けられる。

「で、恭也にあそこまで怪我させた相手はどんなのなのよ」

リリィのそれは皮肉にも聞こえる言葉であるが、その声と目にはかなりの怒気が含まれていた。
子供の姿で椅子に座っていた久遠も、犬歯を見せて唸る。

「きょうやをきずつけた……ゆるせない」

いや、彼女たちだけではなく、恭也たちを見つめる他の者たちも、皆が視線に怒気を溜め込んでいるのがわかる。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.426 )
日時: 2009/09/03 22:24
名前: テン


全員が、恭也にあんな怪我を負わせた相手を許す気はないと目が語っていた。
それに気付きながらも、恭也は少し内心を整理するように息を吐き出す。

「名はアリサ・ローウェル」
「え……?」

恭也の言葉に一番に反応したのは知佳だった。当然だろう。彼女は知っているのだ。アリサ・ローウェルのことを。
彼を未だに苛む過去を知っている。
あのとき、記憶を覗いてしまったが故に。
そんな知佳に、恭也は視線だけで大丈夫だと告げる。それに知佳は、少しばかり辛そうな表情を浮かべた。
隣にいるなのはも、気遣うような視線を向けてくる。別に話さなくてもいいと。そんななのはにも恭也は軽く頭を撫でておく。
それだけではなく、この場に姿を現してはいないが、テーブルに置かれた十六夜からもどこか気遣わしげな雰囲気が流れていた。
それらの反応がわからない者たちは、首を傾げている。
それに恭也は気にするなと首を振る。

「彼女は……救世主候補だ」
「嘘」
「破滅に救世主候補がいるんですか!?」

それぞれ驚きをみせる一同。
だが、真実を知る恭也たちにとって予想の範囲でもあることだった。とくにイムニティも姿を見せたならば。
今度はリコが恭也に目を向ける。
そのアリサが白の主ではないか、と聞いているのだ。
それに恭也は微かに肩を竦める。否定ではなく、わからないというジェスチャーだった。
……しかし、先ほどからこの二人、いつのまにか口に出さなくても伝わるぐらいの主従関係になっていたらしい。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.427 )
日時: 2009/09/03 22:24
名前: テン


「召喚器はダガーの形状だ」
「ダガー?」

未亜が、それがどんなものかわからず首を傾げる。他の者たちも名前はわかっても形状が微妙にわからないようだ。

「ナイフと剣の中間のような武器だ。長さは俺の小太刀の半分ほど。大型のナイフと同程度の長さではあるが、ナイフとは違いその刀身は直刀の両刃で厚い。柄……グリップはまた剣より。軽く、基本は突くことを念頭においた武器だ」

スラスラと説明する恭也。
このへんの知識は、そこらの教師では裸足で逃げ出すだろう。

「しかし、彼女の召喚器は形状こそダガーだが、それらの特徴は当てにならない。その刀身の長さが変化するからな」
「長さが変化って、どのくらいだよ?」

色々と形状が変わったり魔法を使えたりする召喚器をそれぞれ所持している以上、今更刀身が長くなる能力程度で驚くことはないが、それがいったいどのような効果を及ぼすのか。それが大事だ。

「俺が確認しただけで、約十メートル。最長がどの程度になるかはわからない。なのは、どうだ?」
「ん〜、私が見たので一番長かったのは、十五メートルぐらいかなぁ」
「マジか?」
「マジ、だ。彼女と相対した場合、見た目の間合いに惑わされると痛い目を見るぞ」

大河の問いに答えながらも、できれば彼女の相手は自分がしたいと内心で恭也は呟いていた。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.428 )
日時: 2009/09/03 22:25
名前: テン


「後衛組は、一人で戦う場合、リコ以外は逃げた方がいい。彼女は後衛の人間に関しては無条件で間合いを詰められるから、呪文の詠唱や矢を番えている間に切られる。相性的には最悪だ。なのはもそれで押されていたようだしな」

リコならばテレポートで逆に間合いを詰められるが、他の後衛はそうはいかない。
恭也の忠告である以上、それが真実であると受け止め、リリィたち後衛組は頷いた。
それから恭也はアリサの容姿を説明しておいた。
そりれから話を進めると、アリサが去ったように、他の破滅の将たちも、特段押されているわけでもない状況で、突如退却していったとのことだった。

「つまり破滅の将は五人か」

耕介はどうしたものかとため息を吐く。
その言葉で恭也は忘れていた人物を思いだした。

「すみません、もう一人います」
「もう一人、ですか?」

ベリオが目を瞬かせるを見て、恭也は頷く。

「アリサと戦う前に俺が出会った人物だ。逃げられてしまったがな」

正確には逃がしたというべぎであるし、あのまま戦い続けて勝てたかはわからない。先ほど言ったように二人の差は紙一重だ。しかし、今のところは彼女の方が分がある。なぜなら彼女は恭也の手の内を……御神流を知っているのだから。

「名を……不破夏織」
「「「え!?」」」
「くぅーん!?」

恭也の呟いた名前に、今度は知佳だけではなく、耕介となのは、久遠まで強い反応を見せた。
知佳はともかく、耕介となのは、久遠は恭也を産んだ母親の名前は知らない。だから、その名字に反応したのだ。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.429 )
日時: 2009/09/03 22:25
名前: テン


不破。
偶然なのか、それは恭也の旧姓と同じなのだ。

「ど、どうしたでござるか?」

無論、四人の反応の意味がわからない救世主候補たちは四人の大きすぎる反応に驚くしかない。

「不破、これは俺の旧姓だ。これに反応したのだろう」
「きゅ、旧姓って、あんた結婚してたの!?」
「リリィ、なんでそうなる? これは俺の父親が結婚したからだ」
「ま、紛らわしいのよ! って、あれ、それじゃあ」

ちらりとリリィはなのはを見る。
確かに、前にリリィは恭也から自分たちは複雑な関係であるとは聞いていたが。

「ああ。俺となのはは半分しか血が繋がっていない」

内心でそれも怪しいかもしれないがな、と呟く恭也。
すでになのはも知っていることだし、恭也はこの仲間たちならばと、とくに隠さなかった。
なのはも気にしている様子は、少なくとも表面上はなかった。

「そして、この不破夏織だが……」

言うべきか、と少しばかり自問する。
そして、後でばれるよりも、これに関しては今のうちから話しておいた方がいいだろうという答えになった。
破滅に産みの母親がいるなどということを隠していたら、後に遺恨を残しかねない。

「俺を産んだ女だ」
『は!?』
「俺の産みの母親だ。俺もこの世界で初めて出会ったがな」
『…………』

それぞれ恭也の言葉に呆然とした言葉を浮かべるしない。
恭也の言葉を吟味し、理解してなお、言葉が出ない。
敵に、自分たちが最も信頼する男の母親がいるというのだから、それも仕方がないことだろう。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.430 )
日時: 2009/09/03 22:26
名前: テン


それに気付いていながら、恭也は淡々と言う。

「不破という名字は、偽名だろう。そう名乗ったが、父さんと結婚はしてなかったようだしな」

少なくとも士郎が婚姻までしたのは高町桃子ただ一人だ。夏織の場合は、たた名字を借りているだけという可能性の方が高い。

「本当……でござるか?」
「ふむ。カエデ、それは何への問いだ?」
「い、いえ、本当に老師の母君なのでござろうか? 老師は一度も会ったことがないのでござろう?」

つまり、顔を見てもわかるものではない、ということだ。

「ああ。それは俺も疑ったが、あの反応からすると、ほぼ間違いないだろう。むしろ気付いたのは俺が先だしな。それに俺の父親のことも知っていたし、俺の剣のことも知っていた。符号することが多すぎる。九分九厘間違いないだろう」

冷静に説明するが、むしろ他の者たちの方が、敵に恭也の母親がいるということに衝撃を受けてしまっているようだった。

「説得しないと」

だからか、未亜がそんなことを呟いた。
何としてでも破滅から手を引いてもらおうと言うと、他の者たち……とくに知佳やなのはなどは強く頷いて返す。
しかし、

「しなくていい」

恭也はやはり淡々と、そんなことは無用だと首を振る。

「お前何を言って……」

恭也のどこまでも冷静な反応に、大河が激昂しかけるが、それでも恭也は淡々と言うのだ。

「破滅だと言うなら、産みの母親だろうと関係ない。自分の意志で破滅から降りないのであれば……斬り捨てる」
「ですが、恭也さんの母親なのでしょう!?」
「ベリオ、俺の母親は今の母……桃子かーさんだ。今まで会ったこともなかった人物など、本当の母親であっても他人に等しい」

まるで他者を受け付けない言葉に、大河たちは恭也は産みの母親に思うことがあり、恨んでいるのではないかと想像した。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.431 )
日時: 2009/09/03 22:27
名前: テン


しかし、そんな想像を理解したのか、恭也は苦笑して首を振る。

「心配するな、別にあの人を恨んでいるわけではないし、意固地になっているわけでもない」

面識がないとはいえ、自らを産んだ母親。気にならないと言えば嘘になる。だが、そんなものよりも仲間や守るべき存在の方が恭也にとっては重いのだ。
恭也にとって、自らを捨てたとか、そんなことを恨むつもりはないし、そのために意固地になって戦おうとしているわけではない。
恭也の表情を見て、確かに真実を言っていると理解した一同は、少しばかり落ち着くが、本当にそれでいいのかという疑問は残ったままだった。
やはりそれにも気付いているだろうが、恭也は先を続ける。

「しかし、俺の方が分が悪いというのは間違いない」
「恭也が……?」
「あちらは俺の戦い方……父さんを通して御神流をそれなりに知っている。つまり手の内を読まれているからな」

恭也はしかしと続け、腰にかけてままの八景の柄を強く握った。

「それでも彼女は俺が倒す」

続く言葉を聞いて、救世主候補たちはやはり心配になってくる。

「さっき言ったとおり、恨みなんてものはない。ただたんに敵が俺を産んだ母親だった。それだけでしかない」
「それだけって……」
「敵ならばどんな人物であろうとも、斬ってみせる」


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.432 )
日時: 2009/09/03 22:27
名前: テン


これはきっと、恭也の境遇に立ってみないとわからない思考なのだ。
産みの母親とはいえ、会ったこともない人物など他人と変わらないというのは、恭也の中での事実だ。
しかし、他の者たちは産みの親がいた、もしくはいる。そこにどんな思考があるかはわからないが、どうやっても今の恭也の境遇というのは、想像の域を出ることができない。
一般的に言えば、きっと何か思うこともあるのではないか、と考えるかもしれないが、それはどこまでも一般的でしかないのだ。
それは決して恭也の考えではない。
恭也はどこまでも取捨選択ができる人間で、大切な者に順列をつけられる人間なのだ。無論、それは守るという意味合いでだが。

「まあ、とくに気にするな。本人の俺があまり気にしていないのだからな」

肩を竦めたあと、恭也は両手を合わせた。

「ごちそうさま」

説明を聞く、またはしながらも恭也はちゃんと食事を摂っていた。
それから水を飲み干し、恭也は腕を組む。

「さて、どうするか」

とりあえずそれぞれの特徴などはわかった。
話を聞く限り、救世主候補たちでも一対一になると分が悪いということだ。基本は二人で組むなりしなければ負けかねない。
それぞれに相対したときのために戦術でも考えておくべき、と考えたときだった。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.433 )
日時: 2009/09/03 22:28
名前: テン


「あー、ここにいたね〜。恭也君も起きてるのね〜」

そんな間延びした声が聞こえてきた。
振り返れば、いつも通りに妙な効果音を加えて、救世主クラスの担任であるダリアがこちらに駆け寄ってきていた。

「ダリア先生? どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもないのよ〜。救世主クラスはすぐに集合よ」
「もしかして、また破滅が侵攻してきたんですか!?」
「それはわからないわぁ。ただクレシーダ王女殿下がみんなをお呼びなのよ」

大きく身体を揺らすダリア。そのたびにやはり胸も大きく揺れる。

「むぅ。いつ見ても揉みたくなるな。そのでか乳」

大河が真面目な顔をしてそんなこと言うが、同時に両隣の未亜とベリオから裏拳を喰らい、さらに恭也、リリィ、カエデの手から割れない食器などが次々と投げられ、大河の顔に直撃して、その場に倒れる。
しかしいつものこととでもという感じで、他の者たちもそんな大河を無視し、話を進める。

「クレアちゃんが……」

知佳も聞いていないこと……というよりも、破滅の侵攻が始まって、話している余裕などなかったてため、クレアが何を目的として呼び出しそうとしているかはわからない。

「それって俺たちもですか?」

ダリアが、救世主クラスではなく、みんなという呼び方をしたので、耕介は自分を指さして聞く。

「ええ、そうよー」

それに恭也は腕を組む。

「一体何の話でしょう?」
「さあ、それは私も聞いていないけど、至急という話なのよぉ。もう学園長とダウニー先生は向かってるわ」
「ふむ、了解しました。すぐに向かいます」

言ってから、恭也は仲間たちを見渡す。すると全員が頷く。ちなみに倒れている大河も震える腕だけをテーブルの上に突き出し、親指を上げて反応していた。
本当なら、もう少し話を詰めておきたいところだったが、そうもいかなくなった。
クレアからの呼び出し……彼女には悪いが、嫌な予感がすると恭也は内心でため息を吐く。
その恭也の悪い予感は当たることになる。
この呼び出しから、この戦争はゆっくりと動き始めていく。