Re: 黒衣(仮投稿) ( No.228 )
日時: 2008/09/15 22:14
名前: テン




暗い闇の中、月の光を浴びて輝く黒銀と紅の光線。
それらの幻想的とも言える光が、次々に異形の怪物たちの四肢を切り裂き、砕く。
木々の間に次々と築かれる屍の山。
その屍の山を作り出す黒衣の青年は、それらを気にもしない。死んだモノ……それも敵を気にする理由などないのだ。
異形の屍を作り出し、すぐさま次の得物に飛びかかるその姿は、その纏っている衣服と相まって死神のようにも見えた。
異形の命を刈り取る死神。それは人から見れば救世主となるのかもしれない。いや、異形の化け物たちを超えるさらなるバケモノか。

「まったく、こうも多いとは」

死神……恭也は、両の手を絶えず動かしながらも舌打ちした。

彼が今いるのは森の中。だが、その森は恭也がよく鍛錬で使うフローリア学園内にある森ではなく、王都アーグからも離れたある州の森だった。
恭也がそこにいるのは、与えられた任務を遂行するためだ。その目的は……恭也としては……救出だった。

「残った生徒は合計二十六人だったな」

小太刀を振り、両脇にいたゾンビを微塵にし、足刀で前方にいた人狼の首をへし折りつつも恭也は呟く。
それが恭也が救出すべき者たち。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.229 )
日時: 2008/09/15 22:15
名前: テン


ある街の近くの森に突如として出現したモンスターたちを討伐せよ、という命令を王国から受けた学園は、様々なクラスの混成部隊を差し向けたが、一週間以上が経ってその部隊は帰還しなかった。
それからさらに数日後、数人の生徒たちがボロボロの状態で近くの街で保護されたらしく、その報せが学園に届いた。
そして、その生徒たちから学園は、現れたモンスターの数、強さは送り込まれた生徒たちだけではどうにもならないようなものであったという報告を受けたのだった。

生還した……とは言っても重傷を負っているが……生徒たちの報告は正しい。確かにこのモンスターの数は、学園の生徒たちでは荷が重いとしか言いようがないだろう。せめて倍の人数を送り込むべきだった。
それは今そこで戦っている恭也にはよくわかった。
モンスターの数もあるが、それ以上に場所が悪すぎた。森という領域は恭也にはとても戦いやすい環境であり、それもその状況で単独で戦えるというのならば、どれだけのモンスターが現れようが恭也ならば戦うにしても逃げるにしてもどうとでもなった。むしろ今までの任務の中で一番楽とすら言える。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.230 )
日時: 2008/09/15 22:15
名前: テン


だが、生徒たちにとってはそうではない。傭兵科の生徒たちならばある程度は戦えるかもしれないが、この森に送り込まれたのは混成部隊だ。中には魔導士科の生徒や僧侶科の生徒たちも混じっている。それらの者たちはこんな状況で戦うなんていう訓練などほとんど受けていないのだ。それらが足かせになる。

「……送る人間を考えろ」

それらを上は理解していなかったのだ。
だからこんな状況になった。
そして急遽、恭也が現場を見に行くことになった。調べるべきは敵の数と地形。ようは斥候だ。それと同時に救出できる生徒がいたならば救出すること。
それを伝えた王国軍の騎士とやらは、前者を優先させろと言っていたが、恭也は何としても救出を優先するつもりだった。

「王国も学園も何を考えている……!」

生徒を差し向けたあとに斥候。そしてそれを最優先し、救出は後回し。そもそも救出を目的とするなら、もっと人員を割く。むしろすでに生存者はいないと考えているのだろう。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.231 )
日時: 2008/09/15 22:16
名前: テン


それらを聞いたさいに、恭也はどれも順番が逆だろうと本気でミュリエルを罵りそうになったし、できるならその騎士を殴り倒し、王国に乗り込み、クレアを怒鳴りたいぐらいの激情に駆られた。
王国にしろ、学園にしろ組織としては、やはりズタボロとしか言いようがない。
戦闘で勝利するために、戦闘での被害を最小にするために、敵の奇襲を受けないために、それらが斥候の意味だ。それがなぜ敗北してから、被害が出てから行われるのか。
それもその斥候役であった恭也が情報を持ち帰ったあと、その情報を元に王国軍が動くのだ。
どう考えても非効率的なやり方だ。王国と学園の足並みが揃っていないというのがよく理解できる。王国の方が桁違いな大きさではあるが、お互い組織であるという関係上、その連携がうまくいかないのは仕方がないといえば仕方のないことなのかもしれない。学園が王国の出資によって運営されているという立場的なものもあるかもしれない。
だが、被害を増やし、手間を増やしていて戦いなどやっていられるものか。
何より許せないのは、救出は任務のうちではあるが、人命よりも斥候を優先しろということだった。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.232 )
日時: 2008/09/15 22:17
名前: テン


もちろん組織や上の立場の人間が現場の人間を見捨てることなどよくあることだ。そんなこと恭也も理解しているし、仕方のないこともあると本来なら切り捨てることもできる。
だが今回、学園の生徒たちがこうして孤立し、取り残されてしまったのは間違いなく王国と学園の不手際だ。
任務に派遣された者たちのことをさらに詳しく聞けば、教師などついていっているわけでもなく、生徒たちだけの任務。それも大半が実戦の経験などなく、これが初めての任務となる者たちばかり。言ってしまえば新兵以下の者たちだけで構成させている。そもそも学園の生徒たち王国軍の予備兵でもなければ訓練兵というわけでもない。
そんな者たちだけで不足の自体が起きたらどうなるかなど目に見えているではないか。
王国も学園も、そんなことにすら気付かなかったのだ。
せめて正規兵か教師の一人でもつければ精神的にも違うのだ。
そもそも最初からなぜ斥候科の生徒たちをつけなかったのか。
それともモンスターの討伐など、難しい任務ではないとでも考えていたのか。

それらによって溜まった怒りと激情を、恭也は今いるモンスターたちにぶつけていた。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.233 )
日時: 2008/09/15 22:18
名前: テン


無論、この前と同じような感情に任せて戦うというような醜態は晒さない。ただ激情を力に変え、あくまで冷静に戦っていた。
でなければ恭也が来た意味がなくなる。
今回、斥候要員として考えられていた恭也とカエデのどちらかだった。経験の違いから恭也が送られたのだ。それなのに感情に任せるわけにはいかないのだ。
もっともこうして敵と戦ってしまっている以上、斥候としては失格かもしれないが。それでも斥候よりも救出に重点を置いている恭也としては戦うしかない。
なぜならそれが目印にもなるからだ。

「生きていろよ……セル」

その場にいた最後の一匹を斬り飛ばし、恭也は救出しなければならない者たちの中にいる友人の名を呟いた。




第四十六章




本来ならば光が届かず、常に暗闇に閉ざされた場所であるはずの洞穴。そこが今、炎の光に照らされ、湿気で湿っている岩肌を輝かせていた。
だが、辺りは明るくとも、その場の雰囲気は暗く、同時に喧騒に包まれていた。

「布が足りない! 服でも何でもいいから持ってきて!」
「布はちゃんと熱湯でも何でも、簡単でもいいから消毒もしてくれ!」


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.234 )
日時: 2008/09/15 22:18
名前: テン


「痛ぇ! 痛ぇよ!」
「僧侶科の人たちも魔導士科の人たちも魔力がからっぽなんです! 治癒魔法は少しまってください!」
「もうやだぁ……」

そこはさながら野戦病院だった。
傷だらけで横たわっている者。その治療をする者。治療の手伝いのために走り回っている者。疲れを癒す者。恐怖で震えている者。多数のまだ少年少女と言ってもいい者たち。
それらを眺め、セルビウム・ボルト……セルは舌打ちした。
ここにいる者たちは、全員フローリア学園の生徒たちだった。
モンスター討伐という任を受け、そのために構成された生徒だけの部隊。
だが、それはすで瓦解していた。
セルのように、すでに任務をこなし、実戦を経験した者も何人かいたが、ほとんどの者たちは今回初めての実戦だった。セルたちとてそれほど多くの実戦を経験したわけではない。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.235 )
日時: 2008/09/15 22:19
名前: テン


授業でモンスターと戦ったことはあったが、それはあくまで訓練だ。もし何かあったとしても助けてくれる教師がそばにいた。だが、今回は頼れる者は仲間しかおらず、その頼るべき仲間たちも他のクラスから召集された者も多く、顔を知っている者は少なかった。それで連携を取れというのも無理があるし、精神的な重圧がのしかかってきたのだ。
そのため最初のモンスターに奇襲という形で襲われた時には、生徒だけの部隊はほとんど瓦解していた。
何より場所も悪かった。森というフィールドで戦ったことのある者はほとんどおらず、その足場の悪さから、戦いにすらならなかったのである。
何人かはぐれてしまい、行方がわからない者もいるが、目の前で死人が出ていないだけマシと言える状況。
だが怪我人は何人も出た。
この時点ですでに任務は失敗と誰もが認めていたし、それでも遂行すると言うような人物も現れなかった。
そもそも今まで遭遇したモンスターの数が尋常ではなかった。怪我人もいる状態で、そんな数のモンスターの討伐など無理だった。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.236 )
日時: 2008/09/15 22:20
名前: テン


それらの怪我人たちを背負いながらも、休めるところを探し、そこで魔導士科や僧侶科たちの魔法による治癒で怪我人たちの傷を癒した。
それから森を出るために動き始めるも、すぐにモンスターと遭遇し、戦ったり退却したりを繰り返すことになった。そのたびに怪我人を出しながら。
そうしている間に、彼らはこの森で遭難してしまったのだ。森のどの辺りにいるのからわからなくなっていた。
すでに一週間近くそんなことを続け、ようやくこの洞穴を見つけてから身体を休めることができるようになったが、精神的な限界が来ている。

「救援はこないのかよ」

セルは拳を握りしめながら呟いた。
すでにこれだけの時間が経ったのだ。任務は失敗だと学園も王国も考えているだろう。救援を送ってもおかしくはない。だが、同時に見限られたという可能性もまたあった。
どちらにしろ、この森にいるモンスターたちを放っておくことはないだろう。新たな討伐隊が送り込まれるはずだ。だから、救援にしろ、その新たな討伐隊にしろ、待つしか彼らにはなかった。もう自力でこの森から出るのは不可能だと、セルに限らず全員が思っていたのだ。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.237 )
日時: 2008/09/15 22:21
名前: テン


それでもただ待っているだけでは発見されない可能性があるから、辺りを見回りする者、自分たちが生きているという目印を辺り散らばらせる者、食料など手に入れる者などと、この洞穴から出ていかなければならない。
今怪我で呻いている者たちは、そんな中でモンスターに襲われ、怪我を負った者たちだ。すでに治癒魔法が使える者たちのに魔力は底を尽き、怪我人たちはその者たちの魔力が回復するまで、応急処置で我慢してもらうしかない状況だった。
セルも先ほどまで見回りに出て、モンスターたちと戦ったのだが、それほど大きな怪我もなく帰ってくることができた。それでもそれに安堵していられるような状況でもない。
ただどうすればいいとセルは必死に考えていた。その表情は、学園では見られない真剣なものとなっていた。
セルがこれからどうすればいいと考えていたとき、いきなりセルたちと代わって見回りをしていた者たちが駆け込んできた。

「おい、助けかはわからないけど、誰か来たかもしれない!」
「本当!?」

駆け込んできた傭兵科の生徒たちを、怪我人を抜いた全員が希望の光を目に浮かべて見つめた。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.238 )
日時: 2008/09/15 22:22
名前: テン


「ああ! そこら中にモンスターの死体が散らばってる!」
「ってことは救援じゃなくて、新しい討伐隊が組まれたのか?」

セルは報告を聞いて呟くが、他の者たちは別にどちらだっていいとやはり目を輝かせている。
実際、セルだってどちらでもいい。少なくともそれらついて行けば生存率は高くなる。
とにかく今は、その討伐隊を見つけなければならない。そのため再び外に出る者たちを選出しなくてはという話が出た時だった。

「悪いが、討伐隊でも救援でもない」

そんな低い声が、洞穴の中に反響して聞こえた。
いきなりの声に、全員が驚いて洞穴の入り口に通じる通路を眺める。すると灯りである炎に照らされて、黒い衣服を纏った青年が歩いてきていた。

「無事か、セル」
「きょ、恭也!?」
「ああ」

現れた青年、恭也にセルが驚いた声を向けると、彼はいつもと同じように無愛想に返事をした。
そんな恭也に、セルよりも早く小走りで近づく少女がいた。
本来ならは肩にかるくらいの長さである青髪を後ろで縛り、白を基調とした服の上にローブを羽織った魔導士然とした格好の少女。

「恭也さん!」
「フィルも一緒だったのか……」



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.239 )
日時: 2008/09/15 22:22
名前: テン


その姿を認めて、恭也は呟く。
彼女は少し前から親しくなった魔導士科の生徒だった。
恭也はフィルの身体に怪我がないことを確認してから問いかけた。

「二十六名、全員いるか?」
「はい……全員います。全員無事とは言えませんが」

それは見ればわかることだったが、それでもフィルは沈痛な表情で言葉にした。
恭也は頷くと、その場にいる全員を見渡す。
そんな恭也を見ながらも、セルは彼へと近づいた。

「討伐隊でも救援でもないって、どういうことだ、恭也? 大河たちはいないのか?」
「送られたのは俺だけだ」

それから恭也は全てを話した。
行方がわからなくなっている者たちはすでに近くの街で保護されていること。自分が斥候でしかないことなど。この森を調べた結果、多種多様なモンスターが相当な数で徘徊していることがわかったということ。
そして、自らが斬り殺したモンスターたちを調べていた人間の気配を感じたので、それを追ってここまで来たことまでを話す。
それらを聞いて、再び生徒たちの間に重い雰囲気が流れた。
恭也一人ではどうにもならない。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.240 )
日時: 2008/09/15 22:23
名前: テン


確かにここにいる全員が、恭也は召喚器もなく救世主クラスに所属する猛者であるということを知っているし、多かれ少なかれ、全員が彼を尊敬していた。それどころフィルのように彼に心酔している者さえもいる。
だがやはり、彼には救世主候補たちと比べれば攻撃力が足りない。救世主クラス全員で来てくれたならともかく、彼一人ではここにいる全員を守りながら森を出ることなど不可能であると、その場にいる全員がわかっていた。
何よりそれを一番理解しているのは恭也だった。ここにいる全員を守りながら戦うことなど不可能であると。だからこそ助けに来たとは言わず、自分が斥候の役割であることを話したのだ。その心は彼らを助けると決めながらも。

「やはり破滅はもう動き出しているのでしょうか? こんなにモンスターが現れるなんて」

暗い雰囲気を察して、フィルが話を変えるために問いかけた。

「おそらくはな」

答えながらも、恭也は周りの雰囲気には構わず怪我人に視線を移す。

「怪我人は何人だ?」
「十人です。動けない者はそのうち六人」


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.241 )
日時: 2008/09/15 22:24
名前: テン


答えたのは、フィルでもセルでもなく、傭兵科の生徒で、この中では一番の年上。それでも恭也と比べればまだ少年と言えるほどの男。
彼がこの部隊では、暫定的ながら指揮官……いや、リーダーと呼ぶべき人物であった。

「治癒魔法を使える者は?」
「治癒魔法を使える者はすでに魔力が尽きてしまって、今は応急処置だけで何とかしています」
「それぞれのクラスは何人ずついる? あと魔力が尽きているのは何人だ? 動ける者だけを教えてくれ」
「残っているのは傭兵科の十二人、僧侶科三人、魔導士科が五人です。そのうち僧侶科の者全員と、魔導士科の中で治癒魔法が使える二人は魔力が尽きてます」

次々と生徒たちの状態を聞いていく恭也に、それが何なのだろうと説明する生徒は疑問に思うも、ちゃんと答えていった。
それらの答えを聞いてから、恭也はフィルに向き直る。

「フィル、お前も魔力は尽きているのか?」
「いえ、私は治癒魔法を使えませんから。こんなことなら覚えておけばよかった」

フィルは答えながらも、指を口へと持っていき、それを悔しげに咬んだ。

「後悔はあとにしろ。次は同じことにならないように努力すればいい」


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.242 )
日時: 2008/09/15 22:25
名前: テン


「はい」

突き放すような発言ながらも、そこに優しさ感じ取ったフィルは、指を咬むのを止め、うっすらと笑って頷いた。

「治癒魔法を使える人たちと比べれば魔力は残っていますけど、見回りなどで周辺を回っていたときに魔法を使っていたので、完全とは言えません」
「魔力の回復にはどのくらいかかる?」
「私は半日ほどおけば。他の人たちは一日二日時間があれば満タンまで回復すると思います」
「治癒魔法を使える者たちの回復を待ったとして、全員の傷を治せるか?」
「一回や二回では無理です。三回は魔力の回復を待たないと。つまり最低でも一週間はかかります」

だからこそ怪我人が溜まっていっているとフィルは告げる。
それらを聞いて、恭也は顔には出さないものの内心で驚いていた。
例えばベリオが治癒魔法に全力になれば、この程度の人数ならば造作もなく全員を回復させ、それでも余力を残すだろう。
つまり治癒魔法を使える一般化の生徒たち五人よりも、ベリオの治癒魔法の圧倒的に燃費も、その治癒力も上なのだ。いや、燃費ではなく、魔力の量自体が違うのかもしれない。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.243 )
日時: 2008/09/15 22:25
名前: テン


魔力の回復に関しても、ベリオやリリィ、なのはたちの方が早い。彼女たちは全ての魔力を使い切っても、半日程度でほぼ全快にまで回復させる。
救世主候補と一般の生徒たちではこんなにも違うのかと、恭也は改めて思わされた。
さてどうするか、と恭也は考えるも、今度はセルの方を向いた。

「セル、すまんが、武器はあるか?」
「その剣、使えないのか?」

セルは恭也の腰に差してある二刀に視線を向けるが、恭也は首を振った。

「ここに来るまでにモンスターを斬りすぎた。途中で払ったり拭ったりはしたが、血と油でもう斬れん。最後の方はほとんど鈍器のような使い方になってしまっていたしな。あとは霊力でだましだましやってきたんだが」

ついこの間研ぎ直してもらったばかりだというのに、と呟いて恭也は嘆息する。

「どれだけ斬ったんだよ?」

霊力というのが何なのかはわからないものの、剣が斬れなくなるほどのモンスターを斬ったということに興味を覚えたのか、セルは聞いた。

「一々数えていなかったが、大小合わせておそらく二五、六〇匹ぐらいだろう」


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.244 )
日時: 2008/09/15 22:26
名前: テン


そのために恭也は、十本ほど持ってきていた小刀も全て使い切ってしまった。紅月をレティアに貰う前に使っていた小太刀も持ってきていたが、すでにそれももう紅月と八景同様に血と油で斬れるような代物ではなくなっていた。
霊力も使いすぎて、燃費の悪い恭也ではすでに使い切ってしまっている。
代えの小太刀がもう四、五本あり、完全装備が揃っていればと思わずにはいられなかった。それだけあれば、この森というフィールドでならば、時間はそれなりにかかるだろうが恭也一人でもモンスターの殲滅が可能だったかもしれない。

そう考えて恭也は舌打ちするが、彼がここまで斬り倒してきたモンスターの数を聞いて、その場にいた全員が息を呑む。
部隊が瓦解して基本的に逃げに徹していたが、ここにいる全員が協力しあって、今まで何とか四十数匹をモンスターを倒してきた。だが、彼は一人でその五倍近くの数のモンスターを短時間で屠ってきたというのだから、その驚きは当然だった。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.245 )
日時: 2008/09/15 22:27
名前: テン


無論恭也も無傷ではない。炎に照らされる恭也の身体をよく見れば、頬や腕、足などから血を流していた。そしてモンスターの血と思われる体液が彼の服を汚している。それだけでここまでどれだけの激戦を繰り返してきたのかよくわかるというものだった。

だからこそ怪我人を含め、その場にいる全員が、恭也に向ける尊敬の念を強めた。
召喚器がなくとも、そこまで戦える恭也に憧れた。
自分たちも努力次第ではそんなことができるようになるのかもしれないと。
初めて訓練ではなく、実戦でモンスターと戦い、右往左往していた自分たちでも、がんばればそんなふうになれるかもしれない。
もちろん簡単な努力では実現できないことはわかっている。才能だって違うだろう。それでもこうして召喚器をなしにそんなことができる人間が実在している。
自分たちだってできるかもしれない……。
憧れとともに強くそう思うのだ。

「剣があれば、救援を呼んできてくれるってことか?」

友人であるセルもそんな恭也に他の者たちと同じような感情を向けるが、今はそれは忘れて聞く。
だが恭也はそれに首を振り、否定した。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.246 )
日時: 2008/09/15 22:28
名前: テン



「今から俺が戻ったところで、次に来るのは王国軍。今までの経緯からして、王国軍……というよりも、その上は状況への対応が遅い。それが討伐と救出を兼任したとしても、来るのはおそらく一週間近くは先になるぞ。それまでお前たちは保つか?」

そんな恭也の言葉に誰も反応する者はいなかった。その沈黙こそが無理だという答えそのものなのだ。
もちろんこの洞穴に閉じこもっていれば何とかなる可能性もある。だが、いつモンスターたちに発見されるかはわからない。
発見されればばその時点で終わりだ。怪我人を守りながら、こんな狭い洞穴で勝てるはずもないし、それほど大きな洞穴でもない。入り口を塞がれればその時点で終わり。だからこそ見回りや見張りの人間が必要なのだ。
ここに身を隠し続けるなるば、見回りや食料集めのために外に出る者たちが必要で、またそれらをしている間に、今までと同じように多くの怪我人が……最悪死人も出るかもしれない。見回りをして、怪我人が出て、その傷を回復させて魔力が枯渇する。そんなサイクルができあがっている。いや、すでに怪我人を魔法で治療するのも限界に差し掛かっている。だからこそそれを続けるのはもう不可能に近い。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.247 )
日時: 2008/09/15 22:30
名前: テン


しかし、ここを離れてもまた同じだ。

それらを語られずとも理解できた恭也は再びため息を吐く。

「民政に関しては、まあ俺が他世界出身なのと、あまり学園から出ないからまだよくわからん所もおおい」

学園の中にいる恭也は、この世界の政治がどのように機能しているかがよくわからない。そのへんの授業をあまり真面目に聞いていないのも理由ではあるが、それだけでもない。恭也はそれを体感できるところにいないのだ。
学園は一つの街としても機能する。恭也たちの世界で言う、いわゆる学園都市とまではいかないが、全生徒たちが学園の中に閉じこもったとしても一年は生活していけるほどだ。
実際のところ売店では生活用品なども販売している。それでも恭也に限らず、生徒たちが王都で買い物などをするのはやはり種類が少ないからだ。他にも娯楽を求めてというのもあるが。
恭也の場合はあまり学園から出ない。最初こそ未亜に案内してもらって服を買いに行ったが、それも生活用品まで売っていることを知らなかったからだ。未亜たちが売店について何も言わなかったのは、多くの種類を見たいからだと解釈したのだろう。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.248 )
日時: 2008/09/15 22:31
名前: テン


ここ最近は知り合いと出かけたり、武器屋を覗くことも多くなったが、それでも娯楽を求めて外に出る大河たちと比べれば少ないだろう。
そのため王国の民政、ひいては政治そのものがどのように機能しているかまでわからない。
やはり生徒だけ、ほとんどが未成年で構成されている学園では、そういったものが見えづらい。
それは今はどうでもいい。

「だが軍政に関してこの国の上は無能だ」

恭也にしては珍しく、はっきりとそう貶した。
今の恭也にとって重要なのは、そちらだ。無論、それは破滅が間近に迫っているかも知れないからこその優先順位だが。

「危機管理が緩すぎる。行動が遅い上に支離滅裂。それが現場の意見だと言われればそれまでだが、な。まあ、大きな戦争があまりなかったようだし、仕方がないと言えば仕方がないのだろうが」

そこまで言って、恭也はそんなことは今は関係ないと首を振った。

「とにかく、このまま俺だけ帰ってもお前たちの生存の確率は下がるだけだ」
「……それはわかってるけど」

そう、それはこの場いる生徒たちの方がよくわかっている。どれだけ自分たちが力不足かも。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.249 )
日時: 2008/09/15 22:31
名前: テン


確かに自分たちの命が危なくなって、この任務を寄越した王国、そしてそれを受けた学園に恨み言も言った。何の情報もなく叩き込まれ、その内容も滅茶苦茶。罵倒するぐらいは許されるだろうと。
だが同時に、それは自分たちの力不足でもあったのだ。
彼らは破滅と戦うために学園へと入学した。もちろん他にも理由はある者たちは多い。フローリア学園がエリートを排出する学園だから、そこを卒業すれば箔が着くし、将来も安定する。そういった打算はあった。
だが、結局こうして力不足で、死にそうになったのでは意味がない。今まで学園で何をしていたのだ、ということにもなるのだ。
それをここまで一人で来て、一人で戦ってきたという恭也を見て自覚した。
だからこそ王国や学園だけを責めることは、彼らにはできない。

そして彼らのそんな心情も、恭也は理解できる。自分が同じ立場だったなら王国や学園を恨むよりも自分の力不足を嘆くだろうから。
そして何より、彼らが自分の力不足を嘆くならば、彼らの未来はまだ開けるだろう。

「だから、お前たちの命を俺に預けてくれ」
「え?」
「全員でこの森から脱出する」



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.250 )
日時: 2008/09/15 22:32
名前: テン


恭也はその場にいる全員を見渡し言い切った。

「いや、ちょっと待てよ、恭也」
「なんだ、セル?」
「お前の役目って斥候なんだろ?」
「ああ」
「ここで俺たちの救援を優先したら、下手したら命令違反になるぞ」
「そのへんの心配はない」

確かに恭也が言い渡された任務は斥候だ。だが、優先順位は低いものの、救出もそのうちの一つだ。もちろん王国や学園はまさか全員が生き残っているとは思ってなかったからこそだろうが。
そのため別に命令違反にはならない。屁理屈だろうが何だろうが、任務の中に救出は入っているのだから。
この森の大きさ、どんなモンスターたちがいて、それがどのように分布しているかもすでに調べた。斥候の役割は終わっている。あとは帰るだけだ。それが恭也一人だけで帰るのではなく、ここにいる全員で帰るに変わるだけだ。
そもそも斥候要員が帰ってから、しばらくして部隊が出撃したのでは、斥候が持ち帰った情報の半分は使えなくなる。この任務に……少なくとも恭也が思うには……それほど大きな価値はないのだ。
そのへんの説明をして、恭也は軽く鼻を鳴らした。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.251 )
日時: 2008/09/15 22:33
名前: テン


「それに俺は王国軍に所属しているわけでも、王国に忠誠を誓ったわけでもないしな。学園には所属しているが、学園の飼い犬になったつもりもない。俺は俺の理由で剣を振る。それを権力になど干渉させるつもりはないし、俺の剣も技もあくまで俺のためのものだ」

ある意味自分勝手な物言いではあるが、恭也は自分のために剣を握っていると理解している。
守るというのは、あくまで己のためでしかないのだと。

「だからもし命令違反に問われるなら、それはそれで構わない。知ったことでもないし、それも覚悟している。まあ甘んじて罰を受けるかどうかわからないがな」

そんな宣言をしてから、恭也はセルたちを眺める。

「偉そうなことを言ったが、俺一人では、全員を守ることなど不可能だ。だからお前たちの手を貸してくれ。生き残るために」

そんな言葉に真っ先に反応したのはセルだ。
彼はその背に吊していた剣を抜いて叫ぶ。

「恭也一人に任せておけるかよ、俺もいくぜ!」
「そうか。ならば背中は預けるぞ、セル」
「応よ!」

二人は握りしめた拳を打ち付け合う。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.252 )
日時: 2008/09/15 22:34
名前: テン


だが、そんな二人の姿を見ても他の者たちはどうしていいのかわからなかった。
セルのように呼応すればいいのか、自分たちは何もできないと言えばいいのか。
そんな中で、両足に傷を負い立てなくなっていた傭兵科の男子生徒が一人、僧侶科の女生徒の手を借りて上半身を起こした。
そして、その横に置いておいた自らの剣を鞘と留め金ごと握りしめ、それを前に突き出す。

「俺の剣を使ってください」

その少年は恭也に向けてそう言った。

「いいのか?」
「はい。俺の足はこの通りなんで」

少年は苦笑いながらも、自分の足を見つめた。
骨が折れて、添え木と布で簡易的に治療されている足は、ひどく腫れ上がっていた。彼自身も大量に汗を流している。熱があるのだろう。

「それでみんなを……」

少年はそこまで言って首を振った。

「守ってくれとは言えませんね。ただ……みんなを連れていってください」
「……わかった」

恭也は頷き、その剣を受け取った。
それに満足したように少年は笑う。

「それで俺はここに置いていってかまいません」
「…………」


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.253 )
日時: 2008/09/15 22:34
名前: テン


少年の突然の言葉に、周りの生徒たちが唖然とした表情を浮かべた。ここに置いていけということは、死ぬということと同義なのたから。
だが、恭也だけは変わらぬ無表情で少年の顔を見続けていた。

「この足じゃ足手まといになるだけです。だから、俺のことはいいです。俺のことはいいですから、みんなを助けてください!」

少年は唇を噛みしめて言った。死ぬのが恐くないわけではないだろう。それでも仲間の命を助けてほしいと。
それに他の怪我人……とくに動くことができない重傷者たちが続いた。

「俺の武器も……持っていってくれ」
「私……のも……私のことは置いていっていいから……」
「だから……みんなを……」

最初はそれぞれ顔見知りなどいないほとんどいない部隊だった。すでにその部隊も瓦解している。
それでもここまで助け合って生き延びてきたことで、それらはすでに仲間となっていたのだ。そんな仲間たちに生き残ってほしい、そう彼らは願っていた。
ここに置いていけば、おそらく怪我人は全員死ぬだろう。それを自ら知りながら犠牲になると言っている。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.254 )
日時: 2008/09/15 22:35
名前: テン


恭也はそんな彼らを見渡して、それから最初に武器を託した少年に向き直る。

「名は何という?」
「アスク・レピアスです」

恭也は少年……アスクに笑いかげた。

「アスク、お前の……いや、お前たちの願いは聞けない」
「え?」
「悪いが、俺は誰も死なせるつもりはない。全員生きて帰らせる」

恭也の言葉に、アスクだけでなく恭也に武器を託そうとした全員が驚きの表情を浮かべた。
そんな彼らを見て、恭也は笑い方を苦笑へと変える。

「こんなところでは死なせんよ」
「だけど!」

なおも何かを言おうとするアスクを、恭也は手を突きだして止めた。

「死ぬ覚悟があるならば、生き残る覚悟も持て。最後まで生き残ることを諦めるな」

人のことを言えないが、と恭也は内心で呟きながらも続ける。

「お前たちの学園を卒業したあとの進路は知らないが、少なくともまだお前たち軍人ではない。まだ学生でしかない者たちに……生き残った者たちに、お前たちを犠牲にしたから助かったなどと思わせるな」
「…………」
「諦めるのはまだ早い。それは足掻いてからにしろ」


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.255 )
日時: 2008/09/15 22:36
名前: テン


恭也はアスクと他の怪我人たちにそう言ってから、セルやフィル、無傷とは言わないが、それでもまだ動ける者たちを見渡した。

「お前たちは、アスクたちを犠牲にしたいか?」
「そんなわけありません」

すぐさま返されたフィルの言葉に、セルや残りの生徒たちも深く頷いた。
怪我をした彼らは自分たちが犠牲になるとまで言った。自分たちのことを気にせず生き残れと。
そんな言葉を聞いて、そして恭也の言葉を聞いて、自分たちには何もできないなんてことを言えるわけがない。
ならば戦うしかない。全員で生き残るために。
そしてそんな彼らを見て犠牲になろうとしていた生徒たちは、深い感謝の言葉を呟いていた。
そんなフィルたちを見て、恭也は満足げに頷く。

「ならば全員で生き残るぞ」

そして、恭也の力強い言葉に、その場いる全員が頷いた。
きっと彼がいれば帰ることができる。
そう信じて。