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黒衣(仮投稿)
日時: 2008/05/15 06:31
名前: テン

浩さんに許可を頂きましたので、暫くの間黒衣を仮投稿という形でこちらに投稿させて頂きたいと思います。

あくまで仮であり、落ち着いたらいつかは今までどうりに投稿したいとは思っていますので。
これも携帯からの投稿なので、少々見づらいかもしれませんがよろしくお願いします。
一章を分割して送っていきます。


目次

>>1-27 恭也編 四十二章

>>54-91 恭也編 四十三章

>>122-156 恭也編 四十四章

>>197-227 恭也編 四十五章

>>228-255 恭也編 四十六章

>>256-268 恭也編 四十七章

>>269-288 恭也編 四十八章

>>289-317 恭也編 四十九章

>>318-330 恭也編 五十章

>>331-340 恭也編 五十一章

>>351-367 恭也編 五十二章

>>368-382 恭也編 五十三章

>>383-394 恭也編 五十四章

>>414-433 恭也編 五十五章

>>434-457 恭也編 五十六章

>>458 恭也編 五十七章

>>459-480 恭也編 五十八章

>>481-503 恭也編 五十九章

>>504-532 恭也編 六十章
>>565-587 恭也編 六十一章

>>28-53 大河編 三十章

>>92-121 大河編 三十一章

>>157-196 大河編 三十二章

>>395-413 大河編 三十三章

>>341-350 外伝
メンテ

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.324 )
日時: 2009/01/18 23:39
名前: テン


端から見ていても気付いていたが、どうやら恭也は本当に救世主候補たちの中心になっていたようだ。決してリーダーという感じではなかったが、常に彼らを見守る兄のようなものとして、確かに彼らを引っ張っていた。
その恭也がいなくなっただけで、彼らは慌ててしまうのだろう。

「恭也君は恭也君の仕事しにいっただけだよ。俺たちには俺たちの仕事がある」
「おにーちゃんの仕事?」

なのはに問い返され、耕介は言っていいものか悩む。
だが隠しても仕方がないか、と耕介は言うことにした。

「恭也君はたぶん、破滅の将っていうのを倒しにいったんだと思う」

正確に言うならば、殺しにいった、である。が、そこまで言う必要はない。

「くー、倒しに?」

久遠が不思議そうに小首を傾げる。

「でも耕介さん、破滅の将を倒しにいくのは私たちだって同じですよ?」

ベリオの言うとおり、ここにいる面々は精鋭として、破滅の将を見つけだし、倒すことを目的としている。なのにそこから離れてどうするというのか。

「俺たちじゃあんなふうに敵を無視して進むなんてことできないだろう?」

耕介は、恭也が消えていった方向を見ながら言う。
耕介たちの火力ならば、敵を粉砕しながら進むことはできるが、恭也のように無視して進むことはできない。そして、どちらが敵を探しやすいかと言えば、間違いなく恭也のやり方だろう。
もっともそれは恭也が戦場で孤立するというのと同じことなのだが、彼ならばその程度のことは問題にしない。それを可能にするのが、彼の御神流であり、多対戦を得意とする不破流だ。むしろ一人の方が戦いやすいと言った方がいいだろう。

「恭也君は恭也君のやり方をし始めただけさ」

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.325 )
日時: 2009/01/18 23:39
名前: テン

言いながら、耕介は十六夜を構えた。

「だから俺たちは俺たちのやり方でいくよ」

そして黄金の炎を刀身に纏わせ、

「楓陣刃ぁぁ!」

霊力を一気に解放。
それは一直線にこちらに向かってこようとしていたモンスターたちへと放たれ、数匹まとめて吹き飛ばす。

「俺たちのやり方はこんな感じだよ」

それらを見て、一同確かにと頷いてしまった。
そのやり方は恭也にはできないが、この場にいる者たちならばできること。
言ってしまえば、ここにいる者たちは全員が大砲や機関銃だ。対して恭也はたった一丁の拳銃。取り回しこそしやすく、一人を相手には有効な武器だが、相手が大群となると攻撃力に難があるということ。
役割分担だ、と全員が納得すると、

「んじゃま、いくか」

大河はトレイターを爆弾に変え、大砲なら大砲らしくやるか、とニヤリと笑う。
その大河に続くように、それぞれ己のもっとも破壊力のある技、魔法を準備し始める。
なのはは魔法陣を複数用意し、リリィはライテウスにため込んでいた魔力を解放して呪文を詠唱。ベリオは杖の先に光の球を浮かべ、カエデは腕に炎を纏わせる。リコは頭上に巨大に隕石を召喚し、未亜は十数本の弓を同時に番える。耕介も再び霊力を十六夜に纏わせ、知佳も翼を広げ、久遠は身体に雷を帯電させる。

「がんばれー、ですのー」

そんな中なぜかナナシは皆の応援。
それに一瞬全員が力が抜けそうになるものの、それに耐え、

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

なのはの叫びと同時に全員がそれぞれの力を解放した。

「おっらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「パルス・ロアッ!」
「クリアレェェェェェェェェェェェェェイ!」
「紅蓮掌ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「テトラ、グラビトンッ!」
「ファイナル……メテオッ!」
「閃の太刀!」
「サンダー、ブレイクッ!」
「雷っ!」

解放されたのは、それぞれ最高とも言える力。
光が、爆裂が、炎が、雷が、岩の塊が、無数の矢が……戦場に突き刺さり、閃光と爆音を上げた。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.326 )
日時: 2009/01/18 23:42
名前: テン




◇◇◇



一瞬、地面が揺れた。
恭也は動かす足は緩めず、視線を一瞬だけ背後に向ける。そこには土煙が舞い、同時に閃光や炎が舞っていた。

「……とんでもないな」

あれをなした者たちと今まで何度も試合をしていたとは、と少しばかり冷や汗をかきたくなる。全員が一撃に全力を込め、それによって効果が相乗されたためとはわかるが、まさに人間兵器だ、あれは。
救世主候補たちも行動を開始した。
ならば自分は早く目標を見つけなくてはならない。そう、考えたときだった。

「っ!」

恭也は横にいたオークを蹴り飛ばし、その勢いで反対側に転がる。同時に上空から人が降ってきた。
上空より現れたその人物は、先ほどまで恭也がいた場所に握っていた刀を振り下ろしたが、すでに恭也はそこにいないとわかると、周りにいたモンスターを斬り飛ばし、不敵に笑った。

「おら、化物ども、そいつはあたしの得物だ。お前らは雑魚どもの相手をしてな、お前らじゃ足止めにもならないよ」

現れた女性の言葉に、狼狽えた様子を見せるモンスターたち。

「デ、デスガ……」

多少は知力があるらしいモンスターが何かを言おうとするが、女性は恭也を眺めながら不敵な笑いを浮かべたままだった。

「ロベリアたちの許可は得てるよ。てか、お前ら邪魔。今みたいに一緒にブッた斬っちまうよ」

そんな言葉を聞いて、モンスターは周りの仲間と顔を見合わせると、すぐさま言うことを聞いて二人の周りから離れていき、他の人間がいる方向へと進行していく。
恭也と女性がいる場所だけが、ポッカリと穴が空いたように、モンスターは近づかなくなっていた。

「よう、久しぶりだね」
「どうも」

場違いな挨拶をしてくる女性……不破夏織を名乗った女性に、恭也も場違いにも軽く頭を下げた。
夏織は長い黒髪を靡かせながら、刀の峰を肩に乗せ、楽しそうに笑っていた。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.327 )
日時: 2009/01/18 23:44
名前: テン


「あんたが御神じゃなくて不破なら、単騎で突入してくるって思ってたけど、ばっちりあったたみたいだ」
「…………」
「司令塔なら後ろにいる、と思ったかい?」
「まあ、普通はそう思うのが当然ではないかと」
「破滅の将ってやつらは我の強いのが多くてね。みんな前戦にでてるよ。あんたの目論見は失敗というわけだ」

やはり笑ったまま言う夏織。
だが、恭也も唇をつり上げて、皮肉げに笑った。

「いえ、成功です」
「あ?」
「俺は、元々あなたが狙いでしたから」
「…………」

恭也の言葉に、夏織は笑みを消して呆気にとられたように口を開けた。
恭也の言葉は決して虚勢ではない。元々、恭也の狙いは最初から彼女を誘い出すことだった。不破夏織を名乗る女性は、少なくとも御神を知っている。おそらく言いようからして、不破のことも知っているだろうと踏んでいた。ならば恭也の表向きの狙いも読んでくるだろうと思っていたのだ。
破滅に何かしらの形で関わっている彼女ならば、ここで出てくると。まあ、本当なら暗殺しきりたかったところだが。
恭也は唇をつり上げたまま、八景を抜いた。

「他の破滅の将がどの程度かはわからない。だが、少なくともあなたの相手は救世主候補たちでも難しそうだとわかっていた。だからあなたを最初に叩きに……いや、殺しにきた。暗殺できたなら、そっちの方がよかったのですが、やはり無理そうだ」


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.328 )
日時: 2009/01/18 23:47
名前: テン


その言葉を聞いても、まだ口を開いている夏織。
だが、

「は、はは、あははははははははは!」

いきなり彼女は笑い出した。本当におかしそうに、腹を抱えて笑う。
それを見て、わざと浮かべていた挑発的な笑みを、恭也は思わず引っ込めて、訝しげに眉を寄せる。

「ははは、誘い込まれたのあたしの方だった、ってわけかい」
「…………」
「あー、おかしい」

夏織は一頻り笑うと、刀を構えた。

「殺しにきた、か。不破で間違いないみたいだね」
「ええ」
「なら、宣言通りにあたしを殺してみな!」

夏織は笑みを消す。
だがそれは恭也も同じこと。無表情に戻った恭也。むしろそれは、最初から変わっていない。だが、決定的に何かが変わった。
殺気を放ったわけではない。表情を変えたわけでもない。それでも致命的に何かが変わった。それは相対する夏織が一番わかっているだろう。

「言われるまでもない。あなたはここで死ね」

恭也は冷たい声と表情を彼女に向けた。
そして、その瞬間戦いが始まった。
それは二人の戦いではなく、今後激化する戦いの最初の戦闘の始まりだった。



メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.329 )
日時: 2009/01/18 23:52
名前: テン




◇◇◇



なのはは辺りを見渡した。
モンスターは蹴散らしていたため、すでに敵はいない。だが、同時に仲間も一人もいなくなっていた。
破滅を将を探すため、火力で魔物の壁に穴を開けて突入した救世主候補たちだったが、すぐに幾つかのチームに分けることにしたのだ。
なのはは、知佳とベリオ、カエデの三人と組んだのだが、怪我をして動けない王国軍の兵士を見つけた。それを見て、当然ベリオたちが駆けつけ、なのはとカエデが護衛に回って治療したのだが、その際に新たなモンスターの群が現れて分断されてしまったのだ。
治療をしていたベリオたちはもちろん、同じく護衛に迷っていたカエデともはぐれた。
そのためなのはは、一人戦場を彷徨うことになった。
知佳たちの心配はしていない。必ず無事でいる。だからこそ、なのはがすべきことはすぐに合流することだ。

「っ!」

たまたま目をやった場所に、もう動くことのないモンスターの死体と、同じく王国軍の人間と思われる死体があった。
当然ながらなのはは人の死に見慣れていない。それを見ただけで動悸が激しくなる。

「……戦争」

血の臭い。死体。死臭。
自分が今、戦争をしているのだとまざまざと突きつけられる。
なのはは争いが嫌いだ。
平和が一番いい。
武器を使って争わないために、言葉をかける。
そういう普通の、優しい女の子だ。いや……だった、というべきかもしれない。

(私は……)

今でも争いは嫌いだ。
だけど、

(私は……おにーちゃんと一緒にいるためなら……戦う)

兄と一緒にいたい。兄の力になりたい。
それだけが、なのはの戦う理由だった。
兄のためならなんだってできる。
それを恭也が求めていなくとも、なのはは戦うことを選ぶ。
それは成長というべきか、もしくは視野が狭くなったというべきか。そんなことなのは自身にはわからない。だけど、なのはが求めるのは……恭也と共にいることだけだった。
きっと、あのとき……恭也の寂しそうな背中を見てしまったときから、彼女の中で何かが変わってしまっていた。
そして何よりそう変えてしまったのは……

「こんなところにいたのね」

彼女だ。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.330 )
日時: 2009/01/18 23:55
名前: テン

なのはは驚くことなく、声がした方向へと向く。
そこには巨大なモンスターの死体を踏み越えて近寄ってくる少女がいた。
エリカ……ローウェル。
なのはに人を殺すという覚悟を与えてしまった少女。

「あなたも破滅の将……っていうのだったの?」
「そうよ。破滅の将の一人、矛盾のエリカ」

エリカは肩にかかる髪を手で払い、なのはの前に立つ。

「また高町恭也はいないみたいね」
「よく言うよ。私一人をここに誘いこんだのはあなたでしょ?」
「気付いてたの?」

その問い返しに、なのはは肯定するように少しだけ笑ってみせた。
今までずっとモンスターたちは、何も考えていないかのように突進してくるだけだった。だが、唐突になのはたちを分断するような真似をした。離れていた位置にいたベリオたちだけと分断されたなら気付かなかっただろう。だが、モンスターたちはわざわざなのはとカエデまでも分断した。
もちろんそれは戦術のうちだ。それぞれを分断し各個撃破するという、数がいるならばもっとも簡単で、もっとも効果を上げる戦術。
だが、それを行ったのは知能が低いモンスターたち。彼らはそんな戦術は使わない。しかしそれが実際に行われた以上、それを指示した存在がいるはずだ。その状況でエリカが現れた。
ここまでくれば、彼女の指示で分断されたのだと、簡単にわかる。そして、エリカにはなのはを一人にしたい理由があるのだ。

「私の用はわかってるわよね?」

エリカの問いに、なのはは小さく頷いた。するとエリカは笑った。
あどけなく、だが、禍々しく。

「そう、なら……死んで」

その呟きと共に、エリカのその手にダガーが現れる。
それを見つめ、なのはは緊張に顔を強ばらせながらも、白琴を構える。

「それはやだ」
「無理矢理っていうのもオツよね?」
「もしかして変態さん?」
「うっさいわよ」

傍から聞けば、友人同士の軽口の応酬にも見えた。だが、二人の間にあるのは緊張感であり、その手に握るのは相手を傷付ける武器。

「決着をつけましょう。私はあなたを殺して……そして、高町恭也を絶望させたあとに殺す」
「そんなこと……させない」
「なら、生き足掻いてみなさい!」

その言葉を最後に、エリカは駆けだした。
それに合わせるようにして、なのはも白琴を動かす。
彼女らの第二ラウンドはこうして始まった。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.331 )
日時: 2009/01/25 22:52
名前: テン





私は昔から子供らしくない子供だった。
馬鹿みたいに現実的。
自分で言うのも何だが、それは頭の回転が早すぎるため。
でも、そんな私でも一目惚れというものをしてしまった。
本当にそんなものがあるなんて思っていなかった。
一目惚れなんて漫画の中ぐらいの出来事だと思っていたし、恋愛というものも所詮は勘違いの産物、ぐらいにしか思っていなかったのに。
子供であるにもかかわらず、現実的に生きていたはずなのに、彼との出会いは運命だとすら思える。
だけど、わかってしまった。
彼に一目惚れしたのは、運命を感じたのは私だけではないと。
私たちの性格は似ていなかった。
だけど男の趣味は一緒であったらしい。
同じ人を好きになった。
その人は、真っ黒の格好をしていて、端正でありながら精悍な顔つきをした青年。
ボディーガードをしている人だから、きっと凄く強い人。

初めて会った時から……

そんな彼に私『たち』は一目惚れした。
そんな彼に私『たち』は恋をした。
そんな彼に私『たち』は焦がれた。

そして、今は……

そんな彼を、私は……最も憎み……最も愛していた……






第五十一章





幾つもの剣閃が辺りを支配する。
それを行っているのは二人の剣士。
まるでお互いの陣地を取り合うかのように、二人は剣を振り、白刃を煌めかせていた。
だが、決して己の陣地は取らせないと、相手の剣をいなすことで火花を散らし合っている。

「くくっ、楽しいね。本当にあいつとやりあってるみたいだよ」
「…………」

常に笑みを浮かべて斬撃を繰り出す夏織に対し、恭也は常に無言。がらんどうの空虚な瞳が浮かぶのみ。
この場に楽しみなど不要。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.332 )
日時: 2009/01/25 22:52
名前: テン


ここは戦場。
ここは死合の場。
恭也は、ただ相手を殺す攻撃を、斬撃を繰り出せばいい。
今の恭也は不破。
相手を殺すことのみを考えればいいのだ。
不破は戦いを楽しむことはない。不破にとって、戦うことは作業。一つの目的と、一つの結果を手に入れるためだけに行われる作業なのだ。
目的とは殺すこと。
殺すことで手に入れられる、守りたい者たちの平穏という結果を求めて殺す。
そのための作業でしかない。
そうであるが故に、ここで感情は必要としない。
目的をこなすために。
欲しい結果を手に入れるために。
己の意志と感情すら殺す。
そして、相手を殺す。
不破とは……そういう存在だ。
恭也は八景をまるで空気に滑らすようにして振るう。
それはまるで空気と一体化しかのように自然な斬撃であるが故に、相手にその軌跡を読みとらせない。
夏織は口元に笑みを浮かべ、右手でもう一本の太刀を逆手で引き抜き、それをやはり恭也同様に空気に滑らすように振り上げる。
小太刀と太刀はガキリ、と甲高い音を響かせ、そして再び火花を散らす。
そのまま片手での鍔迫り合いとなるが、夏織は楽しそうに笑ったまま。

「いやいや、やっぱあんたは怖い。本当に剣速も技術も、あいつと同じぐらいだ。あいつよりも経験が少し足りないが、それを補って余る観察力もあるようだし」

またあいつという言葉。
疑問が浮かんだことで、恭也は己を浅く変わっていた不破恭也から高町恭也に戻す。
相手の精神を揺さぶる意味でも、やはり言ってみるか。
そう決めて、恭也は腕の力を抜かずに口を開く。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.333 )
日時: 2009/01/25 22:53
名前: テン


「そういえば、俺はまだ名乗っていませんでしたね」

そんな前置きをし、

「俺は高町……いえ、不破恭也と言います」

やはり丁寧な言葉で自らの名を告げた。
その瞬間だった。

「な……んだと……!?」

目に見えて、夏織は驚愕の表情を浮かべた。目を見開き、口を半開きにする。それは先ほどまで笑っていた表情とは正反対のもの。
これは当たりかと、恭也は一瞬険しい表情を浮かべるが、すぐに無表情に戻ると、八景を引き戻し、惚けた表情を浮かべている夏織に向かって横薙にする。
夏織は喉を鳴らし、太刀から力を抜くと後方へと跳んだ。
それらは大きな隙だったが、恭也は追撃をしかけなかった。ただ小太刀を構えたまま、夏織を見つめている。

「一応初めまして、というべきですかね……夏織母さん」
「そんなばかな……」
「俺としては、そのセリフはそのまま返したいところなんですが」

恭也とてばかなと言いたいぐらいなのだ。この世界で母親に会うことになるなどと。
まあ、やはり知ったことではないが。
彼女が破滅の将であり、恭也の大切な者たちを傷付ける敵であるのならば、容赦などしない。
今まで会ったこともなかった母親など他人と同じだ。どうやっても天秤は、今の大切な人たちに傾く。

「士郎の息子……なのか?」
「ええ、間違いなく。その反応からすると、あなたの息子でもあるようですが」
「ありえない! あいつは……恭也はまだガキのはずだ!」

前回も似たようなことを言っていた。そのとき彼女は恭也とは明言せず、御神には鴉と遣い手とも言えないガキしかいない、と言っていた。そのガキが恭也であったのだ。
ガキ、それは技術的な意味だと恭也は思っていたが、夏織の反応を見るに、本当に彼女の中では、恭也は子供のままなのだろう。

「そのへんよくわかりませんよ。ですが、間違いなく、俺は不破士郎の息子です」

そう言って、恭也は八景を掲げた。

「これは父の形見なんですが、見覚えは?」
「……八景?」

今までありえないことだからと、気付いていなかったのだろう。夏織は、じっと八景を見て、再び眼を見開く。

「ってことは、本当に……」
「ええ。俺はあなたと不破士郎の息子ですよ、夏織母さん」

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.334 )
日時: 2009/01/25 22:55
名前: テン


その言葉を聞いて、夏織は再び笑った。だが、それはこれまでのような不敵な笑みではなく、苦笑だった。

「思ってもないこと言うんじゃないよ。ってか母さん言うな」
「それもそうだな」
「あたしが母親だからって迷いはないんだろう?」
「ない。あなたが俺の大切な人たちの脅威となるのなら、斬って捨てる」

その言葉を吐く恭也には、本当に虚勢もなにもなかった。その目も敵を見る冷たい瞳。
かつて恭也は、美沙斗が家族の仇を討つために、家族である美由希を手にかけようとする矛盾を見たことがあった。それは美沙斗の激しい感情故の間違い。
だが、この状況は違う。目の前の女性は、確かに恭也の母親のようだ。しかし、恭也にとっては真実他人と同じである。
家族とは血が作り出すものではないと、恭也は知っている。だがそれは逆に、血が繋がっていようと他人になることもあるということでもあった。
目の前の女性は真実一度も会ったことがなかった『血の繋がった他人』だ。それを斬ることに迷いなど浮かばない。躊躇いもない。
恭也は、決して彼女を恨んでなどいない。むしろ産んでくれたことに感謝している。だが、やはりそれだけだった。それ以上の感情は今のところはない。
それを聞いて、またも夏織は笑みの質を変える。不敵に、獰猛に、まるで猛獣のように、唇をつり上げて笑ってみせた。

「上等だ。それでこそ不破だ! それでこそ士郎の息子だ! ああ、お前は正しく不破を継ぎ、士郎の意志を継いでるよ!」

彼女は、息子に敵対視されても喜んでいるのだ。
それが正しいと。
まるでよくできたと誉めるように。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.335 )
日時: 2009/01/25 22:55
名前: テン


しかし、その表情とは逆に、夏織は刀を鞘に戻してしまった。

「だが、今日のところは退く。今の話を聞いて、色々と引っかかることがあるんでね。ああ、別にあたしがお前を斬れないってわけじゃないから勘違いするなよ」
「俺はここで死ねと言ったぞ。逃がすと思うか?」

それはもはや母親に向ける言葉ではない。それでも夏織は嬉しそうに表情を浮かべている。そしてシニカルに笑い、首を振った。

「思ってないよ。だけど、あたしの話を聞いたらあんたは追ってこない」
「話?」
「そうだ。聞かなければ後悔するかもしれないよ?」

どうする、と夏織は顎を少し反らして聞く。
恭也は沈黙するが、それも一瞬。

「聞こう」

彼女は嘘は言っていない。少なくとも彼女自身は、今から自分が言うことを恭也が聞かなければ後悔すると思っている、というのがわかる。
それは退くための時間稼ぎであろうが、聞いてから判断しても遅くはない。

「エリカが殺そうとしている男ってのはあんただね?」
「……ああ」

まさかここでその名が出てくると思っておらず、恭也は一瞬面食らったが、それもすぐに戻す。

「ってことは、お前、妹がいるだろう? 士郎の娘か?」
「そうだ」
「エリカはそいつを狙ってる。今頃やりあってるころじゃないかい?」
「っ!」

今までで一番大きい恭也の反応を見て、夏織は今度は鼻で笑う。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.336 )
日時: 2009/01/25 22:57
名前: テン


「お前への復讐のために、まず妹を殺すんだそうだ。言っておくが、あの娘はそれなりに強いよ。あいつの目的に対する姿勢は好きじゃないが、それ以外はそれなりに気に入っていてね。あたしがほんの少しだけだが、戦い方を教えてやった。
まあ、それでもお前にゃ敵わないだろうけど。むしろあいつの戦い方じゃ天敵はお前だ。が、戦いのたの字も知らんお前の妹や他の救世主候補なら、それなりに厄介だぞ?」

恭也はそこまで聞いて舌打ちする。そして、小太刀を鞘に戻した。

「行け」

これで恭也も彼女と戦っていられなくなった。すぐにでもなのはの元に向かわなくてはならない理由ができてしまった。
聞いたことに後悔はない。確かに聞かなかった方が後悔していただろう。エリカとなのはとだけは戦わせていけないと恭也は思っているから。つまり、夏織の言うことは当たっていたということだ。
それに礼は言わないよ、と言って、夏織は背を向けた。だが、駆けだそうとする前に、再び恭也の方を向く。

「息子、最後にいいこと……かどうかはわからないけど、もう一つ教えてやるよ」
「なんだ?」

すでに最初のような敬語は、恭也も使わなくなっていた。
それを気にすることなく、夏織は爆弾を放つ。

「士郎は生きているかもしれないよ」

その言葉の爆弾に、恭也は目を見開き、頭の中を真っ白にさせた。

「な、に?」

それは何とか出てきた言葉。意識せずとも唇が動き、そんな声を発していた。
しかし、夏織は今までの笑みを引っ込めて、真剣な表情で続ける。

「士郎は生きているかもしれない。この世界……アヴァターでね」

信じる信じないは好きにしな、と続け、夏織は今度こそ恭也から視線を離した。

「んじゃな、息子。次に戦うときを楽しみにしてるよ」

そんな言葉を残し、夏織はモンスターの合間に消えていく。
恭也は、夏織が残した爆弾をどう対処しようか迷っていたが、それを考えるのはあとでも構わないと首を振った。

「あなたも息子と言うな」

夏織が消えていった方向に、そんな言葉を放つと、恭也も身体を反転させた。
そして、今まで来た道を引き返していく。
向かうべきはなのはがいる場所。
そこにはもう一人恭也が因縁を持つ相手がいるかもしれない。
会わなければならない。何としても。
なのはと戦わせてはいけない。彼女と戦うべきは自分なのだと、恭也は心の中で呟き、速度を上げた。



◇◇◇



「うそ……」

なのはは呟きながらも、伸びてくる刃を転がってかわす。
力の限り振り下ろされた十メートル近くにもなる長すぎる刀身は、地面に叩きつけられ土煙を舞わせ、進路上にあったモンスターの死体を幾つもぶつ切りにした。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.337 )
日時: 2009/01/25 22:57
名前: テン


さらに地面との衝突の反動を使い、跳ね上がるようにして切り上げられる。
なのはは喉を鳴らしながら、その刀身に白琴を叩きつけて押さえ込むが、力は完全に負けている上、長さから遠心力が伝わり、そのまま白琴ごと跳ね飛ばされた。
空中で何とか体勢を整え、不格好に着地する。
それは明らかな隙だった。
しかし、三撃目はこない。
真正面を見ると、敵である黒髪の少女……エリカは、笑いながらなのはが立ち上がるのを待っていた。
明らかに遊ばれていた。

「速くなってる……」

エリカの攻撃は、前のときと比べて格段に速くなっていた。それはまるで重さを削ぎ落としたかのように。
だが、それはない。前にエリカは長くしても重さは変わることはないと言っていた。それはつまり、重くはならないが、軽くもならないということだ。
そう、削ぎ落とされたのは重さではなく、無駄な動き。

「知り合いに少し戦い方を教わったのよ。結構うまくできてるでしょ?」

エリカは再び肩にかかった髪を払う。

「あなただって避けるのと受けるの、上手くなってるじゃない」

クスリと外見に似合わないどこか妖艶な笑みを顔に浮かべるエリカ。

「私もおにーちゃんに色々教わったから」

決してエリカと戦うためとは言わなかったが、近接攻撃主体……それも攻撃が速い敵と一対一で戦わなくてはならないときのために、という建前のもとなのははひたすら恭也から攻撃を受け、捌く方法を、そして避ける方法を実地で教わった。
もっとも恭也はかなり渋っていた。なのはの今現在の戦闘スタイルならば、近接戦闘主体の人間……それも相手が速いならば逃げろと言われていたのだ。
それでも教えてくれたのは、逃げる手段としてなのだろう。
エリカの攻撃は、決して恭也ほど速くない。いや、攻撃の速さという意味では間違いなくエリカの方が速い。だが、着弾……相手に斬撃を届かせる速さは段違いに恭也の方が速いのだ。
その速さを、エリカの間合いの広さと考えてなのはは訓練を受け続けたのだ。
しかし結局のところ、エリカがなのはの天敵であるというのは変わらない。攻撃さえさせてくれない。ならばひたすらに避け、受け、捌き、隙を見つける。後手後手の戦法しかなかったのだ。
恭也の弁では、近接攻撃主体の者相手には、捌くか避けることで相手の体のバランスを崩し、隙を作ることが重要だと教わったが、それはエリカには適用されない。
なぜなら彼女が扱う武器は、近接武器でありながら、遠・中・近の攻撃全てをこなしてしまう反則な武器だからだ。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.338 )
日時: 2009/01/25 22:58
名前: テン


離れたところで捌いても、相手の体を崩すのは難しい。得物が長すぎて、捌いても感覚を崩す流れを彼女の身体に伝えることができない。
かといって近づかせてもくれない。元々遠距離主体……というよりも、遠距離しか使えないなのはだが、捌いて体を崩すためには近づかなくてはならない。これは本来本末転倒だが、奇策としてなら用いることはできるはずだ。
本当に相性が悪すぎる。
救世主クラスの中で、彼女と相性が良いのは大河ぐらいだろうか。あの突進力で詰めることが可能だろう。逆にリコ以外の後衛組は全て駄目。かといってカエデも難しい。
恭也はきっとなのは並に相性が悪い……と、なのは自身は思っている。大河のような突進力もないし、カエデのような速さもない。間合いが詰められないだろう。もっともそれでも恭也が負ける姿は想像できないが。

そんなことを考えている間に、伸びた刀身が上からなのはへと迫る。それを何とか身体を回転させることでかわす。こう言ってしまえば格好がついているかもしれないが、実体はほとんど飛び跳ね、転がる芋虫のようにしてかわしていた。
それだけ必死なのだ。召喚器があるため、普通の人以上の動きができるが、彼女は基本的に運動神経が悪いのだから。
本来の彼女のスタイルで戦わせてくれれば、こんな飛んだり跳ねたり転んだりはしない。
何よりまずは言葉からと決めたのだ。

「ねえ、どうして!?」

右から横薙ぎ。
白琴で不格好に受け止めるが、弾き飛ばされる。
 
「なんでおにーちゃんを!」

上段から振り下ろし。
やはり転ぶようにしてかわす。

「おにーちゃんは何もしてない!」

その叫びを聞いて、振り上がろうとしていた刀身がピタリと止まった。
刀身が一気に小さくなり、ダガー本来の長さに戻る。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.339 )
日時: 2009/01/25 22:59
名前: テン


話を聞いてくれる気になったのか、となのはは立ち上がりながらもエリカを見つめた。

「……何もしなかったこと、いえ、何もできなかったこと、それが……あいつの罪なのよ!」

エリカは腕を振り、顔を歪ませて叫ぶ。
それは本当の怒気、憎しみの表情。それ以外にも何かの感情が見えるような気もしたが、それが何なのかはなのはにはわからない。
エリカの顔を見て、一瞬押されそうになったが、おにーちゃんはそれでも助けようって必死だったんだ、となのはは自分を鼓舞する。それを伝えなくちゃいけない。
だがそれを言う前に、エリカは続けた。

「その上、私から取り上げた! 本当に憎めるはずの存在を!」
「本当に憎める?」
「全部、全部、恭也さんが! あいつが! 高町恭也が! 全部奪った! 奪われた! 救えなかったくせに、憎しみの矛先すら奪って! あの子の憎しみは、どこにいけばいいのよ!?」

それは支離滅裂な言葉だった。
なのはにはまったく意味のわからない言葉の羅列。
だけど、

「そのせいで……あの人は、私の想いすら殺した! 私のあの人への想いはどこにいけばいいのよ!?」

泣いていた。
涙は浮かべていない。
だけど、エリカは確かに泣いていた。

「もう私は……あの子は……あの子の生きたかったっていう憎しみは、私の想いは! 全部、全部、全部、一纏めにして、全て恭也さんにぶつけるしかないじゃない!」

泣いているから、涙を浮かべずに泣いているから、その叫びは本当に心からのものなのだとなのはにもわかる。
だけど、その叫びの意味は、なのはにはまるでわからなくて……
その意味を理解できるのは彼女だけ……
他者でその意味を本当に少しでも理解できる者がいるとすれば……

「ああ。それが正しい。その憎しみは、俺にぶつけるべきものだ」

彼しかいなかった。

「おにーちゃん……」

いきなり背後に現れた兄に驚いた声をなのはは向けるが、恭也はそれに答えず、ただ目の前の少女を見続けていた。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.340 )
日時: 2009/01/25 23:00
名前: テン


恭也の姿を見とがめて、先ほどまで一心に叫んでいたエリカは、最初こそ驚いた顔を浮かべたものの、すぐに楽しそうに、そして嬉しそうに笑った。

「久しぶりだね、恭也さん」

なのはと相対していた時とは違う口調。
それはなのはと初めて会ったときと同じ口調だった。いつのまにか崩れてしまった口調。

「ああ、久しぶりだな」

それに恭也は、彼らしい淡々とした口調で返す。

「また会えて嬉しいです」

エリカは本当に嬉しそうに言うのだが、恭也はため息を吐いた。

「そんな演技は止めておけ」

端で聞いていたなのはは、その恭也の言う演技というのは、復讐心を隠すな、という意味で取った。
だが、それだけでエリカの表情は罅割れる。

「あん……た……が……よりにもよってあんたがそれを言うの!?」

エリカは口調をなのはと相対していたときのように戻し、顔を怒りの色に染めて再び叫んだ。
だがそれはなのはには言っている意味がわからない。なぜあの言葉でそんなに怒るのかわからない。
恭也はやはりその怒りも冷静に受け止めていた。

「あの子を救えなかったあんたが! あの子の信頼を裏切ったあんたが! あの子との約束を破ったあんたが!」

エリカは犬歯をむき出してに叫ぶ。
それは今までとは違う意味で感情的な表情。
恭也は、まるでその言葉と感情を受け止めるように一度目をつぶる。だが、それをすぐに開いた。

「そうだな、俺はあの子を救えなかった。あの子を裏切った。あの子との約束を違えた」

『あの子』。
そう、二人はなのはの理解の外である会話をしていた。
二人の中心にあるのは『あの子』なのだ。
二人の間にあるのは『あの子』なのだ。
なのはは、エリカが恭也を憎むのは、自分を助けてくれなかった恨みだと思っていた。恭也もそんなふうに言っていた。
なのはからすれば、空回りした憎しみだと思っていた。
だが、違う。
なのはだけが、根本的なところでズレていたのだ。
結局なのはは当事者でないから、全てを知り得ていなかった。
そのズレ、その全ては……

「だが、『エリカ』ではないキミが、『アリサ』である君が、『エリカ』であろうとするのは間違っている」

本当に大きいものだった。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.341 )
日時: 2009/02/11 21:56
名前: テン





外伝(番外編?) 勃発 救世主科対一般科 恭也争奪戦 




いつもならば授業も終わり、一日の疲労を労りながらも、仲間たちで雑談などで賑わう食堂。
が、今日は妙に寒々しく、刺々しい雰囲気が流れている。
食堂の中央が特に混沌と化していて、多くの生徒たちがそこに視線を向けている。
その混沌と化している食堂中央には、二十名にも上る男女の生徒の姿があった。

『…………』
『…………』

その二十名以上の男女は、二つの集団に別れ、ただ相対する集団を睨み付けている。一触即発と言えるまでに、その二つの集団はピリピリとしているのが見ているだけでわかる。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.342 )
日時: 2009/02/11 22:01
名前: テン


「それで……一体さっきから何を言っているのかしら、魔導士科主席のフィル・アークスさん?」

唐突に、その中の一人であった救世主クラス主席、リリィ・シアフィールドが猫を被った口調と微笑を浮かべて問う。だがそれらは演技だとわかり、さらに額に浮かぶ井形が、妙な刺々しさを与えている。

「いえ、とくに何も。ただそれでもあえて言わせてもらえば……恭也さんが可愛そうだな、と」

一般科の完璧超人と呼ばれ、どっかでは要注意人物とされるフィルは、うふふ、と優等生な笑みを浮かべて言った。というか、とくに何もとか言って核心を言葉にしてるじゃん、と周りの関係ない生徒たちは一瞬突っ込みかけたが自粛した。だって的になりたくないもの。

「……この前、恭也さんに怪我を負わせたあげく、迷惑をかけた人たちが良く言いますね」

リコは珍しく刺々しく、しかも小さい声なのに良く通る声音で呟く。

「ええ、確かにご迷惑をおかけしました。ですから私たちはもう二度と恭也様に迷惑をかけないように強くなると決めたんです。あなたたちとは違います」

カラーは腕を組み、まるで祈るように。

「有言実行できてなくては意味はありません。神も行動力のない言葉は許してはくれませんよ?」

委員長、ベリオはクイっと眼鏡を上げて、その奥の目は鋭くさせている。

「神が何だって言うんですか? 僕たちが信じるのは恭也さんですよ」

ライラックは、僅かに鼻を鳴らして。

「信じる、ですか。そんなことで恭也さんの力になれるとでも思ってるのかな?」

未亜は、うふふふふ、となぜか妙に暗い笑顔を浮かべている。

「信じるのも強さだよ。ボクたちは恭也さんを信じて、そして恭也さんにも信じてもらえるようになるんだ」

パフィオはまるで嘲笑うように口元を歪め、薄い胸を反らす。

「面白いことを言いますねぇ。おにーちゃんを信じることで強くなれるのなら、私たちは無敵ですよ? とくに私なんか世界滅ぼせちゃいますよ?」

口元をヒクヒクと引きつらせ、それでも笑顔を浮かべるなのは。

「世界を滅ぼす、何を言っているんですの?」
「恭也さんがそんなこと望むわけないでしょう?」

アキレアはハッと鼻を鳴らして、アスクは呆れるように首を振った。

「ふう、老師をわかっていないでござるなぁ。老師は目的のためならば世界すら敵に回せる御仁でござるよ」

カエデはやれやれとやはり首を振る。

「…………」

フィルたちの後ろには、他にも数人の生徒たちがいるのだが、それらはただ救世主候補たちを睨み付けている。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.343 )
日時: 2009/02/12 03:21
名前: テン


『…………』
『…………』

再び沈黙し、ただ睨み合う両集団。

なんでこんなことになってしまったのか、それは正直、ここに並び立つ全員が今一理解できていないだろう。
ただ最初に火種をぶち込んだのは、間違いなく救世主クラスであった。
たまたま、本当にたまたま、この両集団は夕食の席で近くになった。
お互いそれほど干渉しようとしていたわけではない。元々救世主クラスは、尊敬を集めるものの、だからこそ一般生徒から敬遠されている節があった。それを救世主クラスの者たちもわかっていたから、干渉しない。
だが、だ。そこにリリィが火種をぶちこんでしまった。
彼らを見て、その彼らが前に恭也が救出した生徒だとわかった彼女は、愚痴をこぼしてしまったのだ。
よく恭也に怪我を負わせて笑っていられるわね、と。
だが、それも一般科の生徒たちは耐えた。それは事実であったからだ。
リリィが言っていることは決して間違いではないし、さらに言うなら、普通親しいものが傷ついたら、その原因となった者に悪意をぶつけてしまうのも仕方がないことだろう。
しかし、リリィの言葉で他の救世主クラスの者たちまで火が点いてしまった。恭也を傷付けられたことで鬱憤が溜まっていたのだろう。似たようなことを次々と言ってしまったのだ。
ここで一般科のフィルが一言言ってしまった。
恭也さんは、あなたたちとは違う、と。
フィルだってわかっていた。あれは自分たちのせいだと。だが、恭也が自分たちの仲間だと当然のように思っている彼女たちが気にくわなかったのだ。
そして、これで一般科の生徒たちに火が点いた。
召喚器を持たずに戦う恭也は、精神的には自分たちの味方なのだと。
そして、ここから両雄共に爆発した。
陰口大会が終わると、全員が立ち上がり、舌戦へと以降してしまった。
それはお互いどれだけ恭也を知っているのか。どれだけ恭也を理解しているのか。どれだけ恭也を信頼しているのか。
全て恭也絡みである。

メンテ

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