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黒衣(仮投稿)
日時: 2008/05/15 06:31
名前: テン

浩さんに許可を頂きましたので、暫くの間黒衣を仮投稿という形でこちらに投稿させて頂きたいと思います。

あくまで仮であり、落ち着いたらいつかは今までどうりに投稿したいとは思っていますので。
これも携帯からの投稿なので、少々見づらいかもしれませんがよろしくお願いします。
一章を分割して送っていきます。


目次

>>1-27 恭也編 四十二章

>>54-91 恭也編 四十三章

>>122-156 恭也編 四十四章

>>197-227 恭也編 四十五章

>>228-255 恭也編 四十六章

>>256-268 恭也編 四十七章

>>269-288 恭也編 四十八章

>>289-317 恭也編 四十九章

>>318-330 恭也編 五十章

>>331-340 恭也編 五十一章

>>351-367 恭也編 五十二章

>>368-382 恭也編 五十三章

>>383-394 恭也編 五十四章

>>414-433 恭也編 五十五章

>>434-457 恭也編 五十六章

>>458 恭也編 五十七章

>>459-480 恭也編 五十八章

>>481-503 恭也編 五十九章

>>504-532 恭也編 六十章
>>565-587 恭也編 六十一章

>>28-53 大河編 三十章

>>92-121 大河編 三十一章

>>157-196 大河編 三十二章

>>395-413 大河編 三十三章

>>341-350 外伝
メンテ

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.504 )
日時: 2010/09/24 04:55
名前: テン






救世主の鎧へと駆けた恭也は、両の手に握った小太刀を同時に斬りつけた。
だが、火花と同時に、二つの小太刀は弾かれる。

「っ……堅い」

恭也は舌打ちしながら下がった。
今の二つの斬撃は、片方に斬、片方に徹を使って放った。しかし、そのどちらも効果が薄い。
斬は鉄すら断ち切るが、あの鎧に少しばかりの傷がついただけで断ち切るには至らない。本当に中身は本当に存在せず、ただ鎧が動いているだけなのか、内部を破壊する徹など効果自体がなかった。
さすがは救世主の最終防衛機構と言ったところか。
後ろへと跳んだ恭也へと、鎧が飛びかかる。
その巨体故か、やはり一歩の歩幅が異常に長く、恭也の間近へと迫っていた。
そして、その拳が振り上げられた……瞬間、恭也の後ろから、一条の光線が高速で飛び込み、鎧へと衝突。
爆音を上げ、倒れていく鎧から、さらに恭也は後ろへと跳び離れ、リコの隣りへと戻る。
そのリコの頭上には、彼女がいつも持っている本が浮いていた。先ほどの光線は、その書から放たれたものだろう。

「終わって……は、いないだろうな」
「はい」

あの光線はかなり破壊力があっただろうが、効いた気がしない。それは二人とも感じていた。
その予想は外れてはおらず、鎧はゆっくりと立ち上がる。
その姿を見て、恭也は大きく溜息を吐いた。

「リコ。俺が囮になる。お前が要だ」

ただの一度の攻防でわかった。あの鎧は、恭也では破壊するのは難しい。最大出力での霊力技ならばどうにか、と言ったところだが、それにはやはり時間がかかる。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.505 )
日時: 2010/09/24 04:57
名前: テン


その時間稼ぎをリコにやらせるわけにもいかない。彼女が持つ戦闘技能では、あの巨体相手には難しいのだ。
ならば逆に、リコが極大の魔法を放つためにかかる呪文詠唱の時間を、恭也が稼ぐしかない。

「……わかりました」

それらを恭也が説明せずとも理解したリコは、それが一番成功率が高いというのも理解し、恭也にかかる危険があるために、それを止めたいという感情を押し殺して頷いた。

「まあ、ダメージはなんとか与えているみるが、あれでは腕を落としても動きかねん」
「……私が潰します」
「頼む」

リコにして珍しい力強い肯定に、恭也は頷き、再び鎧へと駆けていった。



第六十章




高町恭也は、特色らしい特色がない剣士だった。
御神流の剣士は確かに特色のある剣士だろう。だがただの剣士としては、恭也ははっきりとそれほど特色のない剣士。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.506 )
日時: 2010/09/24 04:58
名前: テン


力はそれなりだが、決して怪力というほどでもなく、速くはあるが、決して長高速ということもない。
どれもが一流ではあるが、そのどれもが『超』一流には敵わない。
それは生まれ持った才能というべきもの。技の覚えなどではなく、肉体の限界。身体能力の限界という才能。
別に恭也は、一つを超一流にすることは不可能ではなかった。それこそ力を極めれば、士郎の怪力すら大きく越えることはできただろうし、速さを極限まで高めれば、美沙斗や美由希ですら追いつくことは不可能だっただろう。
しかし、そのバランスが問題だった。筋力を超一流にまで鍛えれば、スピードが異様なまでに殺される。スピードを重視すれば筋力が。その両方をどらかでもを極限にまで鍛えれば、バランスの崩壊によって技術が低下しかねない。
どれかを極端に伸ばす=他の何かが致命的にまで落ち込む。
それは人間誰しも同じことではあるが、恭也の場合は極端にその比重が大きかった。
だからこそ恭也は悩んだ。自分の特色は何か。身体能力に特色が出せないのであれば、何を特色とすればいい?
身体能力に特色がないのなら、他のもので補わなければならない。生まれ持って与えられた身体上の才能ではなく、それ以外のもの。
器用貧乏?
どれかの技能に特化?
それこそそれらに意味がない。
もっと幼いときからならともとかく、肉体的、神経的、脳内的な成長限界が来た今では、まったくもって無意味。
どれだけ器用貧乏になったところで、御神美沙斗の技には敵わない。今でさえ同じ奥義の応酬で競り勝てるのは得意技で薙旋だけだ。
全てを均等に、可もなく不可もなく技が使えるようになったとしても、それで美沙斗の打倒は不可能。
しかし、得意技であるはずの薙旋を前面に出したところで、美沙斗には敵わない。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.507 )
日時: 2010/09/24 04:59
名前: テン


その後、その悩みはとくに表に出てくることはなかった。
美由希を強くするために全ての心血を注いだため、自分のことを二の次にしたためだ。
しかしアヴァターに来て、膝が治りかけ、再びその悩みが浮上した。
そして、今では完治と言えるまで、膝は治っている。
完成した御神の剣士となり、強くなるための自分の特色。
悩みに悩みに末、出た結論は単純だった。
いや、それはもしかしたら、美沙斗との戦いで唯一使えた閃を放ったからこその光明だったのかもしれない。



「…………!」

恭也の斬撃が閃く。
いつもは超高速である剣が、遅い。
いや、決して遅いわけではない。常人には視認もできないレベルだ。だが、それでもいつもの恭也の斬撃と比べれと遅いのだ。
鎧の攻撃もその自重故か、見た目以上の速さだった。
鎧の拳が、恭也の斬撃が届く前に、恭也に眼前に向かった。
しかし恭也は目を見開き、ほんの僅かに首をずらすし、それを紙一重でかわす。
鎧の拳が顔の横を通り抜け、空気が弾ける音が大きく聞こえたが、恭也は気にすることもない。
鎧が拳を放ったことで詰まった間合い。その瞬間に鎧よりも遅く放った斬撃が、鎧の胸部に直撃。
響いた音は、何とかも不思議な音だった。
まるで何かを引き切る音、まるで岩にハンマーを打ち付けたような音が同時に響いたのだ。
しかし、鎧には効いた様子はなかった。
だが、表面には切り傷、さらにほんの少しだが胸部が陥没している。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.508 )
日時: 2010/09/24 05:01
名前: テン


これが恭也の導き出した自分の特色……その解答の一端。
一つの斬撃に込められたのは二種の効果。さらに拳をかわしたのは見切りの極地。
即ち御神の基礎斬撃である斬、徹、貫である。

自分にない特色。
それを恭也は御神の基礎に求めた。
この一年近く、他の技の鍛錬に割いていた時間をそれぞれの錬度が差がない程度に、可能な限り切り取り、その全てを基礎の鍛錬に回した。
基礎とは、どうしてもその先を覚えていくと疎かにしてしまうもの。それは美沙斗でさえだ。
恭也とて、何度も美由希に初心を忘れるなと言い続けたにも関わらず。
だからこそ恭也は、真に初心へと戻ったのだ。
奥義やその他の技の錬度、技巧は低下こそしていないものの、恭也がこの世界に来たころとほとんど変わっていない。つまりほとんど成長していない。
しかし、奥義や上位の大技よりも、基礎をとことんなまで追求し、鍛え上げ続けた。
それを自覚したのは、全ての基礎の向こうにあるという閃。
閃を一度でも使えたからこそ、見えたことでもあったのだ。
その先にあったのは基礎のさらなる応用。
ついには斬と徹の同時使用まで可能にした。
無論、引き斬る斬撃と、衝撃を通すというまったく異なる攻撃であるために、それを同時に込めるというのは、なかなか難しいのだが。
だが、それだけではない。

「かっ!」

もう一度鎧の拳を右に避け、カウンターとして、今度は先ほどとは比較にならない高速の斬撃を放つ。
込めるは斬。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.509 )
日時: 2010/09/24 05:02
名前: テン


引き斬る斬撃であり、斬るという剣術の基本でありながら、他の流派とは比較にならないほどの技術を必要とするそれは、極めれば『刃のない刀でも』斬鉄が可能と言われ究極の斬撃。
その斬線は、兜の横を通過。
一瞬後に、その兜に取り付けれていた角が飛んだ。

(これは……鉄より硬いか……しかし、斬ることは可能)

元より、最初から角を狙っていた。
自分の技で斬れるのか、それを確かめたかったがために、まず狙いやすく、かつ他の場所と比べて、細い場所を狙った。
その結果、斬れると確信する。
この世界に来たころは不可能であっただろう。
しかし、今の恭也だからこそできる。
三つの技の同時行使など、ただの副産物だ。
これは恭也が目指したものの真の答え。
即ち、基礎の向上。
それは錬度であり、技術であり、あらゆる速さであり、鋭さであり……
三つの基礎を極めた等という不遜なことを言う気はない。だが、今の段階での技術でも絶対の自信を持っていた。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.510 )
日時: 2010/09/24 05:03
名前: テン


貫に関しても、今ならば美沙斗にさえ追いついたという自負がある。
貫は一つの境地に近い。相手の動きを完璧にまで見切り、さらには自らの体捌きにより、相手の動きさえ操る。
そうであるが故に、実戦を積んだ者ほど貫の精度は高くなる。またそうであるからこそ、復讐のために、十年以上戦い続けた美沙斗に、高々数年の実戦しか経験していない恭也が、勝ることはできない技能だった。
しかし、今は違う。
この濃い一年近く、恭也は戦い続けた。単純な身体能力という意味でなら、自分よりも強い者などいくらでもいた。それらと授業中に戦い、訓練で戦い、またここ最近は、相手が人ではないとはいえ、何度も死線を潜ったのだ。
それらが、確かに恭也の血肉となり、貫でさえ、さらなる境地へと押し上げていた。



「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

巨体とのインファイト。
恭也は一歩も退かない。距離を取らない。

はっきり言うと、この戦闘法は、下手すると神速並に集中力が必要だ。しかも実は今、恭也は霊力も使っていた。そのために異常なほどの集中力を維持し続けている。
神速ほどの体力低下はないものの、少しでも集中力が切れればその瞬間、恭也は死ぬ。そもそもこの世界で出会った存在の大半の攻撃は、クリーンヒットすれば、それだけで致命傷という敵ばかりだ。そのためにこの戦い方は背水の陣に等しい。
しかしだからこそ、一々後ろに下がる、距離を取るなどして集中力を低下させたくないのだ。もっともここまでインファイトを続けているのは、他にも意味があったが。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.511 )
日時: 2010/09/24 05:04
名前: テン


恭也はぼんやり黒く光っている八景と紅月を振るい続ける。
この巨体から離れるわけにはいかない理由があるのだ。
そのために相手に攻撃をさせないため、移動させないためにほとんど効かない攻撃を繰り返すしかない。
確かに斬れる。だが、今はそのときではないのだ。
右で徹、左で斬、相手の攻撃を貫でかわしカウンターを打ち込み、徹の連撃、斬の連撃、一つの斬撃に貫と徹を混ぜ合わせ、一つの斬撃に貫と斬を混ぜ合わせ、一つの斬撃に斬、徹、貫の全てを混ぜ……
連撃による連撃。連撃に継ぐ連撃。
まさくし息を吐く暇もない。
すでに数十と斬撃を直撃させても、角を斬り落とされて以降、鎧にはほとんど効いていない。全体的に小さな傷と小さな陥没が出来上がるだけ。
それでは倒せない。

(霊力を覚えていなかったら……もう終わっていたな……!)

こんな戦い方、本来なら武器が保たない。
そもそも小太刀……日本刀というのは切れ味を重視し、他の剣と比べるまでもなく脆い。技量で刃こぼれなどしないようにできて、始めて日本刀を実戦で使用できるようになる。
それを当然恭也もできるが、さすがにこんな滅茶苦茶な戦い方では小太刀が保つわけもなかった。人間が相手ならば、すでに百度は殺しているような連撃を繰り返しているのだから当然だ。
しかし、恭也の小太刀はまだ刃こぼれ一つしていない。
理由は単純、霊力でコーティングしているからだ。
本来、霊刀ではない八景は、霊力を大きく込めることはできない。しかし、これは八景に霊力を込めているのではなく、あくまで霊力で覆っているだけだ。
初めて耕介にこれ見せたときは驚かれたものである。十六夜はそうでもなかったが。
とにかく、これで刃こぼれと折れることを防いでいた。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.512 )
日時: 2010/09/24 05:04
名前: テン


とはいえ、燃費が悪い恭也では、せんぜい十五分ぐらいしか……耕介ならならこの十倍はいけるだろう……もたない。
もし長時間続けられるなら、わざわざ新しい小太刀を調達などしていない。
ある意味恭也にとって奥の手の一つだ。一対一か、本当にこの小太刀が最後になったときだけしか使用する気はなかった。

「……!」

一体何度斬りつけたか。それでも鎧に大きなダメージはない。
しかし、恭也の方もまだ息切れ一つしていなかった。
連撃の途中に、きっちりと『休憩』しているのだ。それは呼吸法と、筋肉の弛緩のさせ方で可能にしている。
とはいえ、

(そう長くは保たない)

そう考えるが、恭也は何の心配していない。

「頼むぞ、リコ」

恐らくリコ本人には聞こえないだろう声量で呟き、フッと大きく息を吸うと、連撃の速度を上げた。



◇◇◇



(マスター、こんな戦い方もできたんですね)

リコは魔力を溜めながらも、そんなことを考えた。

(しかし、それは……)

あの巨体へと、荒々しいまでの怒涛の勢いで剣閃の波を放ってのインファイト。
それは背水の陣にも等しい。もしくは狂気の沙汰というべきか。
相手は人ではなく、巨体でリーチが長い。これだけでも接近戦を続けるというのは不利。その上一撃でももらえば、恭也の場合、それだで致命傷だ。
それがわかって、恭也はあのような戦い方をしている。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.513 )
日時: 2010/09/24 05:05
名前: テン


彼は召喚器を持っていても、その力の恩恵をほぼ受けていない。またそのために、赤の主としての力も、微々たるものでしかない。
だから、大河たちと違って、傷の再生力が低い。大河たちは例え大きな怪我を負っても、それが即死レベルでなれば、かなりの早さで怪我が癒えていくのだ。
しかし、それがない恭也は、一度でも致命の一撃をもらえば、その瞬間戦闘不能である。

(でも……)

しかし、それは時間を稼ぐため。リコの無茶な提案故だ。
ああしなければ、鎧はリコに向かうかもしれない。巨体の割に異様なほど速く、巨体故に歩幅が大きい。恭也が離れてしまえば、その隙に鎧がリコに攻撃をしかける可能性は大きい。
鎧の思考があるのかはわからないが、それは間違いない。リコの魔力が高まっているのがわかるのか、先ほどから何度も兜の中に浮かぶ赤い目がリコを貫いている。

(だからマスターは……)

それにきっと恭也も気づいていた。だからああやって、攻撃がほとんど効かずとも攻撃を繰り返しながら、ぴったりと貼り付いている。
どうやっても恭也がくらいついてくるためか、それともそれほど知性がないのか、鎧は恭也を無視できない。
それにしてもとリコは思う。
場違いな思考とも思うが、リコは主の戦闘能力を考えていた。
あんなふうに巨体の敵と戦えるとは。
リコは恭也の強さの根底には、順応性、適応力、応用力があると思っている。

(マスターの世界には……モンスターはいない)

似たようなものはいるかもしれないが、少なくとも恭也は戦ったことはないと言っていた。人以外の種族ならば、何度か戦っているが、それもあくまで全て人型であったらしい。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.514 )
日時: 2010/09/24 05:05
名前: テン


しかし、恭也はこの世界で何度もモンスターを屠っている。
耕介のように霊力技主体でならわかる。大河たちも元々人間相手に戦うための技術がなかったのと、人間相手の戦闘経験がなかったから、これもわかる。しかし恭也はその日本刀、その技で倒しているのだ。
本来ならこれは難しいどころの話ではない。
そもそも刀は人を斬るために造られている。それ以外を斬ることなど想定していないのだ。人以外を斬ることを想定しているなら、最早それは日本刀ではないし、そもそもあんな細く反った形にはならない。
だから日本刀は、人とは肉や筋肉のつき方が違う生物を斬るのには適していない。動物を斬るのとて、人とは違う切り方をしなければ難しく、下手をすると滑るか弾かれるか、もしくは折れてしまうだろう。
それは技とて同じ。恭也が放つ技も人に向けるという大前提があるのだ。それ以外を斬ることは想定していないはずだ。

(マスターはたった数合……それこそ一合か二合で合わせてしまう)

初見の人間以外の生物……モンスターもわずかそれだけの斬撃で、肉質などを看破し、間合いを看破し、大きさを看破し、それら全てに刀の振り方、切り方、技の出し方を切り替える。
驚くべき順応性、適応力、応用力だろう。
このへんはもしかしたら、かつて父親とともに食料として動物を狩っていた、というのが原因かもしれない。まあ、さすがにこれは冗談だが、そう思ってしまうのも無理はないだろう。
そして、あと一つ……
それを考えようとして、前方の戦いに多少の変化が起こった。
鎧が後ろに跳んだのだ。
たった一度の跳躍であの巨体が五メートル近くも跳ぶ光景は、見ていて少しばかり怖気を誘う。
鎧は着地と同時に、その右腕を突き出した。
恭也との距離を空けたのに何をしているのか。しかし、恭也は気にせず一気に間合いを詰める。
その瞬間、鎧の右腕が勢いよく飛び出した。
それはまるでロケットのように発射され、水平に恭也へと向かう。
リコはわからないことだが、恭也は今頃ノエルのロケットパンチかとでも思っているだろう。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.515 )
日時: 2010/09/24 05:06
名前: テン


そこからは一瞬の出来事。
恭也の紅月を持ったままの左手の指が僅かに動くと、リコが魔法で作りだした照明をわずかに反射し、鋼糸が宙を舞う。
鋼糸が幾重にも発射された鎧の右腕に巻き付き、その軌道を変えさせる。
そのまま恭也は再び鎧の懐に入り、右手に握る八景を一閃。
同時に左足を振り上げ、さらに鋼糸を操る左手の肘を曲げ、指を強く振り、肘を巻き込む力と遠心力も加えて鎧の右手を地に落とそ、鋼糸を解くと、それを振り上げた左足で遠くに蹴飛ばした。
さらには指で鋼糸を操ったまま、肘を戻しながらも紅月を振り落とし、八景の刃の上に落とす。それはこの世界に始めて恭也が訪れたとき、試験で見せた技。
傷こそほとんどつかないものの、さすがにその衝撃には耐えられなかったのか、鎧はそのまま倒れた。
それらはほぼ同一のタイミングで行われたのだ。

(どう言えばいいんでしょうね……)

並列思考? 並列処理? マルチタスク?
恭也の今の動きはそれらに近く、どれも遠い。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.516 )
日時: 2010/09/24 05:07
名前: テン


そして、それこそが恭也の強さの一つ。
彼は同一の瞬間に右手、左手、左足を同時に動かした。指を含めれば四つ。
右手の斬撃を放ち、左足で蹴りを放ち、左手は肘と指を使い鋼糸を操りながら、斬撃を放った。それらを全てほぼ同時に行う。
四つの動作、四つの行動がほぼ同一で起こった。
はっきり言って、自分の主ながら人間業ではないと、リコは本気で思った。どういう関節稼働、身体制御、重心制御をしているのだ。
身体を全て同時に動かす。
最低四つの無意識の思考を制御。もしあの瞬間、恭也が戦術なりを考えていたなら、それは四つの無意識と一つの意識の思考を制御したことになる。
身体を動かすことが、どうして思考になるかと言えば、無意識的な思考と意識的な思考の違いだ。
本人は何も考えずに行動したことでも、身体が動いていれば、もしくは五感が別々に感じ取っていれば、それは無意識ながらも脳が思考し、処理しているということだ。
とはいえ、人の意識的な思考はどうやっても一つしかできない。
『寒い』という考えと、『温かい物を飲みたい』という考えを意識して同時に思考するのは、どうやっても不可能。『寒いから暖かい物を飲みたい』と繋げなければ、人は意識的に思考できない。
しかし、無意識は違う。複数個同時に行うことが可能だ。そして、無意識と意識の一つを合わせることができる。
身体が『寒い』と無意識に感じ、『温かい物を飲みたい』と考え、繋ぎ合わせることができるのだ。
一つの無意識な思考と意識的な思考、複数の無意識の思考、複数の無意識思考と意識的な思考を同時に行う。
人間で言う並列思考、マルチスク等というのは、身体の制御、思考の制御……脳が複数個の処理を同時に行うことというのが、一番近いだろう。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.517 )
日時: 2010/09/24 05:08
名前: テン


今、こうしてリコが考え事をしながらも、きっちりと魔力を高めているのも、簡単なマルチタスクや並列思考と言える。
とはいえ、それはかなり難しいことでもある。
二つぐらいまでなら、普通の人でも慣れればどうということはない。
しかし、二つでもその精度はなかなか向上しにくい。歌を流しながら本を読んだ場合、歌に集中すれば詩を理解できるかもしれなが、本の内容が理解しにくくなる。その逆もまただ。もしくはどちらも中途半端になってしまうかだ。
身体を動かすこともそう。
両手で箸を使うのは難しい。
同時に行うことが増えれば増えるほど、その制御の難しさは相乗されていく。しかもこういうのは瞬間的な行動こそ難しくなっていくのだが、恭也はそれをやはり難なくこなしたのだ。
つまりどういうことかと言えば、あの一瞬で恭也は、複数の関節、手足を同時に動かし、さらにそれを制御しつつも、重心を崩さず、無意識の思考四つ以上を脳が同時に処理していた。
本当にどれを取っても人間業ではない。
これは恭也だからできることで、他の人間にはまず不可能だろう。
同時に行動しながら、全て制御しきるなど、人間業ではないのだ。

(慣れ……ですか)

だからこそ、恭也のあれは慣れなのだろう。
まだ年若いとすら言える恭也が、しかしその生涯のほぼ全てを使った修練の塊。
生まれ持った才能……そもそもこの技術は才能だけではどうにもならない……ではなく、あくまで鍛錬で手に入れたもの。
攻撃の全てを無意識で放てるまでに、それを同時に放てるまで、幾千、幾万と技を放ち続け、身体に、脳に覚えさせた。
意識しなくとも動けるように。意識しなくとも複数の行動を一度に行い、さらに思考できるように。
二刀流であり、その両手を複雑に、さらに別々に動かし続けたからでもあるだろう。本来二刀流の者でも、両手の剣を同時に、そして別々に動かすのは難しい所の話ではないのだ。
彼らの流派は複数の鋼糸を同時に操るというから、それも関係しているのだろう。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.518 )
日時: 2010/09/24 05:09
名前: テン


それらが可能になるまでの過程……それはどれだけ気が遠くなるほど修練だったのか。万を越える時を生きるリコにも想像がつかない。

(努力……だけ)

才能があるかないかなど関係ない。
身体が覚えたあとでも、決して怠らずに続けられただろうそれこそが、今の恭也を支えている。そこに才能など関係ない。あったとしても、なかったとしても、恭也はそれ続けただろう。
それはどれだけ怖ろしいことか。それが試合であれ、殺し合いであれ、闘いが絡むものは、努力が天才の才能を凌駕することなどいくらでもある。
すでに恭也はそれを持っていた。

(マスター……恭也さん、私はあなたと供にあることができて幸せです)

恭也が強くなるためにどれだけの修練を積んだのかは想像できない。
むしろ常人が想像ができない……人ではないリコでさえ想像できない、やはり今の行動と同じく狂気の沙汰に近いものでもあっただろう。
だが、そこには絶対に強い想いがあったはずだ。他の誰よりも大きく、強い想いが。
それはきっとリコが持つ赤の理の準ずるもの。誰よりも強い想い。
彼の最も特筆するべきことは、先の二つなどではない。その技能でも、技巧でも、肉体でもない。
その心。
鋼の如き心だ。
その刃のような精神だ。
痛みを知らないわけではない。だがら耐えられる。
恐れを知らないわけではない。だがら恐れない。
挫折を知らないわけではない。だから立ち上がれる。
敗北を知らないわけではない。だから負けない。
死を知らないわけではない。だから死を越えられる。
人として、それらを知り、彼の心は鋼となった。
それらを修練と同じく、何度と経験し、それに対抗する心を作り上げた。
鋼の心を鎧う、さらなる鋼の肉体を手に入れた。
故に、彼は強いのだ。
救世主候補すら越える力を持っているのだ。
そう恭也は……

(あなたは……どこまでも人間です)

体験したことを克服できる強い人間だ。
だからこそ、彼を主にできたことは、リコにとってこの上ない幸福だった。
そして、リコはその主に相応しい従者……いや、恭也に言われたとおり、パートナーであるために、その力を強めていった。



◇◇◇



立ち上がってきた鎧。
恭也とて、効いているわけがないというわかっていた。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.519 )
日時: 2010/09/24 05:09
名前: テン


見た目派手に後ろへと倒れた鎧だが、そもそも中身がない相手に対し、雷徹はそれほどの効果をみせない。
ただし今回は、今まで放った徹と同じように、内部へ向ける衝撃を全て表面に持っていった。徹の真骨頂は、確かに内部への攻撃だが、その衝撃を内部ではなく、表面…むしろ皮を通し、すぐ後ろの肉に浸透させるというべきかもしれない……に持っていけば、かなりの破壊力を出すのだ。
人間相手なら、それこそ肋を全て粉砕し、肺を潰す衝撃――内部に通したなら肋を含め、背骨も粉砕し、内蔵のほぼ全てを潰すだろうが――。
しかし、やはり鎧には対しては、あまり効いていない。精々今までより深い陥没ができた程度。
だが、そこまで高望みはしない。恭也は役割のあくまで時間稼ぎだ。

「ふっ!」

一度息を吐いたあと、無呼吸で繰り返す斬撃の波。
上下左右、斜め、突き。まるでその様は檻に囲うようであり、あらゆる場所から流れ落ちる滝のようでもあった。

「恭也さん!」

リコの叫びが背後から聞こえた。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.520 )
日時: 2010/09/24 05:10
名前: テン


囮の終わりだ。
リコが何をする気かわかったのか、意思はないはずの……それとも鎧を纏う怨念が……鎧は焦ったのか、再び拳を振り上げる。
それに恭也は嘲笑を浮かべた。

「学習能力はないようだな……!」

鎧の拳が、恭也の正中線をめがけ、振り下ろされる。
が、恭也はやはりをそれを見切り、半歩横へと移動。
恭也左脇腹の横を、僅か数ミリのところを拳が通り抜け、

「疾っ……!」

キンと甲高い音が聞こえ、次の瞬間鎧の右肘より下が、高い音を上げながら……落ちた。
それは関節部分でもなく、稼働する部分でもない。つまり恭也が斬り落としたのだ。
そのまま恭也は一気に後退。
リコの隣りまで一息で移動する。

「神我封滅」

紅月が纏うは黒き炎。
霊力ではありえない色。

「神咲無尽流……真威……」

剣士としては、恐らく鎧に敗北した。
だが、高町恭也としての負けはない。
こうして隣りに共に戦い、そして護るべき者が隣りに存在する今、高町恭也に敗北はないのだ。

「洸桜刃っ!」

振り下ろされた紅月より駆ける黒き光。
鎧に衝突……する瞬間、鎧はその身体をバラバラにした。
軽く繋がっていた関節部などが、音を響かせ外れ、胴体も部分ごとに分解され、だがどれも宙に浮いたまま。
そして、丁度バラバラになることできた空間に、恭也の黒き光は抜けていき、鎧に当たることはなかった。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.521 )
日時: 2010/09/24 05:11
名前: テン


しかし、恭也は僅かに笑みを浮かべる。それは嘲笑とも取れる皮肉げな笑み。

「もう詰んでいる……!」

そう、もう鎧は詰んでいるのだ。
ここは洞窟内。どこにも空に、天に繋がる場所はない。
だが、それは時空と空間を無視して現れる。

「テトラ……グラビトンッ……!」

ゴツゴツとした岩の塊。
それは隕石。
全長約六メートルほどの巨大なそれは、天体より召喚され、天井すれすれに現れ、宇宙を飛び回っていたであろう速度をある程度減速させながらも、しかし超高速で墜ちる。
鎧はすぐさま身体を人の形に戻したが、先ほど恭也が言ったように、鎧はもう詰んでいるのだ。恭也を引き剥がせず、リコの呪文の詠唱を止められなかった時点で、二人の勝利は決まっていた。
鎧は諦観の境地に……などとということはなく、足掻く。
それは生存本能なのか、その鎧の詰め込まれた怨念が生きることを望んでいるのか。
恭也に斬り取られた右腕は戻らず、残った左手を鎧は空に掲げた。
隕石を左手で受け止める鎧。
だか拮抗したのは一瞬。
左腕は拉げ、続いて頭が潰れ、ベキベキと音をたてて、全身が押し潰されていく。
まるで今まで何年も使っていた電化製品をプレスされる様を見るような、もの悲しささえ浮かべられそうに、だが無慈悲に、鎧は原型から遠ざかっていった。
それを見ながら、

「対の太刀……」

振り下ろした紅月に、再び恭也は霊力を込め、

「嵐っ……!」

振り上げる。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.522 )
日時: 2010/09/24 05:12
名前: テン


再び溢れ出る霊力の塊。
それは鎧を押し潰し、地面へと触れる直前の隕石に直撃し、その大きな岩の塊を吹き飛ばす。
そして、隕石と鎧の破片が粉塵とともに宙を舞った。
それを暫く眺めてあと、二人は同時に息を吐く。

「さすがにもう動かないだろうな」
「大丈夫です。普通の鎧ならともかく、救世主の鎧を破壊された以上、怨念でもそれを復元することはできません。一応、あれが救世主の兵器であることは真実ですし、あくまで依代は鎧ですから」
「……そうか」
「ええ。それに恭也さんの霊力が、漂っていた怨念を消滅させてしまったようですし」
「まあ、元々そういうのを相手取るための力だからな」

答えて、恭也は小太刀を『いったん』鞘に戻した。
魔法的な補強でもされているのか、一番恐れていた落盤もない。もしそうなっていたら、リコの逆召喚ですぐさま逃げるしかなかった。
いや、もしかしたらその方が良かったのかもしれない。
それからもう一度一息吐くと、恭也はリコの方に顔を向け、小声で話しかける。

「リコ、もう一戦可能か?」
「もう一戦……ですか?」

リコも恭也が小声を話しかけるのは、意味があるのだろうと、同じく小声で返すものの、彼の言う意味がわからず、首を傾げた。

「最低二人……最悪だと三人か」

心底疲れた声で言う恭也。

「っ……!」

それで恭也が何を言いたいのか、リコも理解した。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.523 )
日時: 2010/09/24 05:12
名前: テン


リコにはわからないが、誰かが隠れているのだろう。それともつけられたか。
恭也の能力を、真の意味で、一番理解しているという自負がリコにはあった。だからこそ、恭也がそういうのならば、間違いなく敵はいるのだ。
そのためにリコは、静かにだがこちらを見ているかもしれない人物に気付かれないよう、小さく頷く。
それから恭也は、リコから視線を離し、この広間の入口に鋭い視線を向けた。

「出てこい。つけてきていたのはわかっている」

低い声だが、異様なほと響く声が恭也は言うが、その視線の先に変化はない。
すると恭也は、紅月に再び霊力を纏わせた。

「出てこないのならばそれでいい。そのまま死ぬことになるだけだ」

恭也は間違いなく、そして躊躇なく言葉通りに、隠れている人物を殺すだろう。それはやはりリコはわかる。
この世界で恭也は、人間はただの一人も殺してはいないが、必要ならば躊躇しない。

「ま、待ちなさい!」

その声とともに、入口の影から現れたのは、

「ダウニー……先生……?」

リコは目を瞬かせて、現れた人物の名を呟く。
するとダウニーは両手を広げながら微笑を浮かべ、口を開けた。

「すみませんね。あなたたちだけでは心配になり、ついてきていたのですよ。元々、この任務は反対でしたからね」

つまりそういうこと。

メンテ

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