Re: 黒衣(仮投稿) ( No.28 )
日時: 2007/12/27 07:27
名前: テン





それは少し時を遡る。
恭也たちが王宮に身を寄せ、すぐの時。
闇が初めて動いた時のこと。


そこは何もない広野。
だがそこは絶対的な処刑場。
そこで相対するのは紅の少女と闇の死神。

「くっ……」

紅の少女、レティアは顔から足まで……全身から血を流した身体でありながら、目の前の存在を睨んでいた。
そのレティアに向かって闇は左手を差し出す。だが、それは手を差し伸べるという優しさのためではない。

「さあ、ページを……赤の精と白の精の『記憶』を寄越せ」
「どうして……」
「……その問いは、何への問いだ?」

彼の淡々とした問い返しに、レティアは顔を痛み以外のものへと歪めて叫ぶ。

「全てへのよ! どうして! どうして気付いたの!? あいつは私の存在は気づいていても、マスターの存在にはまだ気付いていなかったはず! あなたみたいなのがいる以上、あいつはマスターの存在に気付いているんでしょう!?」

その絶望にも近い叫びを聞いても、彼は表情を変えない。だがやはり淡々とその問いに答えた。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.29 )
日時: 2007/12/27 07:29
名前: テン


「お前が記憶を構成するページを抜き出した時点で、すでにお前は『あれ』を押し返していた。なのに俺が知っている。そして俺は、あの時お前が現れる前の奴の行動が知識として刷り込まれている。これで答えになるのではないか?」
「っ!?」

彼の言葉に、レティアは目を見開いた。
その答えはつまり……。

「二千年前……私と同じ時には気付かれていた?」
「正確にはお前よりも前にだ。大人しくしていたならば気づきはしなかっただろう。だがあの時、片方……女の方と共に召喚器を呼んだ。これはとてつもない矛盾を引き起こした。これで奴は注目された。それで気付かないほど、『あれ』は馬鹿ではない」
「……あのとき同一存在が同時にいたために、世界を揺るがしていた。その時点で監視していたの?」
「そういうことだ。お前を作った『モノ』ならばその程度の矛盾は許容し、無視するだろう。『あれ』とて別にお前の主が召喚器を呼んだ程度では気付かない。しかし『あれ』は赤の理が選ばれた世界ならばともかく、赤と白が混在する中途半端な今の世界では矛盾に敏感の上に、白の理が混じるがために度が過ぎた矛盾は許容しない」



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.30 )
日時: 2007/12/27 07:31
名前: テン


彼の答えを聞き、レティアは愕然とした表情を張り付ける。だがすぐに、彼女は唇を噛み締めた。
そして、やはり彼を睨みつける。

「あなたの姿は皮肉のつもり?」
「『あれ』にそんな思考があると思うか?」
「私にしたら皮肉よ。その姿で現れられるのは」
「それは俺の知ったことではないな」

レティアにとって皮肉ととれる彼……高町恭也と同じ顔、姿を持つ者、不破恭也は無表情に返した。

「どこから引っ張られてきたの? ただの偽物とは思えない」
「いや、俺は虚偽の存在だ。興味がないので正確には知らん……が、この世界ではない可能性を他の世界より見つけ、それをこの世界の枝とし、俺という因子を抜き出したあとすぐに枯れさせた、というような知識は刷り込まれている」

やはり淡々とした答え。
だがレティアは、その抽象的な説明を正確に理解した。理解したからこそ再び目を見開き、痛みを無視して叫ぶ。

「あいつ、自分の管理外の『木』に……それも株分けされた『木』にまで手を出したの!? その上に、それを元にして架空の枝にするなんて! 原因なく、結果だけを生むような行為よりもよっぽど悪質よ!? それこそ赤の理すら越えた矛盾じゃない!」



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.31 )
日時: 2007/12/27 07:34
名前: テン


「俺には興味のないこと、と言った」

不破恭也は無感情に答え、左手は差し出したまま、剣を握っていた右手に力を込めた。

「質問に答えるのはここまでだ。『記憶』を大人しく寄越せ。少なくとも白の精のは必要だ」

レティアは唇を噛む。それと同時に、どこからともなく本のページを数十枚現れ、それを右手に掴んだ。

「間違いないようだな」

不破恭也はそれを見ながら、それでも感情を見せることなく呟いた。

その瞬間……不破恭也が意識をページにそらした瞬間、レティアが握っていた本のページが、まるで紙吹雪のように舞った。それはまるでレティアの身体を覆い隠すように。

「…………」

そして、それとほぼ同時にズブリと鈍い音が辺りに響いた。

「……射抜か」
「死者のページからの技能と知識、経験のダウンロード……技系の技能や経験は、身体が元のままだからあまり役にたたないけど、でも御神流だけは別よ。不破美影の射抜を元にし、私の射抜として放ったこれ、なかなか効くでしょ?」

いつのまにか、本当にいつのまかレティアが左手に握っていた小太刀。その刀身は不破恭也の腹部に突き刺さっている。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.32 )
日時: 2007/12/27 07:36
名前: テン


紙吹雪を吹き飛ばし、まるで一陣の風になったかのような突き。レティアが放ったそれは、確かに射抜だった。
だが、不破恭也は剣が突き刺さった自らの腹部を冷めた目で見つめるのみ。

「なるほど、死者の技術や知識、経験を下ろせるわりには、今まで魔法系しか使わなかったのはそのためか」
「身体が私のままな以上、知識は役にたっても、技能と経験は役にたたないのよ。だから知識だけで使える魔法系を良く使うだけ。でも私はマスターを常に見てきた、その技を含めてね。だからこそ御神流を扱う死者を原型に、私の御神流へと再構築できる。もちろんそんなものマスターやあなたが放つそれには足下にも及ばないでしょうけど。でも、遠距離戦主体だと思っていた敵が近接戦をしかけてきたら、あなたでもそう簡単には反応できないでしょ?」

レティアは頬の傷口から流れてきた血を、真っ赤な舌で舐めながら妖艶に笑う。

「読みが外れたのは久しぶりだ。ページをばらまき、逃げると思っていたのだが」
「少しでも手傷を負わさないと、あなたは危険すぎる。マスターの障害になるなら、なんであろうと消すわ。たとえそのために私が危険になろうと」



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.33 )
日時: 2007/12/27 07:39
名前: テン


「大した忠誠心だ。だが……もう少し上を狙うべきだったな」

不破恭也は足を折り曲げ、その膝をレティアの腹部に叩き込んだ。

「がっ!」

苦痛の声と空気を吐き出したレティアへ、不破恭也はさらにその彼女の額に向かって肘を叩き込む。
そのとき、一瞬だけ不破恭也の目が細くなった。
だがすぐに表情を元に戻すと、不破恭也は小太刀を自らの腹に残したまま柄を離し、後ろへと倒れ込んだレティアに向かって、まるで虫を踏みつぶすかのように足を叩き下ろす。
レティアは横へと転がり、それをかわし、さらに転がった勢いを利用して立ち上がると同時に、そのまま不破恭也から距離をとった。

「頭を自分から差し出すことで徹を無にするとは、恐れ入る」

レティアは肘が来るとわかった瞬間、それが伸びきる前に自分から頭を差し出した。完全に肘へと勢いが乗る前に当たることでその威力を減らし、さらに完全に徹が込められることを防いだのだ。
それでも全ての威力を殺すことなどできず、レティアの額は割れて、新たな血が流れ始める。

「わた……しだって、伊達にマスターを……見続けてきた……わけじゃない。それに……知識は役立つって……言ったでしょ」



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.34 )
日時: 2007/12/27 07:41
名前: テン


額からも血を流して言うレティア。痛みのためか、それとも脳が揺れたためか、その声には力がなく、途切れ途切れとなっていた。
不破恭也はそれには何も答えず、自らの腹部に突き刺さったレティアの小太刀を引き抜いた。血が溢れ出るが、それでも彼は痛みの表情も見せずにいた。
レティアは、それを見ながら呪文を紡ぐ。
そして不破恭也は、自身の腹に刺さっていた小太刀を捨て、自らの小太刀を深く構えた。
それはまるで弓の弦に番えられた矢のように……。
その切っ先を向けられただけで、まるで身体を貫かれたかのような錯覚を覚えさせ、恐怖を与えさせる。

「これが本当の射抜だ」

不破恭也がこれから放つ技の名を紡ぐ。
そして自らの身体を矢とし、高速となって、その牙をレティアの頭部へと向かわせた。
それは先ほどレティアが放った射抜とは別物だ。その力も、速度も、正確さも、その全てがレティアの、その元となった不破美影の上をいく。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.35 )
日時: 2007/12/27 07:42
名前: テン



それがレティアの頭を刺し貫くと思われた瞬間、彼女の姿が残像を残して消えた。
小太刀の切っ先は空を切り、不破恭也はレティアがいた場所を通り抜けて止まる。

「次元の狭間に逃げたか。だが目的は果たした」

小太刀を鞘に戻し、彼は散らばった紙片を眺める。

「……しばらく動けんな」

それから血が溢れ出る自分の腹部を眺め、不破恭也は呟いた。





赤の主・大河編

第三十章 




Re: 黒衣(仮投稿) ( No.36 )
日時: 2007/12/29 17:00
名前: テン





コツコツと数人分の歩く靴音だけが廊下に響く。その数人の人物のほとんどは暗い表情で歩いていた。
それぞれが何かを考え、だが悪いことしか浮かばないかのような表情。
こんな表情を授業中もしていたからこそ、今日『も』救世主クラスの授業は、ダリアによって休みにされてしまったのだ。
そして、全員がそれを拒否することもなく、寮に帰ることになった。
その中で、先頭を歩いていたただ一人の男……大河はため息を吐いた。

「お前ら、いつまでそんな感じでいる気だよ?」
「お兄ちゃん」

大河の言葉に救世主候補たちが暗い表情で大河の顔を見る。

「受け止めろよ。恭也は……恭也たちは俺たちの前からいなくなった。理由はわからないし、なんでこんなことになったのかもわからない。けどあいつらは俺たちとは違う道を行った。これはもう突きつけられたんだよ」
「マスター……ですが……」

リコのいつも以上に低い声に、大河は自らの声を被せる。

「でもも何もねぇ。お前らが沈んでればあいつが帰ってくるのかよ? あいつが全部話してくれるのか?」

Re: 黒衣(仮投稿) ( No.37 )
日時: 2007/12/29 17:02
名前: テン


乱暴な言葉遣いではあるが、大河の顔に怒りや苛立ちというものは一切なかった。それはまるで聞き分けのない子供を諭す大人のようにも見える。
大河自身は本当にらしくないと思っている。だがそれでも彼はそれを止めない。

「もう、あいつは全部決めたんだよ」
「ですが師匠……」
「だから、でもも、ですがも、今更何を言ってるんだよ?」
「た、大河君、私たちは……」

なおも言い縋ろうとするカエデとベリオに、大河は深々とため息を吐いた。
そして頭を少し掻く。

「結局、お前たちはどうしたいんだ?」
「え?」

その大河の質問に、今まで黙っていたリリィを含め、全員が足を止めて大河を驚いたように見つめる。
その全員に倣うように大河は足を止めて振り返った。
授業中のため、シンと静まった廊下は広く感じさせる。その中央で大河は救世主候補たち一人一人を眺めた。

「何がしたんいんだよ、お前たちは?」
「そ、それは……」
「もう、あいつらは答えを出した。あいつらの目的なんか俺は知らない。だけどあいつらはその目的のためなら、きっと俺たちを倒すことだって覚悟してるぞ」

それは全員が理解している。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.38 )
日時: 2007/12/29 17:04
名前: テン


彼らには自分たちを倒してでも手に入れたいものがあるのだと、突きつけられたばかりなのだから。

「それでお前たちはどうしたいんだ? ちなみに、俺はもう決まってるぞ」
「それはなんでごさるか、師匠」
「口に出して言うことじゃないよ。だけど、そのためなら俺は恭也だって倒す」

大河の言葉を聞いた一同は、驚きで顔を歪め、何かを言おうとしたが、全員が何も言えず、口を噤んでしまった。

「言っておくけど、これは俺が決めたことだ。お前たちに強制なんてしない。それに俺だってまだ諦めてない」
「何を諦めてないって言うのよ」

始めて口を開いたリリィに対し、大河はニッと笑った。

「また恭也の横で戦うことをだよ」

恭也と共に戦ったのは一度だけ。こうなってしまった原因であろう、導きの書を禁書庫へと取りに行ったときだけ。
それでも、

「俺はまだ恭也と戦いたいって思ってる。敵としてなんかじゃない。仲間としてな」

だからと大河は続け、

「俺は理由を聞くことを、何のために恭也が戦っていのかを聞くのを、まだ諦めてない」

そう宣言した。




Re: 黒衣(仮投稿) ( No.39 )
日時: 2008/01/02 21:44
名前: テン



救世主候補の一員にして、赤の精であるリコ・リスは図書館に来ていた。
とくに理由があったわけではない。時間を持て余しているわけでもない。
リコには召喚陣の修復という最も重要な仕事がある。むしろこんな所にいる暇はないと言っていい。しかし、召喚陣の修復は遅々として進んでいない。

「何をしているんでしょうね、私は……」

リコは近くにあった椅子に座り、そして本棚を見つめ、自嘲気味に笑う。
本当に自分は何をしているのだろうと。何がしたいのかと。
生き延びる。そしてもう少し恭也や大河たちの傍にいたい。それが大河と契約した理由の一つ。
後悔するのなら、それは自分の選択でと決めた。
だが、

「後悔しないようにというのは、難しいですよ……がさん」

自らで呟きながら、リコはすぐに驚きの表情を浮かべた。

「私……今……」

今、確かに自分は名前を呟いた。だが、それは誰の名前だった?
誰を思い出しての言葉だった?
頭の中に浮かんだあの人は誰だ?

今までずっと思い出せなくて、ずっと思い出したいと思っていた人物。

「あれは……」

そう呟いた時だった。
一枚の本のページが、ユラユラと彼女の前に落ちてきた。




Re: 黒衣(仮投稿) ( No.40 )
日時: 2008/01/02 21:46
名前: テン


「え?」

リコは図書館の天井を見上げる。それは一枚ではなかった。何枚ものページが、ゆっくりと舞い落ちてきている。
同時に、

「振り向くな」

背後から人の気配を感じ、リコが振り向こうとした瞬間、その人物が制止してきた。
リコはその声に抗うことができず、振り向こうとした中途半端な状態で止まってしまう。だが、本能が振り向いてはいけないと告げてきていた。

「それはお前に返す」

それは男の低い声だった。
どこか恭也に似ていて、だが彼にしては冷たい声。だからこそリコは彼が誰なのかわからなかった。

「これは……」
「お前の記憶だ」
「私……の……?」
「二千年前のものだ」
「なっ!?」
「振り向くなと言った。目を抉られたいか?」

思わず振り返りそうになったリコに、酷く感情の乗らない声で、男は言った。
だが、おそらく彼はリコが振り返れば本当に目を抉るだろう。それがわかり、リコはその身体を止めた。
敵わない。この自分の後ろにいる存在には決して敵わない。戦ってはいけないと本能が叫ぶ。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.41 )
日時: 2008/01/02 21:49
名前: テン


「その記憶をどうするかはお前次第。その記憶を手に入れて……取り戻して、お前がどう思うか、どう行動するかは俺にはわからないが、これが俺の目的の一つである以上、遂行する。赤のお前が俺に協力するとは思えんが、それはお前の一部。消失したままでは救世主誕生にも支障が出かねん」
「あなた……は……」
「気にする必要はない……」

リコの質問に背後の男は相変わらず低い声で答え……そして、その気配が消えた。
忽然と、唐突に、消えたのだ。逆召喚などではない。呪文を唱えた様子もなく、いきなり消えた。
それがわかり、リコは振り返ったが、やはりそこには誰もいなかった。
そして残されたのは、数十枚にも及ぶ紙片。

「一体……」

何なのだと、後半は心の中で呟き、リコは残されたページに視線を移す。

「私の……ページ……」

それは確かにリコの一部であった。彼女を構成する一部分。それが触れただけでわかる。
それはリコの記憶部分だという。

「記憶……」

それがどんな意味かわからない。だが、知らなければならない。
そう考えたとき、ページが光の粒子となって消えていく。その光はリコに降り注ぎ、それさえも消えていく。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.42 )
日時: 2008/01/02 21:51
名前: テン


そして、

「あ、あ、あ……」

次々に浮かんでくる記憶という名の映像。
それは忘れていた記憶。
忘れてはいけない記憶。
何より忘れてはならなかった……人。


『オルタラ……』


不器用に薄く笑う青年。
何より暖かくて、色々なことを教えてくれた……人を好きになるということを教えてくれた人。



「……なん……で……」

訳がわからない。

「なんで……!?」

この記憶が正しいのかわからない。
取り戻したはずの記憶が、偽りのものだとしか思えない。
いや、そうでなければならない。
これは偽りの記憶でなければならないのだ。
真実であっていいわけがない。
これが真実の記憶であるならば、

「……あの人は……もう……」

すでに彼が死んだという当然のことを、今更突きつけられたということなのだから。




Re: 黒衣(仮投稿) ( No.43 )
日時: 2008/01/02 21:53
名前: テン





礼拝堂。
ステンドグラスから入る陽光により、その場所は本当に幻想的な空間だった。
そこに頭を垂れ、両手を組み、ただ祈りを捧げる僧侶の女性がいるからこそ、それはさらに深まる。

「ベリオさん」
「ベリオ殿」

その幻想的な雰囲気の中に、二人の少女が入り込んだ。
それに応え、女性……ベリオは立ち上がり、振り返る。
そこにいたのは未亜とカエデ。二人ともどこか複雑そうな表情を張り付けて立っている。だが、それは立ち上がったベリオも同じ。祈りを捧げていた時には見せていなかった複雑な表情を浮かべている。
そんなベリオに、未亜とカエデは近づいた。

「未亜さんたちは……」

ベリオが何かを問おうとしたが、それ以上は言葉にならなかった。
彼女たちの答えを聞いてもいいのかわからなかったのだ。

「私も諦めません」

未亜はいつのまにか複雑な表情を消し、ただ真剣に言葉を紡いだ。
それにベリオは、そして隣にいたカエデも驚いたような表情を浮かべた。

「お兄ちゃんも諦めてない。だから私も諦めない。恭也さんたちに理由を聞いて、それが力になれることなら、私は恭也さんの力になりたい」
「未亜さん……」



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.44 )
日時: 2008/01/02 21:55
名前: テン


「だって、そういうのを、逃げてるだけじゃダメだって、簡単に諦めちゃダメだって私に教えてくれたのは、恭也さんとなのはちゃんだから。だから私は、お兄ちゃんと一緒に、恭也さんたちにもう一度聞きます」

それは兄と同じ宣言。
それを聞いて、カエデは微笑み、ベリオも微笑みながらも、内心では複雑だった。
ベリオはカエデとは違い、未亜がこの世界に来た時から知っている。そして彼女の最初の頃の姿は、カエデは知り得ないことだ。
ベリオは未亜と知り合った頃の印象は、基本的に押しが弱く、大河の後ろに隠れているように感じた。
それは見た目のことではないし、人と接触するのを……それほど……苦手としているというわけでもない。むしろ未亜は人当たりがいい方だし、普段の大河とのやり取りを見ていると、生活面や兄のいい加減な態度を改めようとしていて、しっかりとした妹に見える。
だが自分から大きなことを決めることができなくて、その全てを大河に任せているようなところがあったように感じるのだ。 
彼女はその頃を思えば考えられないほど格段に成長していた。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.45 )
日時: 2008/01/02 21:58
名前: テン


確かに今回も最初に諦めないと言ったのは大河だ。それだけを見れば、今回も未亜はその兄の選択に乗ったと見えなくもないが、そこには確固たる彼女自身の意思があった。
大河に流されて決めたわけではないと、流されたわけではなく、自らの意思で決めたと顔と声でわかる。

(私は……成長しているのかしら)

このアヴァターに訪れて、ベリオはすでに二年以上が経っているが、彼女ほど成長している自信はなかった。
それでも、

(そんなことはないんじゃないかい?)

そんな声が聞こえた。
それはもう一人のベリオの声。
ああ、そういえばそうだ。
未亜が恭也となのはに出会って成長したというならば、きっと自分は……そしてカエデは、大河と出会たたことで成長した。したはずなのだ。
そして、その彼が諦めてはいない。

「そうね。恭也さんに聞きましょう」
「で、ござるな。もう一度戦うことになったとしても、今度こそ恭也殿たちの真意を」
「はい」

三人は笑い合い、ここに誓った。
もう一度恭也たちと戦うことになっても、聞くことを諦めないと。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.46 )
日時: 2008/01/03 17:00
名前: テン




リリィは自室のベッドに倒れ込んで、部屋の天上を眺めていた。
彼女は今、ひどく冷静だった。
なぜだか理由はわからない。
だがそれでも冷静に物事が考えられるのだ。
それは、恭也のことでも。


『大河たちはどうした? 救世主候補たち全員に今回の任務はいったはずだぞ』

この言葉が鍵だ。
それはあの時、恭也が助けにきてくれた時に聞いた言葉。
なぜ恭也がそれを知っていた?
確かにリリィは……救世主クラスはあの任務を受けた。だが、それを知っている者は限られている。任務を受けた救世主クラスの者たち、教師であるダリアとダウニー、そして学園長のミュリエル。
救出が任務であるため、極秘とまで言わないが、他の者たちには漏らさないようにと言われていた。
もちろん救世主クラスの者たちは誰にも喋っていないし、それどころではなかった。
おそらく教師たちやミュリエルもそうだ。いや、そもそもこのうちの誰かが、他の誰かに喋っていたとしても、それは結局学園内の誰かでしかないだろう。
たとえ誰か他の生徒や教師がその話を聞いていたとしても、恭也はそれを聞き出す方法がない。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.47 )
日時: 2008/01/03 17:02
名前: テン


恭也ならば学園に侵入するぐらい簡単にやるだろうが、さすがにあの場の会話を聞かれていたということは恐らくないだろう。
この学校に恭也と直接繋がっている者がいるとも思えない。確かに恭也は有名であり、慕われていたが、恭也自身が友好的に接していたのは救世主クラスの者たちだ。繋がりとして求めるなら、むしろ救世主候補たち。その自分たちの手を振り払った以上は、この学園の中で恭也と繋がっている者などいない。いや、リリィにとってはいてほしくないというのが本当の所。それは恭也がその人物を頼ったということだから。
それはまあいい。
同時に口止めしているというのも考えられない。まさかその程度の情報のために、恭也が脅しなどをするとは思えないのだ。
そう、はっきりと救世主クラスがあの任務を受けたという情報は、それほど重要な情報ではない。少なくともリリィはそう思う。もちろん情報としてはだが。
恭也たちが破滅の一員で、最初から救世主候補を狙っていたなら、わざわざリリィをあそこで救出するわけもない。
そんな重要ではない情報も知っていたというのなら、それは誰から聞いたのか。
だがそのとき、リリィは唐突に閃いた。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.48 )
日時: 2008/01/03 17:03
名前: テン


「……もう一人いる……じゃない」

あの任務のことを知っていた人物はもう一人いる。
それは学園の者ではない。

「クレシーダ……王女」

そう、あの任務自体を持ってきた人物だ。
彼女が恭也に味方しているならば、色々なことが繋がってくる。
この世界で何の後ろ盾もない恭也たちがそれでも表に知られずに生活していける、そして活動できる理由。
それは王室という後ろ盾があるから、そのため隠れていることさえできる。
あの任務が救世主クラスに与えられたのを知っていたのもそう。

「まさか……」

恭也がいるのは……王宮。

「だけど……」

もし仮に彼が王宮にいるとして、どうすればいい? さすがに救世主候補といえど、そう簡単に入れてもらえるような場所ではない。
いや、そもそも……

「私はどうしたいのよ」

恭也が王宮にいるとしても、自分自身の考えが決まっていないのに……

だが、そのときあのバカの言葉が頭に浮かんでしまった。

「諦めない……か」

諦めない。
あいつは諦めないと決めた。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.49 )
日時: 2008/01/03 17:05
名前: テン


では、自分は……

「私は……」

一度目を瞑り、自分がどうしたいのかを考えた。
同時に、どうしてこんなにも悩み、恭也に怒りを覚え、力になれないことに無力感を覚えるのか。

「わた……し……は……恭也が……」

本当に今のリリィは冷静で、自分の感情も簡単に見えてしまって……

「恭也……」

それがわかってしまったら、もうダメだった。

「私は……」

リリィはまたも呟き、だがすぐさまベッドの上から降りると、窓際にかけてあった外套を羽織った。

リリィが自分の往きたい道を……理解した時だった。
それはもしかしたら、色々なものを裏切る道かもしれない。
それでも、もうリリィは止まるは気はなく、諦めるつもりもなかった。




Re: 黒衣(仮投稿) ( No.50 )
日時: 2008/01/03 17:06
名前: テン




大河は学園の北に位置する森にいた。ここで恭也は鍛錬をしていたというが、学園の敷地の一部でありながら、この森は広大で彼がどこで鍛錬をしていたのかは正確にはわからない。
大河はその森の中を暫く歩き、一際大きい木の前に立つと、その幹を軽く拳で叩いた。

「クソッ……」

 最初はただ軽く叩く程度だった。

「クソッ!」

だがそれはじょじょに強く、本気の力になっていく。
何度も何度も木を殴りつける大河。
召喚器を持っていれば、幹に傷をつけ、陥没させるぐらいの力があるかもしれないが、それを持たない今は、傷つくのは大河の拳だけだ。

「何が……何が殺すだ!!」

あの時恭也は殺すと言った。

「なら、なんであんなこと言う必要があんだよ!?」

冷静になって、恭也の言葉を思い出してみれば、それは矛盾だらけだった。
殺すと言いながら、

「なんで俺は生きてるんだよ!」

あの時、四連の斬撃。
峰ではなく刃で斬っていたなら、大河もカエデも死んでいたのだ。


わかってる。
わかってるのだ。
最後の言葉。
最後の決別で理解していた。
あの時は静かに別れることができた。だけど、今はもう無理だ。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.51 )
日時: 2008/01/03 17:08
名前: テン


だがその選択とて、

「お前は、これを選ばせたかったんだろう」

自分に仲間たちを引っ張っていけと。
仲間を守れと。
恭也はそれを大河に選ばせたかった。そして実際に大河は選んだ。恭也を止めるよりも、恭也の理由を聞くよりも、それを選んだ。
その選択に後悔はない。
だが、

「だけど俺はお前の望むとおりに動くつもりなんてないぜ」

まだだ。
まだ諦めてなどなやらない。

「俺たちの道は、まだ完全に別れたわけじゃない。絶対にそれを思い知らせてやるよ!」

そう誓いを込めて、大河はもう一度木を殴りつけた。




Re: 黒衣(仮投稿) ( No.52 )
日時: 2008/01/03 17:09
名前: テン




「マスター……」

レティアは何もない次元の狭間に浮いていた。その傷ついた身体を動かすこともできずに。
もうあれからそれなりの時間を回復に費やしたが、力を使わずに身体を癒すには時間が必要だった。

勝てない……ということはなかった。
あの不破恭也という存在を倒すことも、レティアには不可能ではなかった。

「できない……」

だが、それは同時に実行できない。
おそらくできたとしても、何とか相打ちに持っていくのが精一杯だ。
自分の全てを使って、その後一切の行動ができなくなるぐらいのページという力を使って何とか勝てるか、もしくは本当の相打ちとなるか、その程度の可能性。
だから、それはできない。まだレティアは死ぬわけにもいかない。『また』全ての力を失うわけにもいかない。

そもそも彼と会ったのは偶然だった。
少しばかりの確認のために、レティアがあのアヴァターの広野に現れた時、彼はすでにあの場にいた。
レティアには偶然に見えた。だが、確固たる目的があった以上、もしかしたら待ち構えていたのかもしれない。
そして結局戦闘となり、ほとんど何もできずに全身を斬り刻まれた。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.53 )
日時: 2008/01/03 17:12
名前: テン

彼が強すぎた。ただそれだけ。普通の状態で勝てる相手ではない。
そして、

「……あのとき、躊躇った」

レティアは躊躇ったのだ。
射抜を使った時、腹部を狙ったわけではなかった。もちろん紙吹雪が、逆に自分の邪魔になったが、それでも心臓を狙うことはできたはずだ。
だが、その容姿故に……彼女の主の可能性であるが故に、レティアは不破恭也を殺すことを躊躇ったのだ。その躊躇が心臓ではなく、腹部へと攻撃を向かわせた。
彼女の甘さだ。

「……はあ、いつかこれが絶対に後に尾を引くわね」

レティアは本当に深々とため息を吐き、悔しそうな表情をとった。
不破恭也の目的は何となくわかる。記憶を手に入れたかったのも、おそらくは赤の精か白の精を味方につけるためと、救世主誕生のために危険性を潰すため。

「ごめんなさい……マスター」

しばらくは、この傷を癒すために動けそうになかった。だから、主のために行動することができない。
報せることさえもできない。
それを思って、レティアは次元の狭間に漂いながら、主へと謝罪した。




大河編 三十章 終