Re: 黒衣(仮投稿) ( No.224 ) |
- 日時: 2008/08/20 07:27
- 名前: テン
まあ、それはそれで良かったかもとか思わないでもないがと考えつつも、リリィはもう一度鼻を鳴らす。
「そ、その状態で恭也の部屋に行っただ!?」 「リ、リリィ、あなた、ま、まさか……」 「ろ、老師と?」
聞き捨てならない言葉を聞いて、大河たちは目を大きく開いて仰け反った。そんな状態で恭也の部屋にいった。 そうなれば考えられる事態は一つ。
「そ、そういば先ほど初めてとか聞こえましたが」 「恭也と一線越えたのか!?」
大河は叫びつつも、すぐさま図書館の方へと振り返る。 そこには恭也と共に未亜がいるだろう。 そこを見つめて大河は『お前は相当に出遅れちまってるぞ! 今すぐ恭也を押し倒せ!』などとテレパシーを送ってみたが、まあ兄妹とはいえ感じ取れはしないだろう。 そんな彼らを見て、リリィはブンブンと頭を大きく振った。
「越えてないわよ! いや、こう流れ的にはもうちょっとだったかなとか、もうちょっと押せば良かったかなとか、普通あそこまでいったら手を出すでしょとか思うけど……って何言わせるのよ!?」 「お前が勝手に言ったんだろ!?」 「うっさいわよ!」
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.225 ) |
- 日時: 2008/08/20 07:28
- 名前: テン
- リリィは叫びつつ、そのままいきなり呪文を唱え始めた。
「いや、待て待て待て! ってか来い、トレイター!」
危機を感じ取り、大河はすぐさまトレイターを呼ぶが、それと同時にリリィは火球を放つ。 とりあえず召喚器を呼んだことで上がった身体能力と持ち前の反射神経でそれを何とかかわす大河。
「あっぶねぇだろうが!」 「あんたの肩代わりすることになった怒りをあんたではらさせてもらうわ」
新たな火球を作り出し、リリィは怪しく笑う。
「元凶は俺じゃねぇ!」 「問答無用!」
大河はもう話を聞く気もないと悟り、しかもなんだか相手は乙女の真なる怒りに目覚めていて無茶苦茶危険と判断した。
「……後ろ向かって全力疾走!」
身体能力にモノを言わせつつ、その瞬発力で一気に加速して逃亡を開始した。
「逃がすか!」
リリィは魔法を放ちながらそれを追いかける。
「ああ、待ってくださいですの、ダーリン!」
さらにその二人を追いかけていくナナシ。
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.226 ) |
- 日時: 2008/08/20 07:29
- 名前: テン
そして、広場に残されたまのはベリオとカエデは揃ってため息を吐いた。 その視線の先には爆発が起きたり、雷が輝いたりとしている。何人もの学園生が二人と同じ方向を見るも、何やらまたかと言いたげな表情を浮かべると、それぞれすぐに目を離す。
「もうまったく気にされていないでござるな」 「ですね」
ああ言った争いが、他の科の生徒たちにはすでに日常のように対処されてしまっている。 昔ならば一番にリリィが嘆いていた状況だろう。
「まあ、今の状況でバカなことをやれるのはいいことでござるよ」 「そう……ですね」
ベリオは一瞬複雑そうな表情を浮かべたが、すぐに微笑んでカエデの言葉に頷いた。 破滅が動き出したというのは、すでに色々な場所で囁かれていること。モンスターたちの動きが活発になっているのもそうだし、色々な事件が起きていることからそれに拍車をかけている。 この学園の生徒たちも、その事件の解決のためにかり出されてる。そして、その中には何人か帰ってこられなかった生徒たちも存在した。
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.227 ) |
- 日時: 2008/08/20 07:31
- 名前: テン
そんなこともあり、今の学園はどこか重い雰囲気が流れている。そして、それは救世主候補たちも同じだ。 救世主候補たちはとくに破滅が動きだだしているというのを感じ取っているし、今まできた全ての任務が過酷であったのだから当然だ。 だが、ああした大河の行動や、恭也のいつも通りの姿を見ているからこそ、皆平常でいられている。まあ、大河はそんなことを意識しているのかは謎だが。
「とりあえず、私たちは戻ってあせを流しましょうか」 「で、ござるな。今の師匠ならばリリィ殿が相手でも大丈夫でござろう」
未だ轟音が聞こえる方向に背を向ける。 二人に大河を心配する様子はない。それは信頼なのか、それとも自業自得と思っているからなのか。 こうしてある意味いつも通りに、救世主候補たちの一日が終わっていく。
第四十五章 終
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.228 ) |
- 日時: 2008/09/15 22:14
- 名前: テン
暗い闇の中、月の光を浴びて輝く黒銀と紅の光線。 それらの幻想的とも言える光が、次々に異形の怪物たちの四肢を切り裂き、砕く。 木々の間に次々と築かれる屍の山。 その屍の山を作り出す黒衣の青年は、それらを気にもしない。死んだモノ……それも敵を気にする理由などないのだ。 異形の屍を作り出し、すぐさま次の得物に飛びかかるその姿は、その纏っている衣服と相まって死神のようにも見えた。 異形の命を刈り取る死神。それは人から見れば救世主となるのかもしれない。いや、異形の化け物たちを超えるさらなるバケモノか。
「まったく、こうも多いとは」
死神……恭也は、両の手を絶えず動かしながらも舌打ちした。
彼が今いるのは森の中。だが、その森は恭也がよく鍛錬で使うフローリア学園内にある森ではなく、王都アーグからも離れたある州の森だった。 恭也がそこにいるのは、与えられた任務を遂行するためだ。その目的は……恭也としては……救出だった。
「残った生徒は合計二十六人だったな」
小太刀を振り、両脇にいたゾンビを微塵にし、足刀で前方にいた人狼の首をへし折りつつも恭也は呟く。 それが恭也が救出すべき者たち。
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.229 ) |
- 日時: 2008/09/15 22:15
- 名前: テン
ある街の近くの森に突如として出現したモンスターたちを討伐せよ、という命令を王国から受けた学園は、様々なクラスの混成部隊を差し向けたが、一週間以上が経ってその部隊は帰還しなかった。 それからさらに数日後、数人の生徒たちがボロボロの状態で近くの街で保護されたらしく、その報せが学園に届いた。 そして、その生徒たちから学園は、現れたモンスターの数、強さは送り込まれた生徒たちだけではどうにもならないようなものであったという報告を受けたのだった。
生還した……とは言っても重傷を負っているが……生徒たちの報告は正しい。確かにこのモンスターの数は、学園の生徒たちでは荷が重いとしか言いようがないだろう。せめて倍の人数を送り込むべきだった。 それは今そこで戦っている恭也にはよくわかった。 モンスターの数もあるが、それ以上に場所が悪すぎた。森という領域は恭也にはとても戦いやすい環境であり、それもその状況で単独で戦えるというのならば、どれだけのモンスターが現れようが恭也ならば戦うにしても逃げるにしてもどうとでもなった。むしろ今までの任務の中で一番楽とすら言える。
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.230 ) |
- 日時: 2008/09/15 22:15
- 名前: テン
だが、生徒たちにとってはそうではない。傭兵科の生徒たちならばある程度は戦えるかもしれないが、この森に送り込まれたのは混成部隊だ。中には魔導士科の生徒や僧侶科の生徒たちも混じっている。それらの者たちはこんな状況で戦うなんていう訓練などほとんど受けていないのだ。それらが足かせになる。
「……送る人間を考えろ」
それらを上は理解していなかったのだ。 だからこんな状況になった。 そして急遽、恭也が現場を見に行くことになった。調べるべきは敵の数と地形。ようは斥候だ。それと同時に救出できる生徒がいたならば救出すること。 それを伝えた王国軍の騎士とやらは、前者を優先させろと言っていたが、恭也は何としても救出を優先するつもりだった。
「王国も学園も何を考えている……!」
生徒を差し向けたあとに斥候。そしてそれを最優先し、救出は後回し。そもそも救出を目的とするなら、もっと人員を割く。むしろすでに生存者はいないと考えているのだろう。
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.231 ) |
- 日時: 2008/09/15 22:16
- 名前: テン
それらを聞いたさいに、恭也はどれも順番が逆だろうと本気でミュリエルを罵りそうになったし、できるならその騎士を殴り倒し、王国に乗り込み、クレアを怒鳴りたいぐらいの激情に駆られた。 王国にしろ、学園にしろ組織としては、やはりズタボロとしか言いようがない。 戦闘で勝利するために、戦闘での被害を最小にするために、敵の奇襲を受けないために、それらが斥候の意味だ。それがなぜ敗北してから、被害が出てから行われるのか。 それもその斥候役であった恭也が情報を持ち帰ったあと、その情報を元に王国軍が動くのだ。 どう考えても非効率的なやり方だ。王国と学園の足並みが揃っていないというのがよく理解できる。王国の方が桁違いな大きさではあるが、お互い組織であるという関係上、その連携がうまくいかないのは仕方がないといえば仕方のないことなのかもしれない。学園が王国の出資によって運営されているという立場的なものもあるかもしれない。 だが、被害を増やし、手間を増やしていて戦いなどやっていられるものか。 何より許せないのは、救出は任務のうちではあるが、人命よりも斥候を優先しろということだった。
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.232 ) |
- 日時: 2008/09/15 22:17
- 名前: テン
もちろん組織や上の立場の人間が現場の人間を見捨てることなどよくあることだ。そんなこと恭也も理解しているし、仕方のないこともあると本来なら切り捨てることもできる。 だが今回、学園の生徒たちがこうして孤立し、取り残されてしまったのは間違いなく王国と学園の不手際だ。 任務に派遣された者たちのことをさらに詳しく聞けば、教師などついていっているわけでもなく、生徒たちだけの任務。それも大半が実戦の経験などなく、これが初めての任務となる者たちばかり。言ってしまえば新兵以下の者たちだけで構成させている。そもそも学園の生徒たち王国軍の予備兵でもなければ訓練兵というわけでもない。 そんな者たちだけで不足の自体が起きたらどうなるかなど目に見えているではないか。 王国も学園も、そんなことにすら気付かなかったのだ。 せめて正規兵か教師の一人でもつければ精神的にも違うのだ。 そもそも最初からなぜ斥候科の生徒たちをつけなかったのか。 それともモンスターの討伐など、難しい任務ではないとでも考えていたのか。
それらによって溜まった怒りと激情を、恭也は今いるモンスターたちにぶつけていた。
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.233 ) |
- 日時: 2008/09/15 22:18
- 名前: テン
無論、この前と同じような感情に任せて戦うというような醜態は晒さない。ただ激情を力に変え、あくまで冷静に戦っていた。 でなければ恭也が来た意味がなくなる。 今回、斥候要員として考えられていた恭也とカエデのどちらかだった。経験の違いから恭也が送られたのだ。それなのに感情に任せるわけにはいかないのだ。 もっともこうして敵と戦ってしまっている以上、斥候としては失格かもしれないが。それでも斥候よりも救出に重点を置いている恭也としては戦うしかない。 なぜならそれが目印にもなるからだ。
「生きていろよ……セル」
その場にいた最後の一匹を斬り飛ばし、恭也は救出しなければならない者たちの中にいる友人の名を呟いた。
第四十六章
本来ならば光が届かず、常に暗闇に閉ざされた場所であるはずの洞穴。そこが今、炎の光に照らされ、湿気で湿っている岩肌を輝かせていた。 だが、辺りは明るくとも、その場の雰囲気は暗く、同時に喧騒に包まれていた。
「布が足りない! 服でも何でもいいから持ってきて!」 「布はちゃんと熱湯でも何でも、簡単でもいいから消毒もしてくれ!」
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.234 ) |
- 日時: 2008/09/15 22:18
- 名前: テン
「痛ぇ! 痛ぇよ!」 「僧侶科の人たちも魔導士科の人たちも魔力がからっぽなんです! 治癒魔法は少しまってください!」 「もうやだぁ……」
そこはさながら野戦病院だった。 傷だらけで横たわっている者。その治療をする者。治療の手伝いのために走り回っている者。疲れを癒す者。恐怖で震えている者。多数のまだ少年少女と言ってもいい者たち。 それらを眺め、セルビウム・ボルト……セルは舌打ちした。 ここにいる者たちは、全員フローリア学園の生徒たちだった。 モンスター討伐という任を受け、そのために構成された生徒だけの部隊。 だが、それはすで瓦解していた。 セルのように、すでに任務をこなし、実戦を経験した者も何人かいたが、ほとんどの者たちは今回初めての実戦だった。セルたちとてそれほど多くの実戦を経験したわけではない。
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.235 ) |
- 日時: 2008/09/15 22:19
- 名前: テン
授業でモンスターと戦ったことはあったが、それはあくまで訓練だ。もし何かあったとしても助けてくれる教師がそばにいた。だが、今回は頼れる者は仲間しかおらず、その頼るべき仲間たちも他のクラスから召集された者も多く、顔を知っている者は少なかった。それで連携を取れというのも無理があるし、精神的な重圧がのしかかってきたのだ。 そのため最初のモンスターに奇襲という形で襲われた時には、生徒だけの部隊はほとんど瓦解していた。 何より場所も悪かった。森というフィールドで戦ったことのある者はほとんどおらず、その足場の悪さから、戦いにすらならなかったのである。 何人かはぐれてしまい、行方がわからない者もいるが、目の前で死人が出ていないだけマシと言える状況。 だが怪我人は何人も出た。 この時点ですでに任務は失敗と誰もが認めていたし、それでも遂行すると言うような人物も現れなかった。 そもそも今まで遭遇したモンスターの数が尋常ではなかった。怪我人もいる状態で、そんな数のモンスターの討伐など無理だった。
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.236 ) |
- 日時: 2008/09/15 22:20
- 名前: テン
それらの怪我人たちを背負いながらも、休めるところを探し、そこで魔導士科や僧侶科たちの魔法による治癒で怪我人たちの傷を癒した。 それから森を出るために動き始めるも、すぐにモンスターと遭遇し、戦ったり退却したりを繰り返すことになった。そのたびに怪我人を出しながら。 そうしている間に、彼らはこの森で遭難してしまったのだ。森のどの辺りにいるのからわからなくなっていた。 すでに一週間近くそんなことを続け、ようやくこの洞穴を見つけてから身体を休めることができるようになったが、精神的な限界が来ている。
「救援はこないのかよ」
セルは拳を握りしめながら呟いた。 すでにこれだけの時間が経ったのだ。任務は失敗だと学園も王国も考えているだろう。救援を送ってもおかしくはない。だが、同時に見限られたという可能性もまたあった。 どちらにしろ、この森にいるモンスターたちを放っておくことはないだろう。新たな討伐隊が送り込まれるはずだ。だから、救援にしろ、その新たな討伐隊にしろ、待つしか彼らにはなかった。もう自力でこの森から出るのは不可能だと、セルに限らず全員が思っていたのだ。
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.237 ) |
- 日時: 2008/09/15 22:21
- 名前: テン
それでもただ待っているだけでは発見されない可能性があるから、辺りを見回りする者、自分たちが生きているという目印を辺り散らばらせる者、食料など手に入れる者などと、この洞穴から出ていかなければならない。 今怪我で呻いている者たちは、そんな中でモンスターに襲われ、怪我を負った者たちだ。すでに治癒魔法が使える者たちのに魔力は底を尽き、怪我人たちはその者たちの魔力が回復するまで、応急処置で我慢してもらうしかない状況だった。 セルも先ほどまで見回りに出て、モンスターたちと戦ったのだが、それほど大きな怪我もなく帰ってくることができた。それでもそれに安堵していられるような状況でもない。 ただどうすればいいとセルは必死に考えていた。その表情は、学園では見られない真剣なものとなっていた。 セルがこれからどうすればいいと考えていたとき、いきなりセルたちと代わって見回りをしていた者たちが駆け込んできた。
「おい、助けかはわからないけど、誰か来たかもしれない!」 「本当!?」
駆け込んできた傭兵科の生徒たちを、怪我人を抜いた全員が希望の光を目に浮かべて見つめた。
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.238 ) |
- 日時: 2008/09/15 22:22
- 名前: テン
「ああ! そこら中にモンスターの死体が散らばってる!」 「ってことは救援じゃなくて、新しい討伐隊が組まれたのか?」
セルは報告を聞いて呟くが、他の者たちは別にどちらだっていいとやはり目を輝かせている。 実際、セルだってどちらでもいい。少なくともそれらついて行けば生存率は高くなる。 とにかく今は、その討伐隊を見つけなければならない。そのため再び外に出る者たちを選出しなくてはという話が出た時だった。
「悪いが、討伐隊でも救援でもない」
そんな低い声が、洞穴の中に反響して聞こえた。 いきなりの声に、全員が驚いて洞穴の入り口に通じる通路を眺める。すると灯りである炎に照らされて、黒い衣服を纏った青年が歩いてきていた。
「無事か、セル」 「きょ、恭也!?」 「ああ」
現れた青年、恭也にセルが驚いた声を向けると、彼はいつもと同じように無愛想に返事をした。 そんな恭也に、セルよりも早く小走りで近づく少女がいた。 本来ならは肩にかるくらいの長さである青髪を後ろで縛り、白を基調とした服の上にローブを羽織った魔導士然とした格好の少女。
「恭也さん!」 「フィルも一緒だったのか……」
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.239 ) |
- 日時: 2008/09/15 22:22
- 名前: テン
その姿を認めて、恭也は呟く。 彼女は少し前から親しくなった魔導士科の生徒だった。 恭也はフィルの身体に怪我がないことを確認してから問いかけた。
「二十六名、全員いるか?」 「はい……全員います。全員無事とは言えませんが」
それは見ればわかることだったが、それでもフィルは沈痛な表情で言葉にした。 恭也は頷くと、その場にいる全員を見渡す。 そんな恭也を見ながらも、セルは彼へと近づいた。
「討伐隊でも救援でもないって、どういうことだ、恭也? 大河たちはいないのか?」 「送られたのは俺だけだ」
それから恭也は全てを話した。 行方がわからなくなっている者たちはすでに近くの街で保護されていること。自分が斥候でしかないことなど。この森を調べた結果、多種多様なモンスターが相当な数で徘徊していることがわかったということ。 そして、自らが斬り殺したモンスターたちを調べていた人間の気配を感じたので、それを追ってここまで来たことまでを話す。 それらを聞いて、再び生徒たちの間に重い雰囲気が流れた。 恭也一人ではどうにもならない。
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.240 ) |
- 日時: 2008/09/15 22:23
- 名前: テン
確かにここにいる全員が、恭也は召喚器もなく救世主クラスに所属する猛者であるということを知っているし、多かれ少なかれ、全員が彼を尊敬していた。それどころフィルのように彼に心酔している者さえもいる。 だがやはり、彼には救世主候補たちと比べれば攻撃力が足りない。救世主クラス全員で来てくれたならともかく、彼一人ではここにいる全員を守りながら森を出ることなど不可能であると、その場にいる全員がわかっていた。 何よりそれを一番理解しているのは恭也だった。ここにいる全員を守りながら戦うことなど不可能であると。だからこそ助けに来たとは言わず、自分が斥候の役割であることを話したのだ。その心は彼らを助けると決めながらも。
「やはり破滅はもう動き出しているのでしょうか? こんなにモンスターが現れるなんて」
暗い雰囲気を察して、フィルが話を変えるために問いかけた。
「おそらくはな」
答えながらも、恭也は周りの雰囲気には構わず怪我人に視線を移す。
「怪我人は何人だ?」 「十人です。動けない者はそのうち六人」
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.241 ) |
- 日時: 2008/09/15 22:24
- 名前: テン
答えたのは、フィルでもセルでもなく、傭兵科の生徒で、この中では一番の年上。それでも恭也と比べればまだ少年と言えるほどの男。 彼がこの部隊では、暫定的ながら指揮官……いや、リーダーと呼ぶべき人物であった。
「治癒魔法を使える者は?」 「治癒魔法を使える者はすでに魔力が尽きてしまって、今は応急処置だけで何とかしています」 「それぞれのクラスは何人ずついる? あと魔力が尽きているのは何人だ? 動ける者だけを教えてくれ」 「残っているのは傭兵科の十二人、僧侶科三人、魔導士科が五人です。そのうち僧侶科の者全員と、魔導士科の中で治癒魔法が使える二人は魔力が尽きてます」
次々と生徒たちの状態を聞いていく恭也に、それが何なのだろうと説明する生徒は疑問に思うも、ちゃんと答えていった。 それらの答えを聞いてから、恭也はフィルに向き直る。
「フィル、お前も魔力は尽きているのか?」 「いえ、私は治癒魔法を使えませんから。こんなことなら覚えておけばよかった」
フィルは答えながらも、指を口へと持っていき、それを悔しげに咬んだ。
「後悔はあとにしろ。次は同じことにならないように努力すればいい」
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.242 ) |
- 日時: 2008/09/15 22:25
- 名前: テン
「はい」
突き放すような発言ながらも、そこに優しさ感じ取ったフィルは、指を咬むのを止め、うっすらと笑って頷いた。
「治癒魔法を使える人たちと比べれば魔力は残っていますけど、見回りなどで周辺を回っていたときに魔法を使っていたので、完全とは言えません」 「魔力の回復にはどのくらいかかる?」 「私は半日ほどおけば。他の人たちは一日二日時間があれば満タンまで回復すると思います」 「治癒魔法を使える者たちの回復を待ったとして、全員の傷を治せるか?」 「一回や二回では無理です。三回は魔力の回復を待たないと。つまり最低でも一週間はかかります」
だからこそ怪我人が溜まっていっているとフィルは告げる。 それらを聞いて、恭也は顔には出さないものの内心で驚いていた。 例えばベリオが治癒魔法に全力になれば、この程度の人数ならば造作もなく全員を回復させ、それでも余力を残すだろう。 つまり治癒魔法を使える一般化の生徒たち五人よりも、ベリオの治癒魔法の圧倒的に燃費も、その治癒力も上なのだ。いや、燃費ではなく、魔力の量自体が違うのかもしれない。
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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.243 ) |
- 日時: 2008/09/15 22:25
- 名前: テン
魔力の回復に関しても、ベリオやリリィ、なのはたちの方が早い。彼女たちは全ての魔力を使い切っても、半日程度でほぼ全快にまで回復させる。 救世主候補と一般の生徒たちではこんなにも違うのかと、恭也は改めて思わされた。 さてどうするか、と恭也は考えるも、今度はセルの方を向いた。
「セル、すまんが、武器はあるか?」 「その剣、使えないのか?」
セルは恭也の腰に差してある二刀に視線を向けるが、恭也は首を振った。
「ここに来るまでにモンスターを斬りすぎた。途中で払ったり拭ったりはしたが、血と油でもう斬れん。最後の方はほとんど鈍器のような使い方になってしまっていたしな。あとは霊力でだましだましやってきたんだが」
ついこの間研ぎ直してもらったばかりだというのに、と呟いて恭也は嘆息する。
「どれだけ斬ったんだよ?」
霊力というのが何なのかはわからないものの、剣が斬れなくなるほどのモンスターを斬ったということに興味を覚えたのか、セルは聞いた。
「一々数えていなかったが、大小合わせておそらく二五、六〇匹ぐらいだろう」
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