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黒衣(仮投稿)
日時: 2008/05/15 06:31
名前: テン

浩さんに許可を頂きましたので、暫くの間黒衣を仮投稿という形でこちらに投稿させて頂きたいと思います。

あくまで仮であり、落ち着いたらいつかは今までどうりに投稿したいとは思っていますので。
これも携帯からの投稿なので、少々見づらいかもしれませんがよろしくお願いします。
一章を分割して送っていきます。


目次

>>1-27 恭也編 四十二章

>>54-91 恭也編 四十三章

>>122-156 恭也編 四十四章

>>197-227 恭也編 四十五章

>>228-255 恭也編 四十六章

>>256-268 恭也編 四十七章

>>269-288 恭也編 四十八章

>>289-317 恭也編 四十九章

>>318-330 恭也編 五十章

>>331-340 恭也編 五十一章

>>351-367 恭也編 五十二章

>>368-382 恭也編 五十三章

>>383-394 恭也編 五十四章

>>414-433 恭也編 五十五章

>>434-457 恭也編 五十六章

>>458 恭也編 五十七章

>>459-480 恭也編 五十八章

>>481-503 恭也編 五十九章

>>504-532 恭也編 六十章
>>565-587 恭也編 六十一章

>>28-53 大河編 三十章

>>92-121 大河編 三十一章

>>157-196 大河編 三十二章

>>395-413 大河編 三十三章

>>341-350 外伝
メンテ

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.464 )
日時: 2010/03/08 19:39
名前: テン


基本的に暗殺者というのは、自分のにしろ他の相手のにしろ、気配に敏感だから気を付けろと、昨日、クレアに任務を言い渡されたあと、恭也から釘をさされているのだ。
斥候はなし。それはいいが、そうなるとやはり問題が逆戻りだ。

「俺とベリオはモンスターと遭遇しないように動くなんて無理だしな」

大河とベリオも、普通の人間よりも速いが、モンスターが大量に現れたら逃げるのは無理だ。発見されればモンスターに殺到されるだろう。
カエデならば可能だろうが、一人で突っ切って、その先に破滅の将が複数いたとなったら笑えない。

「手がありませんね」

ベリオが僅かに溜息を吐く。
このまま無策に進むしかないのかと、他の二人も嘆息した。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.465 )
日時: 2010/03/08 19:39
名前: テン


しかし、唐突にカエデが背後を振り返った。
同時に、

「そこで俺たちの出番ってわけだな」

そんな声が三人の耳に響く。
大河たちの視線の少し先、そこにこちらへと向かってくる十数人の男女の姿があった。

「よう、助けに来たぜ!」

そのうちの一人……セルがニッと笑って言った。



第五十八章



「セル!?」

突然現れたセル……そして、一般科の生徒たちを見て、大河は目を見開く。
ベリオとカエデも目を瞬かせていた。

「おう!」

そんな大河に、セルは親指を立てて応えた。

「お前らなんでこんなところに!?」

今回の防衛戦には、学園の生徒たちも後方支援ではなく、前戦に出ることを義務づけられていた。そのため彼らがここにいるのはおかしいのだ。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.466 )
日時: 2010/03/08 19:40
名前: テン


「命令違反、ですかね」

大河の問いに、フィルが苦笑して、それでいて爆弾発言をする。

「命令違反……て」

学園の生徒たちは軍属ではない。そのためそこまで厳しい罰が降ることはないであろうが、それでも今は戦争中。そんな中、持ち場を離れるという命令違反。ばれればただではすまないだろう。
それがわかるからこそベリオも絶句している。

「なぜここにいるでござるか?」

質問を繰り返すカエデ。
しかし意味はまた先ほどとは違う。

「質問で返しちゃうけど、諜報科って知ってるかな?」

パフィオが悪戯っぽく笑って聞くと、大河とベリオは首を傾げ、カエデは少しだけ目を鋭くさせた。

「存在するのは知っていたでござるよ。しかし拙者も規模まではわからぬ。老師はそれもある程度わかっているようでござったが」
「さすがは恭也さんというべきかな」

ライラックが苦笑すると、他の生徒たちも苦笑したり、さすがとか呟いたりと、恭也を賞讃しているが、大河たちは何となく面白くない。
何といっても、今まで何度も恭也を巡って色々な方法で戦ってきたのだ。

(そろいもそろってブラコンかよ、俺たちは)

何となくそんなことを考えてしまう大河だったが、それがいやではないのだから重傷というべきだろう。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.467 )
日時: 2010/03/08 19:40
名前: テン


「まあ、恭也さんに助けもらった生徒の中には、諜報科の生徒……つまり諜報員がいたということです」
「そして、その方が今回、救世主クラスの方たちが、それぞれ別の任務についたことを調べ上げたということですわ」

諜報科、などというものがあるのも驚きだが、それ以上に今回の任務がばれていることに大河とベリオは驚く。

「むぅ、その御仁、なかなかの手練れでござるな」

カエデは逆に感心していた。
あの会議室に潜り込んだわけではないだろう。あそこには気配に敏感な人間が多数いた。それらの人物たち全員に気付かれないように潜入するのは、ほぼ不可能と言っていい。
つまりそのあとか、もしくは事前に調べたのだ。
諜報というのは、何も重要な場……会議や打ち合わせなど……に忍び込んで覗くだけではない。言葉たくみに情報を持つ者から聞き出すのもそうだし、他にも様々やり方がある。
どんな方法かはわからないが、事前に調べたならたった数日……もしくは事後であったなら一日で調べたのだから、確かに大した人物であるし、こうして誰にも諜報をされたと気付かせないのも、やはりたいしたものだ。
忍者は諜報員としての側面もある……というよりもそれが主……ため、カエデが感心するのも無理はない。まあ、やれと言われれば同じことができる自信もあるが。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.468 )
日時: 2010/03/08 19:41
名前: テン


「まあ、僕らも諜報科なんてあったっていうのを、そのとき始めて知ったのだけど」

アスクはやはり苦笑して言う。

「で、ここが一番の要で、その上一番苦戦するんじゃないか、って思って救援に来たわけだ」

それからセルが締めるようにして告げた。

「本当は、恭也さんの救援にも手を回したかったんですけど……」

フィルはどこか沈んだ声で、そちらは無理だったと続ける。
学園の地下……さらにその先にある封印を解く方法がなかったのだ。恭也たちが行ったあとは、間違いなくもう一度閉めているだろう。
というわけで、命令違反上等な彼らは全員がこちらに来た。

「とは言っても、みんな共犯なんだが」
「みんな?」
「他の一般科の生徒ほぼ全員に行けって言われて手伝ってもらった。ついでに教師陣の何人かも。だからたぶん上にはばれないと思う」
「マジで?」

彼らがここにいる、ということに荷担したのが、それこそ他の一般科の生徒全員の上、教師も絡んでいる。それはつまり全員が同罪。

「本当ですよ」

カラーが笑顔で頷くが、さすがに驚きを通り越して呆れる。
でも……

「助かったよ」

大河は頭を掻いて言った。
恭也を巡って色々と戦った仲……直接戦闘ではない……ではあるが、大河たちも決して彼らを心の底から嫌っているわけではない。それは彼らも一緒だ。
恭也が中心にいるからこそ、共感できるところも多い。ただ逆に恭也が中心にいるからこそ、それを認めづらいだけだ。こう言ってはなんだが、ただ独占欲で争っていただけなのだから。

「正直、今はどんな助けでも欲しいところだ」

この任務は一番今後に絡む上、時間もかけられない。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.469 )
日時: 2010/03/08 19:42
名前: テン


時間をかければかけるほど敵が増え、さらに失敗してしまえば、その時点で下手をすれば人類の敗北は決定するだろう。
それを三人で攻略すること自体に無理があったかもしれないが、こうして援軍が訪れてくれた。同じ学園の仲間……それも他のクラスの存在をありがたいと思ったのは、これが初めてだろう。

「お礼はボクたちじゃなくて、恭也さんにね」

パフィオの言うとおり、これは恭也のおかげだ。
他クラスとの繋がりを作り、命令違反を起こしてでも、他の生徒教師に彼の力になりたいと願うほどの信頼を生み出したのは恭也なのだから。



◇◇◇



大河たちは、藪の中に身を潜めていた。
そこはすでに、敵の陣地であろう。というよりも、森全体が敵の陣地と思った方がいい。正確には、森を抜けた場所に召喚陣があるらしいが、そこに接近するために通らなければならないこの森に防衛役を置いていないというのはありえないだろう。
大河とベリオ、カエデの三人は、その森の入口から少し入った場所にいる。すでに十数分はこの藪の中に隠れていた。

「ベリオ、あと何分だ?」
「あと十六分です」

大河の質問に、ベリオはゼンマイ式の時計を眺めて答えた。

「セルたち、もう始めたのか……」
「まだでござろう。戦いの気配は感じないでござるよ」

気配を追うようにカエデが目を瞑って答えると、大河はそうかと頷いた。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.470 )
日時: 2010/03/08 19:42
名前: テン


大河たちは今、ただ待っている。
時間にして約十四分。

「まだ始めてないってことは、もしかして敵はそんなにいないのか?」
「いえ、多分違うでござるよ。敵はいるでござる。それこそ予想通り大量に。戦いの気配こそないものの、先ほどから殺気だった気配があるでござる」
「どういうことです?」
「セルビウム殿たちは本当に囮をしてくれているでこざるよ」

囮。
そう、セルたちは今、この森の中に入っている。囮となるために。
彼らが立てた作戦はいたって単純だった。
セルたちが囮としてモンスターたちの相手をして、暴れ回るというもの。そして、戦闘が始まった音がしたら、もしくは三十分が経過したら大河たちは無限召喚陣まで一気に駆け抜ける。
正直に言えば危険な上、先がどうなるかわからないものだった。
この森にどれだけのモンスターがいるかわからない上、セルたちが早々にやられてしまえば、警備が厳重になってしまうだろう。
しかし、これしかなかったのも事実。
だが、セルたちはまだ戦闘を始めてはいなかった。

「おそらくこれが時間制限をつけた理由でござろう」
「はあ? なんで時間制限つけるんだろうとは思っていたけど、それじゃ答えになってないぞ、カエデ」
「つまりセル殿たちは、三十分という時間で、モンスターを引きつけようとしているのでござろう」
「ひきつける?」
「そのままの意味でござるよ。この森は広い。広範囲でモンスターが配置されているでござる」
「まさか、それを集めているんですか!?」

カエデの言いたいことを理解したが、ベリオはその答えに目を見開く。
できればその予想は外れて欲しいとベリオは思ったが、カエデは頷いた。

「おそらく、でござるが」
「おいおい、それは無謀だろ! 騒ぎを起こして逃げる手筈だったろうが!」

モンスターがいくらいるかわからない。
十匹や二十匹程度ではないことは確かだろう。
そんな大量のモンスターに、救世主候補でもない彼らが戦いを挑むのは危険だ。大河たちだってそんな数と戦い続ければ危ないだろう。
だからこそ数匹程度のモンスターを倒し、適当に騒ぎを起こしたあと、彼らは撤退するという手筈になっていたのだ。
しかし、彼らは全て……とは言わないが、なるべく多くのモンスターを引きつけようとしている。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.471 )
日時: 2010/03/08 19:43
名前: テン


大河は唇を噛みしめ、立ち上がろうとした。
セルたちを助けにいかなくてはならない。彼らがしている行動は自殺行為以外の何ものでもないのだから。
しかし、それをカエデが彼の肩を押さえて止めた。

「師匠! 耐えるでござるよ!」
「バカ野郎! セルたちを見殺しにできるかよ!」
「大河君! ですが、私たちが成功させなければ、王国は負けてしまいます! それを成功させるためにセルビウム君たちは……!」
「だけど……!」
「セル殿たちの想いを無駄にするつもりでござるか!?」

二人の叫びが効き、大河は唇を噛みしめたままではあるが、再び座り込む。
失敗はできない任務。
それはわかっているが。

「やっぱり恭也がいるのといないのとじゃ違うな」

大河はぼやくように言った。
任務中、別行動を取ることは多々あったが、任務自体が別々というのは久しぶりだ。それもその任務はどうしても失敗するわけにはいかないもの。
そしてこの場に恭也がいない、というだけで、閉塞感のようなものを覚えてしまう。
今まで恭也がいるから何とかなる、などと考えたことはない。恭也一人で何でもできるわけではないのだから。
しかし、恭也がいるのといないのとでは、心理的にここまで違ってしまう。

「ですね」
「で、ござるな」

ベリオとカエデもそれを否定しない。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.472 )
日時: 2010/03/08 19:43
名前: テン


きっとこの場にいたならば、恭也が皆をうまく落ち着かせるか、その前にセルたちにもっと的確な作戦を伝えただろう。
別に恭也はリーダーというタイプではなかった。命令を出すことや場をまとめることは多かったが、それはどちらかというと年長者だから、というような感覚が大河たちにもあったし、恭也自身もそうだっただろう。
本人も大河たちも、恭也をリーダーとして扱っているとは言い難い。
彼は、決して前に出て主張するようなタイプではないし、他者を従えるタイプでもない。むしろそれは他の救世主候補たちだろう。それをまとめているだけにすぎなかった。
カリスマ、というのともまた違う。むしろカリスマ性だけなら大河の方が上だ。
言うなれば、いつも後ろで見守っている男。突発的な出来事や、難しいことだけに手をかしてくるが、決して出しゃばることもなく、率先して前に出て皆を引っ張っていくこともないし、どちらかといえば、他の者たちの自主性に任せる。
何か不安なことがあれば、いつのまにか横にいて励ましてくるようなこともあった。
その行動は……

「本当に兄貴か、あいつは」
「確かに兄上のような御仁でござるな」
「そう、ですね。恭也さんのようなお兄さんがいてくれたなら、安心できます」

大河とカエデは苦笑し、ベリオはどこか複雑そうな笑みをみせる。
そこで何となく気付く。

「あー、なんか落ち着いてきた」
「拙者も」
「私もです」
「あいつ、いなくても俺たちの面倒見てるのな」

本当に面倒をかけすぎかもしれない、と大河は笑みを深める。
ああ、きっとセルたちも大丈夫だ。
あいつらもきっと、今頃恭也のことでも思いだして落ち着いているころだろう。
そんなことを大河は思う。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.473 )
日時: 2010/03/08 19:44
名前: テン


「とりあえずセルたちよりも、自分たちの心配か。俺たちが失敗したら、セルたちの頑張りまで無意味になっちまう」
「破滅の将がどれだけいるかが鍵ともいえますね」

それでこの作戦の成功率が変動する。
四人以上いたなら、その時点でアウトかもしれない。それでも陣の破壊だけは成功させるつもりだが。恭也ならきっと四人いたとしても、それに勝てるか勝てないかは別にしても、必ず陣の破壊だけは成功させたはずだから。
困ったことに、ここにいる者たちは基本的に対一対一特化型だ。
モンスターのように相手との力に差があるならともかく、相手が同程度の能力を要していて、それと一対多数で戦うとそれほど保たない。
これはすでに恭也がダリアに要請した授業で答えが出ている。その実技の授業で一対多の模擬戦を行ったが、その中で三分以上保たせることができたのは恭也一人だけだ。当然最終的には彼も負けているが、八分以上保たせた上、必ず一人は破っているし、相手が二人ならそれを二人とも破ったこともある。

「技術と経験か……」

よく漫画などでは、才能はそれを簡単に凌駕するというが、召喚器という素質と才能を持つ大河は、それが絶対ではないと思い知っている。
ある場面では……この場合多対一……、才能などそれほど役に立ちはしない。必要なのは経験と技術だと、彼から教わっている。

「結局恭也から技術は盗めなかったしな」
「師匠?」

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.474 )
日時: 2010/03/08 19:45
名前: テン


独り言を呟く大河にカエデが首を傾げるが、彼は何でもない手を振る。
大河は恭也の戦闘訓練……ほとんど模擬戦だが……を受けることで、確かに強くなった。
恭也から戦闘理論を盗み、体捌きを盗み、歩法を盗み……技術的なことを何も教えてくれない恭也から様々盗んだ。それは当初恭也自身が告げたように。
今、昔の自分自身と戦えたなら、大河は苦もなく勝てるだろう。
しかし、それはあくまで戦闘法だった。
やはり漫画でよく、相手の技を盗むというのがある。それを大河も実践してやろうと息巻いたが、結果は失敗。
恭也の技がどのような原理、理論でその身体から放たれているのか、一切わからないから、どうやっても盗めない。
最後には恭也自身にどうしてだと問いかけたが、恭也は当然だと苦笑した。
そもそも彼が扱う御神流は武道とは違うし、武術ではあるが他の武術とも多少毛色が違う。本来のそれらは、習う時の身体にその技を覚えさせる。つまり技を身体に対応させる。だが、御神流はむしろ身体を技に対応させるのだ。
本来と逆。身体に合わせて技を覚えるのではなく、技に合わせて身体を成長させる。だからそれこそ身体が成長しきってない子供のうちから、それを意識しなくてはならない。
実はなのはが御神流を教わるのが遅いというのは、このへんにある。同時に御神流が才能だけでは体得不能とする『一端』でもあった。
そして、戦い方を教えてくれと大河が申し出たときに、御神流は教えられないと言ったのは、確かに人殺しの技だからというのが一番の理由ではあるが、同時に完全な体得は不可能であったからだ。
御神流を体得するために必要な一つが成長前の子供である、ということ。

『ある意味、戦闘者を作るという意味では究極の方法だ』

と恭也は言っていた。
そうしなければ、基礎の三つというのが体得不可能であるらしい。身体が対応しきらないのだ。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.475 )
日時: 2010/03/08 19:46
名前: テン


例えば徹。
衝撃を外側ではなく内側に通し、内部を攻撃する技というのは実際に他の流派にもたまにあるものだったりする。まあ、ほとんどが奥義の類であるが。
大河が知らない人物ではあるが、似た性質の技なら晶やレンとて使える。
これらは、実は密着状態やほぼ零距離での技が多い。これは単純な話で、通常の打撃では、打点との距離がある分、どうしても衝撃が拡散し、外側の方に大きく伝わってしまうからだ。だから密着することで打点との距離を極限まで減らすことが重要で、『叩く、殴る』ことで衝撃を伝えるのではなく、『押し込むように打つ』ことで衝撃を内部に伝える技なのだ。
そして、その状態で腕や手首、腰の捻り、足のバネで、僅かな距離から押すように打つことにより、衝撃が外側よりも内部に伝わるようになる。口で説明するのは簡単だが、実際にはやはり体得が難しい。その上、実戦で使用するには、相手との距離を詰めなければならないため、かなり危険な技である。だからこそ奥義なのだ。
しかし、徹の怖しい所は通常の打撃だということだ。さらに武器込みで使用できること。
だが原理はほぼ同じである。
通常の打撃に見えるが目標との衝突の瞬間……それこそ刹那の瞬間で速度を緩め、同時に捻り込むようにして再び相手にめり込ませるように打つ。さらに衝突の瞬間、拳、もしくは武器を攻撃と同じ速度で退くことにより、衝撃の拡散を抑える。
打点の衝突前に止めるというのを抜かせば、ボクシングでいうジャブに近い。
ただし御神流は、それを拳だけでなく、両手両足……どころか指だけ、さらには武器でも行う。
一瞬の停止からすぐさま加速。その後同じ速度で退く。
やはり簡単に聞こえるかもしれないが人間業ではない。
身体的には普通の打撃のあと、それを瞬間的に止める。この時点で筋肉が張ってしまうはず。だが、それをすぐさま弛緩させ、捻り込むのだ。そしてさらに捻り込んだ筋肉を戻しつつも、振ったときと同じ速度で退く。
普通の身体制御では無理だ。
しかもこれはまだ徹の一端であって全てではない。語りきれない技術が、まだ多くある。
しかし、それを可能にしてしまうのが御神の鍛錬方で、その肝に当たるのが、幼いころから身体を意識して技に合わせることにある。
これを聞き、さらに実践された大河がこう言ってしまうのも無理はない。

『や、それは人間兵器の製造法じゃね?』

その大河のぼやきの瞬間、一撃を入れられたのはかなり昔のことである。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.476 )
日時: 2010/03/08 19:46
名前: テン


『とにかく御神流を御神流たらしめる基礎の三つ、そしてその先にある神速を、体得者の成長前から原理、理論、身体制御、稼働部位が意識されて意図的に成長させているから、それを意識せずに育った者は決して御神流は扱えない』

形は似ていても、それらは決して他者は理解できない。
形は盗めても、他者はそれを身体に合わせられないし、決して同じことはできない。
だからこそ戦闘者を作るという意味では究極の方法なのだ。
だからこそ御神流の体得者は限られていたのだ。
故に大河は、恭也の技術を盗むことはできない。いくらか盗んだが、それは御神流の本質とは関係ない部分だ。
だからこそ、大河は自分の技術は一切向上していないと思っている。
しかし、それは違う。大河が気付いていないだけで、彼の技術はこの世界に来たときとは比較にならないほど上がっていた。
確かに恭也は大河に技術的なことは何も教えていないが、密度の濃い戦闘訓練を施している。ただ模擬戦という形だが、恭也は大河自身が気付かないぐらいに、大河をコントロールし、その技術を高めさせていた。
大河のトレイターが、いくつもの形に変化するからこそ、彼自身に意識をさせず、その形全ての技術を向上させるため身体に覚えさせたのだ。
大河の中には文字通り我流の戦闘法の技術が、恭也によって知らずのうちに錬り込まれている。
しかし、だからこそ大河は自分の変化に気付いていない。
そもそも技術が向上していなければ、カエデとベリオの二人相手に勝ちを拾えるわけがないのだ。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.477 )
日時: 2010/03/08 19:47
名前: テン


だが、今回の敵はおそらく破滅の将。同じようにはいかないだろう。先ほど言ったとおり、恭也を相手にするようなものだと言っていい。

「ロベリアって言ってたか……?」

大河はやはり小声で呟く。
この前未亜とともに戦った破滅の将。彼女がいるのか。それともベリオやカエデたちが戦った男二人か、なのはが戦った少女か……恭也の生みの親か。
どれもロベリアレベルというのならきつい。とくに恭也の母親など、恭也ですら分が悪いと言っていたほどだ。恭也の産みの母親ということで、淡々と切り捨てると告げた恭也本人よりも、それを聞いた彼らの方が思うところができてしまった。
何にしても、今回はその恭也の母親が出てきたとしても気にする余裕はない。
どいつもこいつも技術や経験は圧倒的に上なのだ。気にしていられない。しかもそれぞれの武器も間合いが広く強力だ。
よく剣や槍などの武器を持つものは、その間合いの内に入ってしまえば無力と聞くが、少なくとも恭也はそんなことはなかった。
懐に入り、ナックルで殴り飛ばそうと思っても、いきなり下から膝蹴りが飛んできたり、横から肘や手の平が飛んできたり、剣を持ったままの拳が飛んできたりする。果ては頭突きやら、指やら、暗器やら、足払いやら本当に様々なものが飛んでくるのだ。
逆に小太刀の間合いから離れようとしても、いつのまにか内に入られていたり、何とか離れられても飛針や鋼糸、そこらの石やら木の枝やら飛んでくる。飛針なんぞ二十メートルぐらい離れていても正確に飛んでくるのだ。拳銃よりも怖しい。
本当の戦闘者というのは、相手が相当の格上でもない限り、死角や間合いの優劣などほとんどない。絶対にそれをカバーする技術を取得している。
拳銃しか扱えない戦闘者などいないし、ナイフしか扱えない戦闘者も、剣や槍だろうが太刀だろうが小太刀だろうが、それしか扱えない戦闘者などいない。一つしか戦う術のない者を戦闘者などとは呼ばない。それでも戦闘者など言うのはただの自称だ。
それができてこその戦闘者なのだ。多数とすら同時に戦うこともある彼らは、内に入られたから、主武器の間合いの外だからどうにもできない、などお話にもならない。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.478 )
日時: 2010/03/08 19:47
名前: テン


そして、敵はその戦闘者である。
しかしこっちは『強い素人』と『回復を得意とする僧侶』と『元々戦闘者ではない忍者』。
一人二人ならいいが……

「いいか、敵が三人以上だったら無視して召喚陣の破壊優先な?」
「はい。その後すぐに逃走ですね」

大河の言葉に頷くベリオ。
恭也がこのメンツを向けたのは、戦うことを意識してではない。だからこの選択は間違っていないはずだ。
それからカエデが聞いた。

「二人以下だった場合はどうするでござる?」
「それでも召喚陣の破壊を優先だ。けど、そのあと捕獲だな」

敵に破滅の将と呼ばれる存在がどれだけいるのかはわからない。この前それぞれ戦った者たちで全員かもしれない。しかし、だからこそ一つや二人捕獲するだけでこれからやりやすくなるはずだ。

「ただまあ、できれば、だな」
「で、ござるな」

あくまでできれば、欲張るわけにもいかない。
自分たちは王国軍の主力だ。欲張ってその戦力を欠かすわけにはいかないのだ。
そこで再びベリオが時計を眺め、

「あと五……」

分と続けようとしたとき、爆音が響いた。
それに続いて剣戟の音。氷が割れる音。モンスターの断末魔の絶叫。
次々と聞こえてきた。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.479 )
日時: 2010/03/08 19:48
名前: テン


「始めた!」

すぐさま飛び出ようとした大河だったが、それをカエデが止める。

「師匠、まだでござる! おそらくあの音を聞いて、他のモンスターたちも集まってくるでござるよ。それに見つかっては元も子もない」
「あと少し、です」
「……そうだな」

ここで焦っても仕方がない。
カエデは表情を歪め、ベリオはきつく目を閉じている。そこから二人とてすぐにでも飛び出したいと思っているというのは簡単にわかることだ。
セルたちが恭也を信じるように、自分たち恭也を信じるように、自分たちもセルたちを信じる。きっとセルたちも自分たちを信じているはずだから。
長い時間だった。
それは今まで待っていた二十数分よりも長く感じた。
音は決して途絶えない。
今もセルたちは戦っている。一匹でも多くのモンスターを引きつけて、時間を稼いでいる。
彼らを救うためにも、早く任務を達成しなければならない。

「……師匠、ベリオ殿。行くでござる。周囲の気配のほとんどが……セル殿たちの方に集まっているでござる」
「……ああ。行こう」
「行きましょう」

大河とベリオがカエデへと頷いて返し、すくざま三人は召喚器を呼び出し、藪の中から飛び出した。
カエデが先行として一気に駆けていく。彼女の背がギリギリ見える距離にベリオが続き、そのさらに後方を殿として大河が走る。
自分たちの技能を考えれば、これが一番の布陣。
モンスターは現れない。全てがセルたちに向かったわけではないだろうが、運が良いのかその姿を見つけることはなく、また大河たちが見つかることもなかった。
三人は一切速度を緩めない。だが、決して全力では走らない。体力は残さなければならないのだ。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.480 )
日時: 2010/03/08 19:49
名前: テン


先ほどまで聞こえてきた戦闘音が、聞こえなくなっていく。
セルたちが負けたのではなく、自分たちが離れていっているからだ、と大河たちは自分に言い聞かせ、一心不乱に駆けた。
どれほど走ったのか。少しずつ鬱蒼としていた木々が減っていく。
少しずつ地は荒れていき、草花は枯れ、木も葉を落としてほとんど裸になり、幹も痩せこけて……この様を大河たちは知っていた。

「ベリオ、カエデ! もうすぐだ!」

前にいる二人に大河は告げる。
きっと二人とて気付いているだろう。
こり荒れ果てた様子は、デザイアのときと同じだ。周囲のマナを搾り取られ、生命が消えかけた大地。
無限召喚陣も、周囲のマナを無差別に吸収する。
つまりこの近くにある。
そして……

「…………」

木々はなくなり、草花の姿はなく、ただ荒れ果てた大地……荒野となってしまった場所・そこにあった。
巨大な魔法陣。
さらに、

「やっぱりいやがったか……!」

魔法陣の前にある大きな岩。
一人はその窪みに腰掛けるように、一人はただ背をつけ、一人はその前で寝そべり……
その姿の一人に大河は見覚えがあった。
やはりいた。

「破滅の将……!」

大河の叫びに、三つの影は動き出す。

「相変わらず威勢の良い小僧だね」

暗黒騎士ロベリア。

「わざわざ私の元へと戻ってきてくれたか、我が花嫁」

凶刃のシェザル。

「へ、まあ、男はどうでもいい。あの女二人は俺の得物だ」

悪逆のムドウ。

三人の破滅の将。
最悪ではないが、最悪の一歩手前の布陣。

「てめぇらに構ってる暇はねぇんだよ!」

大河のその叫びが引き金。
この戦争の先を決める戦いが始まる。

だが、大河はまだ気付いていない。
この三人が、本当に最悪の布陣であることを。
そして、この先に待ち受ける自分の運命を。
無限召喚陣など関係なく、この戦いこそ……この戦いの結果こそが、この戦争の鍵であることに、まだ大河は気付いていない。




メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.481 )
日時: 2010/07/25 21:09
名前: テン



救世主。
リリィはそれを自分が求め始めたのが、いつだったのかはよく覚えていない。
破滅という存在を知ったときか。
破滅に故郷を滅ぼされたときか。
母に破滅から助けられたときか。
それとも召喚器を手に入れたときか。
当然今でもリリィは救世主を求めている。
少し前までは救世主が目的のようになってしまっていたかもしれないが、今は純粋に手段として救世主を求めていた。
ただ、少しだけではあるが、それは自分でなくてもいいかもしれないとは思い始めているのも確かだった。
だって、救世主は手段なのだから。
リリィの目的は破滅を滅ぼすことなのだから。
無論、諦めるつもりなどないが。

「救世主の力を求めてるのは確かだけど」

しかし、なぜ自分は救世主を求めたのか。その原点は何なのか。それを最近考えるようになった。
自分を救ってくれた義母のためか。
それともかつて自分が過ごし、滅んだ世界の住人のためか。
唯唯、破滅が憎いからか。
答えはどれもだ。

「でも……違う」

どれもが思ったことだが、救世主になりたいと思った原点ではない。
何だったのだろう。
最初に救世主になりたいと思った理由は。
子供だった自分が、救世主になると決めた原点であり、起点は。

「あ……」

唐突に浮かんだ。
今、目の前にある光景と同じ蠢く異形たち。
世界を燃やす紅き炎。
そして黒……。

「恭也?」

それは恭也の背だった。
黒く大きな背中。
黒衣の青年。
その両手に黒銀の小太刀を持っ……た?

「違う」

それは恭也じゃない。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.482 )
日時: 2010/07/25 21:10
名前: テン


確かにあの人が握っていた剣は小太刀というものだったかもしれないが、恭也が持つそれは銀と紅銀、そして黒銀。
両方が黒銀ではない。
だから違う。
そもそも自分は千年前の人間であり、あのとき現れた青年はすでに大人でもあった。
恭也じゃない。

「だけど……あの人が私の原点」

つい最近までは忘れていて記憶。
ただ自分は義母ミュリエルに助けられたと、それしか覚えていなかった。
けど、違う。その前に助けられていたのだ。
一人の青年に。
その青年は、破滅など路傍の石だとでも言いたげに、慈悲もなくその命ほ刈り取とる死神が如き力を持っていた。
しかし、今だからこそわかるが、あのとき同時に彼は常に自分を気に掛けてくれていたのだろう。
そしてリリィは思ったのだ。
この人が救世主だと。
そして憧れた。
その両の手に持つ黒銀の翼に。
自分もこうなりないと。

「…………」

そういうことだったのだ。
確かに破滅を許せないと思った。母のようになりたいとも思った。召喚器を手に入れたからというのもあった。
だけど違う。
リリィの原点はあの青年だった。

憧れ。

あの背に追いつきたいと思った。
あの背の横で戦いたいと思った。
あの背に唯唯憧れて、焦がれ続けていた。
憧れであり……初恋。
そういうことなのだろう。
初恋の相手は、恭也だと思っていたが、違ったらしい。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.483 )
日時: 2010/07/25 21:11
名前: テン


それに気付いて、リリィは苦笑した。

「まあ、いいわよね。初恋は実らないって言うし」

恭也が初恋でないことをむしろ感謝しよう。

「っていうか、そんなこと考えてる場合じゃいか」

視線を前方に向ければ、そこには化け物の大群と人の大群が争う光景が見える。
砂埃を上げ、声を張り上げ、両軍は戦っていた。
リリィはそれを、王都を守る防壁の上から見つめ、歩き出した。



第五十九章



丁度防壁の端に、そこには二人の人がいる。
未亜と知佳。

「休憩、終わったわよ」
「魔力は大丈夫?」
「ええ」

知佳の問いに、リリィは大きく頷いて返した。
十分の休憩では、全て回復しきれるわれもなく、回復を急いで、せいぜい三割ほど。それでも召喚器を持たない普通の人間と比べれば回復していると言えだろう。
順番で休憩をとったため、リリィで休憩は終わりだ。

「しかし、思い切ったわよね。私たちを完全に砲台にするなんて」

メンテ

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