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黒衣(仮投稿)
日時: 2008/05/15 06:31
名前: テン

浩さんに許可を頂きましたので、暫くの間黒衣を仮投稿という形でこちらに投稿させて頂きたいと思います。

あくまで仮であり、落ち着いたらいつかは今までどうりに投稿したいとは思っていますので。
これも携帯からの投稿なので、少々見づらいかもしれませんがよろしくお願いします。
一章を分割して送っていきます。


目次

>>1-27 恭也編 四十二章

>>54-91 恭也編 四十三章

>>122-156 恭也編 四十四章

>>197-227 恭也編 四十五章

>>228-255 恭也編 四十六章

>>256-268 恭也編 四十七章

>>269-288 恭也編 四十八章

>>289-317 恭也編 四十九章

>>318-330 恭也編 五十章

>>331-340 恭也編 五十一章

>>351-367 恭也編 五十二章

>>368-382 恭也編 五十三章

>>383-394 恭也編 五十四章

>>414-433 恭也編 五十五章

>>434-457 恭也編 五十六章

>>458 恭也編 五十七章

>>459-480 恭也編 五十八章

>>481-503 恭也編 五十九章

>>504-532 恭也編 六十章
>>565-587 恭也編 六十一章

>>28-53 大河編 三十章

>>92-121 大河編 三十一章

>>157-196 大河編 三十二章

>>395-413 大河編 三十三章

>>341-350 外伝
メンテ

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Re: 黒衣(仮投稿) ( No.404 )
日時: 2009/08/25 10:55
名前: テン


だが、部屋を出る前にもう一度ミュリエルの方へと向き直った。

「学園長は恭也たちをどう思ってるんですか?」
「この学園の学園長としては、彼らが破滅の手先なのかもしれないと疑っています。もしくは救世主反対派」
「そんなもんまであるんすか」
「生きた英雄を欲しない人も多いのですよ、この世には」

それを聞いて、救世主なったら命を狙われる可能性もあるんか、と救世主になれる可能性を持つ大河は軽く息を吐いた。
それが見事に的を射ていることには気づかず、大河はもう一度失礼しますとミュリエルに告げてから部屋を出たのだった。


◇◇◇



ミュリエルは、大河が出ていってしばらくしてから、またも深々とため息を吐いた。
彼女は、本当は大河の頼みを断ろうとしていた。なぜなら、彼女個人としては救世主候補たちが強くなりすぎるのは容認できるものではなかったからだ。いつかそのうちの誰かと戦うことになるかもしれないから。
だからこそ、ミュリエルは救世主クラスの授業を中途半端に行い……だが、それでもおかしくない理由をつけて半ば放置していた。
ミュリエルは戦闘経験という意味では、それこそ恭也すら上回る。だからこそ、救世主クラスの授業が異質であることを理解している。いや、異質であるというよりも、救世主クラスの授業を受けているだけでは、強くなるのに限界が早々と来るのだ。そういう形にしたのは他ならぬ彼女だ。
ミュリエルとしては、救世主クラス自体をなくしたいと思ったこともあるが、この学園は救世主養成学校ということになってしまっている。それを放棄してしまえば、王国にとって金食い虫であるこの学園を存続させること自体が難しくなってしまう。それにミュリエルの目的からして一応はこのクラスが必要であったし、来る破滅との戦いではやはり救世主候補という武器をなくしてしまうのはおしかった。
ミュリエルがアヴァターへとリリィを連れて訪れて、一教師としてこの学園に赴任した当時は、救世主クラスというものは存在しても、救世主候補は在籍していなかった。あらゆる世界を見ても、召喚器を持つ者自体が本当に少ない上、当時はまだリコ・リスもおらず、他世界から救世主候補を呼び寄せることができなかったため、当然と言えば当然だ。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.405 )
日時: 2009/08/25 10:56
名前: テン


そしてそれから幾年か経ち、ミュリエルが学園長になったころ、リコという初の救世主候補であり、同時に赤の書を持つ強力な召喚士が入学したことで、本当に救世主クラスが動き出した。
とはいえリコ一人ではクラスとして機能しない。そのため、彼女は所属こそ救世主クラスではあるが、その年齢から初期課程へと送られた。その少し後、初期課程にいたリリィがライテウスの主になったが、やはり所属こそ救世主クラスであったが、彼女はそのまま飛び級として初期課程から魔導士科に送られた。
救世主クラスが本格的に動き出したのが、ベリオが召喚されてからになる。つまりベリオは一切の初期課程を受けていない。
そしてそれから、救世主クラスの方針は、他の一般科以上の完全実践主義となった。身体能力、魔力など、召喚器を持つ彼女たちは、他の科と同じ授業では意味がなく、すぐにでも破滅と戦えるように、実践の中で自らの召喚器の特性を理解するため……という様々な『建前』のもとに。
そう、それはらは建前だ。
ミュリエルは、実戦経験が豊富だからこそ、能力の実践だけでは成長がすぐに止まってしまうということを理解していた。
それを実戦経験がほとんどないこの世界の教師たちは気づけなかったのだ。

「この建前を信じてしまう時点で、この世界の人間は平和ボケしていると言ってもいいのでしょうね……」

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.406 )
日時: 2009/08/25 10:56
名前: テン


全員が全員そうだと言うわけではないが、そう言う者が多いのは事実。
破滅の脅威から一千年。その痕跡がこの世界には残っているため、人は戦う精神を忘れなかったが、戦い方を忘れてしまった。
アヴァターという世界は、千年に一度破滅が現れ、そのたびに文明を破壊される。もちろん根こそぎというわけではないが、文明レベルが一気に下がってしまうのだ。そして生き残ることができた人間も一握りとなる。
そんなことが何度も起きた世界。そのために州によって、異なった文化も持っていたりもした。
そして、戦いの技術もその度に消失していくことになる。無論その全てが消えてしまうわけではない。だが前回は少なくともほとんどがその後の復興や、諍いなどのゴタゴタによって多くの技術、戦術、頭脳などを失った。
今回はとくに過去の技術などが失われている。同時にそれは戦いに関することが多い。
千年前の破滅以後、大きな争いが起こらなかった時代。それはとても良い時代だ。治めていた女王たちや政治家たちが有能であったのだろう。そして、それは本来ならば良いことなのだ。戦争などない方がいい。
平和ボケというのも、悪い言葉に聞こえるが、それ自体は決して悪いことではないのだ。それはそれだけその場所が、その世界が平和だという証なのだから。
何よりこの世界の人間たちは、精神自体が平和ボケしているわけではなく、その技量が精神に追いついていないだけだ。
だが、悪く言えば、その程度で自分たちは強い。破滅だろうが何だろうが勝てると思っている節があるのだ。

話を戻すが、救世主になる可能性がある大河に強くなられるのは、本来ミュリエルの良しとするものではない。
救世主の真実を知る彼女は、救世主候補たちの誰であろうが強くなることを喜べない。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.407 )
日時: 2009/08/25 10:57
名前: テン


ならばなぜ、大河の頼みを受け入れたのか……

「おそらく、高町恭也に勝てる可能性が一番高いのは、当真大河……」

そういうことだ。
恭也が最初から本気で相手を倒す気にれば、ミュリエルでは相性的に対抗が難しく、リリィやベリオも同じ。カエデは戦い方がやや素直すぎる上に、ほぼ完成してしまっている。リコは少々未知数な所があるものの、恭也は彼女と訓練とはいえ一度戦っている。その中で彼女への対抗手段を用意している可能性があった。未亜もやはりリコと同じだ。
大河も二度破れてはいるものの、まだまだ彼は荒削り、強くなる可能性を秘め、その召喚器は幾つもの形に変化し、万能と言って良い能力を所持していた。つまり様々な才能を持っている。
もちろん今のままでは勝利するのは難しいだろう。大河の才能は確かに重要な要素であり、その才能だけで戦っている今もかなりの強者と言える。だが技術を学ばないのであれば、彼はずっと荒削りのまま大きく変わることはない。才能だけで戦っていれば、いずれ手痛いしっぺ返しを食らう……いや、大河はすでに恭也にそれを食らった。才能だけで戦えば、それこそ才能がない者よりも早く限界が来る。
強くなる可能性というのもあくまで可能性。
そして万能な能力というのも、実はそれほどの脅威にはなり得ない。正確には今の大河では宝の持ち腐れと言ったところだ。
その万能な能力故に、ミュリエルはある人物を思いだしていた。

「当真大河や高町恭也を見ていると、あなた思い出しますよ。本当に」

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.408 )
日時: 2009/08/25 10:57
名前: テン


ミュリエルの古い友人に、王族とは思えないほど気さくで、少し変わった性格をした少女がいた。その少女は基本的にミュリエルと同じ魔法使いであり、そして剣士でもあったという魔法剣士。彼女は驚くほど万能であった。
アヴァターに伝わるほぼ全ての系統の魔法を体得し、さらにはミュリエルや他の仲間から他世界の魔法まで教えを請い、修得してみせた。
回復魔法から、攻撃魔法、補助魔法。それらの内容を多種多様に扱えた。同じ魔法使いとしてあまり聞きたくなかったので、ミュリエルは彼女がどれだけの魔法を使えるかを訊ねなかったが、下手をすると三桁に入るのではないかと思っている。中にはあまり使いどころがない、もしくは本当に使えないような魔法も多々あったが。
その上に彼女は剣や体術を扱うことができ、戦術や交渉術などにも長け、ある意味万能という言葉は彼女のためにあるようなものだと、当時ミュリエルは思ったものだった。
そんな彼女は特に雷系の攻撃魔法だけ、異様なほど運用が巧く、威力が大きかった。
彼女は多種多様に魔法を使えるが、魔力はミュリエルと比べると高くない。最高威力で考えれば、ミュリエルを大きく下回る。そんな彼女もミュリエルを越えるものを持っていた。その制御力と操作力。力の強弱を完璧につけ、さらに複雑に操っていた。
かつてミュリエルは彼女に、どうしてそんなにも色々なことができるのかと聞いた。
それに返ってきた返答は、

『うーん、ミュリちゃん、いーい? 戦いで万能っていうか……だいたいのことを平均ぐらいできるのはね、ある意味当然のことなんだよ。自分ができることを均等に育てて、努力していけば、誰だってできることなの』

それを聞いて、ここまでできるのはあなたぐらいだと当時は心の底からミュリエルは思った。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.409 )
日時: 2009/08/25 10:58
名前: テン


もっとも彼女は、当時のパーティの中では唯一それほど大きな『戦う才』を持たない人物であった。だが天才が一で覚えることを、彼女は三や五を使って覚え、さらに食らいついていく、ある種化け物じみた努力家だった。それも努力する姿をほとんど見せないから、パーティー以外の者たちからは、やはり才覚のある人物と思われていたようだが。

『まあ今更なんだけど、一点……じゃないけど、あまりにも特化型な戦い方はあんまりおすすめしないよ? 
例えば私たちのパーティーでミュリちゃんが戦線離脱したら、ある意味パーティーの頭脳と破壊力がなくなる。リアちゃんがいなくなったら回復手段と突破力が最底辺まで激減。ルビちゃんがいなくなるとミュリちゃんが魔法を唱えるまでの時間稼ぎ、守る人と援護する人、さらには陽動したりしてくれる人がいなくなっちゃうねー。そもそもリーダーがいなくなっちゃまずいし。
ミュリちゃんは魔法はとんでもないけど接近戦ほとんどできないし、リアちゃんは猪突猛進の上、なまじ回復力あるから防御が全然だめ。ルビちゃんはトリッキーな戦い方できるけど、遠距離系の攻撃は協力で発動に時間がかかるの一つだけ。だからみんなどっこにもサポートに入れないし、一人やられたらパーティーその時点で瓦解だよ? どこに穴が空いとしてもサポート入れるように他のことも平均ぐらいにはできないと。みんな自分の長所しか伸ばしてないんだもん』

つまり誰が欠けてもいいように、万能にとまでは言わないまでも、全てのことを最低限できるようになれという言葉だ。

『私はどれも一応代わりをこなせると思う。まあ、それを完全に穴埋めできる程ではないんだけとねー、あはは。でも私がいなくなってもそれほど強い影響力はないんだ。人数できつくなるかもしれないけど。
誰が抜けてもある程度影響がないようにするのは、戦闘をする集団では当然にできなくちゃいけないこと。戦いはいつ何があるかわからない。誰かが欠けたから、もう戦えないじゃ済まされないんだ。でも今の私たちはそれができない歪なパーティーなんだよ。もちろん『   』の能力のせいもあるけどね。
でも平均的に全てできるだけでもダメ。だから私はそれだけじゃあれだから、制御力と操作力は極めていこうって決めたんだよ。特に雷系。平均は当然、さらにその中から長所を一つってね』

その姿勢には当時本当に頭が下がった。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.410 )
日時: 2009/08/25 10:59
名前: テン


『あ、ちなみに長所とか言ったけど、昔は制御力も操作力も全然だめで、雷系の魔法も全然うまくいかなくってお城壊しまくったんだよ。私って他人にじゃなくて自分に負けず嫌いだから、苦手なものを得意に変えてみましたー。あ、あと雷のピカーって感じが好きなんだけどね。と、偉そうに一杯言ったけど、そのお城を壊した時に受けた騎士団長のお説教の受け売りでしたー』

こんなことを最後に言わなければ。
というか、どこまで本当かはわからないが。

「実際にはかなりの不精者でしたからね、彼女は。本当に大物というか。まあ、実際に大物なわけだけど」

ミュリエルは深々とため息を吐く。
努力家なのだが、無精者。相反した言葉ではあるが、その通りなのだ。今必要なことにはとことん努力し、それ以外では面倒くさがり。あとは無駄なことにも異様なほどに努力と執念を向ける。そんな人物。無駄な魔法が多かったのもそのためだ。

「そういえば、食事日記なんて書いていましたっけ」

もっと書くものがあるであろうにと、もう一度ため息。

彼女は本当に万能であったが、個としての戦闘能力は他の者たちと比べてしまえば、劣ってしまっていた。だが、その万能の力を使い、自らよりも勝るはずのミュリエルたちとすら対等に戦える女性だった。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.411 )
日時: 2009/08/25 11:00
名前: テン


彼女と大河を比べるならば、彼女は自らの意思で万能の力を手に入れた。
だが大河はどんな状況にも対応できる武器を持つだけ、あくまで武器が万能だったというだけだ。万能の力に振り回されているのが現状。
対して恭也はというと、

「戦いに関しては万能……に近いでしょうね」

恭也と相対するとどうしてもあの剣技に目がいってしまうが、決して彼は剣だけに頼っているわけではない。棒状の投げ物で中距離攻撃も可能だし、トリッキーな動きをし、敵を混乱させたり、混戦に持ち込んだりもできる。逆に正道な動きもこなし、神速をなしにしてもその動きは速く、それを突破力に変えることでき、体術も達人レベル。さらには霊力という遠距離攻撃と破壊力まで持つ。防御能力はともかく回避能力も高い。
どんな状況にも対応できるように、全てを平均以上にこなす。そして、最大の長所である剣は最高レベル。
単純な前衛としても万能であるし、援護役、防衛役、遊撃役としても申し分ない。唯一回復手段などを持たないが、魔法は本当の意味で才能がなければ使用できないため、そこまでは高望みだろう。だが、おそらく怪我などの応急処置や簡単な治療ぐらいはできるはずだ。
戦いにおいてなら万能……もしくは全てのことを最低限にはできる。
一人でだいたいのことをこなせるが、集団の中の一になってもどんな役割でもこなす。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.412 )
日時: 2009/08/25 11:01
名前: テン

対して、この学園の救世主候補たちは当然として、他の科の生徒たちも、その域には到底達していない。

「アリア、今はあなたの言葉が痛いですよ」

アリア……アルストロメリア・バーンフリート。彼女ならば今の現状をどうしただろうか。
彼女が集団内において、縁の下の力持ち的な万能とすれば、恭也は個人に特化した万能。
もちろんアルストロメリアも万能であれ、などと言っていたわけではない。足りないものを補うのがパーティ……仲間である。だが、ある意味当時のミュリエルのパーティはそれに頼りすぎていたところがあった。そして、それは今の救世主クラスも同じだ。
集団戦のとき、一人が戦線離脱をすれば、一気に能力が下がる。それがチームワークを最大の武器とする者たちの弱点なのだ。
万能であれ、とは言わない。だが、それをできないと否定してはいけないのだと、ミュリエルはアリアから教わった。
努力家であり、万能を目指した彼女に。
努力する秀才は、努力する天才には決して敵わないだろうが、何もしない天才は容易に打倒できる。
よく天才は一を教えれば十を覚えると言うが、そもそも一を教えなければ永遠に0のまま。一しか教えなければ十のまま。十のままで百を教えられた秀才を越えるのは無理だ。
今の大河たちのほとんどが一しか教えられていない天才だ。


メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.413 )
日時: 2009/08/25 11:02
名前: テン


「高町恭也が秀才なのか、天才なのかはわからないけれど……」

どちらにしろ、剣の……いや、戦う才能が高いのは間違いない。一定以上の才能がない者ではあの境地には立てない。
また、相当な……それこそ誰よりもきつい状態で努力を重ねてきたのは事実。努力できる、それ自体がまた一つの才能だ。

「本当に……厄介な存在」

何より、恭也の専門はこの世界の誰とも違う。
ミュリエルや、彼女の過去の仲間たちは大きな分類で言ってしまえば、戦いのスペシャリストたち。そしてそれは救世主候補たちが行き着く場所でもある。
対して恭也は人を倒す……いや、殺すことのスペシャリストだ。
戦いのスペシャリストと人殺しのスペシャリスト。そんなに大きな違いには見えないだろう。なぜなら人殺しであってもやることは……暗殺などは除外して……同じだ。同じ戦いであることに違いはない。
しかし、意思が違う。
ミュリエルたちは敵と戦うために強くなり、戦いの専門家になった。敵を倒すという意思は確かにあったが、その『敵』が人間だと意識したことはなかったし、実際に彼女たちの多くの敵は人の敵である異形の存在たちだった。もちろん人とも戦ったこともあるが、それでもそれらの人間と戦うと意識して訓練を積んだわけではなかったのだ。
だが恭也は元より明確に人を倒し、殺すことを前提として訓練し、戦いにおいての敵も人であるという意識の元に今まで戦ってきたのだ。
そうであるが故に、対人戦になった場合、彼の強さは際だつ。そして、相手を殺すと決めた時は誰よりも強い。だからこそミュリエルでは自分が彼には勝てないと理解していた。
なぜなら……彼女は勝てなかった。かつての仲間に。恭也と同じように、人を殺すことを常に考え、仲間のために自ら率先してそんな立場に立ってくれた女性、そして最終的には敵となってしまった女性に。

「彼が……第二のロベリアになる可能性も捨てきれない」

かつての仲間にして、最終的には敵となった女性の名を口にして、ミュリエルまたも深く、深くため息を吐いた。
フローリア学園、学園長ミュリエル・シアフィールドの苦労はまだまだ続きそうだった。




メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.414 )
日時: 2009/09/03 22:15
名前: テン






目覚めるとこの頃は見慣れてしまった天井があった。即ち、学園での自分の部屋。
どうやら助かったらしいと、恭也は短く息を吐く。
そのまま顔を横に向かせると、ベッドの脇に腕と顎をついて眠るなのはがいた。看病の途中で寝入ってしまったようだ。
胸の傷の視線を向けるが、痛みは最早ない。ベリオか、それとも他の誰かか完全に癒してくれたようだ。まだ少し頭が重いが、これは寝入っていたことと血を流しすぎたことが原因だろう。

「どれだけ眠っていたんだろうな」

デザイア関連の事件のときも、それなりに意識を失ったが、今回はどの程度か。短ければいいのだが。なのはがこうしてここにいる以上は、破滅の再侵攻はなかったのか。それとも再侵攻があっても、そのときも寝入ってしまっていたのか。

「ん、んん……?」

恭也が少し動いたことと、独り言を呟いたことで、なのはの意識が覚醒してはじめてきている。
できれば寝かせておいてやりたいところだが、あのあとのことを知りたい。ここは起きてもらうしかない。

「なのは」
「んー?」
「なのは」
「にゃー」
「……なのは」
「んにー」
「…………」

少し面白いと思ってしまったことに反省。
なのはの寝起きの悪さがここで出てくるか。仕方がないと恭也はなのはの肩を揺らす。

「なのは、起きてくれ」
「んんー? おにーたん?」
「たんて……いや、お前の兄だ。少し聞きたいことがある。悪いが起きてくれないか?」
「……うーん。いま、おきます」
「……寝ぼけていないで覚醒してくれ」
「おにーちゃんはやっぱりかっこいいねー」
「本格的に寝ぼけてるな」
「なのはは……んん……おきてますよー」
「俺が格好いいなど言っているうちは、起きてなかろう」
「本当のこと……って、おにーちゃん!?」

どうやらやっと脳が動き出したらしい。
できればもっと早く覚醒してほしかった。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.415 )
日時: 2009/09/03 22:16
名前: テン


なのはは飛び起きると恭也の身体をペタペタと触る。

「お、おーちゃん! 痛いところはある!? どこか変な感じがしたりとか!」
「大丈夫だ。少し頭が重いぐらいだ」

なのははそれを聞いて、恭也の顔をじっと見つめる。どうやら嘘かどうか確かめようとしているらしい。
そんなに信用がないか、と聞けば、おそらくこういうことでは信用できない、と前と似たようなことを言われるだろうから好きにさせる。
少なくとも、この世界ではなのはほど恭也の表情の変化を理解できる人間はいまい。
どのくらい恭也の顔を見ていたのか、しばらくしてなのははほっとしたように胸を撫で下ろす。

「よかったよー」
「それより、あれからどのくらい経った? 破滅はどうなった?」
「えと、おにーちゃんが寝てたのは二日だよ。破滅はよくわからないけど退却しちゃった。大河さんたちも無事」
「そうか。そんなに眠っていたのか」
「うー、あのあと大変だったんだからね? リコさんがすぐに駆けつけてくれて回復魔法かけてくれたけど」

だが、それでも足りず、なのははすぐに大河たちを捜し、連れてきた。ベリオとリリィも加わって三人がかり回復魔法をかけるが、思いのほか恭也の怪我は酷く、それでも間に合わないと、途中で大河が恭也を抱え、回復魔法をかけ続けながら、後方で怪我人の治療をしていた僧侶科の生徒たちのところに向かい、総出になって魔法をかけたのだ。
ある意味そのおかげでたった一日で怪我が治り、こうして二日目で目覚めることもでき、後遺症もなかったのだろう。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.416 )
日時: 2009/09/03 22:17
名前: テン


リコがすぐに来てくれなかったら、本当に危なかったらしい。

「迷惑をかけたみたいだな」

言いながら、恭也はベッドから立ち上がる。

「おーちゃん、まだ動いちゃだめだよ」
「そんなことを言ってられる状況でもあるまいよ。破滅がまた動き出してくるかもわからない。他の破滅の将についても聞いておかないとならない」

本当はアリサのことで、色々となのはに話しておきたいことと聞きたいこともあるし、彼女について話さなければならないこともあるだろう。
だが、やはり今は破滅のことを優先しなくてはいけないときだ。

「情報が欲しい」

アリサは、油断……もしくはあのようなことでもなければ負けることはないだろう。まあ、それはそれで未熟というしかないが。
だが、それ以上に不破夏織はまずい。絶対に勝てないとは言わないが、紙一重で勝てるか、もしくは紙一重で負ける、そのぐらいだ。
それに加え、他の破滅の将はどの程度か。
無論、他の者たちが破滅の将と戦ったのかはわからない。だが、話はしておくべきだ。

「みんなはどこにいる?」
「食堂だけど」
「では、行こう」
「本当に大丈夫なの?」
「ああ」

リコたちのおかげだろう。先ほど言った通り、少し頭が重いだけで問題はない。あとは少し血が足りないのかもしれない。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.417 )
日時: 2009/09/03 22:17
名前: テン


なのははまたもじっと恭也の顔をしばらく眺めると、深々とため息を吐く。
今の恭也は絶対に安静になどしていられないというのがわかるのだろう。

「うん。じゃあ行こう」

なのはは恭也に寄り添うように立つ。何かあったら支えるつもりなのだ。
それに頷き、恭也はなのはを連れて自室を後にした。
食堂に向かう途中、横目でなのはの顔を盗み見る。
その顔には、意識を失う前に見たような憎悪の色はない。

(やはり、早いうちに話しておくべきか)

あのときのなのはの様子は、別におかしいことではないと恭也は思っている。
確かになのはにはあんな表情をしてほしくはないが、目の前で……自分で言うのも何だが……大切な人間が血塗れになり、殺されかけたのだ。普通ならば茫然自失となるか、怒りで我を忘れるかぐらいしか選択肢はない。
そして、なのはは正しくその通りとなった。最初に茫然自失となり、その後怒り狂い、元凶に憎しみを向けのだ。
決してそれは人間としておかしい感情の波ではない。
恭也とて、目の前で同じ光景を……例えばなのはや知佳たち、救世主候補の仲間たちがそんなことになった瞬間を見れば、同じように憎悪に囚われるだろう。
人間としてはおかしくはないこと。しかし、なのはがアリサを、アリサがなのはを、お互いが正しく敵と認識したそれはまずい。
今度は恭也がそんなことにならなくても、憎悪に囚われる可能性があった。
そうさせないためには、少し話をすることしかない。もしくは恭也がアリサを何とかするかだ。
とりあえず情報をまとめたら、なのはとじっくり話をしようと恭也は心に決めた。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.418 )
日時: 2009/09/03 22:18
名前: テン


だが、このときはまだ知らなかった。
このあとなのはと話をしている余裕など一切なくなってしまうということを。
それが後に響くことになるのか、それはまだわからない。



五十五章



食堂に入ると、そこにいた生徒たちから一斉に視線を向けられた。

「うぉ……」

さすがの恭也も、百以上の視線に晒され、思わず後ずさる。
しかし、そのすぐあとに、いきなりその生徒たちに囲まれた。

「恭也さん! お怪我の具合は!?」
「動いて大丈夫なんですか!?」
「ああ、良かった!」
「兄貴! 俺は信じてました!」
「というか、まだ安静にしておいた方が……」

等々、恭也を囲む生徒たちは、次々と恭也に言葉をかけ、安堵の表情を浮かべる。中には涙を浮かべている者までいた。
正直恭也は、なぜこんなことになっているのか微妙にわからない。
いや、心配させてしまったというのはわかるが、まさか一般科の者たちからそんな言葉をかけられるとは思っていなかったのだ。
なぜなら、一部の者以外は、恭也は名前すら知らない。

「あ、いや、大丈夫だ」

少し仰け反りながらも、恭也が無難に答えると生徒たちは一様に安堵したように大きく息を吐き出していた。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.419 )
日時: 2009/09/03 22:19
名前: テン


「すまないが、大河たちと話があってな、通してもらえるか?」

そう言うと、皆邪魔になっているのがわかったのか、それぞれ謝罪をしてから恭也たちに道を譲った。
何というか、海が割れるかのようだ。その先には、なぜか微妙に気にいらなそうな救世主クラスのメンバー。ついでに言うとなぜか隣にいるなのはまで似たような顔つきをしていた。救世主クラスと席を共にしている耕介たちは苦笑気味。
人と人の間を恭也は歩くが、そのたびになぜか他の生徒たちは感極まったような表情をするのはなぜか?
わけがわからんと恭也は顔を僅かに顰める。
そして、救世主クラスの生徒たちが座るテーブルに辿り着くと、恭也はそこに空いていた、今では恭也の指定席とも言える場所になっているリコの隣に腰掛けた。そのさらに隣になのはも座った。
すると周りの生徒たちも席に座り、それぞれの話題に戻っていく。
一体何なんだと恭也は首を傾げるしかない。

「恭也さん、怪我は大丈夫なのですか?」

他の仲間たちの質問を代弁するように、リコが聞いた。

「ああ」

それに恭也は静かに頷く。
するとやはり皆は安心したように胸を撫で下ろしていた。

「あ、話の前に、何か食べたいものとかあるかな? 恭也君の分、私がとってくるよ。ちょっと飲み物お代わりしたいから」

知佳の質問で、テーブルに視線を向けると、それぞれの食事が置かれていたのがわかった。話し合いをしていただけではなく、昼食も摂っていたようだ。
飲み物のお代わりというのは、おそらく建前で、知佳は恭也を心配して取ってきてくれると言っているのだろう。
心配させないためにも、恭也は知佳の心遣いに乗っておくことにした。

「すいません。できれば血になりそうなものをお願いします」
「血?」
「うう……」

未亜が不思議そうに聞き返し、血を想像してしまったのか、カエデの顔が少しばかり青くなる。

「血が足りない」

恭也が簡潔に答えると、それぞれ微妙な表情を浮かべた。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.420 )
日時: 2009/09/03 22:19
名前: テン


「確かに、とんでもないことになってたけどよ」
「ううううう……思いだしてしまったでござるよ」

大河は、恭也が倒れていた場を思いだしたのか、微妙に顔を引きつらせる。さらにカエデも思いだしてしまい、より顔を青ざめさせていく。
それに恭也はすまないと謝罪しておくが、血が足りないのは事実だった。

「うーん、お肉……レバー系とかがいいかな」
「ならあたし……とと、私が作りましょうか?」

なぜかベリオは作り笑みっぽい笑顔を浮かべる。それを見て大河はまた変わりやがったとか呟く。
そして、もうかなり昔のことにも思える食事戦争を思いだし、恭也と大河、耕介は顔を顰めたり、眉根を寄せたりなどの反応をみせる。ちなみその会話が聞こえていたのか、少し離れた席でセルもゴホゴホと飲み物を吹き出していたりした。

「勘弁してくれ。あれは逆に血が溜まりすぎる」
「そりゃつまらない……って、もう、勝手に!」
「は?」
「ああ、いえいえ、何でもありませんよ?」

なぜか意味不明なこと口走るベリオに、大河以外が呆気にとられたような表情を浮かべると、ベリオは顔を赤くして手を振ったが、その後もブツブツと何かを言いづけている。
とにかく肉料理……とくにレバー系、と知佳は呟きながら料理を取りに行った。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.421 )
日時: 2009/09/03 22:20
名前: テン


「いくらなのはを庇ったからとはいえ、まさかあんたが大怪我を負わされるなんてね」

リリィは、すでに食事を終えていたのか、紅茶を飲みながら恭也を見る。

「ん?」

なのはを庇ったとはどういう意味か。少なくともあれは恭也の未熟だ。敵の言葉で反応が遅れるなど、精神鍛錬が甘かったとしか言いようがない。
だが、それがなのはを庇ったことになっている。
すると横からクイクイと服を引っ張られた。そちらを向くとじっとなのはが見上げてくる。
その目を見て、恭也はなのはが何を言いたいのかを理解した。
つまりなのはがそういうことにしたのだ。
そして、それは事実だった。
なのははあまり気に入らないことで、恭也自身はまるで気付いていないことだが、今の学園の中では、恭也は絶対的な信頼を寄せられ、さらに兄のように慕われている。
今回のことでそれが崩れる可能性が多少あった。しかし、それをなのはを庇ったということにして、美談として、余計に信頼を集めさせたのだ。
もちろんなのは自身はそれが気に入らない。今までも恭也は色々な人間から慕われていたが、あくまで周囲だけだ。見も知らない人間から慕われるようなことはなかった。英雄の偶像のように兄が見られるのは嫌だ。それは兄の本質を見たものではないものだし、恭也は自分だけの兄だという単純な嫉妬もある。
しかし、それでもこれからはその恭也への信頼や慕う心も重要なものになるという可能性を考慮し、なのはは自分の感情を無視したのだ。
それらは恭也にはわからないが、なのはにはなのはの考えがあるのだろうと、リリィの言葉に肯定も否定もしなかった。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.422 )
日時: 2009/09/03 22:21
名前: テン


そして、仲間たちの顔を見て、流れを変えるように口を開く。

「そういえばナナシはどうした?」

今更ながらだが、この場にナナシがいないことに気付いた。
すると耕介が苦笑を浮かべつつも、窓から外を指さす。

「ナナシちゃんなら森にいるよ。なんか怪我人が出たときのために、今のうちに薬草関係を揃えておくんだって」

ナナシは何を考えているのかわからない所もあるが、あれで仲間思いだ。生前のことはよくわからないが、薬学と薬草学に通じていたようで、その手の薬を作ることができるらしい。おそらく血だけらの恭也を見ての行動だろう。
それに頷くと、恭也は頭を下げた。

「心配をかけて悪かった。それと助けてくれてありがとう」

そんな言葉に、皆が照れくさそうな表情を浮かべる。
それを見てから、恭也は隣に座るリコの頭を撫でた。

「リコがすぐに来てくれなかったら危なかったらしいな。本当に助かった」
「間に合って……よかったです」

リコはうっすらと笑みを浮かべ、恭也の掌を受け入れる。
二人の様子に、苦笑したり、嫉妬したりの一同。
そんなことをしている間に、知佳が料理を持ってきてくれた、それを受け取り、知佳にも礼を言ったあと、恭也は肉料理を食べ始める。
正直、食べる時間も惜しいので、行儀が悪いことはわかっているが、恭也は聞くべき事を聞くことにした。

「それでみんなは破滅の将と戦ったのか?」

その恭也の質問に、久遠とリリィ以外が頷いた。
二人とここにはいないナナシは、むしろ大量のモンスターたちと戦っていたとのこと。

メンテ
Re: 黒衣(仮投稿) ( No.423 )
日時: 2009/09/03 22:21
名前: テン


それから皆がそれぞれ戦った人物のことを話し始める。
ロベリア。
ムドウ。
シェザル。
それが敵の名前。
だが、それを聞いたとき、ベリオとカエデが強く反応したことを恭也は見逃さなかった。
とはいえ、ここは彼女たち自身から何か言ってくれるの待つべきかと、次の話に移行する。
つまり、どのような戦闘法でくるのか、その強さは、だ。
当真兄妹は、妹の方は少しばかり不安げに、兄は悔しそうな表情を浮かべ、先の戦いを思いだしながら口を開く。

「あの人凄く強かったです」
「ああ。未亜と組んでなかったらやられてたかもしれない」

二人が戦ったロベリアは巧いにつきた。
技術は恭也の方が上だろうが、戦い方自体が歴戦の戦士を思わせる。その戦闘法は恭也に似ていた。そして、恭也に似ているからこそ、完全には手の内を見せていないと大河にははっきりとわかった。
きっと恭也同様に奥の手のようなものが存在する。

メンテ

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