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黒衣(仮投稿)
日時: 2008/05/15 06:31
名前: テン

浩さんに許可を頂きましたので、暫くの間黒衣を仮投稿という形でこちらに投稿させて頂きたいと思います。

あくまで仮であり、落ち着いたらいつかは今までどうりに投稿したいとは思っていますので。
これも携帯からの投稿なので、少々見づらいかもしれませんがよろしくお願いします。
一章を分割して送っていきます。


目次

>>1-27 恭也編 四十二章

>>54-91 恭也編 四十三章

>>122-156 恭也編 四十四章

>>197-227 恭也編 四十五章

>>228-255 恭也編 四十六章

>>256-268 恭也編 四十七章

>>269-288 恭也編 四十八章

>>289-317 恭也編 四十九章

>>318-330 恭也編 五十章

>>331-340 恭也編 五十一章

>>351-367 恭也編 五十二章

>>368-382 恭也編 五十三章

>>383-394 恭也編 五十四章

>>414-433 恭也編 五十五章

>>434-457 恭也編 五十六章

>>458 恭也編 五十七章

>>459-480 恭也編 五十八章

>>481-503 恭也編 五十九章

>>504-532 恭也編 六十章
>>565-587 恭也編 六十一章

>>28-53 大河編 三十章

>>92-121 大河編 三十一章

>>157-196 大河編 三十二章

>>395-413 大河編 三十三章

>>341-350 外伝
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.424 )
日時: 2009/09/03 22:22
名前: テン


続いてベリオは祈るように手を組み、耕介は腕を組んで目を瞑る。

「私たちの相手は、奇手を多く持っているような感じでした」
「そんな感じだね。火を吐いたりしてしたし」

ムドウは奇手を多く多用する。
しかし、決してそれだけに頼っているのではなく、むしろ正面からの戦闘の方が得意としているように感じたと耕介とベリオは説明した。
巨漢の身体からわかるように、その力は異常の一言に尽きる。巨大な剣を片手で軽々と扱い、それで大地を割るのだ。
そして、やはりロベリアと同じように多大な経験を持つ。
それから知佳とカエデはお互いの顔を見合わせて何を言うか吟味してから、それぞれ説明する。

「拙者たちの相手は、暗殺者という感じでござった。気付かぬうちにに近くにいるという感じでござる」
「それに近代武器……銃なんかを使ってきたよ」

シェザルは遠近どちらも対応していると言える。
いつのまにか、そう恭也のようにいつのまにか近づいてきたかと思えば、いきなりナイフなどで切りつけられるのだ。
本来暗殺者というのは、相手に気付かれる前に相手を殺すものだが、それを戦闘に応用しているという感じである。
しかし、距離をとってもマシンガンやハンドガンの弾丸が待っている。
こちらもやはり多くの経験を持つ。
それら三組の説明は簡単ではあったが、一筋縄ではいかないとうのがまざまざ理解できる。

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.425 )
日時: 2009/09/03 22:23
名前: テン


そして、全員がリコを見つめる。
彼女は破滅の将と戦ったが、説明していない。

「……名前はわかりません。ただ私と同じような戦い方だと思ってください」
「リコさんと?」

リコの言葉になのはは首を傾げる。

「はい。私の相手は、私と同レベルの召喚士でした」

その説明に恭也は目を鋭くさせ、他の者たちにはわからないように、だがリコにだけはわかるように彼女へと視線を向ける。
するとリコは微かにに頷いた。
彼女が戦ったのはイムニティだ。
白の精などの説明をするわけにはいかないために濁したのだろう。
しかし、イムニティが破滅側に属している。つまり破滅に白の主がいる可能性も高いということだ。
そんなことを恭也が考えていると、今度は恭也となのはに一同の視線が向けられる。

「で、恭也にあそこまで怪我させた相手はどんなのなのよ」

リリィのそれは皮肉にも聞こえる言葉であるが、その声と目にはかなりの怒気が含まれていた。
子供の姿で椅子に座っていた久遠も、犬歯を見せて唸る。

「きょうやをきずつけた……ゆるせない」

いや、彼女たちだけではなく、恭也たちを見つめる他の者たちも、皆が視線に怒気を溜め込んでいるのがわかる。

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.426 )
日時: 2009/09/03 22:24
名前: テン


全員が、恭也にあんな怪我を負わせた相手を許す気はないと目が語っていた。
それに気付きながらも、恭也は少し内心を整理するように息を吐き出す。

「名はアリサ・ローウェル」
「え……?」

恭也の言葉に一番に反応したのは知佳だった。当然だろう。彼女は知っているのだ。アリサ・ローウェルのことを。
彼を未だに苛む過去を知っている。
あのとき、記憶を覗いてしまったが故に。
そんな知佳に、恭也は視線だけで大丈夫だと告げる。それに知佳は、少しばかり辛そうな表情を浮かべた。
隣にいるなのはも、気遣うような視線を向けてくる。別に話さなくてもいいと。そんななのはにも恭也は軽く頭を撫でておく。
それだけではなく、この場に姿を現してはいないが、テーブルに置かれた十六夜からもどこか気遣わしげな雰囲気が流れていた。
それらの反応がわからない者たちは、首を傾げている。
それに恭也は気にするなと首を振る。

「彼女は……救世主候補だ」
「嘘」
「破滅に救世主候補がいるんですか!?」

それぞれ驚きをみせる一同。
だが、真実を知る恭也たちにとって予想の範囲でもあることだった。とくにイムニティも姿を見せたならば。
今度はリコが恭也に目を向ける。
そのアリサが白の主ではないか、と聞いているのだ。
それに恭也は微かに肩を竦める。否定ではなく、わからないというジェスチャーだった。
……しかし、先ほどからこの二人、いつのまにか口に出さなくても伝わるぐらいの主従関係になっていたらしい。

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.427 )
日時: 2009/09/03 22:24
名前: テン


「召喚器はダガーの形状だ」
「ダガー?」

未亜が、それがどんなものかわからず首を傾げる。他の者たちも名前はわかっても形状が微妙にわからないようだ。

「ナイフと剣の中間のような武器だ。長さは俺の小太刀の半分ほど。大型のナイフと同程度の長さではあるが、ナイフとは違いその刀身は直刀の両刃で厚い。柄……グリップはまた剣より。軽く、基本は突くことを念頭においた武器だ」

スラスラと説明する恭也。
このへんの知識は、そこらの教師では裸足で逃げ出すだろう。

「しかし、彼女の召喚器は形状こそダガーだが、それらの特徴は当てにならない。その刀身の長さが変化するからな」
「長さが変化って、どのくらいだよ?」

色々と形状が変わったり魔法を使えたりする召喚器をそれぞれ所持している以上、今更刀身が長くなる能力程度で驚くことはないが、それがいったいどのような効果を及ぼすのか。それが大事だ。

「俺が確認しただけで、約十メートル。最長がどの程度になるかはわからない。なのは、どうだ?」
「ん〜、私が見たので一番長かったのは、十五メートルぐらいかなぁ」
「マジか?」
「マジ、だ。彼女と相対した場合、見た目の間合いに惑わされると痛い目を見るぞ」

大河の問いに答えながらも、できれば彼女の相手は自分がしたいと内心で恭也は呟いていた。

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.428 )
日時: 2009/09/03 22:25
名前: テン


「後衛組は、一人で戦う場合、リコ以外は逃げた方がいい。彼女は後衛の人間に関しては無条件で間合いを詰められるから、呪文の詠唱や矢を番えている間に切られる。相性的には最悪だ。なのはもそれで押されていたようだしな」

リコならばテレポートで逆に間合いを詰められるが、他の後衛はそうはいかない。
恭也の忠告である以上、それが真実であると受け止め、リリィたち後衛組は頷いた。
それから恭也はアリサの容姿を説明しておいた。
そりれから話を進めると、アリサが去ったように、他の破滅の将たちも、特段押されているわけでもない状況で、突如退却していったとのことだった。

「つまり破滅の将は五人か」

耕介はどうしたものかとため息を吐く。
その言葉で恭也は忘れていた人物を思いだした。

「すみません、もう一人います」
「もう一人、ですか?」

ベリオが目を瞬かせるを見て、恭也は頷く。

「アリサと戦う前に俺が出会った人物だ。逃げられてしまったがな」

正確には逃がしたというべぎであるし、あのまま戦い続けて勝てたかはわからない。先ほど言ったように二人の差は紙一重だ。しかし、今のところは彼女の方が分がある。なぜなら彼女は恭也の手の内を……御神流を知っているのだから。

「名を……不破夏織」
「「「え!?」」」
「くぅーん!?」

恭也の呟いた名前に、今度は知佳だけではなく、耕介となのは、久遠まで強い反応を見せた。
知佳はともかく、耕介となのは、久遠は恭也を産んだ母親の名前は知らない。だから、その名字に反応したのだ。

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.429 )
日時: 2009/09/03 22:25
名前: テン


不破。
偶然なのか、それは恭也の旧姓と同じなのだ。

「ど、どうしたでござるか?」

無論、四人の反応の意味がわからない救世主候補たちは四人の大きすぎる反応に驚くしかない。

「不破、これは俺の旧姓だ。これに反応したのだろう」
「きゅ、旧姓って、あんた結婚してたの!?」
「リリィ、なんでそうなる? これは俺の父親が結婚したからだ」
「ま、紛らわしいのよ! って、あれ、それじゃあ」

ちらりとリリィはなのはを見る。
確かに、前にリリィは恭也から自分たちは複雑な関係であるとは聞いていたが。

「ああ。俺となのはは半分しか血が繋がっていない」

内心でそれも怪しいかもしれないがな、と呟く恭也。
すでになのはも知っていることだし、恭也はこの仲間たちならばと、とくに隠さなかった。
なのはも気にしている様子は、少なくとも表面上はなかった。

「そして、この不破夏織だが……」

言うべきか、と少しばかり自問する。
そして、後でばれるよりも、これに関しては今のうちから話しておいた方がいいだろうという答えになった。
破滅に産みの母親がいるなどということを隠していたら、後に遺恨を残しかねない。

「俺を産んだ女だ」
『は!?』
「俺の産みの母親だ。俺もこの世界で初めて出会ったがな」
『…………』

それぞれ恭也の言葉に呆然とした言葉を浮かべるしない。
恭也の言葉を吟味し、理解してなお、言葉が出ない。
敵に、自分たちが最も信頼する男の母親がいるというのだから、それも仕方がないことだろう。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.430 )
日時: 2009/09/03 22:26
名前: テン


それに気付いていながら、恭也は淡々と言う。

「不破という名字は、偽名だろう。そう名乗ったが、父さんと結婚はしてなかったようだしな」

少なくとも士郎が婚姻までしたのは高町桃子ただ一人だ。夏織の場合は、たた名字を借りているだけという可能性の方が高い。

「本当……でござるか?」
「ふむ。カエデ、それは何への問いだ?」
「い、いえ、本当に老師の母君なのでござろうか? 老師は一度も会ったことがないのでござろう?」

つまり、顔を見てもわかるものではない、ということだ。

「ああ。それは俺も疑ったが、あの反応からすると、ほぼ間違いないだろう。むしろ気付いたのは俺が先だしな。それに俺の父親のことも知っていたし、俺の剣のことも知っていた。符号することが多すぎる。九分九厘間違いないだろう」

冷静に説明するが、むしろ他の者たちの方が、敵に恭也の母親がいるということに衝撃を受けてしまっているようだった。

「説得しないと」

だからか、未亜がそんなことを呟いた。
何としてでも破滅から手を引いてもらおうと言うと、他の者たち……とくに知佳やなのはなどは強く頷いて返す。
しかし、

「しなくていい」

恭也はやはり淡々と、そんなことは無用だと首を振る。

「お前何を言って……」

恭也のどこまでも冷静な反応に、大河が激昂しかけるが、それでも恭也は淡々と言うのだ。

「破滅だと言うなら、産みの母親だろうと関係ない。自分の意志で破滅から降りないのであれば……斬り捨てる」
「ですが、恭也さんの母親なのでしょう!?」
「ベリオ、俺の母親は今の母……桃子かーさんだ。今まで会ったこともなかった人物など、本当の母親であっても他人に等しい」

まるで他者を受け付けない言葉に、大河たちは恭也は産みの母親に思うことがあり、恨んでいるのではないかと想像した。

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.431 )
日時: 2009/09/03 22:27
名前: テン


しかし、そんな想像を理解したのか、恭也は苦笑して首を振る。

「心配するな、別にあの人を恨んでいるわけではないし、意固地になっているわけでもない」

面識がないとはいえ、自らを産んだ母親。気にならないと言えば嘘になる。だが、そんなものよりも仲間や守るべき存在の方が恭也にとっては重いのだ。
恭也にとって、自らを捨てたとか、そんなことを恨むつもりはないし、そのために意固地になって戦おうとしているわけではない。
恭也の表情を見て、確かに真実を言っていると理解した一同は、少しばかり落ち着くが、本当にそれでいいのかという疑問は残ったままだった。
やはりそれにも気付いているだろうが、恭也は先を続ける。

「しかし、俺の方が分が悪いというのは間違いない」
「恭也が……?」
「あちらは俺の戦い方……父さんを通して御神流をそれなりに知っている。つまり手の内を読まれているからな」

恭也はしかしと続け、腰にかけてままの八景の柄を強く握った。

「それでも彼女は俺が倒す」

続く言葉を聞いて、救世主候補たちはやはり心配になってくる。

「さっき言ったとおり、恨みなんてものはない。ただたんに敵が俺を産んだ母親だった。それだけでしかない」
「それだけって……」
「敵ならばどんな人物であろうとも、斬ってみせる」

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.432 )
日時: 2009/09/03 22:27
名前: テン


これはきっと、恭也の境遇に立ってみないとわからない思考なのだ。
産みの母親とはいえ、会ったこともない人物など他人と変わらないというのは、恭也の中での事実だ。
しかし、他の者たちは産みの親がいた、もしくはいる。そこにどんな思考があるかはわからないが、どうやっても今の恭也の境遇というのは、想像の域を出ることができない。
一般的に言えば、きっと何か思うこともあるのではないか、と考えるかもしれないが、それはどこまでも一般的でしかないのだ。
それは決して恭也の考えではない。
恭也はどこまでも取捨選択ができる人間で、大切な者に順列をつけられる人間なのだ。無論、それは守るという意味合いでだが。

「まあ、とくに気にするな。本人の俺があまり気にしていないのだからな」

肩を竦めたあと、恭也は両手を合わせた。

「ごちそうさま」

説明を聞く、またはしながらも恭也はちゃんと食事を摂っていた。
それから水を飲み干し、恭也は腕を組む。

「さて、どうするか」

とりあえずそれぞれの特徴などはわかった。
話を聞く限り、救世主候補たちでも一対一になると分が悪いということだ。基本は二人で組むなりしなければ負けかねない。
それぞれに相対したときのために戦術でも考えておくべき、と考えたときだった。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.433 )
日時: 2009/09/03 22:28
名前: テン


「あー、ここにいたね〜。恭也君も起きてるのね〜」

そんな間延びした声が聞こえてきた。
振り返れば、いつも通りに妙な効果音を加えて、救世主クラスの担任であるダリアがこちらに駆け寄ってきていた。

「ダリア先生? どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもないのよ〜。救世主クラスはすぐに集合よ」
「もしかして、また破滅が侵攻してきたんですか!?」
「それはわからないわぁ。ただクレシーダ王女殿下がみんなをお呼びなのよ」

大きく身体を揺らすダリア。そのたびにやはり胸も大きく揺れる。

「むぅ。いつ見ても揉みたくなるな。そのでか乳」

大河が真面目な顔をしてそんなこと言うが、同時に両隣の未亜とベリオから裏拳を喰らい、さらに恭也、リリィ、カエデの手から割れない食器などが次々と投げられ、大河の顔に直撃して、その場に倒れる。
しかしいつものこととでもという感じで、他の者たちもそんな大河を無視し、話を進める。

「クレアちゃんが……」

知佳も聞いていないこと……というよりも、破滅の侵攻が始まって、話している余裕などなかったてため、クレアが何を目的として呼び出しそうとしているかはわからない。

「それって俺たちもですか?」

ダリアが、救世主クラスではなく、みんなという呼び方をしたので、耕介は自分を指さして聞く。

「ええ、そうよー」

それに恭也は腕を組む。

「一体何の話でしょう?」
「さあ、それは私も聞いていないけど、至急という話なのよぉ。もう学園長とダウニー先生は向かってるわ」
「ふむ、了解しました。すぐに向かいます」

言ってから、恭也は仲間たちを見渡す。すると全員が頷く。ちなみに倒れている大河も震える腕だけをテーブルの上に突き出し、親指を上げて反応していた。
本当なら、もう少し話を詰めておきたいところだったが、そうもいかなくなった。
クレアからの呼び出し……彼女には悪いが、嫌な予感がすると恭也は内心でため息を吐く。
その恭也の悪い予感は当たることになる。
この呼び出しから、この戦争はゆっくりと動き始めていく。





メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.434 )
日時: 2009/12/06 18:52
名前: テン





救世主候補たちは、ほとんどの者たちが呆然と目の前の喧騒を眺めていた。
その中で恭也は、ただ一人疲れたようにため息を吐く。

「そもそも初動の対応に遅れたのは、破滅が現れるなど信じていなかった貴殿たちが!」
「何を言うか! もっと軍備に金を回していれば!」
「そうだ! 救世主を養成する学園などというものより、その分を軍備に回すべきだったのだ!」
「しかし、実際に学園の生徒たちも、まだ未熟とはいえよくやってくれている! 彼らがいなければもっと大惨事になっていたぞ!」
「だが、彼らの主な行動は後方支援ではないか!」

等々、目の前で円卓の前に座る歳高の大人たちは、醜い言い争いの真っ最中だった。
クレアに召集され、入城した救世主候補たちではあったが、通された大きな会議室のような部屋では、すでにこのような論争……というよりも、責任転嫁とも言える醜い争いが行われていた。

「何よこれ、こいつら戦争してるって意識あるの?」
「ないんじゃねぇの? あったらこんなことしてる暇なんかないってわかるだろ」

リリィは怒り心頭での言葉に、大河は呆れと怒りが半々という苦虫を潰したかのような表情で答える。
だが、大半の者たちは似たような表情を浮かべていた。
恭也としては、現実などこんなものであるというのは理解しているが、そんな大人の醜い様をまだ十代で占める少年少女たちである救世主候補たちには見せたくなかった。
こんなものを目の前で見せられては、大人というそのものを信じ切れなくなりかねない。
結局自分たちは何のために呼ばれたのだと、救世主候補たちはやはり怒りを浮かべる。
恭也はそれらを感じながら、視線をクレアへと向けた。それに気付いたのか、微かにクレアが頷いたように見える。
そして、クレアは目の前の円卓を両手で強く叩いた。

「静まらぬか!」



第五十六章




幼い声でありながらも、その言葉には威厳に満ちたもの。
さらに視線を向ければ、そこに立つ幼い少女は、言葉以上に身体と雰囲気に威厳を纏わせ、目の前の大人たちを睨み付けている。

「他の世界の者たちを前に、これ以上自国の……この世界の醜態を晒すつもりか、お前たちは」

その言葉を聞いて、大人たちは恭也たちを見て、それからバツの悪そうな表情を浮かべた。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.435 )
日時: 2009/12/06 18:53
名前: テン


恭也はそれを無視し、内心でうまいものだ、と僅かに息を吐く。
クレアはわざとあれらを救世主候補たちに見せた。まあ、意図は恭也もなんとなくわかる。そのあとに、救世主候補たちを使って、大人たちの諍いを止める。
つまり、この場はクレアに支配されているわけである。それに気付いている者は少ないだろうが。

「それで私たちに一体何を?」

こういう場では、やはり大人が頼りになるのか、知佳が代表して聞いた。

「うむ。今回、そなたたちにここに来て貰ったのは少しばかり、お前たちにこなして欲しい任務があってのことだ」

クレアの周りにいる大人……賢人議会議員の者たちは何も言ってこない。
なのでクレアが淡々と説明を続けた。

「この前の破滅の侵攻、お前たちには疑問はないか?」
「は? 疑問って言われてもよ」

大河は、クレアの質問に訳かのわからないという表情を浮かべ、腕を組む。
他の者たちも質問の意味を考えながらも、同時におかしいところなどあったかを考えるが、何も浮かばない。
だが、その中で恭也が目を瞑り答えた。

「モンスターの数が異常ですね」
「いや、あんたちゃんと考えなさいよ」

思わずリリィが突っ込む。
相手は破滅で、それも戦争していたのだ。数など問題ではないだろう。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.436 )
日時: 2009/12/06 18:54
名前: テン


いや、確かに恭也の言うとおり、そのモンスターの数は脅威ではあるが、他の者たちは破滅ならば当たり前という認識である。
しかし、

「うむ。恭也の言うとおりだ」
「はあ?」

クレアは恭也の答えが正解だとばかりに頷き、しかし、それは当然のことではないかと考えている他の救世主候補たちは呆気にとられた。

「モンスターの数……このアーグに攻め込んできたのが、おそらく主力なのだろうが、その数は四万ほどだった。さらに他の州や都市などに攻め込んできたものを数えると、総数は八万を越える」
「そんなに……ですか」

ベリオが目を見開くが、クレアはさらに続ける。

「そして、斥候によると主力だけですでに十万の規模にまで膨れ上がったらしい。それ以外を含めると十数万人になるということだ」
「そんな!?」

主力が一気に倍以上になった。
王都自体やそこに住む者たちにそれほどの被害はないが、この前の侵攻で、すでに防衛役である王国軍が大打撃をくらっているというのに、これ以上になれば敗北は必至だ。

「ありえませんね」
「うむ。その通りだ」

恭也とクレアだけが、何か話が通じ合っている。
他の者たちは二人が何を言いたいのかわからない。いや、脅威が膨れ上がったというのはわかるが、二人の言葉にはそれ以外のものがあった。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.437 )
日時: 2009/12/06 18:54
名前: テン


恭也は救世主候補たちに視線を向ける。

「そもそも前の侵攻で、四万。そして、全てを含めると八万。これ自体が不可解だ。一体どこに隠れていた?」
「あ……」
「それだけの規模になれば、どうやっても情報が来るだろう」

人間を十万人集めればどうやっても目立つ。それと同じだ。モンスターの場合はそれよりも目立つ集団となるだろう。
それなのに、そんな情報は一切出てこなかった。この王都に襲撃してくるまで、どこに潜んでいたのか。どこから呼び集めたのか。とくにこのごろ色々な事件が起こり、王国軍があらゆるところに目を光らせていたはずなのだ。
まあ、これに関して恭也の中では一つの考えがまとまっているが、それをこの場で口に出すことはしない。色々な意味で危険すぎる。
そのために無難に伝えることにした。

「これ自体は 魔法がある世界だから何とかなるのかもしれんが、わずか二日ほどで主力が倍以上になるなど、本来ならありえない」

この数では予備選力を投入したというわけではないだろう。だが、これだけの数が元からいたならば、最初の侵攻でも使ってくるはずだ。破滅からすれば、攻撃拠点はそれこそ腐るほどあるのだから。
それをしていなかった以上、

「わずか二日でモンスターを掻き集めたということだ」

そういう答えにになってしまう。

「当然もう一つ疑問が出てくる。ううん、さっきも出てきた疑問がもう一度、か」

何とか理解してきた知佳が、顎に手をやりながら恭也の言葉を繋いだ。
それに恭也も頷く。
そして、

「「どこから」」

二人は同時に呟いた。

「二人の話を聞いてると、まるで突然湧いて出てきたみたいだな」

耕介も眉を寄せながら呟く。
しかし、それに返答があった。

「その通りだ」
「え?」

頷いて耕介の言葉を肯定したのはクレアだった。

「まさしく湧いて出てきたのだよ。そのモンスターたちの大半はな」
「無限召喚陣……」

リコは思いついたように言うが、その言葉は固い。それに手が強く握られている。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.438 )
日時: 2009/12/06 18:55
名前: テン


そのリコの反応を見ただけで、あまり良くない代物だというのがわかった。

「その通りだ」

無限召喚陣。
その名通り、召喚陣だ。
ただし、学園の塔にあった召喚陣とはまったくもって効果が違う。
その効果は、大地のマナを吸い取り、その力であらゆる世界から魔物を呼び寄せる代物。それも無差別に、手当たり次第に呼びを寄せる。召喚の塔にあった赤の書を利用された召喚陣のように、救世主候補だけなどの選択などしない。
つまりそれで破滅は、軍勢を一気に拡大させたのだ。

「これまでもいくつか見つかってはいたのだがな」
「複数あったのか?」
「うむ。まあ、大半が発動されていない上に小規模であったり、ダミーだったが」
「ということは、他にかなり巨大なのと、本命が残っているわけですね」

それはつまり、

「まだ……破滅は増えるということではござらんか!?」

今の時点でも、すでに手一杯の状況。だというにの、たった二日で主力が倍になった。つまり今、この瞬間も確実に増え続けているということだ。
それをどうにかしなくては……人類は負ける。
それがわかっている状況で、こんなところで論争している議員共にはもの申したいところだが、それでは同じ穴の狢になってしまうので、救世主候補たちは睨むだけで止めておいた。

「すでに本命は見つけた。だが、誰を派遣し、それを破壊させるか、ということだ」
「つまり、俺たちに破壊して来いってことかよ」

この場に集められた以上、自分たちに与えられる任務はわかりきったことだ。大河は顔を顰めて呟く。

「しかも少人数でな」

恭也の答えに、全員が彼を見る。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.439 )
日時: 2009/12/06 18:56
名前: テン


「少人数……ってどういうことよ」
「リリィ、わかりきったことだろう。ただ破壊するだけなら俺たちの所に来るものか。兵を一個大隊でも派遣すればいい。召喚陣を探さなければならないのだから、むしろ、その方が確実だ。しかし、それをしない。
クレア王女、破滅がまた動き出した、もしくは動き出す兆候があるのでは?」
「……そうだ」

クレアの肯定に恭也はため息を吐くしかない。

「わかった時点で兵を差し向けて当然。しかし、それをしていない。つまり出来ない。破滅がまた侵攻してくるからだ。ただでさえ、この前の侵攻で王国軍はかなりの被害を受けたからな」
「付け加えるなら、おそらく無限召喚陣は破滅の要だろう。そこに駒を置いていないわけがない」
「でしょうね」

だからこそ一騎当千と言って差し支えない救世主候補を数人差し向ける。

「しかし、救世主候補を全員向かわせるわけにもいかない」
「……侵攻してくる破滅を止めるためにも私たちの力は必要ですからね」

あらゆる意味で、どれだけ自分たちが危機的状況にいるのかわかり、ベリオは指を噛み、恭也の言いたいことを理解した。
全力を込めれば、一撃で数十の魔物を吹き飛ばせる力。それを戦場から全て失うわけにはいかない。
さらに救世主候補は最強の駒。戦場にそれがいるのといないのとでは、士気に大いに関わる。
つまり、自分たちは二手に分かれ、別行動を動かなければならない。

「二手ではなく、三手に別れてもらいます」

すでにクレアからだいたいの事情を聞いているのだろう。ミュリエルは目を鋭くさせ、救世主候補たちに言い付けた。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.440 )
日時: 2009/12/06 18:57
名前: テン


「三手?」
「もう一組には救世主の鎧を破壊してもらいます」
「救世主の鎧……って、なんですか?」

また知らない名前が出てきた。
救世主と名がつくということは自分たちとも関係があるのだろうか、大河たちが首を傾げる。

「救世主の鎧とは、太古の昔に創られたアーティファクトです」

デザイア事件のときに言っていた古代兵器のようなものか、とそれぞれ似たようなことを考える。

「救世主にに関わる事柄の中でも、とくに機密性の高い案件でな。あくまで伝承によるとだが、救世主の為の究極の防御装備であるらしい」
「それを取ってこいってことか?」

話をまとめるとそんなところ。
それを破滅に対する武器にする、と考えるのが普通だが、クレアは首を振った。

「違う。ミュリエルが破壊してほしいと言ったであろう?」
「破壊?」
「その鎧には、負の思念……怨念が染みついていて、装着したものをあやつる力があります」
「……お前たちの報告にあった召喚器デザイアに近い」

デザイアの名前を聞いて、一斉に顔を顰める。
あれは本当に苦労した。操られた恭也もだが、それを止めた救世主候補たちにとっても苦い事件だった。
話によると、その鎧を纏った者は、何かに取り憑かれたかのようら暴れ、人を殺し、最後には破滅を呼び寄せるまでいったという記録があるらしい。

「危険なものだというのはわかりましたが、それは今破壊しなくてはならないものなのですか?」

ベリオが眉を寄せて聞く。
彼女の質問はもっともだ。その記録を信じるならば、確かに危険ではあるかもしれない。だが、すでに破滅は動き出し、それもこちらが押されている状況だ。優先順位で言えば、低くせざるを得ないはずだ。
少なくとも今の状況では、無限召喚陣の破壊と破滅の侵攻を押さえることの方が重要に見える。そこに救世主候補を送れば、さらに他に回す人員が少なくなってしまう。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.441 )
日時: 2009/12/06 18:57
名前: テン


その意図も当然わかってるであろうクレアは、大きく息を吐いた。

「破滅がそれを狙っているらしいのだ」
「その鎧を?」
「うむ。今の状況で、そんな鎧が破滅に渡れば……」
「今以上に状況が悪くなる」

なのはがやはり眉を寄せて言うと、クレアも同じような表情で頷いた。

「こちらもものがものだけに破滅の将が送り込まれる可能性がある」
「……やっぱ俺たちが行くしかないってことか」

破滅の将の強さは救世主候補たちが一番わかる。
決して救世主候補たちのように、人を越えた身体能力や特殊能力を持つわけではない。だが、恭也と同じように人の壁を越えた戦闘者たち。王国軍では太刀打ちできないだろう。その彼らが出て来る可能性がある以上、救世主候補の誰かが行かなくてはならない。
救世主の鎧が危険だということ。
それを奪取するために破滅の将が動くということ。
それらの情報の真偽はわからない。だが、真実であった場合がまずすぎるということだ。そうである以上、最悪を想定して動くしかないだろう。

「我々は三手に別れる、それはわかりました」

先ほどからクレアに向けてだけは、恭也は敬語を使っていた。話の内容が壮絶すぎて、それに気付いている者はあまりいないが。

「しかし、今の状況では破滅を倒す、というのはほぼ不可能に見えますが」

状況はすでに最悪の一歩……いや、半歩手前だ。無限召喚陣を破壊したところで、すでに現れたモンスターは十万を越える。これをどうやって破るか。
種類にもよるが、モンスターの大半は人間複数人がかりでなければどうにもならないものが多い。それこそ生身の人間の場合、恭也や耕介レベルでもなければ、同時に複数など相手にできない。
だが、こちらは絶対的に人員が足りない上に、恭也と耕介レベルなどそういるわけがない。恐らく全州から王国軍を呼び集めれば、数という面では上回れるだろうが、そんなことをすれば、他の州が陥落する。簡単にできる行動ではない。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.442 )
日時: 2009/12/06 18:58
名前: テン


そもそも前回の時点で、あらゆる州からそれなりの人員を引っ張ってきたあとのはずだ。

「こちらの人員はどの程度に?」
「前回の防衛戦で五分の三以上は戦闘不能だ。負傷兵を魔法で回復させ……さらに、義勇兵を掻き集めて三万が精々だろう」

三万対十万。
こちらが防衛側とはいえ、この数の差はまずい。
先ほども述べたが、モンスター相手に一対一で戦うのはまずいというのに、むしろ向こうの方が一人を相手に三体以上で相手にできてしまう。
もし今回の侵攻を防いだとしても、相手に壊滅的な打撃を与えなければ、いつかは負ける。
策を用いてこれを覆せるのか。
いや、そもそも人が持ち、考え得る策というのは、大抵において人相手のものだ。化け物相手に通じるものか。
数の差は三倍以上だが、能力の差は十倍以上と見た方がいい。
それも人の思考がほとんど追いつかない化け物たち。策など効くか疑問だ。
少なくとも恭也にはそんな策は思いつかない。元々、戦略家でもないただの剣士だ。むしろ前戦で戦う一兵士でしかないのだから、こんなところにいること自体が、恭也からすれば本来はおかしい。
恭也はただクレアの目を見る。
その目はただどうするんだと聞いていた。
それにクレアは軽く頷き、その目に強い意思を込めて口を開く。

「しかし、こちらも切り札を使う」
「切り札?」

そんなものあるのか、とばかりに大河が目を見開いた。
同時になぜ今までそんなものを使わなかったんだ、とばかりの非難の色がそれぞれの表情に浮かぶ。

「そう怖い顔をするな。できれば使わずに終わらせたかったのだ」

クレア救世主候補たちの表情を見て苦笑する。だが、その笑みはどこか痛ましく見えるものだった。
同時に、頭上に映像が映った。
おそらく幻影石だろう。
空中に浮かぶそれに映っているには、まるで砲身のようにも見える。
いや、実際にこれは砲身なのだ。

「前に古代魔法兵器のことを話したことがあったな。これがそれに当たる」

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.443 )
日時: 2009/12/06 18:58
名前: テン


古代魔導兵器レベリオン。
それはアヴァターの王家であるバーンフリートに伝わる秘奥であり、最終兵器。
バーンフリート王家の血を継ぐ者にしか起動させることはできず、これの起動ができる者こそが、王の資質とも言える。
地脈から集める魔力と周囲のマナを集積し、それを破壊の力とする超兵器。
その一撃は天をも切り裂き、地を砕く。
まさに最終兵器であり、切り札なのだ。

「でも、確かそれは……」
「代償として、しばらくこの王都は都市としては使い物にならなくかるかもしれん」

だからこそできれば使いたくない代物だったのだ。

「だが、もうそんなことは言っていられなくなった」

このままでは王国の敗北は必至。追い込まれているのだ。ならば後先など考えていられる状況ではない。
恭也は頷き、話を進めることにした。

「俺たちがすべきことは四つというわけですね」
「四つ?」

一つ増えているよ、となのはは恭也の裾を引っ張ったが、恭也は合っていると告げる。

「召喚陣の破壊、救世主の鎧の破壊、破滅の侵攻の足止め、これら三つ合わせての時間稼ぎ」
「時間稼ぎ?」
「まだ……王都には住民がいる」

兵が義勇兵を含めて三万というのは、これを待避させなければならないことも理由だろう。

「あ……」

マナの摂取に巻き込まれれば、人間でさえマナを吸い尽くされ、塵に還る。ならばその前に王都の人間を逃がさなくてはならない。
無論、救世主候補たちだけでできることなどたかが知れているが、三つの任務を合わせれば、ある程度の時間稼ぎができるだろう。
クレアはその通りだと頷く。

「つまり、これからのことは私たちにかかってるってこと?」
「そうなるな」

リリィの問いに恭也は軽く頷く。

メンテ

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