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黒衣(仮投稿)
日時: 2008/05/15 06:31
名前: テン

浩さんに許可を頂きましたので、暫くの間黒衣を仮投稿という形でこちらに投稿させて頂きたいと思います。

あくまで仮であり、落ち着いたらいつかは今までどうりに投稿したいとは思っていますので。
これも携帯からの投稿なので、少々見づらいかもしれませんがよろしくお願いします。
一章を分割して送っていきます。


目次

>>1-27 恭也編 四十二章

>>54-91 恭也編 四十三章

>>122-156 恭也編 四十四章

>>197-227 恭也編 四十五章

>>228-255 恭也編 四十六章

>>256-268 恭也編 四十七章

>>269-288 恭也編 四十八章

>>289-317 恭也編 四十九章

>>318-330 恭也編 五十章

>>331-340 恭也編 五十一章

>>351-367 恭也編 五十二章

>>368-382 恭也編 五十三章

>>383-394 恭也編 五十四章

>>414-433 恭也編 五十五章

>>434-457 恭也編 五十六章

>>458 恭也編 五十七章

>>459-480 恭也編 五十八章

>>481-503 恭也編 五十九章

>>504-532 恭也編 六十章
>>565-587 恭也編 六十一章

>>28-53 大河編 三十章

>>92-121 大河編 三十一章

>>157-196 大河編 三十二章

>>395-413 大河編 三十三章

>>341-350 外伝
メンテ

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.384 )
日時: 2009/07/19 22:36
名前: テン


「おにーちゃんっ! おにーちゃんっ!」

恭也に駆け寄る栗色の髪の少女の姿がアリサの目に映る。
その姿は……

『エリカッ! エリカッ!』

かつての己だ。
本来の茶の髪をした己が、エリカの亡骸に縋り付いていた。

「あ……ああ……!」

少女が……なのはが、顔を上げた。

「…………」

その目が憎悪に染まっていた。
その姿は、間違いなく、かつてのアリサだった。




第五十四章




「おにー……ちゃん……っ!!」

恭也の心臓は動いているが、この流れる血の量は命にかかわるかもしれない。なのはは回復魔法が使えない。彼の傷を癒すことはできないのだ。
つまり、ベリオかリリィ、リコを見つけるか、もしくは後方に下がり回復魔法を使える人たちの元に連れて行かなくてはならない。
それをするためには、

「あなたは……邪魔……っ」

目の前の少女……アリサが邪魔だった。
恭也を助けるために、目の前の少女を徹底的に、壊滅的に……殲滅する。撲滅する。死滅させる。
この怒りと憎しみを糧に、必ず目の前の存在を消し去る。この世から、塵も残さず滅却しつくす。
兄を傷付けた存在など有害なだけだ。いらないのだ、この世にそんなものは。だからその存在ごと消しつくす。

「白琴ッ!!」

犬歯を剥き出しにし、相棒の名を呼ぶと、先ほど恭也に縋り付くために、いつの間にか消えていた白き剣がなのはの手に再び戻った。
怒りで埋め尽くされていたはずの思考が一気にクリアとなる。彼女を完全に消滅させる方法などそれこそいくらでもある。幾通りもの方法が一瞬で浮かんできた。
自分はそれが簡単にできる。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.385 )
日時: 2009/07/19 22:36
名前: テン


ああ、人を殺すことなど簡単なのだ。
本当に、本当に簡単だ。簡単だからこそ、きっと今ままでは難しかった。けど殺すと決定してしまえば……
目の前の少女には慈悲などいらない。あれは自分の大切な者を奪う存在。

「……っ!!」

なのはは似合わない憤怒の形相で白琴を振るう。
身体が軽い。
先ほどまでの魔法陣を一つ描くのにかかった時間で、三つの魔法陣を描ききる。
今のなのはにはアリサを殺すことに躊躇いはなかった。そもそもなのはは今まで傷付けることにさえ、どこかで忌避していた。それは高町なのはが高町なのはであるが故に。高町なのはが高町なのはであるために。
しかし、今はそんなものは邪魔だと完全に取り払う。誓ったではないか、恭也を守るためならば殺すことも辞さないと。
それが今このとき。目の前の存在を殺すことを決定した今、それまであった精神的なリミッターまでが取り外され、完全に身体が脳で描いた通りの動きをトレースしていた。
魔法陣から現れるのは憎悪の炎。今までよりも禍々しい輝きを持つ荒ぶる炎だ。
白琴に魔力を貰うのではなく、逆になのはの魔力までを押し込んで作られたそれは、解放の時を今か今かと待っている。
急かさずとも、相手を燃やしつくすのはもうすぐだ。

「ふぅっ!」

猫が敵を威嚇するようになのはが息を吐き出すと、三つの炎が射出された。まるで弧を描くようにそれらが回転しながらアリサへと向かっていく。
ずっと目を見開いてなのはを眺めていたアリサだったが、何かを耐えるように口を歪める。

「エターナル!」

それに応えるように、アリサの左腕に透明な盾が現れ、同時にやはり彼女の目の前に、透明な、だが光を反射する障壁が展開。
しかし、そんなものなのはにとって予想の範囲内だ。
どんなものであろうと食い破る。そして、その後ろにいる敵を滅ぼす。
その意志を汲み取るかのように、三つの炎は動き出す。アリサが展開した障壁の一歩手前。そこで三つだった炎が、絡まり合うようにして一つになっていく。
ただの炎だったそれは、三つが重なることで灼熱を宿す業火と化す。
全てを燃やしつくすために、アリサの障壁とぶつかり合う。
完全に拮抗すると二つの力。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.386 )
日時: 2009/07/19 22:38
名前: テン


アリサの障壁は、業火を押しとどめるためにギチギチと音を鳴らし、なのはの業火は敵を滅ぼすためには全てが邪魔だと温度を上げながら障壁を食い破ろうとする。
自身の魔力まで押し込んでのなのはの最大威力ともなったそれは、一進一退を繰り返すようにして、アリサの障壁へとぶつかり続ける。
ギチギチと音を立てていたアリサの障壁、それが……

「そん……な!?」

罅が入り始めた。
アリサは驚愕の表情を貼り付かせるしかない。召喚器であるために最大の防御力を発揮するはずのそれが、今まさに食い破られようとしているのだ。
だが、足りない。
なのはにはわかった。あれではまだ足りない。もうすぐあの業火は掻き消える。障壁を罅割れさせただけで終わり、すぐにアリサはソレを補強してしまうだろう。
だったら……さらなる力を撃ち込めばいいだけのこと。

「ブレイズノンッ!」

高速で呪文を詠唱し、手に最大の魔力を込められた火球が出現する。それを一気に投げつけた。
火球は一直線に業火へと取り込まれ、次の瞬間には爆裂。
その新たな爆裂により、アリサの障壁に刻まれた罅割れが、亀裂へと変化していく。

「っ!?」

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.387 )
日時: 2009/07/19 22:38
名前: テン

結界だろうが盾だろうが、耐久限界、耐熱限界というものがある。どれだけ強力なものでも、決して砕けないものはこの世には存在しない。無敵なんてものはない。最強なんてものはない。
そして、人さえもそうなのだ。
本当に簡単に、なのはは人を殺せると理解した。
ガラスが割れるような音が響き、障壁が砕け散る。
障壁との衝突で業火は掻き消えてしまったが、爆裂した火球はまだその余力を僅かに残していた。それはアリサの目の前で小さな爆発を起こす。

「きゃっ!」

最初の爆裂に比べれば本当に小さな爆発であったが、障壁が砕け、目の前で起こったそれにアリサは耐えられず、弾き飛ばされた。
地面を転がり、身体中が擦り傷だらけとなりながらも立ち上がろうとするが……

「っ!?」

その目の前に、先ほどの業火も灯火に思えるほどの憎悪の炎を瞳に燃やすなのはがいた。
閃く銀光。

「あぁぁぁぁぁああぁぁあぁぁあぁぁぁぁ!!」

絶叫とともに白琴に乗せられた殺意。
それは鋭い突きだった。
白琴は重さがないため近接武器としては本来使えない。だが、全身の力と自身の体重を乗せた突きは、その限りではない。さらに斬れないとはいえ、白琴の形状はきちんとした小太刀だ。その先端は酷く鋭利。全身の力を込めれば突き刺すことは十分に可能だった。
それらを理解しての一撃なのか、それとも無意識なのか。どちらにしろ彼女にある不破として血が、本能的に繰り出していたのかもしれない。

「くうっ!」

アリサは、立ち上がりかけの中途半端な体勢ながら、本来のダガーの状態であるインフィニティで何とか白琴を弾く。
いくら力が乗せられていようと、白琴自体の軽いため、簡単に弾き飛ばされる。

「ふっ!」

が、軽いが故に、召喚器によって強化された筋力で、技巧はなくとも、弾かれたあとのその切り返しも速かった。
今度はただの力任せの斬撃。
白琴は切れない、ということすらなのはは忘れているのかもしれない。しかし、その斬撃は異様に鋭い。
軽さを活かしての連撃に次ぐ連撃。
それは本当に出鱈目に振るっているはずなのに、御神流の虎乱を彷彿とさせる乱撃であった。

「こっ、の!」

アリサは、なのはの連撃を体勢を整え、何とか一つ一つ防ぎ、かわす。
メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.388 )
日時: 2009/07/19 22:39
名前: テン


それまでと違い、遅れを取っているのは明らかにアリサであった。
これまでずっと遠距離攻撃を行ってきた相手が、突然戦闘スタイルを変え、近接戦闘を挑んできたことに驚き、さらにそれまで対応がまるで効かなくなったために、反応が少しずつ遅れていた。何よりアリサの顔は青ざめていて、精神的にか、それとも肉体的にか、何かの問題があるようだった。
ダガーと小太刀という短い剣。二つの召喚器が何度もぶつかりあう。

「調子に……乗るなぁぁぁぁ!!」

今の今まで押されていたアリサが、ダガーの刀身を伸ばし、横薙ぎの一閃を繰り出す。
しかし、なのはは憎悪に支配されながらも、緻密に動く。膝を曲げ、上半身を折り、伸びた刀身をギリギリでかわす。数本の髪が切られるが気にもしない。
かわし終えると、下から突き出すようにして手を前へと向ける。

「ヴォルテクス!」

なのはは、呼吸が難しくなるというのも無視して、連撃の間に呪文の詠唱していた。その魔法をここで解放。
雷の束が、アリサに向かって殺到する。

「調子に乗るなって言ったでしょうがっ!」

アリサは吼え、向かってくる雷を無視した。そして、そのままインフィニティの刀身を伸ばして振りかぶると、力の限りに叩き下ろす。

「っ!?」

それをなのはは何とか身を捩り、さらに地面を這いずるようにして避ける。

「くうっ!!」

アリサの方は、雷が直撃し、身に帯電していた。バチバチと音が聞こえて、彼女に着ている服が焦げる。
召喚器を持っているため、常人とは比較にならないほどの対魔力を持っているだろうが、それでも直撃した魔法は、膨大な魔力を持つなのはの魔法。無傷などありえない。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.389 )
日時: 2009/07/19 22:41
名前: テン


しかし、アリサは目を鋭くさせ、手を振るう。すると帯電していた雷が払われた。
それからなのはを睨む。

「私は……間違ってなんかいないっ!」

アリサはまるで自分に言い聞かせるように叫んだ。
対するなのはは、その言葉に何の反応も示さなかった。ただ白琴を構えるだけ。
なのはにとっては、今はただの目の前の少女が邪魔なだけだ。その彼女が何を思っていようと関係なかった。邪魔であるから、排除するだけだ。
アリサもインフィニティを白琴と同じ程度まで刀身を伸ばし、構える。
アリサにとっては、目の前の少女は、自分の中の何か……それも思いだしたくないなにかを揺さぶり、鬱陶しい存在だった。だから潰す。
剣を向け合う二人の姿は、まるで両者ともに決着をつけようとでも言っているようだった。

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「たあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

両者同時に駆け出す。
己の武器を相手に叩きつけるために。
その動きは、恭也と比べてしまえばきっと稚拙すぎるものだろう。だが、そんなものは関係ない。
ただ相手を排除するために……
ただ相手を潰すために……
その武器を相手へと突き出した。
だが、

「え……?」
「なっ……!?」

二人の間に、旋風のように黒い影が舞い込む。
甲高い音ともに火花が散るが、なのはとアリサの剣はお互いの身に届くことはなかった。




メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.390 )
日時: 2009/07/19 22:41
名前: テン




「……まったく、二人揃って暴走か」

二人に割って入り、二人の剣を左右同時に受け止めた人物……恭也は短く嘆息する。
軽く聞こえる言葉だが、未だ彼の胸から鮮血が滴っており、顔は痛みで僅かに歪んでいる。
そんな恭也をなのはとアリサはどこか呆然と眺めていた。
恭也が二人の剣を受け止めたままの体勢で、しばらくの間固まってしまっていた。
しかし、すぐにアリサが目を見開き後ろへと跳んだ。

「ふ……ふふ、何だ動けるの? 死んだのかと思ってたわ」

笑いながら皮肉を言うが、その声音はどこか嬉しそうであることに彼女自身は気付いているのか。
恭也は、なのはの白琴から八景を離し、鞘にしまう。それからコートの中へと手を入れた。
そこから取り出したのは、一本の小太刀。クレアから貰った予備のうちの一本。だがそれは鞘の中央が砕かれ、刀身が剥き出しになっていた。そして砕かれた鞘から覗く刀身も、全体的に罅割れ、もう使用できないのは見ただけでわかる。

「これがあったから、致命傷は避けられた。血は足りないがな」
「ふん。運がいいわね」

実際のところは運ではない。かわせないとわかったからこそ、恭也は何とかダメージを少なくしようと、あの状況で小太刀を隠してある部分に当たるように身を捩ったのだ。
もっとも致命傷は避けられたものの、相当の範囲、相当の深さで斬られたため、つい先ほどまで意識を失っていた。出血量のために、治療しなければ危険なのは変わりない。

「おにーちゃん! 動いちゃダメだよ!」
「……問題ない」

その言葉に説得力がないのは、恭也自身わかっていた。今もまだ血が流れ続けているというのに何が問題ないというのか。
しかし、なのはをこれ以上、アリサと戦わせるわけにはいかなかった。
メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.391 )
日時: 2009/07/19 22:42
名前: テン


意識が戻ったとき、恭也が見たのは憎悪を宿すなのはと、どこか自暴自棄になっているように見えたアリサだ。そのどちらも自分が原因であるとわかっているのに、寝転がっている暇など恭也にはなかった。
なのはのあの感情に任せての凶行とも言える行動も、自分の身を削ってでもなのはを排除しようとしていたアリサも、恭也は見たくないものだったのだ。

「今度こそ……今度こそ殺してあげるわよ」

どこか苦い顔をして言うアリサに、恭也は剣を構えようとするが……

「おにーちゃん!」

力が入らずに膝が折れた。何とか紅月を地面に突き立てて立ち上がるが、それが限界そうだった。
さて、どうするか。それなりに危機らしい。
今のなのはを戦わせたくないというのもあるが、アリサの標的が再び恭也に移った。この状況で戦闘になれば、間違いなく恭也の方が足手まといだ。
なのはも恭也が目覚めたことで、先ほどまでの憎悪は掻き消えたものの、逆に精神的に不安定となってしまっている。こう言っては何だが、恭也同様に戦力にならないかもしれない。
今のまま戦闘になれば、九分九厘負ける。
どこに活路を見出すか。
逃げる。それしか道がないのは間違いないし、別に逃げること自体にも抵抗はない。今更敵に背を向けることでプライドなど傷付かない。そんなのものはとうの昔に捨てた。元より敵を殺すことと、自分が生き残ることを主眼とし、そのためには卑怯上等である古流に、プライドを持ち込む余地などそれほどないのだ。
何よりなのはを守らなければならない状況で、それ以上に優先しなければならないものなどない。
だが、どうやってその隙を見つけるか、だ。
少しでも情報を収集し、逃げの一手を打つために、激痛を無視し、心を展開する。
すぐに恭也は眉をほんの僅か顰めた。

「……どうやらお前のお仲間たちは退却していくようだが?」
「え?」

恭也の言葉に、アリサは辺りを見渡した。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.392 )
日時: 2009/07/19 22:43
名前: テン


先ほどまでそこら中で蠢いていた魔物たちが、城壁とは正反対の方へと一斉に動き始めている。
心でそれに気付いた恭也だが、なぜこのタイミングで退却するのか、彼にもわからない。どちらかといえば、王国軍の方が押されていたばずだ。それがなぜ退却するのか。
仲間たちが破滅の将を倒したのか、それとも他に理由があるのか。
だが、勝ったかはわからないが、決して仲間たちは負けもしなかった。それだけは確証があった。

「どうする、この中で俺たちは続けるか?」

恭也は、左手の紅月で身体を支えていたが、右手でしっかりと八景を握り、なのはを守るようにしてそれを水平に構えた。

「なっ……」

それを見て、アリサは目を見開く。
今の恭也には先ほどまでの凄みなどどこにもない。だが、その姿を見てアリサは勝てる気がしなかった。相手は今も血を流し続け、今にも死にそうな顔をしているのに。
アリサは知らないのだ。本当に守ると決めたときの恭也を。
今の恭也はなのはを守るために立っている。そうである以上、彼は誰よりも強くなる。なのはを守るためなら、心臓が止まったとしても彼女を守り続けるだろう。
これが本当に本気の恭也なのだ。
先ほどまでとはまるで違う。
恭也としてはこれは時間稼ぎだった。復讐を誓うアリサが、その相手である自分を前にして、退いてくれるとは思っていない。しかし時間を稼げば、大河たちがここに必ず来ると信じていた。
言葉で時間を稼げればそれが一番いいが、無理ならばこの身を盾にしてでもなのはを守り通す。

「……っ!」

アリサは暫し呆然とした表情で恭也を見ていたが、ふとなのはを見た。

「……そういう……こと……」

そう言って、唇を噛みしめるが、その言葉がなにを指すのか恭也にはわからない。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.393 )
日時: 2009/07/19 22:43
名前: テン


そして、血を流しすぎて、霞む視界の中で、アリサがインフィニティを持つ右手を振ったのが見えた。

「くっ!」

攻撃が来ると、八景を握る手に力を入れたが、アリサからの攻撃はなかった。それどころか手を振ったのと同時に、彼女の召喚器が消えている。
アリサは乱れた髪を掻き上げると笑う。

「……今日は退いてあげる」

そして、恭也たちに背を向けた。

「な、に?」

まさか本当に退くとは思っていなかった恭也は、思わず目を大きく開けて驚いていた。

「次は……必ず殺す。でも……」

アリサは顔だけを振り返らせたが、その視線は恭也ではなく、その後ろにいたなのはに向けられていた。
その顔を染め上げるは、先ほどのなのはのような憤怒。

「あんたの前に、あんたの妹を……高町なのはを必ず殺してやる。優先順位を最初に戻す……いえ、切り替えるわ。あんた以上に、あたしはあんたの妹を殺したくなった」
「……そんなことをさせる思うか?」
「ふん、あんたの意志なんか関係ないわ」

言って、アリサはさらになのはを睨み付けた。
それを見て、なのはは目を鋭くさせ、アリサを見る。

「あんたの妹もその気みたいだしね」
「……そうだね」
「なのは!」

応えるなのはに、恭也が叫ぶがアリサは鼻を鳴らす。

「さっきまでとは違う。私たちはお互いを敵と認識したわ」

その通りだと、なのははさらに視線に力を入れた。
あれは敵だ、と。倒すべき存在だと。今まで以上に決定的となっている。

「だから、あんたは今は見逃してあげるわよ」

それを最後に、アリサは再び歩き出した。
恭也たちからゆっくりと離れていく。
それをただ恭也たちは見守った。
メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.394 )
日時: 2009/07/19 22:44
名前: テン


戦場の残り香のように砂埃が舞い、その向こうにアリサの背が消えていく。
それを見届けた瞬間、恭也の身体が崩れた。
本当はもう少しなのはと話したいことがあった。だが、それもできそうにない。

「おにーちゃん!」

再び駆け寄ってくるなのは。頭の一つでも撫でてやりたいところだが、手もすでに血塗れだし、腕を動かすのももう無理そうだった。

「すま……ない……リリィたちを……呼んでき……て……もらえ……るか……?」
「うん! うん! だからしっかりしてよ、おにーちゃん!」

大粒の涙が恭也の頬を伝う。
だが、もうその感触も曖昧になっていた。
そして、心の中でもう一度すまないと呟いて。再び恭也は意識を閉ざした。



◇◇◇



アリサはゆっくりと歩く。
いきなりの退却。その意味は彼女にもわからない。どうせ主幹辺りの命令だろう。どうにもアリサはあの男が気に入らない。
だが、それ以上に気に入らないのは……

「っ!」

その手に再びインフィニティを召喚し、刀身を伸ばしてそこらで退却を始めいるモンスターたちを切り飛ばした。
そのアリサの行動に、魔物は驚愕したが、次の瞬間には我先にと逃げ出していく。

「高町……なのはぁ!」

許せない。
あの少女がどういうわけか気に入らない。
血だらけの恭也の後ろに守られていたあいつが心の底から気に入らない。

「次は絶対に……殺してやるっ!」

高町恭也の前に殺してやる。
高町恭也を絶望させるためにとか、そんなことじゃない。アリサはあの少女が敵であると正しく認識したのだ。
その感情が何であるのか、アリサは気付かない。
それは……嫉妬と呼ばれる感情であることに、アリサは気付いていない。

「…………」

わかることもなく、そして理解としようともせず、アリサはゆっくりと歩いていく。
決着はまだ先。
今回はこれでいい。
本当の敵を理解した今、あとはそれに突き進むだけだった。




メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.395 )
日時: 2009/08/25 10:49
名前: テン





大河は学園長室にいた。
その部屋はそれほど物が多いわけではないが、やはり賓客を招くことを想定してか、清潔であり、日常生活から離れた嫌みにならない程度の豪華さが窺える。
そして、何か雰囲気的な重さを感じさせる部屋だ。

(まあ、部屋がどうこうって言うより、この人がいるだけで雰囲気が重くなるからなぁ)

大河はそんなことを思いながらも、その部屋の主であるミュリエルを眺めていた。
彼女は机の前にあるあまり豪奢ではないが、年代を感じさせる椅子に座り、手を組んで何やら考え込んでいたのだが、すぐに大河の目を見つめた。

「いいでしょう」

いつも通り重々しい口調で言うミュリエルに対し、大河は思わず口を大きく開けた。

「マジっすか?」
「あなたから言ってきたことではないですか」
「いや、そうっすけど、そんな簡単に許可をもらえるとは思ってなかった」

大河はポリポリと頭を掻き、説得するために考えていた言葉を頭の中から一気に消去した。

「まさかあなたが禁書庫に入りたいなどと言うとは思っていませんでしたが」

そう、大河がミュリエルに頼んだのは、彼女が今言ったように、禁書庫に入る許可をくれということだった。

「あー、別に中の本が読みたいってわけじゃないっすよ?」
「わかっています」
「なんかサラッと納得されるのもイヤだな」

まるでお前が真面目な本など読むわけがないだろうと、言外に言われているような気がしてならず、大河は思わず顔を顰めた。まあ、それは事実でもあるのだが。
ミュリエルは気にした風でもなく続けた。

「モンスターと戦うため、ですね?」

言いながら、ミュリエルは睨むようにして大河を見つめた。
だが大河はそれに気圧されることなく、深々と頷いて見せたのだった。





大河編

第三十三章





ミュリエルの言う通り、大河が禁書庫に入る許可が欲しい理由は、モンスターと戦うためだ。
禁書庫は造りこそ単純だがかなり巨大であり、隠し扉や階段が多くあって、深く、大きい。この間の探索では回らなかった場所もある。そういった所には、まだモンスターが残っているだろうし、適当に本を開けてやれば、その中からモンスターも出てくるだろう。
ある意味、一番近場……それも日帰りで、簡単に実戦が経験できる場所だ。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.396 )
日時: 2009/08/25 10:50
名前: テン


だからこそ大河は許可が欲しいのだ。

「ただし、いくつか条件があります」

条件と言われ、大河は僅かな苛立ちから内心で舌打ちした。

「……なんですか?」

だが、それを面には出さないようにして聞き返す。
もっともまだ十と半ばを少し過ぎたほどでしかない少年が隠そうとする感情。そんなもの彼の倍近くを生き、様々な人間を学園長として見てきたミュリエルにはお見通しだ。
しかし、それを咎めようとはしない。

「難しいことではありません。むしろ簡単です。あそこへ行く時間は放課後の二時間のみ。休日でも午前か午後の二時間、どちらかだけと限定します」
「まあ、そんなもんすか」

確かに休む時間は必要だし、いくらなんでも恭也のように何時間も戦ってなどいられない。だからこそ大河は簡単に頷いた。

「行く場合は必ず私かダリア先生に報告をし、帰ってきた時も帰還の報告をすること」
「そんなガキじゃないんすから」
「あなたが行く場所は本来危険な場所なのです。二時間というのも、もし二時間経っても帰還の報告がなかった場合、救出なり何なりを検討しなければならないからなのです」
「……わかりました」

何なりという部分で、下手したら見捨てられるかもしれないな、と大河は考えたが、まあそれはそれで仕方がないと納得した。
実際、ミュリエルは状況によっては大河を見捨てるつもりだ。しかし、それを口に出して言うことはない。その程度の覚悟は大河にもあると思っている。

「次に、もし貴重な書物があった場合は、報告、もしくは持ってきてください」
「簡単な字しか読めないんすけど、まあそれっぽいのがあったら持ってきます」

大河には興味がないものであるが、ミュリエルにとっては有用なものがあるのかもしれない。自身で言うように、大河はまだこの世界の字を簡単にしか理解できないが、適当に持ってこればいいかと頷いた。

「他に条件ってあるんですか?」
「最後は……質問です。条件の通り、これに答えられないならば、許可は出せません」
「なんすか?」
「なぜあなたは実戦を経験したい……いえ、強くなりたいのですか?」

つまり動機だ。
実戦を経験したいのではなく、なぜ強くなりたいのか。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.397 )
日時: 2009/08/25 10:51
名前: テン


救世主になるため、破滅を倒すためだ、と言ってもミュリエルは納得しないだろう。ついこの間まで、大河は救世主になるための努力などほとんどしてこなかったのだ。それらを今更動機にもってくるのは無理がある。それは大河自身よくわかっていた。
同じ理由で、自分の身や未亜を守るためでも納得しない。その努力を見せるべきだった時は、むしろ禁書庫から帰ってきたときだっただろう。無論、恭也たちがいなくなったことで、そんなことを考えている暇がなかったと言ってもいいが、むしろ大河が敵……モンスターを相手にしたのはそのときだけなのだ。
そこまで考えて、大河は再び頭を掻いた。別に隠す必要はないのだ。

「恭也と戦うためです」
「……そうですか」

大河の言葉にミュリエルはやはり驚いた様子もなく、ただ頷いて返しただけだ。
実際驚くほどのことではなく、彼女は予想していた。

「あいつと戦うには、今のままじゃ駄目だ。まだ背中だって見えやしない。だからあいつに追いつくためには、もっと戦うしかない。そうやって強くなるしかない」

それは一種の覚悟だ。この世界に訪れた頃にはなかった大きな覚悟。
大河の続く言葉を聞き、ミュリエルは大きく息を吐き出す。

「わかりました。条件はそれだけです」
「じゃ、いいんすね?」
「ええ」

ミュリエルは頷いてから目を瞑る。
それを見て、もう出ていってもいいだろうか、とも思いながら大河は首を傾げた。
ミュリエルからの反応がないので、やはり部屋から出ようかと大河が足を浮かせかけた所で、ミュリエルは目を開く。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.398 )
日時: 2009/08/25 10:52
名前: テン


「これは条件というわけではないのですが、もう一つ聞きたいことがあります。先ほどのとは違って言いたくなければ言わなくてもかまいません」
「なんすか?」

浮かせかけた足から力を抜き、大河が問い返すと、ミュリエルは再び彼の目をじっと眺めた。

「なぜその方法なのですか? 強くなりたいというのなら、二足草鞋になりますが傭兵科の授業を受けてもいいですし、剣の専属のコーチをつけてもかまいません」

その質問は、大河にとって別に答えられないものでもなく、答えたくないものでもなかった。

「あー、まあ、単純に破滅と戦うってだけならそれでよかったんすけどね。つっても、それだけでんなことしようなんて思わないでしょうけど」
「あくまで高町恭也と戦うためですか」

正直に言ってしまえば、大河にとってすでに破滅はオマケだった。
今、大河が何より重要視しているのは仲間を守ること。これは恭也に託されたものだ。それ自体に不服もあるが、あの宣言を反故にするもりは大河にはない。
そしてその次に恭也と戦い、勝ち、自分たちの道がまだ繋がっていることをわからせてやること。破滅や救世主のことなど、もはやそれ以下の優先順位でしかないのだ。

「今の状況から言って、たぶんそう遠くないうちに、破滅は動いてくる。そのときは……目的はわからないけど、きっと恭也も動く。だから時間もあんまりあるとは思えない」
「でしょうね」

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.399 )
日時: 2009/08/25 10:52
名前: テン

ミュリエルも、恭也たちと救世主候補たちの間にあった会話を、彼ら自身から聞いている。それを考えれば、破滅との戦いが起これば、彼らが動くことは間違いないというのは理解している。
破滅と救世主は言ってしまえば表裏一体。破滅が現れれば救世主が現れる可能性も高いと誰でも思うだろう。ならば救世主を誕生させたくないと言う恭也たちも必ず動く。現れないのならば、逆にその他の理由があるという証拠だ。

「その破滅が本格的に動くのが……いつになるかわかるわけないっすけど。仮に半年後だったとして、その半年間、俺が傭兵科に入っただけで恭也の技術に追いつけると思いますか?」
「……無理、でしょうね」

むしろ傭兵科の者たちに追いつくことすら不可能だろう。
召喚器を持つ大河の方が、傭兵科の生徒たちよりも……それこそ比較できないほど強いことは間違いない。だが、単純な戦う能力という意味では、大河は傭兵科の生徒たちにも遠く及ばない。
二年間の初期課程すらこなしていない大河が、いきなり傭兵科に混じること自体土台無理があるのだ。召喚器により強化された体力や身体能力で彼らを倒すことはできても、その技術に関しては、傭兵科の者たちとすら相当の差がある。
対して恭也の戦う技術は、その傭兵科の生徒たちと比べても、やはり相当の開きがある。こちらは恭也の方が遙かに上だ。
元より傭兵科では、個人よりも集団で動くことを教えることに力を入れていた。これは傭兵科たちが卒業したあとの進路が、大抵は王国軍になるからだ。軍では個人の技量よりも、集団での動き方が良く、統制の効く人間の方が重宝される。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.400 )
日時: 2009/08/25 10:53
名前: テン


そういうところからも、個人に特化した場合、恭也に勝てる生徒……どころか、教師を含めてもいないと言い切ってもいい。むしろ王国軍の者たちの中でさえ、恭也を越える者はいないだろう。
大河も小手先の技を覚えることくらいはできるかもしれないが、あの恭也に小手先の技など意味をなさないどころか、逆にそこをつかれる可能性すらある。

「んじゃ、半年間、剣を誰かに教わったとしたら?」
「少なくともあなたに恭也さんよりも数倍以上剣の才があり、コーチをしてくれる人が、恭也さんレベルでもなければやはり無理でしょう。もっとも私は剣などの知識はあっても、使った経験があまりありませんから予想にすぎませんが」
「恭也にどれだけ才能あるのか知らない上、俺にんな才能あるとは思えないし……というかいるんすか、そんな剣士?」
「私が知る限りでは、この学園どころか王都にもいません」

ミュリエルにとって恭也はむしろ教師をしてもらいたいぐらいの逸材であったのだ。まあ諸々の事情で叶わないことであった。もし彼が正規の手段でこの世界に来たか、手元に置いても安全だとわかるものがあったなら、どんなに金銭……もしくは他世界でも価値があるような宝石を積んででもスカウトしたかもしれない。
召喚器なしで救世主候補に対抗する存在などそうはいないし、それこそミュリエルが求めていた人材だったからだ。なんとしても仲間に引き入れていただろう。自分の知る全てを教えてでも。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.401 )
日時: 2009/08/25 10:53
名前: テン


ミュリエルの記憶の中でも単純な剣術のみで恭也に対抗できる者は少ない。
ミュリエル自身も相当な実力者であり、恭也同様に召喚器なしで救世主候補たちに対抗することができるだろう。今の彼らならば五分五分か、もしくは六〜七割ぐらいの勝率と言ったところか。
そんなミュリエルが恭也と戦うシミュレートを脳内ですると、勝率は一割を切る。どうやってもあの神速というのに対応できない。いくつか神速を潰す戦術や魔法もあるが、神速だけを意識すれば、そのほかのもので押し切られる。かといって魔法で狙撃しようとしたとしても気付かれるだろう。彼は本当に死角が少ないのだ。いつ、いかなる時でも戦える。
平和な世界に生まれがら、その平和に埋もれず、己を危険な場所へと置き、常に危険を意識して自らを鍛え続けていた男。
平和な世界でそれだけの力を得て、さらには戦い続けたからこそ、彼の戦う覚悟はこの世界の誰よりも上なのだろう。
そんな彼を大河が追い抜こうとすれば、それこそ一年や二年では足りない。今からでは技術に関しては追いつくことすら無理かもしれない。
攻撃力、速さ、瞬発力……身体能力という意味では、ほとんど大河の方に軍配が上がる。強いのは確かに大河たち。だが勝つのは恭也だとミュリエルもはっきりと言えた。

「確かに実戦に勝る経験はありません。ただ無駄に訓練を行うより、得るものは多いでしょう。ですが、それは同時にある程度の訓練をこなした者がすることでもあるのですよ」
「わかってますよ。どれだけ戦ったって、恭也が今まで剣を振ってきた年月を越えることなんてできないって」

そんなこと大河とてわかっているのだ。いや、大河はもしかしたら他の誰よりも恭也の強さを理解しているかもしれない。恭也の『本気』を体感し、同じ世界出身だからこそ、あの強さは異質なものであり、生半可な努力で手に入れられるものではないと。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.402 )
日時: 2009/08/25 10:54
名前: テン


周りの人たちが平和に生きていくのを眺めながら、恭也自身はその平和を享受せず、ただひたすら強くなるために血の滲む訓練を繰り返してきたのだと、今の大河には理解できる。
それをたかだか数ヶ月程度で越えようとするのが、どれだけ無謀であり、傲慢なことかも。

「ですが戦闘能力で言えば、あなたは決して恭也さんと比べて劣っているというわけではありません」

召喚器を持つ大河は、決して恭也に劣っているわけではない。それは彼だけではなく、他の救世主候補たちも同じだ。彼らは普通の人間を大きく越えた力を持つのだから。

「俺もそう思ってたんですけどね、この前カエデと二人がかりで負けたんっすよ?」
「状況を聞きましたが、別にあなたたちは負けたわけではないでしょう」
「まあ、引き分けみたいな感じですけど、それだってカエデと二人がかりで何とかです。俺一人じゃどうにもならなかった。怪我は負わせたけど、あのときのあいつはその前に殺そうと思えば俺たちを殺せた。その上俺たち二人と戦っても余裕な感じだったし、怪我を負ってもそれでも難なく立ち上がった」

大河の話を聞いて、ミュリエルはそれはないだろうと、心の中で反論する。
間違いなくスペック的に比較してしまえば、恭也よりも大河の方が上なのだが、彼は巧いのだ。単純な戦闘技術だけでなく、相手の精神を揺さぶることにも長けている。戦闘技術だけでなく、己の全てを使って戦う本当の戦闘者。
余裕というのも、決して本当に余裕なのではなく、余裕を見せているだけだろう。それだけでも人の精神を揺さぶることができると彼は知っているのだ。それは生半可な胆力と精神力でできることではなく、彼の精神力が大河たちを大きく上回っているということでもある。
戦闘にかける決意と覚悟が根底から違いすぎるのだ。
そしてそれらで負けた大河たちは、実力の全てを出し切ることができなかったのだろう。本人たちは出し切ったと思っているだろうが、本当に出し切っていたならば、大河とカエデが二対一で負けるとはミュリエルには思えない。
相手に本気を出させない。それは戦いの中では基本中の基本でもある。わざわざ相手に全力にならせる必要などない。むしろどうやって全力にならせないようにするかが重要なのだ。
それらで恭也は自らよりも強いはずの二人を同時に相手にし、引き分けにまで持っていった。
メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.403 )
日時: 2009/08/25 10:54
名前: テン


身体能力以外の差があるからこそ、大河が彼に追いつくのは難しい。そういった成長というのは、下手をすれば単純に戦う技術を手に入れるとよりも難しいかもしれないのだから。
しかしだからといって、大河やカエデが恭也に劣るわけではない。何度も言うようだが、身体能力という意味では、大河たちは完全に恭也を上回る。それだけにものを言わせたとしても、戦い方の組み立て方次第では、恭也を打倒できるだろう。もっとも、その組み立て方自体が、恭也に届かないからこそ負けたとも言えるが。
そういう組み立てを考えるという意味では、確かに実戦を経験するというのは有用だろう。

「…………」

そうまで考えて、それらをミュリエルは大河に伝えなかった。それらは口で言ったところで伝わるわけがないからだ。大河自身が気付くしかない。

「わかりました。質問は以上です」
「ういっす」

自分で言った言葉に、若干情けなくなった大河は肩を落としながら返事をする。
しかしそれもすぐに首を振ることで気合いを入れ直した。
その差を埋めるために、彼は許可を取ったのだから。

「とりあえず結界の解除や、あなた用の鍵の複製をしますので、二、三日時間をください」
「了解です」

できるだけ時間を有効活用したい大河ではあったが、ずっと封印されていたような場所だ、今日は許可をもらえただけでも前進と考えるべきだと、ミュリエルに頷く。
話はこれで終わり、ということで大河は退室との挨拶をすると、今度こそ足を動かした。

メンテ

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