Re: 黒衣(仮投稿) ( No.383 )
日時: 2009/07/19 22:28
名前: テン






倒れていく。
ゆっくりと、赤い飛沫が辺りに飛び散る。
その中をゆっくりと恭也の身体が倒れていく。
それをただ呆然と眺める二人の少女。

「……ぁ」

それをなしたはずのアリサがか細い声を上げた。まるでそれに応えるかのように、恭也がドサリと地面に倒れ伏す。
それ見てから、アリサは短くなった己の武器……インフィニティに視線を向けた。短くしてもその先端には、赤い液体が付着していた。
血……赤い血。

「ぁ……ぁ……」

それは誰の血か。

「あ……ああ……」

そんなのは決まっている。
憎い憎い仇の血。

――仇? 誰が?

仇とは誰だ?
本当の仇は……妹を殺した男だ。

「あ……あああ……」

目の前に倒れている青年は……

「ああああああああ……」

そんなものではなかったはずだ。

「ち、ちが……」

あの人は……

「違う……」

大好きな人だったはずだ。

「違う」

初恋の人だったはずだ。

「違う!」

妹を救おうとしてくれた人だ。

「違う! 違う!」

妹を殺した人間から、自分を助けてくれた人だ。

「違う! 違う! 違う!」

妹の仇を討ってくれた人だ。

「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う……違うっっ!!」

そんなわけない!
だって、あいつは救えなかった!
どんなことがあっても助けにいくと言ったのに、助けてなんかくれなかった! 
どれだけ私や妹が、その約束を信じていたのか知りもしなかった!
妹を救ってもくれず、その上、自分を助けるという建前で、仇を勝手に殺した男だ!
だから……


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.384 )
日時: 2009/07/19 22:36
名前: テン


「おにーちゃんっ! おにーちゃんっ!」

恭也に駆け寄る栗色の髪の少女の姿がアリサの目に映る。
その姿は……

『エリカッ! エリカッ!』

かつての己だ。
本来の茶の髪をした己が、エリカの亡骸に縋り付いていた。

「あ……ああ……!」

少女が……なのはが、顔を上げた。

「…………」

その目が憎悪に染まっていた。
その姿は、間違いなく、かつてのアリサだった。




第五十四章




「おにー……ちゃん……っ!!」

恭也の心臓は動いているが、この流れる血の量は命にかかわるかもしれない。なのはは回復魔法が使えない。彼の傷を癒すことはできないのだ。
つまり、ベリオかリリィ、リコを見つけるか、もしくは後方に下がり回復魔法を使える人たちの元に連れて行かなくてはならない。
それをするためには、

「あなたは……邪魔……っ」

目の前の少女……アリサが邪魔だった。
恭也を助けるために、目の前の少女を徹底的に、壊滅的に……殲滅する。撲滅する。死滅させる。
この怒りと憎しみを糧に、必ず目の前の存在を消し去る。この世から、塵も残さず滅却しつくす。
兄を傷付けた存在など有害なだけだ。いらないのだ、この世にそんなものは。だからその存在ごと消しつくす。

「白琴ッ!!」

犬歯を剥き出しにし、相棒の名を呼ぶと、先ほど恭也に縋り付くために、いつの間にか消えていた白き剣がなのはの手に再び戻った。
怒りで埋め尽くされていたはずの思考が一気にクリアとなる。彼女を完全に消滅させる方法などそれこそいくらでもある。幾通りもの方法が一瞬で浮かんできた。
自分はそれが簡単にできる。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.385 )
日時: 2009/07/19 22:36
名前: テン


ああ、人を殺すことなど簡単なのだ。
本当に、本当に簡単だ。簡単だからこそ、きっと今ままでは難しかった。けど殺すと決定してしまえば……
目の前の少女には慈悲などいらない。あれは自分の大切な者を奪う存在。

「……っ!!」

なのはは似合わない憤怒の形相で白琴を振るう。
身体が軽い。
先ほどまでの魔法陣を一つ描くのにかかった時間で、三つの魔法陣を描ききる。
今のなのはにはアリサを殺すことに躊躇いはなかった。そもそもなのはは今まで傷付けることにさえ、どこかで忌避していた。それは高町なのはが高町なのはであるが故に。高町なのはが高町なのはであるために。
しかし、今はそんなものは邪魔だと完全に取り払う。誓ったではないか、恭也を守るためならば殺すことも辞さないと。
それが今このとき。目の前の存在を殺すことを決定した今、それまであった精神的なリミッターまでが取り外され、完全に身体が脳で描いた通りの動きをトレースしていた。
魔法陣から現れるのは憎悪の炎。今までよりも禍々しい輝きを持つ荒ぶる炎だ。
白琴に魔力を貰うのではなく、逆になのはの魔力までを押し込んで作られたそれは、解放の時を今か今かと待っている。
急かさずとも、相手を燃やしつくすのはもうすぐだ。

「ふぅっ!」

猫が敵を威嚇するようになのはが息を吐き出すと、三つの炎が射出された。まるで弧を描くようにそれらが回転しながらアリサへと向かっていく。
ずっと目を見開いてなのはを眺めていたアリサだったが、何かを耐えるように口を歪める。

「エターナル!」

それに応えるように、アリサの左腕に透明な盾が現れ、同時にやはり彼女の目の前に、透明な、だが光を反射する障壁が展開。
しかし、そんなものなのはにとって予想の範囲内だ。
どんなものであろうと食い破る。そして、その後ろにいる敵を滅ぼす。
その意志を汲み取るかのように、三つの炎は動き出す。アリサが展開した障壁の一歩手前。そこで三つだった炎が、絡まり合うようにして一つになっていく。
ただの炎だったそれは、三つが重なることで灼熱を宿す業火と化す。
全てを燃やしつくすために、アリサの障壁とぶつかり合う。
完全に拮抗すると二つの力。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.386 )
日時: 2009/07/19 22:38
名前: テン


アリサの障壁は、業火を押しとどめるためにギチギチと音を鳴らし、なのはの業火は敵を滅ぼすためには全てが邪魔だと温度を上げながら障壁を食い破ろうとする。
自身の魔力まで押し込んでのなのはの最大威力ともなったそれは、一進一退を繰り返すようにして、アリサの障壁へとぶつかり続ける。
ギチギチと音を立てていたアリサの障壁、それが……

「そん……な!?」

罅が入り始めた。
アリサは驚愕の表情を貼り付かせるしかない。召喚器であるために最大の防御力を発揮するはずのそれが、今まさに食い破られようとしているのだ。
だが、足りない。
なのはにはわかった。あれではまだ足りない。もうすぐあの業火は掻き消える。障壁を罅割れさせただけで終わり、すぐにアリサはソレを補強してしまうだろう。
だったら……さらなる力を撃ち込めばいいだけのこと。

「ブレイズノンッ!」

高速で呪文を詠唱し、手に最大の魔力を込められた火球が出現する。それを一気に投げつけた。
火球は一直線に業火へと取り込まれ、次の瞬間には爆裂。
その新たな爆裂により、アリサの障壁に刻まれた罅割れが、亀裂へと変化していく。

「っ!?」


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.387 )
日時: 2009/07/19 22:38
名前: テン

結界だろうが盾だろうが、耐久限界、耐熱限界というものがある。どれだけ強力なものでも、決して砕けないものはこの世には存在しない。無敵なんてものはない。最強なんてものはない。
そして、人さえもそうなのだ。
本当に簡単に、なのはは人を殺せると理解した。
ガラスが割れるような音が響き、障壁が砕け散る。
障壁との衝突で業火は掻き消えてしまったが、爆裂した火球はまだその余力を僅かに残していた。それはアリサの目の前で小さな爆発を起こす。

「きゃっ!」

最初の爆裂に比べれば本当に小さな爆発であったが、障壁が砕け、目の前で起こったそれにアリサは耐えられず、弾き飛ばされた。
地面を転がり、身体中が擦り傷だらけとなりながらも立ち上がろうとするが……

「っ!?」

その目の前に、先ほどの業火も灯火に思えるほどの憎悪の炎を瞳に燃やすなのはがいた。
閃く銀光。

「あぁぁぁぁぁああぁぁあぁぁあぁぁぁぁ!!」

絶叫とともに白琴に乗せられた殺意。
それは鋭い突きだった。
白琴は重さがないため近接武器としては本来使えない。だが、全身の力と自身の体重を乗せた突きは、その限りではない。さらに斬れないとはいえ、白琴の形状はきちんとした小太刀だ。その先端は酷く鋭利。全身の力を込めれば突き刺すことは十分に可能だった。
それらを理解しての一撃なのか、それとも無意識なのか。どちらにしろ彼女にある不破として血が、本能的に繰り出していたのかもしれない。

「くうっ!」

アリサは、立ち上がりかけの中途半端な体勢ながら、本来のダガーの状態であるインフィニティで何とか白琴を弾く。
いくら力が乗せられていようと、白琴自体の軽いため、簡単に弾き飛ばされる。

「ふっ!」

が、軽いが故に、召喚器によって強化された筋力で、技巧はなくとも、弾かれたあとのその切り返しも速かった。
今度はただの力任せの斬撃。
白琴は切れない、ということすらなのはは忘れているのかもしれない。しかし、その斬撃は異様に鋭い。
軽さを活かしての連撃に次ぐ連撃。
それは本当に出鱈目に振るっているはずなのに、御神流の虎乱を彷彿とさせる乱撃であった。

「こっ、の!」

アリサは、なのはの連撃を体勢を整え、何とか一つ一つ防ぎ、かわす。

Re: 黒衣(仮投稿) ( No.388 )
日時: 2009/07/19 22:39
名前: テン


それまでと違い、遅れを取っているのは明らかにアリサであった。
これまでずっと遠距離攻撃を行ってきた相手が、突然戦闘スタイルを変え、近接戦闘を挑んできたことに驚き、さらにそれまで対応がまるで効かなくなったために、反応が少しずつ遅れていた。何よりアリサの顔は青ざめていて、精神的にか、それとも肉体的にか、何かの問題があるようだった。
ダガーと小太刀という短い剣。二つの召喚器が何度もぶつかりあう。

「調子に……乗るなぁぁぁぁ!!」

今の今まで押されていたアリサが、ダガーの刀身を伸ばし、横薙ぎの一閃を繰り出す。
しかし、なのはは憎悪に支配されながらも、緻密に動く。膝を曲げ、上半身を折り、伸びた刀身をギリギリでかわす。数本の髪が切られるが気にもしない。
かわし終えると、下から突き出すようにして手を前へと向ける。

「ヴォルテクス!」

なのはは、呼吸が難しくなるというのも無視して、連撃の間に呪文の詠唱していた。その魔法をここで解放。
雷の束が、アリサに向かって殺到する。

「調子に乗るなって言ったでしょうがっ!」

アリサは吼え、向かってくる雷を無視した。そして、そのままインフィニティの刀身を伸ばして振りかぶると、力の限りに叩き下ろす。

「っ!?」

それをなのはは何とか身を捩り、さらに地面を這いずるようにして避ける。

「くうっ!!」

アリサの方は、雷が直撃し、身に帯電していた。バチバチと音が聞こえて、彼女に着ている服が焦げる。
召喚器を持っているため、常人とは比較にならないほどの対魔力を持っているだろうが、それでも直撃した魔法は、膨大な魔力を持つなのはの魔法。無傷などありえない。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.389 )
日時: 2009/07/19 22:41
名前: テン


しかし、アリサは目を鋭くさせ、手を振るう。すると帯電していた雷が払われた。
それからなのはを睨む。

「私は……間違ってなんかいないっ!」

アリサはまるで自分に言い聞かせるように叫んだ。
対するなのはは、その言葉に何の反応も示さなかった。ただ白琴を構えるだけ。
なのはにとっては、今はただの目の前の少女が邪魔なだけだ。その彼女が何を思っていようと関係なかった。邪魔であるから、排除するだけだ。
アリサもインフィニティを白琴と同じ程度まで刀身を伸ばし、構える。
アリサにとっては、目の前の少女は、自分の中の何か……それも思いだしたくないなにかを揺さぶり、鬱陶しい存在だった。だから潰す。
剣を向け合う二人の姿は、まるで両者ともに決着をつけようとでも言っているようだった。

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「たあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

両者同時に駆け出す。
己の武器を相手に叩きつけるために。
その動きは、恭也と比べてしまえばきっと稚拙すぎるものだろう。だが、そんなものは関係ない。
ただ相手を排除するために……
ただ相手を潰すために……
その武器を相手へと突き出した。
だが、

「え……?」
「なっ……!?」

二人の間に、旋風のように黒い影が舞い込む。
甲高い音ともに火花が散るが、なのはとアリサの剣はお互いの身に届くことはなかった。





Re: 黒衣(仮投稿) ( No.390 )
日時: 2009/07/19 22:41
名前: テン




「……まったく、二人揃って暴走か」

二人に割って入り、二人の剣を左右同時に受け止めた人物……恭也は短く嘆息する。
軽く聞こえる言葉だが、未だ彼の胸から鮮血が滴っており、顔は痛みで僅かに歪んでいる。
そんな恭也をなのはとアリサはどこか呆然と眺めていた。
恭也が二人の剣を受け止めたままの体勢で、しばらくの間固まってしまっていた。
しかし、すぐにアリサが目を見開き後ろへと跳んだ。

「ふ……ふふ、何だ動けるの? 死んだのかと思ってたわ」

笑いながら皮肉を言うが、その声音はどこか嬉しそうであることに彼女自身は気付いているのか。
恭也は、なのはの白琴から八景を離し、鞘にしまう。それからコートの中へと手を入れた。
そこから取り出したのは、一本の小太刀。クレアから貰った予備のうちの一本。だがそれは鞘の中央が砕かれ、刀身が剥き出しになっていた。そして砕かれた鞘から覗く刀身も、全体的に罅割れ、もう使用できないのは見ただけでわかる。

「これがあったから、致命傷は避けられた。血は足りないがな」
「ふん。運がいいわね」

実際のところは運ではない。かわせないとわかったからこそ、恭也は何とかダメージを少なくしようと、あの状況で小太刀を隠してある部分に当たるように身を捩ったのだ。
もっとも致命傷は避けられたものの、相当の範囲、相当の深さで斬られたため、つい先ほどまで意識を失っていた。出血量のために、治療しなければ危険なのは変わりない。

「おにーちゃん! 動いちゃダメだよ!」
「……問題ない」

その言葉に説得力がないのは、恭也自身わかっていた。今もまだ血が流れ続けているというのに何が問題ないというのか。
しかし、なのはをこれ以上、アリサと戦わせるわけにはいかなかった。

Re: 黒衣(仮投稿) ( No.391 )
日時: 2009/07/19 22:42
名前: テン


意識が戻ったとき、恭也が見たのは憎悪を宿すなのはと、どこか自暴自棄になっているように見えたアリサだ。そのどちらも自分が原因であるとわかっているのに、寝転がっている暇など恭也にはなかった。
なのはのあの感情に任せての凶行とも言える行動も、自分の身を削ってでもなのはを排除しようとしていたアリサも、恭也は見たくないものだったのだ。

「今度こそ……今度こそ殺してあげるわよ」

どこか苦い顔をして言うアリサに、恭也は剣を構えようとするが……

「おにーちゃん!」

力が入らずに膝が折れた。何とか紅月を地面に突き立てて立ち上がるが、それが限界そうだった。
さて、どうするか。それなりに危機らしい。
今のなのはを戦わせたくないというのもあるが、アリサの標的が再び恭也に移った。この状況で戦闘になれば、間違いなく恭也の方が足手まといだ。
なのはも恭也が目覚めたことで、先ほどまでの憎悪は掻き消えたものの、逆に精神的に不安定となってしまっている。こう言っては何だが、恭也同様に戦力にならないかもしれない。
今のまま戦闘になれば、九分九厘負ける。
どこに活路を見出すか。
逃げる。それしか道がないのは間違いないし、別に逃げること自体にも抵抗はない。今更敵に背を向けることでプライドなど傷付かない。そんなのものはとうの昔に捨てた。元より敵を殺すことと、自分が生き残ることを主眼とし、そのためには卑怯上等である古流に、プライドを持ち込む余地などそれほどないのだ。
何よりなのはを守らなければならない状況で、それ以上に優先しなければならないものなどない。
だが、どうやってその隙を見つけるか、だ。
少しでも情報を収集し、逃げの一手を打つために、激痛を無視し、心を展開する。
すぐに恭也は眉をほんの僅か顰めた。

「……どうやらお前のお仲間たちは退却していくようだが?」
「え?」

恭也の言葉に、アリサは辺りを見渡した。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.392 )
日時: 2009/07/19 22:43
名前: テン


先ほどまでそこら中で蠢いていた魔物たちが、城壁とは正反対の方へと一斉に動き始めている。
心でそれに気付いた恭也だが、なぜこのタイミングで退却するのか、彼にもわからない。どちらかといえば、王国軍の方が押されていたばずだ。それがなぜ退却するのか。
仲間たちが破滅の将を倒したのか、それとも他に理由があるのか。
だが、勝ったかはわからないが、決して仲間たちは負けもしなかった。それだけは確証があった。

「どうする、この中で俺たちは続けるか?」

恭也は、左手の紅月で身体を支えていたが、右手でしっかりと八景を握り、なのはを守るようにしてそれを水平に構えた。

「なっ……」

それを見て、アリサは目を見開く。
今の恭也には先ほどまでの凄みなどどこにもない。だが、その姿を見てアリサは勝てる気がしなかった。相手は今も血を流し続け、今にも死にそうな顔をしているのに。
アリサは知らないのだ。本当に守ると決めたときの恭也を。
今の恭也はなのはを守るために立っている。そうである以上、彼は誰よりも強くなる。なのはを守るためなら、心臓が止まったとしても彼女を守り続けるだろう。
これが本当に本気の恭也なのだ。
先ほどまでとはまるで違う。
恭也としてはこれは時間稼ぎだった。復讐を誓うアリサが、その相手である自分を前にして、退いてくれるとは思っていない。しかし時間を稼げば、大河たちがここに必ず来ると信じていた。
言葉で時間を稼げればそれが一番いいが、無理ならばこの身を盾にしてでもなのはを守り通す。

「……っ!」

アリサは暫し呆然とした表情で恭也を見ていたが、ふとなのはを見た。

「……そういう……こと……」

そう言って、唇を噛みしめるが、その言葉がなにを指すのか恭也にはわからない。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.393 )
日時: 2009/07/19 22:43
名前: テン


そして、血を流しすぎて、霞む視界の中で、アリサがインフィニティを持つ右手を振ったのが見えた。

「くっ!」

攻撃が来ると、八景を握る手に力を入れたが、アリサからの攻撃はなかった。それどころか手を振ったのと同時に、彼女の召喚器が消えている。
アリサは乱れた髪を掻き上げると笑う。

「……今日は退いてあげる」

そして、恭也たちに背を向けた。

「な、に?」

まさか本当に退くとは思っていなかった恭也は、思わず目を大きく開けて驚いていた。

「次は……必ず殺す。でも……」

アリサは顔だけを振り返らせたが、その視線は恭也ではなく、その後ろにいたなのはに向けられていた。
その顔を染め上げるは、先ほどのなのはのような憤怒。

「あんたの前に、あんたの妹を……高町なのはを必ず殺してやる。優先順位を最初に戻す……いえ、切り替えるわ。あんた以上に、あたしはあんたの妹を殺したくなった」
「……そんなことをさせる思うか?」
「ふん、あんたの意志なんか関係ないわ」

言って、アリサはさらになのはを睨み付けた。
それを見て、なのはは目を鋭くさせ、アリサを見る。

「あんたの妹もその気みたいだしね」
「……そうだね」
「なのは!」

応えるなのはに、恭也が叫ぶがアリサは鼻を鳴らす。

「さっきまでとは違う。私たちはお互いを敵と認識したわ」

その通りだと、なのははさらに視線に力を入れた。
あれは敵だ、と。倒すべき存在だと。今まで以上に決定的となっている。

「だから、あんたは今は見逃してあげるわよ」

それを最後に、アリサは再び歩き出した。
恭也たちからゆっくりと離れていく。
それをただ恭也たちは見守った。

Re: 黒衣(仮投稿) ( No.394 )
日時: 2009/07/19 22:44
名前: テン


戦場の残り香のように砂埃が舞い、その向こうにアリサの背が消えていく。
それを見届けた瞬間、恭也の身体が崩れた。
本当はもう少しなのはと話したいことがあった。だが、それもできそうにない。

「おにーちゃん!」

再び駆け寄ってくるなのは。頭の一つでも撫でてやりたいところだが、手もすでに血塗れだし、腕を動かすのももう無理そうだった。

「すま……ない……リリィたちを……呼んでき……て……もらえ……るか……?」
「うん! うん! だからしっかりしてよ、おにーちゃん!」

大粒の涙が恭也の頬を伝う。
だが、もうその感触も曖昧になっていた。
そして、心の中でもう一度すまないと呟いて。再び恭也は意識を閉ざした。



◇◇◇



アリサはゆっくりと歩く。
いきなりの退却。その意味は彼女にもわからない。どうせ主幹辺りの命令だろう。どうにもアリサはあの男が気に入らない。
だが、それ以上に気に入らないのは……

「っ!」

その手に再びインフィニティを召喚し、刀身を伸ばしてそこらで退却を始めいるモンスターたちを切り飛ばした。
そのアリサの行動に、魔物は驚愕したが、次の瞬間には我先にと逃げ出していく。

「高町……なのはぁ!」

許せない。
あの少女がどういうわけか気に入らない。
血だらけの恭也の後ろに守られていたあいつが心の底から気に入らない。

「次は絶対に……殺してやるっ!」

高町恭也の前に殺してやる。
高町恭也を絶望させるためにとか、そんなことじゃない。アリサはあの少女が敵であると正しく認識したのだ。
その感情が何であるのか、アリサは気付かない。
それは……嫉妬と呼ばれる感情であることに、アリサは気付いていない。

「…………」

わかることもなく、そして理解としようともせず、アリサはゆっくりと歩いていく。
決着はまだ先。
今回はこれでいい。
本当の敵を理解した今、あとはそれに突き進むだけだった。