このスレッドはロックされています。記事の閲覧のみとなります。
トップページ > 記事閲覧
黒衣(仮投稿)
日時: 2008/05/15 06:31
名前: テン

浩さんに許可を頂きましたので、暫くの間黒衣を仮投稿という形でこちらに投稿させて頂きたいと思います。

あくまで仮であり、落ち着いたらいつかは今までどうりに投稿したいとは思っていますので。
これも携帯からの投稿なので、少々見づらいかもしれませんがよろしくお願いします。
一章を分割して送っていきます。


目次

>>1-27 恭也編 四十二章

>>54-91 恭也編 四十三章

>>122-156 恭也編 四十四章

>>197-227 恭也編 四十五章

>>228-255 恭也編 四十六章

>>256-268 恭也編 四十七章

>>269-288 恭也編 四十八章

>>289-317 恭也編 四十九章

>>318-330 恭也編 五十章

>>331-340 恭也編 五十一章

>>351-367 恭也編 五十二章

>>368-382 恭也編 五十三章

>>383-394 恭也編 五十四章

>>414-433 恭也編 五十五章

>>434-457 恭也編 五十六章

>>458 恭也編 五十七章

>>459-480 恭也編 五十八章

>>481-503 恭也編 五十九章

>>504-532 恭也編 六十章
>>565-587 恭也編 六十一章

>>28-53 大河編 三十章

>>92-121 大河編 三十一章

>>157-196 大河編 三十二章

>>395-413 大河編 三十三章

>>341-350 外伝
メンテ

Page: 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |

Re: 黒衣(仮投稿) ( No.304 )
日時: 2008/12/22 02:03
名前: テン


時間はかかったものの回復魔法で怪我が治ったアスクがそんなことを頼むと、恭也は自分が教えられることなら、と受け入れた。
そんな中、パフィオとアキレアが恭也を心配そうに見つめた。

「恭也さん、背中は……」
「その……傷痕はやはり消えませんの?」

恭也の背中の傷。無論それも魔法で癒された。しかし、それが少しばかり遅かった。安全な町へと戻っても、恭也は自分ではなく重傷を負った生徒たちの怪我を優先させた。そのため彼が治癒魔法を受けたのは、三日ほど経ってからになってしまったのだ。
町の医者に治療は受けたものの、三日も経ってからの魔法だと、怪我を治すことはできても傷痕がどうしても残ってしまった。

「ベリオなら今からでも消せるかもしれないが、今更だ」

ベリオの治癒魔法なら、その傷痕さえも消してしまえるかもしれないが、恭也は頼まなかった。恭也にとって傷痕が一つや二つ増えたところで今更変わりはしない。今まで気にもしなかったのに、ベリオに頼むのも今更。二重の意味での今更だった。

「剣士に傷などつきものだ」

自分の答えに少し沈んだ表情をフィルたち全員が浮かべたのに気付いた恭也は、少しばかり不器用に笑みを作って言う。

「それに……守るためにできた傷ならば名誉……とは言わないが、他の傷と違って情けなさは少ない」

誰かのために受けた傷痕が、その後もその人物を責め苛んでしまうことを恭也も知っている。だが、それでも恭也にとって未熟な証である大多数の傷痕よりはマシだった。相手を責めるようなものになってしまう傷であっても、守ろうとした相手が傷を負うよりも……いや、もしかしたら、庇わなければその人物が亡くなっていた可能性だってあってのだから、そういう意味では自分が傷を負うほうがずっといい。
もちろんそれが自分の勝手であるということも、恭也は理解している。それでもそう思ってしまうのだから仕方がない。

「だから気にするな……とも言わないが、自分を責め続けるのだけは止めてくれ。せめてこれからの糧にしてほしい」

それらを理解しているからこそ、気にするなとは言わない。だけど、責め続けるのだけはしてほしくない。そうやって自分を責め続けてしまった女性を恭也は知っているから。
恭也は言ってから苦笑する。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.305 )
日時: 2008/12/22 02:04
名前: テン

「いや、ここまで言う必要はなかったな。すでにお前たちは、俺の傷を自分の糧にしてくれているようだ」

すでに彼らはあの失敗を、経験を、恭也の傷を糧としている。ならばわざわざ言うことではなかった。

「「恭也さん」」

アキレアとパフィオは、恭也の言葉を聞いて少しだけ目を潤ませたが、唐突に頭を下げた。

「「この前は本当にありがとうございました!」」

二人が大声で感謝の言葉を告げると、同時にあの脱出時のメンバーだった者たちも次々に頭を下げた。それはかつてからの知り合いであるセルやフィルたちも同様に。

『ありがとうございました!』

二十七名による同時の感謝の言葉は大きく、この時間では眠っている者の妨げになったかもしれない。だが、それがわかっていても、彼らは大きな声で言った。
今更ながら彼らは思いだしたのだ。あのとき自分たちは一杯一杯で、恭也に感謝の言葉もかけていなかったことに。
無論、何度か言おうとはした。だが、恭也の性格からそれを受け取ってはくれないと思っていたのだ。
そして、それはやはり生徒たちの思った通りだ。

「別に感謝の言葉をかけられるようなことはしていない。あれが俺の目的と重なっていた。それだけだ」

恭也はそれを受け取らない。

「それでも……私たちは恭也様に感謝しているんです」
「恭也さんが来てくれたことに」
「恭也が俺たちを引っ張っていってくれたことに」

感謝している。
何への感謝か言葉にしたカラー、フィル、セルだけではない。その場にいる全員が、感謝の言葉をかけるだけの理由を持っている。例え恭也がそんなことには値しないと思っていても、彼らはそう思っている。
そんな考えが恭也にも伝わった。ならばこれ以上否定しても仕方がない。彼らがそう思っているのならば、受け入れるべきものだ。

「ああ」

ただ短い言葉で、恭也は彼らの感謝を受け入れた。
彼らに感謝される、それに嬉しさを感じるのも事実なのだ。短い感謝。護衛としてならば、それを受け取るのは最高の報酬。今回はそうではないため否定していただけだ。
だから恭也は微笑んだ。先ほどまでの作ったような微笑みでも、苦笑でもなく、純粋な高町恭也の微笑みを浮かべた。
それを見て、生徒たちも笑みを浮かべたのだった。
それから恭也は、学園長に呼ばれているからと、就寝の挨拶をすると彼らと別れた。その際に名前を知らない生徒たちに会釈をすると、彼らはなぜか本当に深々と頭を下げていた。さらに少女たちの顔が妙に赤かったのが気になったが、訓練での疲れのせいだろうと、気にするのはやめた。
そして今度こそ学園長室に向かった。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.306 )
日時: 2009/01/05 01:50
名前: テン




◇◇◇



「学園はとくにあなたを罰するつもりはありません。むしろ生徒たちを救出してくれたことに感謝します」

学園長室に現れた恭也に、ミュリエルが向けた最初の言葉はそれだった。
早い話がこのところゴタゴタしていたため、棚上げされていた問題の決着。
一応はあの生徒たちの救出は、広く見れば恭也の命令違反にもなる。彼の任務はあくまで斥候による偵察。決して威力偵察でもなければ、救出でもない。もちろん形の上では救出も任務に入ってはいたが、それが主たるものではない。それを逆にもしたともとれる行動は見ようによっては命令違反だ。
もっとも恭也はそれがわかっていてやったのだが。

「王国の方は?」
「こちらもとくにはありません」

クレアの手紙でわかってはいたことではあったが、恭也は「そうですか」と返しておいた。もしかしたらクレアが何とかしてくれていたのかもしれない。
それからミュリエルはその後の顛末を語ってくれた。
結局あの森のモンスターは、王国軍の二個中隊の手によって駆逐されたらしい。だが、それには少なくない被害が出たようだ。恭也が持ち帰った情報がなければ、もっと被害が出ていたかもしれない、ともミュリエルは続ける。
それを言い終えると、椅子に座るミュリエルは肘を机に置いて、手を組んだ。

「高町さん、指揮能力もあったのですか?」

すでに生徒たちから報告を受けているのだろう。あのとき確かに恭也は生徒たちを指揮していた。

「何度か同業の人間に指示をだしていたことがあっただけです。指揮能力と呼べるほどのものではありません。専門の教育を受けたわけでもありませんから」

これは嘘だ。恭也は指揮経験こそそれほど多くないが、実は香港警防隊で簡易的な教育は受けている。もっともそれは現場における指揮だけだ。戦術・戦略立案やそれに伴う統率と指揮はほとんどできない。
恭也の話を信じたのか、それともウソだと気付いたのかは彼にもわからなかったが、ミュリエルはそれ以上のことは聞かなかった。
それどころか唐突に話を変えた。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.307 )
日時: 2009/01/05 01:50
名前: テン


「高町さんは、この学園の生徒たちをどう思いますか?」

その質問に、思わず恭也は困惑によって眉根を寄せた。質問の意図がわからない。生徒たちの何を聞いているのか。
だが、話の流れから能力のことを聞いているのかしもしれない。そう受け取って話すことにした。

「技術は悪くはないかと思います。ただ……」
「ただ?」
「実戦を想定した技術を取得してる者は数えるほどでしょう」

決してそれが悪いわけではない。技術は技術として使えるものはある。しかし、それはどちらかと言えば、恭也風に言うならば、あくまで試合形式での技術なのだ。だが、実戦を想定すると心許ない。
実戦で有効活用できる技術を持つ生徒は、恭也の知る限りでは、セルとパフィオしかいない。もちろん前衛だけを考えるとだし、セルに至っては、彼自身の才能と我流がかなり混じっているからだろう。我流が混じり、戦うことを余計に意識したため、それ以外のものが自然と削ぎ落とされているのだ。パフィオはむしろ実戦派。幼いときから、そちらを意識して技術を学んでいた節がある。
それを聞いて、ミュリエルは頷く。

「この学園はそもそも救世主養成学校ではなかったのですよ」
「……どういうことですか?」
「本来は、救世主を頼らずに破滅と戦うために創設された学園です」
「今とは真逆ですか」
「ええ。その理念を長い歴史で忘れ、そして救世主を養成するという逆の目的が現れたがために、この学園の質は変わり……」
「他の科の授業にまで影響を及ぼした」
「その通りです。実践主義。元より召喚器を持つ救世主候補たちは技術などなくとも、力押しでどうにかなる。ならば能力を実践し、また試合形式で実戦を経験させることで能力のアップ繋げようとするもの。それが他の科にも伝播した。もちろん他の科の生徒たちには召喚器がありませんから、技術を教えますが、それも最低限となりました」

なるほどと恭也は頷いた。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.308 )
日時: 2009/01/05 01:51
名前: テン


実践を謳う割に、実戦を想定していないのはそのあたりが原因だろう。

「実践主義……それは決して間違いではありません。ですが、高町さん、あなたならばわかるでしょう。この学園はその実践主義を履き違えているのです。少なくとも戦うことを前提とするなら」
「ええ」
「それは長い歴史によって築かれたもの。いくら学園の長でもそう簡単には変えようがないものです」
「なるほど」
「ならば今の状態で、私はできる限りのことをしなくてはならない」

それらの話は理解できる。そして同時に、なぜミュリエルがその体制を変えられないのかも理解できた。その状態を憂いてはいるが、変えられない。権力をもっていようと限界であるということだろう。
それは理解できた。
だが、だ。恭也には、一つだけわからないことがある。

「一つ、聞いてもいいでしょうか?」
「どうぞ」
「なぜ、そこまで俺に話してくれたんですか? あなたはまだ俺を疑っている。少なくとも、この学園の本当の創設理由は初めて聞きました。おそらく他の生徒たちも知らないでしょう」

そんな創設理由があったらば、きっと恭也の耳に入っていただろう。ミュリエルはサラッと流したが、救世主の力を借りないで破滅と戦うというのは、今とは本当に逆の思想だ。ならば箝口令が敷かれているか、本当に忘れ去られてしまったのか。
どちらにしろ、ミュリエルが恭也にそれを伝えるのはおかしい。ミュリエルはまだ恭也を疑っているし、もし誰からも忘れられた理念ならば、なぜミュリエルがそんなことを知っているのかと、恭也に疑わせる要因にもなる。もっとも恭也たちはすでに彼女が千年前の人間と知っているから、そういったことを知っていてもおかしくはないと思うだろうし、学園長にだけは伝わっているという可能性もある。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.309 )
日時: 2009/01/05 01:52
名前: テン


「そうですね、この学園の学園長としては私はまだあなたを疑っています。ただ……」
「ただ?」
「もうあなたはこの学園になくてはならない存在になっているのですよ。それをやはり学園長として無視できません」
「なくては……ならない?」

恭也は自分をそんな大仰な存在だとは思っていない。だから聞き返してしまった。

「取り残された生徒たちを助けるために、たった一人で敵地に向かい、その生徒たちを指揮しながらも、一騎当千の活躍を見せ、誰一人欠けることなく救い出した英雄にして救世主。それがこの学園でのあなたの立場です」
「…………」

恭也もここ最近、妙に視線を集めているという気はしていたが……そういうことだったのだ。
破滅が動き出しているかもしれないという暗い影。その暗い影を照らす光は誰でも求める。
噂や話を聞き、その光はそれを放つ者……恭也を無視して広がり始めているということだ。
あれは別に恭也一人の力ではない。生徒たち自身の頑張りゆえに全員が生きて帰ってこれたと恭也自身は思っている。だが、生徒たち自身が恭也がいなければどうにもならなかったと言っているのだから、恭也がどうこう言おうと、それは真実として伝わってしまっているだろう。

「ここの学生から、今のあなたは救世主候補以上の尊敬を、信頼を集めているということなのですよ」
「……俺を御輿にでもする気ですか?」

破滅と戦うための救世主に代わる実在する御輿。救世主に変わる学園のシンボルにでもする気かと、恭也は唇をつり上げて皮肉げに問う。

「担ぎ手は表向き生徒たちですね」

それをミュリエルは否定しなかった。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.310 )
日時: 2009/01/05 01:53
名前: テン


裏では学園が担ごうとでも言うのか、と恭也は目を鋭くさせた。だがミュリエルはそれさえも無視する。

「王国の上もあなたを担ぎ出そうとする動きがあります。偽りの召喚器を持たせ、救世主として立たせてでも、と」
「……クレアが、ですか?」
「いえ、むしろクレア王女の政敵です。今回、あなたや生徒に罰がいかなかったのは、それを考えているためでしょう。無論、王国軍ではなく、学園に所属しているからという理由もあるでしょうが」

そこまで話がいっているということは、下手をすると学園どころか王都にまで話がいっている可能性がある。
不安定な状況だからこそ、希望に関する噂は早いスピードで伝播しているのだろう。もしくは意図的に流されている可能性もある。
言ってしまえば、このまえの任務で恭也がやったことと同じだ。士気を上げるために自分の強さを派手に演出した。規模こそ違うが、結果とその美談とも言える内容で、全体の士気と戦意を上げる。
やはり破滅と戦うための御輿、シンボルに祭り上げようとしている。それも王国の方は、一つの国家としてだ。
クレアの手紙にあった謝罪は、もしかしたらこれも含まれているのかもしれない。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.311 )
日時: 2009/01/05 01:54
名前: テン

「政権争いなど勝手にやっていればいい。俺を巻き込まないでほしいですね」
「元よりこの世界はいつか破滅と戦うということで、騎士団や軍は士気を保たせてきました。そして、救世主もその小道具の一つです」

ミュリエルは、それがこの学園の創設理由が変わってしまったことの理由でもあると続けた。
そしてだからこそ、恭也には学園の本当の創設理由を知っていてほしいと告げる。

「なるほど。ですが、俺には関係のないことだ」
「すで個人の思惑は関係ないところに来てます」
「本気で俺に召喚器を持たせるつもりですか?」
「できれば劇的な所で『召喚』してほしいところでしょうね」

偽物をどうやって召喚しろというのか。もっとも恭也は本物の召喚器を持っている。召喚することは止められているのだが。

「学園……いえ、少なくとも私は反対です」
「疑っているからですか?」
「あなたを……いえ、あなたたちを敵に回したくないからですよ」

その言葉に恭也は一瞬眉を寄せた。
確かにリコからミュリエルの目的は救世主の抹殺と聞いている。だがこの場合、恭也が偽りの救世主……本当は今のところ一番近い位置にいるが……だということを知っているのだ。だからこそ敵に回る意味はない。
メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.312 )
日時: 2009/01/05 01:54
名前: テン


「あなたは大きな権力を手に入れることを望んでいない」

当たりだ。
権力を持つということは与えられる権利も大きくなるということだが、その分義務と責任も大きくなる。大抵の権力者というのはそれを理解せずに、さらに権力を持とうとする。
大きな権力を持たない者も、義務と責任の重さを知らずに権利を主張する。
その大きな義務と責任を恭也は望んでいなかいが故に、大きすぎる権利を求めない。
別に恭也が無責任なのではない。その義務と責任の重さを理解しているからこそである。自分の剣に過分な義務と責任を乗せられるのを嫌っていた。
恭也の剣は、彼が守りたい者を守るためにある。そこに無駄な義務と責任を乗せることで、剣が重くなっては、本当に守りたい者たちを守れなくなってしまう。だからこそ身軽な方がいいのだ。
剣が重くのなるのならば、権利も権力もいらない。そんなものがなくとも、人は生きていけると知っている。
決して義務と責任から解放された自由とやらを望んでいるわけでも、権利だけを望んでいるわけでもない。剣が重くなるならば、どちらもいらないというだけでしかないのだ。
それにミュリエルも気付いているのだろう。

「過分なものを背負わせ過ぎれば、あなたは恐らくそれを取り払って自分の道を歩き始める。そういう人だと判断しています」


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.313 )
日時: 2009/01/05 01:55
名前: テン


その言葉には、内心でも恭也は頷くことはしなかった。正直そうなってみなければわからないとしか言えない。だがしかし、可能性として考えるなら大いにありえることだとも思った。

「そしてそうなった場合、おそらく生徒の大多数はあなたに着いていくでしょう」

ミュリエルの言葉に、恭也は隠すこともせずに顔を顰めた。

「どちらにしろ御輿ですか」

そんな恭也の言葉にミュリエルは肯定も否定もしない。
こう言っておけば、彼が本当にこの学園を抜けたとしても、人知れず去るだろう。無論、なのはなどの元の世界の者たちは着いていくだろうが。
しかしミュリエルとしては、生徒を連れていかれるよりはマシだと判断して、わざわざ彼が嫌うような言葉を出していた。そして、その意図に恭也も気付いている。

「そのときあなたがどう行動するのかがわかりません。ただ……破滅を倒すためにしろ、他の目的があったにしろ、必要ならばあなたは学園や国家と戦うことも厭わない。そして、あなたはそうなってしまえば、第三勢力として破滅の以上の脅威になりかねない」

何をするかもわからず、こちらの戦力すら内からかすめ取っていく、とミュリエルは言う。
正直恭也としては、過大評価が過ぎると考えていたが、口を挟まなかった。

「ならば疑念があっても、内に入れておいた方が良い、と私は判断しています。そのためにも反対です」

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.314 )
日時: 2009/01/05 01:55
名前: テン


それらを聞いて、恭也はため息を吐きたくなった。
こういう腹の探り合いは正直得意分野ではない。

「学園長、俺は救世主なんてもの興味はない」

恭也は敬語を止め、そこだけは自分の言葉で告げた。

「俺が戦う理由はあくまで大切な人たちを守るため。それ以外にはない」
「今まで見てきました。ですから、あなたがそれを本気で言っているのはわかります」
「もしも……俺の大切な人たちを守るのに、それしか……偽りの救世主になるしか道がないというのなら、俺はなる」

むしろ恭也ならば、守るためにはそれしか道がないと言われれば、破滅にすら組するだろう。

「だが、そうではない」
「むしろそれらを守るための重荷にすらなりかねませんね」

ミュリエルは淡々と肯定し、先を促す。

「俺自身の意志としては、そんなものになるつもりはありません」
「王国がそれを強要してきたならば?」
「従うつもりはありません。偽りの救世主を作りたいならば、他の世界の人間になど任せず、この世界の住人の誰かにすればいい」
「確かにそれが道理ですね」

恭也はあくまで他の世界からの協力者でしかない。確かにこの世界が滅べば、恭也たちの世界も滅ぶかもしれない。だが、直接の被害を被るのはあくまでこの世界と、この世界に住む住人だ。本来ならば、彼らだけでどうにかしないといけない問題。
この世界が滅べば、他の世界も滅びる。それは言ってしまえば他の世界は巻き添いのようなもの。それなのに他の世界の人間を御輿にすること自体がおかしい。ただの戦意の高揚ならばまだいいが、政治の道具になる気など恭也はない。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.315 )
日時: 2009/01/05 01:56
名前: テン


「ただ、前にも言いましたが、俺はこの学園を……この学園の生徒たちのことも気に入っている。彼らが俺を救世主だと願い、それで力が入るのならば、放っておきます」
「自ら救世主だと名乗るつもりはない、でもそれが役に立つのならば、自ら沈静化はしない、と?」
「ええ」

せめてそれが希望を与えてしまった恭也にできることだ。もちろん恭也が自分からそんなものを与えたとは思っていないが、周りがそう思っているのならば、恭也の責任でもあるだろう。その分ぐらいは背負おう。

「あなたの意志は理解しました。私が聞きたかった答えと重なってもいます」

そうだろうな、と恭也は心の中で嘆息した。
これで恭也は学園に縛られた。そう簡単に学園を見捨てることはできなくなった。恭也は救世主候補たちはもちろん、セルやフィル、カラーたちを確かに気に入り、守りたいと思ってしまっている。大切な人たちとなってしまっていた。それらを見捨てることは、もう恭也にはできない。
それをミュリエルも理解しているだろう。今まで見ていた……観察していたというのなら、恭也の人となりぐらいもう理解しているだろうから。

「私もあなたを信頼させていただきましょう」

だからミュリエルは信用ではなく、信頼と言った。
それを聞いて、恭也は表情を変えず、

「そんな簡単に俺を信じてもいいんですか?」

前から信用するとは言っていたが、それは偽りの信用。信じて用いることしかしない。だが、今回は信じて頼ると言っている。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.316 )
日時: 2009/01/05 01:57
名前: テン


そんな恭也の問いに、ミュリエルは苦笑した。それは苦笑とはいえ、恭也が初めて見る彼女の表情だった。

「リリィの母親としては、もっと前からあなたを信じたかった」
「…………」
「あなたと出会って、あの娘は変わった。昔よりも笑うようになった。昔よりも人の話を聞くようになった。頑なさがなくなった。そうしてくれたのは、あなたです」
「……俺は何もしてません」
「あなたがどう言おうと私はそう思っているのですよ」

その笑顔は、娘の成長を喜んでいる母親そのものだった。

「リリィはあなたを信頼している。それを裏切らないで」
「誓いましょう」
「そして、できればあの子を守ってほしい」
「仲間として……出来る限りのことはします」

やはり、この人も母親だったのだろう。
その目は、どこか叔母である美沙斗に似ていた。美由希を見る目と。そして何かを決意している目と。
目は何よりもモノを言う。

(この人ではない)

その目を見て、恭也はミュリエルをスパイや内通者ではないと理解した。
先ほどまでの上に立つ者としての目の光と、母親としての目の光。その両方が確かに恭也を信頼させた。

この目が偽りであるというのなら、彼女はよっぽどの悪女だろう。

ミュリエルは「以上です」と告げて、こんな時間に呼び出したことを詫びると、恭也に退室を促した。
それに恭也は黙って従う。だが、ドアを開ける前に止まり、ミュリエルの方へと振り返った。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.317 )
日時: 2009/01/05 01:58
名前: テン


「一つだけ忠告を」
「なんでしょう?」
「ダリア先生とダウニー先生には気をつけた方がよろしいかと」

恭也も彼女を信頼した。そして、信頼もされた以上、それに応えようと、ここで恭也が持つ一つの情報を公開しておいた。

「理由は?」
「おそらくダリア先生は、どこかしらの諜報員でしょう。こちらは間違いありません」

どこからのかはわかりまんが、と続けるとミュリエルは軽く嘆息し、続きをさらに促す。

「ダウニー先生の方は、半分は勘です。濃い臭いがする」
「濃い臭い?」
「血の臭いです。まあ、これはダリア先生も同じですが、彼の方が濃い。どちらも裏側……もしくは暗部の人間かと思います」
「なるほど」

ミュリエルは、恭也の言うことを疑わず、ただ頷く。それは彼のその目を信用しているということだろう。

「それとかなりの実力者でありながら、それをまったく見せないように隠しているところも怪しいと思ってます」

恭也と同じ理由で隠しているにしろ、フローリア学園の教師をしていながら、その技術をまったく見せようとしないのは腑に落ちない。
間違いなく彼は、この学園でもトップクラスの実力者だろう。それが戦闘技術を教えていないのだから、隠しておきたいと考えるのが妥当だ。

「わかりました。忠告、受け取っておきます」

それに恭也は頷き、最後に一礼すると学園長室から出た。
そして一つ息を吐く。

「あとでリコに学園長のことも聞いておくか」

おそらくそろそろ破滅との戦いは本格化する。色々な情報を統制しておくべきだ。
しかし、本当にやることと、考えなければならないことが多い。
救世主のこと、白の主のこと、偽りの救世主のこと、救世主候補たちのこと、生徒たちのこと、スパイのこと……上げればきりがなくなってきた。
だが、時間はもうあまりなさそうだと、恭也は漠然と思っていた。
これらのことを全てこなす前に、おそらく破滅は来る。
恭也の本能が、漠然と戦闘の予感を訴えかけてくるのだ。
だが、それでも一歩ずつやるしかない。

「しばらく寝不足は覚悟しないとまずそうだな」

恭也はそんなことを呟いて歩き出す。
リコを巻き込むのはすまないと思うが、まずは彼女と情報を整理しなくてはならなそうだと、再びリコの部屋へと足を向けた。



メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.318 )
日時: 2009/01/18 23:33
名前: テン





ゾロゾロと闘技場から歩いてくる救世主クラスの生徒たち。
実技の授業が終わり、これから昼食という時間だ。ここ最近は救世主クラスで行動し、共に食事をすることが多くなっていたため、誰もいなくなることはなく、何の示し合わせもなく食堂へと向かおうとしていた。

「ううー、やっぱり食事前に一杯身体動かすと逆にお腹空かないよ」
「そうか? 俺は無茶苦茶腹減ってるぞ」

お腹を押さえて言う未亜に、大河は他の者たちはどうか、と目で聞くと、恭也とカエデ、リコのみが頷き返し、他の者たちは未亜のように少しきついと顔を顰める。
そんないつも通りの会話。
この頃は色々と任務が入り忙しくなっていたが、それでも今は日常的風景を彼らは楽しんでいた。
だが、それは唐突に終わることになる。

空が歪む。
雲はなく、青空であるはずの頭上が歪んだ。

「なんだ!?」
「人?」

眉を寄せ、恭也が呟いたように、空にはいつのまにか巨大な四人の人影が浮かんでいた。
二人の男と、女が二人、少女が二人。それが体格でわかるものの、顔は鮮明ではなく、少しばかり暗くわからない。

「魔導具かなんかで中継してるみたい」

おそらくこの方法ならば多くの人間が、あの頭上の人影に集中していることだろう。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.319 )
日時: 2009/01/18 23:34
名前: テン


そして、朗々とした声が響いてきた。

『アヴァターに生きる者たちよ。神の御神木である大地を汚す者たちよ。
汝等の享楽のときは過ぎた。今度はその代償を払う番である。
我らは破滅。そして我らはそれを統べる破滅の将!』

学園のいたる所からどよめきが上がっているのがわかる。
だが、それよりもと救世主候補たちは頭上に集中していた。

「破滅の将……?」

恭也は目を鋭くさせ、続きを待つ。

『よって。我々はここに人類の破滅を宣言する』
『愚迷蒙昧なる民よ。神の秤は我が方にある。愚かな抵抗は無駄と知りなさい』
『しかし神はまた、汝等蒙昧たる民にも最後の救いの道を残されました』
『その道とは汝が心を縛り付ける一切を破壊し、破滅に加わることであーる』
『破滅の後も己が命を保ちたいと考えるならば、汝が手で父を殺し、母を殺し、妻を殺し、夫を殺し、子を兄弟を殺して破滅に参加しなさい』
『その時、神の慈悲は真の強者に与えられるであろーう、って感じでいいのか? たくっあたしゃぁ将じないっつーのに』

男と女の声が次々と聞こえてくる。

「破滅の……民……イムニティ」

リコの呟きからすると、どうやらあのうちの一人はイムニティのようだ。
影はさらに厳かに言い続けてくるが、恭也は無視した。
どれだけ大仰に言おうが、単純な宣戦布告。これ以上聞く必要はない。

「おにーちゃん」

そんな中、やはり不安からか、なのはが恭也の手を握った。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.320 )
日時: 2009/01/18 23:35
名前: テン


それに恭也は力強く握り返してやり、安心させるように、わざと唇をつり上げて挑戦的に笑う。

「まったく神の救いだの、神の慈悲だのと、あいつらは新興宗教か何かか?」
「言えてるわ。悪役なら悪役らしく、世界を滅ぼすで終わらしとけっての」

大河も鼻を鳴らして恭也の話に乗るが、他の仲間たちは多少気後れしてるように見える。

「それにしても堂々と宣戦布告かよ、気にいらねぇ」
「……それだけ自信があるのだろうよ。もしくは戦力がそろったのか」
「どういうことよ?」

大河と恭也の言葉が、今一理解できなかったのか、リリィをはじめとして全員が二人に視線を寄越す。

「今までこそこそ動いてたってのに、堂々と宣戦布告してくるってことは……」
「俺たちに勝てると踏んだか、それだけの戦力を手に入れたか、というところだろう」

つまり舐められているというわけだ。その戦力をもって、これまでのように何も言わずに攻めてこればいいものを、わざわざいまさらになって宣戦布告をしてきたのだから、勝てると思っているのだろう。

「っ!」

それを聞いて、リリィが歯を食いしばる。
恭也は視線を再び上空へと向け、その鋭い視線で影を睨んだ。

「何が相手であろうと、俺たちは負けるわけにはいかない」

そんな恭也の力強い言葉に、救世主候補たちもやはり力強く頷いた。
これから戦いが激化する、昼食は中止。一度教室か学園長のところに行こうと、それぞれが行動を開始するなか、恭也も彼らに続く。
だが顔だけを振り返らせ、まだ恭也から見て、滑稽で仰々しい宣戦布告をしている影へと三度目になる視線を向け、睨んだ。

「神だろうが何だろうが、俺の大切な者に手を出すならば……斬り捨てる」

その宣言が、己にどれだけ深く関わっているのか、そしてそれが自らの立場を端的に現していることを、まだ恭也も気付いていなかった。





第五十章




「と、言うことで、あなた達に正式に破滅軍との戦闘に参加するように王宮から通達がありました」

学園長室に集められた救世主候補たちに、ミュリエルは事の経緯を語ってから、そう告げた。
ホワイトカーパス州が破滅の民に着いた。いや、元々彼らが破滅の民であった可能性が高く、そこから破滅の軍勢が南進中らしい。
それを食い止めるために手を貸せ、ということだろう。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.321 )
日時: 2009/01/18 23:36
名前: テン


「でもお義母さま。まだ誰が救世主か正式な決定を頂いてません」
「それはこの戦いであなた方の力を見て、王女殿下が裁可をくださいます」

ミュリエルの言葉がウソであることを、この場いる恭也となのは、リコ以外は知らないため、皆ある程度、その言葉でやる気を漲らせた。
女王が救世主を決める。そんなわけがない。おそらくこれが前にミュリエルが言っていた救世主すらも政治の道具にされてきた、ということで生まれたことなのだろう。
まあ、今はそんなことを気にしている余裕もないが。

「あなたたちの任務は破滅の将の殲滅です」
「相手の頭を叩け、ってことっすか?」
「ええ。そのために精鋭であるあなた方にいってもらうのです」

相手の頭……司令官を叩く。そうすれば残りは統率の取りづらいモンスターだけ。確かに段違いに楽になるだろう。
問題はそれができるか、だが。

「学園長、耕介さんたちの力も借りていいですか?」
「許可します」

恭也の願いを簡単に許可したミュリエルに、救世主候補たちは軽く驚いた。少なくとも少し前までは、恭也たちとミュリエルの間には殺伐とした雰囲気が流れていたのだ。だが、今の二人にはそういうものがない。

「なんかあったのか?」

大河は小声でとなりに立つリリィに聞くが、彼女も驚いた表情を浮かべている。

「私は何も聞いてないわよ」
「でも、何だか恭也さんも学園長も、前よりもいがみ合っていないというか……」
「マス……恭也さん、少し穏やかですね」
「前のような殺伐とした雰囲気がないでごさるな。なのは殿、何か聞いていないのでござるか?」
「私もおにーちゃんから何も聞いてないです」
「仲がいいのは良いことですの〜」

そんなふうに小声で……ナナシは大声だったが……話す救世主候補たちに、ミュリエルも恭也も気付いているであろうに、特に何も言わなかった。
お互い見かけだけでなく、多少の信頼はするようになった。それだけの話で、わざわざ説明することでもない。
とりあえず、まだ危機感がないというか、余裕があるというか、そんな彼らに嘆息だけはして、恭也は振り返る。

「行くぞ。防衛戦は死守せねばならん。まあ、俺たちだけが戦うわけではないが、敵の首領が狙いな以上、要であることは確かだ」

恭也の言葉に、数刻前と同じように救世主候補たちは頷いた。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.322 )
日時: 2009/01/18 23:37
名前: テン




◇◇◇



広大に平野に響く剣戟の音。魔法が破裂する音。人の悲鳴。魔物の絶叫。
これが戦争だ、と目前の光景が語っている。
多くの王国軍の者たちとモンスターの決死の戦い。
王都の最終防衛戦。それは王都の防壁を背とした場所。即ちここを抜かれれば、モンスターたちはアーグに雪崩れ込む。そのために王国軍の者たちは奮闘している。
初めて見る規模の戦いに、恭也以外のメンバーが、顔を青くしていた。だが、今はそんなことを気遣ってやれる暇は恭也にもなかった。

「耕介さん」
「うん。わかってる」

呼ばれた耕介は、恭也が何を言いたいのかわかり、すぐさま頷いた。
それに恭也は頷き返すと、次に大河の顔を見た。

「俺は別行動を取る。大河、後は任せたぞ。耕介さんに色々と助言を聞いておけ」
「え?」

他の誰かが反応する前に、恭也は駆けだしていた。目の前の戦場に向かって。
恭也の能力を正しく使うならば、モンスターなど無視するに限る。
むしろ恭也がいては邪魔なのだ。

(破滅の将……か)

その破滅の将というのが何人いるのかは知らないが、少なくとも破滅の軍勢のトップ集団。狙うはその者たち。もちろん大河たちもその任を受けているが……。
恭也は戦いにいくのではない。狙うのは、暗殺だ。
真正面からではなく、背後より気付かれる前に殺す。全力になられる前に殺す。行動をとられる前に殺す。
戦争に正々堂々も何もない。全力にならせる必要はない。全力になられる前に、殺さなければならない者たちを殺し尽くす。
問題は、

(どこまで通用するか……)

そう考えながらも、恭也はモンスターたちの間を縫うようにして戦場を駆ける。
メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.323 )
日時: 2009/01/18 23:38
名前: テン


一応は敵戦力をほんの少しでも削るために、たまに防御が薄いモンスターの頭部に徹を込めた掌底を叩き込んで殺していく。王国軍が戦っているモンスターたちに、援護として飛針を放ち、走る。
モンスターたちは味方たちが邪魔で、恭也の存在に気付いた時には、その姿を捉えることはできなくなっていた。
恭也は個人という最大能力を活かして、敵の軍団を翻弄し、ただ最大の敵を探していた。
それは不破としての戦い方の一つ。
暗殺。頭を殺す。
火力という意味では、恭也は救世主クラスの中で最弱と言っていい。霊力という攻撃があるが、それでも力不足だ。耕介ならばそれこそ救世主候補たちと同等ぐらいの火力を持つだろうが、恭也の霊力の制御力では、そこまでの力は出せない上に、連発ができない。
戦争で重要なのは、その火力だった。
その火力重視である救世主候補たちの中に、恭也がいても仕方がない。
恭也ができることはただ一つ。その機動性を使って、敵をかわし、最速で頭を潰す。
それを恭也は早速実行に移したのだ。
敵を……破滅の将を殺すために。



ほんの数秒。たかが数秒で恭也の姿は、多数の戦闘で起こる粉塵の向こうへと消えていってしまった。
大河は思わず呆然としながらも、恭也が消えていった方向に伸ばしていた手を下ろした。

「は? あれ?」
「きょ、恭也さん……?」
「老師、行ってしまったでござるな……」
「も、もう見えませんね」
「恭ちゃん、速いですのー」
「……って、あいついきなり独断専行!? いっつも止める役のくせに!」

恭也がいなくなっただけで慌てる救世主候補たちを見て、場違いとわかりながらも耕介は少しだけ苦笑してまった。


メンテ

Page: 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |