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黒衣(仮投稿)
日時: 2008/05/15 06:31
名前: テン

浩さんに許可を頂きましたので、暫くの間黒衣を仮投稿という形でこちらに投稿させて頂きたいと思います。

あくまで仮であり、落ち着いたらいつかは今までどうりに投稿したいとは思っていますので。
これも携帯からの投稿なので、少々見づらいかもしれませんがよろしくお願いします。
一章を分割して送っていきます。


目次

>>1-27 恭也編 四十二章

>>54-91 恭也編 四十三章

>>122-156 恭也編 四十四章

>>197-227 恭也編 四十五章

>>228-255 恭也編 四十六章

>>256-268 恭也編 四十七章

>>269-288 恭也編 四十八章

>>289-317 恭也編 四十九章

>>318-330 恭也編 五十章

>>331-340 恭也編 五十一章

>>351-367 恭也編 五十二章

>>368-382 恭也編 五十三章

>>383-394 恭也編 五十四章

>>414-433 恭也編 五十五章

>>434-457 恭也編 五十六章

>>458 恭也編 五十七章

>>459-480 恭也編 五十八章

>>481-503 恭也編 五十九章

>>504-532 恭也編 六十章
>>565-587 恭也編 六十一章

>>28-53 大河編 三十章

>>92-121 大河編 三十一章

>>157-196 大河編 三十二章

>>395-413 大河編 三十三章

>>341-350 外伝
メンテ

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.264 )
日時: 2008/10/08 07:18
名前: テン




十数人の少年少女たちが、その武器を持って、その言霊を以て森の中の戦場を渡る。

「魔導士! 炎系の魔法なんて使わないでよ! 木に燃え移って私たちまで蒸し焼きになっちゃうんだから!」
「そっちこそ、射線に入るなよ! 一緒に凍らせちまうぞ!」
「こんなところで氷漬けはいや、ね!」

そんな軽口が聞こえ、

「しゃあっ! 右いったぞ!」
「ようこそ、私の間合いに!」
 
タイミングを合わせる者たちの叫びが響き、

「フィル! 氷の魔法を使って敵を足を止めろ! セル! ボリジが相手にしている敵は固い! お前の剣で両断しろ! アキレア! パフィオ! ライラック! 逃げようとしているモンスターを追え! 向こうには怪我人がいる!」
  
使い慣れない剣を振りながらも、常に状況を把握してながらの恭也の指示が飛ぶ。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

そこに一つの悲鳴。
魔力が回復してきて、援護のために参戦してきた僧侶科の倒れて木の幹に背をつけた女生徒に向かって、人狼が爪を振り上げていた。
何人かが救出に向かおうとしているが、他のモンスターに邪魔されて間に合わない。
とうとう犠牲者が出る、それを見つめていた誰もが……いや、フィルを除いた誰もがそう思った。

だが、そうはさせんとする男が間違いなくそこにいた。

「しっ!」

恭也は今現在相対していたリザードマンが振り下ろした剣を、右手に持ったアスクの剣で受け止めながらも、残った左腕を高速で振るう。
その瞬間、恭也の左手に握られていたナイフが、その白刃を煌めかせながら射出された。
飛び出したナイフは投擲用のものでもない。だがそれは戦場でそれぞれ戦う生徒とモンスターの間を縫いながら、正確に今女生徒の命を奪おうとしている人狼へと襲いかかる。
ナイフは人狼の背中に突き刺さり、その化け物は痛みによって雄叫びを上げた。
その間に恭也は、目の前のリザードマンに向けて、徹を込めたバスタードソードを頭に向けて振り下ろす。頭部とはいえ固いを表皮に覆われたリザードマンには効きそうにもない一撃だった。
そして確かにその頭部は斬れず、ガキリというまるで固いもの打ち付けたような音が響いたが、リザードマンはその目から血を流し、倒れていく。
徹によって内部を破壊され、絶命したのだ。
恭也は倒れゆくリザードマンをわざわざ蹴りつけて、その反動を使い、一気に加速して戦場を駆ける。
そんな恭也を邪魔しようとするモンスターもいたが、

「お前らの相手は俺だ!」

セルに遮られ、その巨大なツーハンドソードによる一閃で一体の胴体が両断される。さらにそれが牽制となってモンスターは恭也を追うことはできなくなった。



メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.265 )
日時: 2008/10/08 07:26
名前: テン


昨日セルは、背中を預けると恭也に言われた。
今回文字通り預けられたのだ。
なぜなら女生徒に向かって駆ける途中で、恭也は確かにセルの目を見た。その目は確かに言っていた。後ろは任せた、と。
それに応えないわけにはいかない。

セルは剣を肩で担ぎ上げるようにして力を溜めると、それを一気に解放。腕と背中の筋肉を使い、全力で叩き下ろす。
それは猪顔のモンスターの右腕を切り飛ばす。そのさいに噴出した血がセルの顔を汚すが、彼は気にせず、振り下ろした自らの剣の腹を蹴る。
巨大で重量のある剣は、振り下ろしたあと引き戻し、再び構えるのでさえ時間を食う。だが自ら蹴った反動と腕の力を使い、一気にセルは剣を引き戻した。学園の教科書などには載っていない荒々しい剣の扱い方だ。
セルはそのまま腰を捻り、

「っらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

蹴り上げた足を一瞬で戻し、一歩踏み出すと、剣を横薙ぎに振り切る。
その重量のある剣が発する風を切る暴力的な音は、死にいくモノが聞く最後の音。
セルの剣は腕を失い絶叫を上げていたモンスターの胴体を断ち切るだけでは終わらず、残った左腕まで両断した。完全に上下二つに別れたそれは、最早絶命し、絶叫を上げていた口から血を吹くだけであった。
セルはその役目を全うしたのだ。


セルが奮闘している間に恭也は一歩ずつ、まだ痛みに悶えている人狼に近づく。
しかし、またも恭也の進行を邪魔をしようとするモンスターが現れる。
だが、その前にフィルが飛び出た。彼女は目で恭也に行ってくれと告げていた。それを見て、恭也は頷きながら女生徒を救うために、その場をフィルに任せる。


残されたフィルは、目の前のモンスター、巨大な斧を持った闘牛の化け物……ミノタウロスと呼ばれるモンスター。
その中でもフィルが相対しているそれは小さめのようだが、それでも彼女の倍はある身体。
一瞬震えが来たが、それでもフィルは気丈にその化け物を睨み、魔法ではなく、持ち歩いていた大きめの木の枝を投げつける。
それは斧による振り下ろしによって簡単に弾かれ、砕かれた。
しかし、フィルはそれを狙っていたのだ。

フィルは恭也と出会い、その彼に様々なことを教わった。それは援護の仕方であったり、純粋な戦い方だったりした。ある意味、彼女ほど魔導士科の中で実戦について教わった生徒はいないだろう。
この森で奇襲された時や、緊張などて身体が強ばっていたいたときは、それを発揮することはできなかったが、今は違う。
その教えの中にあった、相手が大きな武器を持っていた場合の対処方。
重量のある武器を持つ者には、むしろ攻撃を行わせろと教わった。そう言った武器は、二撃目に時間がかかる、と。その間に対処する。

目の前のモンスターは、その巨体に見合う力があるのだろうが、その手に持つ斧も身体に負けず劣らず巨大なもので、そのモンスターよりも大きい。当然の如く振り下ろされた斧は、再び持ち上げるのに時間を要する。
その間にフィルは呪文を呟きながら駆けた。ずっと前から唱え続けていた呪文。あとはそれを解放するだけ。
しかし彼女は、モンスターから離れるのではなく、むしろその懐に入っていった。フィルはリリィのように体術なんてものは使えない。肉体的にはか弱い少女だ。
そんな彼女が巨体のモンスターに近づくのは、恐怖以外には浮かばないし、遠距離攻撃を主体とする魔導士が自ら敵に近づくことなど普通はしない。
だが、フィルは自らが放つ魔法の威力のなさを自覚していた。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.266 )
日時: 2008/10/08 07:34
名前: テン


フィル自身はそう思っているが、彼女の魔法は決して威力が低いわけではない。むしろ魔導士科の主席だけあって、その威力も相当なものだ。
だが、だ。救世主クラスの者……リリィやなのはたちに比べてしまうと、それは大砲と弓矢ぐらいの差があり、やはり霞んでしまう。
この巨体のモンスターを一撃で倒すには、心許ない威力なのだ。そして、前衛がいない今、一撃で倒せなければ、フィルの負け……死は決定する。
本来は救世主候補と比較すること自体が間違いなのかもしれない。だが、恭也に任された以上、そんなことを言っていられない。

フィルは、ミノタウロスが斧を再び振り上げようとした瞬間に、その懐に到達すると、その腕を上げた。その先をその頭部へと向ける。
そして、

「ファルブレイズ!」

その叫びとともに、フィルの手の平から、その手の平大ほどの火球が飛び出した。
それはミノタウロスの大きく開いた口の中に、吸い込まれるようにして侵入していく。
フィルは魔法を放ったと同時に、転がるようにして一気にその場から離れた。
まるでそれに合わせるかのようにして、口の中に入った火球が爆裂し、ミノタウロスの上半身が弾け飛び、四散する。
臓器や脳症、目玉、骨が飛び散るスプラッタな光景。いくらモンスターの一部とはいえ、それを間近で見て、思わず喉元に酸っぱいものがせり上がってきたが、フィルは何とか絶えた。
森という燃えやすいものが集まった場所であるため、今まで火系の魔法は一切使ってこなかったが、今回は相手の中で爆裂させることで、その余波が回りにいくことを避けることができた上に、内部から破壊することで、威力の低さをカバーしたのだ。
言ってしまえば、ダイナマイトを口の中に放り投げられたようなものだ。これではモンスターと言えどひとたまりもない。

フィルは未だ下半身だけが立っているモンスターを見ながらも、安堵の息を付く。
何とか一人でも戦えた。
ただの魔導士であるフィルは、基本的に一人で戦うというのは無謀だ。魔法使いというのは、前衛と共にいることで本来は機能するのだ。
だが、今回は恭也をいかせるために一人で戦わなくてはいけなかった。彼はフィルならば大丈夫だと思ってその場を任せたのだから、その期待を裏切ることはできない。
フィルは、恭也が救いにいった女生徒のことは心配していない。それは彼女が冷酷だからなのではない。
彼女は信じているのだ、恭也を。
彼が誰も死なせないと言った以上は、それは絶対に実現する。誰も死ぬことなどありえない。
きっと彼は女生徒を救い、その命を守るだろう。
それは彼がこの世界に来たとき、初めての戦闘で、ゴーレムの拳からフィルを自らの身を挺して救ってくれたときのように。
だから、心配なんかしない。する必要はない。
自分たちは帰れるのだ。
ただフィルは、恭也の手伝いをすればいい。無論、恭也に頼り切るつもりはないが。
召喚器を持たない恭也を援護するのは、本来は救世主候補ではなく、彼女の役目だったかもしれない。もし彼が救世主科ではなく、傭兵科に編入していたならばありえたかもしれない未来。
それが今だけとはいえ実現している。ならばその間は……

「私は救世主候補のようになれなくても構わない。私ができる最大限のことを、恭也さんのためにすれば、それでいい」

フィルは力を込めて己の役目を言葉にした。
それは彼女の誓いにも等しいもの。
なぜならフィルは、ここにいる誰よりも早く恭也のようになりたいと、恭也に並びたいと、隣に立ちたいと思って今まできたのだから。
召喚器などなくても、彼のようになると誓って今までやってきた。
まだまだ彼に並べたなどとは思っていない。この任務で彼が来る前までの体たらくを思い出せば、そんなこと口が裂けても言えない。
だけどそれでも今は、いつか彼に並ぶために、自分ができることを最大限にこなすのみだ。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.267 )
日時: 2008/10/08 07:41
名前: テン



恭也はただ駆ける。
そこは森であり、戦場だ。障害物の多さは言うまでもないだろう。木、草、そして戦う者たちの武器や、援護のための魔法、モンスターや人自体が障害物だ。
だが恭也は木の幹を蹴り、モンスターを踏み越え、枝を掴んで進む。
時には邪魔するモンスターを一閃にし、苦戦している者たちが相手をしているモンスターにナイフを投げつけることで援護する。そんなことをしながら最高速で進んでいく。
そして、目標である女生徒の前で痛みに絶叫する人狼に到達する直前で、剣を持ち上げた。
彼が今握る剣は小太刀ではない。全長も重量も、普段使うそれと比べる倍以上になる。だがそれがどうした。
握る剣は違ったとしても、恭也は御神の剣士。
死なせないと言葉にした以上、その誓いを守るのみ。

木を蹴り、地に降りた恭也は剣を水平に構え、それを持つ右手を引き込む。
それは突きの体勢。

長さ、重さが違い、引き斬る剣ではないバスタードソードでは、斬は使えず、奥義のほぼ全ても使えない。
しかし、その奥義の中で唯一使える技。
無論、小太刀を使って放つそれよりも、正確さなどは格段に落ちる。だが、その本来の持ち味である速度は失われはしない。
それは奇しくもクレアと出会ったときにあった出来事のやり直し。
向かう相手は、同じく人狼。そして今、それはあのときのように再び女生徒に爪を振り下ろそうしている。狙う恭也は遠く離れている。
だからこそ、恭也が放つ技はあのときと同じ。

腕を引き込むとともに、恭也の腰が最大限に捻り込まれ、その背筋が力を込められ僅かに盛り上がった。
同時に、大地を踏みしめ、今までとて高速で動いていた身体が、弦に番えられた矢が解放されたかのような勢いでさらに加速する。
御神流奥義の一つである射抜。
先ほども言った通り、小太刀ではないので僅かに変形したものであるが、その超射程、超高速の形は変わりはしない。
身体自体を矢と化した恭也は人狼に向かい、その直前で腕を突きだした。
突進力と腰の捻り、上半身全ての筋力が込められた力、さらにはいつもとは違うバスタードソードという重く、厚い武器で放たれたそれは異様なほどの破壊力が与えられ、人狼の胸に突き刺さる……所ではなく、突き破った。
肉片を飛ばし、胸骨を粉砕し、まるで爆発を起こしたかのように人狼の胸から血飛沫と肉片が舞った。
恭也は内心で、剣をぞんざいに扱うことを本来の持ち主に詫びながらも、そのまま剣の柄から手を離す。
力も抜かれぬまま離された剣は、本当に矢の如く人狼の身体を連れたまま飛んでいき、襲われていた女生徒から少し離れた木の幹に突き刺さった。もちろん人狼ごとだ。剣を胸に突き刺されたまま木に縫いつけられたその姿は、百舌の速贄のように見える。抉れて破壊された胸とその姿は、モンスターであることを差し引いても、同情の念が湧いてくる。

武器を離した恭也は、すぐさまコートの中から取り出したダガーを両手に握り、倒れた女生徒を狙って集まり始めたモンスターたちを切り裂いていく。
囲まれれば木の幹を蹴り、上空へと逃げ、大きめの枝を蹴って、包囲から抜け出すと背後から強襲。恭也を無視して女生徒に近づこうとするモンスターがいれば、やはり木を使って空中を移動し、すぐさま殲滅する。
障害物を足場に変え、空を舞うその姿は、剣士というよりも曲芸師にも見えるが、その曲芸故についてこれるモンスターはいなかった。
敵からすれば突然消えたようにも見える動き方だ。モンスター程度についていけるわけがなく、救世主候補である大河すらついていけないのだから、この領域で戦う限り、恭也についていける者はほとんどいないだろう。

恭也は近くにいたモンスターを殲滅し終えるとダガーをしまい、木に縫いつけたバスタードソードを引き抜いた。当然一緒に縫いつけられていた人狼は支えを失って、ズルズルと木の幹にもたれ掛かるようにして地に伏せる。
剣についた血を払いながら、恭也は未だ身を縮めて震えている女生徒に声をかけた。

「もう大丈夫だ」
「え?」
「悪いが放心している暇はない」

そう言って、恭也は女生徒の腕を取ると、ほとんど強制的に立ち上がらせた。

「動けるな?」
「は、はい! ありがとうごさいました!」

女生徒は最初何が起きたのかわかっていないようだったが、周りに倒れるモンスターたちを見て、自分が助かったこと、そして恭也が助けてくれたことに気付いた。

「礼はいい。まだ戦闘中だ」
「あ」
「動けるようなら、他の者たちの援護を頼む」

恭也は下がれとは言わなかった。
ほんの少し前まで死の危機に直面していた少女相手にきついことを言っているのはわかっているが、それでも恭也は逃げろとは言わない。
だが、その目をただじっと見つめた。

「わかりました!」

僧侶科の少女はまだ少し震えているものの、法衣の裾と、握る杖を握り占めながらも恭也の目を見て頷いた。
今、ここにいる者たちに逃げるという選択肢はない。仲間を置いてそれはできない。皆脱出のために戦う仲間たちなのだから。そのために覚悟をもって戦っている。
それを恭也もわかっていたのだ。
恭也は頷く少女に僅かに笑みをみせ、軽く彼女の頭を撫でるとすぐさま戦場へと戻っていった。
少女は暫く撫でられた頭に手を触れ、顔を赤くしていたが、すぐさま援護のために動きだす。だが、その赤みはとれず度々恭也の背中を追っていた。無論、援護の手はゆるめず、先ほどのように油断せずに。
どうやら恭也は知らずのうちにファンを……慕う者を一人増やしたようだ。



メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.268 )
日時: 2008/10/08 07:52
名前: テン



恭也は戦場に戻るとすぐさまモンスターたちを斬り飛ばしていき、息切れながらも戦っていたセルに背中を合わせた。

「セル、疲れたか?」

剣を構え、目の前にいるモンスターを牽制しながらも、恭也は背後にいるセルに問いかけた。

「へっ、まだまだいけるぞ」
「上等だ。ならば一気に殲滅するぞ」
「応!」

背中を合わせていた二人は、弾かれたように飛びだし、相対していたモンスターたち断ち切る。
恭也は戦いながらも指示を出す。
犠牲者が出ると思われたものを恭也が覆したために、生徒たちのその士気はさらに上がっていた。
何より全員が生き残るという意思に溢れている。
恭也は、それに僅かな笑みを浮かべながらも鋼糸を取り出した。それを複雑に操りに、三匹のモンスターをまとめて縛り上げた。さらに糸をプラスし、まるで雁字搦めにする。モンスターたちがいくら人を超えた力を持っていたとしても、そう簡単には切れない。

「フィル!」

援護のためにすぐ傍まで来ていたフィルを呼ぶと同時に、その鋼糸の束を離した。

「はい!」

以心伝心とばかりに、恭也が何を求めているのかわかったフィルは、その両手を雁字搦めにされたモンスターたちに向けた。
そして長めに呪文を詠唱し、

「ヴォルテカノン!」

先ほど放った雷撃よりも、太い雷の束がフィルの両手から現れ、それがモンスターに向かう。
鋼糸にからめ取られたモンスターたちはかわすこともできず、それに晒された。そのうえにそのモンスターたちに絡まっているのは『鋼の糸』である。それ故にしばらく帯電し、モンスターたちを黒く焦がしていく。
完全にモンスターが動かなくなったのを確認すると、恭也は辺りを見渡した。
どうやら他の者たちも奮闘し、この辺りのモンスターは殲滅したようだ。
これで五度目の戦闘であり、それぞれの表情には疲れが浮かんでいるが、それでも皆懸命に戦っている。泣き言を漏らすこともない。
さらに何度か戦うことによって、経験もちゃんと蓄積されていた。

「一戦一戦、皆成長しているな」

恭也は満足そうに呟く。
皆ある程度の下地はできている。その下地は、はっきりいえば大河やベリオたちと比べても断然に固いものである。
そこに自信と経験を手に入れれば、このぐらいの成長はできるのだ。

「恭也さんのおかげですよ」

恭也の呟きが聞こえていたフィルが、笑顔を浮かべてそんなことを言うが、恭也は軽く首を振る。

「俺は何もしていない。それぞれの力だ」

恭也はそんなことを言うが、そんなわけはない。
皆それなりに怪我を負っているが、それでも死者が出てないのは、恭也の奮闘のおかげだ。先ほどとて恭也が助けなければ、女生徒の命はなかっただろう。それに生徒たちがある程度安心して戦えるのは恭也の存在と、その指示のおかげだ。
恭也がいなければ、もしかしたら今頃全滅していたかもしれない。
だが、フィルはそれを言わなかった。すでに恭也の人となりを知っているフィルは、それを言っても彼がやはり否定するのがわかっていたから。
だからただ苦笑を浮かべた。
二人がそんな会話をしていると、モンスターを倒し終えた生徒たちが周りに集まる。
それを見渡し、恭也は軽く笑ってみせた。

「最後まで気を抜くなよ」

生徒たちは恭也の言葉に力強く頷いた。
そして怪我人やその護衛の者たち集め、再び彼らは深い森の中を歩き始めた。
生きて帰る。そのために出口を目指す。



メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.269 )
日時: 2008/10/11 06:12
名前: テン





(さすがにきついな)

恭也は口には出さず、内心で呟く。
何がきついか。
それは自分自身のことであり、今も背後を歩く生徒たちのこと。
まず恭也自身、そろそろ体力がきつくなってきた。恭也は尋常ではない体力を誇っているが、その彼をしてきついと言える状況になってきた。
一人だったならばここまで消耗はしない。だが、今の恭也は他の生徒たちの命も背負っている。その緊張が普段以上に体力を奪っているし、ここまで何度かモンスターたちと戦い、その際に彼は指示、戦闘、援護、救出、その全てを行っていた。
そのおかげで誰一人として死亡者は出ていないものの、やる事が多すぎてその分集中力を使うため、さらに体力を奪っていっていた。そこまで動いているため、やはり傷を負い、戦った数が昨日よりも少ないにも関わらず、昨日以上に傷ついていた。
体力の消耗、傷口からくる痛み、それらを表情には一切出さず、恭也は常に戦い続けていたのだ。

そしてそれらと同じことが、生徒たちにも言えた。
彼らは、まだ生き残る意欲とも言えるものは潰えていない。その顔から覇気は消えていない。だが、確実に体力を奪われていた。怪我人も何人も出ていて、それを押して戦っている者も多い。
集中力も消えかかっている。

(どうしたものか)

確実に森の出口に近づいてきてはいるが。

(まったく、俺は指揮官タイプではないというのに)

慣れないことをしているという自覚はあるし、自らののやり方が指揮官らしいことでもないという自覚も恭也はあった。
例え指揮能力が多少はあっても、やはり指揮することには向かない。




第四十八章




そんなことを考えていた時だった。

「っ!?」

恭也は突然顔を上げ、そしてすぐに振り返ると後ろにいたフィルを突き飛ばし、さらにその両隣にいた魔導士科の女生徒と傭兵科の女生徒……パフィオとアキレアを抱え、飛び下がろうとした。

(間に合わんか!?)

一瞬でそう判断し、両腕に抱え込んだ二人をさらに密着させた。
突き飛ばされたフィルや抱え込まれた二人は突然のことにただ目を瞬かせることしかできない。そしてそれは後ろを歩いていた者たちも同じだった。
そして胸の中に抱え込んだ二人を守るように、恭也が背中を丸めた瞬間、それは来た。
木々の間、それも降るようにして現れる一つの影。
他の生徒たちもその存在に気付いたが、すでに遅かった。
影は急降下しながら恭也へと向かい、丸め込まれたその背中に鋭い爪を閃かせる。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.270 )
日時: 2008/10/11 06:16
名前: テン


「ぐっ!」

上がる恭也の苦悶の声。
同時に恭也の背中が引き裂かれ、血飛沫が舞い散る。
恭也は歯を食いしばることで激痛に絶え、さらにすまんと口にしてから、抱え込んでいた二人を手を離す。
二人は支えを失ったことで、地面に尻餅を着くことになったが、それを気にしている余裕は恭也もない。
すぐさま身体を回転させ、同時に剣を抜く。
恭也を襲った……正確には背後にいた生徒たちを襲おうとした……影は、奇襲を成功させ逃げ出そうとしていたが、遅い。
恭也は再び飛び上がろうとしていた影を、鋼糸で縛り上げ、力で地面に叩きつける。同時に鋼糸を解き、影を上段から叩き切った。

「くっ……」

現れた影……コウモリようなの羽根を持ち、黒い肌に、その頭に二本の角を生やしたモンスター。まるで悪魔のようも見える怪物。それが絶命したのを確認すると恭也は膝を着いた。
やはり集中力が乱れていた。これが空から奇襲してくることに気付かなかったのだから。
ナイフを投げて叩き落とそうとも思ったが、慣れない……それも投擲用でないナイフで空中にいる敵に当てるのが難しそうだったのと、当たっても奇襲を止められなかった場合、誰かが犠牲になるかもしれないと瞬時に判断し、恭也は後ろにいた三人を庇い、自らの身体を差し出したのだ。

「恭也! 大丈夫か!?」

恭也の突然の行動と、モンスターの奇襲で生徒たちが呆然としていたが、その中でいち早く正気を取り戻したセルが恭也へと近づいた。

「……大丈夫だ」

目の前で膝を着き、心配そうに眺めてくるセルに、恭也は苦笑し、だが額に汗を浮かべて言った。

「でも恭也さん、血がいっぱい!」

突き飛ばされたフィルも正気に戻るが、恭也の背中から流れる血を見て、顔面を蒼白にさせていた。

「それほど深くはない」

恭也は苦笑したまま、補助の手を借りているアスクを見た。彼も他の者たちと同じように、青ざめた表情で血を流す恭也を見ていた。

「すまん、アスク。鞘が少しイカれたようだ」

言いながら恭也は背中に吊していたバスタードソードを鞘ごと手に取った。その鞘には三本の亀裂が走っていた。これを背中に吊していたため、モンスターの爪は鞘に弾かれて、完全に恭也の背中を引き裂くことはなかったのだ。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.271 )
日時: 2008/10/11 06:18
名前: テン


しかし致命傷は避けたとはいえ、その傷は傍目にも酷いものに見えた。

「そ、そんなことはいいです。恭也さん、怪我の治療を!」

アスクは慌てたように言い、魔力が回復してきた僧侶科の生徒たちと治癒魔法が使える魔導士科の生徒たちが近づいてきた。とくに先ほど助けた僧侶科の少女と今庇ったパフィオが心配そうな表情を浮かべていたが、恭也は手を挙げて止めた。

「俺の傷はいい。魔力は温存しておけ」
「で、ですが……」
「応急手当だけすませれば問題ない。それよりもすまなかった」
「え?」

恭也の謝罪に、生徒たちは意味がわからず不思議そうな表情を浮かべる。

「空からとはいえ、奇襲に気付くのが遅れた。まったく、情けない」

集中力が乱れていたからとはいえ、空を飛ぶモンスターもいるというのも知っていて、頭上への警戒が薄れていたことに恭也は自身が情けなくてため息を吐いた。
それを言ってしまえば、生徒たちなど遅れるどころか気付きもしなかったのだ。そのため恭也を責めることなどできないし、自らを犠牲にして生徒たちを守ろうとした恭也の姿を見れば責めるなんてこと自体が考えられない。

(無様だな……)

生徒たちの内心に気付かず、恭也は己を罵る。
本来ならば気づけて当然のことを見逃した。例え慣れないことをしていて集中力を失っていたとはいえ無様としか言いようがない。
気を抜くなと言った己が気を抜いてどうする。
ここに誰もいなかったら己の未熟から来る悔しさで唇を深く噛むぐらいはしただろうが、今はそれもできない。表情一つが士気に影響しかねない。だから恭也は極力痛みすら表情に出していなかった。それがどれだけの精神力でできることなのかは恭也自身も理解していないが。





メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.272 )
日時: 2008/10/11 06:21
名前: テン




恭也はすぐに立ち上がった。もちろん痛みは抜けてはいないし、血は止まっていない。だがいつまでも苦痛を面に出しているわけにもいかないのだ。
だがそれを支えるように、先ほど恭也が助けた僧侶科の女生徒が彼の腕をとった。恭也は事前に全生徒の名前の全ては聞いている。名はカラーだったはずだ。

「手当します、服を」
「自分でやる」
「背中ですよ?」
「む」

確かに傷を負ったのが背中では、自分で治療するのに限界がある。
仕方がないと、恭也は僅かにため息を吐く。それも自らの未熟が招いたことだと受け入れねばならぬだろうし、ここで余計な時間を食っても仕方がない。
コートを脱ぎ、下のシャツを脱ぎ……

『っ!?』

上半身を露わにした恭也を見て……その強靭な身体に走る無数の傷痕に、生徒たちは一様に息を飲んだ。
隣に立っていたカラーも絶句し、口に手を当てている。
ここにいる生徒たちは戦闘技術を学んでいる。そのため大なり小なり傷を身体に残している者は確かにいた。だが、恭也ほどの傷を持つ者は誰一人としていない。それはこの世界に治癒魔法が存在し、傷痕が残りづらいというのもあるが、それ以上にそこまで傷を負うような訓練をしていないことと、実戦に遭遇していないからだ。
こうなることがわかっていたから恭也も藪の中ででも自分で治療したかったのだ。

「手当……してくれるのだろう?」
「は、はい……!」

背を向ける恭也に対し、カラーは何とか声を出して頷いた。
背中とは筋肉が発達しにくい箇所だ。だが、恭也の背はまるで岩のように硬い筋肉で覆われていた。だが決して動きを阻害するほどのものではなく、必要な所に必要な分だけあるとわかる。まるで鋼鉄とゴムの特質を同時に持つような筋肉。
それにも目を奪われるが、やはり目がいってしまうのは、その背中にまで広がる傷痕だった。
背中を傷付けられるということは、それは背後からの接近を許した、気付かなかったということで、剣士の恥と言われるが、その背中すらも傷が多くある。中には身体を貫通したと思われるような傷痕もあった。
だが、その傷は決して恥ではないと、その場にいる全員がわかった。理由などわからない、フィル以外の全員が、恭也が守るために強くなったなどというのは知らない。守って傷ついてきたことを知らない。
だが、知らなくともその傷が尊いものであることを理解した。彼が強くなるために、そして自らの想いのための傷であると。きっと今回のように誰かを庇ってのものも多くあると。
それは決して恥などではない。
訳もわからず、生徒たちは涙が浮かびそうになった。
しかしそれに耐える。



メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.273 )
日時: 2008/10/11 06:23
名前: テン

「水をおかけします。染みるでしょうが……」
「大丈夫だ。この通り怪我には慣れている」

カラーは恭也の言葉に頷くことはできなかったが、ゆっくりと革袋に入った水を恭也の背中にかけていった。
痛みからか、僅かに恭也の眉間に皺が寄る。
血が流され、傷口が覗く。鞘に弾かれたおかげでそれほど広くはなかったが、それはかなり深い。
水で流しても、再び血が流れてくる。傍で見ているだけだったフィルは、事前に熱湯消毒しておいたタオルで、それを軽く拭う。

「これ、本当なら縫わないと駄目ですよ」

フィルは流れ出てくる血に顔を青ざめさせながらも言う。

「糸と針があればやったのだが、持っていないか?」
「さすがにないです」
「だろうな」

これから戦いにいくというのに、裁縫道具など持ってくる者はそういまい。もっとも裁縫道具で傷を縫おうとすること自体が出鱈目であるのだが。
だが恭也は本当にそれらがあったなら、迷わずやっただろう。いや、背中であるからやってもらったか。

「やっぱり魔法を使った方が」

カラーが聞くが、恭也は頑として首を縦に振らない。

「それは駄目だ。あと少しだが、だからこそ魔力は温存させたい」

自らのせいで貴重な魔力を使わせたくないというのも確かに恭也にはあったが、それ以上にやはり少しでも脱出に必要なものは温存したかった。もう少し、だからこそ油断が出来る。今回の己のように。選択できたはずの選択肢を減らすわけにはいかない。

「ですがこのままでは血も止められません」

確かにその通りだ。傷はどうやら恭也が思っていたよりも深く、このままでは出血で命が危なくなるだろう。

「……焼くか」

ポツリと恭也が呟く。その声は小さく、カラーとフィルには聞こえなかった。だが、なぜか少し離れた位置にいたセルにだけ届いた。不穏当な言葉を聞いたセルは、思わずカラーを恭也の傍からどかし、小声で恭也に声をかける。

「焼くって何をだよ?」
「傷口を焼いて血を止める」
「ちょっ、おまっ」

何でもないことのように言う恭也に、セルが思わず言葉にならない声を上げた。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.274 )
日時: 2008/10/11 06:26
名前: テン



「このまま血を流して歩くわけにもいかん。血が足りなくなる」

恭也はセルにそう言ってから、そこらの枯れ木や枯れ枝を集め出す。だがカラーやフィルたちがそれを止め、何をする気かはわからなかったが、恭也に変わってそれらを集め出す。
そして、やはり恭也の指示によって、最低限の魔力で火を起こす。もちろん周りに火の粉がいかないように気を使いながら。
恭也はそれを見て、脱いだコートから生徒たちに受け取ったナイフを取り出し、それを火に翳す。その間、フィルとカラーはずっとタオルで恭也の傷口を押さえながらも、彼が何をする気なのかわからず、首を傾げていた。
少しすると、恭也はナイフを火から離し、その切先に手を翳す。そして頷くと、その柄をセルに渡した。

「すまんが、セル、やってくれ」

背中であるため、自分では手が届かない。そのために恭也はセルに任せることにした。

「マ、マジか?」
「ああ。フィル、そのタオルを貸してくれ」
「は、はあ」

恭也はフィルにタオルを受け取ると、血が付いていることも気にせず、それを口に銜え、背中をセルへと向けた。


セルはしばらく熱せられたナイフと、恭也の背中を交互に眺めていたが、一度顔を顰めさせたあと、覚悟を決めたように唇を噛んだ。

「くそっ!」

そして恭也の背に近づくと、そのナイフの腹を彼の傷口に押し当てた。

「ちょっ!」
「なっ、セルビウム君!?」

カラーとフィルが、その行為に目を見開く。それは二人だけに限らず、それを見ていることしかできなかった他の生徒たちも同じだ。

「ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

背中に感じる熱。それによってさすがの恭也も激痛で苦痛の声を上げ、口に銜えていたタオルを噛む。元々痛みによって歯を食いしばるため、唇を噛まないために、そして歯を砕かないために銜えていたのだ。
肉に焦げる臭いが辺り漂う。だが、それは人の身体から出ているもので、目の前の光景と相まって、吐き気すら催しそうな臭いに感じる。
セルもまるで自分が同じことをされているかのように辛そうな表情を浮かべ、歯を食いしばっていた。それでも恭也の傷に合わせて、ナイフを動かしていく。

「恭也、一端離すぞ。ナイフの熱が引いてきた」

恭也は息も絶え絶えに頷く。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.275 )
日時: 2008/10/11 06:31
名前: テン


セルも一度大きく息を吐き、再びナイフを火に翳し始める。恭也は、息切れを繰り返し、ほとんど地面に寝転んでいるような状態になっていた。痛みから意識が飛びかけている。

「セルビウム君! なんでこんな!」
「セル! こんな方法はないだろ!?」
「こんなことするなら魔法を使った方が!」

他に手段はあるというのに、こんな荒っぽい治療の仕方などないと生徒たち全員がセルに詰め寄った。
もちろんセルを責めることなど間違っている。この方法を望んだのは恭也だ。それは自らナイフを渡したことからもわかるだろう。

「うるせぇ!!」

セルはただ叫んだ。

「こんな方法しか選ばせてやれないのは誰のせいだよ!? 俺たちのせいだろうが! 最初っから最後まで、全部俺たちのせいだろ!? 俺たちがしっかりしてれば、強ければ恭也がここまですることなんてなかったんだよ! さっきだって、恭也以外の誰かが奇襲に気付いても良かった! 俺だって気づけてもおかくしくなかった! なのに俺たちは恭也に頼り切って、気付かなかったんだ! 恭也が謝る必要なんてどこにあんだよ!? そもそも俺たちがしっかりしてれば恭也はここに来る必要すらなかったのに!」
「あ……」
「俺たちは今まであいつの背中に負ぶさってただけだろうが!? 恭也が情けない!? 違うだろ! 情けないのは俺たちだ! 最大限に俺たちのことを考えてくれてるのは恭也なのに、そのために治癒魔法すら使ってやれないんだ! 使わせてくれないんだ!」
「…………」
「恭也にそんなことさせちまってるのは、俺たちなんだよぉ……チク……ショウ……!」

セルの姿を見て、全員がそれ以上非難することなどできなくなっていた。セルはただ唇を噛みしめて、前髪で目を隠しながら、ただナイフを火に翳している。だがナイフの柄を握る手は震えていた。それは自らへの怒りだ。
恭也が自分たちのために、こうすることを望んでいる。数少ない武器を守るために、脱出のための道具を温存するために、自らは苦痛に耐えている。
それをさせているのはここにいる全員なのだ。
セルは唇を噛みしめすぎて、そこから一筋の血を流した。まるでそれは悔しさのために流す涙の変わりのように。


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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.276 )
日時: 2008/10/11 06:33
名前: テン


そしてセルは再び立ち上がり、恭也の横に座った。

「恭也」

先ほどのような激情は見せず、ただセルは恭也を呼びかける。

「っ……だい……じょうぶ……だ」

恭也は朦朧としていた意識を戻し、セルに答える。激痛で意識を失いかけていた恭也は、セルの叫びは聞こえていなかった。
そんな恭也を見て、セルは沈痛な表情をとる。

「もう少し……頑張ってくれ」
「ああ……頼む……嫌な役目を……背負わせて悪いな……」

それでもまだ自分たちを気遣う恭也に、セルはまたも唇を噛みしめたくなったがそれに耐えた。

「嫌な役目なんかじゃねぇよ。いくぞ」
「ああ……」

セルは再びその傷口に、熱したナイフの腹を恭也の傷口へと押しつけた。

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

恭也の叫びが森に響く。その激痛が顔が歪む。今までの戦闘でも見せなかったその表情と絶叫。
生徒たちは、それらから顔を背けるわけには、耳を閉じるわけにはいかなかった。
なぜならそれは自分たちの弱さへの、情けなさへの戒めだから。
だから見続けなければならない。聞き続けなければならない。どれだけ悲しくとも、どれだけ辛くとも。
だって……それ以上の痛みに苛まれているのは恭也で、そうしてしまったのは自分たちの弱さの所為なのだから。
恭也が責めなくとも、それは間違いなく、そこにいる全員の所為なのだから。
だから生徒たちは泣きそうな表情で、恭也の姿を見続けて、絶叫を聞き続けた。
もう二度と、こんなことはさせないと誓いながら。




メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.277 )
日時: 2008/10/28 06:52
名前: テン




◇◇◇



「ふう」

恭也は大きく息を吐き出す。シャツは着ず、素肌の上にコートを羽織った状態で、ただ座り込んでいた。傷口には布を破っただけの簡易的な包帯が巻かれている。
さすがに傷口を焼くのはきつかった。血を止めるためとはいえ、皮膚が裂け、神経が過敏になっているところへ高温の鉄を押し当てるその所業は、正直恭也が今まで負った怪我の中でもトップレベルに入る激痛だった。
魔法以外の手段を選んでいる暇がなかったからこその行動だが、できればもう二度としたくない。

「恭也さん……」

そんな恭也をフィルはやはり泣きそうな顔……いや、本当に涙を溜めて覗き込む。

「ああ、心配するな、もう問題ない」

その言葉は嘘だ。未だに背中の激痛は消えていない。それも当然だろう。血は止まったが、怪我の重傷度は火傷によってさらに増えた。毒を以て毒を制す、とは言うが、出血多量の危機は消えても、火傷の痛みが消えるわけではない。

「そんな……恭也様……ご自愛ください」

フィルの隣でもカラーが恭也の名を呼ぶが、恭也は顔を顰めさせた。

「様付けは止めてほしいのだが」

十六夜に様付けされるのも未だ慣れない恭也にとって、年下の少女からそんなふうに呼ばれるのは正直嫌だ。
だが、カラーは様付けすることを譲らない。彼女の中では、フィルと同様に恭也の存在はすでに尊敬の域を超えている。今までの恭也の行動から、彼女が信仰するものと同列にまで行き着いていた。
恭也はため息を吐き、仕方がないと苦笑してその手をカラーの頭に伸ばし、ベリオと同じ金糸の髪を撫でた。やはりベリオと同程度に長い髪が揺れる。
カラーの年齢的に考えれば頭を撫でる行為は、それこそ子供扱いしているようなものなのだが、その童顔と140p半ばほどしかない低い身長のため、どうしても恭也の手は彼女の頭に伸びてしまう。
だがカラーは気にした様子もなく頬を赤くして撫でられていた。それをフィル……だけでなく、先ほど恭也が助けたパフィオとアキレアや他数人が羨ましいそうに眺めているのだが、恭也は当然気付かない。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.278 )
日時: 2008/10/28 06:55
名前: テン


「さて……」

そろそろ歩かなくてはならない。怪我の治療と休憩でかなり時間を潰してしまったが、休憩に関しては必要なものだった。
恭也は自らの怪我の治療を見ていた生徒たちを考えて、長めの休憩をとったのだ。もちろん恭也自身も休憩が欲しかったが、あんな拷問とも言えるような止血を見てしまった生徒たちもかなり気疲れしていた。だからこその休憩だった。
今までなるべく苦痛を出さないようにしていたのに、あれで結局士気や戦意を下げてしまったと恭也は考えていた。だが、他に方法もなかったし、さすがにあの方法で苦痛を面に出さないのと、苦悶の声を出さないのは恭也でも無理であった。
そのため生徒たちを落ち着けるための時間が欲しかったのだ。

だが、その考えが外れていたことに恭也は気付いていない。確かに生徒たち皆見るからに消沈しているが、それは自らへの不甲斐なさによるためだ。見た目的には確かに暗い表情を見せているが、その内には堅い決意が宿っている。
即ち、もう二度と恭也にあんなことはさせない、と。
その想いはやはり見た目とは裏腹に、高い士気と戦意を生ませていた。
恭也はこれからどうやって再び士気を上げるか考えていたが、すでにそれはもう十二分に高まっているのだ。

そうして恭也たちは再び森の中を歩き出す。
鬱蒼とした森を歩いている最中、恭也は内心で首を傾げた。
傷を負っても恭也は先頭を歩いていたので、後ろの生徒たちの様子は正確にはわからない。だが、その歩き方がどうも先ほどよりもしっかりとしている感じがし、さらに力強く感じる。
同時に心配されているのか、先ほど傷を負った背中に視線を集めている。だが、その視線さえも力強く感じた。

(……ふむ、不甲斐ないと思われて逆に戦意を上げられたか?)

恭也は、本来と逆の答えにいきついていた。
生徒たちは自分たちの不甲斐なさを自覚し、少しでも恭也の負担を軽くするために、自らを奮起させているのだが、恭也は自分には任せておけないという心配か、不甲斐ないと思われて、自らでしっかりしなければならないとでも考えたか、などと思っている。
何にしても戦意が下がっていないのならばいいことだ。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.279 )
日時: 2008/10/28 06:56
名前: テン


問題があるとすれば……

(俺がどこまで戦えるか……)

それだけだ。
表面上は変わっていないが、恭也の体力は先ほどよりもなくなっていた。大量に血を流し、拷問とも言える方法で血を止めたのだ。それは当然のことだった。いくらそのあとある程度休憩したとはいえ、回復させるには限度がある上、休憩中も背中からくる痛みでそれほどの回復はできなかった。
そして、その背中の傷は常に痛みを伝えてくる。
体力をなくし、激痛が走る身体でどこまで戦えるか。
少なくとも神速は使えそうにないし、派手に動くことも難しい。
どちらもある程度は精神力で何とかなるが、やはりある程度まででしかない。
出口まであと少し、だが恭也の勘が告げている。まだモンスターは現れると。
先頭に立っているため表情が見えないのがわかっていても、恭也はそれらの負担材料を顔には出さなかった。

そして、恭也の勘は当たった。

「恭也」
「恭也さん」

恭也が足を止める前に、セルとアスクが同時に彼を呼んだ。

「気付いたのか?」

恭也は僅かに驚きながらも、振り返って呼び止めたきた二人を交互に見つめる。

「何となく、な」
「僕も何となくです」

そんな言葉を聞いて、恭也は苦笑した。
どうやらセルは今回のことでかなり成長しているようだし、戦闘に参加していないはずのアスクも、感覚的な部分が成長しているようだった。
セルとアスクのように敵を感じ取れたわけではないだろうが、三人の言葉からそれでも何かを感じ取ったのだろう、フィルたちも自らの武器や手を力強く握っている。

「少し行ったところにモンスターがいる。少し出口から遠ざかるが、避けよう」

恭也は自らの身体と他の生徒たちの精神状態や、その体力を考えて避けることを伝えた。

「恭也、それってどれかくらいのロスになる?」
「……避けたところにモンスターがいるかどうかで変わるが、いなかったと仮定しても数十分はロスになる」

セルの質問に、恭也は偽ることなく答えた。

「なら戦った方がいい」
「……セル、時には避けられる戦いは避けた方がいいというのは教えただろう」
「聞いた」

この行軍の最中、恭也は生徒たちに様々なことを教えてきた。それは単純な戦い方ただけではない。
だが、それらを聞いてなお、セルは戦おうと言う。それは自信から来るものではなく、早く脱出するためだろう。

「敵を感じ取れても数まで感じ取れていないな?」
「それは、まあ」
「前方にいるのは二十匹近くだ」

まだ恭也の体力が残っていて、身体も万全な頃ならばどうにかできる数だったが、今の状態でそれだけのモンスターと戦うのは正直きついとしか言えない。
恭也の戦闘能力が半減しているような状態なのだ。

「いける」

だが、それがわかってなお、セルは言い募った。
その真剣な表情を見て、恭也はため息を吐く。

「わかった」

確かに早く脱出させてやりたいし、多少の無茶はしようと恭也は納得した。
だが、恭也がバスタードソードを手にとろうとしたときセルがそれを止めた。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.280 )
日時: 2008/10/28 06:58
名前: テン


「恭也は休憩してろ」
「なに?」
「背中、痛むんだろう?」

恭也はそれを隠しているつもりだったが、怪我の程度が程度だ。表情に出さなくとも、その傷の酷さから生徒たちが恭也を無理をしているのは理解していたのだ。
やはり不甲斐なく思われているのか、と恭也は内心で嘆息する。だから言うことも聞かなくなっているのかもしれない。

「大丈夫だ」
「嘘つくな」
「本当だ」
「嘘をつくなよ!」

セルは突然叫んだ。
唇を噛みしめて、恭也の顔を真っ向から見つめながら。
だがすぐに首を振って、自分を落ち着けるようにゆっくりと喋り始めた。

「傷だけじゃない。体力だってかなりなくなってるんだろ」
「…………」
「考えてみりゃ、簡単にわかることだろ? 俺たちは戦う者と護衛を切り替えて、何度も休憩してる。だけど恭也はずっと戦いづめだろう。それに休憩のときだって敵に注意して集中しつづけてる」

護衛をしているときも確かに緊張はするが、それでも体力を回復できる。だが、恭也は常に前戦で戦い続けていた。つまり他の生徒たちと違い、恭也は戦闘の度に体力を消費してきたのだ。
だが、どの戦闘でも恭也がいなければ危なかったのもまた事実だ。それはセルも理解している。
そして休憩のときでさえ、他の者たちが安心して体力を回復できるようにあたりに注意を払っていた。やはりそれらが恭也に負担をかけていた。

「…………」

セルの真剣な目を見て、恭也はようやく悟った。自分が不甲斐なく思われているのではなく、心配されているのだということに。
そして……

「頼むよ、恭也」
「セル……」
「俺たちは戦える」

セルたちが、恭也が背中に受けた傷がを自分たちの所為だと思っていることに。

(やはり俺は指揮官には向かないな)

指揮する者たちの心情を理解できない己は、やはり指揮官には向かない。そう思って、恭也は表情には出さず、内心で苦笑した。
指揮官と言うには、恭也は少々過保護過ぎた。もっともその過保護さがなければ、今頃死人が何人も出ていたことだろうし、他に目的があったならば、もっと冷酷な指揮を執っただろう。
恭也は決して甘くはないが、自身で思う以上に過保護なタイプだった。ただその過保護さが発揮されるのは、戦いや御神の剣士として立つ場所でだ。それはここにいる生徒だけではなく、恭也が育ててきた美由希もであり、家族に対してであり、今まで守ろうとしてきた者たちにもであり、救世主候補たちに対して向けるものでもあった。
そういう意味では、やはり恭也は指揮官には向かないかもしれない。冷酷、冷徹になることはできるが、そうならなければならない時以外は発揮されることはなかった。必要のない場所で仲間の命を散らすことを良しとしない。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.281 )
日時: 2008/10/28 06:59
名前: テン

「……わかった」

だが今は信じるときだ。
いつまでも過保護でいるべきではない。今後のためにも、恭也がいない戦場を感じさせるのにはもってこいではあるし、彼らの心情的にもその方が気分が晴れるだろう。
だが、助言だけは残さなくてはならない。決して彼らを死なせないためにも。

「いいか、身体的な能力は相手の方が勝っている。決して力押しで対抗するな。それをすれば簡単に負けるぞ」
「……ああ」
「場所を有効活用し、チームワークで乗り切れ。今までの行動からわかるようにあちらは連携などないようなものだ。そして常に前衛、後衛を意識して戦え。魔法の使いどころを間違えるな。セル、お前が他の者たちを指揮しろ」
「俺はそんな経験ないし、指揮教育なんて受けてないぞ」
「本来ならばアスクの方が適正はありそうだが、この場合は単純にこの中でお前が一番実戦の経験がある。それにこの中で一番強い」

現場での指揮能力というのは個人の強さよりも、実戦経験の方が重要ではあるが、ある程度強さがあれば余裕ができるのも確かだ。

「それとお前は基本的に傭兵科の生徒を指揮しろ」
「ってことは魔導士科とかは……」
「フィルがやってくれ」
「私……ですか」

本来ならば指揮系統は一本化するべきではあるが、この中では一番実戦経験があるとは言っても、それとて少しばかり上というだけであり、指揮教育など受けていないセル一人ではこの人数全てを背負うのは重い。
それに前衛での戦い方を一番理解しているのは傭兵科であり、後衛の……そして魔法の運用法を一番理解しているのは魔導士だ。その運用法の方が扱いやすいだろう。人数的にはセルの方が難しくなるとしてもだ。

「全体的な指揮権はセルに。フィルは補佐程度でも構わない」

それにセルとフィルは真剣な表情で頷いた。
恭也はさらに今までよりも護衛の数を減らした。今まで護衛の方までモンスターに抜かれたことはなかったし、もし抜かれても自分が何とかすると伝え、戦いに出る人数を増やしたのだ。
恭也にはわからないことだが、これによって生徒たちはさらに奮起した。絶対にこれまで通り抜かせない、と。それは別に恭也の指示によって頭にきたからではなく、モンスターに抜かれれば、恭也にまたも労力を強いるからに他ならない。
メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.282 )
日時: 2008/10/28 07:00
名前: テン


そしてとうとう恭也を抜かし、生徒たちはモンスターがいる方向へと進んでいった。恭也は初めてそんな生徒たちの背を見送ることになる。
木々の中に消えていく生徒たちを最後まで見つめたあと、恭也はその場に座り込む。木に背をつけようとも思ったが、背中の傷が痛むのでそれはできない。

「恭也さん、みんなを信じてください」

そんな恭也を見て、背後にいたアスクが言うが、恭也は曖昧に笑った。

「信じているさ」
「そう……ですか」
「信じられないかもしれないが、これでも俺はお前たちを頼っている」
「え?」

突然の恭也の言葉に、アスクだけではなく他の残った生徒たちも驚いた様子で恭也の背中を眺めた。

「今まで、お前たちができると信じて、指示してきた。その信頼にお前たちはちゃんと応えた。それなのに信じられないわけがなかろう。何より、俺一人だけの力でここまで来れるわけがない。皆が力を合わせたからこそ、ここまで誰一人欠けることなくいられた」

だから、と恭也は続けて、顔だけを振り返らせて怪我人と護衛の者たちを見つめて微笑み、

「あいつらだけでも誰一人欠けることなく戻ってくる。そう信じている」

信頼の言葉を紡いだ。



◇◇◇



セルは藪に身を隠し、前方にいるモンスターを見据えたあと、振り返って後ろにいる仲間たちに視線を向けた。

「一応言っておくけど、誰も死ぬなよ。ここで誰かが死んだら、恭也が今までしてきたことが全部無駄になる。そんなことは俺が許さねぇ」

まるで恭也の行動の方が、ここにいる全員の命よりも重いと言っているようにも取れる言葉。
だが、生徒たちはそれに非難の声など上げない。
当然だ。彼らの胸には、自らの命よりも重いものを秘めている自覚があった。だが決して命を軽んじたりしない。
なぜなら、この命は今までたった一人に守られてきたものなのだから。もう自分のためにでも無駄にできるはずがない。

「ボクたちは死ぬ気なんてないよ。死んでたまるもんか。恭也さんがあそこまでしてくれたのに、ボクたちがそれを無駄になんかできないよ」
「恭也さんの痛みを、想いを、決意を、無駄になんかしませんわ」
「僕たちが、それを踏みにじるわけにはいかない。そして僕たちにはそれ以外にも何が何でも生き残らなきゃけいない理由ができた」

パフィオが、アキレアが、ライラックが、

「いつか胸を張って恭也様の隣に立つためにも」
「恭也さんに守られる存在じゃなくて、いつか共に戦うためにも」

カラーが、フィルが、

「そのためにも……」

再びセルが、

「俺たちは……」
「ボクたちは……」
「私たちは……」
「あたしたちは……」
「僕らは……」

そしてその場にいた全員が、

『必ず生き残る!!』

その決意を叫び、モンスターへと飛びかかっていった。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.283 )
日時: 2008/11/18 07:06
名前: テン




傭兵科の生徒たちはそれぞれ武器を握り、走った。
その両脇を固めていた魔導士と僧侶たちも、藪に潜伏している間に呪文を唱え終えていた魔法を一気に解放。
総計六人の手や杖から放たれる魔法の嵐。
雷、氷矢、光線、風刃、土槍、闇球……
それらが轟き、乱れ、爆ぜ、四散する。
一つ一つは救世主候補などの攻撃と比べれば小さいものでしかないかもしれないが、その全てが交わることで、効果は一気に跳ね上がり、効果範囲もまた広大なものとなった。
モンスターたちの絶叫が聞こえるのを無視して、セルを含めた傭兵科の生徒たちは、己の武器を持つ反対の手に握っていたものを一斉に投げつける。
空中に煌めく十の白刃。
傭兵科の生徒が主武器以外にそれぞれ何本か持つナイフ。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるを地でいく戦法。無論、何人もの仲間がいて、そして奇襲だからこそできる方法でもある。
恭也のように狙って投げることが出来ず、まだ予備はそれぞれ所持している。そんなものをいくつも後生大事に持っていても仕方がないということでセルはこの戦法を指示した。無論、ダメージが与えられたらめっけもの程度のものでしかなかった。
しかし予想外と言うべきか、数本は表皮の薄いモンスターたちに突き刺さっていた。中には目に突き刺さっている。
セルは魔法によって倒されたモンスターをざっと見渡す。

「あと十七匹! 死にかけもいる! 一気に畳みかけるぞ!」
「応!」
「はい!」

セルの指示に応え、軽めの武器を持ち、速さを持ち味とする数人が一気にモンスターへと詰め寄っていく。

「はあっ!」

アキレアが人狼に向かってその手に持つレイピア《刺突剣》を高速で突き出す。幾度も突き出されるそれは、人狼から見て大輪の花に思わせる技であるだろうが、それは人浪に向けて捧げられる死の花。
目、口、関節、腹、アキレアのレイピアは正確に人狼の急所に幾度も突き刺さる。
しかし生命力の高いモンスターはそれでけでは死なない。だが、その痛みで絶叫を上げ、動きが鈍る。それだけで十分。
アキレアは一人ではないのだ。
彼女はそのまま長い茶の髪を揺らしながら横へと跳躍した。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

そこへバスタードソードを水平に構えたライラックが、動きが鈍った人浪へと突撃していく。突撃力を使って人狼の胸へと深々と剣を突き刺し、さらにそのまま下へと切り裂いた。
人浪の引き裂かれた胸から噴出する鮮血がライラックの顔に吹きかかるが、彼はそれを腕で拭うと剣を引き抜いた。

「次にいきますわよ」
「ええ」

それを見ていても顔色を変えずに言うアキレアにライラックは小さく頷く。
そして二人は新たな得物へと向かっていく。
そう、すでにここにいる者たちにとってモンスターは得物にすぎない。強くなるための得物。少しでも強くなり、あの遠い背中に追いつくための道具でしかなかった。


メンテ

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