Re: 黒衣(仮投稿) ( No.318 )
日時: 2009/01/18 23:33
名前: テン





ゾロゾロと闘技場から歩いてくる救世主クラスの生徒たち。
実技の授業が終わり、これから昼食という時間だ。ここ最近は救世主クラスで行動し、共に食事をすることが多くなっていたため、誰もいなくなることはなく、何の示し合わせもなく食堂へと向かおうとしていた。

「ううー、やっぱり食事前に一杯身体動かすと逆にお腹空かないよ」
「そうか? 俺は無茶苦茶腹減ってるぞ」

お腹を押さえて言う未亜に、大河は他の者たちはどうか、と目で聞くと、恭也とカエデ、リコのみが頷き返し、他の者たちは未亜のように少しきついと顔を顰める。
そんないつも通りの会話。
この頃は色々と任務が入り忙しくなっていたが、それでも今は日常的風景を彼らは楽しんでいた。
だが、それは唐突に終わることになる。

空が歪む。
雲はなく、青空であるはずの頭上が歪んだ。

「なんだ!?」
「人?」

眉を寄せ、恭也が呟いたように、空にはいつのまにか巨大な四人の人影が浮かんでいた。
二人の男と、女が二人、少女が二人。それが体格でわかるものの、顔は鮮明ではなく、少しばかり暗くわからない。

「魔導具かなんかで中継してるみたい」

おそらくこの方法ならば多くの人間が、あの頭上の人影に集中していることだろう。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.319 )
日時: 2009/01/18 23:34
名前: テン


そして、朗々とした声が響いてきた。

『アヴァターに生きる者たちよ。神の御神木である大地を汚す者たちよ。
汝等の享楽のときは過ぎた。今度はその代償を払う番である。
我らは破滅。そして我らはそれを統べる破滅の将!』

学園のいたる所からどよめきが上がっているのがわかる。
だが、それよりもと救世主候補たちは頭上に集中していた。

「破滅の将……?」

恭也は目を鋭くさせ、続きを待つ。

『よって。我々はここに人類の破滅を宣言する』
『愚迷蒙昧なる民よ。神の秤は我が方にある。愚かな抵抗は無駄と知りなさい』
『しかし神はまた、汝等蒙昧たる民にも最後の救いの道を残されました』
『その道とは汝が心を縛り付ける一切を破壊し、破滅に加わることであーる』
『破滅の後も己が命を保ちたいと考えるならば、汝が手で父を殺し、母を殺し、妻を殺し、夫を殺し、子を兄弟を殺して破滅に参加しなさい』
『その時、神の慈悲は真の強者に与えられるであろーう、って感じでいいのか? たくっあたしゃぁ将じないっつーのに』

男と女の声が次々と聞こえてくる。

「破滅の……民……イムニティ」

リコの呟きからすると、どうやらあのうちの一人はイムニティのようだ。
影はさらに厳かに言い続けてくるが、恭也は無視した。
どれだけ大仰に言おうが、単純な宣戦布告。これ以上聞く必要はない。

「おにーちゃん」

そんな中、やはり不安からか、なのはが恭也の手を握った。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.320 )
日時: 2009/01/18 23:35
名前: テン


それに恭也は力強く握り返してやり、安心させるように、わざと唇をつり上げて挑戦的に笑う。

「まったく神の救いだの、神の慈悲だのと、あいつらは新興宗教か何かか?」
「言えてるわ。悪役なら悪役らしく、世界を滅ぼすで終わらしとけっての」

大河も鼻を鳴らして恭也の話に乗るが、他の仲間たちは多少気後れしてるように見える。

「それにしても堂々と宣戦布告かよ、気にいらねぇ」
「……それだけ自信があるのだろうよ。もしくは戦力がそろったのか」
「どういうことよ?」

大河と恭也の言葉が、今一理解できなかったのか、リリィをはじめとして全員が二人に視線を寄越す。

「今までこそこそ動いてたってのに、堂々と宣戦布告してくるってことは……」
「俺たちに勝てると踏んだか、それだけの戦力を手に入れたか、というところだろう」

つまり舐められているというわけだ。その戦力をもって、これまでのように何も言わずに攻めてこればいいものを、わざわざいまさらになって宣戦布告をしてきたのだから、勝てると思っているのだろう。

「っ!」

それを聞いて、リリィが歯を食いしばる。
恭也は視線を再び上空へと向け、その鋭い視線で影を睨んだ。

「何が相手であろうと、俺たちは負けるわけにはいかない」

そんな恭也の力強い言葉に、救世主候補たちもやはり力強く頷いた。
これから戦いが激化する、昼食は中止。一度教室か学園長のところに行こうと、それぞれが行動を開始するなか、恭也も彼らに続く。
だが顔だけを振り返らせ、まだ恭也から見て、滑稽で仰々しい宣戦布告をしている影へと三度目になる視線を向け、睨んだ。

「神だろうが何だろうが、俺の大切な者に手を出すならば……斬り捨てる」

その宣言が、己にどれだけ深く関わっているのか、そしてそれが自らの立場を端的に現していることを、まだ恭也も気付いていなかった。





第五十章




「と、言うことで、あなた達に正式に破滅軍との戦闘に参加するように王宮から通達がありました」

学園長室に集められた救世主候補たちに、ミュリエルは事の経緯を語ってから、そう告げた。
ホワイトカーパス州が破滅の民に着いた。いや、元々彼らが破滅の民であった可能性が高く、そこから破滅の軍勢が南進中らしい。
それを食い止めるために手を貸せ、ということだろう。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.321 )
日時: 2009/01/18 23:36
名前: テン


「でもお義母さま。まだ誰が救世主か正式な決定を頂いてません」
「それはこの戦いであなた方の力を見て、王女殿下が裁可をくださいます」

ミュリエルの言葉がウソであることを、この場いる恭也となのは、リコ以外は知らないため、皆ある程度、その言葉でやる気を漲らせた。
女王が救世主を決める。そんなわけがない。おそらくこれが前にミュリエルが言っていた救世主すらも政治の道具にされてきた、ということで生まれたことなのだろう。
まあ、今はそんなことを気にしている余裕もないが。

「あなたたちの任務は破滅の将の殲滅です」
「相手の頭を叩け、ってことっすか?」
「ええ。そのために精鋭であるあなた方にいってもらうのです」

相手の頭……司令官を叩く。そうすれば残りは統率の取りづらいモンスターだけ。確かに段違いに楽になるだろう。
問題はそれができるか、だが。

「学園長、耕介さんたちの力も借りていいですか?」
「許可します」

恭也の願いを簡単に許可したミュリエルに、救世主候補たちは軽く驚いた。少なくとも少し前までは、恭也たちとミュリエルの間には殺伐とした雰囲気が流れていたのだ。だが、今の二人にはそういうものがない。

「なんかあったのか?」

大河は小声でとなりに立つリリィに聞くが、彼女も驚いた表情を浮かべている。

「私は何も聞いてないわよ」
「でも、何だか恭也さんも学園長も、前よりもいがみ合っていないというか……」
「マス……恭也さん、少し穏やかですね」
「前のような殺伐とした雰囲気がないでごさるな。なのは殿、何か聞いていないのでござるか?」
「私もおにーちゃんから何も聞いてないです」
「仲がいいのは良いことですの〜」

そんなふうに小声で……ナナシは大声だったが……話す救世主候補たちに、ミュリエルも恭也も気付いているであろうに、特に何も言わなかった。
お互い見かけだけでなく、多少の信頼はするようになった。それだけの話で、わざわざ説明することでもない。
とりあえず、まだ危機感がないというか、余裕があるというか、そんな彼らに嘆息だけはして、恭也は振り返る。

「行くぞ。防衛戦は死守せねばならん。まあ、俺たちだけが戦うわけではないが、敵の首領が狙いな以上、要であることは確かだ」

恭也の言葉に、数刻前と同じように救世主候補たちは頷いた。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.322 )
日時: 2009/01/18 23:37
名前: テン




◇◇◇



広大に平野に響く剣戟の音。魔法が破裂する音。人の悲鳴。魔物の絶叫。
これが戦争だ、と目前の光景が語っている。
多くの王国軍の者たちとモンスターの決死の戦い。
王都の最終防衛戦。それは王都の防壁を背とした場所。即ちここを抜かれれば、モンスターたちはアーグに雪崩れ込む。そのために王国軍の者たちは奮闘している。
初めて見る規模の戦いに、恭也以外のメンバーが、顔を青くしていた。だが、今はそんなことを気遣ってやれる暇は恭也にもなかった。

「耕介さん」
「うん。わかってる」

呼ばれた耕介は、恭也が何を言いたいのかわかり、すぐさま頷いた。
それに恭也は頷き返すと、次に大河の顔を見た。

「俺は別行動を取る。大河、後は任せたぞ。耕介さんに色々と助言を聞いておけ」
「え?」

他の誰かが反応する前に、恭也は駆けだしていた。目の前の戦場に向かって。
恭也の能力を正しく使うならば、モンスターなど無視するに限る。
むしろ恭也がいては邪魔なのだ。

(破滅の将……か)

その破滅の将というのが何人いるのかは知らないが、少なくとも破滅の軍勢のトップ集団。狙うはその者たち。もちろん大河たちもその任を受けているが……。
恭也は戦いにいくのではない。狙うのは、暗殺だ。
真正面からではなく、背後より気付かれる前に殺す。全力になられる前に殺す。行動をとられる前に殺す。
戦争に正々堂々も何もない。全力にならせる必要はない。全力になられる前に、殺さなければならない者たちを殺し尽くす。
問題は、

(どこまで通用するか……)

そう考えながらも、恭也はモンスターたちの間を縫うようにして戦場を駆ける。

Re: 黒衣(仮投稿) ( No.323 )
日時: 2009/01/18 23:38
名前: テン


一応は敵戦力をほんの少しでも削るために、たまに防御が薄いモンスターの頭部に徹を込めた掌底を叩き込んで殺していく。王国軍が戦っているモンスターたちに、援護として飛針を放ち、走る。
モンスターたちは味方たちが邪魔で、恭也の存在に気付いた時には、その姿を捉えることはできなくなっていた。
恭也は個人という最大能力を活かして、敵の軍団を翻弄し、ただ最大の敵を探していた。
それは不破としての戦い方の一つ。
暗殺。頭を殺す。
火力という意味では、恭也は救世主クラスの中で最弱と言っていい。霊力という攻撃があるが、それでも力不足だ。耕介ならばそれこそ救世主候補たちと同等ぐらいの火力を持つだろうが、恭也の霊力の制御力では、そこまでの力は出せない上に、連発ができない。
戦争で重要なのは、その火力だった。
その火力重視である救世主候補たちの中に、恭也がいても仕方がない。
恭也ができることはただ一つ。その機動性を使って、敵をかわし、最速で頭を潰す。
それを恭也は早速実行に移したのだ。
敵を……破滅の将を殺すために。



ほんの数秒。たかが数秒で恭也の姿は、多数の戦闘で起こる粉塵の向こうへと消えていってしまった。
大河は思わず呆然としながらも、恭也が消えていった方向に伸ばしていた手を下ろした。

「は? あれ?」
「きょ、恭也さん……?」
「老師、行ってしまったでござるな……」
「も、もう見えませんね」
「恭ちゃん、速いですのー」
「……って、あいついきなり独断専行!? いっつも止める役のくせに!」

恭也がいなくなっただけで慌てる救世主候補たちを見て、場違いとわかりながらも耕介は少しだけ苦笑してまった。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.324 )
日時: 2009/01/18 23:39
名前: テン


端から見ていても気付いていたが、どうやら恭也は本当に救世主候補たちの中心になっていたようだ。決してリーダーという感じではなかったが、常に彼らを見守る兄のようなものとして、確かに彼らを引っ張っていた。
その恭也がいなくなっただけで、彼らは慌ててしまうのだろう。

「恭也君は恭也君の仕事しにいっただけだよ。俺たちには俺たちの仕事がある」
「おにーちゃんの仕事?」

なのはに問い返され、耕介は言っていいものか悩む。
だが隠しても仕方がないか、と耕介は言うことにした。

「恭也君はたぶん、破滅の将っていうのを倒しにいったんだと思う」

正確に言うならば、殺しにいった、である。が、そこまで言う必要はない。

「くー、倒しに?」

久遠が不思議そうに小首を傾げる。

「でも耕介さん、破滅の将を倒しにいくのは私たちだって同じですよ?」

ベリオの言うとおり、ここにいる面々は精鋭として、破滅の将を見つけだし、倒すことを目的としている。なのにそこから離れてどうするというのか。

「俺たちじゃあんなふうに敵を無視して進むなんてことできないだろう?」

耕介は、恭也が消えていった方向を見ながら言う。
耕介たちの火力ならば、敵を粉砕しながら進むことはできるが、恭也のように無視して進むことはできない。そして、どちらが敵を探しやすいかと言えば、間違いなく恭也のやり方だろう。
もっともそれは恭也が戦場で孤立するというのと同じことなのだが、彼ならばその程度のことは問題にしない。それを可能にするのが、彼の御神流であり、多対戦を得意とする不破流だ。むしろ一人の方が戦いやすいと言った方がいいだろう。

「恭也君は恭也君のやり方をし始めただけさ」


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.325 )
日時: 2009/01/18 23:39
名前: テン

言いながら、耕介は十六夜を構えた。

「だから俺たちは俺たちのやり方でいくよ」

そして黄金の炎を刀身に纏わせ、

「楓陣刃ぁぁ!」

霊力を一気に解放。
それは一直線にこちらに向かってこようとしていたモンスターたちへと放たれ、数匹まとめて吹き飛ばす。

「俺たちのやり方はこんな感じだよ」

それらを見て、一同確かにと頷いてしまった。
そのやり方は恭也にはできないが、この場にいる者たちならばできること。
言ってしまえば、ここにいる者たちは全員が大砲や機関銃だ。対して恭也はたった一丁の拳銃。取り回しこそしやすく、一人を相手には有効な武器だが、相手が大群となると攻撃力に難があるということ。
役割分担だ、と全員が納得すると、

「んじゃま、いくか」

大河はトレイターを爆弾に変え、大砲なら大砲らしくやるか、とニヤリと笑う。
その大河に続くように、それぞれ己のもっとも破壊力のある技、魔法を準備し始める。
なのはは魔法陣を複数用意し、リリィはライテウスにため込んでいた魔力を解放して呪文を詠唱。ベリオは杖の先に光の球を浮かべ、カエデは腕に炎を纏わせる。リコは頭上に巨大に隕石を召喚し、未亜は十数本の弓を同時に番える。耕介も再び霊力を十六夜に纏わせ、知佳も翼を広げ、久遠は身体に雷を帯電させる。

「がんばれー、ですのー」

そんな中なぜかナナシは皆の応援。
それに一瞬全員が力が抜けそうになるものの、それに耐え、

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

なのはの叫びと同時に全員がそれぞれの力を解放した。

「おっらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「パルス・ロアッ!」
「クリアレェェェェェェェェェェェェェイ!」
「紅蓮掌ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「テトラ、グラビトンッ!」
「ファイナル……メテオッ!」
「閃の太刀!」
「サンダー、ブレイクッ!」
「雷っ!」

解放されたのは、それぞれ最高とも言える力。
光が、爆裂が、炎が、雷が、岩の塊が、無数の矢が……戦場に突き刺さり、閃光と爆音を上げた。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.326 )
日時: 2009/01/18 23:42
名前: テン




◇◇◇



一瞬、地面が揺れた。
恭也は動かす足は緩めず、視線を一瞬だけ背後に向ける。そこには土煙が舞い、同時に閃光や炎が舞っていた。

「……とんでもないな」

あれをなした者たちと今まで何度も試合をしていたとは、と少しばかり冷や汗をかきたくなる。全員が一撃に全力を込め、それによって効果が相乗されたためとはわかるが、まさに人間兵器だ、あれは。
救世主候補たちも行動を開始した。
ならば自分は早く目標を見つけなくてはならない。そう、考えたときだった。

「っ!」

恭也は横にいたオークを蹴り飛ばし、その勢いで反対側に転がる。同時に上空から人が降ってきた。
上空より現れたその人物は、先ほどまで恭也がいた場所に握っていた刀を振り下ろしたが、すでに恭也はそこにいないとわかると、周りにいたモンスターを斬り飛ばし、不敵に笑った。

「おら、化物ども、そいつはあたしの得物だ。お前らは雑魚どもの相手をしてな、お前らじゃ足止めにもならないよ」

現れた女性の言葉に、狼狽えた様子を見せるモンスターたち。

「デ、デスガ……」

多少は知力があるらしいモンスターが何かを言おうとするが、女性は恭也を眺めながら不敵な笑いを浮かべたままだった。

「ロベリアたちの許可は得てるよ。てか、お前ら邪魔。今みたいに一緒にブッた斬っちまうよ」

そんな言葉を聞いて、モンスターは周りの仲間と顔を見合わせると、すぐさま言うことを聞いて二人の周りから離れていき、他の人間がいる方向へと進行していく。
恭也と女性がいる場所だけが、ポッカリと穴が空いたように、モンスターは近づかなくなっていた。

「よう、久しぶりだね」
「どうも」

場違いな挨拶をしてくる女性……不破夏織を名乗った女性に、恭也も場違いにも軽く頭を下げた。
夏織は長い黒髪を靡かせながら、刀の峰を肩に乗せ、楽しそうに笑っていた。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.327 )
日時: 2009/01/18 23:44
名前: テン


「あんたが御神じゃなくて不破なら、単騎で突入してくるって思ってたけど、ばっちりあったたみたいだ」
「…………」
「司令塔なら後ろにいる、と思ったかい?」
「まあ、普通はそう思うのが当然ではないかと」
「破滅の将ってやつらは我の強いのが多くてね。みんな前戦にでてるよ。あんたの目論見は失敗というわけだ」

やはり笑ったまま言う夏織。
だが、恭也も唇をつり上げて、皮肉げに笑った。

「いえ、成功です」
「あ?」
「俺は、元々あなたが狙いでしたから」
「…………」

恭也の言葉に、夏織は笑みを消して呆気にとられたように口を開けた。
恭也の言葉は決して虚勢ではない。元々、恭也の狙いは最初から彼女を誘い出すことだった。不破夏織を名乗る女性は、少なくとも御神を知っている。おそらく言いようからして、不破のことも知っているだろうと踏んでいた。ならば恭也の表向きの狙いも読んでくるだろうと思っていたのだ。
破滅に何かしらの形で関わっている彼女ならば、ここで出てくると。まあ、本当なら暗殺しきりたかったところだが。
恭也は唇をつり上げたまま、八景を抜いた。

「他の破滅の将がどの程度かはわからない。だが、少なくともあなたの相手は救世主候補たちでも難しそうだとわかっていた。だからあなたを最初に叩きに……いや、殺しにきた。暗殺できたなら、そっちの方がよかったのですが、やはり無理そうだ」



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.328 )
日時: 2009/01/18 23:47
名前: テン


その言葉を聞いても、まだ口を開いている夏織。
だが、

「は、はは、あははははははははは!」

いきなり彼女は笑い出した。本当におかしそうに、腹を抱えて笑う。
それを見て、わざと浮かべていた挑発的な笑みを、恭也は思わず引っ込めて、訝しげに眉を寄せる。

「ははは、誘い込まれたのあたしの方だった、ってわけかい」
「…………」
「あー、おかしい」

夏織は一頻り笑うと、刀を構えた。

「殺しにきた、か。不破で間違いないみたいだね」
「ええ」
「なら、宣言通りにあたしを殺してみな!」

夏織は笑みを消す。
だがそれは恭也も同じこと。無表情に戻った恭也。むしろそれは、最初から変わっていない。だが、決定的に何かが変わった。
殺気を放ったわけではない。表情を変えたわけでもない。それでも致命的に何かが変わった。それは相対する夏織が一番わかっているだろう。

「言われるまでもない。あなたはここで死ね」

恭也は冷たい声と表情を彼女に向けた。
そして、その瞬間戦いが始まった。
それは二人の戦いではなく、今後激化する戦いの最初の戦闘の始まりだった。




Re: 黒衣(仮投稿) ( No.329 )
日時: 2009/01/18 23:52
名前: テン




◇◇◇



なのはは辺りを見渡した。
モンスターは蹴散らしていたため、すでに敵はいない。だが、同時に仲間も一人もいなくなっていた。
破滅を将を探すため、火力で魔物の壁に穴を開けて突入した救世主候補たちだったが、すぐに幾つかのチームに分けることにしたのだ。
なのはは、知佳とベリオ、カエデの三人と組んだのだが、怪我をして動けない王国軍の兵士を見つけた。それを見て、当然ベリオたちが駆けつけ、なのはとカエデが護衛に回って治療したのだが、その際に新たなモンスターの群が現れて分断されてしまったのだ。
治療をしていたベリオたちはもちろん、同じく護衛に迷っていたカエデともはぐれた。
そのためなのはは、一人戦場を彷徨うことになった。
知佳たちの心配はしていない。必ず無事でいる。だからこそ、なのはがすべきことはすぐに合流することだ。

「っ!」

たまたま目をやった場所に、もう動くことのないモンスターの死体と、同じく王国軍の人間と思われる死体があった。
当然ながらなのはは人の死に見慣れていない。それを見ただけで動悸が激しくなる。

「……戦争」

血の臭い。死体。死臭。
自分が今、戦争をしているのだとまざまざと突きつけられる。
なのはは争いが嫌いだ。
平和が一番いい。
武器を使って争わないために、言葉をかける。
そういう普通の、優しい女の子だ。いや……だった、というべきかもしれない。

(私は……)

今でも争いは嫌いだ。
だけど、

(私は……おにーちゃんと一緒にいるためなら……戦う)

兄と一緒にいたい。兄の力になりたい。
それだけが、なのはの戦う理由だった。
兄のためならなんだってできる。
それを恭也が求めていなくとも、なのはは戦うことを選ぶ。
それは成長というべきか、もしくは視野が狭くなったというべきか。そんなことなのは自身にはわからない。だけど、なのはが求めるのは……恭也と共にいることだけだった。
きっと、あのとき……恭也の寂しそうな背中を見てしまったときから、彼女の中で何かが変わってしまっていた。
そして何よりそう変えてしまったのは……

「こんなところにいたのね」

彼女だ。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.330 )
日時: 2009/01/18 23:55
名前: テン

なのはは驚くことなく、声がした方向へと向く。
そこには巨大なモンスターの死体を踏み越えて近寄ってくる少女がいた。
エリカ……ローウェル。
なのはに人を殺すという覚悟を与えてしまった少女。

「あなたも破滅の将……っていうのだったの?」
「そうよ。破滅の将の一人、矛盾のエリカ」

エリカは肩にかかる髪を手で払い、なのはの前に立つ。

「また高町恭也はいないみたいね」
「よく言うよ。私一人をここに誘いこんだのはあなたでしょ?」
「気付いてたの?」

その問い返しに、なのはは肯定するように少しだけ笑ってみせた。
今までずっとモンスターたちは、何も考えていないかのように突進してくるだけだった。だが、唐突になのはたちを分断するような真似をした。離れていた位置にいたベリオたちだけと分断されたなら気付かなかっただろう。だが、モンスターたちはわざわざなのはとカエデまでも分断した。
もちろんそれは戦術のうちだ。それぞれを分断し各個撃破するという、数がいるならばもっとも簡単で、もっとも効果を上げる戦術。
だが、それを行ったのは知能が低いモンスターたち。彼らはそんな戦術は使わない。しかしそれが実際に行われた以上、それを指示した存在がいるはずだ。その状況でエリカが現れた。
ここまでくれば、彼女の指示で分断されたのだと、簡単にわかる。そして、エリカにはなのはを一人にしたい理由があるのだ。

「私の用はわかってるわよね?」

エリカの問いに、なのはは小さく頷いた。するとエリカは笑った。
あどけなく、だが、禍々しく。

「そう、なら……死んで」

その呟きと共に、エリカのその手にダガーが現れる。
それを見つめ、なのはは緊張に顔を強ばらせながらも、白琴を構える。

「それはやだ」
「無理矢理っていうのもオツよね?」
「もしかして変態さん?」
「うっさいわよ」

傍から聞けば、友人同士の軽口の応酬にも見えた。だが、二人の間にあるのは緊張感であり、その手に握るのは相手を傷付ける武器。

「決着をつけましょう。私はあなたを殺して……そして、高町恭也を絶望させたあとに殺す」
「そんなこと……させない」
「なら、生き足掻いてみなさい!」

その言葉を最後に、エリカは駆けだした。
それに合わせるようにして、なのはも白琴を動かす。
彼女らの第二ラウンドはこうして始まった。