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黒衣(仮投稿)
日時: 2008/05/15 06:31
名前: テン

浩さんに許可を頂きましたので、暫くの間黒衣を仮投稿という形でこちらに投稿させて頂きたいと思います。

あくまで仮であり、落ち着いたらいつかは今までどうりに投稿したいとは思っていますので。
これも携帯からの投稿なので、少々見づらいかもしれませんがよろしくお願いします。
一章を分割して送っていきます。


目次

>>1-27 恭也編 四十二章

>>54-91 恭也編 四十三章

>>122-156 恭也編 四十四章

>>197-227 恭也編 四十五章

>>228-255 恭也編 四十六章

>>256-268 恭也編 四十七章

>>269-288 恭也編 四十八章

>>289-317 恭也編 四十九章

>>318-330 恭也編 五十章

>>331-340 恭也編 五十一章

>>351-367 恭也編 五十二章

>>368-382 恭也編 五十三章

>>383-394 恭也編 五十四章

>>414-433 恭也編 五十五章

>>434-457 恭也編 五十六章

>>458 恭也編 五十七章

>>459-480 恭也編 五十八章

>>481-503 恭也編 五十九章

>>504-532 恭也編 六十章
>>565-587 恭也編 六十一章

>>28-53 大河編 三十章

>>92-121 大河編 三十一章

>>157-196 大河編 三十二章

>>395-413 大河編 三十三章

>>341-350 外伝
メンテ

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.164 )
日時: 2008/05/15 06:22
名前: テン


恭也は沈黙し、僅かに下唇を噛む。
突き放せばすむ、そう思っていた。
敵だと思われてもいい、そう思っていた。
恨まれてもいい、そう思っていた。
それでも、守りたいと思っていたから。
もしかしたら、その中の誰かを殺すことになるかもしれない。それこそ自らの願いと矛盾するとわかっていても、それでも多くの大切な人たちを守るために……切り捨てた。自己の矛盾を許容し、最小の犠牲で守ろうと。
仲間を裏切った外道と言われようと構わない。そんなこと、とっくの昔から恭也は自覚していた。人を初めて殺した時よりも前から、誰かを傷つるよりも前から。
剣を握り、その鯉口を切ったとき、大切な人たちを守ると決めたときから、恭也は外道に堕ちていた。そしてそれからも堕ち続けている。
外道の技を用いて、恭也はその守るという道を歩いてきた。決して、外道を以て外道を討つのではない。大切な人たちを守るためならば、正道を歩く者とて切り捨てる覚悟を持つ真性の外道としてだ。
だが、そんな外道の道を行っているからこそ、全ての人を守れると思えるほど恭也は強くない。正の道から外れているからこそ、守れるものなどそう多くないと知っていた。


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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.165 )
日時: 2008/05/15 06:25
名前: テン


だからこそ恭也は選んだ。天秤に掛けた。守りたい者に優先順位をつけた。秤が傾いた方を選んだのだ。
いや、選んだ……つもりだった。

リリィはただ顔を上げ、恭也を睨み付けていた。
そんな彼女を見つめ、恭也は再び口を開く。

「御神は醜く汚れた盾であり、不破は醜く汚れた剣だ」

出てきた言葉はそんなもの。
こんな話、無意味だと恭也も理解している。
リリィは御神のことも不破のことも知らないのだから。
だが、それでも恭也は続ける。正確には伝わらずとも、それでもリリィにならば伝わる。

「醜いが故に、汚れているが故に、俺たちは血を被れる。今まで以上に汚れていける。盾で、刃で居続けることができる。その守りたい人たちから嫌われようと、敵意を向けられようと、その先に守りたい人たちが汚れなく、笑顔でいられるのであれば」

それはきっと間接的な答えだ。
守りたい人が誰であるのか、敵意を向けられるのが誰であるのか、それらをのせた言葉だったのかもしれない。
その言葉を吐いて、やはり自分は弱いと、恭也は自分が許せなくなった。

「恭也」
「だからお前は……」

続く言葉は、リリィに遮られた。

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.166 )
日時: 2008/05/15 06:26
名前: テン


「それ以上言わないでよ。あんたたちの……あんたの願いを私に押しつけないで」
「リリィ……」
「私は……あんたの力になりたい。あんたに頼られたい。あんただけが汚れていくなんて、あんたに守られているだけなんて、そんなの私のブライドが許さないのよ」

僅かに涙を溜めて、だが不敵な笑顔をリリィは浮かべた。

ああ、これは負けた。

その笑顔を見て、恭也は漠然とそう思ってしまった。
しかし、それでも言うわけにはいかない。絶望が詰まった箱など開けるべきではないのだ。例え底の底に、僅かな希望があったとしても、それは本当に小さなものでしかなく、絶望を覆せる希望などではない。
そして救世主を信じるリリィにとって、それは裏切りにも等しい答えなのだから。


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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.167 )
日時: 2008/05/15 06:28
名前: テン


このまま逃げてしまおうか、などと冗談半分で恭也が思ったとき、リリィはそれに気付いたのか、一歩前に出て恭也の身体を抱きしめた。

「お願い……話して」

やはり自分の負けだ。
再びそんなふうに考えて、一度ため息を吐いてから恭也は苦笑する。

「……わかった」

リリィがどう受け止めるかはわからない。だが、それでも恭也は頷いた。
彼女がどう受け止めるかはわからない。むしろ信じてくれない可能性の方が高く、その方がいい。
だけど、全てを話そう。



メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.168 )
日時: 2008/05/22 06:27
名前: テン




◇◇◇



『彼女』は走っていた。

(なんで……)

ただ信じられずに、全力で、逃げるように街の中を走っていた。

(なんで!?)

どうして彼女と彼が一緒にいたのか、『彼女』には理解できなかった。
なぜ、今では敵同士とも言えるような関係になってしまった二人が抱き合っていたのか。
本当にたまたまだったのだ。
王都に出ていたのも、展望台に向かったのも。
魔法による爆発を確認し、それを見てその場を離れるのではなく、逆にその魔法の使い手が誰であるのかを確認しにいったのも。
全てが偶然。

だが、その偶然が見せたのは、今や異なる組織、勢力とも言えるものに別れてしまった二人が……恭也とリリィが抱き合う姿。
いや、恭也は別にリリィを抱きしめていたわけではない。ただ、抱きしめられていた。だがその口元に浮かべていた苦笑に近い微笑が、リリィを受け入れているようにも見えた。
『彼女』はその光景が信じられず、逃げ出した。

(どう……して……)

ただがむしゃらに走りながら、脳裏に『なぜ』『どうして』という言葉だけが駆けめぐる。

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.169 )
日時: 2008/05/22 06:29
名前: テン


前も見ずに走る。そのために他の通行人とぶつかることもあり、それを無視していく『彼女』に罵声を上げる者もいたが、それでも『彼女』は止まらずに走り続ける。

(どうして……!?)

脳裏にまるで抱きしめ合うように重なる恭也とリリィが再生させる。
それが『彼女』の脳を灼く。
黒い炎が生まれ、それが彼女の思考を灼く。
その黒い炎に灼かれたことで、気付いてしまった。

ああ、もう二人が会っていたことなどどうでもいい。
敵同士になったかもしれないのにというのもどうでもいい。

その黒い炎に蹂躙された思考が低く呟いた。

なぜ?
どうして?

――――恭也の胸の中にいた女性が、自分ではないのだろう。

それは産声。
黒く汚れた感情が漏らした、最初の言葉……
それは終焉と生誕を加速させる黒き感情と心。

『彼女』の黒い炎も、そこから生まれた感情も、全ては偶然の産物によって生み出された。
そして偶然が重なったこのときより、確実に世界は狂っていく。



◇◇◇



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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.170 )
日時: 2008/05/22 06:31
名前: テン



恭也は本当に全てを話した。自分が知る全てを。

この世界の根底を。あり方を。中心にあるものを。真実を。
破滅が何であるのか。
救世主が何であるのか。
赤の理を。白の理を。
白の精が誰であり、何であるのか。
赤の精が誰であり、何であるのか。
赤の主が誰であるのか。
それらが何を以て存在し、なぜそんな役を与えられたのか。
整然と整いすぎている役者たち。
この世界は整い過ぎている。美しく、血の惨劇……いや、破滅と生誕の惨劇が降るように。
それらの役者たちが紡ぐ物語が何へと収束しているのか。
どれもその収束した場所にいる……人間にとって上位の存在に整えられた役者に過ぎない。

その中でたった二人だけが最高の大根役者になれる可能性を持つ。
それが紅の精であり、その主。
では、その紅の精が何であり、その主が誰であるのか。
管理された物語、その中でその管理に縛られない大根役者である紅の主がすべきことは……


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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.171 )
日時: 2008/05/22 06:33
名前: テン



それは長い長い話だった。
この世界……いや、もっと広い視野で語られた世界の仕組みから、恭也という個人に託された小さな希望まで。

話をするために、展望台の芝生の上に座り、全てを語りつくした恭也は、いつのまにか辺りが紅く染まっていることに気付いた。
紅く燃える夕日が、少しずつ沈んでいく様を見ながら、恭也は会話を区切るために大きく息を吐く。そういえば、あの魔法は誰にも見られなかったのか、近づいてくる者がいなかったな、と漠然と思いながらも、隣にいるリリィを眺めた。

「…………」

全てを聞き終えたリリィは顎に手を当て、何かをじっと考えているようだった。
どうやら救世主の真実を聞いても取り乱す様子はない。いや、話の全てがあまりに荒唐無稽であるたるために信じていないのかもしれない。むしろ恭也がリリィの立場であったなら、鼻で一笑してしまっているだろうし、信じない方がむしろ良い。
恭也がレティアの話を信じたのは、半ばレティアを信じるという感覚的な所があったのと、例え荒唐無稽な話とはいえ、クレアと知佳の情報を重ね合わせると、矛盾のほとんどが解消されてしまうからだった。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.172 )
日時: 2008/05/22 06:35
名前: テン


しばらくして、リリィは確認を取るために口を開く。

「本当の話……なのね?」
「信じる信じないはお前に任せる」
「少なくとも恭也は……恭也たちは信じてる」
「そうだな。その話をレティアに聞いたときにあった情報と、そのあともクレアと知佳さんがそれを前提に色々な本を調べ直して、信じるに足るものだと判断したし、俺は元よりレティアを信じている」

恭也の返答を聞いて、リリィは目をつぶった。

「救世主は……破滅を滅ぼす者ではなく、むしろ……」
「そうだ。救世主は、言葉通りの存在ではなく……今の世界に生きる俺たちにとっては、むしろ破滅よりも破滅に近い。そして破滅はそのための贄にすぎない」

それは破滅を滅ぼすために救世主になると、使命感とも強迫観念とも言えるものを持っていたリリィにとって、本来許容できないことのはずだった。

「私も信じるわ」
「…………」

恭也はそれを知っていたからこそ、目を軽く開き、小さく頷いたリリィを見て、驚いた。
今までの話を肯定し、信じる。それはつまり、リリィがアヴァターに来てからのことを全て捨てることに等しい。今まで行動も、努力も、考えも、全てねじ曲げ、捨てる行為。


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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.173 )
日時: 2008/05/22 06:37
名前: テン


もっともそれは、彼女だけに限らない。リリィほど強くはないものの、それでも他の救世主候補たちも、大きさの違いはあれ、救世主という存在に縛られるているところがあった。
それがあったから、恭也は救世主の役目を救世主候補たちに伝えないため、学園を出たというのも決して嘘ではないのだ。
恭也からすれば御神流を疑えと言われるようなもので、それは簡単に受け入れられるようなものではない。
だがリリィは簡単に受け入れて、ほぼ今までの半生を否定した。
恭也がリリィの横顔を見つめれば、そこには決意するような真剣な表情が浮かんでおり、決して嘘や冗談で信じると言ったわけではないことは見て取れた。
だから恭也は『そうか』と一度頷いた。
何がリリィをそこまで強くしたのかは恭也にもわからないが、リリィが受け入れたことを、恭也も受け入れなければならない。

「リリィが白の主である可能性も捨て切れない」
「でも私は……」
「俺もアヴァターに来るまで紅の主であるというのをまるで知らなかった。似たような方法があるかもしれない」


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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.174 )
日時: 2008/05/22 06:39
名前: テン


書の精との契約というのが、どのようにして行われるのかは恭也も知らないし、検討もつかない。まさか書類に捺印をして終わりというものではないだろう。
だからこそ、契約者が知らずに契約が行われてることもありえないことではなかった。実際恭也がそうだったのだ。
白の精がリリィと契約している可能性も否定できない。少なくとも召喚器を持っているという時点で、少なからず可能性が出てきてしまう。もちろん恭也やリリィたちが知らない救世主候補が存在し、その人物が白の主であるということもありえるが。
どんな小さな可能性も恭也は考えないわけにはいかないのだ。全ての可能性を考慮しなくてはならない。
だが、恭也のそんな話を聞いて、リリィはいつも恭也に見せていた不敵な笑みを浮かべてみせた。

「ふふん、それは望む所よ」
「俺の話を信じたんじゃなかったのか?」
「信じたわよ。でも、その白の主が恭也の味方になったら?」

不敵に笑ったままリリィはそう言った。
それに恭也は喉を詰まらせる。確かにそう言われればそうだ。


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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.175 )
日時: 2008/05/22 06:40
名前: テン


もちろんリリィが白の主と決まったわけではないが、もし彼女が白の主で協力してくれるというのなら、できることの幅は広がる。白の精はどうかはわからないが、主の意向を簡単に無下にすることはないだろう。

「で、私はどうすればいいの? 白の主かどうかはまだわからないけど、何かすることはある?」
「することって……」
「あんたねぇ、ここまで話しておいてこれで終わり、ってことはないでしょ?」
「それは……」
「言ったじゃない、あんたに守られるだけなんてプライドが許さないって。私はあんたの仲間と同様にあんたの話を信じた。だから……私も協力する」
「言っている意味は理解しているか?」

真剣に表情で恭也が聞くと、リリィは軽く鼻を鳴らし、だが唇を噛む。


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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.176 )
日時: 2008/05/22 06:43
名前: テン


「わかってるわよ。あのバカ大河たちの敵に回るかもしれないし、それに……お義母様を裏切ることになるかもしれない」
「なら……」
「でも、今までの話を私は信じた。信じた以上、この道しかないじゃない」

どこか寂しげに言うリリィを見て、恭也は顔を歪めた。
そう、信じたならばその道しかないだろう。元より選べる道が少なすぎる。
だが恭也は、リリィが信じるとは思っていなかったのだ。荒唐無稽な話で終わり、それに全てを注ぐ自分たちをおかしいと思われて、精神を疑われるぐらいの覚悟があった。
もちろん救世主の話とて荒唐無稽な話ではるが、それはまだ伝説として伝わっているし、その伝説を証明するように召喚器もまた存在するためまだましな話だ。
だが、リリィは信じてしまった。この話を信じる信じないで、先の行動は大きく変わる。
信じない……もしくは単純に受け入れただけならばいい。そうして、何もせずに運命を享受するというのならばそれはそれでいいし、今まで通りの生活をするでもいい。だが、その運命に抗おうとすれば、とれる行動は限定される。


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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.177 )
日時: 2008/05/22 06:44
名前: テン


今のところ唯一の……そして、本当に小さい希望であり、バックに王室、というよりも、クレシーダ・バーンフリートという強力な個人を持つ、恭也のサポート以外にありえない。もちろん他にもとれる行動はあるのかもしれないが、話が壮大すぎて他の方法など考えつくものではないし、個人でとれる行動などたかが知れている。リリィ一人が足掻いたところで、どうにもならない領域の話。リリィ一人がどう頑張っても、世界規模の運命という濁流を押し止められるわけがないのだ。それができる個人は今のところ一人しかいない。
つまるところ、恭也が話し、それを信じたことで、リリィはこれから先にあった多くの選択肢を潰してしまった。とれる道が一本しかなくなった。
やはり話すべきではなかったのだ。
そんな恭也の考えがわかったのか、リリィは気に入らなそうに眉を曇らせ、口元を軽く歪めた。

「勘違いしないでよ。私はあんたに会うって決めたときから覚悟してた。救世主クラスと決別することをね。あんたの力になるって決めてたから」


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.178 )
日時: 2008/05/22 06:46
名前: テン


彼女の口から出てきたのは、そんな想いの籠もった言葉。まるで告白にも等しい言葉の羅列。それが自身で理解できるからこそ、リリィも僅かに頬を赤くしている。
もっとも鈍感男たる恭也には、覚悟は伝わったものの、告白とは伝わらなかったが。

「すまない」

そんな恭也の謝罪を聞いて、リリィは一瞬肩を落とす。好意は伝わらなかったらしいというのができたために。

「協力してもらえるか?」

だが、謝罪のあとに続いたその質問に、リリィは再び笑みを浮かべて頷いた。

「で、実際どうすればいいの?」
「リリィは今まで通りに学園にいてくれればいい。こちら側にくる必要はない」

恭也の今後の話に、リリィは協力するのではないのかと眉根を寄せるが、少し考えてその言葉の意味を理解した。

「スパイ、ってこと?」
「まあ、そんなところだ。もっとも他にも王室から諜報員は潜入しているのだがな」
「ちょ、誰よそれ!?」

今までそんなこと考えもしなかったのか、リリィは諜報員が学園に侵入していると聞いて、思わず恭也へと詰め寄る。
だが恭也は苦笑し、軽く肩をすくめた。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.179 )
日時: 2008/05/22 06:47
名前: テン


「聞かない方がいい」
「でも、その人とも協力した方がよくない?」
「その人には俺たちが王宮にいることも話していないし、リリィに話した真実のことも伝えていない。先入観をもってほしくなかったのでな。だからリリィにそれが誰かを教えると、今度はお前がその人に変な先入観をもってしまうだろう?」
「そう、ね」
「それにお前のことはクレアたちにもまだ黙っておくつもりだ」
「って、なのはたちにも?」

リリィが目を丸くして聞き返すと、恭也は静かに頷いた。
敵をだますには味方から、というわけではないが、リリィが味方についたこと自体が想定外のことであり、無用な混乱を避けるため。
それを恭也が伝えるとリリィも頷き、その後少し息を吐いた。

「建前よね、それ」

すぐにばれてしまい、今度は恭也が息を吐く。

「わかるか?」

別段隠す必要はないし、リリィが気付かなければ、元より建前だと伝えるつもりであったので、恭也は簡単に認めた。もっとも気付かないなら気付かないでもいいかとも恭也は思っていたし、気付かない可能性の方が高いと思っていたが。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.180 )
日時: 2008/05/22 06:48
名前: テン


恭也にはわからないことだが、リリィは深く物事を考えるということを覚えたのだ。もちろん、今までが考えなしだったというわけではないが、視野が狭かったというのは事実だ。しかし恭也の居場所を思いついた時に、時には情報を冷静に吟味し、それをかみ砕いて理解しつつ、隠れた真実を見つけようとすることを自然と覚えていた。
先ほど自分に魔法を向けたのも、そうした情報から考え出した行動であり、確かに勝算があったのだ。恭也の神速の速さを考慮し、それに合わせて腕を上げたし、間に合わなければ、すぐさま手の方向を変えるつもりだった。もちろんそれでも大怪我は必至であっただろうが、どんな行動にもリスクはつきものだ。恭也が動くというのは、確信していたことだが。
今回もその柔軟な考えで、リリィは恭也の言葉の裏にある意味を理解した。

「まあね。無用な混乱って言ったって、真実を知る人は多くないんでしょ?」
「俺とお前を抜くと、レティアを含めて七人だけだ」

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.181 )
日時: 2008/05/22 06:50
名前: テン


「別に混乱するほどの人数じゃない。味方ができて黙っている意味なんてそう多くないでしょ? それでも伝えないのは、つまり私の立場が微妙だってことよね? まあ、混乱って言うのもあながち間違いじゃないでしょうけど」
「ああ」

やはり否定できることではないので、恭也は静かに頷いた。
リリィ自身が言ったように、今の彼女の立場はクレアとはまた違った意味で微妙なのだ。召喚器持ちであり、学園側だった者。白の主候補の一人でもあり、何より学園の最高責任者であるミュリエル・シアフィールドの義娘。それらが、色々な意味でリリィの立場を微妙にしている。
今度はクレアたちがリリィを信じられるかということにもなりかねないのだ。こちらの状況や目的を探っている……つまりスパイではないかと考える大きな理由になり得る。
もちろん恭也は信じたつもりだが、人の心というのはどうしてもわかりづらい。特にそうした相手への信用と信頼は。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.182 )
日時: 2008/05/22 06:52
名前: テン


何より、クレアと知佳は多くの情報を扱っている。それはつまり情報の取捨選択をし、信頼できる情報と信頼できない情報を選り分けるのだ。その信頼の有無は情報の出所も考慮する。言い方は悪いが、まず二人は疑うことが役割だと言っていい。それは恭也も一緒ではある。
リリィは疑惑を招かせる種が多すぎる。まあ、これに関しては恭也とて人のことは言えないが。
ここでリリィを連れていき、今日から仲間だと告げても、二人がどう思うかはわからない。もしもこの場に二人がいて、リリィの先ほどの真剣な表情や言葉を聞いていれば信じてくれただろうが、間に恭也が入ってしまったことで、それが難しくなってしまった。
だから混乱という言い方は間違っていないのだ。人数が少ないからこそ、リリィという存在が不和の種になりかねない。そしてその不信感がどんな状況へ持っていってしまうかは未知数だ。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.183 )
日時: 2008/05/22 06:53
名前: テン


王宮組というべきか、それとも反救世主組というべきか、とにかく僅か八人の組織とも言えない仲間たちは、恭也が中心であり、彼への何かしらの想いが中心になっていると言っていい。だが、決して恭也だけの思惑で動いているわけではないし、それぞれに戦う理由があり、恭也に依存した関係ではなく対等の関係だ。
僅かな人数で動いているからこそ、個人の思惑はともかく、信用や信頼は特に重要な事柄だった。そのため、この前戦ったばかりのリリィを急に仲間として紹介するのもなかなか難しい。

「言い方は悪いけど、信用を得るための情報か、行動が必要ってことかしらね」
「そんなところだ。俺はお前を信じたがな」

軽く信じたと言う恭也に、リリィは僅かに頬を赤らめた。ある意味彼女も恭也にだけ信頼されればそれでいい。信じてくれるならば頼ってくれるだろうと。
そんな考えを面には出さず、リリィは頬を赤みを何とか戻しつつ、右手を振った。

「まあいいわ。しばらく大河たちの様子でも見てる。連絡とかはどうするの?」
「定期的にここで会おう。学園が休みの日や、放課後がいいだろう」


メンテ

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