Re: 黒衣(仮投稿) ( No.368 )
日時: 2009/07/04 20:40
名前: テン







「ん……きょうや?」

久遠はふと顔を上げて呟く。
恭也の声が聞こえたような気がしたのだが、辺りを見渡しても彼の姿はない。あるのは堆く積まれたモンスターの死体のみ。
気のせいか、と久遠は小首を傾げた。
今はそれよりもと雷撃を身に纏わせ、遠くを見つめた。

「いた……」

珍しく冷たい息とともに声を吐き出し、爪を構える。
幼い外見とは裏腹に、その様子は得物を見つけようとする獣さながらの雰囲気。
いや、実際に彼女は得物を探しているのだ。
普段、那美と共に見る霊障とは違う生き物たち。
破滅の軍勢。魔物。モンスター。等々呼び方は様々あるが、異形の集団。
久遠の周りに積み上がった死体たちも、その異形のなれの果てだった。それを行ったのは彼女だ。
久遠ははぐれたわけではなく、恭也と同じく、敢えて一人で行動していた。
そして、敵の中央で特大の雷を降らせ続けてきたのだ。
かつて祟神と呼ばれた彼女のその力は救世主候補たちすら上回る。あまり思い出したくないし、思い出せもしないのだが、過去の自分の行動から、彼女は集団に対する攻撃方法を熟知していた。思い出せなくとも、それは確かに久遠の身体に染みついている。
だからこそ久遠はそんな行動をとっていた。
間違いなく、撃破率はすでに誰よりも高くなっている。

「……」

久遠は雷を身に纏わせながら、その身体を大人へと変化させる。
大人の姿でいるのは燃費が悪い。そのため一々子供の形態に戻ったり、子狐に戻って休憩したりを繰り返し、ここまでやった。
だが、まだ足りない。
得物はいくらでも現れる。

「なのはと恭也のためにも……」

全体からみれば数%以下程度の数であろうと、敵を減らせば減らすだけ、恭也たちはやりやすくなるだろう。彼らならば破滅の将という者たちも倒せる。
だから久遠がやるべきことは……

「一匹でも多く滅ぼす!」

彼らのもとに少しでも他の魔物がいかないように、引きつけ、滅ぼすことだ。

「あああぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

その決意の元、久遠は今日何度目になるかもわからない雷の雨を降らした。





第五十三章





「強え……」

大河はトレイターを構えたまま低く呟いた。その後ろにいる未亜も、ジャスティを構えたまま息切れを繰り返している。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.369 )
日時: 2009/07/04 20:41
名前: テン


二人の目の前には黒い衣装を纏い、目を布で覆った女性が、唯一見える口元に笑みを浮かべて立っていた。

「今回の救世主候補たちは大したことないね」

まるで他の救世主候補でも知っているかのような口調で女性は言う。
仲間たちと別れ別れとなった大河たちの目の前に現れた彼女は、自分が破滅の将の一人であり、ロベリアと名乗った。
目的が目の前に現れ、すぐさま戦闘になったが、二対一にも関わらず大河たちは押され気味だった。
強い、というのもあるが、それ以上に巧い。戦闘経験が違いすぎるのだ。
だが、それがどうした。すでに大河たちは自分たちよりも戦い方が巧い人間を、戦闘経験がある人間を知っている。
その人物がいたからこそ、今こうしてロベリアとも戦えている。勝てないとも思わない。やり方次第だ。

「そういうことは倒してから言えや!」

挑発に乗ったわけではないが、自分を鼓舞するために叫びながら大河はトレイターを手甲へと変え、ロベリアへと向かっていく。
それにロベリアは、血のように赤い剣を構えて迎え撃つ。
だが、大河はロベリアの目の前まで躍り出ると、上半身を屈めた。その瞬間、背後から未亜の矢が放たれる。先ほどまで大河の上半身があった場所を突き抜け、未亜の矢はロベリアへと迫る。
これにはロベリアの顔に驚きの表情が浮かんでいた。大河が上体を下げたかと思えば、いきなりその向こうから未亜の矢が向かってきたのだから当然だ。こんなことよほど二人が信頼しあい、息が合っていなければいできない芸当。少しでもタイミングがずれれば同士討ちだ。

「ちっ!」

驚いたようにロベリアは舌打ちすると、飛来した矢を赤剣で叩き落とす。
その間に大河は腰を落としたまま彼女の眼前へと駆け込む。トレイターを水平に構え、さらに持ち前の瞬発力を使い、全力で突きを放った。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.370 )
日時: 2009/07/04 20:42
名前: テン


矢を叩き落とし、剣を振りきっていたにも関わらず、ロベリアの切り返しは速かった。一瞬にして剣を引き戻し、その切っ先を大河へと向けている。そして、大河の突きを払おうと足を踏み出していた。
しかし、それを見て大河はニヤリと笑う。
かかった。
ああ、確かにこの女は強い。巧い。
だが……それだけだ。

「恭也の方が十倍対処が速ぇし、恐ぇよ!」

大河は叫び、突きを放とうしていたトレイターをいきなりナックルへと変化させた。

「なっ!?」

いきなり大河の武器の間合いが狭くなり、剣先を払おうとしていたロベリアの赤剣は、虚しく空を切る。
大河もいきなり武器の重さが変わったことで、体勢が少しばかり狂うが、そこは慣れだ。重さの変化に慣れるためも、今まで一日何度形態を変えるというトレーニングをしていた。それが功を奏し、すぐさま狂いを修正しながら、それでもロベリアへと接近する。
同時に瞬発力によって得られた勢いが死んでしまったが、そこで身体を一回転させ、回転力という勢いをつけ、大河はナックルで裏拳を放った。

「ちいっ!」

先ほどまでの余裕はなくなり、ロベリアは口元を歪めながら、後ろに下がる。が、間に合わず、大河のナックルはロベリアの胸へと滑り込み、鈍い音を響かせながら直撃した。
回転力を込めた裏拳。それも力を自慢とする大河の放ったものだ。ロベリアは地面を滑るようにして転がっていく。

「未亜!」

だが、大河はまるで安心はしていなかった。感触がおかしい。おそらく後ろに飛ぶことで衝撃を逃がしている。前に同じようなことを恭也にやられていたため、それをすくに感じ取る。そのため追撃を未亜に任せた。

「うん!」

未亜はそこまではわかっていなかっただろうが、追撃を任されたのはわかり、すぐさま番えていた矢を放つ。
しかしロベリアもそう易々とやられるような女ではない。両足と剣を持たない左手を地に着け、滑るようにして止まる。さらに矢をかわすために身を捩った。矢は肩を掠めて血を僅かに飛び散らせる。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.371 )
日時: 2009/07/04 20:42
名前: テン


ロベリアは、血が流れる自らの肩口に見えないはずの顔を向けると、唇を歪めて笑った。

「はは、いいねぇ。前言は撤回してあげるよ。あんたたちはあたしの敵に相応しい」
「そりゃどうも」
「あんまり嬉しくないです」

大河と未亜はそれぞれ軽口で返しながらも、再び召喚器を構えた。
ロベリアも立ち上がる。すると、どういうわけかそれと同時に肩の傷は消えてしまった。
それに驚く大河たちだったが、ロベリアも口元に笑みを浮かべたまま赤剣を構え直す。

「さて、それじゃあ、本気でいかせてもらうよ!」

その言葉に、大河たちは驚きを封じ、鼓舞するように叫ぶ。

「こっちは最初っからマジだ! てめぇはここで倒れろ!」
「いきます!」

再び女剣士と当真兄妹が激突する。



◇◇◇




「くっ」

耕介が呻くのと同時に、巨大な肉切り包丁のような剣が大地に突き刺さる。それを持つ大男は、口元を下品な笑みを浮かべていた。
耕介は、相手が武器を振り下ろしたのを見て、一歩前に踏み込もうとした。
しかし、

「プハァァァァァァァァ!」

大男は口を大きく開け、そこから曲芸のように炎を吐き出した。

「ぐっ!」

炎が耕介に絡み付く。

「耕介さん!」

援護に回っていたベリオが、耕介を逃がすために一条の光線を放った。

「おおっと」

大男は、嫌らしい笑みを消さぬまま、それを軽い動作でかわす。
その間に何とか耕介は後ろへと下がり、身体を大きく振るうことで炎を掻き消し、そのまま後ろへと下がり続け、ベリオの隣に立った。

「困った。あんまり相性がよくない」


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.372 )
日時: 2009/07/04 20:43
名前: テン


耕介の剣は、恭也のような技量と速度の剣ではなく、剛の剣。
その力強い剣で相手を叩き伏せる。だが、それが相手も同じであり、それも相手の方が上。その上に、耕介と違い相手は人間との戦闘経験が豊富なようで、簡単に耕介の動きを読んでくる。

「参ったな」

その分耕介の方が速い。だが、その速さも相手の経験のよって紙一重でしかなくなる。傷こそ負わせられるが、それは薄皮一枚を剥がす程度のダメージでしかない。致命傷には程遠い。
この男と相性が良いのは、むしろ恭也やカエデだ。
霊力で攻めるべきか、しかしそれは……

「耕介さん、癒します」
「ありがとう」

傍らに立ち、ベリオは先ほど炎にまかれてできた火傷を魔法で癒していく。
かなり大きな隙であるにも関わらず、大男は攻めてこなかった。

「さすがは破滅の将、強いな」

傷を癒してもらった耕介は、再び十六夜を構えながら大男に言葉をかけた。
初見でムドウと名乗った大男は、その巨大な肉切り包丁のような剣を肩に担ぐ。

「そっちは人間相手の経験はあんまりねぇみてーだなぁ」
「まあね」


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.373 )
日時: 2009/07/04 20:44
名前: テン


実際、耕介は人間相手に死闘など繰り広げたことはほとんどはない。これが耕介が恭也相手には勝てないと宣言する大きな理由。

「その割に戦闘経験が多いってのはよくわからねぇな。モンスター相手とでも戦ってたんか?」
「似たようたものだ」
「まあ、野郎なんぞ興味ねぇ。そっちの姉ちゃんに相手したもらおうか、色々とよう」

舌なめずりするムドウに、ベリオは顔を大きく顰めた。
先ほどからずっとこの様子。温厚な耕介と言えど虫酸が走る。
ムドウを耕介がどこか遠くに眺めていたとき、十六夜が彼に話しかけた。

『耕介様……』
(十六夜さん……すみません。俺、限界です)
『……これは私たちの世界の命運すら賭ける戦いです。神咲はもちろん、その先達たちにもお許し頂けるでしょう』
(ありがとうございます)

耕介は一度大きく嘆息し、

「……あんたが、俺の嫌いなタイプで良かった」

ムドウを強く睨み付けながら、

「成長を促すための訓練なんかならともかく、本当の戦いで、人を倒すためだけに使うのは躊躇があったんだ」

掲げる十六夜に黄金の炎を纏わせた。
神咲の技は、人に災いを為す人外を滅するためのもの。モンスターも人外であるから、別によかった。だが鍛錬や訓練以外で人に使うのをどこかで忌避していた。

「あんたたちには、そんな躊躇なんて必要なさそうだ」

目の前の男を倒すのに、霊力を使う忌避はなくなった。あれは人の皮を被った破壊の権化。魔の塊。自分が正義の味方などとは言わないが、神咲は魔から人を守る守人。それを倒すのに躊躇など必要ない。
あれは人の敵だ。
即ち神咲の、何より耕介の敵。
躊躇など元より必要なかった。

「楓陣刃ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

解き放たれた光は、長い歴史を持つ神咲でも化け物と呼ばれる男が放つ力。
同じほどの霊力を持つ恭也だが、年期が違う。何より相手を倒すと決めて放ったそれは、恭也のそれなど足下にも及ばない膨大な力が込められている。
その力は一直線に世界の敵へと向かっていった。



◇◇◇



「っ! サンダーブレイク!」

その知佳にしては力強い叫びに呼応し、雷球よりいくつもの稲妻が乱れ飛ぶ。
だが、それは敵を捕らえられない。
いつのまにか知佳の眼前に、気味の悪い仮面があった。同時に首元に銀色の煌めきが向かってくる。

「知佳殿っ!」

その銀が知佳の首を捕らえる前に、カエデの拳が滑り込み、銀色のナイフを黒曜で叩き折る。そのままカエデは腰を捻り込み、仮面を付けた優男に向かって、突き上げようにして蹴りを叩き込むが、優男は弾き飛ばされながらも、空中で一回転すると悠々と着地して見せた。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.374 )
日時: 2009/07/04 20:44
名前: テン


カエデはそのまま拳を構え、知佳を守るようにして立つ。基本的に知佳は後衛であり、これが正しい姿なのだ。

「よくわからない動きだね」
「で、ござるな。老師ともまた違うでござる。暗殺者のようでござるが」

二人の目の前に立つ不気味な仮面の男。破滅の将の一人……本人はシェザルと名乗っていた。
その動きはどこか恭也と似通いながらも、違う。このアヴァターでは珍しい銃器と暗器を多用する戦い方は知佳たちにとっては脅威だった。
銃器……それも近代的な……を持つ相手との戦闘経験がある者など恭也ぐらいのものだ。当然カエデだって経験はない。

「……魔法よりも脅威でござるよ」
「だね……」

魔法のように発動までのタイムラグがない上、発射されればそのスピードも魔法を大きく越え、かわすことは不可能。そうである以上、発射される前に何とかしなくてはならない。
そのあたりは知佳の念動力で防いげるが、カエデが近付いても暗器やナイフの攻撃が待っている。
二人が止まっていると、シェザルは大きく右手を振る。すると本当にどこから取り出したのか、いつのまにかその手にマシンガンが握られていた。

「っ!」

それを確認した瞬間、白い翼を大きく広げて知佳は両手を突き出す。
次の瞬間には、ベリオにも負けないほどの強度を誇る障壁が二人の目の前に現れる。知佳の周辺の者たちはサイコバリアと呼ぶそれは、トラックの衝突すら防ぐ。さらに展開も一瞬でできることで、ベリオのそれよりもずっと取り回しがしやすい。
マシンガンが放たれる数十発の弾丸も、それによって完全に阻んでいた。

「堅い、ですねぇ」

それを見て、シェザルが呟く。だが、その声音に驚きはなかった。
知佳の翼や能力を初めて見たときも、彼には驚きというものはなかった。それが意味することは……

「やっぱり……」

こちらの手札がばれている。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.375 )
日時: 2009/07/04 20:45
名前: テン


少なくともこの世界にはないというHGSの能力。その背にある翼を見れば、何かしら反応が返ってくるはずが、この男は驚きもなければ感情の揺らぎもない。
この世界で知佳がこの力を使ったのは数える程でしかないのにも関わらず、彼らは知佳の能力に当たりをつけているということ。
どうする、と知佳は悩んだ。
目の前の男の思考を読むか。
精神感応系は得意とは言えないが、使えないということはない。記憶だって盗み見ることができる。今、この場で目の前の男の記憶を読めば、破滅の情報も大量に得ることができるだろう。
基本的に知佳は、人の思考を意識して読むことはしないようにしている。それは他人である自分が知り得ていいものではないからだ。
だが、目の前には大きな情報を持つ男がいる。
これがリスティならば、何の躊躇いもなく覗くだろう。彼女は昔と違っておもしろ半分に他人の記憶や思考を読むことはなくなった。だが、同時に割り切るということもできる人物で、必要ならば他人の思考や記憶を読むことも辞さない。
それは職業上の価値観の違いでもある。
もちろん知佳だって、今まで意識して他人の思考を覗いたことはある。それは正確に救助を行うために使っていたため、はっきり言ってしまえば表層的な部分でしかない。
しかし、この男から情報を手に入れるためには、かなり深い部分まで読まなくてはならなかった。
少し考えて、決断を下す。

(やめよう)

情報は喉から手が出るほど欲しい。が、リスティと恭也からの忠告が脳裏によぎったのだ。
人を日常的に殺せる人間は、精神が異常なのだそうだ。この能力故に、知佳とて今まで心が汚い人間などいくらでも見てきた。だが、それとはまた違った異常さなのだという。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.376 )
日時: 2009/07/04 20:46
名前: テン


リスティは大分慣れているのと、かつてそういう訓練もさせられていたから問題ないが、それでも異常性の高い人間の心を読めば胃の内容物をぶちまけるなど当たり前にあるらしい。とくに人間らしい感情を取り戻してからは。
恭也にも似たようなことを忠告をされたこともあった。
慣れていない知佳では心が壊れかねないと。
そして、目の前の男は、その二人が忠告するタイプだと理解できる。
二人が揃って、しかも示しも合わせずそんな忠告をしてきた以上、それは恐らく本当のことなのだ。ならばその忠告は聞いておいた方がいい。
では、目の前の男を捕縛する方法が考えなくてはならない。
目の前のシェザルという男には、知佳は一人では決して勝てない。これは断言できる。

(リスティでも無理かな)

超常能力を持つHGSではあるが、本当の闘いなったら、二人は恭也にも耕介にも勝てない。負けないようにすることと逃げることはできるが、それだけだ。
負けないようにするには簡単だ。バリアを張り続ければいい。防御に徹すれば、耕介たちの霊力すら知佳たちは防げる。
だが、知佳たちは複数の能力を同時に使うのは難しい。つまり攻撃するならバリアを解除しなくてはいけないし、バリアを維持するなら攻撃はできない。
もちろん完全にできないわけではない。例えば飛びながら攻撃、ということは何とかできるが、それでも高度を維持するのは無理だ。恭也たちならこちらが攻撃しようと瞬間には、知佳たちを斬れる。
また、バリアを張りながら攻撃もできないこともないのだが、どちらか、もしくは両方が中途半端な力でしか発現できなくなる。それでは攻撃が当たらない。出力が減ったバリアなら下手すれば恭也の斬ならば斬り刻んでしまうかもしれないし、徹なら破壊できてしまえるかもしれない。耕介たちの霊力など言わずもがなである。
さらに能力は意識して使うものだから、知覚できない意識外から攻撃されれば、それをバリアで自動的に防ぐなどという真似もできない。
恭也や耕介などは、その意識外からの攻撃というのをいくらでもできる。実際に、シェザルの先ほどのナイフを知佳はバリアで防ぐことはできなかった。カエデが間に入ってくれなくては、首を切られていたはずだ。
万能の力などこの世にはないということだろう。得てして超常能力を持つ者より、肉体や人間としての感覚という地力を極限にまで鍛えている人間の方が強い。
シェザルもそのタイプの人間だ。

Re: 黒衣(仮投稿) ( No.377 )
日時: 2009/07/04 20:46
名前: テン


結局とれる方法など一つしかない。

「カエデちゃん、今まで通りでいける?」
「やはりそれが一番いいでござるな」

地力が優れてる相手に、奇策……敵が使う暗器も奇策の類ではあるが……で対抗しようとしても、食い破られるのがオチだ。
ならばやはりこちらはコンビネーションで攻める。
カエデも同じ結論に至っていたのだろう。特に反論することもしなかった。
防御と援護は知佳が受け持ち、カエデが近づくしかない。
カエデが拳を一度強く握りしめ、僅かに上体を傾ける。そのいつでもいけるという合図を見て、知佳は右手を振り上げた。
するとそこらにある石や、王国軍が使用していたであろう剣やナイフが浮き上がった。
これには多少、シェザルが驚きの反応を見せる。
当然だ。念動力はこの世界ではまだ一度も使用していない。戦闘ではだいたい元素変換……それもリスティの見様見真似に近い雷撃しか使っていない。つまり、どこからか監視され、その情報が漏れていたとしても、この世界で使用していないものは理解できるわけがない。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

その叫びとともに念動力で浮かせた物体が、次々と弾かれるようにしてシェザルへと向かう。

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

同時にカエデも雄叫びとともに駆けていった。



◇◇◇



「イムニティ!」

リコは敵対する黒い人物の名を叫びながら、その身に雷を纏う。同時に身体を浮遊させ、雷のフィールドを以て突撃する。

「ふん」

それにイムニティは、軽く鼻を鳴らす。同時に姿が一瞬で掻き消え、リコは先ほどまで彼女がいた空間を通り過ぎた。
テレポートで逃げたのだ。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.378 )
日時: 2009/07/04 20:47
名前: テン


テレポートは逆召喚の応用と言える魔法。逆召喚は常に召喚陣を必要とするが、テレポートはその召喚陣を脳内……ページ内とも言える……に描くことによって、転移できる距離を犠牲にしながらも、その発動時間を著しく短縮することができる。召喚士でも、少なくとも書の精霊である彼女たちぐらいにしかできない荒技だ。
リコは地面に着地すると、イムニティと同じように一瞬でテレポートする。リコが掻き消えた瞬間、今度はそこへと雷が落ちた。
リコが次に現れたのは、背後に現れて、今し方魔法の雷を放ったイムニティのさらに背後。そのまま両足を地面に根ざしたかのようつけ、腰を回転、抉るようにして掌底を突き出す。
イムニティは、それを横に飛び出ることでかわし、リコの掌底は虚しく空を切る。
それに舌打ちしながら、リコは身体を横に入れ替えると、イムニティと睨み合いとなった。

「お互いやりにくいわね」

イムニティは軽く自分の髪を払いながら、笑みを張り付けて言う。
やりにくい、というのはリコも同感だった。イムニティとの付き合いは、すでに万単位の年月にもなる。理の違いから、だいたいが敵同士としてあるが、味方として戦っていたことも少なからずある相手。
お互い相手のことを知り尽くしていた。そのために、二人が戦う場合、読み合いの勝負となる。一手先、二手先、三手先……十、二十と先を読み合う。
本来ならば千日手にもなりかねない読み合い。
しかしそれは本来の基本スペックの場合である。書の精霊である二人は、主を見つけた場合、その戦闘能力は著しく変動し、さらにその主によって最上限が決められる。
今回は二人とも別の主がいながら、基本のときと同じ様な状況になっていた。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.379 )
日時: 2009/07/04 20:48
名前: テン


つまりそれは、

(……主の資質は同程度)

二人の主の資質は、同列ということになる。

(まずい……)

その状況は圧倒的にリコの不利だった。
それは『高町恭也』を主にしたからこその不利。
リコの主である恭也の召喚器、斬神。それは現在、完全に休眠状態にある。リコでさえ近づいて何とかその力を確認できる程度。恭也が召喚器を持っているということをリコが自覚していれば、契約自体には何の問題もないこと。
しかし、力の回復等はその主の召喚器を介して行われる。恭也の召喚器が休眠している以上、どうやってもそれらの面でリコはイムニティに劣ってしまう。

「どうしたのオルタラ? いえ、リコ・リス? 攻撃してこないのかしら? じゃあ、こっちからいくわよ」

動かないリコにイムニティは、短い言葉とともに手の平を向けた。
同時に放たれる魔力の塊。
それをリコは横っ飛びで回避する。
イムニティが放った魔力の塊は、後方へ飛んでいき、そこで群をなしていた魔物を吹き飛ばす。
書の精霊であるリコたちは、言ってしまえば本の塊。文字の塊。知識の塊。そのために、魔法のページもあり、中にはその文字自体が呪文の役割となって、詠唱を省略して放つことができるものもある。今、イムニティが放ったのもそれだ。これもやはり普通の魔導士にも無理な術。

「ふっ!」

リコは同じように、だがこちらはまったく詠唱なしで魔力の塊を作り出し、射出。それはイムニティが一つであったのに対し、合計四つの塊。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.380 )
日時: 2009/07/04 20:49
名前: テン


赤の理を持つリコは、無から有を作り出す術に長けている。だから、省略ではなく完全に詠唱を廃することができる魔法がいくつかある。対してイムニティは白の理。絶対的な支配とは、つまり絶対的な決定を現す。そうであるが故に魔法を放つためには、呪文の詠唱がいるという決まりを完全に覆すことができないのだ。
イムニティの背後から巨大な爪のついた手が現れた。部分的に何かを召喚したのだ。その大きな手についた巨大な爪がリコの魔法を引き裂く。爆裂に巻き込まれ、腕は大きく傷付くが、役目は果たしたとばかりに消えていく。
イムニティは余裕そうな表情を崩さない。

「どうしたのよ。さっきからチマチマした攻撃しかしてこないけど」

このところあまり大きな魔法を使っていなかったので、蓄積されたマナで大きな魔法を連続して放つ余裕は確かにある。しかし、それで倒しきれなければ……

「ふう」

どうも慌てている自分に気がつき、リコは一つ大きく息を吐いた。
なにをそんなに慌てているのか、自分でもわからない。
そんな状態で勝てる相手ではない、とリコは一度自分を落ち着かせる。

「いきます」
「来なさいよ。あなたを滅ぼして、私はマスターを救世主にするわ」
「……そんなことはさせない」

リコは呪文の詠唱とともに、手で印を描く。
召喚と魔法の同時に攻撃をしかけようとして……

「え……?」

顔を驚愕に染めた。

「マス……ター……?」

イムニティと相対していることも忘れて、慌てて後ろを振り返る。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.381 )
日時: 2009/07/04 20:50
名前: テン


今、確かに感じた。同時に主である恭也との繋がりが希薄となっていく。それが指す意味は一つしかなかった。
恭也が何かしらの危機に陥っている。

「っ!!」

それがわかった瞬間、リコの魔力が膨れ上がった。

「なっ!?」

そんなリコを見てイムニティは目を見開く。

「正気!? そんな魔力、ページすら消耗するわよ!?」

そんなことはわかっている。
これは書の精霊としては、命を削るような力。

「知ったことじゃありません。あなたに時間をかけていられなくなった。全力でいきます!」

自分のことなどどうでもいい。
今は目の前の敵を打倒し、一分一秒でも早く恭也のもとにかけつける!

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

リコは先ほどとは比較にならないほどに強力な雷を纏い、地面を抉りながらイムニティへと突撃していった。



◇◇◇



「てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい、ですのぉ!」

どこか軽いかけ声とともに、ナナシは手にしていたモノを全力で投げ飛ばす。それは妙な回転がかけられ、抉るようにして魔物の群に突き刺さる。
なんというか、魔物がボーリングのピンに見えて哀れだった。

「わーい、やりましたですのー!」

喜びを表すためか、ピョンピョンと飛び跳ねるナナシ……の身体。

「いいからとっとと頭を回収しなさいよ!」

周りにいる魔物を魔法で吹き飛ばしながら、リリィは地面へと怒鳴りつける。その視線の先には、地面に転がるナナシの頭があった。

Re: 黒衣(仮投稿) ( No.382 )
日時: 2009/07/04 20:50
名前: テン

先ほどナナシが投げ飛ばしたのは、自身の頭だったわけである。

「あーん! リリィちゃんの魔法で飛んじゃまいしたー」

先ほどよりも遠くから聞こえる声。

「あ、頭痛い」
「お薬つくりましょうか?」
「あんたが原因よ!」

確かにナナシのトリッキーというか、気持ち悪いというか、型破りというか、まあそんな感じの戦闘法は確かに役に立つ。どういうわけかアンデットは簡単に消し飛ばしてくれるし。
だが、

「あいつのおもりはあの馬鹿の担当でしょうが!」

こちらが疲れてしょうがない。
なぜかいつのまにかナナシとタッグを組むことなってしまったリリィは、心の中でも大河に悪態を吐きまくる。

「ああ、もう、邪魔よ!」

それを力に変えるかのようにして、魔力を溜め込み、リリィは一気に魔法を解放した。

「ファルブレイズッ!」

放たれた火球が、極悪な力と範囲で爆裂を繰り返す。魔物を一気に滅却するそれは、容赦という言葉を知らぬとでも言いたげに辺りを蹂躙した。
そんな中、

「あ〜〜〜れ〜〜〜、ですの〜!」

魔物のただ中に放り込まれていたナナシの頭が、リリィの魔法に巻き込まれてさらに遙か遠くに飛んでいく。
それを追っていく身体。

「……もう、ホント勘弁して」

そんな彼女を眺めて、リリィは肩を落とした。
きっと他の仲間たちは、もっと真面目に戦っているんだろうなぁ、とか考えながら。