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黒衣(仮投稿)
日時: 2008/05/15 06:31
名前: テン

浩さんに許可を頂きましたので、暫くの間黒衣を仮投稿という形でこちらに投稿させて頂きたいと思います。

あくまで仮であり、落ち着いたらいつかは今までどうりに投稿したいとは思っていますので。
これも携帯からの投稿なので、少々見づらいかもしれませんがよろしくお願いします。
一章を分割して送っていきます。


目次

>>1-27 恭也編 四十二章

>>54-91 恭也編 四十三章

>>122-156 恭也編 四十四章

>>197-227 恭也編 四十五章

>>228-255 恭也編 四十六章

>>256-268 恭也編 四十七章

>>269-288 恭也編 四十八章

>>289-317 恭也編 四十九章

>>318-330 恭也編 五十章

>>331-340 恭也編 五十一章

>>351-367 恭也編 五十二章

>>368-382 恭也編 五十三章

>>383-394 恭也編 五十四章

>>414-433 恭也編 五十五章

>>434-457 恭也編 五十六章

>>458 恭也編 五十七章

>>459-480 恭也編 五十八章

>>481-503 恭也編 五十九章

>>504-532 恭也編 六十章
>>565-587 恭也編 六十一章

>>28-53 大河編 三十章

>>92-121 大河編 三十一章

>>157-196 大河編 三十二章

>>395-413 大河編 三十三章

>>341-350 外伝
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.144 )
日時: 2008/03/27 08:06
名前: テン


恭也はそれを止めることはできない。止めてしまえば、それこそリリィに自分が内通者ですとでも言うようなもの。少なくとも自分を信じてくれる仲間であるリリィにそれを言うわけはいかない。
とはいえ、ミュリエルは完全に恭也たちを信頼したわけでもないから言われれば困るというのは当然のこと。
リリィは恭也の言葉を聞いて、真剣な表情をとって彼の目を見つめた。

「これから聞くことは、別に私が疑ってるとかじゃないから」
「ん?」
「私はその……あなたを信じてるし」

そんな前置きをして再び頬を赤くさせるが、それでも真剣な表情は崩さずにリリィは続ける。

「あなたは私たちの敵じゃないわよね?」

それは色々なものが込められた言葉。
ここで敵だと言っても、彼女はそれを信じないだろう。
それは仲間としての信頼。
その信頼に応えるために恭也は深々と頷いた。

「ああ。俺は少なくともお前たちを裏切る気はない」
「そう、それが聞ければ十分。お義母様にも黙っておく」

尊敬する母親に黙っているというのはリリィにとって辛いことであるが、それでも彼女は恭也を信じているのだ。その彼が疑われてほしくない。

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.145 )
日時: 2008/03/27 08:07
名前: テン


だから、恭也からその言葉が聞ければ彼女は十分だった。それでこれからも信じていける。

そんなリリィの言葉を聞き、思いを感じて恭也は微笑んだ。
リリィは頬を桜色に染めて、鼻を鳴らして視線を逸らすものの、すぐに向き直って会話を元に戻す。

「それで、恭也は何かわかったの?」
「そっちは? そう言うからには調べでもしたのか?」
「それはまあ……でも、私には全然わかんなくてお手上げ」

元よりリリィにはそんな技能はない。そのためそういう技能がありそうな恭也の元へと来たのだ。
だがその恭也も肩を竦めた。

「正直俺もだ」
「恭也が?」
「まあ、諜報員は前からそれなりに見かけているが」
「それなり、って」
「俺がわかるだけで二十人を越える。教師、生徒、事務員、他にも色々な場所に入り込んでる。カエデも結構気付いてると思うぞ」
「ちょっと、そんなに破滅の諜報員がこの学園に潜んでるの!?」
「いや、そのほとんどが学園の諜報員だ」
「はあ? 学園へ諜報に入る学園の諜報員って何よ!?」

リリィの叫びに、恭也は確かに矛盾していると苦笑する。
だがそれは事実であり、恭也が探り当てたことだ。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.146 )
日時: 2008/03/27 08:07
名前: テン


「この学園、表には出していないみたいだが、諜報科というのもあるみたいだ」
「諜報科? そんな科聞いたことないわよ? それに表には出してないって……」
「まあ、諜報科なんて表立って名乗れるわけないだろうからな。大抵が他の科と二足草鞋みたいだぞ。もしくは元はその科にいたがスカウトされたのか。しかし同時にその科の諜報活動を授業としてやっているんじゃないか?」
「な、何よそれ? お義母様は知ってるの?」
「さて、そこまではわからんが、おそらくは知っているだろう。学園長なのだから」

いくら隠れることが基本となる諜報という行為を教える学科とはいえ、さすがに学園長にまでは黙っていないだろう。
だが今回その学科が問題だった。

「しかし今回の場合、その者たちが邪魔で絞れない。それに本当にその手の諜報のプロになったら、俺では判別がつかん。カエデでも無理だな」

恭也やカエデでも諜報行為は可能だ。
しかし諜報行為というのは複数ある。
例えば恭也たちが行うことができる諜報行為は、相手方の組織などに気配を悟られずに潜入し、何かしら情報媒体を手に入れてきたり、影から話を盗み聞くというものだ。

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.147 )
日時: 2008/03/27 08:09
名前: テン


もう一つ上げると、相手方の組織内部にその協力者、もしく関係者として忍び込むものがある。つまり内部の人間に溶け込むもの。
諜報行為には他にも様々あるが、その技術はまったく異なるものになる。どれもこなせる者などそう多くはない。
例に上げた前者の諜報活動であれば、恭也とカエデはその人物が近くにいれば気づけるだろう。実際恭也が気付いた諜報活動をしている者の半分以上はそちらだ。しかし後者の場合は見つけだすのが少し難しい。それでも恭也もカエデも、それらの人物もそれなりに確認しているわけだが。
恭也の言葉を聞いて、リリィは本当に深々とため息を吐いた。

「学園は自分で自分の首を絞めてるってわけ?」
「そういうことになる。下手をすればその中に破滅の諜報員がいる可能性もあるが、この場合は珍妙な二重スパイということになるな」

学園の諜報をしている学園の諜報員が、同時に破滅の諜報員かもしれない。それは本当に珍妙な二重スパイだ。その珍妙ぶりに恭也は思わず苦笑する。

「勘弁してよ」

だが本来は笑えるわけもなく、リリィは額に手を当て、今度は疲れた表情を見せた。
それを見て、恭也も真顔に戻った。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.148 )
日時: 2008/03/27 08:10
名前: テン


「これはどちらかという学園の伝統のせいだろうさ。お前が嘆くことではないし、学園長が悪いわけでもない」
「そうだけど」
「一応これからも探りは入れるつもりだが、期待はしないでくれ」
「わかった。でも無茶はしないでよ。ここであんたが下手を打ったら……」
「わかってる」

下手を打てば破滅に打撃を加えられるだけではなく、恭也がまたもミュリエルに深く疑われるかもしれない。娘であるリリィにミュリエルのことを言わせたくなかったので、恭也は彼女に全てを言わせなかった。
とりあえずリリィの話は終わり、この場は解散。
リリィは立ち上がり、部屋のドアまで歩いていく。だが唐突に止まると見送るために立ち上がっていた恭也へと振り向いた。

「……さっきの私の初めてなんだから、感謝しなさいよ」
「は?」

いきなり言葉に恭也は面食らい思わず口を開けてしまうが、リリィはもう今日何度目なるのかもうわからないが顔を赤くさせて部屋から出ていった。

「……いや、あれは俺が悪いのか?」

恭也は思わず疲労感が覚え、片手で頭を抱えるが、何とか今はそれを追い出す。
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.149 )
日時: 2008/03/27 08:11
名前: テン


リリィにもやはりああ言ったが、恭也はある程度怪しい人物を絞っていた。
自分たちの担任であり、確実にどこかしらの諜報員であるであろうダリア。ダリアと同じく、やはり教師であるダウニー。さらにこの学園の学園長、ミュリエル。
他にも何人か怪しい人物はいるが、恭也が特に怪しいと思っているのはこの三人だ。

「救世主クラスに近しい人物であるというのを考えると、この三人がやはり怪しいんだよな」

怪しいと思う理由はそれぞれにある。しかし確証がない。
ダリアは接触する機会が多かったため、確証に近いものを得ているが、どこに属しているかがわからない。少なくとも先ほどリリィに話した諜報科の者ではないだろう。
リリィに話さなかったのは、それらの人物たちが本当に近しい人物だったからだ。それで彼女がダリアやダウニーを下手に警戒してボロを出されても困る。ミュリエルに至っては彼女の義母だ、やはり言うわけにはいかない。
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.150 )
日時: 2008/03/27 08:13
名前: テン


「まったく、本当に次から次へと厄介な」

不破夏織のこと、エリカのこと、レティアのこと、情報が漏れていること、個人的なことから大局にまで影響を与えそうな問題が次から次へと出てくる。

「それにしても、俺は極悪人だな」

恭也は呟いて苦笑した。
なのはにもリリィにも真実は話していない。どこかに隠し事をしている。妹にも仲間にも。
相手は信頼して色々なことを話してくれているというのに。
しかし、それでも何とかしなくてはいけない。

「……破滅のことを抜きにしても忙しくなりそうだ」

恭也は疲れたようにもう一度ため息に近い深い息を吐き出す。
正直自身が三面六臂であったとても足りなさそうだし、八面六臂であったとしてもきつそうだ。
ただ今だけは休息をとろうと、イスに座ったまま恭也は目を静かに閉じた。



メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.151 )
日時: 2008/04/18 20:58
名前: テン




◇◇◇



なのはは自室に戻り、深々とため息を吐いた。
エリカと恭也、その間に何があるのか、漠然とではあるがわかった。だがまさか彼女が前に言っていた少女だったとは。
恭也はエリカの相手は自分がすると言っていたし、なのはもそれに肯定したが、彼女の様子を考えるに再びなのはを襲ってくるだろう。
どうやらまずなのはを殺して、それを恭也に見せつけたいようだから。
これは正直、なのはにとっても望むところだった。
きっと恭也はエリカとは本気では戦えない。自身が歪めてしまったかもしれない少女を相手に、恭也が本気を出せるかどうかわからない。恭也は確かに甘くはないが、それでも今回は事情が少々異なる。
だからなのはは、恭也にああ言ったものの、彼女の相手は自分がすると考えていた。
それに恭也は恨まれても仕方がないと言ったが、なのはにはやはりおかしいと思うのだ。
恭也の身内だから、何より大切な人だからというのもあるかもしれないが、それを抜きにしてもエリカが正しいとはどうしても思えない。
だから……。

「説得しないと」

エリカが恭也を恨むのはおかしいと、違うと。


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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.152 )
日時: 2008/04/18 21:00
名前: テン


だが、聞いてくれなければ? 説得に応じてくれなかったら?

昔のなのはならどれだけ聞いてくれなくても、どれだけ拒絶されても、最後まで説得しようとしたかもしれない。
しかし、今のなのはは違った。

(そのときは倒す)

それでもダメだったら?
倒してもまた兄を狙ったら、倒しても倒しても諦めなかったら……。

(最悪の場合……殺す)

そう考えただけで、なのはの心臓は早鐘のように脈打つ。
だがそれでも、その考えを……覚悟を消すつもりはない。
だって、もうなのはは知ってしまった。
殺す覚悟。
恭也は剣を握る以上と言った。
なのはの白琴は正確な剣とは言い難い。何しろ斬ることはできないし、遠距離用の武器だ。
だが恭也が言っていたそれは、剣を握る者だけの覚悟ではないだろう。
恭也が剣を握る者だからそう言っただけ。
だから正しくは戦う者ならということだ。スポーツや格闘技としての戦う者ではなく、実戦の中で戦う者。命の取り合いをする者。
そして今のなのははその戦う者。
だから恭也と同じ覚悟を決めないといけない。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.153 )
日時: 2008/04/18 21:02
名前: テン


もちろん先程考えたように、説得はするし、そう簡単に諦めたりするつもりはない。だがそれでもどうしようもない時はなのはは倒す……それでもダメならきっと殺すことを選ぶ。

「きっとおにーちゃんは喜んでなんかくれないだろうけど……」

それでもその覚悟は決める。
なのはには守りたい人がいるから。
そして恭也の覚悟を知った今……あの月夜の晩の恭也を見たなのはは、その覚悟が決められる。
戦わずに済むなら、殺さずに済むならそれに越したことはないだろう。戦いを回避できるならそれが一番だ。
しかしそれだけを考えていてはダメなのだ。
戦いたくない、傷つけたくない、相手を殺したくない、それは立派なことだ、そう思うことは正しいことだ。
だが、戦う者がそれだけの考えなんて許されない。
絶対に相手を傷つけない、殺さないなんて考えは戦いというものを舐めている、甘えている。
そしてそれは何よりなのはにとって、あの日の恭也を否定することと同義。

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.154 )
日時: 2008/04/18 21:04
名前: テン


兄のあの悲壮とも言える覚悟を、兄が握る剣を、兄が今まで歩いてきた道を、これからも兄が歩き続ける道を、兄の守るという信念を、兄の全てを否定され、汚されているような感じさえする。
それはなのはには許せないことで、許容できないことだった。
戦いたくないなら、殺したくないなら戦わなければいい。逃げてしまえばいい。戦う者など止めてしまえばいい。

「それでも戦わないといけないなら……何か大切なものが戦いの中に、その先にあるんだ」

恭也のように大切な人たちを守るとか、あのエリカのように恨む者がいるとか、そんな理由は人それぞれにある。
その理由を優先した以上は、敵とて殺される覚悟あると判断するしかない。
目的を優先して戦うことを選んだのなら、相手を殺すことと、相手に殺されることも覚悟するしかない。
目的のために誰かと命がけで戦うなら、その目的は相手の命と天秤にかけて、目的の方が重いと判断したということだ。

「私にとっては……あの娘の命よりも、おにーちゃんの方が重かった」

そう、それだけ。
戦うと決めた以上は、客観的に自身をそう判断する。
そこに相手の理由、目的、信念は関係ない。

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.155 )
日時: 2008/04/18 21:05
名前: テン


そんな風に考えて戦っている者は少ないかもしれない。
何も考えずに戦っているだけの者の方が多いかもしれない。恭也のように殺す覚悟、殺される覚悟を持っている者は少ないかもしれない。
エリカという少女とて、それを持っているとは思えない。
それに目的とは関係のない所で戦うこともあるかもしれない。戦いの理由によってはその覚悟や信念と相反することとてあるだろう。
だがエリカの戦う目的は、なのはの戦う目的を潰し、汚すもの。
だから恭也の覚悟を知ってしまっている、あの恭也を見ているなのはは、エリカを殺すかもしれないと覚悟する。
それらが正しいのかどうかは、このさい関係はないのだ。ただ今のなのはの考えはそれで、覆すつもりはないというだけ。


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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.156 )
日時: 2008/04/18 21:07
名前: テン


戦いを避けようとはする、倒さなくても、殺さなくてもいい道も探る。だけどそれでもどうしようもないなら戦うし、倒す、殺しもする。そして自身の方が殺されることもありえると受け入れる。

「大丈夫……」

昔は考えられもしなかったことを、今のなのはは選ぶ。

「私は……おにーちゃんを守る。そのための覚悟なんだ」

その目的のために……。
ただ恭也のために。
恭也のためにという理由を持つ自らのために。
恭也が喜んでくれないとわかっていながら、それでもなのははその覚悟を持った。





四十四章 終
メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.157 )
日時: 2008/05/15 06:07
名前: テン





恭也は、展望台から見える王都の風景を静かな瞳で眺めていた。
王都を見渡せる絶景の場所ではあるが、今ここには二人以外の人はいない。丁度昼時であるために、それぞれどこかで昼食でも摂っているのかもしれない。
恭也はそんなことを考えながらも、王都の風景に背を向けて振り返った。
そこには燃えるような赤い髪が印象的な一人の少女がいる。その少女……リリィは絶景など気にもせず、ただ恭也を見つめていた。
そして恭也は、彼女に静かな声を向ける。

「久しぶり……というほど時間は経っていないか」
「そうね」

展望台というだけあって、そこは高い場所にあり、風も強い。その風がリリィの長い髪を巻き上げるようにして揺らすが、それを彼女は手で押さえながらも恭也の言葉に頷いた。
しかし、二人はそれ以上の会話はできなかった。お互いが何を話していいのかわからないでいる。
しばらくの間、二人を風だけがなで回す。
しかし不意に恭也がため息を吐いた。

「どうして俺が王宮にいるとわかった?」

いつまでもこうしていても仕方がないと、恭也は当たり障りのない質問を投げかけた。
それにリリィは、ただ恭也をじっと見つめめたまま答える。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.158 )
日時: 2008/05/15 06:09
名前: テン


「私を助けてくれた時に言ったじゃない、『大河たちはどうした? 救世主候補たち全員に今回の任務はいったはずだぞ』って。そこから」
「なるほど」

それだけでだいたいを恭也は理解した。クレアのことを知っていれば、その言葉から恭也たちの居場所に行き着けてもおかしくはない。
そういう意味では、不用意なことを言った恭也のミスだ。
それをいまさら後悔しても遅いのだが、恭也は今一度ため息を吐いた。

「それで何か用でもあるのか? それともまた一戦する気か?」

恭也は意識して突き放すような言葉をかけた。そして顔もどこか皮肉げな笑みで歪めてみせる。
それは前の戦いで大河たちへと向けたのと同様に、恭也ができる精一杯の演技だった。
リリィが何を考えて接触してきたのかは恭也も何となく理解できる。おそらくはあのとき聞けなかった理由を、学園を離れなければならなくなった目的を聞きたいのだ。
だが、それを言うわけにはいかない。だからこそ、さらに突き放す。
恭也の問いに、リリィは何も答えず……ただ呪文を紡いだ。そしてその手に火球を掲げてみせる。
それでいいとでも言いたげに、恭也は作り笑いを消し、身を屈めた。


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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.159 )
日時: 2008/05/15 06:12
名前: テン


恭也としても居場所が知られてしまった以上、リリィをこのままにしておくわけにはいかない。殺すつもりはない……が、しばらく行方不明になってもらう必要があった。
だからこれでいい。
小太刀は知佳たちに取り上げられているため今はない。あるのは暗器の類と小刀のみ。しかし問題はないだろう。
リリィは元より遠距離戦を得意とする相手。格闘戦もこなせ、近接戦闘もそれなりのレベルではあるが、それも恭也よりも確実に下だ。武器のあるなしに関わらず、単純な接近戦では、決してリリィは恭也を下せない。接近してしまえば小太刀の有無はそれほど関係なく、恭也はリリィを無力化できる。問題は接近できるか、ではあるが。
今の二人の距離は約三メートルほど。恭也には一瞬で詰められる距離。ある意味一瞬で終わる距離。しかしリリィももう呪文を唱え終わっており、あとは魔法名というトリガーを引くだけで魔法が発動する状態。これだけの距離ならば、一瞬で相手に着弾させることができるだろう。
つまりリリィの最初の攻撃をかわせれば恭也の勝ち。恭也がかわせなければリリィの勝ち。

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.160 )
日時: 2008/05/15 06:14
名前: テン


あまり身体が万全ではないので神速は使いたくないのだが、それも覚悟しなければならないか、と恭也は考えながらも、さらに身を屈め、リリィの魔法の発射に合わせようとした。
今まで吹いていた風が止まった。
二人はただお互いの目を見続ける。
そして、二人の間に再び強い風が巻き起こった。

その瞬間、

「!?」

恭也は目を見開いた。そして全てを忘れ、神速へと入る。
それはほとんど条件反射のようなものだった。リリィが何を考えているのかはわからないし、そんなことを考えている余裕もない。
恭也は一瞬で間合いを無とし、リリィに迫った。
その間も、リリィの腕はゆっくりと上がっていく。だがそれは恭也がいる方向へではなかった。
恭也はリリィの眼前に飛び出ると、彼女の腕を取り、その向きを変えさせる。
神速が終わる。
同時に火球が発射された。それは『リリィの』顔の横を通り抜け、斜め上へと捻られたため、上空へと飛び上がっていった。そしてしばらくして爆発する。
その爆発を他の人間に見られていたらまずいかもしれない。
そんなある意味場違いなことを考えながらも、恭也は怪訝な表情でリリィを見つめた。

「ふふ」

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.161 )
日時: 2008/05/15 06:16
名前: テン


そんな恭也を見て、リリィは嬉しそうに、だがどこか妖艶な、しかし陰のある笑みを浮かべていた。





赤の主・大河編

第三十二章





「……何を考えている」

恭也はリリィの腕を掴んだまま、彼女を睨んだ。
それを見ても、リリィは笑みを消さない。それは嬉しそうであるが、どこか怖じ気を誘う笑みだ。

「やっぱりね。あなたなら絶対にこうするって思ってた」
「ふざけるな。間に合わなければ死んでいたぞ!」

リリィは、自分の顔へと魔法を向けたのだ。自分で自分を攻撃するなど正気の沙汰ではない。恭也が発射口であったリリィの腕を曲げていなければ、確実に彼女自身の頭を吹き飛ばしていただろう。
彼女の魔法は、直撃すればそれだけの威力がある。

「それならそれで構わないわよ。それでもあなたが動こうとするのは見えたでしょうから」

それが自分自身でよくわかっているであろうに、リリィはさして気にした風でもなく、嬉しそうに笑い続けながらも告げた。

「だから一体お前は何を考えているんだ!?」


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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.162 )
日時: 2008/05/15 06:18
名前: テン


恭也はらしくもなく声を荒くして叫んだ。それだけ彼は今苛立っていた。リリィの目的も見えず、言っていることも理解できない。
そんな恭也を見ながらリリィは笑みを消し、彼を睨んだ。

「恭也こそ何を考えてるのよ?」
「なに?」
「私が死んでも恭也には何も関係ないでしょ? 私たちはあのとき戦った、ということは敵同士なんじゃないの?」
「それは……」

あのとき恭也たちは救世主候補たちの手を振り払った。恭也たちは別に彼女らと敵対したいわけではないし、『今は』敵として認識しているわけではない。
だがそれは恭也たちの都合だ。救世主候補たちにしてみれば、恭也たちが敵になったと判断しても仕方がないし、そう思われるかもしれないと考えていたことでもあった。戦えば敵同士。簡単な図式だ。何より恭也は大河へと未亜たちを殺すとまで宣言したのだから。
そして先ほどの挑発さえ、まるで自分はお前たちの敵だと言っていたようなものだった。
それでも……敵と認識されても、救世主候補たちと戦っても、恭也たちは進まなければならないのだから。
だがリリィの問いに恭也は声を詰まらせてしまった。

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.163 )
日時: 2008/05/15 06:20
名前: テン


「あんたの中で、私たちは……私は何なのよ!?」
「っ……」

恭也の行動は矛盾している。
救世主候補たちと敵対するような行動を見せたり、村長に擬態したモンスターからリリィを助けたり、そして今も彼女の行動を止めた。
敵だと言うのなら助ける必要などない。味方だと言うならなぜ戦う。
矛盾だらけの行動。
だからこそリリィはわかるのだ。

「恭也は全然変わってないじゃない! そうやって守ろうとする! あんたは最初から私たちと敵対するつもりなんてないんでしょ!?」
「そんことはない。お前たちが邪魔になるならば……排除する」

これは本当のこと。恭也は、もし彼女たちが邪魔になるならば……例えば、大河が救世主になれば殺すつもりであるし、彼女たちの誰かが白の主であって、その人物が救世主になったならば、やはり殺すつもりであった。
それに間違いはない。
だが、恭也は決して彼女たちと敵対したいわけではないし、ましてや殺したくなどない。
恭也自身、自分の行動が矛盾していることなど前からわかっていた。
だがどうしてもそうなってしまうのだ。守ることができない以上、そうするしかなかった。


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