Re: 黒衣(仮投稿) ( No.1 )
日時: 2007/12/14 01:31
名前: テン

恭也とリリィは次々と現れるモンスターたちを蹴散らしながら駆けていた。
このごろ一緒に自主訓練をしたり、実戦でコンビを組んだりと二人で戦うことが多かったためか、どうもこの二人は他の者たちよりもコンビネーションに磨きがかかっているらしい。さらに恭也がいることで、モンスターたちの待ち伏せや奇襲も察知することがきた。
そのため、数こそ多いもののモンスターに苦戦することはなかった。

「ほんとになのはは大丈夫なの?」

先ほどから現れるモンスターの数は異常だ。そのためなのはも同じような状況に陥っているのではないかと、リリィは恭也に声をかけた。

「…………」

もちろん恭也とて同じ心配をしている。むしろ心配というだけならば、リリィ以上にだ。
だが、

「大丈夫だ」

恭也はなのはを信じると決めたのだ。
今ここで合図が来たならば、未亜たちとの合流はリリィと先に行った大河たちに任せ、すぐさま恭也はなのはを助けに行くだろう。
しかし合図がない以上、恭也はなのはがちゃんと戦えている、無事でいると信じた。
未亜たちの無事が確認できたなら、すぐさまなのはの元に向かう。今はそれだけだ。

Re: 黒衣(仮投稿) ( No.2 )
日時: 2007/12/14 01:33
名前: テン

そして、そろそろ合流地点が見えるという時だった。

「リリィ、隠れろ」
「え?」

いきなり足を止めた恭也にリリィは驚き、何かを口にしようとしたが、その前に恭也はリリィを右手で抱き寄せ、廃城の柱の影に身を寄せて隠れた。
突然抱きしめられたため、リリィは怒りからか照れからか顔を赤くして叫ぼうとしたが、それすらも恭也は左手で彼女の口を押さえて止めた。
そして恭也は人差し指を立てて静かにと視線とともに告げ、さらにその指を村の入り口……つまり仲間との合流地点へと向けた。

「っ」

そこには確かに仲間たちがいた。
だがそこに余計なモノたちまで混じり、さらにその状況は見ただけでまずいとわかるものだった。
恭也たちから見えるのは、大河とカエデの後ろ姿と……その前方にモンスターに囲まれ、そのうちの一体であるリザードマンに剣を向けられている未亜とベリオ、リコの三人が身体を縛られて座っている。さらに未亜たちから少し離れた後方には十数匹のモンスターの群が控えていた。
つまり未亜たちは捕まり、人質になっているのだ。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.3 )
日時: 2007/12/16 21:52
名前: テン

「前回といい今回といい、どうやら本当に知恵の回る者がいるようだな……それも俺たちのことをそれなりに知ってる者が」
「え?」

恭也の言う意味がわからず、リリィは思わず腕の中から顔を上げるが、彼はそれに答えることはなかった。




第四十二章 浮かぶ疑惑と救出






「どうするの?」

未だ恭也の腕の中にいるリリィは、やはり顔を僅かに赤くしたまま、だがそれを振りほどくことなく小声で恭也に聞く。
未亜たちが人質に取られている以上、大河たちは動けない。だが恭也たちまであそこに出ていくのは下策だ。
モンスターたちはまだ二人に気付いていない。もちろん二人は背後にいるため大河たちも気付いていないが、ここで二人まで出ていって、一緒に人質を盾にされてはどうしようもなくなってしまう。

「もう少し様子を見る。それにナナシがいない」
「あ、そういえば」

この場にほとんどの救世主クラスの者たちがいるわけだが、そこにナナシだけがいない。もちろんなのはもいないが。

「確かリリィは相手を眠らせる魔法を使えたよな?」

Re: 黒衣(仮投稿) ( No.4 )
日時: 2007/12/15 17:03
名前: テン

「ここからじゃ効果範囲が届かない。少なくとも大河たちぐらいの所まで行かないと。それにあれは絶対に効くっていう保証がないのよ。むしろ相手の精神力次第の所が大きいし」
「まあ、そんな魔法が必ず効くなら確かにどんなのが相手にでも勝てるか」

そんなことを小声で話しながらも、二人は前方から聞こえてくる声に集中する。
どうやら会話からすると、未亜が相手を気絶させるスタンという魔法で最初に捕まり、さらにその彼女を人質にされてベリオとリコも、というような感じであったようだ。

「何やってるのよ、未亜は」

最初の頃と比べて、最近は未亜も頑張っていると認めていただけに、リリィは僅かに失望混じりの声音で呟く。
それに恭也はやはり僅かに苦笑した。

「そう言ってやるな。未亜の性格や状況からすると、おそらくいなくなったナナシを探していたらという所だろう。それに未亜の場合は武器が弓である以上、一人の時に奇襲や待ち伏せを受けて囲まれたらどうしようもない」


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.5 )
日時: 2007/12/15 17:05
名前: テン


『正面』に大量のモンスター、というのであれば、魔力で矢を生成でき、それを一度に……それも大量に放つことができ、さらに貫通力のある技を持つ彼女ならむしろ本領発揮といった所だろうが、同じく大量のモンスターに『包囲』されてしまうとそうもいかない。
突破力が乏しいため、逃げ出すのも難しいのだ。接近されればほとんど弓で殴ることしかできない。これで逃げ切るのは難しい。
そのへんを恭也が説明するとリリィは少し唸る。

「せめて体術ぐらい教えておけば良かったかしらね」
「それも未亜の場合は無意味だ」

だがそれさえも恭也はすぐに否定した。
剣などよりも長く大きく、それなりに重い弓を持ちながら格闘戦など素人にできるわけがない。むしろ熟練した格闘家でも難しいだろうし、恭也やカエデとてそうだ。
どうやっても弓を持っているとそこに重心が取られるし、弓が邪魔で投げ技、絞め技もできなければ殴るのも無理、蹴りとて難しい。しかも未亜の場合はその召喚器である弓を投げ出したり、消したりしてまえばただの女子学生でしかない。
ならば召喚器なしでも戦えるように鍛えろと思うかもしれないが、


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.6 )
日時: 2007/12/15 17:07
名前: テン

「才能云々以前の問題で、たかだか数ヶ月鍛えただけで召喚器もなく一人でモンスターと戦えるようになれというのは、彼女に限らず無茶だ。そこまで戦いは甘くないし、可能ならとっくに俺が教えている。大河とて召喚器を持っていることを前提にして鍛えているんだ。なのはにとてそのへんはほとんど教えてない」

この三人が真正面からモンスターと戦えるのは、前提条件に召喚器を持っているからというのがある。
未亜となのははそれがなければただの少女だし、大河とて少しばかり運動神経が良く、喧嘩慣れしている少年でしかない。ベリオとて半ば似たようなもの。
一人の時に召喚器がないのならば戦わない方がいいし、逃げに徹するべきだ。
だから恭也は一切その手のことを未亜となのはに教えていない。ある程度戦術や敵の攻撃の対処法などについては教えているがそれだけだ。
今はむしろそんな無駄なことに時間を費やすよりも、自らと召喚器の特性を伸ばす方がいいに決まっている。
大河の場合はその特性故に、恭也が教えても問題ない……厳密には技術的なことは教えていないが……から教えているにすぎない。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.7 )
日時: 2007/12/15 17:09
名前: テン

早い話未亜やなのはだけに限らず、救世主候補たちの戦い方は、ほぼ全員が歪と言っても構わないのだ。そのほとんどが一点特化型であり、召喚器がなければ話にならない。
だがその歪さこそが、救世主候補たちの戦闘能力を支えている。

「そう……ね」

自分が何年も努力をし続けて魔法と同時に格闘術を身につけただけに、リリィは恭也の言うことに静かに頷いた。


二人とも意外に冷静に会話をしている。もっとも恭也はこういう状況だからこそ冷静でいるというだけで、リリィは恭也に慌てている様子がないから冷静でいられているというのが正しいのだが。

「それにしても……」

恭也は呟きながら、前方の状況を注視していた。
やはり捕まっている未亜たちのと、モンスターたちと大河たちの会話を聞く限りおかしいすぎる。
どう考えても、敵に救世主候補たちの特性や弱点がばれている。
そして、

「リリィ、この村を探索していて気付かなかったか?」
「え? 何を?」
「いくつか家の中も見てみたが、この村全体から生活臭がほとんどしない。少なくとも数年は使われていない感じだ」

恭也の低い声に、その意味を理解してリリィは目を大きく開けた。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.8 )
日時: 2007/12/15 17:11
名前: テン

「じゃあ一体誰がこの村に敵が出現したなんて報告したのよ? 王宮がわざわざ私たちに任務を寄越したんだから、絶対に誰かが報告したはずよ」
「まあそのへんはいくつか思いつくが、問題はそこじゃない」
「背後に知恵袋がいるってこと?」
「それも大きな問題じゃない。前回からわかっていたことだ」
「問題大ありじゃない」

恭也の問題じゃない発言に、リリィは少し目を鋭くして、視線を前方に向ける。今現在その問題に直面しているじゃないか、ということだ。
それは確かにそうだが、と恭也は苦笑しながらも事態の推移を見守る。
まだ状況は膠着したまま。モンスターたちは人質を盾に大河たちへと武器の放棄を指示していた。
大河はそれを受け入れ、トレイターを捨てた。
だがそれだけではなく、モンスターたちは大河だけ手足を縛れと命令する。

「おかしいだろう」
「何が?」


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.9 )
日時: 2007/12/15 17:12
名前: テン

「なぜ大河の手足を縛ろうとする? 大河はトレイターを離してしまえば、戦闘能力はそれこそ学園の初期過程の生徒たちと同レベルか、もくしはそれよりも僅かに下というぐらいだ。それを知らなかったとしても、何の躊躇もなくカエデではなく大河を縛れという。ここまで知恵のある者が背後にいるならば、救世主候補に男も女も関係ないというのはわかっているはずだし、召喚器がなければただの人間……どう見積もってもモンスターを同時に何匹も相手にできるレベルではないというのもわかるだろう。少なくとも前の時の偽村長はそれを知っていた。ならばむしろ格闘主体のカエデを縛った方がいいに決まっている」

知恵袋がいるならば、救世主候補たちの戦い方は……今までのモンスターとの戦いを見られていたり、聞いているならば……知っているだろうし、それも考慮してくるはず。
だからこの状況ならば、カエデを縛る方が正しい。

「あいつらは……もしくはその裏にいる者は、大河がトレイターを離しても呼べばまた手元に来ることを知っているんだ」
「でもそのことは……」


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.10 )
日時: 2007/12/19 07:13
名前: テン

「ああ。そのことを知っているのは、俺たちの他には学園にいる数人ぐらいだ。それに未亜たちを簡単に捕らえられたのもどう考えてもおかしい。こちらの弱点や能力を把握し、さらに多数のモンスターたちを駒のようにうまく動かす。これはもう戦術というよりも戦略の領域だ。しかも俺たちのことをある程度……一般に知られていないことを知らなければできないレベルのな」
「それがさっき言ってた?」
「ああ」

恭也は頷き、

「内通者がいる。もしくは諜報員……スパイがな。それもおそらく俺たちに近しい所にだ。監視、であるならば俺やカエデが気付けるだろうしな」

少しばかり低く冷たい声で告げた。

Re: 黒衣(仮投稿) ( No.11 )
日時: 2007/12/19 07:16
名前: テン

それにリリィは今度こそ大きく目を見開くが、それに気付きながらも恭也は続ける。

「今回のことで、色々と問題が浮かんできたな」

恭也は力を抜くようにしてため息を一つ吐いた。

「学園に内通者か、それに近い者がいること。王宮……上が村とはいえ昔の王都だったなんていう場所の現状すら把握していないこと。把握していたとしても情報の真否も疑わないこと。小さなことを上げればもっと出てくるぞ。どうやら破滅は思っていたよりも知恵が回るようなのに、こちらは個人的にも組織的にも弱点を晒しすぎてる」
「この様子だと破滅だから狂っているとか、精神がおかしい、とは言えないわね」
「ああ。むしろやり方は合理的だ」

吐き捨てるように言い、すぐに視線を大河たちに戻す。

「まあ、今はあの状況をどするか、だな」
「そうね」

大河とカエデも、どうするかで悩んでいるらしい。
自分の手足を縛るか、それとも……

「ん?」

そこで恭也の視界に一人の人物が飛び込んできた。

「ナナシ?」
「え?」

恭也の呟きを聞き、リリィが彼の腕の中から視線を追うと、そこにナナシがいた。
彼女はモンスターの背後を取り、出たり隠れたりを繰り返している。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.12 )
日時: 2007/12/19 07:18
名前: テン

「あの娘……」
「どうやら大河たちもナナシに気付いたようだな」

恭也の言うとおり、大河たちもナナシの存在に気付き、

「カエデ、俺を後ろ手に縛れ」
「背に腹は代えられないでござる」

今まで悩んでいたのが嘘のようにモンスターの言うことを聞こうとしていた。
それはきっとナナシが動く時間を稼ぐためのブラフだろう。

「俺たちも動くぞ」
「どうするの?」
「少しでもリコたちに近づいておく。ナナシが動いたら、そのタイミングで俺たちは人質を解放する」
「わかった」
「足音をたてるなよ」
「わかってるわよ」

恭也はリリィを腕の中から解放すると、モンスターたちに気付かれないように気配を殺し、さらに歩く音を殺し、柱の影から柱の影へと移動して、リコたちへと少しでも近づいていく。
それをリリィは暫く驚いた表情で眺めていた。
正直、移動している所が見えているはずのリリィにも、その恭也が歩く姿が『わからない』。
こんなこと本業であるはずのカエデにもできるのだろうかと、リリィは疑問に思ってしまった。

「なんていうか、本当に多芸よね」

呆れたような声を出しつつも、リリィも移動を始める。

Re: 黒衣(仮投稿) ( No.13 )
日時: 2007/12/19 07:18
名前: テン

もっとも恭也のように移動するのは無理なので、慎重に慎重を重ね、恭也を真似ながらもゆっくりと移動する。
そしてある程度人質たちとモンスターたちに近づき、あとはナナシが行動を取るのを待つばかりとなった時、

「なに?」
「え? どうしたの?」
「ナナシがいなくなった」
「は?」

先ほどまで恭也たちは大河たちの後ろから状況を見ていたが、今は横から見るような配置に変わっていた。
しかし先ほどナナシがいた場所に、彼女はいなくなっていた。せっかく敵の背後を取っていたのにである。
それにやはり大河たちも気付いたのか、慌てているようだ。
それはリリィにも伝染する。

「ちょっ、どうするのよ!?」
「静かにしろ。俺たちまでばれたらどうする?」

恭也は声を荒げるリリィに言いながら、自らも苛立ちからか軽く舌打ちした。

「仕方がない、俺たちで動くぞ」

人質の安全を考え、できれば背後を取ったナナシが動いた所へ同時に、といきたかったが、そうもいかなくなった。

Re: 黒衣(仮投稿) ( No.14 )
日時: 2007/12/21 20:32
名前: テン

恭也たちは大河たちへとアクションを取れない。つまり連絡が取れない。大河たちに自分たちの存在を伝えようとすれば、間違いなくモンスターたちにも気付かれる。だからこそ大河たちが気付いていて、モンスターたちが気付いていなかったナナシに動いてほしかったのだ。

「大河たちが合わせてくれるのを祈るしかないわね」
「ああ」

恭也は頷き、抜刀。リリィもライテウスに魔力を込める。
いつまでたっても大河を縛らないカエデに業を煮やしたのか、モンスターが動こうとした。それに合わせ、恭也たちも飛び出ようとしたとき、

「そうはさせないですのー!」

そんな高らかとした、それでいて力が抜けるような声が響いた。

「……おい」
「……勘弁して」

その叫び声が聞こえた方を『見上げ』、恭也たちは思わず出で行く機会を逸しながらも頭を抱えていた。
大河たち、人質になっている未亜たちも、そしてモンスターたちもいきなりの声に驚いた顔を浮かべている。
その場にいる全員が見上げていた。
全員の視線の先には、まだ形が残っている廃城の壁……その上に立ち、まるでポーズを取るかのようにして右手を上げているナナシがいた。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.15 )
日時: 2007/12/19 07:21
名前: テン


「点がよぶ、血がよぶ、火とが呼ぶ!」
「もう何を突っ込んでいいのかわからんが、とりあえず発音をしっかりしとけ」
「ダーリンをすくえとナナシがよぶですの〜」
「そのダーリンとやらを窮地に追いやっているのわかってるのかしら?」
「アンデットハンター、ナナシ。ここに来ちゃったですの〜!」
「よくもまあそんなことを言うために、わざわざあんな所に登ったものだ」
「わざわざ目立つ場所に行った割りに言い回しが所々変よ」

二人は頭上、数メートルにいるナナシを眺めながらも、聞こえない突っ込みを繰り返す。

「アホかお前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

大河の叫びに、柱の影で恭也とリリィは今の状況を忘れてうんうんと頷く。
もう何て言うか、全ての雰囲気を押し流してくれた。
そしてナナシは大河と漫才のような応酬を繰り返したあとに飛び降りた……数メートルという高さから。
そして、ナナシの身体はバラバラになりながらも、その頭だけが大河の近くに転がった。
辺りに静寂が訪れる。それはそれは痛い静寂だ。

「あーん、着地失敗ですの〜!」
「あいつはいったい何がしたいんだ?」


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.16 )
日時: 2007/12/21 20:31
名前: テン

恭也は再び頭を抱えながら呟くが、モンスターたちも訳がわからないらしく僅かに混乱している。
そのとき大河は、頭だけになったナナシに小声で話しかけていた。
恭也は読唇術もある程度使えるものの、さずかにこの距離ではわからない。だがすぐさま大河が何をしようとしているのか気付いた。

「リリィ、準備だ」
「え?」
「状況が動く。おそらく大河が飛び出るだろうから、それに合わせろ。リリィは未亜たちの周辺にいるモンスターを大河と一緒に掃討してくれ。俺はその後方にいるモンスターを急襲して叩く」
「でも人質が」
「大丈夫だ、必ず隙ができる。どうやら大河も気付いていた……いや気付いたようだからな」

恭也の言う意味がわからないものの、リリィはそれでも頷く。
それと同時に、

「突撃ぃぃぃぃぃぃぃ!」
「し、師匠!? 向こうには人質が!」

そんな大河とカエデの声が響き、本当に大河が人質を無視して特攻していく。

「行くぞ!」
「ええ!」

リリィは恭也を信じてそれに合わせて飛び出る。恭也はさらにその横へと飛び出し、人質たちの後方にいるモンスターの群へと突っ込んでいった。

Re: 黒衣(仮投稿) ( No.17 )
日時: 2007/12/21 20:37
名前: テン


「貴様ァァァァァ! 人質ガドウナッテモ……ヌガアッ!」

リリィにはまだ気づかず、モンスターが大河に向かって叫ぶもののそれは途切れ、その身体がいきなり倒れた。それに続いて未亜たちを囲っていたモンスターも倒れる。
そこに大河は飛び上がり、体重と落下の力を使って剣をリザードマンの胸へと突き刺した。
さらに、

「ブレイズノン!」

飛び出したリリィが、未亜たち囲っていた一匹に火球を投げつけ、黒こげにする。

「リリィ!?」
「驚いてないでもう一匹やりなさい!」
「お、おう!」

突如現れたリリィに驚きながらも、言われた通りもう一匹のモンスターに止めを刺す大河。

「恭也!」

人質は助けた。あとは魔物の群へと飛びかかっていった恭也の援護をしようとリリィが振り返る。
だが、そこには黒い旋風が巻き起こっていた。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.18 )
日時: 2007/12/21 20:40
名前: テン


恭也はモンスターの群の前に躍り出ると、突然に現れた彼に驚いていたモンスターたちを尻目に神速へと入った。
恭也は色が抜き取られた世界を駈け、一番前にいた仮面をつけ魔法を使ってくる魔物二体の首をすぐさま斬り飛ばし、横にいた人狼の眉間に飛針を投げつけて絶命させたあと、リザードマンの固い鱗で覆われた胸を小太刀で『打ち付け』て徹により内部を破壊する。
そうして空いた場所から群の中央部に飛び込むと、左右同時の虎乱によって黒銀と紅の刃を縦横無尽に繰り出した。
徹と斬を混ぜ、それを的確に、有効な相手へと叩き込む。
それを放ち終えると、さらに敵の間を駆け巡ってモンスターの首など……急所を確実に斬りつけて倒していく。
ほんの『六秒』程度の時間で恭也に倒された……いや殺されたモンスターは十を大きく越え、屍の山が築かれていた。
そして神速を解いた瞬間、恭也は鋼糸を操り、残った二体の人狼をまとめて縛り上げて動きを止めると同時に斬り飛ばした。




その衝撃だけを残す黒い塊を見つめている救世主候補たち。
すでに未亜たちは助け出されていたが、彼女らも恭也が高速で作り出すモンスターの屍を呆然と眺めていた。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.19 )
日時: 2007/12/21 20:42
名前: テン


「あれ使われたら援護できないじゃない」

援護しようと魔力を溜め込んでいたリリィが、気に入らないとばかりに鼻を鳴らし、その魔力を霧散させていた。彼女はただ一人、あの黒い影に呆気にとられることなく援護しようとしていたのだが。
そのリリィの言葉を聞きながらも、大河は呆れたように口を開く。

「端からだと結構見えるなぁ」
「でござるな」

それにカエデも同じように呆れた感じで頷いた。
距離を取って恭也という『点』ではなく、戦場という『面』で眺めると、二人は何とか恭也の姿を捕らえることができた。
もっともそれでさえ何とかだ。自分たちもあの戦場の中の点の一つになってしまえば確実に見えない。

「え!? お兄ちゃん、あれ見えるの!?」
「トレイターを持ってればだけど。それでも完全には追い切れない」
「私は影か、所々一瞬だけしか見えません」

何とか見えてるらしい大河とカエデに、未亜とベリオは驚いた感じで言う。

「なるほど、加速でござるか」

そしてカエデは納得がいったという感じで頷いていた。

「加速?」
「老師のあの技は、一瞬で加速するが故に目で追いきれないでござるよ」



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.20 )
日時: 2007/12/21 20:45
名前: テン


そう言われても全員がその意味がわからずら首を傾げる。
するとカエデは、未亜の視界の端、右側に人差し指を立てた。そしてそれをゆっくりと未亜の目の前を通過させていく。

「今のは目で追えたでござるな?」
「はい」
「ではこれは?」

未亜が頷いたのを見て、今度は手首ごと大きく振るって速く眼前を通過させる。

「えっと、ほとんど繋がってるような感じで追いきれないかな」

その返答に今度はカエデが頷く。

「簡単に言えばこれが原理でござるよ。近距離で一瞬の爆発的な加速によって初速からほとんど最高速に到達するが故に、どんなに動体視力が優れていても、目で追いきれないでござる。もちろん元々の速さ自体がとんでもないことも理由の一つでござるが」
「それで縦横無尽に動きますから、さらに見えづらくなってますね。所々で見えるのは方向転換の際と攻撃の際、僅かに速度を緩めたせいでしょう。それでも攻撃なんかはほとんど見えませんけど」

カエデの説明に、さらにリコが補足すると他の者たちはなるほどと頷いた。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.21 )
日時: 2007/12/21 20:47
名前: テン

「カエデもできるんじゃないか? 最高速だけならお前も召喚器持ってれば同じぐらい速くってのも何とかいけそうだし、あとは加速次第だろ?」
「一度だけなら似たようなことはできると思いますが、老師のようにあそこまで長時間、縦横無尽、自由自在に動き、速度を操るのは無理でござる。拙者の場合はせいぜい直進の特攻でできればいい所でござろうし、それとて老師の加速にまで追いつかないでござる。それに老師のあれの場合は、攻撃も含めた全てが速くなっているでござる。これは拙者には不可能でござるよ」

大河の言葉に、カエデは難しい顔で首を横に振る。
あの速さで自由自在に動くのは、忍者であるカエデにも不可能なことだ。どうやってもブレーキが効かないし、何よりカエデ自身が見えない。
初速からあの速度で動けば、敵がその動きをしている恭也を視認できないのと同じように、恭也自身とて周りの場景や敵がほとんど見えないはずなのだ。そんな状態で戦えるはずがないと話し、もっともそれで恭也が戦えている以上は、あの技には他にも何かしらの特性があるのだと続ける。
何より敵が犇めく戦場で同じスピードを維持し続けるのは想像以上に難しく、身体に負担をかける。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.22 )
日時: 2007/12/21 20:50
名前: テン

それらを大河たちに告げてから、カエデは感嘆の息を吐く。それはまるで自分もあのように動きたいと言うように。

「あれを使われたら本当に対抗は難しいでごさるな」
「俺、何度か使われてボロクソにやられたけど」

たまに訓練で神速を使われることがある大河はぼやくにして言った。

「一瞬で加速というのも凄いですけど、召喚器を持ったカエデさんと同等、もしくはそれ以上の速度というのも異常ですね」

ベリオもどこか呆れを含んだ息を一つ吐きなが言う。
召喚器を持たない者が、一つの技能とはいえそれをもっとも得意とする召喚器使いを上回るのだから、その反応と言葉はおかしなものではないだろう。

Re: 黒衣(仮投稿) ( No.23 )
日時: 2007/12/21 20:51
名前: テン


それに答えたのも戦闘経験は同じ程度だが、戦闘技術、戦闘知識に関しては他の者たちよりも一つ二つ上にいるカエデだった。

「元々老師の身体能力は相当なものでござる。しかし速度であれば、拙者も召喚器がなくとも同じぐらいまでならいけるでござるよ。通常の老師の速度であればでござるが」
「通常?」
「おそらく老師の使っているあれは、人間の強度限界を無視して肉体の枷を意識的に取り払っていると思うでごさるよ。だからこそのあの加速、速度で動けるのでござろう。それによって攻撃の速度まで速くなっているでござる」

カエデがさらに説明すると、やはり救世主候補たちは今現在の状況を忘れて、先ほどのカエデのように感嘆の息を吐いた。
すでにその頃には、恭也はたった一人で魔物の群を片づけてしまっていた。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.24 )
日時: 2008/01/02 22:00
名前: テン



「ふむ」

恭也は神速を使って乱れた息を整えた後、倒したモンスターたちを少しだけ眺め、自らの膝に集中するが、やはり痛みはなかった。
何度か確認のために大河相手にも神速を使ったが、そのときも痛みはなかった。そして今回、一対一ではなく一対多の状況で、一対一の状況よりも膝を酷使するような動きをしたが、それでも膝に痛みはない。

(やはり六秒ほどか)

神速を使える時間。今の恭也はその六秒。
これは元々そうだった。実は膝が壊れていた時から、恭也は神速を六秒使うことができた。正確には使うことができるはずだった。
集中力によって感覚時間を引き延ばす神速は、その集中力こそが鍵であり、それによって維持されるのだが、恭也の場合その集中力を維持する限界は本来六秒だった。
だがかつてはそれを四秒しか使っていなかった。集中力や身体への負荷による限界ではなく、膝による限界だったのだ。つまり五秒使えば砕けかねない、というよりも膝からくる激痛により、集中力が乱れてしまうので、六秒維持するのが難しかった。


Re: 黒衣(仮投稿) ( No.25 )
日時: 2007/12/27 07:16
名前: テン

連続で使えば同じことと思うかもしれないが、神速の場合途中に少しでもインターバルを入れるのと入れないのとではまったく違うのだ。
膝という爆弾が消滅した今、その維持時間は本来の形に戻った。
そしてやはり今は全力で神速の中で動けるので、かつてとはまったく違う戦闘方法を可能にしていた。

「……もう少しいけるか」

恭也は僅かに微笑を浮かべ、小太刀を鞘に戻すと仲間の元へと歩いていく。

「たくっ、ほんとにとんでもないよな、お前は」

その恭也に向かって、大河はどこか嬉しそうにそんな言葉を向けた。

「一対多は俺の流派……いや、俺の家系が得意とするところだ。それでモンスター程度に遅れをとるわけにはいかないさ」

そう苦笑して恭也は言い、それよりもと呟いて地面を指さす。

「回収してやらなくていいのか?」
「うえ〜ん、ダーリーン、繋げてくださいですの〜」

そこにはバラバラになったナナシのパーツが、それぞれ独自に動くという何とも奇妙……というよりも気持ち悪い光景が広がっていた。



Re: 黒衣(仮投稿) ( No.26 )
日時: 2007/12/27 07:18
名前: テン


「バ、バラバラになっても動くんだ、あれ」
「な、なるほど、あれでモンスターを転ばせたんですね。大河くんたちの試合のときも」

その光景を見て、顔を引きつらせる未亜と多少青ざめた表情のベリオ。
そして大河たちはそのナナシのはパーツを回収していく。
その間にリコがスタスタと恭也に近づいた。

「恭也さん、いつのまに?」
「それなりに前からだ。リリィと一緒に突入のタイミングを窺っていた」
「すいません、手を煩わせてしまって」
「構わないさ。それよりも俺はなのはの所に行ってくるから、お前たちは先に馬車に戻っていてくれ。ここにいても危険なだけだから、それで少し離れた場所まで行け」
「なのはさん……ですか」

状況の移り変わりが激しかったため、そこでリコは初めてなのはがいないことに気付いたのか、辺りを見渡していた。

「ああ。途中で別れたんだが、まだ戻ってこないからな。さすがに遅い」
「私も行きましょうか?」

Re: 黒衣(仮投稿) ( No.27 )
日時: 2007/12/27 07:21
名前: テン


「いや、俺一人でいい」
「……そう、ですね。こういった場合、恭也さん……マスターだけの方が速く動けるでしょうし」

捕まったばかりか力になれないと思ったのか、少しばかり落ち込んだ感じを見せるリコの頭を恭也は軽く撫でる。

「気にするな。適材適所というものがあるし、今回のことは別にリコが悪かったわけじゃない」
「あ、はい」
「では、行ってくる。大河たちにも伝えておいてくれ」

リコが頷いたのを見て、恭也は駆けだした。
それに気付いた大河たちが何か声をかけてきたが、恭也はそれに答えることなく背を向けて離れていく。
恭也はただ真剣な表情で走り続ける。

「なのは……」

信じている。
信頼している。
だが、

「無事でいろ」

それでも彼女は恭也にとって、何よりも大切な守らなければならない者なのだ。


四十二章 終