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黒衣(仮投稿)
日時: 2008/05/15 06:31
名前: テン

浩さんに許可を頂きましたので、暫くの間黒衣を仮投稿という形でこちらに投稿させて頂きたいと思います。

あくまで仮であり、落ち着いたらいつかは今までどうりに投稿したいとは思っていますので。
これも携帯からの投稿なので、少々見づらいかもしれませんがよろしくお願いします。
一章を分割して送っていきます。


目次

>>1-27 恭也編 四十二章

>>54-91 恭也編 四十三章

>>122-156 恭也編 四十四章

>>197-227 恭也編 四十五章

>>228-255 恭也編 四十六章

>>256-268 恭也編 四十七章

>>269-288 恭也編 四十八章

>>289-317 恭也編 四十九章

>>318-330 恭也編 五十章

>>331-340 恭也編 五十一章

>>351-367 恭也編 五十二章

>>368-382 恭也編 五十三章

>>383-394 恭也編 五十四章

>>414-433 恭也編 五十五章

>>434-457 恭也編 五十六章

>>458 恭也編 五十七章

>>459-480 恭也編 五十八章

>>481-503 恭也編 五十九章

>>504-532 恭也編 六十章
>>565-587 恭也編 六十一章

>>28-53 大河編 三十章

>>92-121 大河編 三十一章

>>157-196 大河編 三十二章

>>395-413 大河編 三十三章

>>341-350 外伝
メンテ

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.524 )
日時: 2010/09/24 05:13
名前: テン


確かにダウニーは、救世主の鎧の破壊という任務に反対していた。
危険すぎるし、何より救世主候補たちの戦力を分散させるべきではないと。
だからこそ、彼は自分たちを助けるためについてきたのだろうと、リコは納得した。

「よく言う」

そう呟いたのは恭也だったが、小さな声で、隣りにいるリコにしか聞こえていないだろう。
恭也は警戒を一切解いていない。
それにやはりリコは目を瞬かせた。

「……もう一度言う。出てこい。死にたいのか」

そして、またもそう言う。
ダウニーは、その言葉を聞き、僅かに目を見開いた。

「やっぱり気付かれてたか」

そんな軽い言葉と共に再び人の影が浮かぶ。
黒い長髪。恭也が着ているのと似通うロングコートを纏う女性。
それはリコには見覚えがなく、恭也にとっては因縁の相手とともなった敵。
まるでその女性の登場に『驚いたかのように』、ダウニーは慌てて恭也たちに駆け寄り、彼女に敵意を向けつつ言う。

「破滅の、将ですか」
「やれやれ、今更止めとけよ」

女性……不破夏織の言葉意味不明だった。
少なくともリコとダウニーには……
そして……この広間を照らすリコの魔法の光を反射しながら、恭也が抜刀した黒銀が舞う。
その黒銀は、真っ直ぐに、迷いなく……傍に寄ってきたダウニーの首へと向かっていった。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.525 )
日時: 2010/09/24 05:13
名前: テン


リコもダウニーもそれに気付き、驚愕の表情を浮かべるが、それ以上の反応は起こせない。

「…………」
「迷い、なしか。まったく怖いね」

だからこそ、こうしてダウニーの首に吸い込まれるはずだった刃を、火花を散らして止めたのは二人ではなかった。
残った不破夏織。
彼女がいつのまにか、恭也とダウニーの間に自らの剣を滑り込ませたのだ。
恭也は、すぐさま隣りにいたリコを片腕で抱え、そのまま横を跳んだ。同時に、夏織がもう一刀を抜き、横薙ぎで先ほどまで二人がいた場所を斬った。

「きょ、恭也さん?」

ダウニーに斬りかかった驚きが、まだ残っているのか、恭也の腕から下ろされたリコの声は震えていた。無論、彼女は一切恭也を疑っていない。
恭也が攻撃を仕掛けた以上、ダウニーには何かがあるのだ。

「た、高町君、一体なにを!?」

生徒であるはずの恭也に攻撃をしかけられたダウニーは、怒気を滲ませて叫ぶ。
だが、それに呆れた表情を夏織は浮かべ、また恭也も鼻を鳴らす。

「……破滅の手先を殺すのに何を躊躇えというんだ?」
「なっ!?」
「気付いていないとでも思ったか、破滅のスパイ」

やはりリコとダウニーから、二重の驚きが浮かぶ。前者はどうして気付いたと、後者はまさか学園にそんなのがいたのかと。

「間諜としては三流だ、お前は。そして、破滅は間諜の扱いが三流だ」
「馬鹿な! 気付いてなどいなかったはず!」
「そうやって簡単に認めてしまうところが三流だというんだ」
「っ!」

ダウニーは勝手に、自分が間諜であると認めたのだ。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.526 )
日時: 2010/09/24 05:14
名前: テン

それにダウニーは怒りで顔を歪める。

「一体、いつから……!」
「この世界に来て数日ぐらいで気付いていた」
「そ、そんなわけが……!」
「そのぐらいから気付いていたさ、間諜であることはな。『破滅の』間諜として怪しいと思ったのは、ゼロの遺跡の任務のあとから、確信したのは俺が一般科の生徒たちの救出に行った頃からだ」

本当に、本当に最初から恭也は気付いていたのだ。

「言っただろう、お前は三流だ」
「ぐっ……!」
「普通、間諜というのは目立たないことが大前提だ。お前の言動と行動は目立ちすぎだ」
「目立つことなど!」
「目立っていたさ。潜入先が潜入先であるにも関わらず、自分の技術を隠しすぎだ。ある一定の眼があるものからは、お前が一流の戦闘者だというのはわかる」

戦闘者が、間諜が自分が持つ技術を隠すのは当然のこととも言える。
それは目立つことを嫌うからだ。
だが、ダウニーの場合はそれに当てはまらない。

「お前が潜入したのは学園だ。多く学科があるが、お前が受け持つのは、全て戦闘に関わる学科。しかし、お前は座学しか教えていない。
目立ちたくない、と思っていたのだろうが、あの学園では逆に目立ちすぎだ。それだけの技術がありながら、実技を受け持たない方がおかしい」

どこで流れたのか、ダウニーは剣技の達人と呼ばれている。
そんな噂が流れる時点で、彼の実力は推し量れるし、恭也自身の調べで、彼は自分から座学の方に回してほしいと学園長に掛け合っている。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.527 )
日時: 2010/09/24 05:15
名前: テン

同じ間諜であるダリアは、恭也の見立てでは、暗殺術に長けているだろう。
だが、彼女の場合、その教え方はともかく、魔法の方を実際に何度も使ってみせているし、それこそリリィに大魔導士と言わせるレベルだ。
魔法については何度も救世主候補たち見せつけていたし、他の科でも彼女の魔法使いとしての実力は噂ではなく、事実として伝わっている。
学園の教師として、十分な実力である匂わせていた。
実際には、授業は適当であったが、それでも『あの学園』の教師としては、十全な能力だった。
彼女は……少なくともフローリア学園の……教師である、という先入観が出来上がる。実際に恭也が彼女が間諜である気付いたのは、ダウニーよりもかなり後になった。
つまり彼は、ある一定の者から見れば、あの学園で実技が教えられるほど。十分な実力があると一目瞭然でありながら、それをしない教師であり、ならばなぜその実力を披露し、教えないのかと、疑問に思う。
つまり、逆に目立つ。
そして、隠すからこそ、人の興味をひき、恭也は彼を常に見続けた。
隠しすぎて目立つのでは世話がない。

「私は! 私は三流などでは!」

激昂するダウニーに、夏織は片手で頭を抱えた。
夏織は恭也が、ダウニーをわざと怒らせているというのはわかっているが、邪魔することができない。下手に会話の流れが変わると、ダウニーが馬鹿な真似をしかねない。
何より、恭也が言っていることは事実だ。

「何度か救世主候補を危険な地に送るのを嫌がっていたが、それもおかしい。一見、生徒を守る教師のようにも見えるが、救世主クラスに始めての任務か来た時点で、もう他の科の生徒たちは、それこそ死地に向かっていた」

無論、将来救世主となる者がいるからこそ、とも取れる。
メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.528 )
日時: 2010/09/24 05:15
名前: テン

何より言うことはできないが、ダウニーは赤の主に死なれることを恐れていたのではないだろうか?
イムニティが破滅にいる以上、白の主は破滅に属しているだろう。その白の主がまだ存在力を有していないのであれば、まだ救世主なられては困るはずだ。
もしくは考えたくはないが、救世主クラスの中に白の主がいて……もしくはダウニーがそう考えていて……、その人物に死なれては困るからこそ、危険な任務にいかせたくなかったのか。
まあ、何にしろ教師として生徒を心配するならば、救世主クラスだけを……救世主云々はダウニーは言わず、生徒として扱っていた……心配するのはおかしいし、いくらでも突っ込み所はあった。

「そんなに心配ならば、引率としてお前がこればいい。別に教師が二人になったところで、おかしくはないだろう。お前の言葉には行動が伴わない。
今回にしても同じだ。最初から俺たちとここまで来ていればよかった。もっとも大河がこの任務に当てられていたなら来ていたかもしれながな」
「っ……!」

ダウニーは恭也を警戒している。最も危険だと思っていると言っていい。
つけてくるときも、わずかな緊張感が伝わってきたし、何より恭也は生身で、救世主候補以上の結果を出し、王都では救世主に最も近いなどと言われているのだから、警戒して当たり前なのだ。
だからこそ、今回も最後の最後で現れた。これが大河ならば最初から来ていたかもしれない。

「ああ、あと戦略や戦術を考えてるのはお前か?」
「…………」
「そいつだよ」

答えないないダウニーに代わり答えた夏織が、彼に睨まれた。
メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.529 )
日時: 2010/09/24 05:16
名前: テン


が、夏織は何処吹く風で笑っていた。

「そちらも三流だな」

やはり嘲る恭也。

「戦略、戦術が、間諜がいるという前提で行われている。モンスターにもその辺りを徹底してない。
気付いてくれと言っているようなものだぞ」
「ああ、それでか。このごろ救世主候補の情報がおりてこないと思ったよ」
「あそこまであからさまだとな。さすがにその時点では、学園に交渉をしかけるほどの信頼が築けていなかったから、そちら側は無防備になってしまったが、救世主候補の方は、早々に防諜をさせてもらった。それこそ救世主候補以外には情報が入らないようにな」

学園についても、ミュリエルと信頼関係を築けた時点で、ダウニーの危険性を漏らしておいたので、対策されているだろう。
ミュリエルは、そのぐらい簡単にこなす女傑だ。
とはいえ、間違いなく救世主候補たちの情報は六割方、学園に至っては八割は持っていかれているはずだ。
はっきり言ってしまえば、恭也はいつでもダウニーを殺せた。正面から戦わず、後ろから斬ることなどいつでもできたのだ。この男は、恭也が気付いていると、まるで気付いていなかったのだから。
正直、そうしてしまおうかと考えたことは幾度もあったのだ。
だが、結局実行に移すことはなかった。
理由は複数ある。
ダリアとミュリエルも怪しんでいたというのが一つ。この二人が破滅の間諜でないと確信できたのはそれなりに最近だ。ダウニーは恐らくそうであろうとは思っていたが、間諜が一人とは限らなかったため、ダウニーだけ殺しても意味がない。他にいたなら、余計に警戒される。
またダウニーを殺す大義名分がない。下手にダウニーに危害を加えれば、当時はミュリエルがどんな行動をしてくるかわからなかったのだ。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.530 )
日時: 2010/09/24 05:17
名前: テン

だが、今回はこうして大義名分ができた。

「だとよ、主幹」

おもしそうに笑い、夏織はダウニーに声かけたが、彼はやはり怒りの形相を浮かべ、歯ぎしりしていた。

「主幹?」

そんなダウニーに構わず、恭也は眼を細め、夏織が口にした単語を呟く。

「ああ、こいつは破滅の主幹だよ」

何を考えているのかわからないが、ダウニーが破滅のトップだと認める夏織。
それに恭也は思いきり舌打ちした。

「それは俺のミスだな。やはり殺しておくべきだったか」

この男が破滅のトップであるならば、大義名分など気にせず、殺しておくべきだったのだ。そうすれば、多少は破滅も混乱しただろう。

「はは、そこまでは気付かなかったかい」

そんなふうに聞いてくる夏織に、恭也は素直に頷く。
この男がトップなどと思えるわけがない理由があった。

「この程度の男が……こんな馬鹿な男が破滅のトップなどと思うものか」
「貴様……!」

普段敬語を崩さず、大河に言わせれば気障ったらしい端正な顔を決して歪めることがなかったダウニーが、今は見る影もない。

「馬鹿だろうよ。貴様は。どこの世界に、組織のトップが敵対組織に潜入などするやつがいるか」

実際、行動に移さなかったとはいえ、恭也はいつでもダウニーを殺せたのだ。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.531 )
日時: 2010/09/24 05:18
名前: テン


そう言ったことを計算せず、潜入してくるのはただの馬鹿だ。それとも自分の能力に絶大な自信があったのか。
破滅の性質上、ダウニーが死んだところで、破滅が瓦解するということはないだろう。だが、それでも大きなダメージを与えることはできる。
だというのに、自分自身が敵対組織に潜入。少なくとも恭也ならば、そんなトップに従いたくはない。

「ああいや、馬鹿だからこそ、俺はお前を殺すことを躊躇ったのだから、むしろそう装ったのか? ならば拍手でも送ろうか?」

皮肉けに恭也は顔を歪める。

「ぐうっ!」

そうやって挑発に簡単に乗ってしまうところが、一番の馬鹿と言ったところか。

「まあ、ここで殺せばいいだけの話だ」

恭也はそのダウニーの凶相を鼻で鼻で笑う。

「恭也さん……」

先ほどから、恭也らしくない言動と、その表情にリコは多少驚いていたが、それが演技であることに彼女は気付いていた。
そして、恭也の言動は的を射ている。
なるほど、今回の救世主戦争にダウニーが破滅の主幹だというなら、恭也の言葉は最もた。
馬鹿。その一言につきる。
恭也はここでダウニー殺すことを最初から視野に入れていたのだろう。
そうであるとも知らず、予想もこんなところにノコノコと現れたのは、恭也を警戒していながら、侮っていたツケだ。
無論、ダウニーはこの期に恭也を殺すつもりだったのだろうが、むしろそれはこちらとしても、ダウニーを殺す大義名分ができたというだけだ。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.532 )
日時: 2010/09/24 05:18
名前: テン

恭也は、相手は最悪三人と言った。
あと一人は簡単だろう。

「イムニティ……」

リコがそう呟くとダウニーたちの背後に召喚陣が出現し、光と共にイムニティが現れた。

「久しぶり……というほど時間はやっぱり経ってないわね、リコ・リス」

それにリコは驚きはしない。
イムニティは、この場所を知らなくとも、ダウニーか夏織を目印として逆召喚すればいいだけの話だ。
恭也はこれも予測していたのだろう。
ダウニーが、鎧との戦闘で疲弊した恭也を殺しに来た。そして、その成功率を上げるために、イムニティもこちらに回してきたのだろう。
この状況で、つけてくる二人以外に、ここへと現れることができるのイムニティしかいない。だからこそ、最悪、と告げたのだ。

「…………」

恭也が少し笑った。
それは先ほどまでの嘲笑ではなく僅かな安堵。
その意味がリコにはやはりわかった。
ここに破滅の将が三人。
それは、それだけ自分に危機が迫って……リコは恐らくまだ殺されない……いるが、その分確かに、他の仲間たちは楽になっているということだからだ。
状況の有利が自分に傾いたと思っているのか、ダウニーは笑みを浮かべた。

「ならばあなたは三流だという私に殺されるそれ以下の存在ですよ」
「……馬鹿が、煩く囀るな。貴様は醜く顔を歪めている方が似合っているぞ、三流」

恭也は腰を落として構える。
その姿には、三対二という状況も、疲弊している状況も、貴様達相手では何の不利にもなりえないとでも言うような力強さがあった。
リコも同じように、一切の迷いも、不安も浮かべず、呪文を紡ぐ。
やはりその姿は、恭也を援護し、そして勝利するという力強さがあった。
破滅の主幹、破滅の将たちと赤の主、赤の精の戦いが今始まる。




メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.533 )
日時: 2010/10/18 23:11
名前: テン



今回の話は山なし谷なしの単調なものです。



外伝 神速



「なあ恭也、結局神速ってどういう技術なんだ?」

いつも通りに学園の中にある森で、いつも通りの戦闘訓練が終わって、大河は突然そんなことを恭也に聞いた。
その質問に、恭也は眉を寄せる。
大河は神速を数度見たことがあった。とはいえ、恭也に『使わせた』わけではなく、恭也が自分の訓練のために何度か使っただけだ。
まあ、だからこそ大河は神速が気になるのだろうが。

「ちなみに言っておくが、お前に神速は使えないぞ」
「え、マジ? くっは、いつかは俺も使えるようになってやるっと思ってたのに!」

確かに大河の才能は大したものだ。天才と言っていい。
この少年の才能は、美由希やレンとは違うタイプではあるが、その二人に迫る。
しかしながら、決して大河は神速を使えないだろう。それは同じく天才であるレンも同じだ。
さて、どこまで話していいものか。
はっきり言ってしまえば、恭也はそれが知り合いであろうと、自分の手の内を晒すのを嫌う。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.534 )
日時: 2010/10/18 23:12
名前: テン


今でこそ膝が治り、神速が切り札ではなく、あくまで持ち手の一つに代わったが、それでも恭也の中では、切り札……ジョーカーに近いのは変わらない。
とはいえ、

「そう、だな。説明しよう」

恭也は話すことを決めた。

「マジ?」

これには大河の方が少し驚いているようだった。彼も恭也が自分の技能、技術に関しては、用心が過ぎるほどに隠しているというのを理解していたのだ。

「まあ、保険だ」
「保険?」
「気にするな」

言ってしまえば保険。
それはなのはに対しての保険だ。
なのはは、擬似的とはいえ、神速を使えるようになってしまった。その危険性を告げたが、彼女はまた使ってしまうかもしれない。
それならば、恭也以外に神速の知識がある者がいれば、多少はその後対処ができるだろう。その役目を恭也は大河に任せようと思った。

「で、俺が使えない理由は?」
「それは順を追って話す。いきなり言っても、お前は理解できない」

大河の質問をうち切り、恭也は神速の説明を始めた。

「原理だけ言えば、あれは使用者が集中力を掻き集めることで使用が可能になる」
「集中力?」
「ああ。例えば、そうだな。大河、お前は免許は持ってるか?」
「車はない。二輪の免許ならバイト代掻き集めて取ったけど。まあ、未だ車体が手に入らないけどな。たまにダチに借りてる」

大河と未亜は、元の世界での立場が色々と複雑らしい。
そのため、それなりに苦労している。特に金銭面では。だからこそ、免許は取ってもバイクを買うことはできないのだろう。ならばなぜ取った、とも思うが。
まあ、それは今は関係ない。

「ならば理解するのは簡単だ。お前は今、歩道を歩いている。その目の前から、車が走ってきた。その車は飛ばしていて、時速90qほど出している」
「車、ね」
「その車が50メートルぐらいに接近してきたとき、お前はその運転手の顔を見てやろうと思った。さて、お前の横をその車が通り過ぎた。お前その運転手の顔を見ることができたか?」
「は? いや、どうだろう。90じゃ無理なんじゃないか? 何となく男か女かわかるぐらいか。それともそれすらわからないか」

大河の答えに、恭也はだろうなと告げて頷いた。
下手すると人影ぐらいにしか認識できないかもしれない。

「では今度は、大河、お前はバイクに乗っている」
「あ、ああ」
「そして対向車が現れた」
「……残りは同じ条件?」
「ああ。お前が乗るバイクの速度はお前に任せる」
「たぶん見える。男か女かぐらいはわかるだろ。もしかしたら眼鏡をかけてるか、かけてないかぐらいはわかりそうだ」

すぐに大河は答えた。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.535 )
日時: 2010/10/18 23:13
名前: テン


やはりそれに恭也は頷く。

「相対速度の関係もあるだろう。だが、それをなしにしても、歩いているときよりも、認識率は上がる」
「何となく言いたいことはわかるんけど、こうなんか手が届かない感じだ」

まあ、確かにこれだけの説明ではわかりづらいだろう。
恭也は苦笑して続けた。

「一言に集中力と言っても、状況によってそれには様々あるんだ。
例えば、さっきの歩きとバイクでは、まるで集中の仕方が違う。歩きだとどうしても意識は散漫となり、集中力が集めづらい。だが、バイクを運転している場合は、その運転、対向車、後続車、歩行者……等々に注意を払わなくてはならず、その集中度合いはまるで違う。バイクを運転しているときの方が、歩いている時よりも深く集中する」
「確かに」
「集中力というのは総じてその深度によって体感時間が異なる。それこそ、早く感じることもあれば、遅く感じることもある」
「ああ、すんげー集中していたとき、こんなに時間が経ってのかとか、逆にこれしか経ってないのかとか思うもんな。特に女抱いてると時間が経つの早く感じるし。まあ、バリエーションは多いけど、やることは単調には違いないもんな。そりゃ早く感じる」

なぜかいきなり性行為の話になり、恭也は呆れた表情を浮かべた。

「なぜ話がそっちにいく」
「いや、実際早いぞ。ちなみに俺の耐久時間じゃないからな」
「まあ、否定はせんが」
「だろう……ん?」

一度大河はうんうんと頷くも、すぐに首を傾げ、それから驚いた表情を浮かべる。

「お前、経験あったのか!?」
「話をずらしたいのか、お前は」
「いや、でも気になるだろ!? お前ヤッたら責任とるとかいいそうだし! まさか彼女いるのか!?」
「いない。付き合ったこともない。ただ……まあ、経験はある」

つまり付き合っていない女性とか、と大河は首を傾げた。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.536 )
日時: 2010/10/18 23:14
名前: テン


人のことを言えたことではないが、大河はそのような割り切った関係を恭也が女性と結ぶように見えなかったのだ。
そんな大河に、珍しく恭也はガリガリと頭を掻いた。

「聞いても面白みがある話ではないさ」
「いやいやいや、この世界じゃ猥談できるのがセルぐらいだったから、無茶苦茶聞きてぇ!」

顔を突き出して言う大河に、恭也は一つ息を吐いた。

「……一つはまあ、訓練のようなものだ」
「訓練?」
「ああ。俺の家は、御神家の中でも、その宗家に最も近い分家と言われててな。とくに暗殺、殲滅から、それこそ汚いことまでやる」
「……なんつーか、この世界に来たせいで、そんなに驚けないわ」
「そうか。まあ、その汚いことには、女性の拷問方法から、抱き落としまであってな。その技まであるんだ。それどころか、男の尊厳を汚すための男色行為のの技まである」
「うげ」
「幸いというべきか、男が男を攻めるための色技は、もうほぼ教えていなかったようだが、男の女相手のものは、まだあった。まだ精通が来る前に、そんな訓練を俺もさせられていてな」

大河は、思わず息を大きく吐く。
しかし恭也は、さらに続けた。

「あとは、お前もわかると思うが、殺し合いをしたあとは、どうしても気がたかぶるというか、性欲がたかまるだろう?」
「すんげーわかる。血、見るととくに」
「女性も同じようなものだ。だから人間の本能のようなものだな。自分に死が近いかもしれないと感じ、子孫を残すべきだと獣時代の本能が告げてくる。血や死が当たり前な裏社会などでは、刹那的な男女が抱き合うことなどよくあるんだ。戦争中の軍人などもよくあるか」
「お前も?」
「まあ、何度かな」

お互い合意の上で、その日限りの関係。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.537 )
日時: 2010/10/18 23:15
名前: テン

そんなものを恭也も何度も経験していた。
下手をすれば心が壊れかねない状況で、男女の交わりはその心を落ち着かせる効果がある。
恭也は自分だけならどうとでもできる精神状況などいくらでもあった。しかし、女性のために抱いた、ということも多々あったのだ。
もし、もしこの世界の仲間の誰かの心が壊れそうになり……と似た状況になれば、強引に口説き落としてでも、恭也は抱くだろう。それがリリィでも、未亜でも、知佳でも……それこそなのはでも、だ。

「聞いても面白くない話だろう?」
「悪ぃ」

今更ながら、大河はあまり聞いてはいけない部分を聞いたのだろうと理解した。
考えてみれば当然なのだ。大河と違い、恭也はこの世界の来る前から戦いの場に身を置いていたのだから、話したくないこともあるだろう

「構わない」

自分から話したことなのだから、恭也はあまり気にしない。
メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.538 )
日時: 2010/10/18 23:15
名前: テン


むしろ、戦いへの大河の心構えのため話したのだ。
しかし、思い切り脱線してしまった。

「話を戻すが、先ほど言ったように、一口に集中力といっても、その理由、その深度によって違い、まるで時間が引き延ばされたように、もしくは縮められたように感じる。
先の話で言えば、歩行時が縮められたかのように感じるか、変わらないか。バイクの場合だと引き延ばされたように感じるようになる」

この差は捌くべき情報量の差だ。
歩行者は歩くだけで、そこに一つの行動が足されたところで、それほどの処理量を必要としない。
しかし、バイクの場合は違う。一つの処理が追加されたでけで、その効率は酷く落ちる。だからこそ、それと同時に集中力を追加し、それを処理するために、時間間隔が伸びたように感じる。

「神速というのは、どんな状態であろうと、それこそバイクの運転に必要とする数十倍の集中力を掻き集めることでトリガーとする」
「あー、なんか難しそうに感じないぞ」
「それがそうでもない」

確かにこの説明だけでは難しそうには感じない。
しかし、そうではない。その難解さは、神速を使えない人間には想像を絶するはずだ。

「野球なんかのスポーツ選手は、100q以上の球が一時的にそれ以下の速度に見える、なんて話を聞いたことはないか?」
「ある。ってああ、それがさっきのバイクか」
「ああ。集中力によっての感覚速度の高速化により、時間感覚が引き延ばされ、見えるものの動きが遅延する。
しかし、だ。もしそれができる選手に、速度100qを越える車が自分に突っ込んできたとしても、それを遅延させて避けることなどできない」
「そっか、あくまで野球選手は、ボールを打つために集中してんだもんな。集中の仕方が違う」

球を打つための集中の仕方は知っていても、他のことにそれをなかなか転用できないのだ。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.539 )
日時: 2010/10/18 23:17
名前: テン


そもそも球を打つときとて、自分で選んで感覚速度を上げているわけではない。そんなことができるなら、ヒットの打ち放題だ。

「だが神速は、歩いていようと、走っていようと、寝転がっていようと、他の何かをしていようと、集中力を集めなられなければならないんだ」

そもそもある一定の状況でしか使えないならば、そんなものに意味はない。

「んなことできんのか?」

その言葉だけで、神速というものが、どれだけ難しいものかわかってきたのか、大河は呻いた。
その瞬間、ふっと恭也の姿が消える。

「こんな感じにな」

次に恭也が聞こえた場所は、大河の背後。
大河が急いで振り返ると、すでに恭也はおらず、また視線を戻すと元の場所に恭也は立っていた。

「……少し前なら実演のためとはいえ、こうも連続はできなかったのだが」

多少息切れし、苦笑しながら言う恭也。
膝が壊れていたとき、実演などできなかっただろう。

「ただ立っている状態で、しかも説明していた途中で集中、か……」
「ああ。本来人間には難しいことだ。人間というのは、集中するのにどうしても動機が必要なんだ」

人はただ立っているだけでは集中しずらい。本来何かをするために集中するものなのだから、これは当然だろう。

「御神琉の人間は、大抵集中するためのトリガーを持っている。オン、オフでもいい。もっとも掻き集める集中力は自前で用意しなくてはならんがな」
「……トリガーって、そんなもん、どうやって」
「知らん」
「は?」
「本当に知らないんだ。御神流の鍛錬を行っていると自然にできる」
「マジかい」

そもそも御神流の鍛錬……そしてその結果は常軌を逸している。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.540 )
日時: 2010/10/18 23:17
名前: テン


人間に数時間も連続して戦闘ができる無尽蔵な体力を与え、精密な挙動を体得させ、人の動きを完全に見切る眼を与え……。

「まあ、推察はできる。御神の鍛錬肉体だけでなく、結果的に神経や脳まで鍛えるようなものが存在する。その結果できあがるものなんだろうさ」
「それはそれで……」

つまる所、御神流とは化け物を作る方法なのだ。
無論、誰でもかんでもその化け物に至ることはできない。

「最初に戻るが、神速というのは才能だ。神速を使うためのトリガーを持つという才能かがなければ、決して辿り着けない。御神には、宗家や他分家を合わせ、二百人以上いたが、その中で神速に辿り着いたのは、せいぜい二割から三割だ」
「お前の一族にも疑問はあるけど、多くて五十人か……って五十人もいたんかい!?」
「まあな。とはいえ、その全部が皆伝だったわけではないがな。御神流の才能はあっても神速の才能がない者、神速の才能があっても御神流の才能がない者などもいたらしい」

なのはは後者。神速の才能があっても御神流の才能がない。
その二割、三割以外の者たちの中にも、神速を使える者はいたが、自分の意思で使えない。つまりトリガーを持っていなかった。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.541 )
日時: 2010/10/18 23:18
名前: テン


先ほど言ったように、一定の状況でしか使えない技など意味がない。

「真の意味で御神流だと言えるのは、全体の一割を切った」
「だから俺には、その才能がない?」
「ああ。あれは恐らく、半ば遺伝するものなんだろう。もしくは進化と言ってもいい」

単純に、御神の剣士は神速が必要だったのだ。
それは戦いのためではなく、鍛錬の結果。
常軌を逸した鍛錬を繰り返し、その者たちが交配することで、それに対応した身体や神経を持つ者が生まれてきた。
元々御神は古い家であるからこそ、どうしても婚姻相手が近しい者たちになった結果もあるだろう。
そして、その結果生まれたのが、

「神速なのだろう。
俺たちは神速を体得するために必要な脳の構造を、神経を、感覚を、生まれながらに持っている」
「おいおい」

大河は目を見開いていた。
それはつまり、恭也たちの一族が、ただただ戦うために進化した証だ。
そのためにはどれだけの時間が必要だったのか。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.542 )
日時: 2010/10/18 23:19
名前: テン


だから大河には恐らく使えない。使えるようになるとすれば、大河が御神の鍛錬を行い、それを自分の子供に教え、さらに数代を重ねてからになるだろう。

「集中力を掻き集めることで、感覚速度を上げ、体感時間速度を遅延させ、思考速度を数倍に上げるのが神速だ。その結果、見えている物が全てスローモーションになっているかのように感じる」
「聞いてると、あれか、ゾーンとかいうやつを自分の意思で使うって……ことか?」
「よくそんな単語を知ってるな」
「スポーツ漫画で見た」

ゾーン。
スポーツ選手などが集中することによって、時間感覚が引き延ばされるされるというもの。
先ほど例えで言った、野球選手が球がゆっくり飛んでくるように見えるのと似たような現象だ。

「まるで違う……とまでは言わないが、似て非なるものだ」
「あれ、そうなのか?」
「あれは、先ほど言ったように一つの結果にしか作用しない」
「あ」
「野球選手は球を打つことにしか使えない。テニスもそう。剣道も、格闘技も、他のスポーツでも、それに勝つため、という結果、もしくは状況でしか使えない。それがゾーンというものだ」

つまり応用性がまるで違う。

「何より、ゾーンでは時間が短いし、思うようには発動できない」
「どういうことだ?」
「ゾーンというのは、せいぜいコンマ以下の時間しか維持できないんだ」
「漫画でも一瞬だったかな」
「現実ではそれ以下だろう。そして……自分の意思で使うことなどできない。そして先ほどのに戻るが、自分の意思で発動できないからこそ、維持時間も短くなる」
「あ……」

結果的に、そんな状態になったという話はよく聞く話だろうが、それを意識して出せる人間などまずいない。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.543 )
日時: 2010/10/18 23:20
名前: テン


しかし、神速は自分の意思で発動できることに一番の意味がある。

「何より、ゾーンを自分の意思で使えるようななれば、その人間は遅かれ早かれ脳が焼き切れて死ぬだろうさ」
「なんだそれ? 特攻技になるのか?」
「ゾーンでは、肉体のリミッターが解けない。まあ、神速でもこれは福次効果だがな。だがこれが脳を守る」
「肉体のリミッター?」
「お前たちとて、俺が神速を使うと動きが速すぎると思っているだろう?」
「それはまあ。召喚器持ったカエデど互角か、それ以上だからな」

召喚器を持った人間……それも速度で言えば最高と言えるカエデと同じ速度を生身で出す。
それがどれだけ非常識かは、大河も自身が召喚器を持つからこそわかる。

「速度だけ、というわけではない」

恭也は腰を曲げ、丁度足下に転がっていた拳大の石……大河が力任せに破壊した岩の破片……を拾い上げた。
そしてそれを右手で握りしめ……

「……!」

目を見開いた瞬間、恭也の手の中にあった石が砕け散った。

「お、おいおい」

それにやはり大河は驚きの声を上げる。
元の岩を破壊した大河だからこそわかるが、あれは人間の握力では簡単に破壊できるものではない。
大河とて……元が岩なのだから当然ではあるが……握りしめたのではなく、ナックルで殴りつけ、その衝撃で破壊した。いわば救世主候補の力で、ハンマーを持って殴ったようなものだ。

メンテ

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